説明

アミノ酸配列含有両親媒性化合物

【課題】単独で二分子膜形成機能を有するアミノ酸配列含有両親媒性化合物を提供する。
【解決手段】二分子膜形成能を有する一般式(1)で示されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物である。


式中、Aは3残基以上5残基以下のアミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、R1、R2は炭化水素基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸配列含有両親媒性化合物に関する。さらに詳しくは、二分子膜形成能を有するアミノ酸配列含有両親媒性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、ペプチドベースの新規ジェミニ型両親媒性化合物(ペリセアL-30)とその化粧品への応用である。
【0003】
非特許文献1は、基本構造がグルタミン酸-リシン―グルタミン酸(Glu―Lys―Glu)のペプチド骨格とラウロイル基からなるジェミニ型両親媒性化合物(ペリセアL―30)を開示している。ペリセアL―30に対し、その構成単位が天然にあるアミノ酸と脂肪酸であることから、安全性の高さを予想している。非特許文献1は、ペリセアL―30が表面張力低下能、種々の油に対する乳化安定性能をもつこと、ダメージ毛に対してのリフトアップ抑制効果、毛髪内部への高浸透性、毛髪の太さや強度の改善効果をもつこと、さらに、皮膚バリア回復機能、皮膚刺激緩和効果をもつことを開示している。
【0004】
非特許文献2は、ペプチド骨格のジェミニ型両親媒性化合物とその化粧品への応用である。
【0005】
非特許文献2は、ラウロイルグルタミン酸塩をリジンで連結させたペプチド骨格(Glu―Lys―Glu)を有し、ジェミニ型両親媒性構造を持つジラウロイルグルタミン酸リシンNaおよびジラウロイルグルタミン酸リシンNaの約30パーセント水溶液であるペリセアL-30を開示しており、界面活性能、皮膚や毛髪に対するダメージ修復能、ベシクル形成能、およびゲル化能の解明を課題としている。界面活性能に対する効果として、水に対する表面張力低下能を発揮すること、乳化性能を示すこと、分散性能を示すことより界面活性能が高いことが開示されている。皮膚や毛髪に対するダメージ修復能については、毛髪や皮膚に対して有効に作用する効果が開示されている。ベシクル形成能に対して、多価アルコール法による調製、すなわち、ジラウロイルグルタミン酸リシンNa(終濃度0.2パーセント)、所定量の50パーセントクエン酸水溶液、水からなる溶液に、所定量のジプロピレングリコールおよびコレステロールを80℃にて溶解した溶液を添加し、pH6に調製することにより、ジラウロイルグルタミン酸リシンNaが多層ベシクルを形成することを効果として開示している。ゲル化能に対しては、会合挙動が特異的であり、ゲルやエマルジョンが低濃度で得られることが開示されている。
【0006】
特許文献1は、脂質膜ベシクルおよびその調製法である。
【0007】
特許文献1は、ソルビタンオレイン酸モノエステルとカチオン性ペプチド脂質を含み、プラスミド遺伝子を内包する脂質膜ベシクルが開示されている。遺伝子としての機能を有した状態のままプラスミド遺伝子をベシクルに内包し、なおかつその遺伝子を細胞に発現させることを課題としている。プラスミド遺伝子を内包する脂質ベシクルに対し、構成脂質にカチオン性ペプチド脂質(CPL)を混合することで、ベシクルとターゲット細胞との親和性が高まり、遺伝子導入効率が上昇する、さらには、ベシクル内にプラスミド遺伝子の取り込み効果が上昇するとしている。ここで用いたカチオン性ペプチド脂質の構造は(CH3)3N+(CH2)5CONHCH(CH3)CON[(CH2)15CH3]2Br−であり、N+C5Ala2C16と略して表示されるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田村幸永 山脇幸男著 「月刊ファインケミカル2007年4月号」シーエムシー出版 2007年3月15日 p.8―18
【非特許文献2】関口範夫 新井裕之 山本政嗣 田村幸永著 「フレグランスジャーナル2008年3月号」フレグランスジャーナル社 2008年3月15日 p.67―74
【特許文献】
【0009】

【特許文献1】特開2005−68120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1は、安全性の高さを想定しアミノ酸を構成単位とした、Glu―Lys―Gluのペプチド骨格とラウロイル基からなるジェミニ型両親媒性化合物を開示しているが、両親媒性化合物の二分子膜形成能に対しては開示されていない。また、非特許文献1で開示しているジェミニ型両親媒性化合物のペプチド骨格は、リシンの主鎖のアミノ基と側鎖のアミノ基が両端のグルタミン酸のカルボキシル基と結合し形成されているため、両親媒性化合物におけるアミノ酸配列のアミノ酸の数、種類を変えることは難しい。
【0011】
非特許文献2は、ベシクル形成能を課題とし、ジラウロイルグルタミン酸リシンNaが多層ベシクルを形成することを効果として開示いるが、ベシクル形成にジプロピレングリコールおよびコレステロールを要し、両親媒性化合物単独でのベシクル形成能については開示されていない。さらに、多層ベシクルの形成について述べられており、単層ベシクル(二重膜)の形成については開示されていない。
【0012】
特許文献1は、ソルビタンオレイン酸モノエステルとカチオン性ペプチド脂質を含む脂質膜ベシクルが開示されており、単独でベシクル形成能を有するアミノ酸配列含有化合物は開示されていない。
【0013】
上記点に鑑みて、本発明は単独で二分子膜形成機能を有するアミノ酸配列含有両親媒性化合物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、二分子膜形成能を有することを特徴とする、下記一般式(1)で示されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物である。
【0015】
【化1】



【0016】
ただし、式中、Aは3残基以上5残基以下のアミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、R1、R2は炭化水素基を示す。
【0017】
式(1)で表されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物は、本質的に5残基以上7残基以下のアミノ酸からなる親水性部位と炭化水素基からなる疎水性部位を含むジェミニ型両親媒性化合物である。
【0018】
アミノ酸配列含有両親媒性化合物におけるアミノ酸配列は、両末端をシステイン(Cys)とする5残基以上7残基以下のアミノ酸からなるものであり、好ましくは両末端をシステイン(Cys)とする5残基のアミノ酸からなるものである。アミノ酸配列を構成するアミノ酸は、親水性アミノ酸であり、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)といった親水性アミノ酸とする。また、アミノ酸配列のN末端はアセチル化され、C末端はアミド化されており、アミノ酸配列の両末端に位置するシステインの側鎖のチオール基が疎水性部位への結合に用いられている。
【0019】
炭化水素基は、炭素原子10〜20個の直鎖の炭化水素基が好ましく、さらには炭素原子12個の直鎖の炭化水素基が好ましい。
【0020】
式(1)で表されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物は、二分子膜を形成することを特徴とする。アミノ酸配列含有両親媒性化合物は単独で二分子膜形成能を有する。単独で二分子膜を形成するとは、アミノ酸配列及び炭化水素基が同一の一種類のアミノ酸配列含有両親媒性化合物のみで二分子膜を構成することあるいはアミノ酸配列及び/又は炭化水素基が異なる二種類以上のアミノ酸配列含有両親媒性化合物で二分子膜を形成することをいう。
【0021】
アミノ酸配列含有両親媒性化合物が単独で二分子膜形成能(ベシクル形成能)を有することより二分子膜の高機能化が図られる。二分子膜を形成するアミノ酸配列含有両親媒性化合物の親水性部位に生理活性等を持たせることができる。また、アミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜に膜タンパク質を導入し、膜タンパク質を水に可溶化させること、膜タンパク質を安定化させることができる。さらに、アミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜に包含される酵素の活性を高めること、二分子膜に導入された試薬の安定化を高めることができる。
【0022】
請求項2は、前記一般式(1)の式中のAが下記式(2)である請求項1記載のアミノ酸配列含有両親媒性化合物である。
【0023】
【化2】




【0024】
アミノ酸配列含有両親媒性化合物におけるアミノ酸配列は、両末端をシステイン(Cys)とする5残基のアミノ酸からなるものである。アミノ酸配列は、親水性アミノ酸からなり、システイン―アスパラギン酸-アスパラギン酸-アスパラギン酸-システイン(Cys-Asp-Asp-Asp-Cys)の配列とする。また、アミノ酸配列のN末端はアセチル化され、C末端はアミド化されており、アミノ酸配列の両末端に位置するシステインの側鎖のチオール基が疎水性部位への結合に用いられている。
【0025】
炭化水素基は、炭素原子10〜20個の直鎖の炭化水素基が好ましく、さらには炭素原子12個の直鎖の炭化水素基が好ましい。
【0026】
式(1)で表されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物は、二分子膜を形成することを特徴とする。アミノ酸配列含有両親媒性化合物は単独で二分子膜形成能を有する。単独で二分子膜を形成するとは、アミノ酸配列及び炭化水素基が同一の一種類のアミノ酸配列含有両親媒性化合物のみで二分子膜を構成することあるいはアミノ酸配列及び/又は炭化水素基が異なる二種類以上のアミノ酸配列含有両親媒性化合物で二分子膜を形成することをいう。
【0027】
アミノ酸配列含有両親媒性化合物が単独で二分子膜形成能(ベシクル形成能)を有することより二分子膜の高機能化が図られる。二分子膜を形成するアミノ酸配列含有両親媒性化合物の親水性部位に生理活性等を持たせることができる。また、アミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜に膜タンパク質を導入し、膜タンパク質を水に可溶化させること、膜タンパク質を安定化させることができる。さらに、アミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜に包含される酵素の活性を高めること、二分子膜に導入された試薬の安定化を高めることができる。
【0028】
請求項3は、請求項1または請求項2に記載のアミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜である。
【0029】
請求項3に記載の二分子膜は、請求項1または請求項2に記載のアミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜である。当該二分子膜は、アミノ酸配列含有両親媒性化合物単独で形成される。アミノ酸配列含有両親媒性化合物単独での二分子膜の形成とは、アミノ酸配列及び炭化水素基が同一の一種類のアミノ酸配列含有両親媒性化合物のみで二分子膜が構成されることあるいはアミノ酸配列及び/又は炭化水素基が異なる二種類以上のアミノ酸配列含有両親媒性化合物で二分子膜が形成されることをいう。
【0030】
アミノ酸配列含有両親媒性化合物が単独で二分子膜形成能(ベシクル形成能)を有することより二分子膜の高機能化が図られる。二分子膜を形成するアミノ酸配列含有両親媒性化合物の親水性部位に生理活性等を持たせることができる。また、アミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜に膜タンパク質を導入し、膜タンパク質を水に可溶化させること、膜タンパク質を安定化させることができる。さらに、アミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜に包含される酵素の活性を高めること、二分子膜に導入された試薬の安定化を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第2実施形態における動的光散乱測定により求められた粒径分布を示す図である。横軸は粒子の半径、縦軸は、それぞれの粒子径の会合体の存在比率を示す。
【図2】本発明の第2実施形態における透過型電子顕微鏡による球状二分子膜構造の構造評価を示す図である。
【図3】本発明の第3実施形態における原子間力顕微鏡によるマイカ表面に作製した平面二分子膜の構造評価を示す図である。上図が、AFMの顕微鏡像。下の図は、上図の緑線の部分のマイカ表面からの高さ情報を与える(縦軸が高さを示す(単位はオングストローム))。
【図4】本発明の第5実施形態における合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物に関して原子間力顕微鏡(AFM)測定を行った結果を示すである。上図が、AFMの顕微鏡像。下の図は、上図の緑線の部分のマイカ表面からの高さ情報を与える(縦軸が高さを示す(単位はオングストローム))。
【図5】本発明の第5実施形態における合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物に関して原子間力顕微鏡(AFM)測定を行った結果を示すである。上図が、AFMの顕微鏡像。下の図は、上図の緑線の部分のマイカ表面からの高さ情報を与える(縦軸が高さを示す(単位はオングストローム))。
【図6】本発明の第5実施形態における合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物に関して原子間力顕微鏡(AFM)測定を行った結果を示すである。上図が、AFMの顕微鏡像。下の図は、上図の緑線の部分のマイカ表面からの高さ情報を与える(縦軸が高さを示す(単位はオングストローム))。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1実施形態)二分子膜形成能を有することを特徴とする、下記一般式(1)で示されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物の合成を示す。ただし、式中、Aは下記式(2)で示され、R1、R2は炭素原子12個を有する直鎖の炭化水素基を示す。
【0033】
【化1】



【0034】
【化2】



【0035】
アミノ酸配列含有両親媒性化合物の合成は、固相合成法によるアミノ酸配列の合成、アミノ酸配列への修飾が可能なアルキル鎖誘導体の合成、アミノ酸配列へのアルキル鎖の修飾からなる。
【0036】
固相合成法によるアミノ酸配列の合成において、Fmoc固相合成法により、下記式(3)のアミノ酸配列を得た。Aが式(2)で示される式(1)のアミノ酸配列含有両親媒性化合物におけるアミノ酸配列は、両末端をシステインとすることから、5残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。このとき、アミノ酸配列のN末端はアセチル化し、C末端はアミド化した。
【0037】
【化3】



【0038】
次に、アミノ酸配列への修飾が可能なアルキル鎖誘導体の合成を行った。氷浴下、乾燥ピリジン(2.5mL)を含む乾燥塩化メチレン(100mL)にドデシルアミン(10.0g)を溶解し、乾燥塩化メチレン(25mL)に溶かしたブロモアセチルブロミド(4.50mL)を滴下した。このまま氷浴下0.5時間反応させた。原料の消失をTLCにより確認後、反応混合物を分液ロートに移し、3MHCl水溶液、飽和食塩水で有機相を処理後、溶媒を減圧留去した。得られた残さをシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、収量13.0g(収率83%)で目的物であるブロモアセチル基を付加したドデシルアミンを得た。
【0039】
アミノ酸配列へのアルキル鎖の修飾を行った。アミノ酸配列の両末端はシステインであり、システインの側鎖のチオール基にアルキル鎖誘導体を反応させた。エタノール(25mL)と水(15mL)の混合溶媒に、上記アミノ酸配列(130mg)と、ブロモアセチル基を付加したドデシルアミン(221mg)を溶解した。トリスヒドロキシメチルアミノメタン(800mg)を加えて溶液を塩基性にする事で反応を開始させた。室温で2時間震盪後、有機相を一旦減圧留去した。得られた残さからジエチルエーテルで未反応の原料の抽出を行い、その後4M塩酸水溶液を加え水相を酸性にした後に、塩化メチレンにより目的物の抽出を行った。溶媒を減圧留去し、目的物を白色粉末として得た。収量90mg(収率38%)。
【0040】
(第2実施形態)合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物により二分子膜形成を行った。二分子膜形成については、5μmolのアミノ酸配列含有両親媒性化合物を、1mLの炭酸酸緩衝液(pH10)に溶かし、その後室温で1週間静置することにより行った。このように調製した溶液を、アミノ酸配列含有両親媒性化合物溶液と定義した。
【0041】
二分子膜の評価を行った。動的光散乱(DLS)測定により、上記形成した二分子膜がリポソーム様の球状二分子膜の形成であることを想定し、球状二分子膜のサイズ評価を行った。アミノ酸配列含有両親媒性化合物溶液2mLを、DLSの測定セルにいれ測定を行った。図1は、本発明の第2実施形態における動的光散乱測定により求められた粒径分布を示す図である。結果、合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物により形成した二分子膜は平均粒径58.4nmの球状構造をとっていることが示された。また球状二分子膜を形成した際に、アミノ酸配列に含まれるアスパラギン酸の側鎖のカルボキシル基がカルボキシレートの形状を取ることにより、球状二分子膜表面が負電荷を帯びていることを想定し、Z電位測定装置により表面電荷の測定を行った。アミノ酸配列含有両親媒性化合物溶液を炭酸緩衝液(pH10)で10倍に希釈し、これをZ電位測定用の測定セルにいれ測定を行った。その結果合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物により形成した球状二分子膜は、−52.6mVの負の表面電位を持っていることが分かり、親水性部位が水相に表出していることが言える。またリポソーム様の球状二分子膜の形成を確認するために、透過型電子顕微鏡(TEM)による測定を行った。アミノ酸配列含有両親媒性化合物溶液に対し2%リンタングステン酸水溶液で染色を行い、TEM用のグリッド上にキャストし、乾燥させた後に測定を行った。加速電圧は120keVで行った。図2は、本発明の第2実施形態における透過型電子顕微鏡による球状二分子膜構造の構造評価を示す図である。その結果、合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物により形成した球状二分子膜は粒径が60nm程度の球状構造を取っていることが分かり、電子顕微鏡像からも二分子膜の構造が確認された。ここで観測された粒径は、DLS測定から得られた平均粒径と一致している。
【0042】
(第3実施形態)アミノ酸配列含有両親媒性化合物を用いて平面二分子膜を形成した。はじめに、平面二分子膜を吸着させるマイカ基板表面をカチオン化させるため、新たに表面を剥離したマイカ上に、ポリ−L−リジンハイドロブロミド水溶液(Mw:30000−70000、100mg/mL)200μLを水滴状にのせて室温で30分間静置した。その後、この溶液を取り除き、多量のMilliQ水で洗浄を行うことで過剰のポリリジンを除いた。次に、200μLのMilliQ水を水滴状にのせ、この水滴にアミノ酸配列含有両親媒性化合物溶液を5μL添加して室温で30分間静置することにより、平面二分子膜の形成を行った。その後この水滴に多量のMilliQ水を添加して無限希釈することにより、過剰のアミノ酸配列含有両親媒性化合物溶液を除き、そのままMilliQ水に浸した状態で、原子間力顕微鏡(AFM)測定を行った。図3は、本発明の第3実施形態における原子間力顕微鏡によるマイカ表面に作製した平面二分子膜の構造評価を示す図である。その結果、マイカ表面から約5nmの均一な高さを持つ分子膜の形成が確認された。この高さは、合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物の長軸側分子長のちょうど2倍であり、平面二分子膜の形成を示している。
【0043】
(第4実施形態)中性条件下において下記の条件で二分子膜を形成した。5μmolのアミノ酸配列含有両親媒性化合物を、200μLの40mM NaOH水溶液に溶かし、その後、800μLの50mMリン酸緩衝液(pH7)を加え、溶液のpHを7に調整し、その後室温で1週間静置した。DLS測定から、塩基性条件下において形成した球状二分子膜とほぼ同様の粒径を示している事が確認された。
【0044】
(第5実施形態)前記一般式(1)で示されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物であって、式中、Aは下記式(4)又は(5)又は(6)又は(7)で示され、R1、R2は炭素原子12個を有する直鎖の炭化水素基であるアミノ酸配列含有両親媒性化合物を合成した。
【0045】
【化4】

【0046】
【化5】



【0047】
【化6】



【0048】
【化7】



【0049】
Aが式(4)で示される式(1)のアミノ酸配列含有両親媒性化合物におけるアミノ酸配列は、両末端をシステインとすることから、3残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。Aが式(5)で示される式(1)のアミノ酸配列含有両親媒性化合物におけるアミノ酸配列は、両末端をシステインとすることから、4残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。Aが式(6)で示される式(1)のアミノ酸配列含有両親媒性化合物におけるアミノ酸配列は、両末端をシステインとすることから、6残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。Aが式(7)で示される式(1)のアミノ酸配列含有両親媒性化合物におけるアミノ酸配列は、両末端をシステインとすることから、7残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。
【0050】
アミノ酸配列含有両親媒性化合物の合成は、固相合成法によるアミノ酸配列の合成、アミノ酸配列への修飾が可能なアルキル鎖誘導体の合成、アミノ酸配列へのアルキル鎖の修飾からなる。合成は第1実施形態と同様の条件にて行った。
【0051】
合成したアミノ酸配列含有両親媒性化合物を用いて平面二分子膜を形成した。形成は第3実施形態と同様の条件にて行った。なお、3残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(4)で示される式(1))は、あらゆる条件の水系緩衝液に溶解しなかったため、二分子膜の形成の検討はできなかった。それ以外の、4残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(5)で示される式(1))、6残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(6)で示される式(1))、7残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(7)で示される式(1))に関して原子間力顕微鏡(AFM)測定を行った結果を図4、5、6に示す。4残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(5)で示される式(1))では、基板表面に吸着している分子膜の厚さが、二分子膜に相当する均一な高さ(約5nm)を与えなかったことから、平面二分子膜の形成が見られなかった。また、7残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(7)で示される式(1))では、基板表面に吸着している分子膜の厚さが、二分子膜に完全に相当しないまでも均一な高さ(約4nm)の十分な面積のドメイン構造を与えたことから、若干不安定にはなるが平面二分子膜を形成した。一方で、6残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(6)で示される式(1))に関しては、5残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列含有両親媒性化合物(Aが式(2)で示される式(1))と同様に、膜厚がちょうど5nmの均一な分子膜の形成がみられ、安定な平面二分子膜が形成しているといえる。すなわち、式(1)中、Aが1残基、2残基の(3残基以上5残基以下でない)アミノ酸からなるアミノ酸配列であるものは、二分子膜を形成しなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
二分子膜形成能を有することを特徴とする、下記一般式(1)で示されるアミノ酸配列含有両親媒性化合物。
【化1】



ただし、式中、Aは3残基以上5残基以下のアミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、R1、R2は炭化水素基を示す。
【請求項2】
前記一般式(1)の式中のAが下記式(2)である請求項1記載のアミノ酸配列含有両親媒性化合物。

【化2】




【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアミノ酸配列含有両親媒性化合物からなる二分子膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35815(P2013−35815A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175682(P2011−175682)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会 第91春季年会(2011) 講演予稿集▼3▲」に発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】