説明

アミノ酸38〜44に結合するモノクローナル抗体を用いたproBNPの検出方法

本発明は、ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体、ネイティブproBNPの特異的検出方法、ネイティブproBNPのレベルを心不全の診断に相関付ける方法、ネイティブproBNPの検出用キットおよびネイティブproBNPに対する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ネイティブ(native)proBNPと称するトータル(total)proBNPの亜集団に特異的に結合する抗体、ネイティブproBNPの特異的検出方法、ネイティブproBNPレベルを心不全の診断と関連させる方法、ネイティブproBNPを検出するためのキット、およびネイティブproBNPに対する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株に関する。
【0002】
心不全は、特に西洋で広範囲に起こっている現象である。ロッシュ医学辞典(Urban&Schwarzenberg、1993)によると心不全は、急性または慢性的に心臓が、運動中や安静時でさえも代謝に必要な血流を作ることが不可能であったり、または静脈還流(後方または前方心不全)を確実にできなかったりすることである。したがって心臓のポンプ機能は弱い。心不全の原因はとても複雑である。とりわけ、ここでは心筋の炎症性および変性性変化、冠状動脈の還流不全、冠状動脈の梗塞や傷害について述べている。このことは、末梢血流の変化、呼吸器系、腎臓機能ならびに電解質代謝の障害(浮腫)および骨格の筋肉系の能力減少に結びつく。
【0003】
ニューヨーク心臓協会(NYHA)によると、心不全は運動後の身体テストを用いた次のNYHA分類に分けられる。Iは普通の肉体運動後に全く痛みがないこと、IIは肉体限界を少し感じること、IIIは肉体限界を強く感じること、IVは安静時もほとんどの時間において、各肉体活動で機能不全の症状が増加することを意味する。
【0004】
グリコシド類、降圧剤、ACE阻害剤および/またはβブロッカーによる心不全の有効な薬物治療においては、まず、正確にかつ正しく心不全を認識、診断し、可能なら重篤性の程度の違いによって分類し、治療過程をさらにモニターする必要がある。
【0005】
当該技術分野においては、心不全の早期診断用マーカー候補としていくつかの血漿マーカーが検討されている。例えば、ANP(心房性ナトリウム排泄増加性ペプチドホルモン)やproANP、CNP(C-ナトリウム排泄増加性ペプチド)、アドレノメジュリン、神経性ペプチドY、上皮細胞およびBNP(脳性ナトリウム排泄増加性ペプチド)である。ANPおよびproANPは理論的には心不全の診断に適切なマーカーであり得る。しかしながら、実際、それらはあまり安定ではないか、または血液中で短い半減期しか持たず、これは、日常的診断測定に対する重大な欠陥を表す(Buckley, M.G.ら、Clin. Sci. 95(1998)235-239; Cleland, J.G.ら、Heart 75(1996)410-413)。
【0006】
しばしば引き合いに出され、および重要であるマーカーはBNP(脳性ナトリウム排泄増加性ペプチド)である。初めは、BNPはブタの脳で確認された。BNPは、構造的および機能的にANP(心房性ナトリウム排泄増加性ペプチドホルモン)に類似した心臓ホルモンである(Sudoh, T.ら、Nature 332(1998)78-81)。32アミノ酸からなるヒトBNPは主に心臓心室より分泌され、ヒトの血液血漿で循環する。診断マーカーとしてのBNPの使用は、例えばEP-A-0 542 255で知られている。BNPは分子内ジスルフィド架橋を有し、あまり安定な被検物ではない。これは、たぶん速やかに分解されるホルモンとしての生理的機能によるものであろう。したがって、診断マーカーとしての使用には、試料収集および処理において、慎重および特別な注意が要求される(Masuta, C.ら、Clin. Chem. 44(1998)130;Tsuji, T.ら、Clin. Chem. 40(1994)672-673)。
【0007】
BNPの前駆体分子、すなわちproBNPは108アミノ酸からなる。proBNPは前述したBNPとよばれるC末端32アミノ酸(77〜108)およびN末端proBNP(またはNT-proBNP)とよばれるN末端アミノ酸1〜76に開裂される。BNP、N末端proBNP(1〜76)および更なる分解産物(Hunt, P.J.ら、Biochem. Biophys. Res. Com. 214(1995)1175-1183)は血液中で循環する。血漿中に完全な前駆体分子(proBNP 1〜108)も存在するかどうかは、完全には解明されていない。しかしながら、血漿中でproBNP(1〜108)の低い放出は検出できるが、N末端でとても速やかに部分的に分解されるため、いくつかのアミノ酸が欠損していると述べられている(Hunt, P.J.ら、Peptides, Vol. 18, No.10(1997)1475-1481)。
【0008】
当該技術分野では知られているが、N末端proBNP(1〜76)は心不全のマーカーと考えられている。
【0009】
WO 93/24531(US 5,786,163)はN末端proBNPを同定する免疫学的方法、およびそれに使用される抗体が記載されている。WO 93/24531では、N末端proBNP由来の単一のペプチドに対するポリクローナル抗体が産生される。産生された抗体は競合試験形態において免疫用ペプチド(47〜64アミノ酸)に結合することが示されている。
【0010】
WO 93/24531で行なわれた競合試験では、標識された形態のペプチド47〜64が、トレーサーとして、ウサギ血清由来のポリクローナル抗体への結合に関して、試料中proBNPもしくは未標識の標準ペプチド47〜64と競合する。48時間のインキュベーション後、中程度の競合に達し、約250 fmol/mlの検出下限がもたらされる。この競合試験の長いインキュベーション時間は、自動化された研究所での試料の日常的測定には不向きである。
【0011】
Hunt, P.J.ら、Clinical Endocrinology 47(1997)287-296もまた、N末端proBNPの検出のための競合試験を述べている。このアッセイでは、測定が行なわれる前に、血漿試料の複雑な抽出が必要であり、このことにより被検物の分解および間違った測定につながり得る。使用された抗血清は、合成ペプチドを用いた免疫によって、WO 93/24531と同様に産生される。Huntらは、N末端proBNPアミノ酸1〜13および標準として使用されるアミノ酸1〜21からなるペプチドを用いた免疫によって、抗血清を産生している。この試験にもまた、長いインキュベーション時間が必要である。24時間インキュベーション後に、1.3 fmol/mlの検出下限に達する。
【0012】
Ng, L.ら、WO 00/35951はN末端proBNPを診断するためのさらなる方法を述べている。この方法は、ヒトproBNPのアミノ酸65〜76に相当する合成ペプチドに対して産生された抗体の使用に基づいている。
【0013】
Hughes, D.ら、Clin.Sci. 96(1999)373-380は、N末端proBNPについて二つの異なるアッセイを報告している。第一のアッセイでは、proBNPのアミノ酸65〜76に相当する合成ペプチドを含む免疫原を用いて産生されたポリクローナル抗体が使用され、一方、第二のアッセイでは、類似しているがアミノ酸37〜49についてのポリクローナル抗体が産生された。Hughes, D.らにより作製されたデータによると、産生され、およびproBNPのアミノ酸37〜49に相当するペプチドと反応性がある抗体は、インタクトな内因性proBNPとは反応しない。これに基づいたアッセイでは、正常な対照から左心房の機能障害を持つ患者が区別されない。proBNP 65〜76に基づいたアッセイでは、同じ患者群は明らかに区別することが出来た。
【0014】
Goetze, J.P.ら、Clin.Chem. 48(2002)1035-1042はN末端proBNPの最もN末端側のアミノ酸(1〜21)についてのアッセイを述べている。彼らのアッセイは、proBNPの同じアミノ酸(1〜21)に相当する合成ペプチドに対して産生されたポリクローナル抗体に基づいている。
【0015】
Goetze, J.P.ら(前出)のアッセイは、試料および試料に含まれる多様なproBNPの完全消化を必要とする。このアッセイもまた、非特異的結合の減少に有用であったと述べられている。
【0016】
Karl, J.ら、WO 00/45176は、初めてN末端proBNPに敏感および迅速な検出がサンドイッチ免疫学的測定方法で可能であると示している。WO 00/45176で述べたが、好ましいエピトープはN末端proBNPのアミノ酸10〜50である。
【0017】
US 2003/0219734は、proBNP(1〜108)、BNP(77〜108)およびN末端proBNP(1〜76)由来の複数の異なるBNP関連ポリペプチドが試料中に存在し得るという事実を述べている。
【0018】
Mair, J.ら、Clin. Chem. Lab. Med. 39(2001)571-588は、心不全の診断およびマネージメントにおいて、心臓のナトリウム排泄増加性ペプチド測定の影響を要約した。彼らは、現在の市販されているアッセイは標準化されていない、すなわち、共通の標準に対して較正されていないと主張する。いくつかのアッセイでは、血漿の抽出物さえも必要である。結果として、異なる製造会社のアッセイを用いて得られた結果が著しく異なり得る。従って、臨床研究から得られた参照区間および決定限界は、使用した個々のアッセイでしか有効でなく、また、N末端proBNPのその他のアッセイに外挿してはならない。
【0019】
同様に、Goetze, J.P.ら(前出)および、Mair, J., Clin. Chem. 48(2002)977-978は、N末端proBNPの異なるアッセイ間において、得られた値に関しておよびそれらの臨床的意義に関しての両方における矛盾が、このマーカー候補の広範囲な使用について重大な問題を表していると述べている。
【0020】
明らかに、改善された、たとえば、より再現性のある、より標準化された、より特徴化された、または/および、より臨床的に関連したN末端proBNPについてのアッセイを提供する必要性が大いに存在している。
【0021】
本発明の課題は、N末端proBNPの測定のための、および/またはN末端proBNPの臨床的に関連のある断片または亜集団のための、より特異的なアッセイを開発することであった。
【0022】
以下に記載された、および添付の特許請求の範囲で請求された本発明は、当該技術分野で知られた問題の一つまたはそれ以上を少なくとも部分的に解決するものである。
【0023】
驚いたことに、循環血中に存在する全てのproBNP種(トータルproBNP)の亜集団を特異的に検出できることが判明した。この亜集団とは、ネイティブN末端proBNP、または単に「ネイティブ(native)proBNP」と称するものである。特筆すべきことには、ネイティブproBNPの亜集団はトータルproBNPに比較して臨床的により関連しているようである。
【0024】
第一の態様では、本発明はネイティブproBNPに特異的に結合する単離された抗体に関するものである。
【0025】
本発明は、また、ネイティブproBNPの特異的な検出のための方法に関するものであり、ネイティブproBNPに対する抗体/ネイティブproBNP複合体を形成できる条件下で、proBNPを含むと推測されるか、またはわかっている試料を、ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体と接触させる工程、および、形成された複合体を検出する工程を含む。
【0026】
更に、本発明は、ネイティブproBNPの検出およびネイティブproBNPレベルを心不全に相関させることを含む心不全の診断についての方法を開示する。それにより、ネイティブproBNPのこの相関した値が心不全の非存在、存在、または状態を示す。
【0027】
本発明はまた、ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体およびネイティブproBNP検出のための補助試薬を含むネイティブproBNPを測定するためのキットに関する。DSMZに寄託されたネイティブproBNPに対する特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株MAB 10.4.63、およびMAB 16.1.39の、それぞれより産生されるモノクローナル抗体もまた特許請求の範囲である。
【0028】
本発明を導く本発明者らの実験過程で、proBNPの少なくとも2つの集団がヒト血中に存在することが明らかになり、立証された。proBNPの一方の集団は、免疫学的方法により検出され得る全てのproBNP分子の大部分を表すものと思われる。この集団は、「トータル(toral)」proBNPと称される。本発明者らの研究により、トータルproBNPとして要約され得るproBNP分子が、proBNPのアミノ酸の約10位から約66位までの範囲で中心コア構造を共通して明らかに有することが示された。好ましくは、本発明による方法によって検出されるトータルproBNPはアミノ酸10から66を含む。当業者にはわかるように、かかるトータルproBNPが、競合的またはサンドイッチアッセイ形態のどちらかの免疫学的手順により簡単に検出され得る。好ましくは、サンドイッチアッセイはトータルproBNPを検出するために使われる。かかるサンドイッチアッセイは、ネイティブproBNPエピトープにCおよびN末端のそれぞれに結合する抗体を含むよう設計され得る。しかしながら、例えば、ネイティブproBNPエピトープに対して、サンドイッチを形成することができ、およびエピトープのN末端と両方反応できる抗体を使用して、トータルproBNPを検出することも可能である。明らかではあるが、トータルproBNPのかかる競合的またはサンドイッチ検出法において、ネイティブproBNPに対する抗体を使ってはならない。
【0029】
用語「ネイティブproBNP」は、MAB 10.4.63によって認識されるエピトープが存在する任意のproBNP分子を表す。さらに以下に示す所見によると、このエピトープは全てのproBNP分子の亜集団(すなわち、「全」proBNPの亜集団)にしか存在しない。「ネイティブproBNP」と称するトータルproBNPのこの亜集団は、特異的な結合パートナーによって、好ましくは、ポリクローナル、および/またはモノクローナル抗体によって検出できることを見出し、立証することが出来た。
【0030】
ネイティブproBNPと称する亜集団は、均一なポリペプチド断片でなければならない必要はない。ネイティブproBNPポリペプチドの長さは異なり得る。そこで、ネイティブproBNPに関するサンドイッチ免疫学的測定方法において認識される分子のほとんどは、N末端proBNP(1〜76)またはその断片を表すことが予測される。好ましくはネイティブproBNPに関するアッセイは、アミノ酸10から66を含むNT-proBNP断片の測定に適切な様式で構成される。ネイティブproBNPの特徴的性質は、MAB 10.4.63によって認識されるネイティブproBNPエピトープが存在することである。
【0031】
一つの態様において、本発明はネイティブproBNPに特異的に結合する抗体に関するものであり、ここでは、ネイティブproBNPに特異的に結合する該抗体は、患者試料で測定されるproBNPの値に関して、MAB 10.4.63に少なくともr=0.95もしくはそれ以上のr値で相関する抗体であると述べられている。
【0032】
本発明の所見、開示および寄託に基づいて、抗体がネイティブproBNPまたはトータルproBNPに特異的に結合するかどうかの調査において、当業者には問題にならない。MAB 10.4.63はネイティブproBNPに特異的に結合する抗体のプロトタイプ例であると考えられる、一方、MAB18.4.34はトータルproBNPに対する抗体のプロトタイプ例であると考えられる。proBNPに対する任意の結合剤はどんなものでも、ネイティブproBNPまたはトータルproBNPのそれぞれに結合する特異性を用いて評価され得る。
【0033】
ネイティブproBNPに「特異的に結合する」抗体は、患者試料で測定されるproBNPの値に関して、MAB 10.4.63と少なくともr=0.95もしくはそれ以上のr値で相関する抗体である。ネイティブproBNPに対する結合特異性は、関連した臨床試料を用いてMAB 10.4.63の結合性に関して評価される。ネイティブproBNPのNT- proBNPレベルが10 ng/mlから150 ng/mlである患者から得られた、少なくとも20または多くても25の血清試料が使用される。proBNPに対する結合は、Biacore(登録商標)3000システムを用いて測定される。測定された値は、MAB 10.4.63を用いて測定したネイティブproBNP値に相関させ、統計的評価は直線回帰解析により行なわれる。y=ax+bタイプの直線回帰は、MS-Excelを用いて好ましくフィットさせ、相関係数rおよび傾きが算出される。さらにより好ましくは、かかる抗体は、MAB 10.4.63に結合するトータルproBNPの本質的に同じネイティブproBNP亜集団を検出し、上記手順によるとここでは本質的に同じ亜集団への結合は、r=0.98またはそれ以上の相関をもたらす。
【0034】
MAB 18.4.34はトータルproBNPの測定のためのプロトタイプ抗体であると考えられ得る。ネイティブproBNPに特異的に結合する任意の抗体について(上述と同じ試料および手順を用いて)、MAB.18.4.34との相関、すなわちトータルproBNPとの相関は、MAB 10.4.63との相関にくらべて典型的に低い。好ましくはproBNPのネイティブproBNP亜画分(sub-fraction)に特異的に結合する抗体についてMAB 18.4.34との相関は、r=0.94もしくはそれ以下である。さらにより好ましくは、r=0.9またはそれ以下、もしくはr=0.8と同程度かそれ以下の相関である。
【0035】
かかる方法比較において測定される絶対量を比較すると、トータルproBNPを検出するアッセイはMAB 10.4.63と比較すると、一貫してproBNPの値が約2から20倍、多くの場合は約2から5倍高く得られる。上記の特定の相関に加えて、ネイティブproBNPに特異的に結合する好ましい抗体はまた、上記の方法比較において、傾きが1.5未満であることが示される。最も好ましくは傾きが0.4から1.5の間である。
【0036】
特異的結合は好ましくは最小107 L/molの結合親和性をもって生じる。より好ましい特異的結合剤は、ネイティブproBNPに対して108L/molの親和性、または、さらにより好ましくは109 L/molの親和性を有する。
【0037】
上記で説明されたように、MAB 10.4.63の非常に重要で好ましい特徴は、典型的な臨床試料に含まれるトータルproBNPのうち約5%から約50%間の変わり得る割合のみがこの抗体によって結合されるということである。
【0038】
ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体のプロトタイプ例は、DSMZに寄託されたMAB10.4.63クローンによって産生されるモノクローナル抗体である。MAB 10.4.63はMAB 16.1.39と本質的に同じエピトープに結合する。しかしながら、MAB 10.4.63はネイティブproBNPに対してより高い親和性を有するので、この抗体はネイティブproBNPに特異的に結合する(モノクローナル)抗体のプロトタイプとして選択される。
【0039】
MAB 10.4.63は実施例の項に記載されたように産生させた。この抗体、および他の抗体によって認識されるproBNPのエピトープは、proBNPの明確な配列に相当する短い合成ペプチドを用いることによって、確認され、特徴化され、位置づけられる。この方法は、PepScan解析として知られ、および呼ばれている。
【0040】
簡単には、proBNPの8個の連続するアミノ酸を含む69個の合成ペプチドは、N末端システイン、スペーサー分子、およびビオチンを含むように合成される。これらのペプチドはそれぞれ、N末端からC末端へアミノ酸1個シフトしていた。ペプチド1は、アミノ酸(aas)1から8を含み、ペプチド2aasはaas 2から9、などなど、そして、ペプチド69はaas 69から76を含む。
【0041】
MAB 10.4.63は、proBNPのアミノ酸38から42位を共通して有する、ペプチド番号35(アミノ酸35〜42)から38(aas 38〜45)と有意に反応することが見出された。proBNPのaas 37から44におよぶペプチド37との反応性が最も強い。したがって、MAB 10.4.63は、本質的にproBNPのアミノ酸38から43もしくは44からなるエピトープと反応することが結論され得る。
【0042】
当業者にはわかるように、エピトープの存在もしくは非存在は、3次構造、2次修飾、複合体形成、接近しやすさなどに左右され得る。明らかに、ネイティブproBNPに対するMAB 10.4.63およびその他の抗体は、この点に関して非常に特異的な要件を有しており、典型的な試料に存在するproBNPの大部分とは反応しない。短い合成PepScanペプチドは3次構造もしくは2次修飾を有する可能性は低いので、MAB 10.4.63に認識されるエピトープは未変性のはずであり、従って用語「ネイティブ」は適切であると考えられている。
【0043】
ネイティブproBNPに対する抗体に基づいたアッセイおよびトータルproBNPを測定するアッセイは、合成proBNP(1〜76)およびヒト血清のような臨床試料中に含まれるproBNPそれぞれがいったん測定され比較されると、反応強度に驚くほど差が現れる。合成proBNP(1〜76)を用いて、検出手順が簡単に構成され、標準化され得る。かかるアッセイを使用して、合成マトリックス中もしくは、ヒト血清のような天然試料に補充された合成proBNP(1〜76)が、これら両方のアッセイにおいて、同レベルに測定される。しかしながら、驚くことに、ヒト血清のような天然試料に含まれるproBNPがこれら両方のアッセイで測定されると、劇的な差が認められる。
【0044】
各MAB 17.3.1、18.4.34または18.29.23モノクローナル抗体のようなトータルproBNPに反応する抗体(または複数抗体、それぞれ)を用いるアッセイは、血清試料に存在する全てのproBNP分子、すなわちトータルproBNPを検出するようである。反対に、ネイティブproBNP、例えばMAB 10.4.63と反応する抗体に基づいたアッセイは、このトータルproBNPの一部しか検出しない。
【0045】
トータルproBNPのネイティブproBNP亜集団は、生物学的に活性なBNPに大変良好な相関を臨床的に示すことが本発明により立証され得る。もちろん、BNPの測定において試料採取や取り扱いに関して正しいBNP値を得るために、あらゆる注意がなされる。ネイティブproBNPの測定に関して、特別な注意がなくても通常の試料処理は十分であることが示された。
【0046】
本発明で確立された全てのデータから、本発明で同定されMAB 10.4.63によって特異的に結合されるエピトープは、ネイティブproBNPに対する適切な抗体の主要なエピトープであることが明らかに示される。明らかなことに、MAB 10.4.63によって認識されるこのネイティブproBNPエピトープは自然修飾を受け得るか、またはタンパク質複合体の一部となり得、その効果でこのエピトープが変化し、MAB 10.4.63はかかる変性した、もしくは複合体化したproBNPとより低い程度(extend)で結合する、もしくは全くしない。かかる修飾された「非ネイティブ」proBNPエピトープを有するproBNPは、トータルproBNPのアッセイにおいて有意に測定される。
【0047】
固有の高い再現性のため、モノクローナル抗体がネイティブproBNPを検出する好ましいツールである。したがって、好ましい態様では、本発明はネイティブproBNPに特異的に結合するモノクローナル抗体に関する。
【0048】
当業者にはわかるように、MAB 10.4.63に比較して確認され得る他のモノクローナル抗体は、PepScanペプチド番号35から38に対して反応性がわずかに異なるパターンを示し得る。ネイティブproBNPに対するモノクローナル抗体は、トータルproBNP集団に含まれるネイティブproBNP亜集団に少なくともr=0.95もしくはそれ以上のr値で相関し、MAB 10.4.63に結合されるトータルproBNPの亜集団のみが検出される限り本発明の意図から逸脱しない。その相関は、Biacore(登録商標)システムおよび上述のような統計学的解析を用いて決定される。さらにより好ましくは、かかるモノクローナル抗体は、MAB 10.4.63によって結合されるものと本質的に同じトータルproBNPのネイティブproBNP亜集団を検出する。上述手順によると、ここでは本質的に同じ亜集団はr=0.98もしくは、それ以上の相関をもたらす。
【0049】
好ましい態様において、本発明はまた、モノクローナル抗体を産生する方法に関するものであり、適当な非ヒト動物、好ましくはマウス、ラット、ウサギ、またはヒツジにproBNPで免疫処置する工程、それへの抗体を産生するB細胞を取得する工程、このB細胞を適当な融合パートナーに融合させる工程およびこうして得られたハイブリドーマによって産生される抗体をネイティブproBNPに対する反応性について試験する工程を含む。好ましくはかかるモノクローナル抗体のみが免疫学的測定方法において、選択され、使用され、適当な患者試料においてはMAB 10.4.63に少なくとも0.95のr値で相関する。その相関は上述のように評価される。好ましくは、合成proBNPもしくは原核生物宿主で産生されるproBNPまたはともにproBNPのアミノ酸41〜44を少なくとも含むproBNPの合成ペプチドもしくはその断片によって免疫処置を行なう。
【0050】
MAB 10.4.63が利用できるので、ネイティブproBNPの特異的検出に使用され得るポリクローナル抗体を産生、精製、および同定することもまた出来る。例えば、ネイティブproBNPに対するポリクローナル抗体(PAB)は産生、精製され、MAB 10.4.63との相関によって特徴づけられ得ることがわかった。
【0051】
当業者にはわかるように、ネイティブproBNPに結合するPABを産生する種々の方法がある。明らかなことであるが、例えば免疫精製の種々の成功裡の経路において、免疫吸着剤として一つまたはそれ以上の合成ペプチドを使用することができる。
【0052】
ネイティブproBNPに対するポリクローナル抗体は、トータルproBNP集団に含まれるネイティブproBNP亜集団に少なくともr=0.95もしくはそれ以上のr値で相関し、MAB 10.4.63に結合されるトータルproBNPの亜集団のみが検出される限り本発明の意図から逸脱しない。その相関は、Biacore(登録商標)システムおよび上述のような統計学的解析を用いて決定される。さらにより好ましくはかかるポリクローナル抗体調製物は、MAB 10.4.63によって結合されるのと本質的に同じトータルproBNPのネイティブproBNP亜集団を検出する。上述手順によるとここでは本質的に同じ亜集団の結合はr=0.98もしくは、それ以上の相関をもたらす。
【0053】
ネイティブproBNPに対するかかるPABを取得する1つの方法は、組み換えられたもしくは合成により作製されたproBNPを用いて免疫処置をし、アフィニティー精製によってネイティブproBNP特異的抗体を精製し、患者試料よりこのようにして得られたポリクローナル抗体を上述のように評価することである。
【0054】
好ましい態様において、本発明はしたがってポリクローナル抗体を産生させる方法に関するものであり、適当な非ヒト動物にproBNPで免疫処置する工程、ポリクローナル抗体を取得する工程および得られた抗体をネイティブproBNPに対する反応性について試験する工程を含む。好ましくはかかるポリクローナル抗体のみが、ネイティブproBNPについての免疫学的測定方法において選択され、使用され、適当な患者試料においてMAB 10.4.63に少なくともr=0.95のr値で相関する。その相関は上述のように評価される。
【0055】
ネイティブproBNPに特異的に結合する(同じ試料および手順を用いて)任意のポリクローナル抗体について、MAB 18.4.34、すなわちトータルproBNPに対する相関はMAB 10.4.63との相関に比べて有意に低くなるであろう。ポリクローナル抗体調製物は異なる性質を持つ個々の抗体を常に有し得るので、好ましくは、トータルproBNPのネイティブproBNP亜画分に特異的に結合するポリクローナル抗体について、MAB 18.4.34との相関は、r=0.94もしくはそれ以下である。さらにより好ましくは、0.9と同程度もしくはそれ以下の相関である。好ましくは、ネイティブproBNPに特異的に結合するポリクローナル抗体調製物は、MAB 10.4.63に対してr=0.98もしくはそれ以上で、MAB 18.4.34に対してr=0.94もしくはそれ以下で相関する。または、さらにより好ましくはMAB 18.4.34に対して、r=0.9もしくはそれ以下で相関する。
【0056】
好ましくは、ネイティブproBNPに対するポリクローナル抗体を取得するための免疫処置は、合成proBNPもしくは原核生物宿主で産生されるproBNPまたproBNPのアミノ酸41から44を少なくとも含む合成ペプチドもしくはその断片によって行われる。
【0057】
本発明者らの実験過程では、種々のサンドイッチアッセイ形態において、多種多様な免疫学的試薬が作製され、解析され、組み合わせられ、proBNPの検出において使用された。免疫学的試薬の種々の組み合わせは、ほとんどのアッセイがトータルproBNPを測定するようであることを明らかにした。
【0058】
調査されたトータルproBNPアッセイは、心不全の診断に対する妥当な診断正確性、例えばMair, J.(前出)参照、と密接に関連する、BNPに対する妥当な相関を表すことがわかった。
【0059】
しかしながら、トータルproBNPを検出するアッセイに比較して、ネイティブproBNPのみを検出するアッセイは、NYHA 0もしくはI度の患者とNYHA II、IIIもしくはIV度の患者をそれぞれ、より良好に差別化することを確立することができた。このことはまた、心不全患者の改善された臨床的な差別化につながる。
【0060】
好ましい態様において、本発明はしたがってネイティブproBNPの特異的な検出のための方法に関するものであり、ネイティブproBNPに対する抗体/ネイティブproBNP複合体を形成できる条件下で、proBNPを含むと推測されるか、またはわかっている試料を、ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体と接触させる工程、および、形成された複合体を検出する工程を含む。好ましくはネイティブproBNPの特異的な検出のための該方法は、NYHAステージII、IIIもしくはIVからNYHAステージ0およびIを区別するために使用される。
【0061】
「ネイティブproBNPに対する抗体/ネイティブproBNP複合体」はまた、単純に「抗体/ネイティブproBNP複合体」と称し得る。
【0062】
用語「抗体」は、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体、キメラ、もしくはヒト化、もしくは遺伝子工学によって得られ得る他の抗体およびF(ab')2、 Fab'、もしくはFab断片などの当業者に知られているすべての抗体断片に関するものである。ネイティブproBNPに対する適切な特異性を有する他の結合剤は、抗体もしくは抗体断片の代用のために使用され得る。ネイティブproBNPに対する特異的な結合のみ、MAB 10.4.63と同様に保証されなければならない。
【0063】
当業者にはわかるように、ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体を用いてネイティブproBNPを検出する方法は莫大にあり、それらはすべて関連する教科書(例えば、Tijssen, P., Practice and theory of enzyme immunoassays 11(1990)Elsevier, AmsterdamまたはDiamandisら、編集(1996)Immunoassay, Academic Press, Boston参照)に詳細に示される。
【0064】
本発明の情況において、トータルproBNPもしくはネイティブproBNPの検出のため多くの試薬および試薬の組み合わせが、Biacore(登録商標)システムによって解析された。その結果の一部は実施例の項に示される。
【0065】
臨床的な日常的診断においてしばしば、不均一系免疫学的測定形態に基づいた方法が使用される。本発明による好ましい態様では、ネイティブproBNPの検出のための方法は競合的な免疫学的測定方法である。
【0066】
サンドイッチとも称される抗体/抗原/抗体複合体が形成される、サンドイッチアッセイ原理による免疫学的測定方法がさらにより好ましい。
【0067】
本発明による好ましい態様では、ネイティブproBNPの特異的な検出のための方法は、サンドイッチ免疫学的測定方法であり、ここではネイティブproBNPに対する第一の抗体およびトータルproBNPに対する第二の抗体が使用され、proBNPに対する該第二の抗体およびネイティブproBNPに対する該第一の抗体の両方が、ネイティブproBNPに対して異なるエピトープに結合し、かくして(第一)抗ネイティブproBNP抗体/ネイティブproBNP/(第二)抗proBNP抗体複合体が形成される。
【0068】
当業者にはわかるように、ネイティブproBNPを検出するためのサンドイッチアッセイはまた、第一の(捕捉)抗体としてトータルproBNPに対する抗体および第二の抗体(トレーサー、検出用もしくは標識化)として抗ネイティブproBNP抗体を用いて構成され得る。
【0069】
好ましくは、ネイティブproBNPを測定するサンドイッチ法は、以下の工程を含む:
a)試料と、固相に結合するのに適した基を保有するネイティブproBNPに特異的な一次抗体との混合、または試料と、既に固相に結合しているネイティブproBNPに特異的な一次抗体との混合、
b)当該溶液と、ネイティブproBNPのエピトープの外側に存在するエピトープ(ネイティブproBNP及びトータルproBNPの両方に存在し、一次抗体−ネイティブproBNP−二次抗体複合体が形成される条件の下で標識を保有する)に結合するトータルproBNPに対する二次抗体との混合、
c)固相への形成された免疫性複合体の結合、
d)液相からの固相の分離、
e)一方または両方の相における標識の検出。
【0070】
定量的な測定において、基準としての規定した量のネイティブproBNPで同じ測定を行い、試料の測定後に工程f)を行う。すなわち、標準の測定値、または標準曲線が試料で得られたものと比較され、ネイティブproBNPに相当する濃度を推定する。
【0071】
ネイティブproBNPに特異的な一次抗体は、直接的に、または特異的結合対系を介して間接的に固相へ結合し得る。固相に対する直接的な抗体による結合は、専門家に公知の方法、例えば、吸着作用による方法に従う。結合が特異的結合体系を使用して間接的なものである場合、一次抗体がネイティブproBNPに対する抗体及び特異的結合対系の第一のパートナーからなるコンジュゲートとなる。特異的結合対系とは、互いが特異的に反応することの出来る2つのパートナーを指す。この結合は、免疫学的結合、または別の特異的結合に基づき得る。好ましい組み合わせは、ビオチン及びアビジン、ストレプトアビジンもしくは抗ビオチンのそれぞれ、ハプテン及び抗ハプテン、抗体のFc断片及びこのFc断片に対する抗体、または炭水化物及びレクチンである。好ましくは、ビオチン及びアビジン、またはビオチン及びストレプトアビジンの組み合わせが、特異的結合対系として用される。
【0072】
特異的結合対系の第二のパートナーは、固相に被覆する。ストレプトアビジンまたはアビジンが、好ましく用される。不溶性のキャリアーに対する特異的結合対系で、このパートナーへの結合は、専門家に公知である標準の手順に従って行う。ここでは、共有結合及び吸着性結合が適切である。
【0073】
固相としては、ポリスチレン及び同様のプラスチックから構成された試験管及び微量滴定量用プレートが適切であり、これを特異的結合対系の第二のパートナーによって覆う。さらに適しており、特に好ましいのは、ラテックス粒子、磁性体粒子、分子篩物質、及びガラス微粒子のような微粒子物質である。紙またはニトロセルロースも、キャリアーとして利用できる。上記のような特異的結合対系の第二のパートナーで被覆された磁性体粒子の使用が、特に好ましい。免疫学的反応の完了後及び固相へ免疫学的複合体が形成された後で、これらの微粒子は、例えば濾過法、遠心法によって、または磁性体粒子の場合には磁石を介して、液相から分離され得る。固相に結合した標識(もしくは液相中に残存する標識、または両方の標識)の検出は、次の標準的な手順に従って行う。
【0074】
トータルproBNPに結合する二次抗体は、ネイティブproBNPエピトープの外側にあり、ネイティブproBNPとトータルproBNPの両方に存在するエピトープと結合する。ネイティブproBNP分子上にあるこれら二つのエピトープに、両方の抗体が同時に結合することが可能でなければならない。なぜなら、そうでない場合、サンドイッチ複合体が形成されないからである。
【0075】
proBNP上に本発明の研究者達らも、上記のサンドイッチアッセイに非常に適切なエピトープを同定した。
【0076】
多数のモノクローナル抗体が生じている。組換え型proBNP上で認識される全てのエピトープが、患者の試料中のproBNPを測定するのに同様に適切であるとは限らないことを確認し得た。
【0077】
3つのエピトープは、MAB17.3.1、18.4.34、及び18.29.23のそれぞれによって認識されるように、本質的に13〜16、27〜31、及び64〜67それぞれのアミノ酸からなり、(N-末端)proBNP分子では非常に広い範囲に存在しているのが明らかであり、すなわちトータルproBNPのエピトープとなっている。これらのハイブリドーマは、07.05.03を基としてDSMZに供託されている。これらのハイブリドーマで産生される抗体は、トータルproBNPを測定する理想的なツールとなっている。競合的なアッセイ様式において単独で使用するか、またはサンドイッチアッセイ様法において互いに、もしくはトータルproBNPと反応するPABと組み合わせて使用する場合、トータルproBNPは容易に測定し得る。
【0078】
特許手続上で微生物を寄託する国際的承認に関するブダぺスト条約の下で、本発明の好ましいハイブリドーマの細胞株MAB<NT-proBNP>16.1.39(=MAK<NT-proBNP> 16.1.39=MAB16.1.39)、MAB<NT-proBNP>17.3.1、MAB<NT-proBNP>10.4.63、MAB<NT- proBNP>18.4.34及びMAB<NT-proBNP>18.29.23は、ドイツのDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に供託した:
【0079】

【0080】
上記の細胞株から入手できる抗体は、発明の好ましい態様である。
【0081】
ネイティブproBNPの検出において、好ましくは、サンドイッチアッセイにおける上記のようなトータルproBNPに対するモノクローナル抗体を、ネイティブproBNPと特異的に結合する抗体と組み合わせて使用する。次いで、かかるサンドイッチ法は、トータルproBNPのうち、ネイティブproBNPの副次集団のみを特異的に検出するアッセイである。かかるサンドイッチ法でネイティブproBNPを測定するために、トータルproBNPに対する好ましい抗体は、アミノ酸13〜16、27〜31、及び64〜67のそれぞれに、本質的に結合する抗体である。これらのエピトープは、例えばMAB17.3.1、18.4.34、および18.29.23のそれぞれによって認識される。最も好ましくは、ネイティブproBNPのかかるサンドイッチアッセイにおいて、MAB18.4.34のような27から31番目のアミノ酸に結合する抗体を使用する。
【0082】
インビトロ下での、ネイティブproBNPを特異的に検出する方法の試料として、当業者に公知のあらゆる生物学的溶液を使用し得る。インビトロ診断で好ましい試料は、全血、血清、血漿、尿または唾液のような体液である。血清または血漿それぞれの使用が、特に好ましい。
【0083】
上記のようないわゆる湿性試薬の他、液相の試験試薬を用いて、抗原、ハプテン、ペプチド、タンパク質、抗体などの検出に適したあらゆる標準的な乾性試験様式も使用し得る。例えばEP-A-O 186 799に記載されているような、これらの乾性試験及び試験ストリップは、分析対象の試料を除き、1つの単一のキャリア上で全ての試薬と組み合わさる。
【0084】
好ましい態様において、本発明は、ネイティブproBNPの検出及びネイティブproBNPのレベルと心不全の存在とを相関付ける工程を含む、心不全の診断方法に関する。当業者が認めるように、ネイティブproBNPのレベルは、心不全の未発症または重篤度を断定するのにも使用し得る。
【0085】
心不全を有する患者の追跡治療、及び治療のモニタリングにおいて、ネイティブproBNPの測定を使用することもまた好ましい。
【0086】
さらに好ましい態様は、ネイティブproBNPと特異的に結合する抗体及びネイティブproBNPを検出するための補助試薬を含有するネイティブproBNPを測定するための、キットに関する。
【0087】
以下の実施例、参考文献、配列表及び図面は、本発明の理解を補助するために提供され、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される。本発明の意図から逸脱すること無く、示した手順において変更がなされ得ることが理解されよう。
【0088】
実施例1
組換え型N−末端proBNP(1-76)の産生方法
1.組換え型N−末端proBNPのクローニング
N−末端proBNP(アミノ酸配列1-76)のヌクレオチドを、遺伝子合成によって合成した。大腸菌で遺伝子の最適な発現を得るために、DNA配列を大腸菌で最も頻繁に使用されるコドンに合わせた。遺伝子の合成に使用したオリゴヌクレオチドの配列は、以下の通りである。
Pro5' (配列番号: 1):
5'CCGGATCCCACCCGCTG3'
Pro1hum (配列番号: 2):
5'CGGGATCCCACCCGCTGGGTTCCCCGGGTTCCGCTTCCGACCTGGAAAC
CTCCGGTCTGCAGGAACAGCGTAACCACCT3'
Pro2hum (配列番号: 3):
5'CGGTTCCAGGGAGGTCTGTTCAACCTGCAGTTCGGACAGTTTACCCTGCA
GGTGGTTACGCTGTTCCTGC3'
Pro3hum (配列番号: 4):
5'CAGACCTCCCTGGAACCGCTGCAGGAATCCCCGCGTCCGACCGGTGTTT
GGAAATCCCGTGAAGTTGCTAC3'
Pro4hum (配列番号: 5):
5'CCCAAGCTTAACGCGGAGCACGCAGGGTGTACAGAACCATTTTACGGTG
ACCACGGATACCTTCGGTAGCAACTTCACGGGATTTCC3'
Pro3' (配列番号: 6):
5'CCCAAGCTTAACGCGGAGC3'
【0089】
これらのプライマーを用いてPCR(複製ポリメラーゼ連鎖反応)により、遺伝子の合成を行った。増幅した遺伝子を、例えばベクターpUC19のような適切なベクター中にクローン化し、配列決定をした。発現ベクターpQE8での遺伝子クローニングのために、遺伝子をBamHi及びHind IIIの制限切断部位を介してベクターpUC19から切り離してから、ベクターpQE8に繋いだ後に、N−末端にヒスチジン−タグを含んだタンパクの発現へと続き、大腸菌M15[pREP4]中で形質転換を行った。
【0090】
2.大腸菌におけるN−末端proBNPの発現
大腸菌中で遺伝子を発現させるために、組換え型大腸菌のオーバーナイト培養物を、ルリアブロス(100μg/mlアンピシリン及び50μg/mlカナマイシンを含む)中に、60倍希釈でトランスフェクションして、OD 550で1の時にIPTG(イソプロピルチオガラクトシド; 最終濃度 1mM)を用いて誘導した。誘導後、培養物を37℃で4時間さらに培養した。培養物を遠心分離し、細胞ペレットを50 mMのリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH 8.0; 300 mMの塩化カルシウムを含む)で回収した。超音波による細胞懸濁法で分解した後、懸濁液は遠心分離されて、Ni-NTA(ニトリロ-トリアセテート)カラム上に載せた。50 mMのリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH 8.0; 300 mM NaCl; 20 mM イミダゾールを含む)で洗浄工程の後、ヒスチジン標識されたN-末端proBNPを、50 mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 8.0; 300 mM NaCl; 300 mM イミダゾールを含む)で溶出した。溶出分画を回収し、50 mMのトリス(pH 8.0)で透析した。不純物を分離するため、透析物をQ−セファロースカラムに載せた。精製したN−末端proBNPの質量を、MALDI-TOFにより決定した。この精製物(=組換え型proBNP)は、proBNP1-76及びproBNP1-66(後者はおそらく分解産物を意味する)を含んでいることが分かった。
【0091】
実施例2
NTproBNP(1-76)アミドの合成
NTproBNP(1-76)アミド(swissprot:アクセッション番号 P16860; aa27〜aa134)を、ABI 433ペプチド合成機において、最適化した固相ペプチド合成プロトコル(Merrifield (1962) Fed. Proc. Fed. Amer. Soc Exp. Biol. 21, 412)によって合成した。要するに、側鎖の機能に応じて、一過性のピペリジン不安定Fmoc-および永続性の酸不安定tBu-、 BOC-、 OtBu-、 Trt-またはPmc-基により各々保護されたアミノ酸の8倍過剰を繰り返し結合させることにより、Rink-Linker修飾ポリスチレン固相上にペプチドを組み立てた。酸化安定物質を得るために、10位のメチオニンを、等価のアミノ酸であるノルロイシンで置換した。さらにタンパク分解に対して安定化させるために、リンクリンケージを使用してC−末端をアミド化した。構築後、充分に保護したペプチドを固相から取り外し、適切なカチオンスカベンジャーの混合物中の三フッ化酢酸の処理によって恒久的に保護した基を放出して、最終的に分離用逆相HPLCによる精製で単離した。3回の125 μmolスケールの合成によって、それぞれ16.0、17.1及び18.0 mgのRP-HPLCでの単一ピークの純物質(凍結乾燥)が生じた。同一性はMALDI-及びESI-質量分析[8439.4]によって立証した。
【0092】
実施例3
トータルまたはネイティブproBNPそれぞれに対するモノクローナル抗体の産生及びスクリーニング
1.N−末端proBNPに対するモノクローナル抗体の入手
8〜12週齢のBalb/cマウスを、完全フロイントアジュバンドを伴う100μg N−末端proBNP抗原での腹膜内免疫に供した。組換え型およびペプチド合成によって産生したproBNP(1-76)のそれぞれを、マウスにおける抗原として使用した。6週後から、さらに3回の免疫を4週毎に行う。最後の免疫から1週間後に、血液を採取し、試験動物の血清中での抗体力価を決定した。陽性反応するマウスの脾臓からB−リンパ球を得て、恒久的なミエローマ細胞株と融合する。融合は、Koehler及びMillstein(Nature 256, 1975, p. 495−497)の公知の方法に従い行う。陽性ハイブリドーマの一次培養物は、例えば市販のセルソーターの使用または「限界希釈法」による通常の方法でクローン化する。
【0093】
腹水を産生するために、以前に0.5 mlのプリスタンで1−2回処理したBalb/cマウスに対して5 x 106個のハイブリドーマ細胞を腹膜内注射した。2-3週後、腹水はマウスの腹部から入手され得る。これから、通常の方法で抗体が単離され得る。
【0094】
2.proBNPペプチド、合成proBNP及びヒト血清中のproBNPのそれぞれに対するモノクローナル抗体のスクリーニングテスト
ハイブリドーマ細胞の培養上清中のproBNPに対する抗体の存在を同定するために、上清を3つのスクリーニングアッセイ様式により評価した。
【0095】
a)合成N−末端proBNPとの反応性
室温で1時間、攪拌の下で、微量滴定プレート(Nunc, Maxisorb)に、充填バッファー(コーティングバッファー, Cat.No.0726 559, Scil Diagnostics, GmbH)100 μl/ウェル中の、抗原としての2.5 μg/mlの合成NT-proBNPを結合させる。二次充填を、PBSバッファー(リン酸緩衝化生理食塩水,Oxid,Code-BR 14a)及び1% Byco C中で30分間行う。続けて、洗浄を洗浄バッファー(0.9m 塩化ナトリウム溶液、0.05% Tween 20)で行う。室温で1時間、攪拌の下で、抗体試料のインキュベーションを100 μl/ウェルで行う。洗浄バッファーによる更なる洗浄工程を、計2回行う。その後、室温で1時間、攪拌の下で、検出用の抗体PAB<M-Fcy>ヤギ−F(ab')2−ペルオキシダーゼコンジュゲート(Chemicon,Cat.No. AQ127P)100mU/ml、100μl/ウェルと共に、更なるインキュベーションを行う。洗浄バッファーによる洗浄工程後、ペルオキシダーゼ活性を通常の方法(例えばABTS(登録商標)を用いて、室温で30分間、ELISAリーダーにより405nmで消光の差をmUとして読み取る)で確認する。
【0096】
b)エピトープ解析のための合成ペプチドを使用したエピトープの特徴付け
エピトープ解析のために、ストレプトアビジンを充填した微量滴定プレートを、proBNP(1-76)の配列に由来するぺプチドのビオチンコンジュゲートと共にインキュベートする。1アミノ酸ずつ配列をシフトさせた69種の8マーのペプチドつまり、1-8、2-9、3-10、4-11から66-73に至って、67-74、68-75及び69-76のそれぞれを適用することにより、完全なproBNP−配列をスキャンした。アミノ酸位置1-10、8-18、1-21、16-30、30-38、32-43、39-50、47-57、50-63、62-70及び64-76のそれぞれを含む、さらにビオチン化した配列を試験した。0.5% Byco Cを含むPBSバッファー(リン酸緩衝化生理食塩水,Oxid,Code-BR 14a)中に、250 ng/mlの濃度で個々の抗原性ペプチドを溶解させる。ペプチドを被覆するために、室温で1時間、穏やかに攪拌した微量滴定プレートの個々のウェルに100μlの各溶液を振り分ける。続けて、洗浄バッファー(0.9m 塩化ナトリウム溶液、0.05% Tween 20)で洗浄を行った。抗体試料のインキュベーション及び反応の検出は、a)に記載したように行う。あるNT-proBNPペプチドとの反応により、モノ−またはポリクローナル抗体で認識されるエピトープの位置を、正確に決め得た。
【0097】
PepScanの例を、図1に示す。ハイブリドーマ10.4.63から分泌されるモノクローナル抗体は、ペプチド番号36〜38と最も強く反応する。これは、少なくともproBNPの38〜43のアミノ酸(配列番号:11)からなるエピトープに対応している。最も強い反応性がペプチド37及び38に明らかに見てとれるので、共有するエピトープは、38〜42のアミノ酸を含むものと考えられ得る。
【0098】
c)患者試料におけるproBNPとの反応性
室温で1時間、攪拌の下で、微量滴定プレートのウェル(Nunc、Maxisorb)を、100 μl/ウェルの充填バッファー中(コーティングバッファー、Cat.No.0726 559、Scil Diagnostics、GmbH)の5 μg/mlのPAB<ヒトproBNP>S-IgG(IS、(1-21)または(30-38)S-IgG)で被覆する。二次充填を、PBSバッファー(リン酸緩衝化生理食塩水、Oxid、Code-BR 14a)及び1% Byco Cで30分間行う。続けて、洗浄バッファー(0.9 塩化ナトリウム溶液、0.05% Tween 20)で洗浄を行う。PBSバッファーに希釈した患者の血漿中の天然抗原とのインキュベーションを、室温で1時間、攪拌の下で、100 μl/ウェルとして行う。さらなる洗浄工程後に、室温で1時間攪拌の下、100 μl/ウェルとしてハイブリドーマの上清インキュベーションを行う。続けて、洗浄バッファーで2回洗浄し、室温で1時間、攪拌の下で、100 mU/ml、100 μl/ウェルとして検出用の抗体PAB<M-Fcy>ヤギ−F(ab')2−ペルオキシダーゼコンジュゲート(Chemicon、Cat.No.AQ127P)との更なるインキュベーションを行う。洗浄バッファーでの更なる洗浄工程の後に、ペルオキシダーゼの活性を通常の方法(例えばABTS(登録商標)を用いて、室温で30分間、ELISAリーダーにより405nmで消光の差をmUとして読み取る)。
で確認する。
【0099】
合成により産生したN−末端proBNP、またはヒト血清のproBNPと陽性反応するハイブリドーマの培養だけをさらに行う。
【0100】
実施例4
N−末端proBNPに対するポリクローナル抗体の産生
1.免疫化
ヒツジを、完全フロイントアジュバンド中の組換え型N−末端proBNP(実施例1を参照)で免疫化した。量は1個体に付き0.1mgであった。免疫を、10ヶ月間、4週間毎に繰り返した。最初の免疫から6週間後及び以後1ヶ月毎に、血清試料を得て、その反応性及び力価を分析した。
【0101】
2.ヒツジ血清からのポリクローナル抗体の精製
組換え型N−末端proBNPで免疫化したヒツジの血清から開始して、脂質成分を, aerosil(登録商標)(1.5 %)による脱脂質化で除去した。その後、免疫グロブリンを、硫酸アンモニウム分画(2M)によって分離した。15 mM KPO4、50 mM NaCl pH7.0に対して、溶解沈殿物を透析し、DEAEセファロース上でクロマトグラフィーを行った。IgG分画(=PAB<NT-proBNP>S-IgG(DE))を、フロースルー中に得た。
【0102】
3.トータルproBNPに特異的なポリクローナル抗体の産生のためのアフィニティークロマトグラフィー
トータルproBNP(=PAB<NT-proBNP>S-IgG(IS,1-21)、または簡単にPAB<1-21>)に特異的に結合するポリクローナル抗体のアフィニティー精製のために、ペプチド HPLGSPGSASDLETSGLQEQR-C ((1-21)21-Cys, 配列番号: 7)を用いた。2 mlのマレイミドで活性化したEAH−セファロース4B(Amersham Biosciences, Product No 17-0569-01)に1 mg のペプチド(1-21)21-Cysを共有結合させて、アフィニティーマトリックスを作製した。
【0103】
10 mlのアフィニティーマトリックスを、カラムに詰め、50 mM KPO4、150 mM NaCl pH 7.5 (PBS)で平衡化した。カラムに2gのPAB<NT-proBNP>S-IgG(DE)を載せた。PBS及び20 mM KPO4、500 mM NaCl、0.1 % Triton X-100、0.5%脱酸化コール酸ナトリウムpH 7.5で、カラムを洗浄した。アフィニティーマトリックスに特異的に結合したIgGを、ImmunoPure(登録商標)Gentle Ag/Ab溶出バッファー(Pierce, Product No 21013)で溶出して、PAB<1-21>と呼ぶ。アフィニティーマトリックスを、1 Mプロピオン酸で再生し、PBS/NaN3中で保存した。
【0104】
トータルproBNP(Karl,Jら,WO 00/45176)に特異的でアフィニティー精製したポリクローナル抗体PAB<NT-proBNP>S-IgG(IS,30-38)、または簡単にPAB<30-38>を産生するために、同様の工程を適用した。
【0105】
4.ネイティブproBNPに特異的なポリクローナル抗体の産生のためのアフィニティークロマトグラフィー
ネイティブproBNP(=PAB<NT-proBNP>S-IgG(IS,41-46)または簡単にPAB<41-46>)に対するポリクローナル抗体を、連続したアフィニティークロマトグラフィーで得た。上記と同様に、3つの個々のペプチド、CEUEU-SLEPLQE((37-43)37-Cys, 配列番号: 8)、CEUEU-SPRPTGVW((44-51)44-Cys, 配列番号: 9)及びC-EPLQESPRPTG((39-50)39-Cys, 配列番号: 10)(EUEUは、稀に後ろに続くペプチドの伸張リンカーとして機能する)を、3つの個々のアフィニティーマトリックスの作製に使用した。主にNT-proBNPの配列37-43に結合する全てのポリクローナル抗体を取り除くため、始めにPAB<NT-proBNP>S-IgG(DE)は、ペプチド(37-43)37-Cysを含むアフィニティーマトリックスに載せた。主にNT-proBNPの配列44-51に結合するポリクローナル抗体を捕捉するため、次にフロースルーは、ペプチド(44-51)44-Cysを含む第二のアフィニティーマトリックスに載せた。上記のように(=PAB<44-51>)、結合した抗体を溶出して回収した。最終的に、第二のアフィニティー精製のフロースルーは、ペプチド(39-50)39-Cysを含む第三のアフィニティーマトリックス中に通した。結合した抗体を上記のように溶出して回収した。公知でありPepScan解析と呼ばれるように、第三のアフィニティーマトリックスから溶出した抗体は、37-43と44-51との間のオーバーラップする配列の残余(remaining)のエピトープを表す、配列41-46(=PAB<41-46>)のエピトープに特異的である。
【0106】
実施例5
proBNPに対するモノクローナル及びポリクローナル抗体のBiacore解析
Biacore 3000アナライザーの表面プラズモン共鳴により、ネイティブNT-proBNPに対するモノクローナル及びポリクローナル抗体の特異性を決定した。探索用CM5センサーチップを備えたBiacore 3000を用いて、すべての表面プラズモン共鳴による測定を、25℃で行なった。ランニングバッファーはHBS(10 mM HEPES、150 mM NaCl、3.4 mM EDTA及びpH 7.4での0.005% P20(=Polysorbat)であった。
【0107】
1.リガンドPAB<NT-proBNP,1-21>S-IgGの固定化
トータルNT-proBNPの捕捉抗体として用いたリガンドは、アミン結合化学作用で固定化した。結合前に、20μl/minの流速で0.1 % SDS、50 mM NaOH、10 mM HCl及び100 mMリン酸を10μlの注入により、センサーチップを予備調整した。20μl/minの流速の下で、0.1 M NHS(N-ヒドロキシサクシニミド)及び0.1 M EDC(3-(N,N-ジメチル-アミノ)プロピル-N-エチルカーボジイミド)の1:1の混合物を用いて、全てのフローセルの表面を5分間、活性化させた。10 mM酢酸ナトリウムpH 5.0中に30μg/mlの濃度でリガンドを、4つ全てのフローセルに5分間注入した。非共有結合リガンドを除去するために、1 Mのエタノールアミン、pH 8.0を5分間注入し、続いてHBSwash(100mM HEPES pH 7.4, 1.5M NaCl, 3.4mM EDTA, 0.05% P20(=Polysorbat),2 % DMSO)、100 mM HCl及び2 x 100 mM リン酸を30秒間注入して、表面をブロックした。リガンドの密度は、約16.000 RUであった。
【0108】
2.患者試料におけるNT-proBNPの濃度測定
Biacore 3000で以下の方法を行うために、図2に付したようなプログラムを用いた。20 %ウマ血清(HBSで1:5に希釈したウマ血清+1mg/mlカルボキシメチルデキストラン)中での、0、 2.5、 5、 10、 20及び40 nMの濃度の合成NT-proBNP(1-76)アミドを、キャリブレーターとして用いた。センサーチップ表面への血清成分の非特異的な結合を抑制するために、カルボキシメチルデキストランの添加を用いた。
【0109】
10 ng/ml以上のネイティブNT-proBNPを有する患者試料を、HBS及び1mg/mlカルボキシメチルデキストランで1:5に希釈した。
【0110】
非特異的に結合した血清成分を除去するために、4つすべてのフローセルに、キャリブレーターおよび患者試料を10μl/minの流速で10分間注入し、続いて100μl/minの流速でHBSを30秒間注入した。その特異性が測定対象であった抗体を、HBS中に500 nMの濃度で10μl/minの流速で3分間注入した。フローセル1には抗体1、フローセル2には抗体2などのようにした。抗体の注入前の10秒間の反応と、次の抗体またはHBSそれぞれの注入前の10秒間の反応との差として、RUで示した抗体の結合データを測定した。
【0111】
患者試料におけるNT-proBNPの濃度の計算のために、BIAevaluationソフトウェアVers. 4.1を用いた。それぞれの抗体に対して、合成NT-proBNP(1-76)アミド(amid)の校正曲線はスプラインフィットを用いて作製し、1:5に希釈した患者試料の対応する濃度を計算した。未希釈血清でNT-proBNPの濃度を得るのに、濃度を5倍した。
【0112】
3.抗体の特異性の決定
ヒト血清のネイティブまたはトータルNT-proBNPに抗体が結合するか決定するために、問題の抗体で測定したNT-proBNPの濃度(y-軸)を、参照抗体MAB 10.4.63で測定した試料に相当する濃度(x-軸)に対してプロットした。y=ax+b型の直線回帰曲線を、MS-Excelを用いてフィットさせ、相関係数rおよび傾きを計算した。
【0113】
表1:様々な抗pro-BNP抗体の特徴


+++は、合成proBNPと患者試料中のproBNPとの両方が、非常に良く、同様の程度で認識されていることを示す。+は、合成proBNPで得た値と比較して、患者試料中のproBNPでは15%の範囲の反応であることを示す。
【0114】
表1より、合成proBNPおよび同じ様式で患者試料に含まれるproBNPには、proBNPのエピトープの圧倒的多数が存在することが明らかである。これは、MAB17.3.1, MAB18.4.34, MAB 28.29.13及びPAB<1-21>それぞれによって示される。
【0115】
しかし、あるエピトープは合成pro-BNPおよび同じ様式で患者試料中に含まれるpro-BNP上には、存在しないようである。このエピトープは本質的にアミノ酸41-44からなり、MAB 10.4.63およびPAB<41-46>によって認識される。これらの免疫学的試薬を用いて、患者試料中に存在するトータルproBNPの副次集団だけが認識されるようである。これは、患者試料中のpro-BNPをトータルproBNPのアッセイまたはネイティブproBNPのアッセイそれぞれで測定した場合、非常に異なった結果を導く。このトータルproBNPの副次集団だけが、ネイティブproBNPに特徴的なエピトープを保有するようである。
【0116】
図3〜8で明らかなように、ネイティブproBNPに対する全ての抗体、つまりMAB 16.1.39およびPAB<41-46>がMAB 10.4.63に対して良好な高い相関性を示す。一方、トータルproBNPに対する抗体、つまりMAB 18.4.34, MAB 18.29.23及びPAB 30-38は、MAB 10.4.63に対して、大いに低い相関性を示す。PAB<44-51>は、興味深いことに、いくらか複数の反応性を有するようであり、ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体であるとはみなせない。なぜなら、これはMAB 10.4.63に対してr=0.95より低い相関であるからである。
【0117】
実施例6
ネイティブ及びトータルproBNPそれぞれに対するアッセイの臨床比較
臨床研究において、ネイティブproBNPまたはトータルproBNPそれぞれに対するサンドイッチイムノアッセイによって、NYHAステータスに従って分類した246人の患者試料を解析した。この研究の結果は表2に示す。
【0118】
表2:患者試料におけるネイティブproBNP及びトータルproBNPの分析

【0119】
臨床上、非常に重要であるのは、疾患の進行した患者(NYHA X=等級2またはそれ以上)と比較したときに、無疾患または非常に穏やかな疾患(HYHA等級0または1)を保有した患者との差異である。表2から見てとれるように、等級0/1から等級2及びより高い等級まで有意に増大している。全ての等級2,3,及び4でのこの増加は、トータルproBNPと比較して、ネイティブproBNPについてより顕著である。このことは、トータルproBNPと比較して、ネイティブproBNPについてより高い感度/特異性プロフィールおよび臨床上の有用性があることになる。
【0120】

【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】MAB10.4.63のエピトープの同定proBNP(1-76)の配列からビオチン化した69種の異なる8マーのペプチド、つまり1アミノ酸ずつシフトしたそれぞれがproBNP(1−76)の全体の配列をカバーするものを使用して、MAB10.4.63に対する反応プロファイルを解析した。吸光度は、mE−ユニットで示す。強い反応性がペプチド37及び38番目に発見されている。
【図2】Biacore解析において使用された道具この図が示すようにBiacore(登録商標)3000アナライザーの操作法を使用して、proBNPに対する様々な抗体によるネイティブproBNPへの特異性を評価した。
【図3】様々なモノ−及びポリクローナル抗−proBNP抗体に対するMAB10.4.63の相関サンドイッチアッセイ法で約10 mg/mlの濃度のproBNPを含む20種のヒト血清及び上記のもの(MAB10.4.63及びキャリブレーター用として合成proBNPを使用して決定した)を、Biacore 3000アナライザーを使用して、解析した。MAB10.4.63で測定した値をx−軸上に示す。方法の比較として使用した抗体で測定した値をy−軸に示す。MAB16.1.39、MAB18.4.34、MAB18.29.23、PAB30−38、PAB44−51及びPAB41−46に対するMAB10.4.63の相関性を、図3に示す。
【図4】様々なモノ−及びポリクローナル抗−proBNP抗体に対するMAB10.4.63の相関サンドイッチアッセイ法で約 10mg/mlの濃度のproBNPを含む20種のヒト血清及び上記のもの(MAB10.4.63及びキャリブレーター用として合成proBNPを使用して決定した)を、Biacore 3000アナライザーを使用して、解析した。MAB10.4.63で測定した値をx−軸上に示す。方法の比較として使用した抗体で測定した値をy−軸に示す。MAB16.1.39、MAB18.4.34、MAB18.29.23、PAB30−38、PAB44−51及びPAB41−46に対するMAB10.4.63の相関性を、図4に示す。
【図5】様々なモノ−及びポリクローナル抗−proBNP抗体に対するMAB10.4.63の相関サンドイッチアッセイ法で約10 mg/mlの濃度のproBNPを含む20種のヒト血清及び上記のもの(MAB10.4.63及びキャリブレーター用として合成proBNPを使用して決定した)を、Biacore 3000アナライザーを使用して、解析した。MAB10.4.63で測定した値をx−軸上に示す。方法の比較として使用した抗体で測定した値をy−軸に示す。MAB16.1.39、MAB18.4.34、MAB18.29.23、PAB30−38、PAB44−51及びPAB41−46に対するMAB10.4.63の相関性を、図5に示す。
【図6】様々なモノ−及びポリクローナル抗−proBNP抗体に対するMAB10.4.63の相関サンドイッチアッセイ法で約10 mg/mlの濃度のproBNPを含む20種のヒト血清及び上記のもの(MAB10.4.63及びキャリブレーター用として合成proBNPを使用して決定した)を、Biacore 3000アナライザーを使用して、解析した。MAB10.4.63で測定した値をx−軸上に示す。方法の比較として使用した抗体で測定した値をy−軸に示す。MAB16.1.39、MAB18.4.34、MAB18.29.23、PAB30−38、PAB44−51及びPAB41−46に対するMAB10.4.63の相関性を、図6に示す。
【図7】様々なモノ−及びポリクローナル抗−proBNP抗体に対するMAB10.4.63の相関サンドイッチアッセイ法で約10 mg/mlの濃度のproBNPを含む20種のヒト血清及び上記のもの(MAB10.4.63及びキャリブレーター用として合成proBNPを使用して決定した)を、Biacore 3000アナライザーを使用して、解析した。MAB10.4.63で測定した値をx−軸上に示す。方法の比較として使用した抗体で測定した値をy−軸に示す。MAB16.1.39、MAB18.4.34、MAB18.29.23、PAB30−38、PAB44−51及びPAB41−46に対するMAB10.4.63の相関性を、図7に示す。
【図8】様々なモノ−及びポリクローナル抗−proBNP抗体に対するMAB10.4.63の相関サンドイッチアッセイ法で約10 mg/mlの濃度のproBNPを含む20種のヒト血清及び上記のもの(MAB10.4.63及びキャリブレーター用として合成proBNPを使用して決定した)を、Biacore 3000アナライザーを使用して、解析した。MAB10.4.63で測定した値をx−軸上に示す。方法の比較として使用した抗体で測定した値をy−軸に示す。MAB16.1.39、MAB18.4.34、MAB18.29.23、PAB30−38、PAB44−51及びPAB41−46に対するMAB10.4.63の相関性を、図8に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者試料において測定したproBNPの値に関して、少なくともr=0.95またはそれより大きいr値でMAB10.4.63と相関する抗体である、ネイティブproBNPに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項1記載の抗体。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体が、ハイブリドーマ細胞株MAB10.4.63により産生される請求項2記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体が単離されたポリクローナル抗体である請求項1記載の抗体。
【請求項5】
proBNPを含むことが推測されるか、または分かっている試料と、請求項1〜4いずれか記載のネイティブproBNPとをネイティブproBNP-ネイティブproBNPに対する抗体の形成が可能な条件下で接触させる工程、および形成された複合体を検出する工程を含む、ネイティブproBNPの特異的検出のための方法。
【請求項6】
前記検出が競合免疫分析により行われる請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記検出が、サンドイッチ免疫分析により行われ、proBNPに対する第2の抗体がまた使用され、該proBNPに対する第2の抗体およびネイティブproBNPに対する抗体の両方がネイティブproBNPに結合し、それにより第2の抗proBNP抗体-ネイティブproBNP-抗ネイティブproBNP抗体複合体を形成する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
ネイティブproBNPの特異的検出、およびネイティブproBNPのレベルを心不全に相関付ける工程を含む、心不全の診断方法。
【請求項9】
請求項1〜4いずれか記載の抗体、およびネイティブproBNPの検出用補助試薬を含有してなる、ネイティブproBNPの測定用キット。
【請求項10】
DSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株MAB10.4.63。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−535470(P2007−535470A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505418(P2006−505418)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005091
【国際公開番号】WO2004/099252
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】