説明

アミノ酸L−チロシンから誘導された生分解性アニオン系ポリマー

【課題】アミノ酸L−チロシンから誘導された生分解性アニオン系ポリマーを提供する。
【解決手段】加水分解による変化を受けやすい主鎖を持つ、式VIIIで示されるポリカーボネート又はポリアリレート。R9はカルボン酸基又はそのベンジルエステルを側鎖に持つ炭素数18までのアルキル、アリール又はアルキルアリール基であり、R12が炭素数18までのアルキル、アリール又はアルキルアリール基であって炭素数18までの直鎖及び分岐のアルキル及びアルキルアリールエステル並びに該ポリマーに共有結合してなる生物学的及び薬学的に活性な化合物のエステル誘導体から選択されたカルボン酸エステル基を側鎖に持つ。R7は独立に炭素数4までのアルキレン基、Aはカルボニル基又はジカルボン酸残基、kは約5乃至約3,000であり、x及びfはそれぞれ独立に0から1未満。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の説明)
この出願は、Joachim B.Kohn、Durgadas Bolikal、George L.Brode、Sylvie I.Ertel、Shuiyun Guan及びJohn Kemnitzerらによる、“Biogradable,Anionic Polymers Derived from
the Amino Acid L−Tyrosine(アミノ酸Lチロシンから誘導された生分解性アニオン系ポリマー)”と題された1997年11月7日出願の米国仮特許出願第60/064,656号の恩典を請求するものであり、該特許の開示をここに参考資料として採用する。
【0002】
(政府の実施権)
合衆国政府はこの発明に関しペイドアップライセンス(paid−up license)並びに限定された状況における権利を有しており、国立衛生研究所(NIH)によって授与された付与番号GM−39455号及びGM−49849号の条項によって定められるところの穏当な条件における実施許諾を他者に与えることを特許権所有者に対し要求することができるものである。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
本発明は、カルボン酸基を側鎖に持つ生分解性アニオン系ポリカーボネート及びポリアリーレートに関し、並びにそれらとポリアルキレンオキシドとのブロックコポリマーに関する。更に本発明は、カルボン酸エステル基を側鎖に持つ前記ポリマーの化学種に関し、より詳細には側鎖ベンジルエステル基、並びに、パラジウム(Pd)触媒存在下におけるベンジルエステルの水素化分解により側鎖カルボン酸基を形成させるための前記ベンジルエステル基の選択的除去に関する。更に本発明は、ベンジルカルボキシレート基を側鎖に持つチロシン誘導型ジフェノールモノマーからなるホモポリマー及びコポリマーであるポリカーボネート、ポリアリーレート、並びにそれらとポリアルキレンオキシドとのブロックコポリマーに関する。
【0004】
ジフェノールはポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリアリーレート、ポリウレタン等の出発原料モノマーである。同一所有権者による米国特許第5,099,060号及び第5,198,507号は、ポリカーボネート及びポリイミノカーボネートの重合に有用なアミノ酸誘導型ジフェノール化合物を開示している。得られるポリマーは、一般に分解性ポリマーとして、特には医学用途における生体組織適合型生分解性材料として有用である。この最終用途に対する上記ポリマーの適合性は、天然アミノ酸であるL−チロシンから誘導されたジフェノールから該ポリマーを重合することに拠るものである。米国特許第5,099,060号及び第5,198,507号の開示を、ここに参考資料として採用する。上記公知のポリマーは、構造用移植片としての用途に最適な強靭で水不溶性の材料である。
【0005】
前記L−チロシン誘導型ジフェノールモノマーは、同一所有権者による米国特許第5,216,115号に記載の如くポリアリーレートの合成、並びに、同一所有権者による米国特許第5,658,995号に記載の如く前記ポリカーボネート及びポリアリーレートのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーの合成にも使用されている。米国特許第5,216,115号及び第5,658,995号の開示をここに参考資料として採用する。
【0006】
ポリカーボネート、ポリアリーレート及びそれらのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーは、遊離カルボン酸基を持つモノマーから従来の溶液法によっては調製できない。したがって、ポリマー生成後ポリマー主鎖の著しい分解を伴わずに切り離すことのできる除去可能な保護基を選択的に取り込むことが必要となる。保護基は、遊離カルボン酸基と(i)ポリカーボネートの調製に使用されたホスゲン及び(ii)ポリアリーレートの調製に使用されたカルボジイミド剤との交差反応を防ぐために必要とされる。
【0007】
生成ポリマーが保護されたカルボン酸基を持つ場合、分解速度が遅いことと、疎水性が大きなことからその用途が制限される。エステル保護基がジフェノールのカルボン酸側鎖から除去されてなる遊離酸型のポリマーは、疎水性が小さく、したがって幾分向上した分解速度を示すことが予測される。
【0008】
チロシン誘導型ジフェノールモノマーから調製されたポリカーボネート、ポリアリーレート及びそれらのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーにおいて、主鎖は、水性媒体(酸性、中性又は塩基性)中で分解するように設計された結合を含んでなる。したがって、カルボン酸保護基の選択的除去が課題となっている。ポリアリーレート及びそのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーに関しては、ポリマー主鎖の完全な分解を伴わずして従来の加水分解法によりエステル保護基を取り除くことはできない。ポリカーボネート及びそのポリアルキレンオキシドコポリマーに関しては、ポリマー主鎖におけるかなりの程度の分解を伴わずして従来の加水分解法によりエステル保護基を取り除くことはできない。側鎖基が嵩高くなるにつれて側鎖エステル基の切断が(主鎖切断に比べて)遅くなるので、メチル及びエチルエステル側鎖を対象とする従来加水分解では、顕著な分子量低下を伴い、塩基性又は酸性環境下におけるポリカーボネートの加水分解により嵩高いエステル側鎖を取り除こうとすると、結局ポリマー全体が分解し、回収されるのはオリゴマー種のみとなる。このように、ポリカーボネート及びそのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーに対して従来加水分解を施すことは、メチル又はエチルエステル側鎖を対象とする場合にはかろうじて効果があるが、嵩高い側鎖の除去に関しては全く不適当である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在検討されている幾つかの課題は、上記ポリマー系に遊離カルボン酸基を組み込むことにより対処可能である。第一に、ポリマー表面上の遊離カルボン酸基の存在は、選択された側鎖の化学的付着、生物学的活性分子の付着、あるいは薬剤成分の付着による表面特性の変更を可能にするものである。第二に、遊離カルボン酸基の存在自体が、ポリマー表面上への細胞の付着、成長及び移動に対する強力な調節因子となる。この点は、細胞の付着、拡散及び増殖の正確な制御が組織工学的移植を成功へ導く鍵となる組織工学分野で使用される医療用移植材料の設計において特に重要である。
【0010】
ここに、設計因子として、顕著な主鎖の分解を伴わず、各モノマー単位に側鎖カルボン酸基を好適に形成することを含んでなる分解可能な生体適合型ポリマー系が目的とされる。更には、ポリマー組成をわずかに変更することによりポリマー分解速度を制御することも目的とされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は上記目的を達成するものである。ポリマーバルク(polymer bulk;ポリマーが占める空間)内にカルボン酸基側鎖を組み入れることにより、生体内(in
vivo)においても生体外(in vitro)においてもポリマー主鎖の分解及び吸収速度に関し、これまで認識されていなかった劇的な加速効果が得られる。このように
本発明は、ポリマー主鎖沿いに存在しうるカルボン酸側鎖の割合を単に調整することにより、移植後約5時間から3年に至る期間で完全に吸収するロッド状装置を形成しうる脅威的な程度まで分解及び吸収の速度を調節することを可能にするものである。
【0012】
本発明は、主鎖の切断を伴うことなくポリマー表面上に側鎖カルボン酸基を形成することを可能にするものである。この点は、ポリマー表面に化学反応性付着部位を形成するためにポリマー主鎖の切断(分子量及び物理的強度の低下を伴う)を余儀なくされるポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンその他のような従来使用されてきた医療用ポリマーとの重要な相違点である。このように、本発明は、上記ポリマー系、具体的にはポリカーボネート、ポリアリーレート及びそれら各々のポリアルキレンオキシドコポリマーの汎用性及び有用性を著しく向上させるものである。
【0013】
このように、側鎖カルボン酸基のエステルがポリマー主鎖から選択的に取り除かれてなる、新規ポリマー材料を調製する新規方法が見出された。生成するポリマーは、それらのモノマー繰り返しサブユニットの全部又は一部に側鎖カルボン酸基を含んでなる。側鎖カルボン酸基は該ポリマーの親水性を向上させるものであり、その結果予期せぬ有用な新規特性が得られる。側鎖カルボン酸基を持つポリカーボネート、ポリアリーレート、及びそれらのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーが調製された。
【0014】
特に、ポリマー側鎖カルボン酸基のベンジルエステルが、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒、あるいはN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)及びN−メチルピロリドン(NMP)のような類似溶媒中におけるパラジウム触媒存在下の水素化分解により選択的に除去され、側鎖カルボン酸基が形成することが発見された。この反応はモノマー又は低分子量化合物からのベンジルエステル除去に関して文献中に多くの記載があるが、生分解性ポリカーボネート及びポリアリーレートからベンジルエステル基を選択的に除去しようとする本出願に係る試みは、これまで知られていなかった。側鎖ベンジルカルボキシレート基を持つモノマー繰り返しサブユニットと、他のアルキル又はアルキルアリールカルボキシレート基を持つモノマー繰り返しサブユニットとのポリマー内モル比を変化させることにより、ベンジルカルボキシレート基の選択的除去完了後における側鎖カルボン酸基を持つモノマー繰り返しサブユニットのポリマー内モル比を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、体外の(in vitro)生理的条件下におけるポリ0.5DT−0.5DTEカーボネート(●)、ポリDTカーボネート(■)及びポリDTEカーボネート(□)ポリマー組成に関し、百分率で表した質量維持率と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、本発明の一面によれば、次の式Iで定義されるモノマー繰り返しサブユニットを有するポリマーが提供される。
【0017】
【化1】

【0018】
式I
式Iはジフェノール単位を示しており、式中R9は炭素数18までのアルキル
、アリール又はアルキルアリール基であるが、但しその構造中にカルボン酸基又はそのベンジルエステルを含むものである。またR9は、窒素及び酸素のような
炭素以外の原子を含んでいてもよい。とりわけR9は天然アミノ酸チロシン、桂
皮酸又は3−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸の誘導体に関連する構造を持つものとすることができる。その場合、R9は式II及びIIIで示される特定
の構造を持つ。
【0019】
【化2】

【0020】
式II
【0021】
【化3】

【0022】
式III
式II及びIIIにおける示数a及びbは、それぞれ独立に0、1又は2をとりうる。R2は水素又はベンジル基である。
【0023】
ポリマーにおける第二のジフェノール型サブユニットは式IVで定義される。この第二のジフェノール型サブユニットにおいて、R12はカルボン酸エステル基で置換されたアルキル、アリール又はアルキルアリール基であり、該エステルは、炭素数18までの直鎖及び分岐状のアルキル及びアルキルアリールエステル、並びにポリマーに共有結合してなる生物学的及び薬学的に活性な化合物のエステル誘導体から選択されるが、但し該エステル基はベンジル基又は水素化分解によって切断される可能性のある他の化学成分ではない。R12は窒素及び酸素のような炭素以外の原子を含むものであってよい。とりわけR12は、天然アミノ酸チロシン、桂皮酸又は3−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸の誘導体に関連する構造を持つものとすることができる。
【0024】
【化4】

【0025】
式IV
チロシン、3−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸及び桂皮酸の誘導体に関し、R12は式V及びVIに示される特定の構造をとる。
【0026】
【化5】

【0027】
式V
【0028】
【化6】

【0029】
式VI
示数c及びdはそれぞれ0、1又は2をとりうる。R1は、炭素数18までの
直鎖及び分岐状のアルキル及びアルキルアリール基、並びにジフェノールに共有結合してなる生物学的に活性な化合物のエステル誘導体から選択されるが、但しR1はベンジル基
ではない。
【0030】
この発明に係る幾つかのポリマーは、式VIIで定義されるポリアルキレンオキシドブロックも含んでなる。式VIIにおいて、R7はそれぞれ独立に炭素数
4までのアルキレン基であり、kは約5乃至3,000の間にある。
−O−R7−(O−R7k 式VII
記号「A」で示される結合は
【0031】
【化7】

【0032】
又は
【0033】
【化8】

【0034】
のいずれかで定義され、ここでR8は炭素数18までの飽和及び不飽和、置換及び未置換
のアルキル、アリール及びアルキルアリール基である。したがって、本発明によるポリマーは、式VIIIの構造を有してなる。
【0035】
【化9】

【0036】
式VIII
式VIIIにおいて、x及びfは、各種サブユニットのモル比である。x及びfは0乃至0.99の値をとりうる。式VIIIの表示は略式であり、式VIIIによって表示されるポリマー構造は、ポリマー主鎖において異なるサブユニットが任意の順序で出現する真のランダムコポリマーであるものとする。式VIIIは、Aが
【0037】
【化10】

【0038】
であるとき、ポリカーボネートの一般的な化学式を示すものであり、Aが
【0039】
【化11】

【0040】
であるとき、ポリアリーレートの一般的な化学式を示すものである。更に、幾つかの限られた場合において、x=0のとき、ポリマーはベンジルエステル側鎖のみを含んでなり、このベンジルエステル側鎖は、以下に記載する水素化分解の後、各ジフェノール繰り返し単位に側鎖カルボン酸基を与えるものである。xが0より大きく1より小さい任意の分数(小数)である場合、規定比のベンジルエステル及び非ベンジルエステル側鎖を含むコポリマーが得られる。水素化分解後、規定比のカルボン酸基を側鎖として含むコポリマーが得られる。
【0041】
f=0である場合、ポリマーはポリアルキレンオキシドブロックを全く含まない。ポリマー主鎖内にポリアルキレンオキシドブロックが現れる頻度は、f値が大きくなるにつれて増加する。
【0042】
本発明の他の一面によれば、R9がベンジル基で保護された側鎖カルボン酸基
を有してなる式VIIIの構造を持つポリマーの反応混合物を、DMF、DMA及びNMPから選択された一又は複数の溶媒で本質的に構成される無水反応溶媒中で調製し、水素化分解によりベンジルエステル基が選択的に除去されるように該反応混合物を水素源の存在下でパラジウム触媒と接触させることによる、先に定義したポリマーを調製する方法が提供される。
【0043】
本発明における水素化分解によるベンジル基の除去は、ベンジルエステル保護基が存在
する場合のポリカーボネート、ポリアリーレート及びそれらのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーにおいて好適に実施された。ポリマーは式Iで示される第一の繰り返しサブユニットを持つホモポリマーであってもよく、式Iで示される第一の繰り返しサブユニットと式IVで示される第二の繰り返しサブユニットとからなるコポリマーであってもよい。またポリマーは式Vで定義されるポリアルキレンオキシドブロックを含んでいてもよく、結合Aは
【0044】
【化12】

【0045】
であっても
【0046】
【化13】

【0047】
であってもよく、但し、R8は、炭素数18までの飽和及び不飽和、置換及び未
置換のアルキル、アリール及びアルキルアリール基から選択される。
本発明は、純粋なDMF、DMA又はNMPが反応溶媒として不可欠であるという事実の発見を含んでいる。塩化メチレン、メタノール、あるいは塩化メチレン、メタノール及びDMFを種々の比率で含んでなる混合溶媒においては一切の反応が観測されないことは予想外の驚くべき結果であった。もう一つの予想外の結果は、反応媒体が無水性でなければならないことと、水素化分解反応において全てのベンジルエステル基を完全に除去するためには溶媒が乾燥している必要があることであった。本発明による好適な方法において、パラジウム触媒は硫酸バリウムに担持されたパラジウムである。この触媒は、回収可能且つ再利用可能であり、したがって水素化分解のコストを大幅に削減できる。
【0048】
また本発明による好適な方法は、水素源としての水素ガスと共に転移水素化分解剤(transfer hydrogenolysis reagent)として1,4−シクロヘキサジエンを使用するものである。雰囲気圧において、1,4−シクロヘキサジエンと水素ガスとの混合体に反応混合物を晒すことにより水素化分解を加速しうることが予想外に発見された。所望により、PARR水素化分解装置により高圧で反応を実施することも可能である。高圧条件下においては、全てのベンジルエステル基をポリマーから完全に除去するための1,4−シクロヘキサジエンの添加は不要である。
【0049】
本発明のベンジルカルボキシレートポリカーボネートホモポリマー及びコポリマーは、側鎖カルボン酸基を有するポリカーボネートの調製に有用な、容易に想到しえない新規な中間化合物である。同様に、本発明のベンジルカルボキシレートポリカーボネートホモポリマー及びコポリマーは、側鎖カルボン酸基を有するポリアリーレートの調製に有用な、容易に想到しえない新規な中間化合物である。
【0050】
側鎖カルボン酸基を有してなる本発明のポリマーは、生体適合型生分解性ポリマーに対する要求を満足するものである。したがって本発明は、側鎖カルボン酸基を有してなる本発明のポリマーを含んでなる移植可能な医療装置を包含するものでもある。本発明の一態様において、ポリマーは、J.Biomater.Res.29号第811乃至821頁
(1995年発行)におけるGutowskaらの記載、並びにJ.Controlled Release6号第297乃至305頁(1987年発行)におけるHoffmanの記載のように、効果的な部位特異性又は全身性の薬物送達に十分量の生物学的又は薬学的に活性な化合物と併用される。生物学的又は薬学的に活性な化合物は、物理的に混合され、ポリマーマトリックス中に包埋又は分散される。本発明の別態様において、ポリマーは、Mat.Res.Soc.Symp.Proc.292号第253乃至264頁(1993年発行)におけるUrryらの記載のように、外科的癒着を防ぐバリアとしての用途において、露出した損傷組織に展着された皮膜若しくはシートの形態をとる。
【0051】
本発明の他の一面は、本発明のポリマーと併せて治療学的有効量の生物学的又は薬学的に活性な化合物を含んでなる移植可能な薬物送達装置をその必要がある患者の体内に移植することによる部位特異性又は全身性の薬物送達方法を提供するものである。本発明の更に別の一面は、損傷組織間にバリアとして本発明のポリマーからなる皮膜又はシートを挿入することにより損傷組織間の癒着の形成を防止する方法を提供するものである。
【0052】
上記のように、生物学的及び薬学的に活性な化合物の誘導体、例えば薬物等を、側鎖カルボン酸との共有結合によって、ポリマー主鎖に付着させることが可能である。これは、薬物とポリマー主鎖との間の共有結合を水素化分解することにより生物学的又は薬学的に活性な化合物に徐放性を与えることとなる。
【0053】
加えて、本発明におけるポリマーの側鎖カルボン酸基は、ポリマーにpH依存性溶解速度を付与するものである。これは、薬物のような生物学的及び薬学的に活性な化合物が、胃の酸性環境において分解することを防ぐための胃腸内薬物放出キャリアにおける被覆としての更なるポリマー利用を可能にするものである。比較的高濃度の側鎖カルボン酸基を持つ本発明のコポリマーは、酸性環境において安定で水に不溶であるが、中性又は塩基性環境に晒されると急速に溶解又は分解する。一方、エステルに対する酸の割合が小さなコポリマーは、相対的に疎水性が大きく、塩基性又は酸性環境いずれにおいても急速な分解又は吸収を起こさない。したがって、本発明の他の一面は、生物学的又は薬学的に活性な薬剤が、本発明のポリマーによって物理的に被覆されてなる制御された薬物送達システムを提供するものである。
【0054】
側鎖カルボン酸基を有するチロシン誘導型ジフェノール化合物から調製されたポリマーは、相対的に親水性が大きい。したがって、カルボン酸基を持つ本発明のポリマーは、生理的条件下で、従来公知のポリカーボネート及びポリアリーレートよりも容易に吸収可能となる。本発明のポリマーは、相対的に親水性が大きいので、吸水性が高く、カルボン酸基を持つモノマーサブユニットが支配的な場合、水性媒体への溶解性が相対的に大きい。側鎖カルボン酸基を持つモノマー繰り返しサブユニットが支配的ではない場合、ポリマーは水性媒体中に徐々に溶解し、徐々に分解する。溶解又は分解速度はpHに大きく依存する。
【0055】
上記の通り、本発明のポリマーにおける側鎖カルボン酸基は、ポリマー表面における細胞の付着、成長及び移動を調節する機能を有する。したがって、本発明の更に別の一面によれば、生活細胞、組織又は生活細胞を含んでなる生物学的流体を、側鎖カルボン酸基を持つ本発明のポリマーに接触させることにより、ポリマー表面上への細胞の付着、移動及び増殖を調節する方法が提供される。共重合度すなわち側鎖エステルに対する側鎖カルボン酸基の割合を減少させて、細胞の付着、移動及び増殖を促進するポリマーを提供することが可能であり、付着、移動及び増殖を抑制するポリマーに関しても同様である。
【0056】
発明の原理及び現段階において該原理の実施に最適と見なされる形態を開示してなる以下の好適な態様についての詳細な説明及び請求の範囲を参照することにより、本発明につ
いての理解が更に高まり、他の多くの企図された利点も容易に理解することができる。
【0057】
(好適な態様の詳細な説明)
本発明の方法は、モノマーサブユニットの全部又は一部に側鎖カルボン酸基を有してなるポリカーボネート及びポリアリーレート並びにそれらのポリアルキレンオキシドブロックコポリマーを提供するものである。側鎖カルボン酸基を持つポリマーは、対応する側鎖ベンジルカルボキシレート基を持つ出発原料ポリマーの水素化分解によって調製される。ベンジルカルボキシレートポリマーである出発原料は、ベンジルエステルで保護された側鎖カルボン酸基を有するジフェノール化合物を単独又は他のエステルで保護されたカルボン酸基を持つジフェノール化合物と共に重合して得られる。特に、ベンジルカルボキシレートジフェノールは式Iaの構造を持つ。
【0058】
【化14】

【0059】
上式中、R9は、構造の一部にベンジルエステル保護されたカルボン酸基を含ん
でなる種に限定される以外は、式Iに関して既に記載した通りである。ベンジルカルボキシレートジフェノールは、好ましくは式IaにおいてR9が式II又は
式IIIの構造を持ち、このときR2はベンジル基である。中でも好適なジフェ
ノールは、R9が式IIにおいてa及びbがそれぞれ1又は2である構造を持つ化合物で
ある。最も好適には、aは2、bは1である。これら最も好適な化合物は、脱アミノチロシルチロシンアルキル又はアルキルアリールエステルとして知られるチロシンジペプチド類似化合物である。この好適な基において、ジフェノールはN末端アミノ基が除去されたチロシルチロシンジペプチドの誘導体と見なすことができる。
【0060】
他のエステルで保護されたカルボン酸基を持つジフェノール化合物は、式IVaの構造を持つ。
【0061】
【化15】

【0062】
上式中、R12は式IVに関して既に記載された通りである。R12は好ましくは式V又は式VIの構造を持つ。更に好ましくは、R12は式Vにおいてc及びdが好ましくはそれぞれ1又は2である構造を持つ。最も好ましくは、cは2であり、dは1である。
【0063】
ジフェノールモノマーを調製する方法は、同一所有権者による米国特許第5,587,507号及び5,670,602号に開示されており、ここに両者を参考資料として採用する。好適な脱アミノチロシルチロシンエステルは、エチル、ブチル、ヘキシル、オクチル及びベンジルエステルである。本発明においては、例えば脱アミノチロシルチロシンエチルエステルをDTEと称し、脱アミノチロシルチロシンベンジルエステルをDTBnと称する。また本発明において、脱アミノチロシルチロシン遊離酸はDTと称する。
【0064】
本発明のポリマーは、対応するベンジルカルボキシレートホモポリマーの水素化分解により調製された、側鎖カルボン酸基を各モノマーサブユニットが有してなるホモポリマー
とすることができる。また側鎖カルボン酸エステル基を持つジフェノールモノマーと側鎖カルボン酸基を持つジフェノールモノマーとのコポリマーを、ベンジルエステルモノマーとベンジルカルボキシレート以外の側鎖エステルを持つモノマーとの対応コポリマーの水素化分解により、ポリマーの基本主鎖構造中に取り込むことも可能である。
【0065】
このように、例えばポリDTカーボネートは、ポリDTBnカーボネートの水素化分解により調製され、ポリDT−DTEカーボネートコポリマーは、ポリDTBn−DTEカーボネートコポリマーの水素化分解により調製される。したがって、ポリマー内において、側鎖アルキル及びアルキルアリールエステル基を持るモノマーサブユニットと側鎖カルボン酸基を持つモノマーサブユニットとのモル比を変化させることが可能である。
【0066】
本発明によるポリマーは、側鎖カルボン酸基を持つ繰り返し単位からなるホモポリマーを含む。このようなホモポリマーは、式VIIIにおいてx及びfが共に0であり、R9
が側鎖カルボン酸基を持つ種に限定される以外は式Iに関して
既に記載した通りの構造を持つ。該ホモポリマーは、式VIIIにおいてx及びfが共に0であり、R9が側鎖ベンジルカルボキシレート基を持つ種に限定され
る以外は式Iに関して既に記載した通りの構造を持つ対応ホモポリマーの水素化分解により調製される。
【0067】
また本発明によるポリマーは、式VIIIにおいてfが0であり、xが0より大きく1より小さい数であり、R12が式IVに関し既に記載した通りであり、R9が側鎖カルボン
酸基を持つ種に限定される以外は式Iに関して既に記載した通
りの構造を持つ、側鎖カルボン酸基を有してなるコポリマーを含む。本発明によるコポリマーにおいて、xは好ましくは約0.50乃至約0.90、より好ましくは約0.60乃至約0.80である。
【0068】
側鎖カルボン酸基を有してなるコポリマーは、式VIIIにおいてfが0、xが0より大きく1より小さな数であり、R12が式IVに関して既に記載した通りであり、R9が側
鎖ベンジルカルボキシレート基を持つ種に限定される以外は式
Iに関して既に記載したとおりの構造を持つ対応コポリマーの水素化分解により調製される。本発明による好適なコポリマーにおいて、R9は式II又は式II
Iいずれかの構造を持ち、R12は式V又は式VIいずれかの構造を持つものであり、ここでR1、R2、a、b、c及びdは、式II、III、V及びVIに関し既に記載した通りである。
【0069】
より好適なコポリマーにおいて、R9は式IIの構造を持ち、R12は式Vの構
造を持つものであり、ここでa、b、c及びdはそれぞれ1又は2である。最も好ましくは、a及びcは2、b及びdは1である。
【0070】
式VIIIのAが
【0071】
【化16】

【0072】
であるとき、本発明のポリマーはポリカーボネートとなる。側鎖ベンジルカルボキシレート基を有してなるポリカーボネートホモポリマー及びコポリマーである出発原料は、米国特許第5,099,060号及び1997年6月27日に出願された米国特許出願番号第
08/884,108号に記載の方法により調製することができ、両者の開示もやはりここに参考資料として採用する。この開示された方法は、本質的にジフェノールからポリカーボネートを重合する従来の方法である。触媒及び溶媒に関し好適なプロセスは、当該分野においては公知であり、Chemistry and Physics of Polycarbonates(Interscience,New York 1964)においてSchnellにより教示されており、この教示をここに参考資料として採用する。
【0073】
側鎖カルボン酸基を有してなる本発明によるポリカーボネートホモポリマー及びコポリマー、並びにそれらを調製するための側鎖ベンジルカルボキシレート基を有してなるポリカーボネートは、付加的な補正なしのポリスチレン標準に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された約20,000乃至約400,000ダルトン、好ましくは約100,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0074】
式VIIIのAが
【0075】
【化17】

【0076】
であるとき、本発明のポリマーはポリアリーレートとなる。側鎖ベンジルカルボキシレート基を有してなるポリアリーレートホモポリマー及びコポリマーである出発原料は、米国特許第5,216,115号に記載の方法により調製することができ、この方法においてジフェノール化合物は、触媒として4−ジメチルアミノピリジウム−p−トルエンスルホナート(DPTS)を使用してカルボジイミドを媒体とする直接ポリエステル化により脂肪族又は芳香族ジカルボン酸と反応して、脂肪族又は芳香族ポリアリーレートを生成する。この特許の開示もまたここに参考資料として採用する。注目すべき点は、R8をジカル
ボン酸と交差反応
する官能基で置換されないものとする点である。
【0077】
本発明の出発原料ポリアリーレートの重合材料であるジカルボン酸は、式IXで示される構造を持ち、
【0078】
【化18】

【0079】
上式中、脂肪族ポリアリーレートに関しては、R8は炭素数18までの、好まし
くは炭素数4乃至12の飽和及び不飽和、置換及び未置換のアルキル基から選択される。芳香族ポリアリーレートに関しては、R8は炭素数18までの、好まし
くは炭素数8乃至14のアリール及びアルキルアリール基から選択される。ここでも、R8はジフェノールと交差反応する官能基で置換されないものとする。
【0080】
更に好ましくはR8は、出発原料ポリアリーレートの重合原料であるジカルボ
ン酸が、重要な天然代謝産物又は生体適合性の高い化合物のいずれかとなるように選択される。したがって好適な脂肪族ジカルボン酸は、クレブス回路として知られる細胞呼吸経
路の中間体ジカルボン酸を含む。これらジカルボン酸は、α−ケトグルタル酸、琥珀酸、フマル酸、マレイン酸及びオキサロ酢酸を含む。他の好適な生体適合性脂肪族ジカルボン酸は、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸及びアゼライン酸を含む。とりわけ好適な芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、並びにビス−p−カルボキシフェノキシプロパンのようなビス−p−カルボキシフェノキシアルカン類である。換言すれば、より好ましくはR8は、−CH2−C(=O)−、−CH2−CH2−C(=O)−、−CH=CH−及び(−CH2−)zから選択される成分であり、ここでzは2以上8以下の整数である。
【0081】
側鎖カルボン酸基を有してなる本発明によるポリアリーレートホモポリマー及びコポリマー、並びにそれらを調製するための側鎖ベンジルカルボキシレート基を有してなる対応ポリアリーレートは、付加的な補正なしのポリスチレン標準に対するGPCにより測定された約20,000乃至約400,000ダルトン、好ましくは約100,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0082】
また本発明によるポリカーボネート及びポリアリーレートは、ポリアルキレンオキシドとの側鎖カルボン酸基含有ランダムブロックコポリマーも含むものであり、このランダムブロックコポリマーは式VIIIの構造を持ち、式VIIIにおいてfが0より大きく1より小さく、R12が式IVに関して既に記載した通りであり、k及びR7が式VIIに関
して既に記載した通りであり、R9が側鎖カルボン酸基を持つ種に限定される以外は式I
に関して既に記載された通りである。xの値は1より小さいものであるが、0より大きくても0であってもよい。
【0083】
ブロックコポリマーにおけるアルキレンオキシドのモル分率fは、約0.01乃至約0.99の間で変化する。側鎖カルボン酸基を持つブロックコポリマーは、式VIIIにおいてxが0より大きく1より小さく、R12が式IVに関して既に記載した通りであり、k及びR7が式VIIに関して既に説明した通りであり
、R9が側鎖ベンジルカルボキシレート基を持つ種に限定される以外は式Iに関
して既に記載した通りである構造を有してなる対応ブロックコポリマーの水素化分解により調製される。また、xの値は1より小さいが、0より大きくても0であってもよい。
【0084】
好適な出発原料ポリマー及びそれから得られる遊離酸型ブロックコポリマーに関して、R7はエチレン、kは約20乃至約200、ブロックコポリマー中のア
ルキレンオキシドのモル分率fは好ましくは約0.05乃至約0.75の間で変化する。またR7はポリマー内における2以上の異なるアルキレン基であっても
よい。
【0085】
側鎖ベンジルカルボキシレートを持つ本発明のブロックコポリマーは、米国特許第5,658,995号に記載された方法で調製することができ、この開示もまたここに参考資料として採用する。xが0より大きく、側鎖カルボン酸基又は側鎖ベンジルカルボキシレートのいずれかを有してなる本発明のブロックコポリマーに関して、アルキレンオキシド及びブロックコポリマーのモル分率fは、約0.01乃至約0.99の間に留まるものである。
【0086】
側鎖カルボン酸基を有してなる本発明によるブロックコポリマー並びにそれらを調製するための側鎖ベンジルカルボキシレート基を有してなるブロックコポリマーは、約20,000乃至約400,000ダルトン、好ましくは約100,000ダルトンの重量平均分子量を有する。ブロックコポリマーの数平均分子量は、好ましくは約50,000ダルトン以上である。分子量測定は、付加的な補正なしのポリスチレン標準に対するGPCにより測定した。
【0087】
式VIIIにおいてxが0より大きい構造を有してなる本発明のコポリマーに関し、R12の側鎖カルボン酸エステル基は、ポリカーボネート又はポリアリーレートコポリマーに共有結合してなる生物学的又は薬学的に活性な化合物のエステル誘導体とすることができる。共有結合は、未変性の生物学的又は薬学的に活性な化合物における第一級又は第二級アミンが誘導体のアミド結合の位置に存在する場合のアミド結合によるものである。共有結合は、未変性の生物学的又は薬学的に活性な化合物における第一級ヒドロキシ基が、誘導体におけるエステル結合の位置に存在する場合のエステル結合によるものである。また生物学的又は薬学的に活性な化合物は、アミド又はエステル結合によりコポリマー又はジフェノールに共有結合する結合部分を有するケトン、アルデヒド又はカルボン酸基で変性させたものであってもよい。
【0088】
ポリマー内で結合自由なカルボン酸基へ各種薬物及びリガンドを付着させる詳細な化学的手法は、これまでにも文献中に記載されている。例えば、NathanらによるBio.Cong.Chem.4号、第54乃至62頁(1993年発行)を参照されたい。この出版物の開示をここに参考資料として採用する。
【0089】
本発明との併用に好適な生物学的又は薬学的に活性な化合物としては、アシクロビル、セフラジン(cephradine)、メルファラン、プロカイン、エフェドリン、アドリアマイシン、ダウノマイシン、プランバジン(plumbagin)、アトロピン、キニーネ、ジゴキシン、キニジン、生物学的活性ペプチド、クロリンe6、セフラジン(c
ephradine)、セファロチン、シス−ヒドロキシ−L−プロリン、メルファラン、ペニシリンV、アスピリン、ニコチン酸、ケモデオキシコール酸、クロラムブシル等を挙げることができる。該化合物は、当該分野において通常の技能を有する者に自明な方法により、ポリカーボネート又はポリアリーレートコポリマーに共有結合される。薬物送達化合物もまた、送達されるべき生物学的又は薬学的に活性な化合物と、側鎖カルボン酸基を有する本発明ポリマーとを、当該分野の通常の技能を有する者に公知の従来技法によって物理的に混合することにより形成される。
【0090】
本発明において、生物学的に活性な化合物とは、二重結合を持つ分子(例えばアクリル酸誘導体類)のような、ポリマーの強度を向上させる架橋を目的として側鎖カルボン酸基に付着可能な架橋成分を含むものとしても定義される。更に本発明においては、生物学的に活性な化合物は、細胞付着媒体、生物学的に活性なリガンド等を含むものとして定義される。
【0091】
上記の通り、本発明のポリマーは、所定の繰り返しサブユニットにおいて側鎖カルボン酸基を含んでなる。本発明において、ホモポリマー(式VIIIにおいてx=0)とは、各ジフェノール型サブユニットが側鎖カルボン酸基を含むものとして定義される。上記ホモポリマーはポリカーボネート又はポリアリーレートであり、ポリアルキレンオキシドブロックを含んでいてもよい。最も明確には、ホモポリマーは、多数の薬理学及び生物学的活性を持つ新規な分解性ポリアニオンである。同様に、本発明において、コポリマー(式VIIIにおいて0<x<1)とは、幾つかのジフェノール型サブユニットに側鎖カルボン酸基を含んでなるものとして定義される。上記コポリマーはポリカーボネート又はポリアリーレートであり、ポリアルキレンオキシドブロックを含んでいてもよい。
【0092】
加工性に関して、(上で定義された)ホモポリマーは、鎖内及び鎖間における強い水素結合に起因して、非常に高いガラス転移点を持つ傾向がある。ホモポリマーは、高密度の遊離カルボン酸基が存在することから、水溶性であり、pH依存性溶解曲線を示す。ホモポリマーの溶解性は、弱酸性媒体中で著しく減少する。またホモポリマーは、塩化メチレンとメタノールとの混合物のような一般に使用される有機溶剤に可溶である。水性媒体及
び有機媒体双方への溶解性から、ホモポリマーは溶媒キャスト法により加工可能であり、良好なフィルム形成物質である。またホモポリマーは、ホモポリマーが溶解しないように水抽出工程が弱酸性媒体(pH4乃至5)において実施される条件の下で、FreedらによるJ.Biomed.Mater.Res.27号、第11乃至23頁(1993年発行)に記載の塩浸出法により多孔質発泡体に加工することも可能である。またホモポリマーは、塩化ナトリウム飽和溶液が水の変わりに「非溶媒」として使用される条件の下で、SchugensらによるJ.Biomed.Mater.Res.30号、第449乃至462頁(1996年発行)に記載の相分離法により多孔質発泡体に加工することも可能である。これら出版物の開示をここに参考資料として採用する。
【0093】
上で定義されたコポリマーは、側鎖カルボン酸基を持つモノマーサブユニットを約1乃至99モルパーセント含んでなる。コポリマーの特性は、存在する遊離カルボン酸基のモル分率に大きく左右される。側鎖カルボン酸基を持つモノマー繰り返しサブユニットが20モルパーセント未満であるコポリマーは、圧縮成形及び押出成形により加工することができる。一般に、側鎖カルボン酸基を持つモノマー繰り返しサブユニットが20モルパーセント未満であるコポリマーは、水に不溶である。
【0094】
側鎖カルボン酸基を持つモノマーサブユニットが20モルパーセントを超えるコポリマーにおいては、従来の高温圧縮成形及び押出成形の際に、何らかの熱劣化が確認されている。側鎖カルボン酸基を持つモノマーサブユニットが20モルパーセントを超えるコポリマーは、水性媒体に晒されている間、(水を吸収することにより)顕著な膨潤を呈する傾向があり、約50モルパーセント以上のモノマーサブユニットが遊離カルボン酸基を保持している場合、該コポリマーは水溶性となる傾向があり、その挙動は、pH7.4リン酸緩衝液に約2mg/mL程度まで溶解する相当ホモポリマーの挙動と類似したものとなる。
【0095】
カルボン酸基の量に拘らず、本発明のあらゆるコポリマーは、良好なフィルム形成材料である。側鎖カルボン酸基を持つモノマーサブユニットが約70モルパーセント以下のコポリマーは、FreedらによるJ.Biomed.Mater.Res.27号、第11乃至23頁(1993年発行)に記載の塩浸出法、又は、SchugensらによるJ.Biomed.Mater.Res.30号、第449乃至462頁(1996年発行)に記載の相分離法により多孔質発泡体に加工することも可能である。これら出版物の開示をここに参考資料として採用する。側鎖カルボン酸基を持つモノマーサブユニットが約70モルパーセント以上のコポリマーは、水溶性となる傾向があり、相当するホモポリマーに関して記載したように多孔質発泡体に加工される必要がある。
【0096】
遊離カルボン酸基が、本発明ポリマーの分解及び吸収速度に大きな影響を与えることが確認された。このことは、遊離カルボン酸基(式VIIIに関して定義されたもの)のモル分率を制御することにより、本発明ポリマーの分解/吸収を微調整することを可能にするものである。この点は、側鎖遊離カルボン酸基を持たず、その分解/吸収速度をポリマー構造の微細な変化で容易に変化させることができない従来のポリカーボネート及びポリアリーレートを凌駕する重要な利点である。遊離カルボン酸基が分解/吸収へ及ぼす影響は、ポリカーボネートの例によって示されるように非常に劇的である。この例において、ポリ(DTEカーボネート)は、式VIIIで定義されるポリマーであり、式中x=1、f=0であり、R12は式Vで定義され、式中c=2、d=1であり、R1=CH2−CH3
である。このポリマーは生理的条件下で18ヶ月以上リン酸緩衝液中に保存される場合であっても一切の質量損失を示さないことが予め確認されている。しかしながら、約20モルパーセントのR1基が、遊離カルボン酸基で置換されると、
相当するコポリマーの薄膜は、同一保存条件の下で20週を過ぎる程度の短時間で顕著な質量損失を示す。約50モルパーセントのR1が遊離カルボン酸基で置
換されると、相当するコポリマーの薄膜はほぼ1週間以内に完全に分解/溶解する。
【0097】
本発明ポリマーの組成を利用して、細胞との相互作用を制御することも可能である。本発明のポリカーボネート又はポリアリーレートがポリアルキレンオキシドを含まない場合(式VIIIにおいてf=0)、それらは、従来のエステル保護ポリマーに比して粘着性の大きな細胞培養用成長培地となりうる。ポリマー表面に存在する遊離カルボン酸基からの負電荷が、ラット肺線維芽細胞の付着及び成長を促進し、蛋白、ペプチド及び細胞との特異性相互作用を容易にしうることが確認されている。このように該ポリマーは、組織再建のための骨格移植片として有用である。またポリマー表面は、特定のペプチドとりわけ細胞付着に大きく影響することが知られているRGDインテグリン結合配列の各種異形を含む重要なペプチドに付着するように、単純な化学的プロトコルにより変性させることも可能である。このように、選択的な細胞応答を引き出すために、遊離カルボン酸基によりポリマー表面にペプチド及び蛋白を固定する機能は、組織工学分野及び移植片設計において最も重要である。ポリマーに結合したカルボン酸基にリガンドを付着させるために必要な化学的手法は、当該分野において公知であり、とりわけNathanらによりBioconj.Chem.4号、第54乃至62頁(1993年発行)に記載されている。この出版物の開示をここに参考資料として採用する。
【0098】
他方、ポリアルキレンオキシドブロックを組み込むことによりポリマー表面の粘着性は減少する。式VIIIにおいてfが5モルパーセントを超えるポリマーは、細胞付着に対し耐性があり、血液と接触する表面におけるトロンボゲン非形成被覆として有用である。これらポリマーは細菌付着に対しても耐性がある。
【0099】
側鎖カルボン酸基を持つ本発明ポリマーは、側鎖ベンジルカルボキシレート基を持つ対応ポリマーのパラジウム触媒存在下の水素化分解により調製される。本質的に、どのようなパラジウム系水素化分解触媒も、本発明との併用に適合する。硫酸バリウムに担持されたパラジウムは、ポリマーからの分離が最も容易であることが確認されているので特に好ましい。これは高純度のポリマーを提供するのみならず、この高価な触媒の効率的再利用を可能にするものである。
【0100】
硫酸バリウムに担持されたパラジウム濃度は、約5乃至約10重量パーセントが好ましい。前記範囲より低い濃度になると、反応時間が延びるか収率が減少し、前記範囲より高い濃度は不必要な出費となる。
【0101】
反応溶媒としてジメチルホルムアミドを使用することは重要である。側鎖ベンジルカルボキシレート基を持つ出発原料ポリマーは、溶液濃度(w/v %)約5乃至約50パーセント、好ましくは約10乃至約20パーセントのジメチルホルムアミド中で溶解されるべきである。
【0102】
ポリマーは、透明な溶液が得られるまで攪拌される。次いでパラジウム触媒が添加され、その後水素源が反応混合物に供給される。
使用されるパラジウム触媒の量は、水素化分解反応を触媒するに有効な量である。ポリマーに対する元素パラジウムの絶対質量比は、元素パラジウムの表面活性程重要ではない。使用される触媒調剤量は、調剤の特異性触媒活性に依存し、これは、当該分野における通常の技能を有する者により、必要以上の実験をせずに容易に決定することが可能である。
【0103】
硫酸バリウム上に約5重量パーセントのパラジウムを含む調剤の場合、出発原料ポリマーに対して約15乃至約30重量パーセント、好ましくは約25重量パーセントの調剤を使用するべきである。触媒調剤を再利用する場合、触媒を再利用する際にパラジウムが徐
々に失活していき、使用量は所定の触媒活性を維持するように調整する必要があるので、高濃度の調剤が必要となる。しかしながら、触媒活性の損失を埋め合わせるために必要とされる触媒濃度の上昇もまた、当該分野の通常の技能を有する者により必要以上の実験をすることなく決定することが可能である。
【0104】
本質的に、パラジウム触媒存在下の水素化分解における水素源はどのようなものでも本発明との併用に適合する。例えば、反応混合物は水素ガスブランケットと共に供給される。代替的に、1,4−シクロヘキサジエンのような転移水素化分解剤を使用することもできる。転移水素化分解剤を水素ガスブランケットと併せて使用することが好ましい。反応速度は、二つの水素源が共に使用されるとき、劇的に加速することが確認された。
【0105】
転移水素化分解剤を水素源として採用するとき、出発原料ポリマーに対して化学量論的に過剰量を使用すべきである。1,4−シクロヘキサジエンの場合、過剰度は出発原料ポリマーに対して、約50重量パーセントに達し、好ましくは約10重量パーセントである。
【0106】
また水素化分解反応は、PARR水素化分解装置において水素ガスの圧力下で実施することも可能である。上記条件下においては、ベンジルエステル側鎖の除去が特に早まり、転移水素化分解剤を添加する必要がなくなる。反応を遂行する仔細な様式に拘らず、厳密に無水状態を維持することが重要である。
【0107】
反応の進行は、NMRスペクトル法により反応アリコ−ト中の出発原料ポリマーからのベンジルエステルの除去を観測することにより測定できる。反応終了後(約24乃至48時間)、固体パラジウム触媒を濾過することによりポリマーを分離し、濾液を水中に添加しポリマーを沈殿させる。次いで、ポリマーを、9:1塩化メチレン−メタノール(約10w/wパーセント乃至約20w/wパーセント)中に溶解し、エーテル中で再沈させて精製する。次いでポリマー生成物を高真空下で一定重量となるまで乾燥させる。
【0108】
側鎖カルボン酸基を持つ本発明ポリマーは、水素化分解により調製された上記ポリマーに限定されるものではない。側鎖カルボキシレートエステル基の選択的除去が可能な方法であればどのようなものでも、本発明ポリマーの調製に好適に採用することができる。例えば、ヨードトリメチルシランを使用して、エチルエステル側鎖存在下でメチルエステル側鎖を選択的に除去することが可能である。しかしながら、反応収率を向上させる点において本発明の水素化分解方法が好ましい。
【0109】
本発明ポリマーは、固体材料及び溶媒可溶性材料双方が一般に使用される分野に利用可能である。例えば、組織工学分野や医療用インプラント分野におけるポリマー製骨格としての用途があり、本発明のポリカーボネート及びポリアリーレートを使用して、血管移植片及びステント、骨板、縫合糸、移植可能なセンサー、外科的癒着防止用バリア、移植可能な薬物送達装置、組織再生用骨格のような成形物を形成したり、公知の期間内で害なく分解する治療用薬物を製造することができる。
【0110】
制御された薬物送達システムは、生物学的又は薬学的に活性な薬剤をポリマーマトリックス中に物理的に包埋又は分散させるか、本発明のポリカーボネート又はポリアリーレートと共に物理的に混合することにより調製される。本発明のポリマーは、pH依存性溶解速度を有しているので、該ポリマーは酸性環境において安定且つ非水溶性であるが、中性又は塩基性環境に晒されると急速に溶解及び分解するものであり、したがって、ある種の薬物が胃の酸性環境において分解することを防ぐための胃腸内放出用薬物被覆として有用である。
【0111】
続いて以下に記載される非限定的な実施例は、本発明の幾つかの側面を例示するものである。部及び百分率は全て、特に断りのない場合はモルパーセントであり、温度は全て摂氏温度である。米国特許第5,099,060号に開示された方法を利用してポリDTBn−DTEカーボネートを調製した。硫酸バリウム担持型5%パラジウム触媒、1,4−シクロヘキサジエン及び塩化チオニルは、フィッシャー・サイエンティフィック・カンパニー(Fisher Scientific Company)の一部門であるアクロス・オーガニクス(Acros Organics)から入手した。ポリエチレンクリコール2000(PEG2000)は、アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company)から入手した。チロシンベンジルエステルはそのp−トルエンスルホン酸塩として、シグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Company)から入手した。溶媒は全てHPLC(高速液体クロマトグラフィー)用等級である。他の試薬は全て分析用等級であり、標準的なものを使用した。
【0112】
(実施例)
実施例においては、以下の生成物同定方法を採用した。
スペクトル法
5mm管内の重水素化溶媒中10w/v%の試料に関し、バリアン・ジェミニ200(Varian Gemini 200)を使用して、1H−NMRスペクトル及び13C−
NMRスペクトルを、それぞれ199.98MHz及び49.99MHzにおいて記録した。ケミカルシフトはppmで表記する。
【0113】
分子量
分子量は、パーキンエルマー(Perkin−Elmer)製410型ポンプ、ウォーターズ(Waters)製410型リフラクティブ・インデックス・デレクター(Refractive Index Derector)及びパーキンエルマー(Perkin−Elmer)製2600型コンピュータデータステーションからなるクロマトグラフシステムを使用してGPC法により決定した。二つのPL−ゲルGPCカラム(孔径105
及び103オングストローム(10-5m及び10-7m)、長さ30cm)を直列に接続し
、テトラヒドロフラン(THF)を流速1mL/分で流した。ポリマー溶液(5mg/mL)を調製し、濾過し(0.45μmのメンブレンフィルター)、注入前の30分間平衡化させた。注入容積は25μLとした。分子量は、ポリマー・ラボラトリー社(Polymer Laboratories,Inc.)製のポリスチレン標準に対して更に補正を加えることなく計算した。
【0114】
熱分析
生成物の純度測定は、インジウムで較正したTAインストロメント(TA Instruments)製910型DSC(示差走査熱量計)で測定される融点降下を基にした。融点の測定に関しては、2.0mgの試料を、走査範囲60℃以上において昇温速度1℃/分で、一回の走査にかけた。
【0115】
原子吸光法
触媒調剤の残留濃度は、クォンティテェーティブ・テクノロジーズ社(Quantitative Technologies Inc.)製の原子吸光分光装置により測定した。
【0116】
以下の表は、以下の実施例に例示されるジフェノールに関し採用される略語を定義するものである。
脱アミノチロシル遊離酸 DT
脱アミノチロシルチロシンエチルエステル DTE
脱アミノチロシルチロシンベンジルエステル DTBn
(実施例1)
ポリDTBn50−DTE50カーボネートの水素化分解
調製
500mL丸底フラスコ内に、15gのポリDTBn−DTEカーボネート(DTBnとDTEとを1:1の割合で含む)を入れた。次いで、このフラスコに150mLの乾燥DMFを添加し、透明な溶液となるまで該混合物を攪拌した。この溶液に3.5gの5%Pd/BaSO4触媒と、7mLの1,4−シクロヘ
キサジエン(水素供与体)を添加した。該混合物を室温で攪拌した。水素ガスで充填したゴム風船を、ガス注入アダプターを使用してフラスコの口に取り付けた。該風船は必要に応じて水素ガスで補充した。約40時間の攪拌後、0.5mLの試料を抜出し、遠心分離し、次いで攪拌しながら水を添加して沈殿させた。該沈殿物を乾燥させ、1H−NMRで
解析した結果、ベンジル基が遊離酸に完全に
転化していることが判明した。反応を停止し、反応混合物を遠心分離した。0.45μmシリンジフィルターを使用して、数度に分けて上澄み液を濾過した。(焼結ガラス漏斗上に敷かれたセライト床を利用しての濾過も可能である。)透明な淡黄色の濾液が得られた。この濾液を、1.5Lの脱イオン水に攪拌機を使用して攪拌しながら添加した。(沈殿の際に高速混合機を使用して、細分割された粒子を得ることも可能である。)高速混合機内で、沈殿生成物を濾過により分離し、750mLの水で洗浄した。生成物を窒素蒸気中で16時間乾燥させ、次いで、真空炉内において室温で2日間乾燥させた。更に精製するために、該生成物を、9:1の塩化メチレン−メタノール150mL中に溶解させ、1.5Lのエーテルで沈殿させた後、上記の如く乾燥させた。
【0117】
また水素添加は、PARR水素添加装置において高水素圧(60psi≒41×104
Pa)で実施することも可能である。水素添加装置を高水素圧下で使用
する場合、転移水素供与体である1,4−シクロヘキサジエンは不要である。
【0118】
構造解析
DMSO−d6溶媒中の生成物の1H−NMRスペクトルは、以下の共鳴(δ;TMSに対するppm)すなわち8.40(br s、0.95H、DTEのNH)、8.25(br s、0.05H、DTのNH)、7.15−7.35(m、8H、芳香族のH)、4.50(m、1H、チロシンのCH)、4.03(q、1H、C2−CH3)、2.20−3.20(m、6H、DAT及びチロシンのCH2)、1.11(t、1.5H、C
2−C3)を示した。また、ポリ
DTBn−DTEカーボネートにおいてベンジル基のHに由来して5.1ppmで確認される多重線は完全に消失しており、このことはベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。二つのNHピークの強度が同じであることは、DTとDTEとが等濃度であることを示している。CH2−CH3のHに対するチロシンCHのHの比率は、二つのモノマーサブユニット毎に一つのエチルエステルがあることを示している。これらのスペクトルデータは、ポリマーがDTとDTEとを1:1の比率で含んでおり、ベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。
【0119】
同定
生成物の分子量は、移動相としてTHFを使用して、GPCにより測定した。その結果、重量平均分子量Mw=74,000ダルトン、数平均分子量Mn=47,000ダルトンであった。ポリマーのガラス転移点Tgは、DSCにより114℃であることが判明し、また分解温度(10%の分解)は309℃であった。原子吸光分析の結果、パラジウムPdの濃度は39ppmであり、バリウム濃度は検出限界(10ppm)に達していなかった。
【0120】
実施例2
ポリDTBn0.05−DTE0.95カーボネートの水素化分解
調製
DTBnとDTEとを1:19の割合で含んでなり、Mwが286,000ダルトン、Mnが116,000ダルトンであるポリDTBn−DTEカーボネート15gの水素化分解を、実施例1の場合と同様に実施した。
【0121】
構造解析
DMSO−d6溶媒中の生成物の1H−NMRスペクトルは、以下の共鳴(δ;TMSに対するppm)すなわち8.40(br s、0.95H、DTEのNH)、8.25(br s、0.05H、DTのNH)、7.15−7.35(m、8H、芳香族のH)、4.71(m、1H、チロシンのCH)、4.03(q、1.9H、C2−CH3)、2.1−3.3(m、6H、DAT及びチロシンのCH2)、1.11(t、2.85H、
CH2−C3)を示した。また、ポ
リDTBn−DTEカーボネートにおいてベンジル基のHに由来して5.1ppmで確認される多重線は完全に消失しており、このことはベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。DTのNHピークとDTEのNHピークとの比が1:19であることは、ポリマーがDT5%とDTE95%とからなることを示している。エチルエステル基に対するCH基の比率は、モノマーサブユニット20個毎にエチルエステル基19個があることを示している。これらのスペクトルデータは、ポリマーがDTとDTEとを1:19の比率で含んでおり、ベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。
【0122】
同定
生成物の分子量は、移動相としてTHFを使用して、GPCにより測定した。その結果、重量平均分子量Mw=125,000ダルトン、数平均分子量Mn=55,000ダルトンであった。ポリマーのガラス転移点Tgは、DSCにより96℃であることが判明し、また分解温度(10%の分解)は334℃であった。
【0123】
実施例3
ポリDTBn0.10−DTE0.90カーボネートの水素化分解
調製
DTBnとDTEとを1:9の割合で含んでなり、Mwが183,000ダルトン、Mnが84,000ダルトンであるポリDTBn−DTEカーボネート15gの水素化分解を、実施例1の場合と同様に実施した。
【0124】
構造解析
DMSO−d6溶媒中の生成物の1H−NMRスペクトルは、以下の共鳴(δ;TMSに対するppm)すなわち8.40(br s、0.9H、DTEのNH)、8.25(br s、0.1H、DTのNH)、7.15−7.35(m、8H、芳香族のH)、4.50(m、1H、チロシンのCH)、4.03(q、1.8H、C2−CH3)、2.1−3.3(m、6H、DAT及びチロシンのCH2)、1.11(t、2.7H、CH2−C3)を示した。また、ポリDT
Bn−DTEカーボネートにおいてベンジル基のHに由来して5.1ppmで確認される多重線は完全に消失しており、このことはベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。DTのNHピークとDTEのNHピークとの比が1:9であることは、ポリマーがDT5%とDTE95%とからなることを示している。エチルエステル基に対するCH基の比率は、モノマーサブユニット10個毎にエチルエステル基9個があることを示している。これらのスペクトルデータは、ポリマーがDTとDTEとを1:9の比率で含んでおり、ベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。
【0125】
同定
生成物の分子量は、移動相としてTHFを使用して、GPCにより測定した。その結果、重量平均分子量Mw=100,000ダルトン、数平均分子量Mn=46,000ダルトンであった。ポリマーのガラス転移点Tgは、DSCにより98℃であることが判明し、また分解温度(10%の分解)は330℃であった。
【0126】
実施例4
ポリDTBn0.25−DTE0.75カーボネートの水素化分解
調製
DTBnとDTEとを1:3の割合で含んでなり、Mwが197,000ダルトン、Mnが90,000ダルトンであるポリDTBn−DTEカーボネート15gの水素化分解を、実施例1の場合と同様に実施した。
【0127】
構造解析
DMSO−d6溶媒中の生成物の1H−NMRスペクトルは、以下の共鳴(δ
;TMSに対するppm)すなわち8.40(br s、0.75H、DTEのNH)、8.25(br s、0.25H、DTのNH)、7.15−7.35(m、8H、芳香族のH)、4.50(m、1H、チロシンのCH)、4.03(q、1.5H、C2
CH3)、2.1−3.3(m、6H、DAT及びチロシンのCH2)、1.11(t、2.25H、CH2−C3)を示した。また、
ポリDTBn−DTEカーボネートにおいてベンジル基のHに由来して5.1ppmで確認される多重線は完全に消失しており、このことはベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。DTのNHピークとDTEのNHピークとの比が1:3であることは、ポリマーがDT25%とDTE75%とからなることを示している。エチルエステル基に対するCH基の比率は、モノマーサブユニット4個毎にエチルエステル基3個があることを示している。これらのスペクトルデータは、ポリマーがDTとDTEとを1:3の比率で含んでおり、ベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。
【0128】
同定
生成物の分子量は、移動相としてTHFを使用して、GPCにより測定した。その結果、重量平均分子量Mw=115,000ダルトン、数平均分子量Mn=57,000ダルトンであった。ポリマーのガラス転移点Tgは、DSCにより106℃であることが判明し、また分解温度(10%の分解)は309℃であった。
【0129】
実施例5
DT含量が、20%、40%、60%及び100%であるポリDT−DTEカーボネートを同様に調製した。溶媒キャスト法によりフィルムを作製し、pH依存性溶解及び分解について分析した。ポリ100%DTカーボネートは、pH<5の酸性緩衝溶液中で安定であり溶解しないことが確認された。しかしながら、37℃、pH7.4のPBS10mL中では、数時間で25乃至30mgのポリマーフィルムが溶解した。溶解したポリマーの分解を、220nmにおいてUV検出器を使用して水性GPCにより追跡した。ポリマーは顕著に分解することなく溶解していることが確認された。緩衝溶液中のポリマー溶液を37℃で培養すると、ポリマーは急速に分解した。
【0130】
コポリマーの溶解及び分解速度は、DT含量の減少と共に減少した。DT含量が60%であるコポリマーは、pH7.4のPBS中で1日で溶解した。DT含量が40%であるコポリマーは、pH7.4のPBS中で2日で溶解した。DT含量が20%であるコポリマーは、pH7.4のPBS中で37℃においては溶解しなかった。
【0131】
実施例6
ポリDTBn−アジピン酸エステルの水素化分解
調製
500mLの圧力容器内に、Mwが76,800ダルトン、Mnが43,700ダルトンであるポリDTBn−アジピン酸エステル21gを入れた。次いで、この容器に200mLのDMFを添加し、透明な溶液となるまで該混合物を攪拌した。この溶液に4gの5%Pd/BaSO4触媒を添加した。該圧力容器をP
arr水素添加装置に取り付け、水素による加圧と減圧とを繰り返し、容器内の空気を水素で置換した。該容器を60psi(約41×104Pa)の水素圧下
に維持し、次いで、24時間振盪させた。アリコートを抜出し、適切な処理を施した後1H−NMRで分析した結果、ベンジル基が完全に除去されていることが判明した。反応を停止し、該反応混合物を遠心分離にかけた。上澄み液を、焼結ガラス漏斗上のセライト床を通して濾過した。高速混合器内において濾液を2.0Lの冷却された脱イオン水に添加した。沈殿した生成物を、濾過により分離し、2.0Lの水で洗浄した。生成物を窒素蒸気中で16時間乾燥させ、次いで真空炉内で室温で2日間乾燥させた。
【0132】
構造解析
DMSO−d6溶媒中の生成物の1H−NMRスペクトルは、以下の共鳴(δ;TMSに対するppm)すなわち8.26(br s、0.95H、NH)、7.00−7.09(m、8H、芳香族のH)、4.71(m、1H、チロシンのCH)、2.2−3.3(m、10H、DAT、チロシン及びCH2−CO−の
CH2)、1.74(t、4H、アジピン酸エステルのCH2−CH2)を示した
。また、ポリDTBn−アジピン酸エステルにおいてベンジル基のHに由来して5.1ppmで確認される多重線は完全に消失しており、このことはベンジル保護基が完全に除去されたことを示している。また、アミドのNHピークがポリDTBn−アジピン酸エステルにおける8.45ppmから8.26ppmにシフトしていた。また、7.35ppmにおけるベンジル基のフェニル共鳴も生成物においては消失していた。スペクトルに関しその他の顕著な変化は見られなかった。
【0133】
同定
生成物の分子量は、移動相としてTHFを使用して、GPCにより測定した。その結果、重量平均分子量Mw=36,200ダルトン、数平均分子量Mn=25,400ダルトンであった。ポリマーのガラス転移点Tgは、DSCにより106℃であることが判明し、また分解温度(10%の分解)は334℃であった。
【0134】
実施例7
遊離カルボン酸基の存在に起因するポリマー分解の予期せぬ加速
ポリDTEカーボネートは、固体であり、吸水率が3%(重量基準)に満たない極度に疎水性のポリマーであり、生理的条件下で吸収に起因する検出可能な質量損失を示さない。遊離カルボン酸基を持つモノマー単位を組み入れることにより、上記材料の特性は予想を越える程度に変化する。図1は式VIIIで定義される化合物においてxが0.5、fが0、AがC=O(カルボニル基)であるとき、コポリマーが生体外の(in vitro)生理的条件下で100時間以内に完全に吸収される(分解する)こと、並びに、式VIIIで定義される化合物においてxが0、fが0、AがC=O(カルボニル基)であるとき、遊離酸ホモポリカーボネートが生体外の(in vitro)生理的条件下で約7時間以内に完全に吸収される(分解する)ことを示している。
【0135】
遊離カルボン酸基を持つポリマーは、圧縮成形又は溶媒キャスト法によりフィルムに加工することができ、また塩浸出法又は相分離法によりスポンジ状に加工することも可能である。ホモポリマー(式VIIIで定義される化合物においてxが0、fが0、AがC=O(カルボニル基))は、pH7.4のリン酸緩衝液中で2mg/mL程度まで溶解する
。200nmでUV検出を行う水性GPCにより分析した結果、ポリマーは顕著な主鎖分解を伴わずに溶解していることが確認された。しかしながら、ひとたび溶液状態になれば、低分子量オリゴマー、最終的にはモノマーへの分解が発生した。70時間の培養後、ピーク分子量は40,000g/モルから4,000g/モルへ減少し、試料重量の約10%がモノマーで構成されていた。ポリDT0.5−DTE0.5カーボネートの場合、溶解度は0.2mg/mLまで顕著に低下した。しかしながら、このポリマー試料もまた、顕著な主鎖分解を伴わずに、溶解により殆ど吸収された。DT含量が25モルパーセント以下のポリカーボネート(式VIIIで定義される化合物においてx>0.75、f=0、AがC=O(カルボニル基))に関し、HPLCによっては溶解性は確認できなかった。
【0136】
このように本発明は、従来ポリマーを改良した分解速度の大きい新規な遊離酸型ポリマーを提供するものであり、この新規なポリマーは高度に選択的なパラジウム触媒存在下の水素化分解法によって調製される。この新規なポリマーは、組織適合型移植用生体材料において分解速度を増減させることに対する、これまで満たされなかった要求を満足するものである。
【0137】
前述の実施例及び好適な態様の説明は、限定的なものではなく例示的なものとして捕らえられるべきであり、本発明は請求の範囲によって定義されるものである。容易に理解しうることであるが、請求の範囲に記載された本発明から逸脱することなく、上記特徴に関し多数の変形及び組合せを利用することが可能である。そのような変形は発明の精神及び範囲から逸脱するものとして見なされるべきではなく、そのような変形の全ては添付の請求の範囲内に包含されるものと解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解により変化しやすいポリマー主鎖を有してなるポリマーであって、
前記ポリマーが次式
【化1】

で示される構造を持ち、ここでR9は
【化2】

および
【化3】

からなる群から選択された構造を持ち、
12が次式
【化4】

および
【化5】

からなる群から選択された構造を持ち、 R1は炭素数18までの直鎖及び分岐のアルキ
ル及びアルキルアリール基からなる群から選択されるものであるが、但し、R1はベンジ
ル基又は水素化分解によって除去される基ではなく、 xが0(ゼロ)より大きい場合、R2は水素又はベンジル基であり、xがゼロである場合、R2は水素であり、
各R7はそれぞれ独立に炭素数4までのアルキレン基であり、 Aは次式
【化6】

及び
【化7】

からなる群から選択されてなり、ここでR8は、炭素数18までの飽和及び不飽和、置換
及び未置換のアルキレン、アリーレン及びアルキルアリーレン基からなる群から選択されてなり、
a,b,c及びdがそれぞれ独立に0、1又は2であり、 kは5乃至3,000であり、 x及びfはそれぞれ独立に0から1未満の間で変動するポリマー。
【請求項2】
x及びfが共に0(ゼロ)である請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
xが0(ゼロ)より大きく、R12が水素である請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
xが0(ゼロ)より大きく、R9が次式
【化8】

で示される構造を持ち、R12が次式
【化9】

で示される構造を持ち、ここでa及びcは2、b及びdは1である請求項1に記
載のポリマー。
【請求項5】
xが0.5乃至0.75である請求項1に記載のポリマー。
【請求項6】
xが0.01乃至0.99である請求項1に記載のポリマー。
【請求項7】
xが0.5乃至0.9である請求項1に記載のポリマー。
【請求項8】
xが0.6乃至0.8である請求項1に記載のポリマー。
【請求項9】
xが0.8未満である請求項1に記載のポリマー。
【請求項10】
1が、エチル、ブチル、ヘキシル及びオクチル基からなる群から選択される請求項1に
記載のポリマー。
【請求項11】
xが0(ゼロ)より大きく、R2がベンジル基である請求項1に記載のポリマー。
【請求項12】
fが0(ゼロ)より大きい請求項1に記載のポリマー。
【請求項13】
各R7基がエチレンである請求項12に記載のポリマー。
【請求項14】
kが20乃至200である請求項12に記載のポリマー。
【請求項15】
fが0.05乃至0.95の間で変動する請求項12に記載のポリマー。
【請求項16】
請求項1に記載のポリマーを含んでなる移植可能な医療装置。
【請求項17】
前記装置の表面が前記ポリマーで被覆されてなる請求項16に記載の移植可能な医療装置。
【請求項18】
前記ポリマーと共に生物学的又は薬学的に活性な化合物を含んでなり、前記活性な化合物が治療学的に有効な部位特異性又は全身性の薬物送達を行うに十分な量で存在してなる請求項16に記載の移植可能な医療装置。
【請求項19】
前記生物学的又は薬学的に活性な化合物が前記ポリマーに共有結合してなる請求項18に記載の移植可能な医療装置。
【請求項20】
本質的に請求項12に記載のポリマーからなるシートの形態をとり、外科的癒着防止用バリアとして利用される移植可能な医療装置。
【請求項21】
請求項1に記載のポリマーで物理的に被覆された生物学的又は薬学的に活性な薬剤を含む制御された薬物送達システム。
【請求項22】
生物学的又は薬学的に活性な薬剤と物理的に混合されてなる請求項1に記載のポリマーを含む制御された薬物送達システム。
【請求項23】
請求項1に記載のポリマーから形成されるポリマーマトリックス中に物理的に包埋又は分散されてなる生物学的又は薬学的に活性な薬剤を含む制御された薬物送達システム。
【請求項24】
Aが次式
【化10】

で示される場合のポリカーボネートからなる請求項1に記載のポリマー。
【請求項25】
Aが次式
【化11】

で示され、ここでR8は炭素数2乃至12の飽和及び不飽和、置換及び未置換のアルキル
基からなる群から選択されてなる場合のポリアリーレートからなる請求項1に記載のポリマー。
【請求項26】
8が次式−CH2−C(=O)−、−CH2−CH2−C(=O)−、−CH=CH−、及び(−CH2−)zからなる群から選択されたものであって、但しzは2以上8以下の整数である請求項25に記載のポリアリーレート。
【請求項27】
8が炭素数6乃至12の置換及び未置換のアリーレン及びアルキレンアリーレン基から
なる群から選択されてなる請求項25に記載のポリアリーレート。
【請求項28】
8がフェニレン基である請求項24に記載のポリアリーレート。

【図1】
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【公開番号】特開2009−299064(P2009−299064A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179890(P2009−179890)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【分割の表示】特願2000−520191(P2000−520191)の分割
【原出願日】平成10年11月7日(1998.11.7)
【出願人】(500209516)ルトガーズ、ザ ステイト ユニバーシティ オブ ニュージャージー (6)
【氏名又は名称原語表記】RUTGERS,THE STATE UNIVERSITY OF NEW JERSEY
【Fターム(参考)】