説明

アミロイド−ベータペプチドを測定する方法

本発明は、試料の特に全血及び血漿などの血液試料中のAβ分子種を測定するための方法、並びに細胞又は動物によって産生されるAβの量を化合物が変化させるかどうかを判定する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、生体試料におけるペプチドの定量的測定のためのアッセイに関し、より具体的には、生体液におけるAβの定量的測定に関する。
【背景技術】
【0002】
Aβは、様々な数のアミノ酸残基の、一般的に、39〜43のアミノ酸からなるペプチドである。Aβの変異体又は分子種のうち、Aβ(1−40)、Aβ(1−42)及びAβ(11−42)は、アルツハイマー患者の脳に存在する老人斑の主な成分であることが発見された。また、Aβ(3−40)、Aβ(3−42)、Aβ(4−42)、Aβ(6−42)、Aβ(7−42)、Aβ(8−42)、Aβ(9−42)及び他のより短い変異体など、他のAβ変異体も、老人斑で発見されている。(Jan Naslundら、「アルツハイマー病及び正常な老化でのアルツハイマーAβアミロイドペプチド変異体の相対的な発生量(Relative abundance of Alzheimer Aβ amyloid peptide variants in Alzheimer disease and normal aging)」Proc.Natl.Acad.Sci.USA:vol.91、pp 8378−8382、1994)。エビデンスは、Aβが、多くの哺乳類の組織における多種多様な細胞で発現するグリコシル化された単一膜貫通タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP)と呼ばれる非常に大きなタンパク質の小さな断片であり、β−セクレターゼ及びγ−セクレターゼと呼ばれる2種のプロテアーゼによってAPPから切断されるペプチド断片として生じることを示している。
【0003】
科学的エビデンスは、Aβの過剰産生又はクリアランス障害が、AD老人斑の形成及びADの病因において、大きな意味を持つ役割を果たすことを示唆しており、Aβ老人斑の減少が、ADの治療のための可能性の高いメカニズムとして提唱されている。したがって、アミロイド産生を低下させるか、そのクリアランスを亢進させるためにデザインされた様々な薬剤候補が調査中である。血液などの通常利用可能な生体試料におけるAβペプチドの濃度が容易且つ正確に測定できる場合、ヒトにおいて、これらの潜在的薬剤の有効性を検証することが、非常に促進されるであろう。
【0004】
標準のELISAを使用した血漿中のAβの測定については、以下の参考文献で報告された。Mehta P.D.ら「アルツハイマー病におけるアミロイドβタンパク質1−40及び1−42の血漿濃度及び脳脊髄濃度(Plasma and cerebrospinal fluid levels of amyloid β proteins 1−40 and 1−42 in Alzheimer disease)」Arch Neurol 57、100−105(2000);Mehta P.D.ら「アルツハイマー病患者由来の脳脊髄液及び血漿にマッチしたアミロイドβタンパク質1−40及び1−42レベル(Amyloid β protein 1−40 and 1−42 levels in matched cerebrospinal fluid and plasma from patients with Alzheimer disease)」Neuroscience Letters、304、102−106(2001);及びSchupf,Nら、「成人ダウン症候群患者における血漿アミロイドβペプチド1−42の上昇及び認知症の発症(Elevated plasma amyloid β−peptide 1−42 and onset of dementia in adults with Down syndrome)」Neuroscience Letters、301、199−203(2001)。
【0005】
ELISAと組み合わせて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)濃縮を使用した血液の細胞成分におけるAβの測定については、Ming Chenら、「血小板は、ヒトの血液中におけるアミロイドβペプチドの主な供給源である(Platelets are the primary source of amyloid β−peptide in human blood)」Biochemical and Biophysical Research Communications、vol.213、No.1:96−03(1995)で報告された。
【0006】
ゲル電気泳動法と合わせてHPLCを用いたアルツハイマー病患者の脳に沈着したAβペプチドの測定については、Kaplan B.及びPras M、「アルツハイマー病患者の脳に沈着したアミロイドβペプチドの精製のためのマイクロプレパラティブゲル電気泳動及び逆相高速液体クロマトグラフィーの併用(Combined use of micro−preparative gel electrophoresis and reversed−phase high−performance liquid chromatography for purification of amyloid β peptides deposited in brains of Alzheimer’s disease patients)」J.Chromatography、769、363−370(2002)で報告された。
【0007】
質量分析により自動逆相クロマトグラフィーを検出及び定量化に結びつけるオンライン分析については、Clarke,N.J.、Crow,F.W.、Younkin,S.及びNaylor,S「オンライン二次元クロマトグラフィー質量分析によるin vivo由来アミロイドβポリペプチドの分析(Analysis of in vivo−derived amyloid−β polypeptides by on−line two−dimensional chromatography−mass spectrometry)」Analytical Biochemistry 298、32−39(2001)で報告された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、試料中の少なくとも1種のAβ分子種の量を測定する定量法を提供する。前記方法は、変性剤に試料を接触させ、その結果、試料−変性剤混合物が生じること、試料−変性剤混合物からAβ分子種を含むペプチドプールを抽出すること、ペプチドプールからAβ分子種を分離すること、及びペプチドプールから分離されたAβ分子種の量を測定することを含む。
【0009】
特定の一実施形態では、本発明は、生体液の試料中の少なくとも1種のAβ分子種の量を測定する定量法を提供し、本定量法は、塩酸グアニジンを含む変性剤に試料を接触させるステップ、固相抽出によって試料−変性剤混合物からペプチドプールを抽出するステップ、逆相HPLCによってペプチドプールからAβ分子種を分離するステップ、及びペプチドプールから分離されたAβ分子種の量をイムノアッセイによって測定するステップを含む。
【0010】
別の態様では、本発明は、細胞による少なくとも1種のAβの産生を化合物が変化させるかどうかを判定するスクリーニング法を提供する。本方法は、細胞を含む培養物に化合物を投与すること、本発明の定量法に従って培養物から試料中のAβ分子種の量を測定すること、及び本化合物が投与されている細胞を含む培養物由来のAβ分子種の量と、対照のAβ量とを比較することを含み、この場合、培養物由来の量とベースライン量の相違は、本化合物が、本細胞によるAβ分子種の産生を変化させることを示す。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、動物による少なくとも1種のAβの産生を化合物が変化させるかどうかを判定するスクリーニング法を提供する。本方法は、動物に化合物を投与すること、本化合物が投与されている動物から試料を得ること、本発明の定量法に従って試料中のAβ分子種の量を測定すること、及び本化合物が投与されている動物由来のAβ分子種の量とベースラインのAβ量とを比較することを含み、ここで、本化合物が投与されている動物由来の量とベースラインのAβ量との相違は、本化合物が、本動物によるAβ産生を変化させることを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
I.本発明の定量法
一態様では、本発明は、試料中の少なくとも1種のAβ分子種の量を測定する定量法を提供する。前記方法は、変性剤に試料を接触させ、その結果、試料−変性剤混合物が生じること、試料−変性剤混合物からAβ分子種を含むペプチドプールを抽出すること、ペプチドプールからAβ分子種を分離すること、及びペプチドプールから分離されたAβ分子種の量を測定することを含む。
【0013】
A.Aβペプチド
本発明の定量法は、あらゆるAβ分子種を測定することに適応させることができ、特に、Aβ1−37、1−40及び1−42などのアルツハイマー患者のアミロイド斑の主な成分であるAβ分子種を測定するために適する。本発明の方法は、試料中の個々のAβ分子種の量、複数のAβ分子種の総量又は複数のAβ分子種の割合を測定するために採用することができる。
【0014】
B.試料収集及び調製
本発明の定量法は、Aβが存在するあらゆる試料での使用のために採用することができる。しかし、本方法は、特に、生体試料においてAβを測定するために適している。適切な試料の例は、(1)全血、血清、血漿、尿、リンパ及び脳脊髄液などの生体液、(2)血漿、血清、血球及び血小板などの血液成分、(3)脳などの固形組織又は器官、並びに(4)例えば、293ヒト腎細胞系、ヒト神経膠腫細胞系、ヒトヒーラ(HeLa)細胞系、初代内皮細胞系(例えば、HUVEC細胞)、ヒト初代線維芽細胞系若しくは初代リンパ芽球細胞系(APP突然変異患者由来の内因性細胞を含む)、ヒト初代混合脳細胞培養物(ニューロン、星状膠細胞及び神経膠を含む)、又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系と同様に、ヒト初代神経細胞、及びトランスジェニックPDAPP動物(例えば、マウス)由来の細胞などのヒトAPP遺伝子を保有するトランスジェニックマウス由来の初代神経細胞などの、ヒト又は動物の細胞系又は初代細胞の培養物を含む。特に本発明の方法は、全血、血漿又は任意の血液成分を任意の量含む試料などのヒト及びヒト以外の動物の血液試料中のAβを測定するために適している。
【0015】
全血試料は、当技術分野で公知のあらゆる適切な方法を使用して収集することができる。血液成分の分離が必要かどうか、又は他の特定の必要性によって、抗凝固薬を血液試料収集のために使用しても、使用しなくてもよい。例えば、抗凝固薬は、血漿の分離には必要と考えられるが、血清を分離する際は、使用しなくてもよい。いかなる適切な抗凝固薬も血液採取のために使用することができる。適切な抗凝固薬の説明に役立つ実例は、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、ヘパリン及びクエン酸塩などである。血漿及び細胞成分は、遠心分離及びろ過などの当技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して全血から分離することができる。
【0016】
収集された試料は、当技術分野で公知の適切な保存条件下で、後の分析のために保存することができる。保存することが意図される試料に対しては、ドライアイス又は液体窒素などの適切な手段を使用して、収集直後に急速に凍結させ、Aβ測定を実施するまで凍結したままで維持することが望ましい。
【0017】
Aβについて測定する試料を変性剤と接触させて、試料−変性剤混合物を生じさせる。また、変性剤は、試料中の他のタンパク質、ペプチド又は分子と結合するAβペプチドの遊離を引き起こすことができることが好ましい。適切な変性剤の説明に役立つ実例には、グアニジン塩類及び尿素などがある。変性剤が塩酸グアニジン(グアニジンHCl)などのグアニジン塩であることが好ましい。
【0018】
一般に、変性剤はpH6〜8の緩衝液で調製し、溶液として使用する。変性剤を溶解させるために用いることができる緩衝液の種類は制限されない。本発明に適する典型的な緩衝液は、10mM及びpH7.2のリン酸ナトリウムである。接触させる試料の量に対する変性剤の量は、試料を変性させるのに十分である限り、本発明にとって重要ではなく、おそらく使用する変性剤、試料の性質、及び試料に存在するAβ分解酵素の活性の程度などの様々な因子に基づいて、当業者によって容易に決定できる。グアニジン塩を変性剤として用いる場合、試料−変性剤混合物でのグアニジン塩の濃度は、一般的に、約4モル〜約10モル、より好ましくは約5モル〜約8モル、及びより好ましくは約6モルから約7モルの範囲である。尿素を変性剤として用いる場合、尿素の濃度は、一般に約6モル又はそれ以上である。
【0019】
試料中のAβの分解を最小化するために、試料の収集直後に、試料を変性剤と接触させることが望ましい。後の分析のために試料を保存する場合、試料を保存装置から取り出した後に変性剤を加えてもよい。好ましくは、例えば、ボルテックスミキサー、ブレンダー又は組織ホモジナイザーという化学研究所又は生物学研究所で普通に用いられる機械的混合装置などの混合装置を用いて、変性剤を試料と完全且つ急速に混合する。組織、全血又は血球ペレットなどの固形成分を含む試料の場合、固形成分は、変性剤の存在下で、生物学研究所で通常用いられる機械的ホモジナイザー又はソニケーターによる均質化などの、適した物理的又は化学的処理に試料をかけることによって、分裂又は破壊することが好ましい。
【0020】
C.ペプチドプールの抽出
試料を変性剤と接触させた後、遠心分離及びろ過などの当技術分野で公知の従来の方法によって、細胞片、組織片及びデブリ(debris)などの、試料−変性剤混合物中の不溶性成分を混合物から除去する。他のペプチドと共に、Aβペプチドを含む得られた溶液(以下、「変性溶液」と呼ぶ)を回収し、変性溶液中のAβペプチドを抽出する。ペプチドを抽出するのに適したどんな抽出法も本発明の方法での使用に適合させることができる。本発明での使用に特に適した抽出方法の一例は、疎水性又は逆相マトリックスを使用した固相抽出(SPE)である。また、シリアル又はパラレルの逆相クロマトグラフィーシステムなどの逆相捕獲又は濃縮を使用する別の方式を使用することができる。変性溶液をペプチドの抽出にかける前に、混合物中の変性剤の全体の濃度を低下させるために、変性溶液を適切な媒質で希釈することが望ましい。グアニジン塩を変性剤として使用する場合、溶液中の変性剤の濃度を約2.5〜3.5モルへ、好ましくは3モルへ下げるというように、溶液を希釈することが好ましい。変性溶液の最終pHは、0.5%リン酸水溶液(v/v)などの酸性溶液によってpH2〜3に調整してもよい。或いは、不溶性成分の除去前に、試料−変性剤混合物を希釈してもよい。
【0021】
特定の実施形態では、変性溶液中のペプチドを逆相SPEで抽出する。逆相SPEでペプチドを抽出するための手法は、当技術分野で公知である。本発明に適したそのような方法の一例は、J Randall Slemmon(Slemmon JR、Hughes CM、Campbell GA.、Flood DC.(1994)「アルツハイマー病小脳中のヘモグロビン−由来ペプチド及びその他のペプチドの増加レベル(Increased levels of hemoglobin−derived and other peptides in Alzheimer’s disease cerebellum)」Journal of Neuroscience.14:2225−22350で述べられており、本開示を本願明細書に援用する。簡単に述べると、約2mL/分の流速で変性溶液を、50〜130オングストロームの細孔サイズを有するSPEカートリッジにC18マトリックスを含む逆相SPE装置に加える。カートリッジは、使用前に0.1%トリフルオロ酢酸水溶液で平衡化する。非結合物質は、10mLなどの適切な量の同じ緩衝液でカートリッジを洗浄することによって除去する。結合ペプチドを、0.1%トリフルオロ酢酸及び70%アセトニトリル水溶液を含む7〜10mLの溶液などの適した溶出剤の適量で溶出させ、回収する。次に、回収されたペプチド画分を、一般に生物学研究所で使用される真空システムなどの適切な方法によって乾燥させる。変性溶液から抽出したペプチドをここではまとめて「ペプチドプール」と呼ぶ。
【0022】
D.HPLCによるペプチドプールからのAβの分離
HPLC分離を調製するために、変性溶液から抽出した乾燥ペプチド画分を、適した媒質で再溶解させる。溶液中でAβペプチドを維持し、クロマトグラフィー処理と適合する限り、いかなる媒質も使用できる。ペプチド画分の溶解に模範的に適した媒質は、20%〜30%、好ましくは25%の範囲の濃度における酢酸水溶液などの酢酸を含む溶液である。媒質の量は変更させることが可能で、ペプチドの予測濃度などの当業者に公知の様々な因子を基に調整することができる。ペプチドを媒質で溶解させた後、トリフルオロ酢酸の最終濃度を0.06%〜0.10%の範囲、及び酢酸の最終濃度を5%〜12%の範囲に合わせるように適量のトリフルオロ酢酸を溶液に加える。次に、試料を当技術分野で公知の適切なプロトコールを使用する逆相HPLCによってクロマトグラフィーを行う。例えば、Aβペプチドは、Vydac218TP54カラム(4.6×250mm、300オングストローム細孔サイズ)などの、C−18逆相カラムでのHPLCによって分離することができ、この場合、移動相としてアセトニトリルを使用し、溶出剤A.0.1%TFA、B.アセトニトリル:水、80:20の0.1%トリフルオロ酢酸、25〜55%の直線勾配で70分間、流速1.0mL/分で行われる。移動相勾配は、実行時間及び異なるAβペプチド種の分解を最適化するために、変更してもよい。ペプチド画分の溶出は、214nmでの紫外吸光度によってモニタリングすることができる。インジェクターに高性能のインジェクションモジュール及び統合フラクションコレクターを装備することは有用である。
【0023】
E.Aβペプチドの定量化
HPLC分離により回収されたAβペプチドの定量化は、イムノアッセイ及び質量分析などの当技術分野で公知の方法によって達成することができる。
【0024】
本発明の一態様では、定量化のためにイムノアッセイが使用される。イムノアッセイは、検出するペプチド又はタンパク質に特異的である抗体などの結合物資を使用する免疫学的検出法であって、当技術分野で公知である。イムノアッセイの例には、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ウエスタンブロット法、ラジオイムノアッセイなどがある。
【0025】
HPLC分離により回収されるすべてのAβペプチド群の中から測定される特定のAβ分子種は、使用する特定の測定法によって決まる。イムノアッセイを使用する場合、そのような方法によって検出される特定のAβ分子種は、抗体など、使用される特定の結合物質によって決まる。例えば、Aβの結合領域に対して産生される抗体は、カルボキシ末端がアミノ酸40を越えて広がるAβを検出することができるが、アミノ末端がAβペプチドのアミノ酸no.1に達しないAβも検出することができる。また、Aβのアミノ酸33〜42に対して産生される、Aβ(1−40)と交差反応しない抗体は、Aβ41、42及び43のアミノ酸で終わるAβ分子種と結合する。したがって、結合物質の特異性を判定することは、正確にどのAβ分子種を検出しているかの判定を助ける。
【0026】
一実施形態では、Aβの検出法は、特定の1種のAβ分子種、又は試料で発見される可能性のある他のAPP断片由来の複数のAβ分子種に特異的な一抗体が関わる、一抗体ELISA法又はラジオイムノアッセイなどのイムノアッセイである。
【0027】
他の実施形態では、Aβを検出する方法は、2種の抗体が関与するイムノアッセイであって、このうち1種の抗体が1種又は2種以上の特定のAβペプチドに特異的で、もう1種の抗体が試料で発見される可能性のある他のAPP断片からAβ及びAβ断片を識別することができるイムノアッセイである。特に、Aβの結合領域に単一特異的な抗体は、他のAPP断片からAβを識別できることが発見されている。Aβの結合領域は、一般的にアミノ酸残基13−28に及ぶ、アミノ残基16及び17を中心に置くAβの領域について言及する。そのような「結合−認識」抗体は、免疫原としてその配列を有する合成ペプチドを使用して調製することができる。
【0028】
Aβを検出するための好ましいイムノアッセイ技術は、2部位又は「サンドイッチ」ELISAである。本アッセイは2種の抗体を使用し、このうち1種は、通常、固相に結合する捕捉抗体であり、別の1種は、標識レポーター抗体である(また、「検出抗体」又は「検出用抗体」とも呼ばれる)。本方法では、標的Aβ分子種を、標的Aβ分子種に特異的な捕獲抗体によって試料から捕獲し、Aβ分子種の捕獲は、Aβ分子種に特異的な標識レポーター抗体を使用して検出する。例えば、総Aβは、結合領域に対する捕獲抗体、及び例えばAβのアミノ酸1−12に対して産生される抗体など、実質的にすべてのAβ分子種を検出するはずであるレポーター抗体を使用して測定できる。或いは、総Aβは、検出抗体としてアミノ酸17−25などの結合領域に特異的な抗体を使用し、さらに捕獲抗体として、アミノ末端近くのアミノ酸に特異的な抗体を使用して測定できる。Aβを測定するための様々なサンドイッチELISA法は、当技術分野で公知であって、本発明の使用のために、適応させることができる。本発明で使用することができる総Aβを測定するためのサンドイッチELISAの一例は、Johnson−Woodらによって報告されており、ここでは、高親和性の捕獲抗体(Aβ配列のアミノ酸13−28に対して産生される抗体266)及びレポーターとしてビオチン標識されたAβアミノ末端特異的抗体3D6を使用している。(Johnson−Wood K、Lee M.、Motter R.、Hu K.、Gordon G.、Barbour R.、Khan K.、Gordon M.、Tan H.、Games D.、Lieberburg I.、Schenk D.、Seubert P.、McConlogue L.「アルツハイマー病の遺伝子導入マウスモデルにおけるアミロイド前駆体タンパク質プロセシング及びAβ42沈着(Amyloid precursor protein processing and A beta42 deposition in a transgenic mouse model of Alzheimer disease)」、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:1550−1555(1997))。また、Johnson−Woodらは、捕獲抗体mAb21F21(Aβ33−42)及びビオチン標識された3D6レポーター抗体を使用するAβ1−42特異的サンドイッチELISA、並びに捕獲抗体として抗体266及びレポーター抗体としてビオチン標識された21F12を使用するAβx−42サンドイッチELISAについて報告し、この両方の方法は本発明で使用することができる。本発明に使用できるELISAの別の例は、米国特許第6610493号に記載される。
【0029】
Aβに特異的な抗体は、当技術分野で公知であって、市販されている。また、そのような抗体を調製する方法は、当技術分野で公知である。特定のAβ分子種に特異的な抗体は、in vitro又はin vivoの技術によって産生させることができる。in vitro技術は、免疫原に対するリンパ球の曝露が関わり、一方、in vivo技術は、適した脊椎動物の宿主への免疫原の注射を必要とする。適した脊椎動物の宿主は、ヒト以外のマウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヤギなどである。免疫原を所定のスケジュールに従って動物に注射し、動物から定期的に採血する。継続的な放血は力価及び特異性を向上させる。注射は、筋肉内、腹腔内又は皮内などに行うことが可能であり、不完全フロイントアジュバントなどのアジュバントを使用できる。
【0030】
必要に応じて、所望の特異性を有する抗体を産生することができる不死化細胞系を調製することによって、モノクローナル抗体を得ることができる。そのような不死化細胞系は、様々な方法で作成することができる。都合の良いことに、マウスなどの小脊椎動物は、ちょうど述べた方法による所望の免疫原によって超免疫化(hyperimmunize)される。次に、通常、最後の免疫処置の数日後、この脊椎動物を致死させ、脾臓細胞を摘出し、脾臓細胞を不死化させる。不死化の方法は、重要でない。現在、最もよく見られる技術は、Kohler及びMilstein(1975)Nature 256:495−497によって最初に報告された骨髄腫細胞融合パートナーとの融合である。その他の技術には、EBV形質転換、裸DNA、例えば、発癌遺伝子、レトロウイルスなどによる形質転換、又は安定した細胞系の維持及びモノクローナル抗体の産生を提供する他の方法などがある。モノクローナル抗体を調製するための特異的な技術は「抗体:実験マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual)」、Harlow及びLane編集、Cold Spring Harbor Laboratory、1988に記載される。そのような抗体を調製し、そのような典型的なELISAにおいて抗体を利用する方法の例は、米国特許第6610493号に記載される。
【0031】
II.本発明のスクリーニング法
もう1つの態様では、本発明は、少なくとも1種のAβ分子種、特に、アルツハイマー患者の脳におけるアミロイド斑の主な成分であるAβ分子種の細胞による産生を増加又は減少させる化合物をスクリーニングするためのスクリーニング法を提供する。Aβの産生を減少させる化合物は、本疾患の治療における使用の候補であり、一方、Aβの産生を増加させる化合物は、本疾患を促進させる可能性があり、ヒトは避けるべきである。細胞によって産生される少なくとも1種のAβ分子種の産生を試験化合物が変化させるかどうかを判定する本発明のスクリーニング法は、化合物を細胞に投与し(通常は、培養液中で)、ここに前述の本発明の定量法を使用して細胞によって産生されたAβ分子種の量を測定し、この量が細胞によって産生された対照量より多い、少ない、又は同一か判定することを伴う。次に、その量が異なる場合、本化合物が細胞によるAβの産生に影響を及ぼしている。この量は、例えば、培養物中の細胞によって調整された培地、又はこの培養物から得られた細胞由来の抽出液などの培養物由来の試料において測定することができる。
【0032】
一般に、対照量は、本化合物がない状態で細胞によって産生されたAβ分子種を測定することによって測定する。しかし、対照量は、異なる量の化合物を細胞に投与した際に産生されるAβ量を測定し、これらの値を対照量の算出に使用する外挿法によって測定してもよい。場合によっては、化合物のAβ産生に及ぼす効果が明らかなので、比較の目的のために対照量を測定することが不必要なことがある。例えば、通常検出可能な量を産生する細胞で、化合物は所与のAβ分子種を検出不可能にさせる場合があり、このことは本化合物が存在しない場合に予測される量からAβ産生を減少させることを示している。
【0033】
一実施形態では、本発明は、化合物が細胞による総Aβの産生を変化させるかどうかを判定するスクリーニング法を提供する。本方法は、試験化合物の存在下及び非存在下で、本明細書で既に記載の本発明の定量法を使用して、細胞によって産生された総Aβを測定することを含む。
【0034】
他の実施形態では、本発明は、化合物が、細胞による総Aβの産生を変化させるより異なる程度に、細胞による所与のAβ分子種の産生を変化させるかどうかを判定するスクリーニング法を提供する。本方法は、化合物を、通常培養物中の細胞に投与することを含む。次に、細胞による所与のAβ分子種の産生及び総Aβの産生を本発明の定量法を使用して測定する。次に、所与のAβ分子種と総Aβの産生を比較する。この比較は、化合物が総Aβの代わりに、又は総Aβに加えて、所与のAβ分子種の産生を変化させるかどうかを示す。
【0035】
更なる態様では、本発明は、ヒトを含む動物における少なくとも1種のAβ分子種の産生又はレベルを化合物が変化させるかどうかを判定するスクリーニング法を提供する。本方法は、動物に試験化合物を投与し、動物から試料を収集し、本発明の定量法を使用して試料のAβ量を測定し、Aβ濃度が動物のベースラインレベルと異なるかどうかについて測定することを含む。一般に、ベースラインレベルは、対照濃度となり、本化合物のない場合の動物由来の試料におけるAβを測定することによって決定される。ベースラインレベルを測定するための試料は、化合物を動物に投与する前に、同じ動物から収集するか、試験化合物を投与しない対照動物から収集することができる。しかし、ベースラインレベルは、異なる量の化合物を動物に投与した際のAβ量を測定し、これらの値をベースラインレベルの算出に使用することによる外挿法によって測定してもよい。場合によっては、化合物のAβレベルに及ぼす効果が明らかなので、比較の目的のためにベースラインレベルを測定することが不必要なことがある。例えば、化合物は、通常検出可能な量を産生する動物からの試料で、所与のAβ分子種を検出不可能にさせる場合があり、このことは本化合物が存在しない場合に予測される量からAβレベルを減少させることを示している。
【0036】
トランスジェニック動物モデルなどの様々な動物モデルを本発明のスクリーニング法に使用することができる。動物モデルの例は、国際特許出願WO93/14200、米国特許第5387742号及び米国特許第6610493号に記載される。これらのモデルは、状態の改善及び悪化の両方でアルツハイマー病の経過に影響を及ぼす化合物の能力について、本発明の定量法においてAβの産生を変化させる化合物をスクリーニングするために有用である。トランスジェニック哺乳類モデル、より具体的には、げっ歯動物モデル、及び特に、ネズミ、ハムスター及びモルモットモデルは本使用に適している。
【0037】
特定のヒト以外のトランスジェニック動物は、細胞にPDAPP構築物を有する動物である。PDAPP構築物は、APPの発現をコードするcDNA−ゲノムDNAハイブリットに作動可能に結合させた哺乳類のプロモーターを含む核酸構築物である。このcDNA−ゲノムDNAハイブリットは、APP770をコードするcDNA配列、又はゲノムDNA配列で置換された自然発生の突然変異(例えば、Hardy変異又はSwedish変異)を有するAPP770をコードするcDNA配列を含む。このゲノムDNA配列は、APP770をコードするcDNA配列、又は自然発生の突然変異を有するAPP770をコードするcDNAの対応する領域に置換された、エクソン6及びスプライシングに十分な隣接の下流イントロンの量、KIとOX−2のコード領域及びスプライシングに十分なこれらの上流と下流のそれぞれのイントロンの量、並びにエクソン9及びスプライシングに十分な隣接の上流イントロンの量からなる。本構築物は、APP695、APP751及びAPP770をコードし、これらに翻訳されるmRNA分子を形成するために哺乳類の細胞で、転写及び差別的にスプライシングされる。特定の実施形態では、本構築物は、Hardy変異(V717F)を有するAPP遺伝子をコードするハイブリッド配列(hybrid sequence)と作動可能に結合するPDGF−βプロモーター、及びSV40ポリアデニル化シグナルを含む。PDAPP構築物の1タイプは、米国特許第6610493号で開示されている。
【0038】
有用なもう1つのヒト以外の動物モデルは、APPのSwedish変異(アスパラギン595−ロイシン596)をコードする発現可能な導入遺伝子配列のコピーを有する。一般に、本配列は、自然発生の内因性APP遺伝子(存在する場合)を通常発現する細胞で発現する。そのような導入遺伝子は、一般的にSwedish変異APPの発現カセット(expression cassette)を含み、これは結合するプロモーター及び好ましくはエンハンサーが、Swedish変異を含む異種APPポリペプチドをコードする構造配列(structural sequence)の発現を促進する。Aβレベルは、例えば、脳ホモジネートなどのあらゆる体液又は組織標本で測定できる。トランスジェニック動物は、一般的に脳組織において導入遺伝子のSwedish変異APP遺伝子(又は相同的に再結合した標的構築物)を発現する。好ましくは、一方又は両方の内因性APP対立遺伝子は、不活性化され、野生型APPを発現することができない。
【0039】
Aβレベルが測定される試料は、動物又はヒト由来の任意の体液、又は固形の組織若しくは器官の試料でよい。試料は、全血、血漿、血清、尿、リンパ液又は脳脊髄液などの体液、より好ましくは全血の試料であることが好ましい。
【0040】
試験化合物は、細胞又は動物の生存度を著しく損なうことなく、細胞培養物に加えることができるか、試験動物に投与することができる任意の分子、化合物又は物質でありうる。適した試験化合物は、小分子(即ち、分子量が1000ダルトン以下の分子)、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなどの生体高分子であると思われる。in vitroアッセイでは、一般的に試験化合物は、培地中の化合物の濃度が約1nM〜1mM、通常は約10μM〜1mMの範囲になる量で培地に投与する。全動物体を使用するin vitroアッセイでは、一般的に試験化合物は、1ng/kg〜100mg/kg、通常10pg/kg〜1mg/kgの範囲の用量(動物の体重1kgあたりの化合物量として表す)で動物に投与する。
【0041】
1種又は2種以上のAβ分子種のレベルを、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%減少させることができる試験化合物は、アルツハイマー病又は他のAβ関連症状の治療に有益であると思われる。
【0042】
III.定義
以下は、本発明を記載する際に本出願で使用される特定の用語の定義である。
【0043】
「試料」という用語は、当業者によって理解される通常の意味によって定義され、Aβの存在又は量が、本発明の方法によって判定される任意の材料を指す。材料は、液体、固体及び組織など任意の形態であることも可能である。例えば、血液の試料(又は「血液試料」)は、動物から採取した血液の一部であり、動物体の血液を表す。
【0044】
「Aβ」という用語は、アルツハイマー病(AD)、ダウン症候群、及びオランダタイプのアミロイド症を伴う遺伝性脳出血(Hereditary Cerebral Hemorrhage with Amyloidosis of the Dutch−Type:HCHWA−D)の患者における脳で発見される老人斑及び血管アミロイド沈着(アミロイドアンギオパシー)の主要な化学的成分であるペプチドのファミリーを指す。また、Aβは、「アミロイドベータタンパク質」、「アミロイドベータペプチド」、「Aベータ」、「ベータAP」、「Aベータペプチド」又は「Aβペプチド」として当技術分野で公知である。いかなる形状でも、Aβは、ベータ−アミロイド前駆体タンパク質(APP)の断片である。Aβは、様々な数のアミノ酸、一般的に39〜43のアミノ酸を含む。また、「Aβ」という用語は、APP正常遺伝子のAβ領域の突然変異から生じるAβの関連する多形型を含む、Aβの関連する多形型を指す。
【0045】
「Aβ分子種」又は「Aβ変異体」という用語は、特定のアミノ酸配列を有する個々のAβを指す。一般に、Aβ分子種は「Aβ(x−y)」として表し、式中xはAβのアミノ末端のアミノ酸番号を表し、yはカルボキシ末端のアミノ酸番号を表す。例えば、Aβ(1−43)は、アミノ末端がアミノ酸番号1で始まり、カルボキシ末端がアミノ酸番号43で終了するAβ分子種又は変異体であって、その配列は、

Asp Ala Glu Phe Arg His Asp Ser Gly Tyr Glu Val His His
15
Gln Lys Leu Val Phe Phe Ala Glu Asp Val Gly Ser Asn Lys Gly
30
Ala Ile Ile Gly Leu Met Val Gly Gly Val Val Ile Ala Thr
である。
【0046】
別のAβ分子種の例は、(1)Aβ(1−39)、Aβ(1−40)、Aβ(1−41)及びAβ(1−42)などの、アミノ末端が上記に示すAβ(1−43)のアミノ酸番号1で始まり、カルボキシ末端が異なるアミノ酸番号で終わるAβ、(2)Aβ(11−42)、Aβ(3−40)、Aβ(3−42)、Aβ(4−42)、Aβ(6−42)、Aβ(7−42)、Aβ(8−42)及びAβ(9−42)などの、アミノ酸配列がアミノ末端又は両方の末端で、上記で示すAβ(1−43)と異なるAβを含むが、それらに制限されない。
【0047】
「総Aβ」という用語は、個々のAβ分子種が識別されない、所与のアッセイにより試料で検出される複数のAβ分子種を指す。
【0048】
「全血」という用語は、細胞成分及び液状成分の両方を含むヒト又は動物由来の血液を意味する。全血は、凝固状態又は非凝固状態であってもよい。また、「全血」は、白血球又は赤血球などの細胞成分の一部又はすべてが溶解している血液を含む。また、「全血」は、少量の細胞成分又は液状成分が除去されている血液を含む。
【0049】
「血漿」という用語は、全血の液体成分を指す。使用される分離法によって、血漿は細胞成分を完全に含んでいないか、様々な量の血小板及び/又は少量の他の細胞成分を含む場合がある。血漿は、血清+凝固タンパク質フィブリノゲンなので、「血漿」という用語は、本明細書では広義に用いられ「血清」を包含する。
【0050】
「変性剤」という用語は、十分な濃度において、試料中でAβの分解を引き起こす酵素の活性を不活性化、抑制、又はさもなければ減少させることができる物質又は物質の混合物を指す。
【0051】
「接触させる」又は「接触」という用語は、Aβが測定される試料の物理的近傍に変性剤を移動させることを意味する。
【0052】
IV.実験
当業者が、前述の記載を使用して、本発明を最大限実行することができると考えられる。以下の詳細な実施例は、単に例示するものであって、本開示及び特許請求の範囲を決して限定するものではない。当業者は、直ちに適した変更を認識するであろう。
【0053】
全血及び血漿における総Aβペプチドの測定
A.材料
合成Aβ1−38、1−40及び1−42は、Bachem(King of Prussia、ペンシルバニア州)から入手し、95%の純度であった。[125I]Aβ1−40は、Amersham Biosciences(スウェーデン、ウプサラ)から入手した。マウスIgG樹脂及び他のファインケミカルは、特に明記しない限り、Sigma(ミズーリ州、セントルイス)から入手した。
【0054】
B.試料収集及び調製
血液試料は、絶食していない健常な個人から入手した。被験者を以下の重要な情報によりA〜Gで標識した。A=45歳、女性;B=42歳、女性;C=46歳、女性;D=46歳、男性;E=24歳、男性;F=35歳、女性;及びG=58歳、女性。
【0055】
全血100mLを10EDTAヴァキュテーナー(Vacutainer)チューブ(Becton,Dickinson & Company、ニュージャージー州、フランクリンレイクス)で収集し、直ちに、このうち3つを50mLのポリプロピレン遠心管(Corning)に5mLを一定分量として移して、ドライアイス上で凍らせた。また、血漿試料及び血液ペレットは、残るチューブのちの4つから、全血10mLを約1000×g、4℃で15分間遠心することによって(Beckman−Coulter、カリフォルニア州、フラートン)、調製した。血漿は、細胞ペレットから慎重に吸引して、全血で使用したものと同様の方法により、5mL又は1mLのいずれかの一定分量で凍らせた。また、血液試料10mLの細胞ペレットを直ちに同じタイプのポリプロピレン管に移し、ドライアイス上で凍らせた。全試料は−70℃で保存し、収集の1カ月以内に分析した。
【0056】
C.ELISAによる分析前の原血漿の調製
未変性血漿試料を用いる時、非特異的なバックグラウンドシグナルを下げるために、ELISAで直接分析する前に1mLの一定分量を予め吸収した。マウスのIgG−アガロース樹脂(1mg/mLゲル、Sigma、ミズーリ州、セントルイス)をpH7.5の10倍量のPBSにより2回洗浄し、エッペンドルフ微量遠心機により最大速度で15秒間遠心し、そして、ペレットを濡れた氷上で解凍した血漿に加えた(樹脂0.1mL/血漿mL)。血漿+樹脂スラリーを4℃で18時間回転し(Scientific Industries Inc.、ニューヨーク州、ボヘミア)、前述のように、樹脂を遠心分離によって除去した。デカントした上清を、2M塩化ナトリウム(ICN、カリフォルニア州、コスタメサ)を含む試料希釈液(Specimen Diluent、10mMリン酸ナトリウム、pH7.4、0.6%ヒト血清アルブミン、0.05%トリトンX405及び0.1%チメロサール)で1:3に希釈し、0.5Mの最終塩化ナトリウム濃度を得た。この材料は、ELISAを使用して、未変性血漿中のAβ含量を直接計測するために使用した(下記参照)。
【0057】
D.固相抽出(SPE)を使用したペプチドプールの抽出
凍結した全血、血漿又は血球ペレットの5mLの一定分量を、46mLの6.5M塩酸グアニジン+10mMリン酸ナトリウムpH7.2でボルテックスして解凍し、次に、ポリトロン(Polytron:PTA−20Sプローブ)を使用して、約30秒間ホモジナイズした(Brinkman Instruments Inc.、ニューヨーク州、ウェストベリー)。0.5%(v/v)リン酸49mLを加えて、変性した試料を3MグアニジンHClまで希釈した(最終pH=2.5)。次に、試料を低速で30秒間再びホモジナイズし、すべての気泡を除去するために、250mLのビンにおいて15℃、38,000gで10分間遠心した(Beckman−Coulter)。非常に少量のペレットだけが得られた。上清をデカントし、100mLのQuick Sealチューブ(Beckman−Coulter Inc.、フロリダ州、マイアミ)で、15℃、48,000×gで30分間再び遠心した。もう1つの小さなペレットが得られた。上清のペプチドは、連結された2つのC18 SepPak Plusカートリッジ(Waters、マサチューセッツ州、ミルフォード)で固相抽出によって濃縮及び脱塩した。カートリッジは、使用前に0.1%トリフルオロ酢酸水溶液で平衡化し、同じ緩衝液でカートリッジを洗浄することによって非結合物質を除去した。結合したペプチドは、0.1%トリフルオロ酢酸+70%アセトニトリル水溶液で溶出させた。試料をSpeedVacシステム(Thermo−Savant、ニューヨーク州、ホルブルック)で乾燥させた。固相抽出からのAβの回収手順は、並行した試験でI−125標識Aβ1−40ペプチドを使用して最適化させた。
【0058】
E.ペプチドの逆相分析
ペプチド画分を25%酢酸500uLで元に戻し、バス型ソニケーター(bath sonicator)で30分間超音波処理し、0.1%トリフルオロ酢酸1mLで希釈し、さらに30分間超音波処理した。エッペンドルフ微量遠心機によって最高速度で遠心した後、少量の不溶性ペレットを廃棄し、上清は、高性能のインジェクションモジュール及び統合フラクションコレクターを装備したAgilent Technologiesの1100HPLCシステム(Agilent Technologies inc.、カリフォルニア州、パロアルト)を使用した逆相HPLCによって、クロマトグラフィーを行った。ペプチド分子種の分離は、移動相としてアセトニトリルを使用し、0.1%トリフルオロ酢酸中に流速1.0mL/分で、Vydac218TP54カラム(4.6×250mm)によって実施した。70分間で25%から55%までの緩衝液B(0.1%トリフルオロ酢酸、80%アセトニトリル)の直線勾配を使用し、次いで100%の緩衝液Bにより10分間均一濃度溶出(isocratic elution)を行った。ペプチド画分の溶出は、214nmでの紫外吸光度によってモニターした。1mLの画分を収集し、SpeedVacシステムで終夜乾燥させた。乾燥させた画分は、それぞれ0.5M塩化ナトリウムを含む試料希釈液500μLで再懸濁し、1時間ボルテックスした。通常、ELISAを使用して、100μLの一定分量について、総Aβの測定を行った。HPLCからのAβペプチドの回収は、SPEの試料にI−125で標識したAβ1−40を加え、クロマト画分における放射能の産出を測定することによって判定した。
【0059】
F.ELISAによる総Aβの定量化
Aβの定量化は、Johnson−Woodら、「アルツハイマー病の遺伝子導入マウスモデルにおけるアミロイド前駆体タンパク質プロセッシング及びAβ42沈着(Amyloid precursor protein processing and A beta 42 deposition in a transgenic mouse model of Alzheimer disease)」Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:1550−1555(1997)に記載の総AβサンドイッチELISAを使用して実施した。簡単に述べると、高親和性の捕獲抗体(Aβ配列のアミノ酸13−28に対して産生される抗体266)を96ウェルELISAプレートにコーディングし、レポーターとしてビオチン標識されたAβアミノ末端特異的抗体3D6を使用した。ビオチン標識された3D6抗体及びアビジン−ホースラディッシュペルオキシターゼ(Vector Laboratories inc.、カリフォルニア州、バーリンゲーム)を、カゼインアッセイ緩衝液の代わりにSpecimen Diluentで希釈した。抗体結合は、30分間反応させることによって、Slow TMB−ELISA HRP基質(Pierce、イリノイ州、ロックフォード)でモニターした後、1M HSOによって発色を停止した。アッセイの結果は、450nm及び650nmでの吸光度の相違を測定することによって、Spectramax Plus 384分光光度計(Molecular Devices Co.、カリフォルニア州、サニーヴェール)で定量化した。HPLCで分離された試料の総Aβペプチドは、免疫陽性のピークを合計することによって測定した。そのようなすべてのピークは30分から60分の間で溶出した。
【0060】
G.結果
I−125で標識された合成ペプチドを使用することによって、Aβ1−40の回収について、抽出及び分離工程の各ステップを分析した。SPE試料からの回収は、血液が88.15(±0.85s.e.)及び血漿が94.55(±0.36s.e.)であった。HPLCからの回収は、血液が92.51(±4.94s.e.)及び血漿が93.91(±2.14s.e.)であった。これにより、全体的に血液で81%、血漿で89%が回収された。この結果は、定量化できる工程を提供するために、Aβの回収が再現性を十分に有していたことを示している。さらに、図1Aにおいて、使用したHPLCシステムが、Aβペプチド1−37、1−40及び1−42のベースライン分離(baseline−resolution)を可能にしたことを観察することができ、これは、他の方法に対して、非常に有益性で勝っている。したがって、この方法は、総Aβに対して計量可能であると同時に、これらAβ分子種の識別を可能にする。
【0061】
ヒトの被験者6例由来の全血及び血漿の試料におけるAβの測定結果を図1及び2並びに表1〜3に示す。
【0062】
図1のパネルAは、合成Aβ1−37(ピーク1)、1−40(ピーク2)及び1−42(ピーク3)の分離を示している。本結果は、RP−HPLCの溶出時間による異なるAβ分子種の分離度が、それらを識別するには十分であることを示している。Aβ1−37及び1−40は、約6〜7分で分離し、一方、Aβ1−40及び1−42は2〜3分で分離した。各ペプチドを約10ug注入した。
【0063】
図1のパネルBは、塩酸グアニジン抽出全血の典型的なHPLCプロファイル及びELISAによるAβ分子種の検出を示している。バーは、抗Aβ(1−5)抗体及び抗Aβ(17−23)抗体を使用したELISAによって、HPLC画分から定量化したAβ分子種を表す。エラーバー(誤差指示線)は、2つの測定の標準偏差を表す。
【0064】
図1のパネルCは、塩酸グアニジン抽出血漿の典型的なHPLCプロファイル及びELISAによるAβ分子種の検出を示している。バーは、HPLC画分から定量化したAβ分子種を表す。エラーバーは、2つの測定の標準偏差である。Aβ1−40の溶出位置は、I−125標識ペプチドを検出することによって確認し、ピーク2としてパネルB及びパネルCに示す。
【0065】
図2のパネルAからFは、塩酸グアニジン抽出全血からのAβペプチドの回収を示している。各HPLC画分におけるAβ分子種は、ELISAによって定量化した。Aβ1−40(2)分子種の相対的位置は、並行分離(parallel separation)における放射活性物質標識の内部標準を使用して測定し、Aβ1−37及び1−42の位置は、図1で示す分離を基に推定した。エラーバーは、2つの測定の標準偏差である。
【0066】
図2のパネルGからLは、グアニジンHCl抽出血漿からのAβペプチドの回収を示している。パネルGからLは、パネルAからFにおける被験者の全血にそれぞれ一致する。各HPLC画分におけるAβ分子種は、ELISAによって定量化した。バーは、HPLC画分から定量化したAβ分子種を表す。エラーバーは、2つの測定の標準偏差である。
【0067】
表1は、未変性の状態(即ち、変性剤との接触がない)の血漿及び変性剤(グアニジンHCl)に接触させた血漿において測定した総Aβを示す。
【0068】
表2は、共に変性剤(グアニジンHCl)に接触させた血漿及び全血から測定した総Aβを示す。
【0069】
表3は、共に変性剤(グアニジンHCl)に接触させた血漿及び結果として生じた細胞ペレットから測定した総Aβを示す。
【0070】
【表1】


表1:未変性又は変性血漿から測定したAβの比較:総Aβに対するELISAは、最初に試料を6MグアニジンHClに接触させて、又は接触させずに実施した。変性血漿は、アッセイ前に、SPE及びHPLCで濃縮させた。誤差は、21の測定(未変性血漿)又は2つの測定(変性血漿)のいずれかからの標準偏差である。両種の分析とも同じ血液由来の血漿を使用した。**は、未変性血漿と変性血漿の間のAβペプチド値における極めて有意な差を意味する。t検定は、2方向の独立パラダイム(2−way independent paradigm)を使用したOrigin統計グラフィックスソフト(Origin Statistical Graphics Software)によって実施した。
【0071】
【表2】


表2:血漿及び全血から検出された総Aβペプチドの比較。全試料は、試料を6MグアニジンHClに接触させることによって変性させた。SPEからの濃縮試料を逆相HPLCで分離させた。血漿試料は、本研究で分析される全血から調製した。誤差は、2つの測定の標準偏差である。**は、未変性血漿と変性血漿の分析間のデータセットにおける極めて有意な差を意味する。t検定は、2方向の独立パラダイムを使用したOrigin統計グラフィックスソフトによって実施した。この比較は、血漿画分で回収されるAβペプチド量を推定するために、血漿量を全血の50%(即ち、全血2mLから血漿1mLが生じる)と想定した。
【0072】
【表3】


表3:血漿及び結果として生じた細胞ペレットでのAβの測定:血漿及び細胞ペレットは、被験者A、C、D、E及びFから収集した全血から分離した。血漿をデカントした後、細胞ペレットをドライアイス上に置いた。試料を6MグアニジンHClで変性させ、固相抽出(SPE)によって脱塩した。SPEからの濃縮試料を逆相HPLCで分離させた。Aβは、HPLCで測定した。誤差は、2連での測定結果からの標準偏差である。B.D.=検出限界未満
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】パネルA:本システムを使用し、本出願の実験のセクションに記載される条件下での合成Aβ1−37(ピーク1)、1−40(ピーク2)及び1−42(ピーク3)の分離を示す典型的なHPLCプロファイルを示す図である。パネルB:塩酸グアニジン抽出全血の典型的なHPLCプロファイル及びELISAによるAβ分子種の検出を示す図である。パネルC:塩酸グアニジン抽出血漿の典型的なHPLCプロファイル及びELISAによるAβ分子種の検出を示す図である。
【図2】パネルAからF:塩酸グアニジン抽出全血からのAβペプチドの回収を示している棒グラフである。パネルGからL:塩酸グアニジン抽出血漿からのAβペプチドの回収を示している棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)変性剤に試料を接触させるステップであって、その結果、試料−変性剤混合物が生じるステップ;
(b)試料−変性剤混合物由来のAβ分子種を含むペプチドプールを抽出するステップ;
(c)ペプチドプールからAβ分子種を分離するステップ;及び
(d)ペプチドプールから分離されたAβ分子種の量を測定するステップ;
を含む、試料における少なくとも1種のAβ分子種の量を測定する方法。
【請求項2】
変性剤がグアニジン塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グアニジン塩が塩酸グアニジンである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
試料−変性剤混合物における塩酸グアニジン濃度が約3.0モルから約6.5モルである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
試料−変性剤混合物における塩酸グアニジン濃度が約3.5モルから約6.0モルである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ペプチドプールを抽出するステップが、固相抽出によって実施される請求項3に記載の方法。
【請求項7】
ペプチドプールからAβを分離するステップが、高速液体クロマトグラフィーによって実施される請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)において、ペプチドプールが、酢酸を含む水溶液で溶解される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Aβの量がイムノアッセイによって測定される請求項3に記載の方法。
【請求項10】
イムノアッセイがサンドイッチELISAである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
試料が生体液の試料である請求項5に記載の方法。
【請求項12】
生体液が全血、血清、血漿、尿、リンパ液及び脳脊髄液から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
生体液が全血である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
試料が、動物、細胞培養物、組織培養物、又は器官培養物由来の組織又は器官の試料である請求項3に記載の方法。
【請求項15】
(a)塩酸グアニジンを含む変性剤に試料を接触させるステップであって、その結果、試料−変性剤混合物が生じるステップ;
(b)固相抽出によって試料−変性剤混合物からペプチドプールを抽出するステップ;
(c)逆相HPLCによってペプチドプールからAβ分子種を分離するステップ;及び
(d)ペプチドプールから分離されたAβ分子種の量をイムノアッセイによって測定するステップ;
を含む、試料における少なくとも1種のAβ分子種の量を測定する方法。
【請求項16】
(a)細胞を含む培養物に化合物を投与するステップ;
(b)請求項1に記載の方法に従って培養物由来の試料中のAβ分子種の量を測定するステップ;
(c)化合物が投与されている細胞を含む培養物由来のAβ分子種の量と、対照のAβ分子種の量とを比較するステップであって、培養物の量と対照の量の相違は、化合物が細胞によるAβの産生を変化させることを示すステップ;
を含む細胞によって産生される少なくとも1種のAβ分子種の産生を変化させる化合物を特定する方法。
【請求項17】
培養物由来の試料におけるAβ種の量が、請求項15に記載の方法に従って測定される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
培養物がヒト初代神経細胞、又はPDAPP構築物を有するトランスジェニック動物由来の初代神経細胞を含む請求項16に記載の方法。
【請求項19】
培養物が293ヒト腎細胞系、ヒト神経膠腫細胞系、ヒトヒーラ細胞系、初代内皮細胞系、ヒト初代線維芽細胞系、初代リンパ芽球細胞系、ヒト混合脳細胞、又はチャイニーズハムスター卵巣細胞系を含む請求項16に記載の方法。
【請求項20】
(a)動物に化合物を投与するステップ;
(b)動物から試料を得るステップ;
(c)請求項1に記載の方法に従って試料中のAβ分子種の量を測定するステップ;及び
(d)化合物が投与されている動物由来のAβ分子種の量とベースラインのAβ量とを比較するステップであって、化合物が投与されている動物由来の量とベースライン量との相違は、化合物が、動物により産生されたAβ分子種のレベルを変化させることを示すステップ;
を含む、動物による少なくとも1種のAβ分子種の産生を変化させる化合物を同定する方法。
【請求項21】
動物がヒトである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
動物がヒト以外の動物である請求項20に記載の方法。
【請求項23】
動物がヒト以外のトランスジェニック動物である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
トランスジェニック動物の細胞がPDAPP構築物を保有している請求項23に記載の方法。
【請求項25】
トランスジェニック動物の細胞が、APPのSwedish変異をコードする発現可能な導入遺伝子配列のコピーを保有する請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−519988(P2008−519988A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541375(P2007−541375)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/041029
【国際公開番号】WO2006/053251
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【出願人】(503007313)イーラン ファーマスーティカルズ、インコーポレイテッド (22)
【Fターム(参考)】