アミロイドベータ−ペプチドの凝集を低減する化合物
【解決課題】アミロイドーシスを治療する化合物および方法に関する。
【解決手段】Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の消失を抑制することが可能な化合物が開示される。そのような化合物を試験する方法も、アルツハイマー病および関連障害を治療または予防する化合物の使用法と同様に開示される。
【解決手段】Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の消失を抑制することが可能な化合物が開示される。そのような化合物を試験する方法も、アルツハイマー病および関連障害を治療または予防する化合物の使用法と同様に開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドーシスを治療する化合物および方法に関する。
関連出願への相互参照
【0002】
本出願は、2005年2月28日出願の米国特許出願第60/657,339号に対する優先権を主張する。なお、この出願の全体を参照することにより本明細書に含める。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、特異的タンパクが、その天然状態から、アミロイドと呼ばれる規則的な原線維の束に変形する病態の一例である。アミロイド原線維は、β−ストランド立体配座を持つポリペプチド鎖から構成され、ポリペプチド鎖は、原線維の長軸に対して垂直に走るβ−シートを形成する(Serpell, 2000, Biochem. Biophys. Acta 1502:16−30; Makin et al., 2005, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:315−320, 2005年1月3日発行)。一般に、ADと関連するアミロイドプラークには、40または42残基のAβペプチドが存在し、Aβ原線維の形成が、この破壊的疾患の原因の一部と考えられている(Selkoe, 2000, J. Am. Med. Assoc. 283, 1615−1617)。死後における、AD患者の大脳皮質におけるAβの量は、病気の進行と相関しており、このことはさらに、Aβが正当な治療標的であることを示す(Naeslund et al., 2000, J. Am. Med. Assoc. 283, 1571−1577)。Aβは、大型の膜貫通タンパク、アミロイド前駆体タンパク(APP)のタンパク分解酵素による切断によって生成される。APPの膜貫通ヘリックスは、Aβにおける残基29に対応する位置からスタートすることが予測されている。β−セクレターゼによる切断がAβペプチドのN−末端を生成し、膜連結性のC−末端根部を残し、この根部がγ−セクレターゼによって切断され、遊離Aβを生成すると考えられている。Aβの残基16のC−末端のα−セクレターゼによる切断は、非アミロイド性ペプチドを生成する(Esler and Wolfe, 2001, Science 293:1449−1454; Selkoe, 1999, Nature 399:A23−A31)。遺伝型の若年性ADは、APPの三つの領域における点突然変異と関連する。これらの領域の内二つは、AβのN−およびC−末端の直近に位置し、Aβ(1−40)および/または比較的アミロイド生産性を持つ変異Aβ(1−42)の生産上昇と関連する傾向がある。第3領域は、Aβの位置Ala21、Glu22、およびAsp23を含むが、これらの残基の突然変異と関連する病原機構は必ずしも全て理解されてはいない(Haass and Steiner, 2001, Nat. Neurosci. 4:859−860)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Aβの不一致α−ヘリックスの一面に対して構造的に相補的であり、Aβの該不一致ヘリックスに結合し、安定化する化合物(リガンド)を設計した。これらのリガンドの内のあるものが、Aβアミロイド原線維の形成を抑える能力を持つことが試験によって確かめられた。このようなリガンドは、アルツハイマー病(AD)、または関連障害の治療に有用である可能性がある。さらに、例えば、アルツハイマー病と関連するAβペプチド、および、そのようなペプチドを含むタンパクのα−ヘリックス構造の消失を抑制することのできる化合物も含まれる。従って、本発明は、AβペプチドのLys16の側鎖、AβペプチドのHis13の側鎖、AβペプチドのGlu23の側鎖、AβペプチドのPhe19の側鎖、AβペプチドのPhe20の側鎖、およびAβペプチドのAsp22の側鎖の内の少なくとも二つと相互作用を持つことが可能な化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩に関する。ある局面では、化合物は、前記基の内の少なくとも3個(例えば、基の内の少なくとも4個)と相互作用を持つことが可能である。ある局面では、化合物は、Aβペプチドにおけるα−ヘリックスの低下を抑えることが可能である。
【0005】
もう一つの実施態様では、本発明は、式1の化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩および水和物を提供する。すなわち、
【0006】
【化1】
式1
上式において:
n1は、(CH2)1-4であり;
n2は、(CH2)1-4であり;
n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、−C=NH(NH2)、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【0007】
ある実施態様では、化合物は、リガンド2、リガンド2a−2eの内の任意の一つ、リガンド3、リガンド4、リガンド5、リガンド6、リガンド7、リガンド7a、リガンド8、リガンド8a、リガンド9、リガンド10、リガンド10a、リガンド11、リガンド12、リガンド12a、リガンド13、リガンド14、リガンド14a、リガンド15、リガンド16、リガンド17、リガンド18、またはリガンド19である。
【0008】
ある場合には、本発明は、本明細書に提示される化合物の内の少なくとも一つ、および製薬学的に受容可能な賦形剤、希釈剤、または担体を含む組成物に関する。
【0009】
本発明はまた、α−ヘリックス形を持つAβペプチドの消失を抑える方法に関する。方法は、本明細書に提示するやり方で、Aβペプチドを式1のリガンドと接触させることを含む。別の実施態様では、本発明は、β形を持つAβの量を下げる方法に関する。方法は、Aβペプチドを、本明細書に提示するリガンドと接触させることを含む。
【0010】
さらに別の実施態様では、本発明は、Aβ凝集体の形成を低減する方法に関する。方法は、Aβペプチドを、本明細書に提示するリガンドと接触させることを含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの実施態様では、本発明は、Aβペプチド関連障害を治療するための候補化合物となる化合物を特定する方法であってもよい。方法は、本明細書に提示される化合物(リガンド)を準備すること、Aβペプチドを該化合物に接触させること(それによってサンプルを準備すること)、サンプルにおける、αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を定量すること、αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を基準と比較することを含み、比較は、基準に比べ、サンプル中のαヘリックス形のAβペプチドの量が増しβ形のAβペプチドの量が減った化合物が候補化合物であるとして行われる。ある場合には、β形のAβペプチドの量は、チオフラビンTを用いて定量される。ある局面では、Aβペプチドはインビトロで調製される。ある場合には、Aβペプチドは、動物、例えば、マウス、ラット、ショウジョウ蝿、またはヒトの体内で調製される。
【0012】
もう一つの実施態様では、本発明は、Aβペプチド関連障害を患う危険性のある、または現に患う被験者を処置する方法に関する。方法は、Aβペプチド関連障害(例えば、アルツハイマー病、ダウン症候群、ボクサー認知症、または重度の頭部外傷)を患う危険性のある、または現に患う被験者を特定すること、および、本明細書に提示される化合物の治療有効量を、該被験者に投与することを含む。本発明のある局面では、被験者は哺乳動物(例えば、ヒト)である。
【0013】
「Aβペプチド」とは、一般に、アミロイド前駆体タンパク(APP)の不一致ヘリックスを含むAβペプチドである。一般に、Aβペプチドは、Aβ1−39とAβ1−43の間(例えば、Aβ1−40、またはAβ1−42)、Aβ(12−24)、Aβ12−28、またはAβ(14−23)となる場合がある。一般に、インビトロアッセイに使用されるAβペプチドは、β形を形成し、次いで原線維を形成するAβペプチド、例えば、Aβ(1−42)である(例えば、Selkoe, 2000, JAMA 283:1615−1617)。
【0014】
「不一致ヘリックス」とは、αヘリックスを形成することが可能であるが、同時にβストランドを形成することも可能であると予測されるアミノ酸配列である。不一致ヘリックスは、ペプチドの二次構造を予測する構造分析プログラムを用い、特に、実験的(例えば、NMR、または結晶学)に決定されたα−ヘリックスのアミノ酸配列を分析することによって、さらに、予測されるβ−ストランドのアミノ酸配列を分析することによって特定することが可能である。実験的にα−ヘリックスを形成することが決定され、かつ、β−ストランドを形成すると予測される配列は不一致ヘリックスである。不一致ヘリックスアミノ酸配列は、単離ペプチドであってもよいし、またはポリペプチドの一部であってもよい。不一致ヘリックスは、野生型または突然変異ポリペプチドにおいて天然に生じる可能性がある。不一致ヘリックスはまた、合成アミノ酸配列として現れてもよい。一般に、不一致ヘリックスアミノ酸配列は、長さが少なくとも約6アミノ酸長である。このアミノ酸配列は、もっと長くてもよく、例えば、7、8、9、10、11、12、14、16、18、22、24、または26アミノ酸長であってもよい。不一致ヘリックスはまた、α−ヘリックスを形成することが予測されるか、実験的に形成することが示され、かつ、β−ストランドを形成することが予測されるか、実験的に形成することが示される配列を特定することが可能な他の方法を用いて決定することも可能である。
【0015】
「ポリペプチド」とは、長さまたは翻訳後修飾と無関係に、アミノ酸鎖を意味する。
【0016】
予測された不一致ヘリックスを含むポリペプチドの「アミロイド非形成形態」とは、α−ヘリックスが、不一致アミノ酸配列の主要立体配座となるタンパクの形態である。不一致ヘリックスにおけるα−ヘリックス立体配座を促進する化合物は、アミロイド形成の阻止に有用である。アミロイド非形成形態は、対応配列(例えば、対立遺伝子)よりも高頻度でα−ヘリックス立体配座を持つことが予測される不一致配列の形態となりうる。
【0017】
アルツハイマー病と関連する障害は、APPタンパク由来のペプチドが存在することが証明された、または存在することが疑われる障害である。そのような障害としては、ボクサー認知症、ダウン症候群、および重度の頭部外傷が挙げられる。
【0018】
別様に定義されない限り、本明細書で用いられる技術用語および科学用語は全て、本発明の属する当業者によって通常理解されるものと同じ意味を持つ。本発明を実行するのに好適な方法および材料が後述されるが、本明細書に記載されるものと類似の、または等価的な方法および材料も、本発明の実行または試験において使用することが可能である。本発明において引用される、特許出願、特許、および他の参考文献も、引用することにより本明細書に含める。材料、方法、および実施例は単に例示的なものであって、限定的であることを意図するものではない。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
Aβ不一致ヘリックスの安定化は、β立体配座ペプチドの量を減らし、従って形成されるアミロイドの量を減らすことが可能である。Aβ不一致ヘリックスに結合することが可能な化合物を、分子モデル化法を用いて設計した。Aβの残基Lys16、Phe20、Asp22、Glu23、およびHis13の側鎖を、所望のリガンドによって標的とした。簡単な分子運動力学シミュレーションにおいて、前記リガンドの内の任意のものをAβに1:1複合体として結合させると、Aβ不一致ヘリックスの立体展開を遅らせるか、阻止する。この相互作用は、いくつかのやり方で実験的に確認された。リガンド/Aβモル比が1から10の範囲においてリガンドをAβに付加すると、それは下記をもたらすことが判明した。すなわち、(i)リガンドのトリプトファン蛍光の変化によって確かめられるようにAβ−リガンド複合体の形成(図12)、(ii)円形複屈折性分光光度測定によって調べられるようにAβのヘリックス含量の増大、および、(iii)チオフラビンT蛍光の蓄積によって調べられるようにAβの原線維形成の低下、である。トリフルオロエタノールの付加によってα−ヘリックスの含量を増すと、それは、Aβ−リガンド結合の増大をもたらし、リガンドが、その設計から予測されるような働きをすることを示した。従って、Aβ不一致ヘリックスの安定化は、原線維形成(fAβ)の減少をもたらす、ヘリックス結合リガンドをAβに提示することによって実現することが可能である。このような化合物は、インビボにおけるAβ凝集および原線維形成の抑制にも有用であり、従って、そのような化合物は、Aβの凝集を下げることが望ましい病態、特に、アルツハイマー病(AD)および関連障害の治療のための候補薬となる。一般に、本明細書に記載される化合物は、Aβペプチドをα−ヘリックス立体配座において安定化することが可能である。安定化されたAβペプチドは、リガンドを欠くペプチドに比べて、α−ヘリックス立体配座を取る確率が増える。
【0021】
従って、ある局面では、本発明は、Aβペプチド構造を安定化する化合物、例えば、fAβの蓄積と関連する疾患、例えば、アルツハイマー病を治療するための候補薬を設計し特定する方法に関する。本発明はまた、該障害を患う患者、または該障害を患う危険性のある患者に対し該化合物を投与することによって上記障害を治療または予防する方法に関する。
【0022】
本発明は、式1の化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩および水和物を提供する。すなわち、
【0023】
【化2】
式1
上式において:
n1は、(CH2)1-4であり;
n2は、(CH2)1-4であり;
n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、−C=NH(NH2)、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【0024】
下記は、好適なR基の非限定的例である。
【0025】
一つの実施態様では、R1は、−C=N(NH2)である。
【0026】
一つの実施態様では、R2は、−C(O)OHである。
【0027】
一つの実施態様では、R3は、−C(O)OHである。
【0028】
一つの実施態様では、R4は、アミンである。
【0029】
一つの実施態様では、R5は、トリプトファンである。
【0030】
一つの実施態様では、R6は、−NHC(O)CH3である。
【0031】
本明細書に記載される化合物、例えば、式1および式2(リガンド2)の化合物合成の全体的スキームを図29に示す。この合成は、一般に、集合、および保護/脱保護のためのペプチドおよび一般的アミド合成法を用いて実行される。R1−9は、H、官能基、保護基、天然または非天然のアルファ、ベータ、ガンマ、およびデルタアミノ酸等を持つか、または持たないアルキル基、あるいは、これらの官能基の内のいくつかを含む基、であってもよい。X=OH、またはその塩、または、他の官能基(例えば、活性エステル、ハロゲン誘導体等)が、新たな結合を作製するために用いられてもよい。「結合」は、従来技術で一般的に知られる、数多くの方法および縮合剤の内の任意のものを用いて実行が可能である。建造ブロックの集合の順序も変更が可能である。
【0032】
スキームの中に描かれるアミド結合も、エステル結合およびN−アルキル化アミド結合によって置換され、本明細書に記載される方法と類似の方法によって合成されてもよい。描かれるアルファCH基のどちらかの側に、さらにメチレン、またはメチン置換基を付加する建造ブロックも、類似の技法を用いて組み立てることが可能である。描かれているアルファCH基のHが、アルキル基、またはアルキル置換基によって置換された場合でも合成を実行することが可能である。
【0033】
化合物を合成するための補足的ガイダンスが実施例において与えられる。
α−ヘリックス立体配座を安定化する化合物の特定
本発明は、化合物がADを治療するのに有用であることを示す、下記の特徴の内の少なくとも一つについて設計化合物をスクリーニングする方法を含む。その特徴とは、Aβペプチドのα−ヘリックス形の量を安定化または増大させる能力、Aβペプチドのβ形の量を減少させる能力、Aβペプチドのβ形の蓄積を遅らせる能力、Aβペプチドの原線維形成量を抑制する能力、すなわち、Aβペプチドサンプルにおける不一致ヘリックスの量に対する化合物の作用、である。補足的特徴としては、AD様病理に対して感受性を持つ、または、Aβ含有構造の形成に対して感受性を持つ動物における、Aβ原線維またはアミロイドプラークの蓄積速度または合計量における減少が挙げられる。さらに、ADまたは関連障害の症状の蓄積速度の低下(例えば、記憶喪失速度の低下)について、動物またはヒトを評価してもよい。本明細書に記載される化合物によって治療された動物またはヒトにおいて、症状の蓄積速度に減少が見られた場合、それは、その化合物が、ADまたは関連障害の治療に有用であることを示す。
【0034】
Aβ不一致ヘリックスの量は、特定の化合物の存在下および不在下において、Aβポリペプチドを含むサンプルにおけるα−ヘリックスの量を測定することによって定量することが可能である。α−ヘリックス、または別態様としてβ−構造の存在を検出する好適な方法があれば、それがどんなものであっても、試験化合物について、それら化合物のAβ不一致ヘリックスのα−ヘリックスを安定化する能力についてスクリーニングするのに使用することが可能である。このような方法として、NMR(例えば、Johansson et al., 1994, Biochemistry 33:6015−6023)、円偏光二色性(CD)(Johansson et al., 1995, FEBS Lett. 362:261−265; Wang, 1996, Biochim. Biophys Acta 1301:174−184)、およびフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR; Vandenbussche, 1992, Biochemistry 31:9169−9176)が挙げられる。α−ヘリックス安定性は、試験化合物の存在および不在下に、例えば、エレクトロスプレイ(ES)質量分析を用いて得られる、ペプチド/タンパクの可溶性α−ヘリックス形の量の減少率(例えば、α−ヘリックス形の半減期)から評価することが可能である。水素対重水素(H/D)交換質量分析と組み合わせた、ES、またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析も、不一致ヘリックスにおけるα−ヘリックス立体配座の存在および/または安定性に関するアッセイに使用することが可能である。この方法では、不一致ヘリックス含有ポリペプチドの可溶形におけるH/D交換の反応速度が試験される。
【0035】
特定残基におけるH/D交換速度は、NMRによって定量することが可能である。そのようなNMR分析は、一般に、高濃度の純粋サンプル、および測定のために長時間を必要とし、ある種のポリペプチドに関する分析を困難にする。これらの問題は、質量分析を適用することによって一部は解決される。ESまたはMALDI質量分析のいずれかを用いると、H/D交換レベルを低濃度で監視することが可能である。分析時間は短くなり、ペプチド混合物を分析することが可能となる。従って、タンパク混合物のH/D交換の相対速度を調べるには、質量分析が特に有用な技術である(Hosia et al., 2002, Mol. Cell. Proteomics 1(8):592−597)。
【0036】
質量分析は、α−ヘリックスの形成に与る相互作用のように、タンパクに関与する非共有的相互作用を研究するのに使用が可能な技術である。質量分析を用いて非共有的相互作用を直接調べるには、タンパクができるだけ非変性状態にあることが重要である。これは、質量分析のためのイオン化法としてMSを用いることによって実現が可能である。ESは、有機共溶媒無添加の状態で生理的pHの水溶液として存在するタンパクを噴霧することを含む(Pramanik et al., 1998, J. Mass Spectrom. 33:911−920)。その天然の状態におけるタンパクの分析にESを用いる際に必要なもう一つの要件は、ESインターフェイス内部の脱集合電圧の慎重な調節である。過度の電位差は、衝突による解離、または、非共有的連結の破壊をもたらす可能性がある。
【0037】
ES−質量分析
非共有的相互作用、および三次元構造および安定性に関する情報を得るために、質量分析がH/D(水素/重水素)交換と組み合わせて用いられる(Smith et al., 1997, J. Mass Spectrom. 32:135−146; Mandel et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:14705−14710)。ES−質量分析では、四重極飛行時間型(TOF)装置(Micromass, マンチェスター、英国)を用いてスペクトラムが記録される。装置には、4重極質量フィルターから成る、直角サンプリング・ナノESインターフェイス(Z−スプレイ)、6極衝突セル、および、リフレクトロンを備えた直角配置TOF分析器が設けらる(Morris, 1996, Rapid Commun. Mass Spectrom. 10:889−896)。サンプルは、金でコーティングしたホウケイ酸ガラス毛細管(Protana A/S、デンマーク)から噴霧される。衝突性解離(CID)のために、適切な衝突ガス、例えば、アルゴン(AGA、スウェーデン)が用いられる。Aβペプチドの各種形態の、溶液から消滅する(例えば、α−ヘリックス形の消滅)相対速度を定量するために、好適な獲得範囲、例えば、m/z 135−4000が選択される。5秒間持続の300走査を各時点で記録し、合わせて一つのスペクトラムとする。単一プロトン化、および複数プロトン化、例えば二重および三重プロトン化分子の合計量に対応するイオン電流が、最大エントロピーソフトウェア(Micromass)によって求められる。ポリペプチドの構造を確かめるためにCIDスペクトラムが記録される。H/D交換では、ES質量分析スペクトラムを連続記録することによってH/D交換反応の速度が監視される。特定の時点で、対象とするタンパクのH/D交換形に対応するイオンに対しCIDを実施する。交換されたプロトンの場所は、得られた断片化スペクトラムによって示される。
【0038】
MALDI質量分析
MALDI質量分析スペクトラムは、例えば、陽イオンモードで操作されるVoyager−DE.TM.PRO Biospectrometry Workstation (PerSeptive Biosystems Inc.)で記録することが可能である。H/D交換スペクトラムの記録のために、CH3CN/D2Oの溶液から調製し、あらかじめ乾燥させたα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(20μg)を含む表面(例えば、100ウェルプレート)において重水化または非重水化ポリペプチドを乾燥させる。装置は335nmレーザーを備え、遅延抽出採用の直線モードで操作する。適切な獲得範囲(例えば、m/z 3500−4000)を使用し、外部較正(例えば、m/z 3660.19と5734.58の間)を用いる。スペクトラムは、獲得数(例えば、400回の獲得数)の平均として計算され、一般に、各時点について3重サンプルが記録される。各時点において重水によって交換されたプロトンの数は、重水化溶媒におけるペプチドの質量から、プロトン化溶媒におけるペプチドの質量を差し引くことによって計算される。これは、例えば、現在進行中の分子内ジスルフィド形成を補正するために行われる。このような分子内ジスルフィド形成は、ES CIDによって観察が可能である。ESと組み合わせたMALDIによって測定されるH/D交換速度を比較する実験では、同一の溶液をMALDIプレートに滴下し、ES毛細管から噴霧する。
【0039】
減衰曲線から速度定数を求める
質量分析データから速度定数の推定が、例えば、Matlab.RTMバージョン5.3(Mathworks, Natick、マサチューセッツ州、米国)の非直線的最小二乗回帰を、Mathworks Optimization Toolboxのルーチンに従って用いることによって実行される。絶対濃度は、データからは得られないが、ヘリックス展開は一次反応なので、これは要求されない(例えば、Szyperski, 1998, Protein Sci. 7:2533−2540)。その代わりに、非直線的回帰では、イオンカウントが、この計測値は各ペプチドについて濃度に比例すると仮定して、濃度単位として用いられる。速度定数の、僅かな標準偏差が、目的関数の標準的直線化工程によって計算される(Seber et al., 1988, 「非直線回帰(“Non−linear Regression”)」、John Wiley & Sons, New York)。
【0040】
試験化合物のアッセイ
本明細書に記載される化合物は、不一致ヘリックスを含むAβペプチドのα−ヘリックス形を安定化する能力についてアッセイされたことがある、あるいは、これからアッセイすることが可能である。本明細書に記載された方法が、そのようなアッセイに使用することができる。典型的には、試験化合物は、ポリペプチドを含む溶液に加えられ、ヘリックス構造の含量、または、ペプチドのα−ヘリックス形が溶液から消失する速度が、例えば、CD、FTIR、NMR分光光度計測、ES−質量分析、またはMALDI質量分析によって定量される。原線維形成に及ぼす試験化合物の作用も後述のようにして定量される。試験化合物の存在下および不在下における、ヘリックス含量およびα−ヘリックスの消失速度が定量される。試験化合物の存在下における、ヘリックス含量の増大、および/または溶液からα−ヘリックスが消失する速度の低下は、該試験化合物が、ADまたは関連障害を治療するのに有用な候補化合物であることを示す。
【0041】
別態様として、Aβペプチド含有不一致ヘリックスを含む溶液を、試験化合物の存在下に一定時間インキュベートした後、α−ヘリックスの量を定量し、その量を、該試験化合物の不在下に同じ時間インキュベートしたポリペプチド中に存在するα−ヘリックスの量と比べることが可能である。試験化合物を含まない溶液に比べ、試験化合物を含む溶液中のポリペプチドのα−ヘリックス形の量が大きい場合、それは、試験化合物が、ペプチドのα−ヘリックス形を安定化すること(すなわち、候補化合物であること)を示す。
【0042】
適切なインキュベーション時間は経験的に決めることが可能である。インキュベーション時間は、数分、数時間、数日、数週、または数ヶ月であってもよい。例えば、約100μMの濃度のAβ(1−40)が、一般に、インビトロで、電子顕微鏡で検出可能な原線維を形成するのに十分なインキュベーション時間は3日以内である。他の凝集体はより急速に形成が可能である(数分から数時間)。当業者であれば、使用するAβペプチド、および使用する検出法に応じて、どのようにして適切なインキュベーション時間を決めるかを理解するであろう。α−構造の形成速度を変調するには、各種パラメータ、例えば、ポリペプチドの濃度を増す、または、溶液中の塩濃度を増すことによって操作することが可能である。
【0043】
試験化合物および候補化合物
試験化合物とは、Aβペプチドを含む溶液のヘリックス含量を増大させる能力、および/または、Aβペプチドのα−ヘリックス形をβ−ストランド構造に変換する速度を遅くさせる能力についてスクリーニングされる化合物である。候補化合物とは、Aβペプチドのα−ヘリックス形を安定化することが判明した化合物である。候補化合物は、β−ストランド構造およびアミロイドの形成を阻止する、または遅らせるのに有用である。
【0044】
本明細書に記載される化合物について、その、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の安定化または形成を増大させる能力を確認するための方法が、本明細書において提供される。一般に、化合物は、Aβペプチドの不一致ヘリックスの面に対して相補的であり(例えば、二つの面は静電気的相互作用を持つことが可能である)、その面に結合し、ヘリックスを安定化する面を持つように設計される。この相互作用は、不一致ヘリックスがβ−ストランド立体配座に変換される事象の数を減らすことが予測され、従って原線維の量を減らす。このような化合物と、不一致ヘリックスの間の相互作用は非共有的であってもよい。化合物は、実施例に記載される化合物を含む。スクリーニングアッセイに用いられる化合物は、双極性、中性、または単極性荷電であってもよい。
試験化合物をアッセイするさらに別の方法
【0045】
原線維形成の直接検出
ある場合には、α−ヘリックス立体配座の安定化を定量するものとは別の方法が、本発明にとって有用なことがある。例えば、原線維形成の直接検出は、α−ヘリックス立体配座を測定するアッセイの代わりに、またはアッセイと組み合わせて用いることが可能である。試験化合物の存在下または不在下における原線維形成の程度と速度は、形成される原線維の電子顕微鏡観察(EM)によって直接測定することが可能である。例えば、原線維を含むペレットが、低エネルギー超音波処理を5秒間用いて少量の水に縣濁される。次に、原線維縣濁液の分液が、炭素安定化Formvar(商標)フィルムによって被われた格子の上に載せられる。30秒後、余分な液体がグリッドから吸引除去される。次に、格子を空気乾燥し、水に溶解した3%酢酸ウラニルで陰性に染色する。次に、染色された格子を、電子顕微鏡、例えば、80kVで動作するPhillips CM120TWINで調べ、撮影する。原線維形成の速度または量の低下をもたらした化合物は、本発明にとって有用であり、例えば、ADまたは関連障害を治療するための候補化合物となる。
【0046】
原線維形成はまた、原線維を、染料、例えば、コンゴーレッドまたはチオフラビンTによって染色し、染色サンプルからの発射光を検出することによって評価することが可能である。例えば、原線維を含むペレットを、超音波処理によってリン酸バッファー生食液に再縣濁し、次に、コンゴーレッド(2%w/v)を加える。サンプルを周囲温にて1時間インキュベートし、凝集タンパクを13,000xg、5分間の遠心によって収集する。次に、この凝集体を水で洗浄し、水に再縣濁する。分液を顕微鏡スライドの上に置き、乾燥し、偏光顕微鏡(例えば、Zeiss Axialfold顕微鏡)にて観察する。別態様として、コンゴーレッドまたはチオフラビンTによる染色後、異なる波長における光吸収または発射の検出を用いて、アミロイド形成を定量化することが可能である(例えば、LeVine, 1993, Prot. Science 2:404−410; Klunk et al., 1999, Anal. Biochem. 266:266:66−76)。
【0047】
試験化合物の存在下または不在下における原線維形成検出のためのアッセイは、例えば、α−ヘリックス安定化に関する後続アッセイに使用されるべき化合物を求めるために、試験化合物を準備スクリーニングするのに用いてもよい。同様に、化合物の、原線維形成抑制能力も、候補化合物の、原線維形成阻止に関する予測効力を確認するのに用いることが可能である。
【0048】
原線維形成の間接的検出
原線維形成もまた、α−ヘリックス形の消失を測定することによって間接的に評価することが可能である。α−ヘリックス形の消失は、α−ヘリックスからβ−ストランドへの変換および凝集後、原線維を生じるからである。このためには、ES質量分析が使用可能な方法である。なぜなら、この方法は、不一致ヘリックスを含むAβペプチドのモノマー形と凝集形を区別するために使用が可能だからである。別態様として、凝集体は、例えば、遠心によって除去し、次に、溶液の中に残存するペプチド(主に、その不一致ヘリックス領域におけるα−ヘリックスである)を、ゲル電気泳動、アミノ酸分析、または逆相HPLCのような技術を用いて定量する。
【0049】
原線維形成を定量する直接法同様、間接法も、α−ヘリックスからβ−ストランドへの変換を妨げ、従って、アミロイド原線維形成を抑制する化合物を特定するに際し、例えば、不一致ヘリックス含有ポリペプチドのα−ヘリックス立体配座の安定化に関するアッセイに使用される試験化合物をスクリーニングするに際し、または、候補化合物が安定化作用を持つことを確かめるに際し有用である。
【0050】
原線維形成に及ぼす各種化合物の作用は、前記方法を、好ましくは、それらが相補的プロフィールを持つ場合互いに組み合わせて用いることによって観察する。従って、染色技術はかなり高速であり、多くの化合物のスクリーニングが可能である。電子顕微鏡観察(EM)は、染料検出よりも特異的である。なぜなら、EMでは、原線維の性質が判断され、原線維を定量的に分析することが可能だからである。質量分析はきわめて高感度であるが、一方、多数で、比較的感度の低いのサンプルの場合、ゲル電気泳動、アミノ酸分析、および逆相HPLCの使用が可能である。
【0051】
従って、ある化合物が、本明細書に記載する通りに有用となることができる能力を確かめるスクリーニングでは、数段階のアッセイを用いることが可能である。例えば、化合物は、染色法を用いて試験し、さらに、ES質量分析によって、例えば、Aβペプチドのβ−構造の量を抑制する、該化合物の能力を確かめるために試験することも可能である。
【0052】
各種化合物の作用を個別に明らかにする場合、形成される原線維の量、および原線維形成の速度が興味の的となる。なぜなら、インビトロにおける原線維形成速度の比較的小さな変化が、ペプチド/タンパクのインビボの長期に渡るアミロイド線維形成傾向を反映すると考えられるからである。
【0053】
Aβ凝集および原線維形成を抑える化合物の特定
実験データおよび理論モデルから、Aβの16−23領域のα−ヘリックスからβ−ストランドへの転換がアミロイド原線維形成にとって決定的に重要であることが示されている。Aβの16−23位置は、膜様溶媒または界面活性剤の存在下ではヘリックス構造を示すので、この領域は、膜連結APPにおいても螺旋形であると考えられる。しかしながら、水溶液における遊離Aβでは、螺旋形立体配座はほんの一時しか安定ではなく、これは、分光光度法で検出すると水中のAβ立体配座は無秩序であるという所見(Serpell, 2000, Biochim. Biophys. Acta 1502:16−30)と一致する。β−シートの蓄積によって原線維が形成されるためには、16−23領域が、延長型/β−ストランド立体配座へと変換されることが必要とされる。
【0054】
Aβと連結する不一致ヘリックスを安定化するためのリガンド
図1は、式1(リガンド1)の一般的構造を示す。同図において、n1は、(CH2)1-4であり;n2は、(CH2)1-4であり;n3は、(CH2)1-4であり;R1は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;R5は、チロシン、フェニルアラニン、またはトリプトファンと連結する芳香環基であり;および、R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。当業者であれば、従来技術の一般的知識および本明細書に提示されるリガンドの例に基づいて、どのようにしてそのような基を選択すればよいかを理解されるであろう。
【0055】
一つの実施例、リガンド3(図2および図7)では、n1はCH2;n2はCH2;n3は(CH2)3であり;R1はジアミン;R2はカルボン酸;R3はカルボン酸で、R4はアミン;R5は、トリプトファンと連結する芳香環;および、R6はカルボキシルアミドである。
【0056】
式1の別の例は、リガンド2(図5)として描かれる構造の変異種であり、リガンド2a(図5)と呼ばれるものであり、n1はCH2;n2は(CH2)2;n3は(CH2)2であり;R1はジアミン;R2はカルボン酸;R3はカルボン酸で、R4はアミン;R5は、トリプトファンと連結する芳香環;および、R6はカルボキシルアミドである。
【0057】
図6には、リガンド4およびリガンド5が示される(リガンド18およびリガンド19も参照されたい)。リガンド4またはリガンド5の、脂肪性アシル鎖変異種における炭素鎖の数は、1と20の間であってよい。リガンド4の変異種では、アミンの間の炭素原子の数は、2と6の間にあってよい。リガンド4のさらに別の変異種では、ジアミンは、別に、アミン、ポリアミン、グアニド基、カルボン酸、カルボキシルアミド、または、アルギニンまたはリシンの側鎖であってもよい。リガンド5の変異種では、カルボン酸は、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、またはスルフォン酸塩によって置換されてもよい。
【0058】
リガンド8は図9に示される。この化合物では、nは1と16の間にある。例えば、リガンド8aではn=7であり、リガンド8の変異種であるリガンド9では、n=13である。
【0059】
リガンド3−5および7−14のそれぞれについて、長鎖を形成する脂肪アシル基は、Aβペプチドのphe19またはphe20と相互作用を持つことが可能な、任意の他の疎水基によって置換されてもよい。上記リガンドのそれぞれについて、極性部分と非極性部分を接続する基は、脂肪アシル鎖と、極性基(単数または複数)のアミンとの間のアミド結合である。この結合は、別態様として、脂肪アミンと、極性基のカルボン酸誘導体の間のアミドであってもよく、あるいは、エステルであっても、または他の結合であってもよい。
【0060】
リガンド7−14のそれぞれにおいて、極性基は、式1の対応基について記載したように変動してよい。これらのリガンドの一般的構造は、図9、10A、および10Bに示される。
【0061】
本明細書に記載される全てのリガンドについて、キラル炭素原子は立体異性体である可能性があり、組成物は、混合された立体異性体を含んでもよい。組成物はまた、一つを超えるリガンド変異種を含む、一つを超えるリガンドタイプを含んでもよい。
【0062】
リガンドを、実施例および図面にてさらに説明し描画する。
【0063】
化合物のインビトロ試験
アルツハイマー病または他のアミロイドーシスの動物モデルを用い、本明細書に開示される化合物についてさらに試験することが可能である。使用される動物は、天然発生モデル(例えば、アミロイドを天然に蓄積する動物、例えば、非ヒト霊長類、例えば、非限定的例として、アカゲザルを含む霊長類)、アミロイドペプチドを発現するように遺伝子工学的に加工された動物か、または、アミロイド生産を誘発するように処理された動物のいずれかによって表される。一般に、化合物の、Aβペプチドの蓄積抑制効力を定めるには、遺伝子工学的に加工された動物モデルが使用される。Aβペプチド蓄積の抑制としては、動物モデルにおいて検出されるAβ含有構造体(例えば、原線維(可溶性または不溶性)、またはアミロイドプラーク)の量の低下;化合物の存在下においてAβ−含有原線維の蓄積が、該化合物によって処理されない動物に比べると、より遅いこと;アミロイド蓄積と関連する症状の低下;または、アミロイド蓄積と関連する症状獲得の遅延、が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。このようなモデル、およびAβおよびアミロイド構造を検出する方法は従来技術で既知である。
【0064】
無脊椎動物モデルでは、化合物を試験するために、例えば、ショウジョウ蝿を使用することも可能である。遺伝子工学的に加工されたショウジョウ蝿は、インビボにおいてアミロイド関連構造体の形成を抑制するのに効果的な化合物を特定するのに有用である可能性がある。例えば、Aβ(1−40)および/またはAβ(1−42)について、本来そのペプチドが得られる天然のAPPとは無関係のシグナルペプチドに結合した、該ペプチドのトランスジェニック発現を使用することも可能である。シグナルペプチドは、ショウジョウ蝿の眼球または神経系において、小胞体に対しAβ発現、次いで分泌を指令するように(APPの場合と同様)用いることが可能である(Finelli et al., 2004, Mol. Cell. Neurosci. 26:365−375; Crowther et al., 2004, Curr. Opin. Pharmacol. 4:513−516)。このモデルでは、Aβ(1−42)の複数コピーの発現が、ただしAβ(1−40)ではないが、一般に、Aβ凝集および神経変性を招く。ヒトAPPの発現および処理を再現し、かつ、Aβの生成と毒性をもたらすショウジョウ蝿モデルも報告されており(Greeve et al., 2004, J. Neurosci. 24:3899−3906)、使用が可能である。例えば、ヒトのAβ(1−42)をコードする配列について2通りのコピーを含み、かつ、これらのペプチドを該動物の神経系において発現するように遺伝子工学的に加工されたショウジョウ蝿株を使用することも可能である。Aβコード配列は、シグナルペプチド(例えば、ショウジョウ蝿壊死遺伝子;Green et al., 2000, Genetics 156:1117−1127)に動作的に結合される。該動物における該ペプチドの発現は、Aβ凝集、神経変性、寿命の短縮、および、移動活性の低下をもたらす(Crowther et al., 2004, 「第45回ショウジョウ蝿研究年次会議議事録(“Proceedings of the 45th Annual Drosophila Research Conference”)」、Washington DC, USA. The Genetics Society of America; 2004:95; Crowther et al., 2005, Neuroscience 132:123−35)。化合物を試験するために、蝿の幼虫に、化合物を食物と混ぜる(約0.1−1.5mg/mlリガンド)ことによって該化合物を与えた。コントロールには、リガンドが溶解される溶媒、または、α−ヘリックスの消失を遅くすることがないと予測されるコントロール化合物(例えば、溶媒に溶解して)を含む食物(約0.1mg/mlと100mg/mlの間の濃度で)を与える。幼虫または成熟蝿を、Aβに関連する1種以上の特徴について調べる。化合物を摂取した動物において、これらの1種以上の特徴において低下が見られた場合、それは、その化合物が、Aβペプチド関連障害の治療に有用であることを示す。
【0065】
化合物について、それらの、アミロイド量の阻止または低下させる能力について、ヒトAβペプチドを発現するトランスジェニックマウスを用いることが可能である。さらに、そのようなマウスにおけるAβペプチドの発現と関連する行動兆候の出現を化合物が抑えるかまたは阻止するかどうかを決めるのに、別に行動試験を用いることが可能である。一つのマウスモデルシステムでは、AD(例えば、若年性AD)と関連する突然変異を持つアミロイド前駆体タンパク(APP)が発現される。このようなAPPタンパクの発現は、一般に、Aβの生産を増す。APP突然変異を担う、このような遺伝子の一つの例は、「スウェーデン」突然変異遺伝子配列K670N/M671Lである。Aβの生産を増し、および/または、Aβ(1−40)に対しアミロイド生産性Aβ(1−42)の生産を増す、もう一つの突然変異がある(例えば、「ロンドン」突然変異、V7171)(Hutter−Paier et al., 2004, Neuron 44:227−238)。APPの外にも、突然変異(例えば、A246E)presenilin1 (PS1)も、Aβ(1−40)に対してアミロイド生産性Aβ(1−42)の生産を増す突然変異であるが、このトランスジェニック発現も使用される(例えば、Permanne et al., 2002, FASEB J. 16:860−862)。突然変異APP発現と組み合わせた、他のPSI突然変異のトランスジェニック発現も記載されている(Casas et al., 2004, Am. J. Pathol. 165:1289−1300)。APPおよびPSIのトランスジェニック発現の外にも、過剰にリン酸化され、ADにおける神経原線維変化を形成するタウタンパクも発現される、三重トランスジェニックマウスも得られている。このマウスは、AD患者に見られる病理生理的特徴のいくつかを再現する(Oddo et al., 2003, Neurobiol. Aging 24:1063−1070)。
【0066】
AD治療用化合物のインビボ評価のために使用される動物モデルの一つの例では、インビトロにおいてアミロイドβ−ペプチド(Aβ)から形成された原線維を脳実質に注入した野生型ラットも使用される(例えば、Chacon et al., 2004, Mol. Psychiatry 9:953−961; Soto et al., 1998, Nature Med. 4:822−826)。次に、このような動物に対する本明細書に記載される化合物の作用が評価される。
【0067】
薬剤投与
本明細書に記載される化合物は、様々な方法を用いて投与することが可能である。ある場合には、化合物の効力について、および/または、動物における、例えば、抹消血または脳脊髄液(CSF)における化合物の半減期について、様々な投与法が評価される。
【0068】
マウスでは、経口投与、腹腔内注入、脳内注入(例えば、海馬内)、および循環系内輸液を使用することが可能である。効果的用量を特定するために、全体用量および投与スケジュールを変動させることが可能である。そのような試験では、化合物は、一般に、ミリグラム量における用量として投与される。例えば、約1−100mg、1−50mg、または50−100mgの合計用量が、合計用量を実現するために週に3から4日数週間に渡って投与される(例えば、Permanne et al., 2002, FASEB J. 16:860−862)。ジョウジョウ蝿では、前述したように、経口投与が一般に使用される(すなわち、化合物は食物と混ぜられる)。しかしながら、注入および経皮投与も使用される。一般に、本明細書に記載される化合物は、約1−500mg,1−300mg,100−500mg,100−300mg,1−100mg,1−50mg,1−30mg,10−50mg、または10−20mgの用量として投与される。例えば、リガンド3の経口投与は、一般に、約1−100mgまたは1−25mgの間である。脂肪アシル鎖を含むリガンドは、一般に、約1−500mg,100−500mg、または100−300mgの用量として投与される。
【0069】
本明細書に記載される化合物(リガンド)は、本明細書に記載される治療法の内の任意のものに使用される薬剤の調製に使用することも可能である。
【0070】
製薬組成物
本明細書に記載される化合物は、製薬組成物の中に取り込むことも可能である。このような組成物は、通常、該化合物、および製薬学的に受容可能な担体を含む。本明細書で用いる「製薬学的に受容可能な担体」という用語は、製薬学的投与と適合する、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等調剤および吸収遅延剤等を含む。補足的活性化合物を組成物の中に取り込んでもよい。
【0071】
製薬組成物は、その意図される投与ルートと適合するように処方される。投与ルートの例としては、非経口的(例えば、静脈内、皮内、皮下)、経口、鼻腔内(例えば、吸入)、経皮、経粘膜、硬膜下腔内、脳室内(例えば、脳脊髄液貯留槽空間に外科的に設置される、直列フィルター付Omaya貯留槽シャントによる)、および直腸投与が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。組成物のために有用と予想される非経口送達システムとしては、ゆっくり溶解するポリマー粒子、埋設可能な輸液システム、およびリポソームが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。非経口投与のために使用される溶液または縣濁液としては下記の成分が挙げられる。すなわち、滅菌希釈液、例えば、注射用水、生食液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸;バッファー、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩、および、浸透圧の調整剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース。他にも適切な溶液または縣濁液の使用が可能である。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムによって調整される。非経口調剤は、例えば、アンプル、ディスポーザブル注射筒、または、ガラスまたはプラスチック製の、複数用量瓶の中に封入されてもよい。
【0072】
Aβペプチドと関連する障害、例えば、Aβペプチドの不要な生産、またはそのようなペプチドを含む原線維の生産と関連する障害の治療もまた、本明細書に記載される化合物を、中枢神経系、例えば、脳に直接送達することによって実行することが可能である。
【0073】
注入使用に好適な製薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および、滅菌注入液または分散液の即時調製用滅菌粉末が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。静脈投与用では、好適な担体としては、生理学的食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF, Parsippany、ニュージャージー州)、または、リン酸バッファー生食液(PBS)が挙げられる。いずれの場合でも、組成物は滅菌されており、簡単に注入を可能とする程度に流動性を持っていなければならない。組成物は、製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒体であってもよい。適切な流動性は、例えば、活性物質(例えば、レシチン)から成る粒子に対するコーティングによって、分散の場合は必要な粒径を維持することによって、かつ、界面活性剤を用いることによって維持される。微生物作用の阻止は、各種抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって実現される。多くの場合、組成物の中に等張剤を含めることが好ましい。このような薬剤の例として、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトールおよびソルビトール)、および塩化ナトリウムが挙げられる。注入組成物の長時間吸収は、組成物の中に吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを含めることによって実現することが可能である。一般に、この製薬組成物を製造する方法は従来技術で既知である。
【0074】
滅菌注入液は、必要量の活性化合物を、一つの成分、または上に数え上げた複数の成分と必要に応じて組み合わせて、適切な溶媒に取り込み、次に滅菌ろ過することによって調製される。一般に、分散液は、基本的分散媒体、および、上に列挙したものの中から選ばれた、必要な他の成分を含む滅菌ベヒクルの中に活性化合物を取り込むことによって調製される。滅菌注入液調製のための滅菌粉末の場合、調製法は、一般に、真空乾燥および凍結乾燥であり、これによって、以前に滅菌ろ過された溶液から、活性成分プラス任意の所望の他の成分の粉末が得られる。
【0075】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用担体を含む。治療用経口投与のためには、活性成分は、賦形剤と共に取り込まれ、例えば、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルとして服用される。製薬学的に適合的な結合剤、および/または、補助材料も、組成物の一部として含めてもよい。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等は、従来技術で既知の他の成分、例えば、下記の成分、または、類似成分を含んでもよい。すなわち、結合剤、例えば、微細結晶セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチン;賦形剤、例えば、でん粉またはラクトース;崩壊剤、例えば、アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチ;潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、またはSterotes;滑沢剤、例えば、コロイド状二酸化シリコン;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリン;芳香剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料。
【0076】
吸入による投与では、化合物は、適切な推進剤、例えば、ガス、例えば、二酸化炭素を含む加圧容器またはディスペンサー、または噴霧器から噴出されるエロゾルスプレイとして送達される。
【0077】
全身投与も、経粘膜または経皮手段によって実行することが可能である。経粘膜または経皮投与では、一般に、浸透すべき障壁に対して適切な浸透剤が処方に用いられる。このような浸透剤は一般に従来技術で既知であり、例えば、経粘膜投与では、界面活性剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔スプレイまたは坐剤を用いることによって実現される。経皮投与では、活性化合物は、従来技術で一般に知られるように、軟膏、塗布剤、ゲルまたはクリームとして処方される。
【0078】
化合物はまた、直腸送達用の坐剤(例えば、通例の坐剤基材、例えば、ココアバター、および他のグリセリドと共に)、または保持浣腸として調製されてもよい。
【0079】
一つの実施態様では、化合物は、体からの排除にたいして化合物を保護する担体と共に、例えば、放出調節処方、例えば、インプラントおよび微小封入送達システムとして調製される。生分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニール、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル、およびポリ乳酸を使用することが可能である。このような処方の調製法は、当業者には明白であり、材料は、例えば、Alza Corporation、およびNova Pharmaceuticals, Inc.から市販されている。リポソーム縣濁液(Aβペプチドによって特異的に侵される細胞、例えば、神経細胞またはグリアを、モノクロナール抗体またはその断片によって標的とするリポソームを含む)も、製薬学的に受容可能な担体として使用することが可能である。これらの組成物は、当業者に既知の方法に従って、例えば、米国特許第4,522,811号に記載する方法で調製することが可能である。
【0080】
投与の簡便および用量の均一性のために、経口または非経口組成物は用量単位として処方するのが好都合である。本明細書で用いる単位用量形とは、治療される被験者にとって単位用量として好適な、物理的に不連続な単位を指し、各単位は、必要な製薬担体と結びついて所望の治療効果を挙げるように計算された、指定量の活性化合物を含む。
【0081】
化合物の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物において、例えば、LD50(集団の50%に対して致命的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決めるのに必要な既知の製薬学的処置によって決められる。好適な動物モデル、例えば、Aβ関連病態または天然病態に関して上述したもの、例えば、遺伝子工学を用いて生成された動物モデル(例えば、ヒトのAβペプチドを発現するように加工されたげっ歯類)を使用してもよい。動物モデルの例は上述したが、さらにSturchler−Pierrat et al.(1999, Rev. Neurosci. 10:15−24), Seabrook et al. (1999, Neuropharmacol. 38:1−17), DeArmond et al. (1995, Brain Pathology 5:77−89), Telling (2000, Neuropathol. Appl. Neurobiol. 26:209−220)、およびPrice et al. (1998, Science 282:1079−1083)を含む。毒性作用と治療作用の間の比は、治療指数であるが、LD50/ED50比として表される。高い治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を使用しなければならないこともあるが、侵されていない細胞に対して及ぼすかも知れない損傷を最小にし、それによって副作用を抑えるため、侵された組織部位に対しその化合物を標的輸送する送達システムを設計するよう注意しなければならない。
【0082】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータは、ヒトにおいて使用される用量範囲を処方するのに使用することが可能である。化合物の用量は、一般に、ほとんどまたは全く毒性を持たないが、ED50を含む、循環濃度範囲内にある。用量は、用いられる剤形、利用される投与ルートに応じてこの範囲内を変動してもよい。本明細書に記載される方法において使用されるいずれの化合物においても、治療的に有効な用量は、例えば、原線維形成速度または細胞死速度が観察される細胞培養アッセイから最初推定することが可能である。IC50(すなわち、症状の、最大の半分の抑制を達成する、試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度を実現するために、細胞培養における決定に従って動物モデルにおいて用量が処方される。この情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決めるために使用される。血漿レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定してもよい。
【0083】
本明細書の定義では、本明細書に記載される化合物の治療有効量(すなわち、有効用量)は、体重kg当たり約0.001から100mg、例えば、約0.01から25mg、約0.05から20mg、約0.1から10mg、または約20−100mgの範囲である。化合物は、被験者に対し長期に渡って、例えば、被験者の生涯に渡って投与されてもよい。ある場合には、化合物は、週に1回、約1から10週間、例えば、2から8週間、約3から7週間、または、約4、5、または6週間投与されてもよい。化合物はまた慢性的に投与されてもよい。熟練した当業者であれば、いくつかの要因、例えば、病気または障害の重度、以前の治療、被験者の一般的健康状態および/または年齢、および現に抱える他の疾患を含む、ただしそれらに限定されない、要因が、被験者を効果的に治療するのに必要な用量およびタイミングに影響を及ぼすことを了解されるであろう。さらに、治療的有効量の化合物による被験者の治療は、単一治療、または、こちらの方がより一般的であるが、一連の治療を含む可能性がある。
【0084】
Aβペプチドに関連する疾患(例えば、アルツハイマー病)を治療するために、動物(例えば、ヒトのような哺乳動物)に対し、1種以上の、これら小型分子が投与される場合、医師、獣医師、または研究者は、例えば、比較的低用量を初めに処方し、次いで用量を増し、それを適切な反応が得られるまで続ける。さらに、任意の特定の動物被験者における特定用量レベルは、種々の要因、例えば、使用する特定の化合物の活性、被験者の年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食事、投与時間、投与ルート、排出速度、薬剤併用、および変調される発現または活性の程度を含む要因に依存する。
【0085】
製薬組成物は、投与指示書と一緒に、容器、パック、またはディスペンサーの中に納められる。指示は、例えば、アミロイドーシスを患う、または患う危険性のある個人の治療用として組成物を使用するための案内を含んでもよい。
【0086】
治療法
本発明は、Aβペプチドに関連する障害、例えば、アルツハイマー病、ボクサー認知症、重度の頭部外傷、および、ダウン症候群のいくつかの病理および症状、を患う危険性のある(または、感受性を持つ)被験者、または、現に患っている被験者に対処する、予防法および治療法の両方を供給する。本明細書で用いる「治療」という用語は、病気、病気の症状、または病気に対する素因を、治す、治癒する、寛解する、解除する、変える、救済する、緩和する、改善する、または作用する目的で行われる、患者に対する治療薬剤の塗布または投与、または、病気を抱える、病気の症状を持つ、または病気に対する素因を持つ患者から分離された組織または細胞系統に対する治療薬剤の塗布または投与と定義される。治療薬剤は、本明細書に記載される化合物を含む。
【0087】
本明細書に記載されるのは、Aβペプチドの存在と関連する疾患または病態を予防する(すなわち、疾患または病態を患う危険度、または、疾患または病態と関連する症状の出現する速度を下げる)方法である。そのようなペプチドが招く、または、悪化の原因となる病気に対し危険度を有する被験者は、従来技術で既知の適切な診断または予診アッセイの内のいずれか、またはそれらの組み合わせによって特定することが可能である。Aβ関連疾患の病理またはその他の兆候を緩める、または阻止することが可能な予防薬として本明細書に記載される化合物を使用する場合、その投与は、病気が阻止される、または、それとは別に、その進行が遅らされるように、該病気に特有の症状が出現する前に行われてもよい。
【0088】
Aβ関連疾患の治療または予防に有用な、本明細書に記載される化合物は、Aβペプチドを含む障害を予防、治療、または緩和するために、患者に対し、治療的有効用量として投与される。治療的有効用量とは、障害の症状の緩和、または、そのような症状の出現の遅延または阻止をもたらすのに十分な化合物の量を指す。このような化合物の毒性および治療効力は、前述の、また、従来技術で既知の製薬学的処理過程によって定めることが可能である。
【0089】
本発明は下記の実施例によってさらに説明される。これらの実施例は、ただ例示のためにのみ提供される。これらの実施例を、いかなる意味でも本発明の範囲または内容を限定するものと見なしてはならない。
実施例
【実施例1】
【0090】
化合物の設計およびAβ−リガンド複合体の分子運動力学シミュレーション
残基16および23の間に不一致領域を含む、残基12から28までの、ヒトAβアミノ酸配列(Aβ12−28)を、分子グラフィックス(Insight II, Accelrys Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いてα−ヘリックス立体配座の中に組み込んだ。Aβ不一致ヘリックスの構造に基づき、Aβヘリックスの表面に対して相補的な化学的構造を持つ化合物を、Insight IIシステムを用いて設計した。一般に、Aβのα−ヘリックス立体配座の消失を抑えるのに有用な化合物は、下記の部位の内少なくとも二つと相互作用を持つ(Aβペプチドを指す)ことの可能な一つ以上の部位を持つ化合物であることが判明した。その部位とは、Lys16の側鎖、His13の側鎖、Glu23の側鎖、Phe19の側鎖、Phe20の側鎖、およびAsp22の側鎖である。
【0091】
図7は、リガンド3(図1の特定変異種)の化学構造を示し、Aβの対応部分がα−ヘリックス立体配座を形成する場合、Aβペプチドの特定部分と相互作用を持つように設計された官能基を特定する。図2は、Aβ−リガンド複合体であって、螺旋形のAβ(12−28)ペプチドが、図1に示す相互作用を通じてリガンド3に結合する複合体を示す。重要なことは、図2は、α−ヘリックス立体配座を取るAβ12−28からスタートして、20psの分子運動力学(MD)シミュレーション(37℃で、Discover (Accelrys, Inc.)、およびAmber力場を用いる)を経た後、Aβ−リガンド複合体を描画していることである。Aβ12−28ペプチドのα−ヘリックス構造を図3に示す。MDシミュレーション後も、Aβ12−28ペプチドは、シミュレーション開始前のα−ヘリックス構造とほぼ同じ、α−ヘリックス構造を示す。これとは好対照に、α−ヘリックス立体配座からスタートするが、リガンドを欠く場合、Aβ12−28の20psのMDシミュレーション後、Aβ12−28ペプチドはほぼ完全に解ける。このことは図4に示される。
【0092】
リガンド3に関して本明細書に記載されたものと同様の方法を用い、さらに別のリガンドを設計したところ、これらもまた、MDシミュレーションにおいてAβ不一致α−ヘリックスを安定化することが判明した。このようなリガンドの非限定的例が、螺旋形Aβにおける相互作用パートナーと共に、例えば、図5および図6に示される。
【実施例2】
【0093】
リガンド
リガンド3
式1(リガンド1、図1)の特定例であるリガンド3(図7に示す)は、活性化ペンタフルオロフェニル・エステル使用の溶液合成によって合成した。合成時、既知の保護基、および、結合および脱保護プロトコールを用いた。保護アミノ酸は全てBachem(King of Prussia、ペンシルバニア州)から購入した。他の試薬は全て市販級であり、溶媒は全て分析級であり、Fluka(セントルイス、ミズーリ州)、Merck(Whitehouse Station、ニュージャージー州)、またはAldrich Chemical Co.(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。
【0094】
リガンド3の合成は、α−N−ベンジルオキシカルボニル−ジアミノブチル酸(Z−Dab−OH)から始めた。第1工程では、Fmoc−D−Trp−OHをZ−Dab−OH(γ−アミノ基において)に結合させ、ジペプチドが得られた。トリプトファン誘導体ジペプチドからFmoc−基を除去した後、次のアミノ酸、Boc−Arg(Pbf)−OHを、トリプトファン誘導体の遊離α−アミノ基に結合させ、トリペプチド産物を得た。次の工程では、Pd/C使用の触媒による水素添加によって、ペプチドZ−Dab−(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHからZ−基が取り除かれる。次に、この脱保護トリペプチドに、Dabのα−アミノ基において、Fmoc−D−Glu(OtBu)−OHが結合される。得られたテトラペプチドのFmoc−基が除かれ、D−グルタミン酸(D−Glu)残基のα−アミノ基が、ピリジンに溶解した無水酢酸によってアセチル化される。Boc、OtBu、およびPbf基の最後の脱保護が、チオフルオロ酢酸(TFA)、チオアニソール、フェノール、および水を含む脱保護カクテルによって実行される。未精製ペプチドを、半分準備済みカラムを用い逆相HPLCで精製し、220nmおよび、0.1%TFAを含む水/アセトニトリルの直線勾配(0−80%アセトニトリル、2時間、流速3.5ml/分)で検出した。最終ペプチドリガンドの純度および構造は、分析的HPLCおよびエレクトロスプレイ(ES)質量分析で定めた。
【0095】
追加の、合成の詳細を下記に提示する。
Z−Dab(Fmoc−D−Trp)−OH:2.52g(10.00mmol)のZ−Dab−OHを、50mM Na2B4O7(pH8.5)に溶解した。5.93g(10.00mmol)のFmoc−D−Trp−OPfpを、50mlの冷却DMF(0℃)に溶解し、Z−Dab−OH液にゆっくりと加えた。この混合液を0℃で1時間、次に室温で10時間攪拌した。反応を薄層クロマトグラフィー(TLC)で監視した。反応の完了後、溶媒(H2O/DMF)を減圧留去した。油状産物Z−Dab(Fmoc−D−Trp)−COOHは、酢酸エチルから結晶化し、収集し、減圧下に乾燥した。この過程による収量は5.94g(90%)であった。
【0096】
Z−Dab(D−Trp)−OH:Z−Dab(Fmoc−D−Trp)−OHを、DMFに溶解した20%ピペリジンによって処理した(0.5時間)。反応混合物を濃縮し、油状産物をエーテルから結晶化した。産物をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下に乾燥した。この過程による収率は98%であった。
【0097】
Z−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:0.93g(2.18mmol)のZ−Dab(D−Trp)−OHを30mlのDMFに溶解し、冷却DMFに溶解した1.5gのBoc−Arg(Pbf)−OPfp(2.2mmol)をゆっくり加えた。この反応混合物を濃縮し、油状物質を冷却エーテルで洗浄した。沈殿が生じ、混合物は1時間フリーザーに維持した。沈殿をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下乾燥した。この過程による収量は0.70gであった。
【0098】
NH2−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:H2およびAcOHを含むDMFに溶解したPd/C使用の触媒による水素添加によって、Z−Dab−(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHからZ−基を取り除いた。Pd/C触媒をろ過除去し、溶液を減圧留去した。得られた油状産物をエーテル添加によって処理した。沈殿が生じ、混合物は1時間フリーザーに維持した。混合物をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下乾燥した。0.46g(0.53mmol)の産物を、EtOAc/DMFの混合液に溶解し、53ml(0.53mmol)のN−メチルモルフォリンを加えた。反応物を1時間攪拌し、液体を留去し、遊離アミノ基を有するペプチドをエーテルで沈殿させた。
【0099】
Fmoc−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:0.46g(0.53mmol)のNH2−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHをDMFに溶解した。344.5mg(0.58mmol)のFmoc−D−Glu(OtBu)−OPfpを冷却DMFに溶解し、0℃でゆっくり加えた。この反応混合物を0℃で1時間攪拌し、次に室温で8時間攪拌した。溶媒を留去し、産物をエーテルに溶解した。
【0100】
Ac−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:0.57g Fmoc−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHから、DMFに溶解した20%ピペリジン溶液で0.5時間処理することによってFmoc基を取り除いた。次に、このペプチドを、20%無水酢酸を含むピペリジンにおいて15分アセチル化した。反応混合液を濃縮し、エーテルに溶解した。この過程の収量は0.40gであった。
【0101】
Ac−D−Glu−Dab(Arg−D−Trp)−OH:Ac−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHを、10ml TFA,1ml H2O,0.75gのフェノール、および0.5mlのチオアニソールを含む切断カクテルによって処理した。この反応系を室温で1時間攪拌した。脱保護はTLCで監視した。完了後、反応混合液を濃縮し、エーテルを加えた。混合物をフリーザーに保存し、形成された固体をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下乾燥した。この過程の収穫は、0.35gの未精製ペプチドであった。未精製ペプチドの精製を、Vydac半調整カラム搭載の逆相HPLCを用い、0.1%TFAを含むアセトニトリル/水の直線勾配(0−80%アセトニトリル、2時間、流速3.5ml/分)で行った。最終ペプチドの純度および分子量は、分析的HPLCおよびESI−MS(エレクトロスプレイ質量分析(Micromass LCT(商標)、Waters, Milford、マサチューセッツ州)。MS(ESI, M+1):m/z観測値:632.7;計算値:632.3
【0102】
リガンド2および2a−2e
前述の分子モデル法を用いてさらに別のリガンドを設計し、それらのモデルに対し前述の分子運動力学分析を行った。このようにして作製された追加リガンドは全てAβ螺旋構造の消失を抑制した。合成され、試験された追加リガンドは、リガンド3(図7)の立体化学変異種、構造的異性体リガンド2a(図5および図8)、近縁リガンド2b−2e(図5に示す)、およびその異性体から生じた化合物を含む。
【0103】
リガンド2a−2eの構造的変異種(例えば、図5に示すリガンド2の特異的変異種である化合物)である化合物も合成し、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座を安定化するその能力について試験した。本明細書に記載する通り、これらの分子は、Aβペプチドのβ立体配座の形成(例えば、形成速度)抑制において有用である。
【0104】
リガンド7a
Aβペプチドのα−ヘリックス形を安定化するのに有用なもう一つのリガンド(リガンド7a、図9)を下記のように合成した。1.05当量(2.625mol)のデカン酸を、20mlのジクロロメタンに溶解し、2.0当量のトリエチルアミンを、この溶液に滴下し、これを、攪拌しながら0℃に維持した。次に、1当量(2.5mmol)のクロロギ酸イソブチルを1分間に渡って加え、反応混合物を0℃で30分攪拌した。0℃に冷却した、3当量のNH(C2H5NH2)2、6当量のトリフルオロ酢酸(TFA)、および100mlのメタノールから成る混合物に、活性化脂肪酸を5分間に渡って滴下した。この反応混合物を0℃で1時間攪拌し、次に室温で一晩攪拌した。溶媒を減圧留去し、油状物を100mlのCH2Cl2に溶解し、1M NaOHで洗浄した。溶液を水で洗浄し、分子ふるいを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去した。遊離アミンの精製後、この遊離アミンに対するTFA添加(遊離アミンに対し2当量のTFAを加える)後、TFA塩が得られた。次にTFAを蒸発させ、減圧下乾燥した。油状残留物を酢酸エチル(10ml)に溶解し、2−3滴の乾燥ジエチルエーテルを加えた。混合物を室温で保存したところ、結晶化が起こった。結晶をろ過し、減圧下乾燥した。この過程の収率は98%であった。1H−NMRデータは下記の通り。(D3COD+1%TFA) δ3.50(2H t J=5.67Hz CH2), 3.39(2H t J=6.55Hz CH2); 3.37−3.27(2H m CH2); 3.22(2H t J=5.67Hz CH2); 2.24(2H t J=7.70 Hz デカノイル−α−CH2); 1.61(2H m 7.1Hz デカノイル−β−CH2); 1.38−1.20(12H m 6X CH2); 0.90(3H t J=6.76Hz CH3))。
【0105】
リガンド7aの構造変異種である他の化合物も合成し、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座を安定化するその能力について試験した。本明細書に記載する通り、これらの分子は、Aβペプチドのβ立体配座の形成(例えば、形成速度)抑制において有用である。
【0106】
リガンド5
本明細書に記載される処理過程を用いて作製および特定されるリガンドについてさらに説明するために、もう一つのリガンド(リガンド5、図6および16)を下記のように合成した。
【0107】
工程1:0.635g(3.00mmol)のD−Glu(OMe)−OMe塩酸を、30mlの乾燥ジクロロメタンに溶解し、これに1.04ml(7.5mmol)のトリエチルアミンを加えた。次に、5mlのジクロロメタンに溶解した0.633ml(3.05mmol)のデカノイルクロリドを溶液にゆっくりと加え、この反応系を室温で一晩攪拌した。反応終了後、混合物を、10%クエン酸/H2Oで、中性となるまで洗浄した。次に、混合物を、10%NaHCO3(水溶液)で洗浄し、再び水で、中性pHが得られるまで洗浄した。溶液を分子ふるいで乾燥し、ろ過し、減圧下で濃縮した。0.877g(2.66mmol)の結晶性デカノイル−D−Glu(OMe)−OMeの塊が得られた。この過程の収率は89%であった。NMRおよび質量分析データは、正しく予測された構造と一致した。
【0108】
工程2:ステップ1の産物である、デカノイル−D−Glu(OMe)−OMe 1.0.877g(26.63mmol)を、50ml 1M NaOH, 100ml MeOH, および50mlのジクロロメタンの混合液を用いて加水分解した。反応系を2時間攪拌し、1M HClでpH2まで酸化し、デカノイル−D−Gluをジクロロメタンを用いて抽出した。溶液をNa2SO4で乾燥し、ろ過し、減圧下濃縮した。最終産物の収量は0.660g(92%)であった。産物のNMRデータは下記の通り。(CDCl3/D3COD 3:1) δ4.33(1H t様 J=6.5Hz C2−H); 2.30−2.15 (2H m C4−H); 2.15−1.95(3H m デカノイル−α−CH2およびC3−H); 1.90−1.75(1H m C3−H); 1.50−1.35(2H m CH2); 1.21−1.00(12H m 6X CH2); 0.71(3H t J=6.5Hz CH3)。
【0109】
リガンド17
さらに別の、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の消失を阻止することが可能なリガンド、リガンド17(図16)の合成例は下記の通り。
【0110】
工程1:ジメチルD−グルタミン酸塩酸(1.00g,4.72mmol)およびトリエチルアミン(1.20g,11.8mmol)を、50ml DCM(ジクロロメタン)に溶解した。3mlのDCMに溶解した塩化パルミトイル(1.36g,4.96mmol)を2分間に渡って加えた。反応混合液を室温で1時間40分攪拌し、50ml DCMで希釈し、50mlの飽和炭酸水素ナトリウムに対して分画した。有機相を50ml の1M塩酸で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、乾燥するまで濃縮したところ、1.95gの産物が得られた。この産物の1H NMR結果は:(CDCl3): δ6.13 (1H d 7.61Hz NH); 4.65(1H dt Jd=5.15Hz Jt=7.82Hz C2−H); 3.76(3H s OCH3); 3.69(3H s OCH3); 2.50−2.31(2H m C4−H); 2.28−2.16(1H m C3−H); 2.22(2H t 7.9Hz パルミトイル−α−CH2); 2.07−1.95(1H m C3−H); 1.63(2H m 7.1Hz パルミトイル−β−CH2); 1.38−1.13(24H m パルミトイル 12X CH2); 0.89(3H t 6.79Hz パルミトイル−ω−CH3)。
【0111】
工程2:ジメチルN−パルミトイルD−グルタミン酸(1.08g,2.62mmol)を、30mlのDCMおよび60mlのメタノールに溶解した。26.2mlの1M水酸化ナトリウムを加え、混合物を3日間攪拌した。次に、52mlの1M塩酸を加え、次いで250mlのDCMを加えた。有機相を分離し、水相を再び2x50mlのDCMで抽出した。合わせた有機相を、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、乾燥するまで濃縮したところ968mgの産物が得られた(収率96%)。この産物の1H NMRデータは:(CDCl3/D3COD 3:1) δ4.33 (1H dd J=5.15Hz J=8.20Hz C2−H); 2.33−2.15(2H m C4−H); 2.15−1.96(1H m C3−H); 2.06(2H t様 J=7.6Hz パルミトイル−α−CH2); 1.88−1.74(1H m C3−H); 1.45(2H, m J=7.0Hz パルミトイル−β−CH2); 1.21−1.00(24H m パルミトイル 12X CH2); 0.71(3H t J=6.81Hz パルミトイル−ω−CH3)。
【0112】
リガンド10−14
Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の消失を阻止するためのさらに別のリガンドも、リガンド5、7a、および17に関して記載したものと同様のやり方で合成される。これら補足的リガンドは、本明細書に記載される分子モデル法によって設計された。分子運動力学分析を課したリガンドは全てAβ螺旋構造の消失を抑制した。これらの化合物は、リガンド4、5、7、8、9、および17の性質を組み合わせるものを含む。このようなリガンドの例が図10Aに示される(すなわち、リガンド10、10a、11、12、12a、13、14、および14a)。一般に、このクラスのリガンドは、Lys16およびHis13の相互作用とAsp22とGlu23の相互作用とを、これもPhe20を含む相互接続疎水面と新たな相互作用を実現する共有結合リンカーを介して結合することによって分子当たりの相互作用の合計数を増すように設計される。図10Bに、追加化合物が依拠する一般構造が示される(リガンド18およびリガンド19)。上記化合物のいずれについても、n=3−17である。これらのリガンドは1個または2個のR基を持ってもよい。一般に、リガンドは、荷電性の基であって、一方または両方の基が同じ電荷を持つ(例えば、リガンド10−14)。同じ分子の中に二つのR基がある場合(すなわち、リガンド19)、それらは、ある場合には、異なる電荷を持ってもよい。電荷は、一般に、生理的pHにおいて決められることに注意されたい。
【0113】
本明細書に記載されるリガンドの構造的変異種である別の化合物についても、それらを合成すること、および、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座に対する、それらの安定化能力を試験することが可能である。本明細書に記載する通り、このような分子は、Aβペプチドのβ立体配座の形成(すなわち、形成速度)を抑制するのに有用である。
【実施例3】
【0114】
Aβ二次構造に対するリガンドの作用
本明細書に記載される化合物は、Aβペプチドの二次構造に影響をおよぼす、それらの能力について試験することが可能である。一例として、溶液としたAβ(1−40)またはAβ(1−42)に対してリガンドを添加した場合、円偏光二色(CD)分光光度計測で測定すると、Aβペプチドの螺旋含量は増加した。これは、208および222nmにおける分子楕円率の低下、および、190−195nmにおける分子楕円率の上昇によって裏付けられる(一例が図11に示される)。これらの実験では、Aβペプチド(濃度は約20μM 100μM)を、リガンドと、リガンド/Aβモル比が1から10の範囲となるように混合した。測定は、リン酸バッファー(チオフラビンT測定で後述するように)、または、30%トリフルオロエタノール含有リン酸バッファーにて行った。サンプルは、測定前、振とうしながら、または振とうせずに、インキュベートした。CD測定は、1mmキュベット(サンプル容量200−300μl)によるJasco 810装置を用いて室温で行った。各サンプルについて、3通りのスペクトラムを収集した。スペクトラムは260と185nmの間で測定し、バッファーおよびリガンド単独のスペクトラムを、混合物のスペクトラムから差し引いた。記録されたスペクトラムおよびペプチド濃度を用いて分子楕円率を計算し、kdeg x cm2/dmolで表した。α−ヘリックスAβペプチドの集団を増すことが知られる、10−30%(v/v)のトリフルオロエタノールのAβペプチド溶液に対する添加後、リガンドによる螺旋含量の増加はさらに著明になる。これらのデータは、試験されたリガンドが、その設計から予測されたように、ヘリックス形Aβに結合することを示す。
【0115】
試験されたリガンドの有用性を確認した外に、これは、本明細書に記載される、効果的リガンドの設計法を使用する有効性をも証明する。
【実施例4】
【0116】
リガンドがAβペプチドに結合する事実の確認
リガンドがAβに結合することをさらに実証するために実験を行った。これらの実験では、結合を示すのに蛍光発射におけるシフトを用いた。これらの実験では、リガンド2aまたは3(約10μM)を、トリフルオロエタノール添加または無添加において、リン酸ナトリウムpH7に溶解した。蛍光は、Hitachi F−4000分光光度計にて測定し、発射は、280nmで励起した後、300と430nmの間で測定した。
【0117】
リガンド2aおよび3は、これらのリガンドの中にトリプトファン残基があるために(図7および8)、280nm光で励起後蛍光発射を示した。リガンド2aまたは3を含む溶液にAβ(1−40)またはAβ(1−42)を加えると、蛍光生産は増加し(例えば、図12)、最大発射における波長は、約348nmから344nmにシフトした。
【0118】
Aβの存在下にリガンドを含む溶液の蛍光発射の変化は、リガンドと、不一致ヘリックスを含むAβペプチドとは、溶液において複合体を形成していることを示す。リガンドのAβ二次構造に及ぼす作用と同様、蛍光シフトは、トリフルオロエタノール無添加の場合より著明でなくなる。これは、リガンドが、α−ヘリックス立体配座を持つAβペプチドに対し好んで結合することを裏付ける。これらのデータからも、蛍光発射法は、リガンドについて、Aβペプチドと相互作用を持つその能力を調べるのに使用することが可能であることが示される。
【実施例5】
【0119】
リガンドのAβ原線維形成に及ぼす作用
リガンド添加および無添加における、Aβ(1−40)またはAβ(1−42)の原線維形成を、原線維結合性染料チオフラビンT(ThT)を用いて評価した。リガンド無添加でAβペプチドを約20μMから200μMの濃度で含む溶液、あるいは、様々なペプチド/リガンド比でペプチドとリガンドを含む溶液を、10mMリン酸バッファーpH7を溶媒として調製した。サンプルを、絶えず穏やかに振とうしながら37℃でインキュベートした。様々な時点で分液を取り出し、150mM NaClを含む10mMリン酸バッファーpH6に溶解した10μM ThTを用いてThT測定を行った。
【0120】
ThT蛍光測定を行う前、サンプルを暗黒中で10−15分インキュベートした。蛍光は、FarCyte(商標)(Tecan)を用い440nmで励起、480nmで発射の条件で測定した。サンプルは全て二重に測定した。
【0121】
アミロイド原線維の存在下ではThT蛍光は増す。リガンド無添加の状態では、Aβ(1−40)をインキュベーションすると、溶解後1から2時間でThT蛍光の増加が得られ、約2から3時間で最大のThT蛍光に達した。リガンド2aまたはリガンド3の存在下では、Aβ(1−40)によって誘発される蛍光はほとんど失われた(図13Aおよび13B)。リガンド2aおよび3は、ThT結合で測定すると、既に1:1リガンド/ペプチド比においてAβ(1−40)原線維形成の低下に効果的であった(図14)。リガンド/Aβ比を5に増すと、ThT蛍光はさらに低下したが、一方、リガンド/Aβ比10では、リガンド/Aβ比5の場合とほぼ同じ結果が得られた。リガンド2aおよび3では、Aβ原線維形成の低下が見られたのとは対照的に、Aβ不一致ヘリックスを安定化することが期待されないジペプチドArg−Glyは、Aβ原線維形成に対して何の作用も及ぼさなかった(図15)。
【実施例6】
【0122】
デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸リガンド
デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸(図16)は、リガンド5に関連し、および/または、リン酸塩がカルボン酸塩によって置換されたリガンドであるという点で、リガンド8および9の変異種である。実験は、実施例5に記載したようにThT法を用いて、デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸の、原線維形成を抑制する能力を試験するために行われた。簡単に言うと、デカノイルグルタミン酸またはパルミトイルグルタミン酸の添加または無添加における、Aβ(1−40)またはAβ(12−28)の原線維形成を、原線維結合性染料チオフラビンT(ThT)を用いて評価した。溶液は、リガンド無添加で、または、各種リガンド/ペプチド比において、Aβペプチドを約20μMから200μMの濃度で含んでいた。これらの実験におけるAβペプチドの濃度は25μMであった。図17Aおよび17Bに示す比は、リガンド/Aβのモル比である。ペプチド/リガンドサンプルは、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7で調製した。サンプルは、絶えず穏やかに振とうしながら37℃でインキュベートした。様々の時点で、分液を取り出し、ThT測定を、150mM NaClを含む10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH6に溶解した10μM ThTを用いて実行した。
【0123】
ThT蛍光測定を行う前、サンプルを暗黒中で10−15分インキュベートした。蛍光は、FarCyte(商標)(Tecan)を用い440nmで励起、480nmで発射の条件で測定した。サンプルは全て二重に測定した。
【0124】
デカノイルグルタミン酸は、全ての濃度において、Aβ原線維形成の量を下げた。ただし、デカノイルグルタミン酸対Aβ(1−40)のモル比5が、原線維形成の低下においてもっとも効果的であった(図17A)。同様に、パルミトイルグルタミン酸は、全てのリガンド/Aβ比において、Aβ原線維形成の量の低下に対し効果的であったが、モル比5および10は、その効力がほぼ同じであった(図17B)。
【0125】
これらのデータは、デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸リガンドが、Aβ原線維形成の量の低下に対し有用であること、従って、これらのリガンドは、Aβ原線維の存在によって特徴づけられる障害の治療に有用であることを示す。
【実施例7】
【0126】
インビボにおけるリガンド3の作用
リガンド3は、アルツハイマー病ショウジョウ蝿(Drosophila melanogaster)モデルの寿命を延ばす。
【0127】
リガンド3(Ac−D−Glu−Dab(Arg−D−Trp)に関するインビトロの結果から、該リガンドの存在下ではAβ凝集の低下が示され、この所見は、インビボモデルにおけるリガンド3の作用に関する研究を促した。ショウジョウ蝿が神経細胞においてAβ1-42を発現する、アルツハイマーモデルを用いた(Crowther et al., 2005, Neuroscience 132:123−125)。リガンド3の作用を評価するために、Aβ1-42遺伝子の2コピーを発現するショウジョウ蝿について寿命を観察した。これらのAβ発現性蝿は、野生型蝿に比べて、生存率が著明に低下した(Crowther et al., 2005、上記)。
【0128】
この実験では、Aβ発現性蝿には、幼虫段階からリガンド3を食餌として与えたが、二つの異なる実験条件下において、未処置の蝿に比べ、寿命の有意な延長がもたらされた。28℃、低湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる650μMのリガンド3は、平均生存時間を延長した(図18)。同様に、29℃、高湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる134μMのリガンドは、平均生存時間を延長した(図19)。Aβを発現しないコントロール蝿では、前述のものと同じ条件下で650μMのリガンド3を与えられた後も、生存率(寿命)の平均値に対する作用に統計的に有意な差が見られないことから示されるように、リガンド3の作用はAβ発現性蝿に対して特異的である(図20)。
【0129】
これらのデータは、Aβ有害作用の緩和に関連するリガンド3によって誘発される生存作用の用量−反応関係を示す。
【0130】
一般に、これらのデータは、アルツハイマー病と関連する異常なアミロイドペプチドを発現する生物の生存率に及ぼすリガンド3の功利的作用を示す。
【実施例8】
【0131】
インビトロにおけるリガンド7aの作用
リガンド7aは、Aβの二次構造、およびインビトロ原線維形成に影響を及ぼす
もう一つの候補化合物が、アルツハイマー病または関連障害を治療するのに有用な化合物を示す作用を提示するかどうかを調べるために実験を行った。
【0132】
一組の実験では、円偏光二色分光光度計測を用いて、リガンド7a(デカノイルトリアミン)の存在下におけるAβのα−ヘリックス含量を調べた。この実験では、Aβ12-28を、リガンド7aの1:1モル比の存在下に、20%トリフルオロエタノール水溶液に溶解し、リガンド無添加のAβペプチドと比較した。リガンド7aを含むサンプルでは、Aβ12-28のα−ヘリックス含量の増加が示された(図21)。
【0133】
Aβ1-40との凝集を、チオフラビンT(ThT)蛍光測定値を用いて監視した。リガンド添加または無添加条件下にインキュベートしたサンプルにおけるThT蛍光の変化を観察することによってAβ凝集の速度を求めた。リガンドと共にインキュベートしたAβ1-40では、独自に凝集したAβ1-40と比べて、蛍光の増加は速やかで、かつ大きかった(図22)。
【0134】
Aβ凝集に及ぼすリガンド7aの作用をさらに調べるために透過型電子顕微鏡観察を用いた。リガンドと共にインキュベートしたAβ1-40では、Aβ単独によって形成された原線維とは異なる形状を持つ原線維が形成された(図23)。リガンド誘発による原線維は、正常のAβ原線維よりも、平均直径約10nm(Aβ単独:6.5nm)、平均長165nm(Aβ単独:>1500nm)で、短く、太かった。
【0135】
SDS−PAGEによる分析では、リガンド7aと共にインキュベートしたAβ1-40では、Aβ単独と比べると、ペレットにおけるペプチド量が大きいこと、3時間後に上清からペプチドが完全に消失することから示されるように(図24)、凝集がより速やかであった。
【0136】
リガンド誘発による原線維の凝集速度および形態において観察された差から、原線維のプロテアーゼ耐性に関する研究へとさらに導かれた。リガンド7a添加および無添加において形成されたAβ1-40の原線維を、最大2時間プロテアーゼKで処理し、得られたAβの分解をSDS−PAGEを用いて評価した。2時間後、リガンド7a無添加下に形成された原線維は、相当量がそのまま存在したが、一方、リガンド7a添加下に形成された原線維は、ほとんど完全に分解された(図25)。これらのデータは、リガンド7aの存在下に形成される原線維は、タンパク分解酵素によってより容易に分解される点で、典型的Aβ原線維とは異なることを示す。
【0137】
これらのデータは、リガンド7aは、Aβの作用を緩和することが可能な、例えば、Aβ関連疾患、例えばアルツハイマー病の治療に有用な化合物と一致する性質を持つことを示す。
【実施例9】
【0138】
リガンド7aのインビトロにおける作用
リガンド7aは、アルツハイマー病のショウジョウ蝿モデルにおいて寿命を延ばし、運動活性を増す。
【0139】
アルツハイマー病、または関連障害の治療に有用な化合物としてのリガンド7aの効力を調べるために、リガンド7aの作用を、アルツハイマー病のインビボモデルで試験した。使用したモデルは、(Crowther et al., 2005、上記)に記載されたもので、ショウジョウ蝿が、神経細胞においてAβ1-42を発現するように遺伝子工学的に処理されたものである。リガンド7aの作用を評価するために、Aβ1-42遺伝子の2コピーを発現するショウジョウ蝿について寿命を観察した。これらのAβ発現性蝿は、野生型蝿に比べて、生存率が著明に低下した(Crowther et al., 2005、上記)。
【0140】
この実験では、Aβ発現性蝿には、幼虫段階からリガンド7aを食餌として与えた。この処方では、二つの異なる実験条件下において、未処置の蝿に比べ、寿命の有意な延長がもたらされた。28℃、低湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる4.5mMのリガンド7aは、平均生存時間を21日から23日に(P<0.0001)(図26)、もう一組の蝿では21日から22日に延長した(P<0.0124)。29℃、高湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる4.5mMのリガンド7aは、平均生存時間を3日延長した(P<0.0001)(図27A)。一方、45μMでは、平均生存時間において2日間の延長が得られた(P<0.001)(図27B)。これらのデータは、リガンド7aによって誘発される作用には用量−反応関係のあることを示唆する。
【0141】
Aβを発現しないコントロール蝿では、同じ条件下でリガンドを与えられても、生存率の平均値に作用が見られないことから示されるように、リガンド7aの作用はAβ発現性蝿に対して特異的である(図28)。
【0142】
最後に、Aβ1-42を発現するショウジョウ蝿は、運動活性の進行性喪失を示し、ほとんど完全に動けなくなる(Crowther et al., 2005、上記)。運動性における明瞭な改善が、リガンド7aを与えられたAβ発現蝿に観察された。登攀アッセイでは、4.5mMのリガンド7aで処置したAβ発現蝿では、9匹の内6匹が試験管の上半分に達したのに対し、未処置蝿では10匹の内僅か1匹しか同じ距離を登らなかった。
【0143】
他の実施例
本発明は、その詳細な説明と関連させて記載されてきたわけであるが、前記説明は、本発明の範囲を具体的に説明することを意図するものであって、限定することを意図するものではないことを理解しなければならない。本発明の範囲は、付属の特許請求項によって定義される。他の局面、利点、および修飾も、頭書の特許請求項の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、式1(リガンド1)の化学構造の描画である。
【図2】図2は、Aβ(12−28)の全体螺旋構造からスタートして20psの分子運動力学シミュレーション後に得られた、リガンド3(図の上部の明色円筒体によって示される)、およびAβ(12−28)(図の下部の暗色円筒体によって示される)の複合体構造の描画である。
【図3】図3は、分子運動力学シミュレーション前におけるAβ(12−28)の完全な螺旋構造の描画である。
【図4】図4は、リガンド不在下に、完全な螺旋構造からスタートして20psの分子運動力学シミュレーション後に得られたAβ(12−28)の構造の描画である。
【図5】図5は、リガンド2(一般構造)およびリガンド2a−2eの化学構造の描画である。
【図6】図6は、リガンド4および5の化学構造の描画であり、Aβの対応部分がα−ヘリックスを形成する場合、該リガンドと相互作用を持つAβアミノ酸残基の側鎖の名前を特定する。
【図7】図7は、リガンド3の化学構造の描画であり、Aβの対応部分がα−ヘリックスを形成する場合、該リガンドと相互作用を持つAβアミノ酸残基の側鎖の名前を特定する。
【図8】図8は、リガンド2aの化学構造の描画であり、Aβの対応部分がα−ヘリックスを形成する場合、該リガンドと相互作用を持つAβアミノ酸残基の側鎖の名前を特定する。
【図9】図9は、リガンド7(n=4−18)、7a(n=8)、8(n=1−16)、8a、および9の化学構造の描画である。
【図10A】図10Aは、リガンド10(n=5−13、例えば、n=9−13)、10a(n=13)、11(n=9)、12(n=5−13、例えば、9−13)、12a(n=13)、13、14(n=5−13)、および、リガンド14a(n=13)の化学構造の描画である。
【図10B】図10Bは、リガンド18(n=3−17)、およびリガンド19(n=3−17)の化学構造の描画である。
【図11】図11は、Aβ(12−28)(明線)、および、式1のリガンド(リガンド3)と1:1モル比で混合したAβ(12−28)(暗線)に関する、円偏光二色分光光度分析の結果を示すグラフである(Aβ/リガンド混合物のスペクトラムは、222nmに最低値および195nmに最高値を持つものである)。リン酸ナトリウムバッファー、pH7、30%(v/v)トリフルオロエタノール、20℃。リガンドのスペクトラムを、Aβ−リガンド混合物のスペクトラムから差し引いた。
【図12】図12は、式1のリガンド(リガンド3)(左コラム)、および、30%(v/v)トリフルオロエタノールを含むリン酸ナトリウムバッファーpH7において1:1モル比で該リガンドと混合したAβ(1−40)(右コラム)の、トリプトファン蛍光発射分析の結果を示す棒グラフである。発射最大値は、リガンドのみの場合348nmで見られるが、複合体では344nmで見られた。励起は、20℃で280nmにおいて行った。
【図13A】図13Aは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に定量し、かつ、Aβ(1−40)を、リガンド3と5:1または10:1のリガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を定量した実験の結果を示すグラフである。
【図13B】図13Bは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に定量し、かつ、Aβ(1−40)を、リガンド2aと5:1または10:1のリガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を定量した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図14】図14は、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において1.5時間インキュベーションした後に検出し、かつ、Aβ(1−40)を、リガンド3またはリガンド2aと1:1、5:1または10:1のリガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を定量した実験の結果を示す棒グラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図15】図15は、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に検出し、かつ、Aβ(1−40)を、ジペプチドArg−Glyと5:1リガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を検出した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図16】図16は、リガンド15(n=3−17)、リガンド16(n=7;デカノイルグルタミン酸)、およびリガンド17(n=13;パルミトイルグルタミン酸)の化学構造の描画である。
【図17A】図17Aは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に検出し、かつ、リガンド16(デカノイルグルタミン酸)をAβと各種モル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を検出した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図17B】図17Bは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に検出し、かつ、リガンド17(パルミトイルグルタミン酸)をAβと各種モル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を検出した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図18】図18は、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた650μMのリガンド3による処置(+リガンド3、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数を求めた実験の結果を示すグラフである。プロットデータは、羽化後の指示日数における、それぞれのグループの生存蝿の数である。また、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される(p=0.0035)。
【図19】図19は、(処置なし、黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた134μMのリガンド3による処置(+リガンド3、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数を求めた実験の結果を示すグラフである。また、この実験において、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。
【図20】図20は、(処置なし、灰色線)でAβ(1−42)を発現しない野生型ジョウジョウ蝿(WIII8)、または、餌に含ませた650μMのリガンド3による処置(+リガンド3、黒色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数を求めた実験の結果を示すグラフである。
【図21】図21は、Aβ(12−28)単独(実線)、または、20%トリフルオロエタノールに溶解した、Aβ(12−28)プラス当量のリガンド7a(破線)に関する、円偏光二色(CD)スペクトラムを示すグラフである。リガンド7a単独では全くCD作用は見られなかった。
【図22】図22は、Aβ(1−40)単独、または、指示のモル比のリガンド7aを有するAβ(1−42)、または、リガンド7a単独を、37℃で指示の時間インキュベーション後に見られたチオフラビンT蛍光定量実験の結果を示すグラフである。
【図23】図23は、Aβ単独(左パネル)、またはAβプラスリガンド7a(右パネル)によって形成される原線維の電子顕微鏡写真の複製である。
【図24】図24は、単独でインキュベートしたAβ、または、リガンド7aの存在下にインキュベートしたAβについて、16,000xgの遠心後、ペレットまたは上清(Sup)におけるAβの量を示す棒グラフである。
【図25】図25は、Aβ原線維(実線)、または、モル比で10倍過剰なリガンド7aの存在下に形成されたAβ原線維(破線)について、37℃で指示の期間プロテイナーゼKで処理した後に残存する線維状Aβの相対量を定量する実験の結果を示すグラフである。
【図26】図26は、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた4.5mMのリガンド7aによる処置(+リガンド7a、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数で表した生存率データを示すグラフである。処置蝿および未処置(非処置)蝿(各グループn=110)について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。p=0.0001
【図27A】図27Aは、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた4.5mMのリガンド7aによる処置(+リガンド7a、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿における生存率データを示すグラフである。また、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。
【図27B】図27Bは、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた45μM(下段グラフ)のリガンド7aによる処置(+リガンド7a、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿における生存率データを示すグラフである。また、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。
【図28】図28は、(処置なし、灰色線)でAβ(1−42)を発現しない野生型ジョウジョウ蝿(WIII8)、または、餌に含ませた4.5mMのリガンド7aによる処置(+リガンド7a、黒色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿における生存率データを示すグラフである。
【図29】図29は、式1およびリガンド2の化合物を合成するための全体的スキームを示す模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドーシスを治療する化合物および方法に関する。
関連出願への相互参照
【0002】
本出願は、2005年2月28日出願の米国特許出願第60/657,339号に対する優先権を主張する。なお、この出願の全体を参照することにより本明細書に含める。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、特異的タンパクが、その天然状態から、アミロイドと呼ばれる規則的な原線維の束に変形する病態の一例である。アミロイド原線維は、β−ストランド立体配座を持つポリペプチド鎖から構成され、ポリペプチド鎖は、原線維の長軸に対して垂直に走るβ−シートを形成する(Serpell, 2000, Biochem. Biophys. Acta 1502:16−30; Makin et al., 2005, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:315−320, 2005年1月3日発行)。一般に、ADと関連するアミロイドプラークには、40または42残基のAβペプチドが存在し、Aβ原線維の形成が、この破壊的疾患の原因の一部と考えられている(Selkoe, 2000, J. Am. Med. Assoc. 283, 1615−1617)。死後における、AD患者の大脳皮質におけるAβの量は、病気の進行と相関しており、このことはさらに、Aβが正当な治療標的であることを示す(Naeslund et al., 2000, J. Am. Med. Assoc. 283, 1571−1577)。Aβは、大型の膜貫通タンパク、アミロイド前駆体タンパク(APP)のタンパク分解酵素による切断によって生成される。APPの膜貫通ヘリックスは、Aβにおける残基29に対応する位置からスタートすることが予測されている。β−セクレターゼによる切断がAβペプチドのN−末端を生成し、膜連結性のC−末端根部を残し、この根部がγ−セクレターゼによって切断され、遊離Aβを生成すると考えられている。Aβの残基16のC−末端のα−セクレターゼによる切断は、非アミロイド性ペプチドを生成する(Esler and Wolfe, 2001, Science 293:1449−1454; Selkoe, 1999, Nature 399:A23−A31)。遺伝型の若年性ADは、APPの三つの領域における点突然変異と関連する。これらの領域の内二つは、AβのN−およびC−末端の直近に位置し、Aβ(1−40)および/または比較的アミロイド生産性を持つ変異Aβ(1−42)の生産上昇と関連する傾向がある。第3領域は、Aβの位置Ala21、Glu22、およびAsp23を含むが、これらの残基の突然変異と関連する病原機構は必ずしも全て理解されてはいない(Haass and Steiner, 2001, Nat. Neurosci. 4:859−860)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Aβの不一致α−ヘリックスの一面に対して構造的に相補的であり、Aβの該不一致ヘリックスに結合し、安定化する化合物(リガンド)を設計した。これらのリガンドの内のあるものが、Aβアミロイド原線維の形成を抑える能力を持つことが試験によって確かめられた。このようなリガンドは、アルツハイマー病(AD)、または関連障害の治療に有用である可能性がある。さらに、例えば、アルツハイマー病と関連するAβペプチド、および、そのようなペプチドを含むタンパクのα−ヘリックス構造の消失を抑制することのできる化合物も含まれる。従って、本発明は、AβペプチドのLys16の側鎖、AβペプチドのHis13の側鎖、AβペプチドのGlu23の側鎖、AβペプチドのPhe19の側鎖、AβペプチドのPhe20の側鎖、およびAβペプチドのAsp22の側鎖の内の少なくとも二つと相互作用を持つことが可能な化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩に関する。ある局面では、化合物は、前記基の内の少なくとも3個(例えば、基の内の少なくとも4個)と相互作用を持つことが可能である。ある局面では、化合物は、Aβペプチドにおけるα−ヘリックスの低下を抑えることが可能である。
【0005】
もう一つの実施態様では、本発明は、式1の化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩および水和物を提供する。すなわち、
【0006】
【化1】
式1
上式において:
n1は、(CH2)1-4であり;
n2は、(CH2)1-4であり;
n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、−C=NH(NH2)、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【0007】
ある実施態様では、化合物は、リガンド2、リガンド2a−2eの内の任意の一つ、リガンド3、リガンド4、リガンド5、リガンド6、リガンド7、リガンド7a、リガンド8、リガンド8a、リガンド9、リガンド10、リガンド10a、リガンド11、リガンド12、リガンド12a、リガンド13、リガンド14、リガンド14a、リガンド15、リガンド16、リガンド17、リガンド18、またはリガンド19である。
【0008】
ある場合には、本発明は、本明細書に提示される化合物の内の少なくとも一つ、および製薬学的に受容可能な賦形剤、希釈剤、または担体を含む組成物に関する。
【0009】
本発明はまた、α−ヘリックス形を持つAβペプチドの消失を抑える方法に関する。方法は、本明細書に提示するやり方で、Aβペプチドを式1のリガンドと接触させることを含む。別の実施態様では、本発明は、β形を持つAβの量を下げる方法に関する。方法は、Aβペプチドを、本明細書に提示するリガンドと接触させることを含む。
【0010】
さらに別の実施態様では、本発明は、Aβ凝集体の形成を低減する方法に関する。方法は、Aβペプチドを、本明細書に提示するリガンドと接触させることを含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの実施態様では、本発明は、Aβペプチド関連障害を治療するための候補化合物となる化合物を特定する方法であってもよい。方法は、本明細書に提示される化合物(リガンド)を準備すること、Aβペプチドを該化合物に接触させること(それによってサンプルを準備すること)、サンプルにおける、αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を定量すること、αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を基準と比較することを含み、比較は、基準に比べ、サンプル中のαヘリックス形のAβペプチドの量が増しβ形のAβペプチドの量が減った化合物が候補化合物であるとして行われる。ある場合には、β形のAβペプチドの量は、チオフラビンTを用いて定量される。ある局面では、Aβペプチドはインビトロで調製される。ある場合には、Aβペプチドは、動物、例えば、マウス、ラット、ショウジョウ蝿、またはヒトの体内で調製される。
【0012】
もう一つの実施態様では、本発明は、Aβペプチド関連障害を患う危険性のある、または現に患う被験者を処置する方法に関する。方法は、Aβペプチド関連障害(例えば、アルツハイマー病、ダウン症候群、ボクサー認知症、または重度の頭部外傷)を患う危険性のある、または現に患う被験者を特定すること、および、本明細書に提示される化合物の治療有効量を、該被験者に投与することを含む。本発明のある局面では、被験者は哺乳動物(例えば、ヒト)である。
【0013】
「Aβペプチド」とは、一般に、アミロイド前駆体タンパク(APP)の不一致ヘリックスを含むAβペプチドである。一般に、Aβペプチドは、Aβ1−39とAβ1−43の間(例えば、Aβ1−40、またはAβ1−42)、Aβ(12−24)、Aβ12−28、またはAβ(14−23)となる場合がある。一般に、インビトロアッセイに使用されるAβペプチドは、β形を形成し、次いで原線維を形成するAβペプチド、例えば、Aβ(1−42)である(例えば、Selkoe, 2000, JAMA 283:1615−1617)。
【0014】
「不一致ヘリックス」とは、αヘリックスを形成することが可能であるが、同時にβストランドを形成することも可能であると予測されるアミノ酸配列である。不一致ヘリックスは、ペプチドの二次構造を予測する構造分析プログラムを用い、特に、実験的(例えば、NMR、または結晶学)に決定されたα−ヘリックスのアミノ酸配列を分析することによって、さらに、予測されるβ−ストランドのアミノ酸配列を分析することによって特定することが可能である。実験的にα−ヘリックスを形成することが決定され、かつ、β−ストランドを形成すると予測される配列は不一致ヘリックスである。不一致ヘリックスアミノ酸配列は、単離ペプチドであってもよいし、またはポリペプチドの一部であってもよい。不一致ヘリックスは、野生型または突然変異ポリペプチドにおいて天然に生じる可能性がある。不一致ヘリックスはまた、合成アミノ酸配列として現れてもよい。一般に、不一致ヘリックスアミノ酸配列は、長さが少なくとも約6アミノ酸長である。このアミノ酸配列は、もっと長くてもよく、例えば、7、8、9、10、11、12、14、16、18、22、24、または26アミノ酸長であってもよい。不一致ヘリックスはまた、α−ヘリックスを形成することが予測されるか、実験的に形成することが示され、かつ、β−ストランドを形成することが予測されるか、実験的に形成することが示される配列を特定することが可能な他の方法を用いて決定することも可能である。
【0015】
「ポリペプチド」とは、長さまたは翻訳後修飾と無関係に、アミノ酸鎖を意味する。
【0016】
予測された不一致ヘリックスを含むポリペプチドの「アミロイド非形成形態」とは、α−ヘリックスが、不一致アミノ酸配列の主要立体配座となるタンパクの形態である。不一致ヘリックスにおけるα−ヘリックス立体配座を促進する化合物は、アミロイド形成の阻止に有用である。アミロイド非形成形態は、対応配列(例えば、対立遺伝子)よりも高頻度でα−ヘリックス立体配座を持つことが予測される不一致配列の形態となりうる。
【0017】
アルツハイマー病と関連する障害は、APPタンパク由来のペプチドが存在することが証明された、または存在することが疑われる障害である。そのような障害としては、ボクサー認知症、ダウン症候群、および重度の頭部外傷が挙げられる。
【0018】
別様に定義されない限り、本明細書で用いられる技術用語および科学用語は全て、本発明の属する当業者によって通常理解されるものと同じ意味を持つ。本発明を実行するのに好適な方法および材料が後述されるが、本明細書に記載されるものと類似の、または等価的な方法および材料も、本発明の実行または試験において使用することが可能である。本発明において引用される、特許出願、特許、および他の参考文献も、引用することにより本明細書に含める。材料、方法、および実施例は単に例示的なものであって、限定的であることを意図するものではない。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
Aβ不一致ヘリックスの安定化は、β立体配座ペプチドの量を減らし、従って形成されるアミロイドの量を減らすことが可能である。Aβ不一致ヘリックスに結合することが可能な化合物を、分子モデル化法を用いて設計した。Aβの残基Lys16、Phe20、Asp22、Glu23、およびHis13の側鎖を、所望のリガンドによって標的とした。簡単な分子運動力学シミュレーションにおいて、前記リガンドの内の任意のものをAβに1:1複合体として結合させると、Aβ不一致ヘリックスの立体展開を遅らせるか、阻止する。この相互作用は、いくつかのやり方で実験的に確認された。リガンド/Aβモル比が1から10の範囲においてリガンドをAβに付加すると、それは下記をもたらすことが判明した。すなわち、(i)リガンドのトリプトファン蛍光の変化によって確かめられるようにAβ−リガンド複合体の形成(図12)、(ii)円形複屈折性分光光度測定によって調べられるようにAβのヘリックス含量の増大、および、(iii)チオフラビンT蛍光の蓄積によって調べられるようにAβの原線維形成の低下、である。トリフルオロエタノールの付加によってα−ヘリックスの含量を増すと、それは、Aβ−リガンド結合の増大をもたらし、リガンドが、その設計から予測されるような働きをすることを示した。従って、Aβ不一致ヘリックスの安定化は、原線維形成(fAβ)の減少をもたらす、ヘリックス結合リガンドをAβに提示することによって実現することが可能である。このような化合物は、インビボにおけるAβ凝集および原線維形成の抑制にも有用であり、従って、そのような化合物は、Aβの凝集を下げることが望ましい病態、特に、アルツハイマー病(AD)および関連障害の治療のための候補薬となる。一般に、本明細書に記載される化合物は、Aβペプチドをα−ヘリックス立体配座において安定化することが可能である。安定化されたAβペプチドは、リガンドを欠くペプチドに比べて、α−ヘリックス立体配座を取る確率が増える。
【0021】
従って、ある局面では、本発明は、Aβペプチド構造を安定化する化合物、例えば、fAβの蓄積と関連する疾患、例えば、アルツハイマー病を治療するための候補薬を設計し特定する方法に関する。本発明はまた、該障害を患う患者、または該障害を患う危険性のある患者に対し該化合物を投与することによって上記障害を治療または予防する方法に関する。
【0022】
本発明は、式1の化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩および水和物を提供する。すなわち、
【0023】
【化2】
式1
上式において:
n1は、(CH2)1-4であり;
n2は、(CH2)1-4であり;
n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、−C=NH(NH2)、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【0024】
下記は、好適なR基の非限定的例である。
【0025】
一つの実施態様では、R1は、−C=N(NH2)である。
【0026】
一つの実施態様では、R2は、−C(O)OHである。
【0027】
一つの実施態様では、R3は、−C(O)OHである。
【0028】
一つの実施態様では、R4は、アミンである。
【0029】
一つの実施態様では、R5は、トリプトファンである。
【0030】
一つの実施態様では、R6は、−NHC(O)CH3である。
【0031】
本明細書に記載される化合物、例えば、式1および式2(リガンド2)の化合物合成の全体的スキームを図29に示す。この合成は、一般に、集合、および保護/脱保護のためのペプチドおよび一般的アミド合成法を用いて実行される。R1−9は、H、官能基、保護基、天然または非天然のアルファ、ベータ、ガンマ、およびデルタアミノ酸等を持つか、または持たないアルキル基、あるいは、これらの官能基の内のいくつかを含む基、であってもよい。X=OH、またはその塩、または、他の官能基(例えば、活性エステル、ハロゲン誘導体等)が、新たな結合を作製するために用いられてもよい。「結合」は、従来技術で一般的に知られる、数多くの方法および縮合剤の内の任意のものを用いて実行が可能である。建造ブロックの集合の順序も変更が可能である。
【0032】
スキームの中に描かれるアミド結合も、エステル結合およびN−アルキル化アミド結合によって置換され、本明細書に記載される方法と類似の方法によって合成されてもよい。描かれるアルファCH基のどちらかの側に、さらにメチレン、またはメチン置換基を付加する建造ブロックも、類似の技法を用いて組み立てることが可能である。描かれているアルファCH基のHが、アルキル基、またはアルキル置換基によって置換された場合でも合成を実行することが可能である。
【0033】
化合物を合成するための補足的ガイダンスが実施例において与えられる。
α−ヘリックス立体配座を安定化する化合物の特定
本発明は、化合物がADを治療するのに有用であることを示す、下記の特徴の内の少なくとも一つについて設計化合物をスクリーニングする方法を含む。その特徴とは、Aβペプチドのα−ヘリックス形の量を安定化または増大させる能力、Aβペプチドのβ形の量を減少させる能力、Aβペプチドのβ形の蓄積を遅らせる能力、Aβペプチドの原線維形成量を抑制する能力、すなわち、Aβペプチドサンプルにおける不一致ヘリックスの量に対する化合物の作用、である。補足的特徴としては、AD様病理に対して感受性を持つ、または、Aβ含有構造の形成に対して感受性を持つ動物における、Aβ原線維またはアミロイドプラークの蓄積速度または合計量における減少が挙げられる。さらに、ADまたは関連障害の症状の蓄積速度の低下(例えば、記憶喪失速度の低下)について、動物またはヒトを評価してもよい。本明細書に記載される化合物によって治療された動物またはヒトにおいて、症状の蓄積速度に減少が見られた場合、それは、その化合物が、ADまたは関連障害の治療に有用であることを示す。
【0034】
Aβ不一致ヘリックスの量は、特定の化合物の存在下および不在下において、Aβポリペプチドを含むサンプルにおけるα−ヘリックスの量を測定することによって定量することが可能である。α−ヘリックス、または別態様としてβ−構造の存在を検出する好適な方法があれば、それがどんなものであっても、試験化合物について、それら化合物のAβ不一致ヘリックスのα−ヘリックスを安定化する能力についてスクリーニングするのに使用することが可能である。このような方法として、NMR(例えば、Johansson et al., 1994, Biochemistry 33:6015−6023)、円偏光二色性(CD)(Johansson et al., 1995, FEBS Lett. 362:261−265; Wang, 1996, Biochim. Biophys Acta 1301:174−184)、およびフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR; Vandenbussche, 1992, Biochemistry 31:9169−9176)が挙げられる。α−ヘリックス安定性は、試験化合物の存在および不在下に、例えば、エレクトロスプレイ(ES)質量分析を用いて得られる、ペプチド/タンパクの可溶性α−ヘリックス形の量の減少率(例えば、α−ヘリックス形の半減期)から評価することが可能である。水素対重水素(H/D)交換質量分析と組み合わせた、ES、またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析も、不一致ヘリックスにおけるα−ヘリックス立体配座の存在および/または安定性に関するアッセイに使用することが可能である。この方法では、不一致ヘリックス含有ポリペプチドの可溶形におけるH/D交換の反応速度が試験される。
【0035】
特定残基におけるH/D交換速度は、NMRによって定量することが可能である。そのようなNMR分析は、一般に、高濃度の純粋サンプル、および測定のために長時間を必要とし、ある種のポリペプチドに関する分析を困難にする。これらの問題は、質量分析を適用することによって一部は解決される。ESまたはMALDI質量分析のいずれかを用いると、H/D交換レベルを低濃度で監視することが可能である。分析時間は短くなり、ペプチド混合物を分析することが可能となる。従って、タンパク混合物のH/D交換の相対速度を調べるには、質量分析が特に有用な技術である(Hosia et al., 2002, Mol. Cell. Proteomics 1(8):592−597)。
【0036】
質量分析は、α−ヘリックスの形成に与る相互作用のように、タンパクに関与する非共有的相互作用を研究するのに使用が可能な技術である。質量分析を用いて非共有的相互作用を直接調べるには、タンパクができるだけ非変性状態にあることが重要である。これは、質量分析のためのイオン化法としてMSを用いることによって実現が可能である。ESは、有機共溶媒無添加の状態で生理的pHの水溶液として存在するタンパクを噴霧することを含む(Pramanik et al., 1998, J. Mass Spectrom. 33:911−920)。その天然の状態におけるタンパクの分析にESを用いる際に必要なもう一つの要件は、ESインターフェイス内部の脱集合電圧の慎重な調節である。過度の電位差は、衝突による解離、または、非共有的連結の破壊をもたらす可能性がある。
【0037】
ES−質量分析
非共有的相互作用、および三次元構造および安定性に関する情報を得るために、質量分析がH/D(水素/重水素)交換と組み合わせて用いられる(Smith et al., 1997, J. Mass Spectrom. 32:135−146; Mandel et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:14705−14710)。ES−質量分析では、四重極飛行時間型(TOF)装置(Micromass, マンチェスター、英国)を用いてスペクトラムが記録される。装置には、4重極質量フィルターから成る、直角サンプリング・ナノESインターフェイス(Z−スプレイ)、6極衝突セル、および、リフレクトロンを備えた直角配置TOF分析器が設けらる(Morris, 1996, Rapid Commun. Mass Spectrom. 10:889−896)。サンプルは、金でコーティングしたホウケイ酸ガラス毛細管(Protana A/S、デンマーク)から噴霧される。衝突性解離(CID)のために、適切な衝突ガス、例えば、アルゴン(AGA、スウェーデン)が用いられる。Aβペプチドの各種形態の、溶液から消滅する(例えば、α−ヘリックス形の消滅)相対速度を定量するために、好適な獲得範囲、例えば、m/z 135−4000が選択される。5秒間持続の300走査を各時点で記録し、合わせて一つのスペクトラムとする。単一プロトン化、および複数プロトン化、例えば二重および三重プロトン化分子の合計量に対応するイオン電流が、最大エントロピーソフトウェア(Micromass)によって求められる。ポリペプチドの構造を確かめるためにCIDスペクトラムが記録される。H/D交換では、ES質量分析スペクトラムを連続記録することによってH/D交換反応の速度が監視される。特定の時点で、対象とするタンパクのH/D交換形に対応するイオンに対しCIDを実施する。交換されたプロトンの場所は、得られた断片化スペクトラムによって示される。
【0038】
MALDI質量分析
MALDI質量分析スペクトラムは、例えば、陽イオンモードで操作されるVoyager−DE.TM.PRO Biospectrometry Workstation (PerSeptive Biosystems Inc.)で記録することが可能である。H/D交換スペクトラムの記録のために、CH3CN/D2Oの溶液から調製し、あらかじめ乾燥させたα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(20μg)を含む表面(例えば、100ウェルプレート)において重水化または非重水化ポリペプチドを乾燥させる。装置は335nmレーザーを備え、遅延抽出採用の直線モードで操作する。適切な獲得範囲(例えば、m/z 3500−4000)を使用し、外部較正(例えば、m/z 3660.19と5734.58の間)を用いる。スペクトラムは、獲得数(例えば、400回の獲得数)の平均として計算され、一般に、各時点について3重サンプルが記録される。各時点において重水によって交換されたプロトンの数は、重水化溶媒におけるペプチドの質量から、プロトン化溶媒におけるペプチドの質量を差し引くことによって計算される。これは、例えば、現在進行中の分子内ジスルフィド形成を補正するために行われる。このような分子内ジスルフィド形成は、ES CIDによって観察が可能である。ESと組み合わせたMALDIによって測定されるH/D交換速度を比較する実験では、同一の溶液をMALDIプレートに滴下し、ES毛細管から噴霧する。
【0039】
減衰曲線から速度定数を求める
質量分析データから速度定数の推定が、例えば、Matlab.RTMバージョン5.3(Mathworks, Natick、マサチューセッツ州、米国)の非直線的最小二乗回帰を、Mathworks Optimization Toolboxのルーチンに従って用いることによって実行される。絶対濃度は、データからは得られないが、ヘリックス展開は一次反応なので、これは要求されない(例えば、Szyperski, 1998, Protein Sci. 7:2533−2540)。その代わりに、非直線的回帰では、イオンカウントが、この計測値は各ペプチドについて濃度に比例すると仮定して、濃度単位として用いられる。速度定数の、僅かな標準偏差が、目的関数の標準的直線化工程によって計算される(Seber et al., 1988, 「非直線回帰(“Non−linear Regression”)」、John Wiley & Sons, New York)。
【0040】
試験化合物のアッセイ
本明細書に記載される化合物は、不一致ヘリックスを含むAβペプチドのα−ヘリックス形を安定化する能力についてアッセイされたことがある、あるいは、これからアッセイすることが可能である。本明細書に記載された方法が、そのようなアッセイに使用することができる。典型的には、試験化合物は、ポリペプチドを含む溶液に加えられ、ヘリックス構造の含量、または、ペプチドのα−ヘリックス形が溶液から消失する速度が、例えば、CD、FTIR、NMR分光光度計測、ES−質量分析、またはMALDI質量分析によって定量される。原線維形成に及ぼす試験化合物の作用も後述のようにして定量される。試験化合物の存在下および不在下における、ヘリックス含量およびα−ヘリックスの消失速度が定量される。試験化合物の存在下における、ヘリックス含量の増大、および/または溶液からα−ヘリックスが消失する速度の低下は、該試験化合物が、ADまたは関連障害を治療するのに有用な候補化合物であることを示す。
【0041】
別態様として、Aβペプチド含有不一致ヘリックスを含む溶液を、試験化合物の存在下に一定時間インキュベートした後、α−ヘリックスの量を定量し、その量を、該試験化合物の不在下に同じ時間インキュベートしたポリペプチド中に存在するα−ヘリックスの量と比べることが可能である。試験化合物を含まない溶液に比べ、試験化合物を含む溶液中のポリペプチドのα−ヘリックス形の量が大きい場合、それは、試験化合物が、ペプチドのα−ヘリックス形を安定化すること(すなわち、候補化合物であること)を示す。
【0042】
適切なインキュベーション時間は経験的に決めることが可能である。インキュベーション時間は、数分、数時間、数日、数週、または数ヶ月であってもよい。例えば、約100μMの濃度のAβ(1−40)が、一般に、インビトロで、電子顕微鏡で検出可能な原線維を形成するのに十分なインキュベーション時間は3日以内である。他の凝集体はより急速に形成が可能である(数分から数時間)。当業者であれば、使用するAβペプチド、および使用する検出法に応じて、どのようにして適切なインキュベーション時間を決めるかを理解するであろう。α−構造の形成速度を変調するには、各種パラメータ、例えば、ポリペプチドの濃度を増す、または、溶液中の塩濃度を増すことによって操作することが可能である。
【0043】
試験化合物および候補化合物
試験化合物とは、Aβペプチドを含む溶液のヘリックス含量を増大させる能力、および/または、Aβペプチドのα−ヘリックス形をβ−ストランド構造に変換する速度を遅くさせる能力についてスクリーニングされる化合物である。候補化合物とは、Aβペプチドのα−ヘリックス形を安定化することが判明した化合物である。候補化合物は、β−ストランド構造およびアミロイドの形成を阻止する、または遅らせるのに有用である。
【0044】
本明細書に記載される化合物について、その、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の安定化または形成を増大させる能力を確認するための方法が、本明細書において提供される。一般に、化合物は、Aβペプチドの不一致ヘリックスの面に対して相補的であり(例えば、二つの面は静電気的相互作用を持つことが可能である)、その面に結合し、ヘリックスを安定化する面を持つように設計される。この相互作用は、不一致ヘリックスがβ−ストランド立体配座に変換される事象の数を減らすことが予測され、従って原線維の量を減らす。このような化合物と、不一致ヘリックスの間の相互作用は非共有的であってもよい。化合物は、実施例に記載される化合物を含む。スクリーニングアッセイに用いられる化合物は、双極性、中性、または単極性荷電であってもよい。
試験化合物をアッセイするさらに別の方法
【0045】
原線維形成の直接検出
ある場合には、α−ヘリックス立体配座の安定化を定量するものとは別の方法が、本発明にとって有用なことがある。例えば、原線維形成の直接検出は、α−ヘリックス立体配座を測定するアッセイの代わりに、またはアッセイと組み合わせて用いることが可能である。試験化合物の存在下または不在下における原線維形成の程度と速度は、形成される原線維の電子顕微鏡観察(EM)によって直接測定することが可能である。例えば、原線維を含むペレットが、低エネルギー超音波処理を5秒間用いて少量の水に縣濁される。次に、原線維縣濁液の分液が、炭素安定化Formvar(商標)フィルムによって被われた格子の上に載せられる。30秒後、余分な液体がグリッドから吸引除去される。次に、格子を空気乾燥し、水に溶解した3%酢酸ウラニルで陰性に染色する。次に、染色された格子を、電子顕微鏡、例えば、80kVで動作するPhillips CM120TWINで調べ、撮影する。原線維形成の速度または量の低下をもたらした化合物は、本発明にとって有用であり、例えば、ADまたは関連障害を治療するための候補化合物となる。
【0046】
原線維形成はまた、原線維を、染料、例えば、コンゴーレッドまたはチオフラビンTによって染色し、染色サンプルからの発射光を検出することによって評価することが可能である。例えば、原線維を含むペレットを、超音波処理によってリン酸バッファー生食液に再縣濁し、次に、コンゴーレッド(2%w/v)を加える。サンプルを周囲温にて1時間インキュベートし、凝集タンパクを13,000xg、5分間の遠心によって収集する。次に、この凝集体を水で洗浄し、水に再縣濁する。分液を顕微鏡スライドの上に置き、乾燥し、偏光顕微鏡(例えば、Zeiss Axialfold顕微鏡)にて観察する。別態様として、コンゴーレッドまたはチオフラビンTによる染色後、異なる波長における光吸収または発射の検出を用いて、アミロイド形成を定量化することが可能である(例えば、LeVine, 1993, Prot. Science 2:404−410; Klunk et al., 1999, Anal. Biochem. 266:266:66−76)。
【0047】
試験化合物の存在下または不在下における原線維形成検出のためのアッセイは、例えば、α−ヘリックス安定化に関する後続アッセイに使用されるべき化合物を求めるために、試験化合物を準備スクリーニングするのに用いてもよい。同様に、化合物の、原線維形成抑制能力も、候補化合物の、原線維形成阻止に関する予測効力を確認するのに用いることが可能である。
【0048】
原線維形成の間接的検出
原線維形成もまた、α−ヘリックス形の消失を測定することによって間接的に評価することが可能である。α−ヘリックス形の消失は、α−ヘリックスからβ−ストランドへの変換および凝集後、原線維を生じるからである。このためには、ES質量分析が使用可能な方法である。なぜなら、この方法は、不一致ヘリックスを含むAβペプチドのモノマー形と凝集形を区別するために使用が可能だからである。別態様として、凝集体は、例えば、遠心によって除去し、次に、溶液の中に残存するペプチド(主に、その不一致ヘリックス領域におけるα−ヘリックスである)を、ゲル電気泳動、アミノ酸分析、または逆相HPLCのような技術を用いて定量する。
【0049】
原線維形成を定量する直接法同様、間接法も、α−ヘリックスからβ−ストランドへの変換を妨げ、従って、アミロイド原線維形成を抑制する化合物を特定するに際し、例えば、不一致ヘリックス含有ポリペプチドのα−ヘリックス立体配座の安定化に関するアッセイに使用される試験化合物をスクリーニングするに際し、または、候補化合物が安定化作用を持つことを確かめるに際し有用である。
【0050】
原線維形成に及ぼす各種化合物の作用は、前記方法を、好ましくは、それらが相補的プロフィールを持つ場合互いに組み合わせて用いることによって観察する。従って、染色技術はかなり高速であり、多くの化合物のスクリーニングが可能である。電子顕微鏡観察(EM)は、染料検出よりも特異的である。なぜなら、EMでは、原線維の性質が判断され、原線維を定量的に分析することが可能だからである。質量分析はきわめて高感度であるが、一方、多数で、比較的感度の低いのサンプルの場合、ゲル電気泳動、アミノ酸分析、および逆相HPLCの使用が可能である。
【0051】
従って、ある化合物が、本明細書に記載する通りに有用となることができる能力を確かめるスクリーニングでは、数段階のアッセイを用いることが可能である。例えば、化合物は、染色法を用いて試験し、さらに、ES質量分析によって、例えば、Aβペプチドのβ−構造の量を抑制する、該化合物の能力を確かめるために試験することも可能である。
【0052】
各種化合物の作用を個別に明らかにする場合、形成される原線維の量、および原線維形成の速度が興味の的となる。なぜなら、インビトロにおける原線維形成速度の比較的小さな変化が、ペプチド/タンパクのインビボの長期に渡るアミロイド線維形成傾向を反映すると考えられるからである。
【0053】
Aβ凝集および原線維形成を抑える化合物の特定
実験データおよび理論モデルから、Aβの16−23領域のα−ヘリックスからβ−ストランドへの転換がアミロイド原線維形成にとって決定的に重要であることが示されている。Aβの16−23位置は、膜様溶媒または界面活性剤の存在下ではヘリックス構造を示すので、この領域は、膜連結APPにおいても螺旋形であると考えられる。しかしながら、水溶液における遊離Aβでは、螺旋形立体配座はほんの一時しか安定ではなく、これは、分光光度法で検出すると水中のAβ立体配座は無秩序であるという所見(Serpell, 2000, Biochim. Biophys. Acta 1502:16−30)と一致する。β−シートの蓄積によって原線維が形成されるためには、16−23領域が、延長型/β−ストランド立体配座へと変換されることが必要とされる。
【0054】
Aβと連結する不一致ヘリックスを安定化するためのリガンド
図1は、式1(リガンド1)の一般的構造を示す。同図において、n1は、(CH2)1-4であり;n2は、(CH2)1-4であり;n3は、(CH2)1-4であり;R1は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;R5は、チロシン、フェニルアラニン、またはトリプトファンと連結する芳香環基であり;および、R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。当業者であれば、従来技術の一般的知識および本明細書に提示されるリガンドの例に基づいて、どのようにしてそのような基を選択すればよいかを理解されるであろう。
【0055】
一つの実施例、リガンド3(図2および図7)では、n1はCH2;n2はCH2;n3は(CH2)3であり;R1はジアミン;R2はカルボン酸;R3はカルボン酸で、R4はアミン;R5は、トリプトファンと連結する芳香環;および、R6はカルボキシルアミドである。
【0056】
式1の別の例は、リガンド2(図5)として描かれる構造の変異種であり、リガンド2a(図5)と呼ばれるものであり、n1はCH2;n2は(CH2)2;n3は(CH2)2であり;R1はジアミン;R2はカルボン酸;R3はカルボン酸で、R4はアミン;R5は、トリプトファンと連結する芳香環;および、R6はカルボキシルアミドである。
【0057】
図6には、リガンド4およびリガンド5が示される(リガンド18およびリガンド19も参照されたい)。リガンド4またはリガンド5の、脂肪性アシル鎖変異種における炭素鎖の数は、1と20の間であってよい。リガンド4の変異種では、アミンの間の炭素原子の数は、2と6の間にあってよい。リガンド4のさらに別の変異種では、ジアミンは、別に、アミン、ポリアミン、グアニド基、カルボン酸、カルボキシルアミド、または、アルギニンまたはリシンの側鎖であってもよい。リガンド5の変異種では、カルボン酸は、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、またはスルフォン酸塩によって置換されてもよい。
【0058】
リガンド8は図9に示される。この化合物では、nは1と16の間にある。例えば、リガンド8aではn=7であり、リガンド8の変異種であるリガンド9では、n=13である。
【0059】
リガンド3−5および7−14のそれぞれについて、長鎖を形成する脂肪アシル基は、Aβペプチドのphe19またはphe20と相互作用を持つことが可能な、任意の他の疎水基によって置換されてもよい。上記リガンドのそれぞれについて、極性部分と非極性部分を接続する基は、脂肪アシル鎖と、極性基(単数または複数)のアミンとの間のアミド結合である。この結合は、別態様として、脂肪アミンと、極性基のカルボン酸誘導体の間のアミドであってもよく、あるいは、エステルであっても、または他の結合であってもよい。
【0060】
リガンド7−14のそれぞれにおいて、極性基は、式1の対応基について記載したように変動してよい。これらのリガンドの一般的構造は、図9、10A、および10Bに示される。
【0061】
本明細書に記載される全てのリガンドについて、キラル炭素原子は立体異性体である可能性があり、組成物は、混合された立体異性体を含んでもよい。組成物はまた、一つを超えるリガンド変異種を含む、一つを超えるリガンドタイプを含んでもよい。
【0062】
リガンドを、実施例および図面にてさらに説明し描画する。
【0063】
化合物のインビトロ試験
アルツハイマー病または他のアミロイドーシスの動物モデルを用い、本明細書に開示される化合物についてさらに試験することが可能である。使用される動物は、天然発生モデル(例えば、アミロイドを天然に蓄積する動物、例えば、非ヒト霊長類、例えば、非限定的例として、アカゲザルを含む霊長類)、アミロイドペプチドを発現するように遺伝子工学的に加工された動物か、または、アミロイド生産を誘発するように処理された動物のいずれかによって表される。一般に、化合物の、Aβペプチドの蓄積抑制効力を定めるには、遺伝子工学的に加工された動物モデルが使用される。Aβペプチド蓄積の抑制としては、動物モデルにおいて検出されるAβ含有構造体(例えば、原線維(可溶性または不溶性)、またはアミロイドプラーク)の量の低下;化合物の存在下においてAβ−含有原線維の蓄積が、該化合物によって処理されない動物に比べると、より遅いこと;アミロイド蓄積と関連する症状の低下;または、アミロイド蓄積と関連する症状獲得の遅延、が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。このようなモデル、およびAβおよびアミロイド構造を検出する方法は従来技術で既知である。
【0064】
無脊椎動物モデルでは、化合物を試験するために、例えば、ショウジョウ蝿を使用することも可能である。遺伝子工学的に加工されたショウジョウ蝿は、インビボにおいてアミロイド関連構造体の形成を抑制するのに効果的な化合物を特定するのに有用である可能性がある。例えば、Aβ(1−40)および/またはAβ(1−42)について、本来そのペプチドが得られる天然のAPPとは無関係のシグナルペプチドに結合した、該ペプチドのトランスジェニック発現を使用することも可能である。シグナルペプチドは、ショウジョウ蝿の眼球または神経系において、小胞体に対しAβ発現、次いで分泌を指令するように(APPの場合と同様)用いることが可能である(Finelli et al., 2004, Mol. Cell. Neurosci. 26:365−375; Crowther et al., 2004, Curr. Opin. Pharmacol. 4:513−516)。このモデルでは、Aβ(1−42)の複数コピーの発現が、ただしAβ(1−40)ではないが、一般に、Aβ凝集および神経変性を招く。ヒトAPPの発現および処理を再現し、かつ、Aβの生成と毒性をもたらすショウジョウ蝿モデルも報告されており(Greeve et al., 2004, J. Neurosci. 24:3899−3906)、使用が可能である。例えば、ヒトのAβ(1−42)をコードする配列について2通りのコピーを含み、かつ、これらのペプチドを該動物の神経系において発現するように遺伝子工学的に加工されたショウジョウ蝿株を使用することも可能である。Aβコード配列は、シグナルペプチド(例えば、ショウジョウ蝿壊死遺伝子;Green et al., 2000, Genetics 156:1117−1127)に動作的に結合される。該動物における該ペプチドの発現は、Aβ凝集、神経変性、寿命の短縮、および、移動活性の低下をもたらす(Crowther et al., 2004, 「第45回ショウジョウ蝿研究年次会議議事録(“Proceedings of the 45th Annual Drosophila Research Conference”)」、Washington DC, USA. The Genetics Society of America; 2004:95; Crowther et al., 2005, Neuroscience 132:123−35)。化合物を試験するために、蝿の幼虫に、化合物を食物と混ぜる(約0.1−1.5mg/mlリガンド)ことによって該化合物を与えた。コントロールには、リガンドが溶解される溶媒、または、α−ヘリックスの消失を遅くすることがないと予測されるコントロール化合物(例えば、溶媒に溶解して)を含む食物(約0.1mg/mlと100mg/mlの間の濃度で)を与える。幼虫または成熟蝿を、Aβに関連する1種以上の特徴について調べる。化合物を摂取した動物において、これらの1種以上の特徴において低下が見られた場合、それは、その化合物が、Aβペプチド関連障害の治療に有用であることを示す。
【0065】
化合物について、それらの、アミロイド量の阻止または低下させる能力について、ヒトAβペプチドを発現するトランスジェニックマウスを用いることが可能である。さらに、そのようなマウスにおけるAβペプチドの発現と関連する行動兆候の出現を化合物が抑えるかまたは阻止するかどうかを決めるのに、別に行動試験を用いることが可能である。一つのマウスモデルシステムでは、AD(例えば、若年性AD)と関連する突然変異を持つアミロイド前駆体タンパク(APP)が発現される。このようなAPPタンパクの発現は、一般に、Aβの生産を増す。APP突然変異を担う、このような遺伝子の一つの例は、「スウェーデン」突然変異遺伝子配列K670N/M671Lである。Aβの生産を増し、および/または、Aβ(1−40)に対しアミロイド生産性Aβ(1−42)の生産を増す、もう一つの突然変異がある(例えば、「ロンドン」突然変異、V7171)(Hutter−Paier et al., 2004, Neuron 44:227−238)。APPの外にも、突然変異(例えば、A246E)presenilin1 (PS1)も、Aβ(1−40)に対してアミロイド生産性Aβ(1−42)の生産を増す突然変異であるが、このトランスジェニック発現も使用される(例えば、Permanne et al., 2002, FASEB J. 16:860−862)。突然変異APP発現と組み合わせた、他のPSI突然変異のトランスジェニック発現も記載されている(Casas et al., 2004, Am. J. Pathol. 165:1289−1300)。APPおよびPSIのトランスジェニック発現の外にも、過剰にリン酸化され、ADにおける神経原線維変化を形成するタウタンパクも発現される、三重トランスジェニックマウスも得られている。このマウスは、AD患者に見られる病理生理的特徴のいくつかを再現する(Oddo et al., 2003, Neurobiol. Aging 24:1063−1070)。
【0066】
AD治療用化合物のインビボ評価のために使用される動物モデルの一つの例では、インビトロにおいてアミロイドβ−ペプチド(Aβ)から形成された原線維を脳実質に注入した野生型ラットも使用される(例えば、Chacon et al., 2004, Mol. Psychiatry 9:953−961; Soto et al., 1998, Nature Med. 4:822−826)。次に、このような動物に対する本明細書に記載される化合物の作用が評価される。
【0067】
薬剤投与
本明細書に記載される化合物は、様々な方法を用いて投与することが可能である。ある場合には、化合物の効力について、および/または、動物における、例えば、抹消血または脳脊髄液(CSF)における化合物の半減期について、様々な投与法が評価される。
【0068】
マウスでは、経口投与、腹腔内注入、脳内注入(例えば、海馬内)、および循環系内輸液を使用することが可能である。効果的用量を特定するために、全体用量および投与スケジュールを変動させることが可能である。そのような試験では、化合物は、一般に、ミリグラム量における用量として投与される。例えば、約1−100mg、1−50mg、または50−100mgの合計用量が、合計用量を実現するために週に3から4日数週間に渡って投与される(例えば、Permanne et al., 2002, FASEB J. 16:860−862)。ジョウジョウ蝿では、前述したように、経口投与が一般に使用される(すなわち、化合物は食物と混ぜられる)。しかしながら、注入および経皮投与も使用される。一般に、本明細書に記載される化合物は、約1−500mg,1−300mg,100−500mg,100−300mg,1−100mg,1−50mg,1−30mg,10−50mg、または10−20mgの用量として投与される。例えば、リガンド3の経口投与は、一般に、約1−100mgまたは1−25mgの間である。脂肪アシル鎖を含むリガンドは、一般に、約1−500mg,100−500mg、または100−300mgの用量として投与される。
【0069】
本明細書に記載される化合物(リガンド)は、本明細書に記載される治療法の内の任意のものに使用される薬剤の調製に使用することも可能である。
【0070】
製薬組成物
本明細書に記載される化合物は、製薬組成物の中に取り込むことも可能である。このような組成物は、通常、該化合物、および製薬学的に受容可能な担体を含む。本明細書で用いる「製薬学的に受容可能な担体」という用語は、製薬学的投与と適合する、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等調剤および吸収遅延剤等を含む。補足的活性化合物を組成物の中に取り込んでもよい。
【0071】
製薬組成物は、その意図される投与ルートと適合するように処方される。投与ルートの例としては、非経口的(例えば、静脈内、皮内、皮下)、経口、鼻腔内(例えば、吸入)、経皮、経粘膜、硬膜下腔内、脳室内(例えば、脳脊髄液貯留槽空間に外科的に設置される、直列フィルター付Omaya貯留槽シャントによる)、および直腸投与が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。組成物のために有用と予想される非経口送達システムとしては、ゆっくり溶解するポリマー粒子、埋設可能な輸液システム、およびリポソームが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。非経口投与のために使用される溶液または縣濁液としては下記の成分が挙げられる。すなわち、滅菌希釈液、例えば、注射用水、生食液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸;バッファー、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩、および、浸透圧の調整剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース。他にも適切な溶液または縣濁液の使用が可能である。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムによって調整される。非経口調剤は、例えば、アンプル、ディスポーザブル注射筒、または、ガラスまたはプラスチック製の、複数用量瓶の中に封入されてもよい。
【0072】
Aβペプチドと関連する障害、例えば、Aβペプチドの不要な生産、またはそのようなペプチドを含む原線維の生産と関連する障害の治療もまた、本明細書に記載される化合物を、中枢神経系、例えば、脳に直接送達することによって実行することが可能である。
【0073】
注入使用に好適な製薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および、滅菌注入液または分散液の即時調製用滅菌粉末が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。静脈投与用では、好適な担体としては、生理学的食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF, Parsippany、ニュージャージー州)、または、リン酸バッファー生食液(PBS)が挙げられる。いずれの場合でも、組成物は滅菌されており、簡単に注入を可能とする程度に流動性を持っていなければならない。組成物は、製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒体であってもよい。適切な流動性は、例えば、活性物質(例えば、レシチン)から成る粒子に対するコーティングによって、分散の場合は必要な粒径を維持することによって、かつ、界面活性剤を用いることによって維持される。微生物作用の阻止は、各種抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって実現される。多くの場合、組成物の中に等張剤を含めることが好ましい。このような薬剤の例として、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトールおよびソルビトール)、および塩化ナトリウムが挙げられる。注入組成物の長時間吸収は、組成物の中に吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを含めることによって実現することが可能である。一般に、この製薬組成物を製造する方法は従来技術で既知である。
【0074】
滅菌注入液は、必要量の活性化合物を、一つの成分、または上に数え上げた複数の成分と必要に応じて組み合わせて、適切な溶媒に取り込み、次に滅菌ろ過することによって調製される。一般に、分散液は、基本的分散媒体、および、上に列挙したものの中から選ばれた、必要な他の成分を含む滅菌ベヒクルの中に活性化合物を取り込むことによって調製される。滅菌注入液調製のための滅菌粉末の場合、調製法は、一般に、真空乾燥および凍結乾燥であり、これによって、以前に滅菌ろ過された溶液から、活性成分プラス任意の所望の他の成分の粉末が得られる。
【0075】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または食用担体を含む。治療用経口投与のためには、活性成分は、賦形剤と共に取り込まれ、例えば、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルとして服用される。製薬学的に適合的な結合剤、および/または、補助材料も、組成物の一部として含めてもよい。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等は、従来技術で既知の他の成分、例えば、下記の成分、または、類似成分を含んでもよい。すなわち、結合剤、例えば、微細結晶セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチン;賦形剤、例えば、でん粉またはラクトース;崩壊剤、例えば、アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチ;潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、またはSterotes;滑沢剤、例えば、コロイド状二酸化シリコン;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリン;芳香剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料。
【0076】
吸入による投与では、化合物は、適切な推進剤、例えば、ガス、例えば、二酸化炭素を含む加圧容器またはディスペンサー、または噴霧器から噴出されるエロゾルスプレイとして送達される。
【0077】
全身投与も、経粘膜または経皮手段によって実行することが可能である。経粘膜または経皮投与では、一般に、浸透すべき障壁に対して適切な浸透剤が処方に用いられる。このような浸透剤は一般に従来技術で既知であり、例えば、経粘膜投与では、界面活性剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔スプレイまたは坐剤を用いることによって実現される。経皮投与では、活性化合物は、従来技術で一般に知られるように、軟膏、塗布剤、ゲルまたはクリームとして処方される。
【0078】
化合物はまた、直腸送達用の坐剤(例えば、通例の坐剤基材、例えば、ココアバター、および他のグリセリドと共に)、または保持浣腸として調製されてもよい。
【0079】
一つの実施態様では、化合物は、体からの排除にたいして化合物を保護する担体と共に、例えば、放出調節処方、例えば、インプラントおよび微小封入送達システムとして調製される。生分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニール、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル、およびポリ乳酸を使用することが可能である。このような処方の調製法は、当業者には明白であり、材料は、例えば、Alza Corporation、およびNova Pharmaceuticals, Inc.から市販されている。リポソーム縣濁液(Aβペプチドによって特異的に侵される細胞、例えば、神経細胞またはグリアを、モノクロナール抗体またはその断片によって標的とするリポソームを含む)も、製薬学的に受容可能な担体として使用することが可能である。これらの組成物は、当業者に既知の方法に従って、例えば、米国特許第4,522,811号に記載する方法で調製することが可能である。
【0080】
投与の簡便および用量の均一性のために、経口または非経口組成物は用量単位として処方するのが好都合である。本明細書で用いる単位用量形とは、治療される被験者にとって単位用量として好適な、物理的に不連続な単位を指し、各単位は、必要な製薬担体と結びついて所望の治療効果を挙げるように計算された、指定量の活性化合物を含む。
【0081】
化合物の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物において、例えば、LD50(集団の50%に対して致命的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決めるのに必要な既知の製薬学的処置によって決められる。好適な動物モデル、例えば、Aβ関連病態または天然病態に関して上述したもの、例えば、遺伝子工学を用いて生成された動物モデル(例えば、ヒトのAβペプチドを発現するように加工されたげっ歯類)を使用してもよい。動物モデルの例は上述したが、さらにSturchler−Pierrat et al.(1999, Rev. Neurosci. 10:15−24), Seabrook et al. (1999, Neuropharmacol. 38:1−17), DeArmond et al. (1995, Brain Pathology 5:77−89), Telling (2000, Neuropathol. Appl. Neurobiol. 26:209−220)、およびPrice et al. (1998, Science 282:1079−1083)を含む。毒性作用と治療作用の間の比は、治療指数であるが、LD50/ED50比として表される。高い治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を使用しなければならないこともあるが、侵されていない細胞に対して及ぼすかも知れない損傷を最小にし、それによって副作用を抑えるため、侵された組織部位に対しその化合物を標的輸送する送達システムを設計するよう注意しなければならない。
【0082】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータは、ヒトにおいて使用される用量範囲を処方するのに使用することが可能である。化合物の用量は、一般に、ほとんどまたは全く毒性を持たないが、ED50を含む、循環濃度範囲内にある。用量は、用いられる剤形、利用される投与ルートに応じてこの範囲内を変動してもよい。本明細書に記載される方法において使用されるいずれの化合物においても、治療的に有効な用量は、例えば、原線維形成速度または細胞死速度が観察される細胞培養アッセイから最初推定することが可能である。IC50(すなわち、症状の、最大の半分の抑制を達成する、試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度を実現するために、細胞培養における決定に従って動物モデルにおいて用量が処方される。この情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決めるために使用される。血漿レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定してもよい。
【0083】
本明細書の定義では、本明細書に記載される化合物の治療有効量(すなわち、有効用量)は、体重kg当たり約0.001から100mg、例えば、約0.01から25mg、約0.05から20mg、約0.1から10mg、または約20−100mgの範囲である。化合物は、被験者に対し長期に渡って、例えば、被験者の生涯に渡って投与されてもよい。ある場合には、化合物は、週に1回、約1から10週間、例えば、2から8週間、約3から7週間、または、約4、5、または6週間投与されてもよい。化合物はまた慢性的に投与されてもよい。熟練した当業者であれば、いくつかの要因、例えば、病気または障害の重度、以前の治療、被験者の一般的健康状態および/または年齢、および現に抱える他の疾患を含む、ただしそれらに限定されない、要因が、被験者を効果的に治療するのに必要な用量およびタイミングに影響を及ぼすことを了解されるであろう。さらに、治療的有効量の化合物による被験者の治療は、単一治療、または、こちらの方がより一般的であるが、一連の治療を含む可能性がある。
【0084】
Aβペプチドに関連する疾患(例えば、アルツハイマー病)を治療するために、動物(例えば、ヒトのような哺乳動物)に対し、1種以上の、これら小型分子が投与される場合、医師、獣医師、または研究者は、例えば、比較的低用量を初めに処方し、次いで用量を増し、それを適切な反応が得られるまで続ける。さらに、任意の特定の動物被験者における特定用量レベルは、種々の要因、例えば、使用する特定の化合物の活性、被験者の年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食事、投与時間、投与ルート、排出速度、薬剤併用、および変調される発現または活性の程度を含む要因に依存する。
【0085】
製薬組成物は、投与指示書と一緒に、容器、パック、またはディスペンサーの中に納められる。指示は、例えば、アミロイドーシスを患う、または患う危険性のある個人の治療用として組成物を使用するための案内を含んでもよい。
【0086】
治療法
本発明は、Aβペプチドに関連する障害、例えば、アルツハイマー病、ボクサー認知症、重度の頭部外傷、および、ダウン症候群のいくつかの病理および症状、を患う危険性のある(または、感受性を持つ)被験者、または、現に患っている被験者に対処する、予防法および治療法の両方を供給する。本明細書で用いる「治療」という用語は、病気、病気の症状、または病気に対する素因を、治す、治癒する、寛解する、解除する、変える、救済する、緩和する、改善する、または作用する目的で行われる、患者に対する治療薬剤の塗布または投与、または、病気を抱える、病気の症状を持つ、または病気に対する素因を持つ患者から分離された組織または細胞系統に対する治療薬剤の塗布または投与と定義される。治療薬剤は、本明細書に記載される化合物を含む。
【0087】
本明細書に記載されるのは、Aβペプチドの存在と関連する疾患または病態を予防する(すなわち、疾患または病態を患う危険度、または、疾患または病態と関連する症状の出現する速度を下げる)方法である。そのようなペプチドが招く、または、悪化の原因となる病気に対し危険度を有する被験者は、従来技術で既知の適切な診断または予診アッセイの内のいずれか、またはそれらの組み合わせによって特定することが可能である。Aβ関連疾患の病理またはその他の兆候を緩める、または阻止することが可能な予防薬として本明細書に記載される化合物を使用する場合、その投与は、病気が阻止される、または、それとは別に、その進行が遅らされるように、該病気に特有の症状が出現する前に行われてもよい。
【0088】
Aβ関連疾患の治療または予防に有用な、本明細書に記載される化合物は、Aβペプチドを含む障害を予防、治療、または緩和するために、患者に対し、治療的有効用量として投与される。治療的有効用量とは、障害の症状の緩和、または、そのような症状の出現の遅延または阻止をもたらすのに十分な化合物の量を指す。このような化合物の毒性および治療効力は、前述の、また、従来技術で既知の製薬学的処理過程によって定めることが可能である。
【0089】
本発明は下記の実施例によってさらに説明される。これらの実施例は、ただ例示のためにのみ提供される。これらの実施例を、いかなる意味でも本発明の範囲または内容を限定するものと見なしてはならない。
実施例
【実施例1】
【0090】
化合物の設計およびAβ−リガンド複合体の分子運動力学シミュレーション
残基16および23の間に不一致領域を含む、残基12から28までの、ヒトAβアミノ酸配列(Aβ12−28)を、分子グラフィックス(Insight II, Accelrys Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いてα−ヘリックス立体配座の中に組み込んだ。Aβ不一致ヘリックスの構造に基づき、Aβヘリックスの表面に対して相補的な化学的構造を持つ化合物を、Insight IIシステムを用いて設計した。一般に、Aβのα−ヘリックス立体配座の消失を抑えるのに有用な化合物は、下記の部位の内少なくとも二つと相互作用を持つ(Aβペプチドを指す)ことの可能な一つ以上の部位を持つ化合物であることが判明した。その部位とは、Lys16の側鎖、His13の側鎖、Glu23の側鎖、Phe19の側鎖、Phe20の側鎖、およびAsp22の側鎖である。
【0091】
図7は、リガンド3(図1の特定変異種)の化学構造を示し、Aβの対応部分がα−ヘリックス立体配座を形成する場合、Aβペプチドの特定部分と相互作用を持つように設計された官能基を特定する。図2は、Aβ−リガンド複合体であって、螺旋形のAβ(12−28)ペプチドが、図1に示す相互作用を通じてリガンド3に結合する複合体を示す。重要なことは、図2は、α−ヘリックス立体配座を取るAβ12−28からスタートして、20psの分子運動力学(MD)シミュレーション(37℃で、Discover (Accelrys, Inc.)、およびAmber力場を用いる)を経た後、Aβ−リガンド複合体を描画していることである。Aβ12−28ペプチドのα−ヘリックス構造を図3に示す。MDシミュレーション後も、Aβ12−28ペプチドは、シミュレーション開始前のα−ヘリックス構造とほぼ同じ、α−ヘリックス構造を示す。これとは好対照に、α−ヘリックス立体配座からスタートするが、リガンドを欠く場合、Aβ12−28の20psのMDシミュレーション後、Aβ12−28ペプチドはほぼ完全に解ける。このことは図4に示される。
【0092】
リガンド3に関して本明細書に記載されたものと同様の方法を用い、さらに別のリガンドを設計したところ、これらもまた、MDシミュレーションにおいてAβ不一致α−ヘリックスを安定化することが判明した。このようなリガンドの非限定的例が、螺旋形Aβにおける相互作用パートナーと共に、例えば、図5および図6に示される。
【実施例2】
【0093】
リガンド
リガンド3
式1(リガンド1、図1)の特定例であるリガンド3(図7に示す)は、活性化ペンタフルオロフェニル・エステル使用の溶液合成によって合成した。合成時、既知の保護基、および、結合および脱保護プロトコールを用いた。保護アミノ酸は全てBachem(King of Prussia、ペンシルバニア州)から購入した。他の試薬は全て市販級であり、溶媒は全て分析級であり、Fluka(セントルイス、ミズーリ州)、Merck(Whitehouse Station、ニュージャージー州)、またはAldrich Chemical Co.(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。
【0094】
リガンド3の合成は、α−N−ベンジルオキシカルボニル−ジアミノブチル酸(Z−Dab−OH)から始めた。第1工程では、Fmoc−D−Trp−OHをZ−Dab−OH(γ−アミノ基において)に結合させ、ジペプチドが得られた。トリプトファン誘導体ジペプチドからFmoc−基を除去した後、次のアミノ酸、Boc−Arg(Pbf)−OHを、トリプトファン誘導体の遊離α−アミノ基に結合させ、トリペプチド産物を得た。次の工程では、Pd/C使用の触媒による水素添加によって、ペプチドZ−Dab−(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHからZ−基が取り除かれる。次に、この脱保護トリペプチドに、Dabのα−アミノ基において、Fmoc−D−Glu(OtBu)−OHが結合される。得られたテトラペプチドのFmoc−基が除かれ、D−グルタミン酸(D−Glu)残基のα−アミノ基が、ピリジンに溶解した無水酢酸によってアセチル化される。Boc、OtBu、およびPbf基の最後の脱保護が、チオフルオロ酢酸(TFA)、チオアニソール、フェノール、および水を含む脱保護カクテルによって実行される。未精製ペプチドを、半分準備済みカラムを用い逆相HPLCで精製し、220nmおよび、0.1%TFAを含む水/アセトニトリルの直線勾配(0−80%アセトニトリル、2時間、流速3.5ml/分)で検出した。最終ペプチドリガンドの純度および構造は、分析的HPLCおよびエレクトロスプレイ(ES)質量分析で定めた。
【0095】
追加の、合成の詳細を下記に提示する。
Z−Dab(Fmoc−D−Trp)−OH:2.52g(10.00mmol)のZ−Dab−OHを、50mM Na2B4O7(pH8.5)に溶解した。5.93g(10.00mmol)のFmoc−D−Trp−OPfpを、50mlの冷却DMF(0℃)に溶解し、Z−Dab−OH液にゆっくりと加えた。この混合液を0℃で1時間、次に室温で10時間攪拌した。反応を薄層クロマトグラフィー(TLC)で監視した。反応の完了後、溶媒(H2O/DMF)を減圧留去した。油状産物Z−Dab(Fmoc−D−Trp)−COOHは、酢酸エチルから結晶化し、収集し、減圧下に乾燥した。この過程による収量は5.94g(90%)であった。
【0096】
Z−Dab(D−Trp)−OH:Z−Dab(Fmoc−D−Trp)−OHを、DMFに溶解した20%ピペリジンによって処理した(0.5時間)。反応混合物を濃縮し、油状産物をエーテルから結晶化した。産物をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下に乾燥した。この過程による収率は98%であった。
【0097】
Z−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:0.93g(2.18mmol)のZ−Dab(D−Trp)−OHを30mlのDMFに溶解し、冷却DMFに溶解した1.5gのBoc−Arg(Pbf)−OPfp(2.2mmol)をゆっくり加えた。この反応混合物を濃縮し、油状物質を冷却エーテルで洗浄した。沈殿が生じ、混合物は1時間フリーザーに維持した。沈殿をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下乾燥した。この過程による収量は0.70gであった。
【0098】
NH2−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:H2およびAcOHを含むDMFに溶解したPd/C使用の触媒による水素添加によって、Z−Dab−(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHからZ−基を取り除いた。Pd/C触媒をろ過除去し、溶液を減圧留去した。得られた油状産物をエーテル添加によって処理した。沈殿が生じ、混合物は1時間フリーザーに維持した。混合物をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下乾燥した。0.46g(0.53mmol)の産物を、EtOAc/DMFの混合液に溶解し、53ml(0.53mmol)のN−メチルモルフォリンを加えた。反応物を1時間攪拌し、液体を留去し、遊離アミノ基を有するペプチドをエーテルで沈殿させた。
【0099】
Fmoc−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:0.46g(0.53mmol)のNH2−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHをDMFに溶解した。344.5mg(0.58mmol)のFmoc−D−Glu(OtBu)−OPfpを冷却DMFに溶解し、0℃でゆっくり加えた。この反応混合物を0℃で1時間攪拌し、次に室温で8時間攪拌した。溶媒を留去し、産物をエーテルに溶解した。
【0100】
Ac−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OH:0.57g Fmoc−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHから、DMFに溶解した20%ピペリジン溶液で0.5時間処理することによってFmoc基を取り除いた。次に、このペプチドを、20%無水酢酸を含むピペリジンにおいて15分アセチル化した。反応混合液を濃縮し、エーテルに溶解した。この過程の収量は0.40gであった。
【0101】
Ac−D−Glu−Dab(Arg−D−Trp)−OH:Ac−D−Glu(OtBu)−Dab(Boc−Arg(Pbf)−D−Trp)−OHを、10ml TFA,1ml H2O,0.75gのフェノール、および0.5mlのチオアニソールを含む切断カクテルによって処理した。この反応系を室温で1時間攪拌した。脱保護はTLCで監視した。完了後、反応混合液を濃縮し、エーテルを加えた。混合物をフリーザーに保存し、形成された固体をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下乾燥した。この過程の収穫は、0.35gの未精製ペプチドであった。未精製ペプチドの精製を、Vydac半調整カラム搭載の逆相HPLCを用い、0.1%TFAを含むアセトニトリル/水の直線勾配(0−80%アセトニトリル、2時間、流速3.5ml/分)で行った。最終ペプチドの純度および分子量は、分析的HPLCおよびESI−MS(エレクトロスプレイ質量分析(Micromass LCT(商標)、Waters, Milford、マサチューセッツ州)。MS(ESI, M+1):m/z観測値:632.7;計算値:632.3
【0102】
リガンド2および2a−2e
前述の分子モデル法を用いてさらに別のリガンドを設計し、それらのモデルに対し前述の分子運動力学分析を行った。このようにして作製された追加リガンドは全てAβ螺旋構造の消失を抑制した。合成され、試験された追加リガンドは、リガンド3(図7)の立体化学変異種、構造的異性体リガンド2a(図5および図8)、近縁リガンド2b−2e(図5に示す)、およびその異性体から生じた化合物を含む。
【0103】
リガンド2a−2eの構造的変異種(例えば、図5に示すリガンド2の特異的変異種である化合物)である化合物も合成し、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座を安定化するその能力について試験した。本明細書に記載する通り、これらの分子は、Aβペプチドのβ立体配座の形成(例えば、形成速度)抑制において有用である。
【0104】
リガンド7a
Aβペプチドのα−ヘリックス形を安定化するのに有用なもう一つのリガンド(リガンド7a、図9)を下記のように合成した。1.05当量(2.625mol)のデカン酸を、20mlのジクロロメタンに溶解し、2.0当量のトリエチルアミンを、この溶液に滴下し、これを、攪拌しながら0℃に維持した。次に、1当量(2.5mmol)のクロロギ酸イソブチルを1分間に渡って加え、反応混合物を0℃で30分攪拌した。0℃に冷却した、3当量のNH(C2H5NH2)2、6当量のトリフルオロ酢酸(TFA)、および100mlのメタノールから成る混合物に、活性化脂肪酸を5分間に渡って滴下した。この反応混合物を0℃で1時間攪拌し、次に室温で一晩攪拌した。溶媒を減圧留去し、油状物を100mlのCH2Cl2に溶解し、1M NaOHで洗浄した。溶液を水で洗浄し、分子ふるいを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去した。遊離アミンの精製後、この遊離アミンに対するTFA添加(遊離アミンに対し2当量のTFAを加える)後、TFA塩が得られた。次にTFAを蒸発させ、減圧下乾燥した。油状残留物を酢酸エチル(10ml)に溶解し、2−3滴の乾燥ジエチルエーテルを加えた。混合物を室温で保存したところ、結晶化が起こった。結晶をろ過し、減圧下乾燥した。この過程の収率は98%であった。1H−NMRデータは下記の通り。(D3COD+1%TFA) δ3.50(2H t J=5.67Hz CH2), 3.39(2H t J=6.55Hz CH2); 3.37−3.27(2H m CH2); 3.22(2H t J=5.67Hz CH2); 2.24(2H t J=7.70 Hz デカノイル−α−CH2); 1.61(2H m 7.1Hz デカノイル−β−CH2); 1.38−1.20(12H m 6X CH2); 0.90(3H t J=6.76Hz CH3))。
【0105】
リガンド7aの構造変異種である他の化合物も合成し、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座を安定化するその能力について試験した。本明細書に記載する通り、これらの分子は、Aβペプチドのβ立体配座の形成(例えば、形成速度)抑制において有用である。
【0106】
リガンド5
本明細書に記載される処理過程を用いて作製および特定されるリガンドについてさらに説明するために、もう一つのリガンド(リガンド5、図6および16)を下記のように合成した。
【0107】
工程1:0.635g(3.00mmol)のD−Glu(OMe)−OMe塩酸を、30mlの乾燥ジクロロメタンに溶解し、これに1.04ml(7.5mmol)のトリエチルアミンを加えた。次に、5mlのジクロロメタンに溶解した0.633ml(3.05mmol)のデカノイルクロリドを溶液にゆっくりと加え、この反応系を室温で一晩攪拌した。反応終了後、混合物を、10%クエン酸/H2Oで、中性となるまで洗浄した。次に、混合物を、10%NaHCO3(水溶液)で洗浄し、再び水で、中性pHが得られるまで洗浄した。溶液を分子ふるいで乾燥し、ろ過し、減圧下で濃縮した。0.877g(2.66mmol)の結晶性デカノイル−D−Glu(OMe)−OMeの塊が得られた。この過程の収率は89%であった。NMRおよび質量分析データは、正しく予測された構造と一致した。
【0108】
工程2:ステップ1の産物である、デカノイル−D−Glu(OMe)−OMe 1.0.877g(26.63mmol)を、50ml 1M NaOH, 100ml MeOH, および50mlのジクロロメタンの混合液を用いて加水分解した。反応系を2時間攪拌し、1M HClでpH2まで酸化し、デカノイル−D−Gluをジクロロメタンを用いて抽出した。溶液をNa2SO4で乾燥し、ろ過し、減圧下濃縮した。最終産物の収量は0.660g(92%)であった。産物のNMRデータは下記の通り。(CDCl3/D3COD 3:1) δ4.33(1H t様 J=6.5Hz C2−H); 2.30−2.15 (2H m C4−H); 2.15−1.95(3H m デカノイル−α−CH2およびC3−H); 1.90−1.75(1H m C3−H); 1.50−1.35(2H m CH2); 1.21−1.00(12H m 6X CH2); 0.71(3H t J=6.5Hz CH3)。
【0109】
リガンド17
さらに別の、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の消失を阻止することが可能なリガンド、リガンド17(図16)の合成例は下記の通り。
【0110】
工程1:ジメチルD−グルタミン酸塩酸(1.00g,4.72mmol)およびトリエチルアミン(1.20g,11.8mmol)を、50ml DCM(ジクロロメタン)に溶解した。3mlのDCMに溶解した塩化パルミトイル(1.36g,4.96mmol)を2分間に渡って加えた。反応混合液を室温で1時間40分攪拌し、50ml DCMで希釈し、50mlの飽和炭酸水素ナトリウムに対して分画した。有機相を50ml の1M塩酸で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、乾燥するまで濃縮したところ、1.95gの産物が得られた。この産物の1H NMR結果は:(CDCl3): δ6.13 (1H d 7.61Hz NH); 4.65(1H dt Jd=5.15Hz Jt=7.82Hz C2−H); 3.76(3H s OCH3); 3.69(3H s OCH3); 2.50−2.31(2H m C4−H); 2.28−2.16(1H m C3−H); 2.22(2H t 7.9Hz パルミトイル−α−CH2); 2.07−1.95(1H m C3−H); 1.63(2H m 7.1Hz パルミトイル−β−CH2); 1.38−1.13(24H m パルミトイル 12X CH2); 0.89(3H t 6.79Hz パルミトイル−ω−CH3)。
【0111】
工程2:ジメチルN−パルミトイルD−グルタミン酸(1.08g,2.62mmol)を、30mlのDCMおよび60mlのメタノールに溶解した。26.2mlの1M水酸化ナトリウムを加え、混合物を3日間攪拌した。次に、52mlの1M塩酸を加え、次いで250mlのDCMを加えた。有機相を分離し、水相を再び2x50mlのDCMで抽出した。合わせた有機相を、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、乾燥するまで濃縮したところ968mgの産物が得られた(収率96%)。この産物の1H NMRデータは:(CDCl3/D3COD 3:1) δ4.33 (1H dd J=5.15Hz J=8.20Hz C2−H); 2.33−2.15(2H m C4−H); 2.15−1.96(1H m C3−H); 2.06(2H t様 J=7.6Hz パルミトイル−α−CH2); 1.88−1.74(1H m C3−H); 1.45(2H, m J=7.0Hz パルミトイル−β−CH2); 1.21−1.00(24H m パルミトイル 12X CH2); 0.71(3H t J=6.81Hz パルミトイル−ω−CH3)。
【0112】
リガンド10−14
Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座の消失を阻止するためのさらに別のリガンドも、リガンド5、7a、および17に関して記載したものと同様のやり方で合成される。これら補足的リガンドは、本明細書に記載される分子モデル法によって設計された。分子運動力学分析を課したリガンドは全てAβ螺旋構造の消失を抑制した。これらの化合物は、リガンド4、5、7、8、9、および17の性質を組み合わせるものを含む。このようなリガンドの例が図10Aに示される(すなわち、リガンド10、10a、11、12、12a、13、14、および14a)。一般に、このクラスのリガンドは、Lys16およびHis13の相互作用とAsp22とGlu23の相互作用とを、これもPhe20を含む相互接続疎水面と新たな相互作用を実現する共有結合リンカーを介して結合することによって分子当たりの相互作用の合計数を増すように設計される。図10Bに、追加化合物が依拠する一般構造が示される(リガンド18およびリガンド19)。上記化合物のいずれについても、n=3−17である。これらのリガンドは1個または2個のR基を持ってもよい。一般に、リガンドは、荷電性の基であって、一方または両方の基が同じ電荷を持つ(例えば、リガンド10−14)。同じ分子の中に二つのR基がある場合(すなわち、リガンド19)、それらは、ある場合には、異なる電荷を持ってもよい。電荷は、一般に、生理的pHにおいて決められることに注意されたい。
【0113】
本明細書に記載されるリガンドの構造的変異種である別の化合物についても、それらを合成すること、および、Aβペプチドのα−ヘリックス立体配座に対する、それらの安定化能力を試験することが可能である。本明細書に記載する通り、このような分子は、Aβペプチドのβ立体配座の形成(すなわち、形成速度)を抑制するのに有用である。
【実施例3】
【0114】
Aβ二次構造に対するリガンドの作用
本明細書に記載される化合物は、Aβペプチドの二次構造に影響をおよぼす、それらの能力について試験することが可能である。一例として、溶液としたAβ(1−40)またはAβ(1−42)に対してリガンドを添加した場合、円偏光二色(CD)分光光度計測で測定すると、Aβペプチドの螺旋含量は増加した。これは、208および222nmにおける分子楕円率の低下、および、190−195nmにおける分子楕円率の上昇によって裏付けられる(一例が図11に示される)。これらの実験では、Aβペプチド(濃度は約20μM 100μM)を、リガンドと、リガンド/Aβモル比が1から10の範囲となるように混合した。測定は、リン酸バッファー(チオフラビンT測定で後述するように)、または、30%トリフルオロエタノール含有リン酸バッファーにて行った。サンプルは、測定前、振とうしながら、または振とうせずに、インキュベートした。CD測定は、1mmキュベット(サンプル容量200−300μl)によるJasco 810装置を用いて室温で行った。各サンプルについて、3通りのスペクトラムを収集した。スペクトラムは260と185nmの間で測定し、バッファーおよびリガンド単独のスペクトラムを、混合物のスペクトラムから差し引いた。記録されたスペクトラムおよびペプチド濃度を用いて分子楕円率を計算し、kdeg x cm2/dmolで表した。α−ヘリックスAβペプチドの集団を増すことが知られる、10−30%(v/v)のトリフルオロエタノールのAβペプチド溶液に対する添加後、リガンドによる螺旋含量の増加はさらに著明になる。これらのデータは、試験されたリガンドが、その設計から予測されたように、ヘリックス形Aβに結合することを示す。
【0115】
試験されたリガンドの有用性を確認した外に、これは、本明細書に記載される、効果的リガンドの設計法を使用する有効性をも証明する。
【実施例4】
【0116】
リガンドがAβペプチドに結合する事実の確認
リガンドがAβに結合することをさらに実証するために実験を行った。これらの実験では、結合を示すのに蛍光発射におけるシフトを用いた。これらの実験では、リガンド2aまたは3(約10μM)を、トリフルオロエタノール添加または無添加において、リン酸ナトリウムpH7に溶解した。蛍光は、Hitachi F−4000分光光度計にて測定し、発射は、280nmで励起した後、300と430nmの間で測定した。
【0117】
リガンド2aおよび3は、これらのリガンドの中にトリプトファン残基があるために(図7および8)、280nm光で励起後蛍光発射を示した。リガンド2aまたは3を含む溶液にAβ(1−40)またはAβ(1−42)を加えると、蛍光生産は増加し(例えば、図12)、最大発射における波長は、約348nmから344nmにシフトした。
【0118】
Aβの存在下にリガンドを含む溶液の蛍光発射の変化は、リガンドと、不一致ヘリックスを含むAβペプチドとは、溶液において複合体を形成していることを示す。リガンドのAβ二次構造に及ぼす作用と同様、蛍光シフトは、トリフルオロエタノール無添加の場合より著明でなくなる。これは、リガンドが、α−ヘリックス立体配座を持つAβペプチドに対し好んで結合することを裏付ける。これらのデータからも、蛍光発射法は、リガンドについて、Aβペプチドと相互作用を持つその能力を調べるのに使用することが可能であることが示される。
【実施例5】
【0119】
リガンドのAβ原線維形成に及ぼす作用
リガンド添加および無添加における、Aβ(1−40)またはAβ(1−42)の原線維形成を、原線維結合性染料チオフラビンT(ThT)を用いて評価した。リガンド無添加でAβペプチドを約20μMから200μMの濃度で含む溶液、あるいは、様々なペプチド/リガンド比でペプチドとリガンドを含む溶液を、10mMリン酸バッファーpH7を溶媒として調製した。サンプルを、絶えず穏やかに振とうしながら37℃でインキュベートした。様々な時点で分液を取り出し、150mM NaClを含む10mMリン酸バッファーpH6に溶解した10μM ThTを用いてThT測定を行った。
【0120】
ThT蛍光測定を行う前、サンプルを暗黒中で10−15分インキュベートした。蛍光は、FarCyte(商標)(Tecan)を用い440nmで励起、480nmで発射の条件で測定した。サンプルは全て二重に測定した。
【0121】
アミロイド原線維の存在下ではThT蛍光は増す。リガンド無添加の状態では、Aβ(1−40)をインキュベーションすると、溶解後1から2時間でThT蛍光の増加が得られ、約2から3時間で最大のThT蛍光に達した。リガンド2aまたはリガンド3の存在下では、Aβ(1−40)によって誘発される蛍光はほとんど失われた(図13Aおよび13B)。リガンド2aおよび3は、ThT結合で測定すると、既に1:1リガンド/ペプチド比においてAβ(1−40)原線維形成の低下に効果的であった(図14)。リガンド/Aβ比を5に増すと、ThT蛍光はさらに低下したが、一方、リガンド/Aβ比10では、リガンド/Aβ比5の場合とほぼ同じ結果が得られた。リガンド2aおよび3では、Aβ原線維形成の低下が見られたのとは対照的に、Aβ不一致ヘリックスを安定化することが期待されないジペプチドArg−Glyは、Aβ原線維形成に対して何の作用も及ぼさなかった(図15)。
【実施例6】
【0122】
デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸リガンド
デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸(図16)は、リガンド5に関連し、および/または、リン酸塩がカルボン酸塩によって置換されたリガンドであるという点で、リガンド8および9の変異種である。実験は、実施例5に記載したようにThT法を用いて、デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸の、原線維形成を抑制する能力を試験するために行われた。簡単に言うと、デカノイルグルタミン酸またはパルミトイルグルタミン酸の添加または無添加における、Aβ(1−40)またはAβ(12−28)の原線維形成を、原線維結合性染料チオフラビンT(ThT)を用いて評価した。溶液は、リガンド無添加で、または、各種リガンド/ペプチド比において、Aβペプチドを約20μMから200μMの濃度で含んでいた。これらの実験におけるAβペプチドの濃度は25μMであった。図17Aおよび17Bに示す比は、リガンド/Aβのモル比である。ペプチド/リガンドサンプルは、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7で調製した。サンプルは、絶えず穏やかに振とうしながら37℃でインキュベートした。様々の時点で、分液を取り出し、ThT測定を、150mM NaClを含む10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH6に溶解した10μM ThTを用いて実行した。
【0123】
ThT蛍光測定を行う前、サンプルを暗黒中で10−15分インキュベートした。蛍光は、FarCyte(商標)(Tecan)を用い440nmで励起、480nmで発射の条件で測定した。サンプルは全て二重に測定した。
【0124】
デカノイルグルタミン酸は、全ての濃度において、Aβ原線維形成の量を下げた。ただし、デカノイルグルタミン酸対Aβ(1−40)のモル比5が、原線維形成の低下においてもっとも効果的であった(図17A)。同様に、パルミトイルグルタミン酸は、全てのリガンド/Aβ比において、Aβ原線維形成の量の低下に対し効果的であったが、モル比5および10は、その効力がほぼ同じであった(図17B)。
【0125】
これらのデータは、デカノイルグルタミン酸およびパルミトイルグルタミン酸リガンドが、Aβ原線維形成の量の低下に対し有用であること、従って、これらのリガンドは、Aβ原線維の存在によって特徴づけられる障害の治療に有用であることを示す。
【実施例7】
【0126】
インビボにおけるリガンド3の作用
リガンド3は、アルツハイマー病ショウジョウ蝿(Drosophila melanogaster)モデルの寿命を延ばす。
【0127】
リガンド3(Ac−D−Glu−Dab(Arg−D−Trp)に関するインビトロの結果から、該リガンドの存在下ではAβ凝集の低下が示され、この所見は、インビボモデルにおけるリガンド3の作用に関する研究を促した。ショウジョウ蝿が神経細胞においてAβ1-42を発現する、アルツハイマーモデルを用いた(Crowther et al., 2005, Neuroscience 132:123−125)。リガンド3の作用を評価するために、Aβ1-42遺伝子の2コピーを発現するショウジョウ蝿について寿命を観察した。これらのAβ発現性蝿は、野生型蝿に比べて、生存率が著明に低下した(Crowther et al., 2005、上記)。
【0128】
この実験では、Aβ発現性蝿には、幼虫段階からリガンド3を食餌として与えたが、二つの異なる実験条件下において、未処置の蝿に比べ、寿命の有意な延長がもたらされた。28℃、低湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる650μMのリガンド3は、平均生存時間を延長した(図18)。同様に、29℃、高湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる134μMのリガンドは、平均生存時間を延長した(図19)。Aβを発現しないコントロール蝿では、前述のものと同じ条件下で650μMのリガンド3を与えられた後も、生存率(寿命)の平均値に対する作用に統計的に有意な差が見られないことから示されるように、リガンド3の作用はAβ発現性蝿に対して特異的である(図20)。
【0129】
これらのデータは、Aβ有害作用の緩和に関連するリガンド3によって誘発される生存作用の用量−反応関係を示す。
【0130】
一般に、これらのデータは、アルツハイマー病と関連する異常なアミロイドペプチドを発現する生物の生存率に及ぼすリガンド3の功利的作用を示す。
【実施例8】
【0131】
インビトロにおけるリガンド7aの作用
リガンド7aは、Aβの二次構造、およびインビトロ原線維形成に影響を及ぼす
もう一つの候補化合物が、アルツハイマー病または関連障害を治療するのに有用な化合物を示す作用を提示するかどうかを調べるために実験を行った。
【0132】
一組の実験では、円偏光二色分光光度計測を用いて、リガンド7a(デカノイルトリアミン)の存在下におけるAβのα−ヘリックス含量を調べた。この実験では、Aβ12-28を、リガンド7aの1:1モル比の存在下に、20%トリフルオロエタノール水溶液に溶解し、リガンド無添加のAβペプチドと比較した。リガンド7aを含むサンプルでは、Aβ12-28のα−ヘリックス含量の増加が示された(図21)。
【0133】
Aβ1-40との凝集を、チオフラビンT(ThT)蛍光測定値を用いて監視した。リガンド添加または無添加条件下にインキュベートしたサンプルにおけるThT蛍光の変化を観察することによってAβ凝集の速度を求めた。リガンドと共にインキュベートしたAβ1-40では、独自に凝集したAβ1-40と比べて、蛍光の増加は速やかで、かつ大きかった(図22)。
【0134】
Aβ凝集に及ぼすリガンド7aの作用をさらに調べるために透過型電子顕微鏡観察を用いた。リガンドと共にインキュベートしたAβ1-40では、Aβ単独によって形成された原線維とは異なる形状を持つ原線維が形成された(図23)。リガンド誘発による原線維は、正常のAβ原線維よりも、平均直径約10nm(Aβ単独:6.5nm)、平均長165nm(Aβ単独:>1500nm)で、短く、太かった。
【0135】
SDS−PAGEによる分析では、リガンド7aと共にインキュベートしたAβ1-40では、Aβ単独と比べると、ペレットにおけるペプチド量が大きいこと、3時間後に上清からペプチドが完全に消失することから示されるように(図24)、凝集がより速やかであった。
【0136】
リガンド誘発による原線維の凝集速度および形態において観察された差から、原線維のプロテアーゼ耐性に関する研究へとさらに導かれた。リガンド7a添加および無添加において形成されたAβ1-40の原線維を、最大2時間プロテアーゼKで処理し、得られたAβの分解をSDS−PAGEを用いて評価した。2時間後、リガンド7a無添加下に形成された原線維は、相当量がそのまま存在したが、一方、リガンド7a添加下に形成された原線維は、ほとんど完全に分解された(図25)。これらのデータは、リガンド7aの存在下に形成される原線維は、タンパク分解酵素によってより容易に分解される点で、典型的Aβ原線維とは異なることを示す。
【0137】
これらのデータは、リガンド7aは、Aβの作用を緩和することが可能な、例えば、Aβ関連疾患、例えばアルツハイマー病の治療に有用な化合物と一致する性質を持つことを示す。
【実施例9】
【0138】
リガンド7aのインビトロにおける作用
リガンド7aは、アルツハイマー病のショウジョウ蝿モデルにおいて寿命を延ばし、運動活性を増す。
【0139】
アルツハイマー病、または関連障害の治療に有用な化合物としてのリガンド7aの効力を調べるために、リガンド7aの作用を、アルツハイマー病のインビボモデルで試験した。使用したモデルは、(Crowther et al., 2005、上記)に記載されたもので、ショウジョウ蝿が、神経細胞においてAβ1-42を発現するように遺伝子工学的に処理されたものである。リガンド7aの作用を評価するために、Aβ1-42遺伝子の2コピーを発現するショウジョウ蝿について寿命を観察した。これらのAβ発現性蝿は、野生型蝿に比べて、生存率が著明に低下した(Crowther et al., 2005、上記)。
【0140】
この実験では、Aβ発現性蝿には、幼虫段階からリガンド7aを食餌として与えた。この処方では、二つの異なる実験条件下において、未処置の蝿に比べ、寿命の有意な延長がもたらされた。28℃、低湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる4.5mMのリガンド7aは、平均生存時間を21日から23日に(P<0.0001)(図26)、もう一組の蝿では21日から22日に延長した(P<0.0124)。29℃、高湿度で飼われた蝿では、餌に含まれる4.5mMのリガンド7aは、平均生存時間を3日延長した(P<0.0001)(図27A)。一方、45μMでは、平均生存時間において2日間の延長が得られた(P<0.001)(図27B)。これらのデータは、リガンド7aによって誘発される作用には用量−反応関係のあることを示唆する。
【0141】
Aβを発現しないコントロール蝿では、同じ条件下でリガンドを与えられても、生存率の平均値に作用が見られないことから示されるように、リガンド7aの作用はAβ発現性蝿に対して特異的である(図28)。
【0142】
最後に、Aβ1-42を発現するショウジョウ蝿は、運動活性の進行性喪失を示し、ほとんど完全に動けなくなる(Crowther et al., 2005、上記)。運動性における明瞭な改善が、リガンド7aを与えられたAβ発現蝿に観察された。登攀アッセイでは、4.5mMのリガンド7aで処置したAβ発現蝿では、9匹の内6匹が試験管の上半分に達したのに対し、未処置蝿では10匹の内僅か1匹しか同じ距離を登らなかった。
【0143】
他の実施例
本発明は、その詳細な説明と関連させて記載されてきたわけであるが、前記説明は、本発明の範囲を具体的に説明することを意図するものであって、限定することを意図するものではないことを理解しなければならない。本発明の範囲は、付属の特許請求項によって定義される。他の局面、利点、および修飾も、頭書の特許請求項の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、式1(リガンド1)の化学構造の描画である。
【図2】図2は、Aβ(12−28)の全体螺旋構造からスタートして20psの分子運動力学シミュレーション後に得られた、リガンド3(図の上部の明色円筒体によって示される)、およびAβ(12−28)(図の下部の暗色円筒体によって示される)の複合体構造の描画である。
【図3】図3は、分子運動力学シミュレーション前におけるAβ(12−28)の完全な螺旋構造の描画である。
【図4】図4は、リガンド不在下に、完全な螺旋構造からスタートして20psの分子運動力学シミュレーション後に得られたAβ(12−28)の構造の描画である。
【図5】図5は、リガンド2(一般構造)およびリガンド2a−2eの化学構造の描画である。
【図6】図6は、リガンド4および5の化学構造の描画であり、Aβの対応部分がα−ヘリックスを形成する場合、該リガンドと相互作用を持つAβアミノ酸残基の側鎖の名前を特定する。
【図7】図7は、リガンド3の化学構造の描画であり、Aβの対応部分がα−ヘリックスを形成する場合、該リガンドと相互作用を持つAβアミノ酸残基の側鎖の名前を特定する。
【図8】図8は、リガンド2aの化学構造の描画であり、Aβの対応部分がα−ヘリックスを形成する場合、該リガンドと相互作用を持つAβアミノ酸残基の側鎖の名前を特定する。
【図9】図9は、リガンド7(n=4−18)、7a(n=8)、8(n=1−16)、8a、および9の化学構造の描画である。
【図10A】図10Aは、リガンド10(n=5−13、例えば、n=9−13)、10a(n=13)、11(n=9)、12(n=5−13、例えば、9−13)、12a(n=13)、13、14(n=5−13)、および、リガンド14a(n=13)の化学構造の描画である。
【図10B】図10Bは、リガンド18(n=3−17)、およびリガンド19(n=3−17)の化学構造の描画である。
【図11】図11は、Aβ(12−28)(明線)、および、式1のリガンド(リガンド3)と1:1モル比で混合したAβ(12−28)(暗線)に関する、円偏光二色分光光度分析の結果を示すグラフである(Aβ/リガンド混合物のスペクトラムは、222nmに最低値および195nmに最高値を持つものである)。リン酸ナトリウムバッファー、pH7、30%(v/v)トリフルオロエタノール、20℃。リガンドのスペクトラムを、Aβ−リガンド混合物のスペクトラムから差し引いた。
【図12】図12は、式1のリガンド(リガンド3)(左コラム)、および、30%(v/v)トリフルオロエタノールを含むリン酸ナトリウムバッファーpH7において1:1モル比で該リガンドと混合したAβ(1−40)(右コラム)の、トリプトファン蛍光発射分析の結果を示す棒グラフである。発射最大値は、リガンドのみの場合348nmで見られるが、複合体では344nmで見られた。励起は、20℃で280nmにおいて行った。
【図13A】図13Aは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に定量し、かつ、Aβ(1−40)を、リガンド3と5:1または10:1のリガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を定量した実験の結果を示すグラフである。
【図13B】図13Bは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に定量し、かつ、Aβ(1−40)を、リガンド2aと5:1または10:1のリガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を定量した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図14】図14は、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において1.5時間インキュベーションした後に検出し、かつ、Aβ(1−40)を、リガンド3またはリガンド2aと1:1、5:1または10:1のリガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を定量した実験の結果を示す棒グラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図15】図15は、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に検出し、かつ、Aβ(1−40)を、ジペプチドArg−Glyと5:1リガンド/Aβモル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を検出した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図16】図16は、リガンド15(n=3−17)、リガンド16(n=7;デカノイルグルタミン酸)、およびリガンド17(n=13;パルミトイルグルタミン酸)の化学構造の描画である。
【図17A】図17Aは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に検出し、かつ、リガンド16(デカノイルグルタミン酸)をAβと各種モル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を検出した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図17B】図17Bは、Aβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を、10mMリン酸ナトリウムバッファーpH7、37℃において種々の期間インキュベーションした後に検出し、かつ、リガンド17(パルミトイルグルタミン酸)をAβと各種モル比で混合した場合のAβ(1−40)のチオフラビンT蛍光を検出した実験の結果を示すグラフである。リガンドのみのチオフラビンT蛍光も示される。数値は、二重サンプルの平均である。
【図18】図18は、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた650μMのリガンド3による処置(+リガンド3、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数を求めた実験の結果を示すグラフである。プロットデータは、羽化後の指示日数における、それぞれのグループの生存蝿の数である。また、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される(p=0.0035)。
【図19】図19は、(処置なし、黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた134μMのリガンド3による処置(+リガンド3、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数を求めた実験の結果を示すグラフである。また、この実験において、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。
【図20】図20は、(処置なし、灰色線)でAβ(1−42)を発現しない野生型ジョウジョウ蝿(WIII8)、または、餌に含ませた650μMのリガンド3による処置(+リガンド3、黒色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数を求めた実験の結果を示すグラフである。
【図21】図21は、Aβ(12−28)単独(実線)、または、20%トリフルオロエタノールに溶解した、Aβ(12−28)プラス当量のリガンド7a(破線)に関する、円偏光二色(CD)スペクトラムを示すグラフである。リガンド7a単独では全くCD作用は見られなかった。
【図22】図22は、Aβ(1−40)単独、または、指示のモル比のリガンド7aを有するAβ(1−42)、または、リガンド7a単独を、37℃で指示の時間インキュベーション後に見られたチオフラビンT蛍光定量実験の結果を示すグラフである。
【図23】図23は、Aβ単独(左パネル)、またはAβプラスリガンド7a(右パネル)によって形成される原線維の電子顕微鏡写真の複製である。
【図24】図24は、単独でインキュベートしたAβ、または、リガンド7aの存在下にインキュベートしたAβについて、16,000xgの遠心後、ペレットまたは上清(Sup)におけるAβの量を示す棒グラフである。
【図25】図25は、Aβ原線維(実線)、または、モル比で10倍過剰なリガンド7aの存在下に形成されたAβ原線維(破線)について、37℃で指示の期間プロテイナーゼKで処理した後に残存する線維状Aβの相対量を定量する実験の結果を示すグラフである。
【図26】図26は、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた4.5mMのリガンド7aによる処置(+リガンド7a、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿について、羽化後の生存蝿の数で表した生存率データを示すグラフである。処置蝿および未処置(非処置)蝿(各グループn=110)について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。p=0.0001
【図27A】図27Aは、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた4.5mMのリガンド7aによる処置(+リガンド7a、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿における生存率データを示すグラフである。また、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。
【図27B】図27Bは、処置なし(黒色線)でAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿、または、餌に含ませた45μM(下段グラフ)のリガンド7aによる処置(+リガンド7a、灰色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿における生存率データを示すグラフである。また、処置蝿および未処置蝿について、日数で表した生存時間の平均値および中央値も示される。
【図28】図28は、(処置なし、灰色線)でAβ(1−42)を発現しない野生型ジョウジョウ蝿(WIII8)、または、餌に含ませた4.5mMのリガンド7aによる処置(+リガンド7a、黒色線)下にAβ(1−42)を発現するジョウジョウ蝿における生存率データを示すグラフである。
【図29】図29は、式1およびリガンド2の化合物を合成するための全体的スキームを示す模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1の化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩および水和物であって、該式において:
n1は、(CH2)1-4であり;
n2は、(CH2)1-4であり;
n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、−C=NH(NH2)、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【請求項2】
下記:
R1は、−C=N(NH2)である、
R2は、−C(O)OHである、
R3は、−C(O)OHである、
R4は、アミンである、
R5は、トリプトファンである、
R6は、−NHC(O)CH3である、
の内の少なくとも一つを有する式1の化合物。
【請求項3】
a.AβペプチドのLys16の側鎖;
b.AβペプチドのHis13の側鎖;
c.AβペプチドのGlu23の側鎖;
d.AβペプチドのPhe19の側鎖;
e.AβペプチドのPhe20の側鎖;および
f.AβペプチドのAsp22の側鎖、
の内の少なくとも二つと相互作用を持つことが可能な化合物、および製薬学的に受容可能なその塩。
【請求項4】
化合物が式1の化合物であることを特徴とする、請求項3の化合物。
【請求項5】
化合物が、a−fの内の少なくとも三つと相互作用を持つことが可能であることを特徴とする、請求項3または請求項4の化合物。
【請求項6】
化合物が、a−fの内の少なくとも四つと相互作用を持つことが可能であることを特徴とする、請求項3または請求項4の化合物。
【請求項7】
化合物が、Aβペプチドにおけるα−ヘリックスの消失を抑えることが可能であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項による化合物。
【請求項8】
式1を含む化合物であって、該式において:
n1は、(CH2)1-4であり;n2は、(CH2)1-4であり;n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;
R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;
R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、チロシン、フェニルアラニン、またはトリプトファンと連結する芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【請求項9】
リガンド2、リガンド2a−2eの内の任意の一つ、リガンド3、リガンド4、リガンド5、リガンド6、リガンド7、リガンド7a、リガンド8、リガンド8a、リガンド9、リガンド10、リガンド10a、リガンド11、リガンド12、リガンド12a、リガンド13、リガンド14、リガンド14a、リガンド15、リガンド16、リガンド17、リガンド18、およびリガンド19から成るグループから選ばれる化合物。
【請求項10】
請求項1、請求項6、または請求項7の内の少なくとも1種の化合物、および製薬学的に受容可能な賦形剤、希釈剤、または担体を含む組成物。
【請求項11】
α−ヘリックス形のAβペプチドの消失を抑える方法であって、請求項1、請求項6、または請求項7の化合物とAβペプチドを接触させることを含む前記方法。
【請求項12】
β形のAβの量を下げる方法であって、請求項1、請求項6、または請求項7の化合物とAβペプチドを接触させることを含む前記方法。
【請求項13】
Aβ凝集物の形成を抑える方法であって、請求項1、請求項6、または請求項7の化合物とAβペプチドを接触させることを含む前記方法。
【請求項14】
Aβペプチド関連障害を治療するための候補化合物となる化合物を特定する方法であって、
a.請求項1、請求項2、請求項3、請求項6、または請求項7の化合物を準備すること;
b.Aβペプチドを該化合物に接触させ、それによってサンプルを準備すること;
c.サンプルにおける、αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を定量すること;
αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を基準と比較することを含み、基準に比べ、サンプル中のαヘリックス形のAβペプチドの量を増しβ形のAβペプチドの量を減らす化合物が候補化合物であるとすることを特徴とする、前記方法。
【請求項15】
Aβペプチドがインビトロで調製されることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項16】
β形のAβペプチドの量はチオフラビンTを用いて定量されることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項17】
Aβペプチドは動物において準備されることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項18】
Aβペプチド関連障害を患う危険性のある、または現に患う被験者を処置する方法であって、
a)Aβペプチド関連障害を患う危険性のある、または現に患う被験者を特定すること;および、
b)請求項1、請求項2、請求項3、請求項6、または請求項7の化合物の治療有効量を、該被験者に投与することを含む前記方法。
【請求項19】
Aβペプチド関連障害がアルツハイマー病であることを特徴とする、請求項18の方法。
【請求項20】
被験者が哺乳動物であることを特徴とする、請求項18の方法。
【請求項21】
被験者がヒトであることを特徴とする、請求項18の方法。
【請求項1】
式1の化合物、および、製薬学的に受容可能なその塩および水和物であって、該式において:
n1は、(CH2)1-4であり;
n2は、(CH2)1-4であり;
n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、−C=NH(NH2)、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【請求項2】
下記:
R1は、−C=N(NH2)である、
R2は、−C(O)OHである、
R3は、−C(O)OHである、
R4は、アミンである、
R5は、トリプトファンである、
R6は、−NHC(O)CH3である、
の内の少なくとも一つを有する式1の化合物。
【請求項3】
a.AβペプチドのLys16の側鎖;
b.AβペプチドのHis13の側鎖;
c.AβペプチドのGlu23の側鎖;
d.AβペプチドのPhe19の側鎖;
e.AβペプチドのPhe20の側鎖;および
f.AβペプチドのAsp22の側鎖、
の内の少なくとも二つと相互作用を持つことが可能な化合物、および製薬学的に受容可能なその塩。
【請求項4】
化合物が式1の化合物であることを特徴とする、請求項3の化合物。
【請求項5】
化合物が、a−fの内の少なくとも三つと相互作用を持つことが可能であることを特徴とする、請求項3または請求項4の化合物。
【請求項6】
化合物が、a−fの内の少なくとも四つと相互作用を持つことが可能であることを特徴とする、請求項3または請求項4の化合物。
【請求項7】
化合物が、Aβペプチドにおけるα−ヘリックスの消失を抑えることが可能であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項による化合物。
【請求項8】
式1を含む化合物であって、該式において:
n1は、(CH2)1-4であり;n2は、(CH2)1-4であり;n3は、(CH2)1-4であり;
R1は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R2は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;
R3は、カルボン酸、リン酸塩、フォスフォン酸塩、フォスフィン酸塩、硫酸塩、または、スルフォン酸塩;
R4は、アミン、ジアミン、カルボン酸、またはカルボキシルアミドであり;
R5は、チロシン、フェニルアラニン、またはトリプトファンと連結する芳香環基であり;および、
R6は、存在しないか、または、カルボキシルアミド、または、化合物とAβペプチドとの連結を妨げない、他の任意の基である。
【請求項9】
リガンド2、リガンド2a−2eの内の任意の一つ、リガンド3、リガンド4、リガンド5、リガンド6、リガンド7、リガンド7a、リガンド8、リガンド8a、リガンド9、リガンド10、リガンド10a、リガンド11、リガンド12、リガンド12a、リガンド13、リガンド14、リガンド14a、リガンド15、リガンド16、リガンド17、リガンド18、およびリガンド19から成るグループから選ばれる化合物。
【請求項10】
請求項1、請求項6、または請求項7の内の少なくとも1種の化合物、および製薬学的に受容可能な賦形剤、希釈剤、または担体を含む組成物。
【請求項11】
α−ヘリックス形のAβペプチドの消失を抑える方法であって、請求項1、請求項6、または請求項7の化合物とAβペプチドを接触させることを含む前記方法。
【請求項12】
β形のAβの量を下げる方法であって、請求項1、請求項6、または請求項7の化合物とAβペプチドを接触させることを含む前記方法。
【請求項13】
Aβ凝集物の形成を抑える方法であって、請求項1、請求項6、または請求項7の化合物とAβペプチドを接触させることを含む前記方法。
【請求項14】
Aβペプチド関連障害を治療するための候補化合物となる化合物を特定する方法であって、
a.請求項1、請求項2、請求項3、請求項6、または請求項7の化合物を準備すること;
b.Aβペプチドを該化合物に接触させ、それによってサンプルを準備すること;
c.サンプルにおける、αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を定量すること;
αヘリックス形またはβ形のAβペプチドの量を基準と比較することを含み、基準に比べ、サンプル中のαヘリックス形のAβペプチドの量を増しβ形のAβペプチドの量を減らす化合物が候補化合物であるとすることを特徴とする、前記方法。
【請求項15】
Aβペプチドがインビトロで調製されることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項16】
β形のAβペプチドの量はチオフラビンTを用いて定量されることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項17】
Aβペプチドは動物において準備されることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項18】
Aβペプチド関連障害を患う危険性のある、または現に患う被験者を処置する方法であって、
a)Aβペプチド関連障害を患う危険性のある、または現に患う被験者を特定すること;および、
b)請求項1、請求項2、請求項3、請求項6、または請求項7の化合物の治療有効量を、該被験者に投与することを含む前記方法。
【請求項19】
Aβペプチド関連障害がアルツハイマー病であることを特徴とする、請求項18の方法。
【請求項20】
被験者が哺乳動物であることを特徴とする、請求項18の方法。
【請求項21】
被験者がヒトであることを特徴とする、請求項18の方法。
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
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【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27A】
【図27B】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【公表番号】特表2008−535786(P2008−535786A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557627(P2007−557627)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001112
【国際公開番号】WO2006/090289
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(507269371)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001112
【国際公開番号】WO2006/090289
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(507269371)
【Fターム(参考)】
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