説明

アミンの改良調製方法

本発明は、ラサジリン(1)およびその薬学上許容される塩の改良調製方法に関する。特に、本発明は、実質的に不純物を含まないラサジリン(1)およびその塩の調製方法に関する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラサジリン(1)およびその薬学上許容される塩の改良調製方法に関する。特に、本発明は、実質的に不純物を含まないラサジリン(1)およびその塩の調製方法にに関する。
【背景技術】
【0002】
ラサジリンは、構造式(1)で表され、1−(R)−(2−プロピニルアミノ)インダンと化学的に命名され、選択的で強力で不可逆的なモノアミンオキシダーゼB(MAO−B)阻害剤である。ラサジリンは、現在、そのメシレート塩の形態で、単独療法またはレボドパとの補助療法としてパーキンソン病(PD)の治療のために販売されている。ラサジリン(1)は、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症および多発性硬化症の治療にも有用でありうる。
【0003】
【化1】

【0004】
ラサジリン(1)はUS5457133に初めて記載された。同公報に記載のラサジリンの調製方法は、(R)−1−アミノインダンをプロパルギルクロリドと反応することを含む単一工程の方法である。アセトニトリル中、炭酸カリウムと共に60℃で16時間で反応が実施されている。この方法で得られた未精製のラサジリン(1)は、非常に不純であり、カラムクロマトグラフィーで精製しなければならない。(R)−1−アミノインダンからのラサジリン(1)の全収率は44%よりも低く、本方法は、長い反応時間、カラムクロマトグラフィーによる生成物の単離の必要性等の他の不利な点も有する。特に、ラサジリン(1)のカラムクロマトグラフィーによる単離があるために、商業製造のためのスケールアップには、本方法は極めて受け入れられないものとなっている。加えて、報告された方法では、より安価な成分であるプロパルギルクロリドと比較して、より高価な成分である(R)−1−アミノインダンを過剰に使用する必要があるという不利な点がある。
【0005】
特許出願WO95/11016に記載されている、ラサジリン(1)の他の調製方法は、プロパルギルクロリドの代わりにプロパルギルベンゼンスルホナートを使用するとの点を除けば、US5457133に記載された方法に非常に類似している。WO95/11016に記載された実施例の1つには、トルエン中で15%NaOH水溶液存在下、ラセミの1−アミノインダンをプロパルギルベンゼンスルホナートと反応させることで、ラセミのラサジリンを生成させ、その後、望む異性体を単離するための分別結晶技術を用いて光学分割して、ラサジリン(1)を生成させることを含む方法が記載されている。しかし、報告された方法は、収率が低く、不純な生成物が得られている。
【0006】
特許出願WO02/068376に記載されている、ラサジリン(1)の他の調製方法には、インダノンまたは1−クロロインダンとベンジルアミンとからの、N−ベンジル−1−アミノインダンの調製方法が含まれている。L−酒石酸を用いたN−ベンジル−1−アミノインダンの光学分割、およびベンジルを脱離させるための触媒を用いる水素添加によって、(R)−1−アミノインダンが得られ、さらにラサジリン(1)に変換される。この方法は、保護および脱保護を含む多くの工程を有するとの欠点があり、(R)−1−アミノインダンの調製のための全収率は、非常に低い19%であると報告されていた。
【0007】
類似の多工程の手順は、Organic Letters, vol.8, no.22, p. 5013-5016, 2006、US5994408およびUS2006/0199974に報告されているが、報告された方法は、高価な試薬の使用;多工程で長い方法;低い収率;および/または実質的な精製が必要となる不純な生成物の製造という不利な点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ラサジリン(1)およびラサジリンメシレートの商業的製造が非常に重要であるため、先行技術に伴う上記の不利な点を考慮すると、多工程を含まず、厄介な精製技術を必要としない、ラサジリン(1)およびラサジリンメシレートの代替する改良された調製方法が実際に必要とされている。その代替方法は、経済的で高収率であり、また高い化学純度と光学純度を持つラサジリン(1)およびラサジリンメシレートを提供するものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要約
ラサジリン(1)の調製において、先行技術に伴われる困難な点は、本発明で成功裏に解決された。
【0010】
明細書および請求の範囲を通して、ここで用いられる用語“1−アミノインダン”は、他に明記されない限り、1−アミノインダンおよび/またはそのいかなる塩、溶媒和物もしくは結晶多型を意味する。明細書および請求の範囲を通して、ここで用いられる用語“ラサジリン”は、他に明記されない限り、ラサジリンおよび/またはそのいかなる塩、溶媒和物もしくは結晶多型を意味する。本発明は、特にラサジリンの遊離塩基、およびラサジリンメシレートの調製に有用である。
【0011】
1−アミノインダンおよびラサジリンの塩には、適した酸との酸付加塩が含まれる。その酸には、ハロゲン化水素酸(例えば、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸またはヨウ化水素酸)または他の無機酸(例えば、硝酸、過塩素酸、硫酸またはリン酸)等の無機酸;または有機カルボン酸(例えば、プロピオン酸、ブタン酸、グリコール酸、乳酸、マンデル酸、クエン酸、酢酸、安息香酸、サリチル酸、コハク酸、リンゴ酸もしくは水酸化コハク酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、水酸化マレイン酸、ムチン酸もしくはガラクタル酸、グルコン酸、パントテン酸またはパモ酸)、有機スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸またはカンファースルホン酸)またはアミノ酸(例えば、オルニチン、グルタミン酸またはアスパラギン酸)等の有機酸が含まれるが、それらに限定されない。ラサジリンの好ましい塩は、ラサジリンメシレートとも呼ばれるメタンスルホン酸の付加塩である。
【0012】
本発明の目的のために、1−アミノインダン、ラサジリンまたはラサジリンメシレートが、例えばキラルHPLCで測定して、60:40〜40:60の比でその鏡像異性体を含む場合に、“ラセミ”であるという。
【0013】
本発明の目的のために、1−アミノインダン、ラサジリンまたはラサジリンメシレートが、例えばキラルHPLCで測定して、一方の鏡像異性体のみを60%以上、好ましくは70%以上、好ましくは80%以上、好ましくは90%以上含む場合に、“鏡像異性的に富んでいる”という。
【0014】
本発明の目的のために、1−アミノインダン、ラサジリンまたはラサジリンメシレートが、例えばキラルHPLCで測定して、一方の鏡像異性体のみを95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上、好ましくは99.5%以上、好ましくは99.9%以上含む場合に、“鏡像異性的に純粋”であるという。
【0015】
本発明の目的のために、1−アミノインダン、ラサジリンまたはラサジリンメシレートが、例えばHPLCで測定して、不純物を3%より少なく、好ましくは2%より少なく、好ましくは1%より少なく、好ましくは0.5%より少なく、好ましくは0.1%より少なく含む場合に、化学不純物を“実質的に含まない”という。
【0016】
本発明によって、1−アミノインダン、好ましくは(R)−1−アミノインダンから出発する、効率的で経済的なラサジリン(1)の合成が提供される。本合成は、高い収率であり、厄介な精製技術を必要とせず、商業的スケールで非常に高い化学純度および光学純度を有する生成物を提供する。
【0017】
従って、本発明の第一の側面によって、以下の工程を含む、ラサジリン(1)の調製方法が提供される:
(a)1−アミノインダンを、有機塩基存在下、プロパルギル化合物H−C≡C−CH−X(式中、Xは脱離基を表す)、またはその保護された化合物と反応させる工程。
【0018】
本発明の方法の好ましい態様では、その1−アミノインダンが、鏡像異性的に純粋であるか、または鏡像異性的に富んでいる(R)−1−アミノインダンであり、その方法は、さらに以下の工程を含む:
(b)工程(a)で得られた混合物からラサジリン(1)を単離する工程。
好ましくは、工程(b)で単離されるラサジリン(1)は鏡像異性的に富んでおり、最も好ましくは、工程(b)で単離されるラサジリン(1)は鏡像異性的に純粋である。
【0019】
本発明の方法の代替する態様では、その1−アミノインダンがラセミの1−アミノインダンであり、その方法は、さらに以下の工程を含む:
(b1)工程(a)で得られた混合物からラセミのラサジリンを単離する工程、および
(b2)工程(b1)で得られたラセミのラサジリンを光学分割して、ラサジリン(1)を得る工程。
好ましくは、工程(b2)で得られるラサジリン(1)は鏡像異性的に富んでおり、最も好ましくは、工程(b2)で得られるラサジリン(1)は鏡像異性的に純粋である。
【0020】
好ましくは、本発明の第一の側面の方法において、鏡像異性的に純粋であるか、または鏡像異性的に富んでいる(R)−1−アミノインダンを使用する。しかし、ラセミの1−アミノインダンを使用することもでき、得られるラセミのラサジリンを、よく確立され、報告された光学分割のルートに従って、例えばWO95/11016に記載の手順に従って、ラサジリン(1)に変換することができる。
【0021】
好ましくは、本発明の第一の側面の方法における工程(a)は、有機溶媒中で実施される。その有機溶媒は、好ましくは、ジメチルスルホキシド、アセトン、エチルメチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリルおよびこれらの混合物を含む群から選択される。より好ましくは、有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、アセトン、エチルメチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドまたはこれらの混合物である。最も好ましくは、有機溶媒は、テトラヒドロフランである。
【0022】
好ましくは、有機塩基は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N−メチルモルホリン、1,4−ジアザビシクロ−[2.2.2]オクタン(Dabco)、1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)および1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)を含む群から選択される。より好ましくは、有機塩基は、ジイソプロピルエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルアミン、DMAP、N−メチルモルホリン、Dabco、DBNまたはDBUである。より好ましくは、有機塩基は、Dabco、DBNまたはDBUである。最も好ましくは、有機塩基はDBUである。
【0023】
好ましくは、脱離基は、ハロ基、カルボン酸エステル基またはスルホン酸エステル基である。より好ましくは、脱離基は、スルホン酸エステル基であり、より好ましくは、トシレート基、ベシレート基(ベンゼンスルホナート基)、ブロシレート基、ノシレート基、メシレート基、トレシレート基、ノナフレート基またはトリフレート基であり、より好ましくは、トシレート基またはベシレート基であり、最も好ましくはトシレート基である。
【0024】
好ましくは、本発明の第一の側面の方法の工程(a)において、1−アミノインダンを0〜5℃で有機溶媒に溶解させる。
【0025】
好ましくは、本発明の第一の側面の方法の工程(a)における反応温度は、10〜40℃の間である。より好ましくは、反応温度は、15〜20℃の間である。
【0026】
好ましくは、本発明の第一の側面の反応で生成されるラサジリン(1)は、さらに薬学上許容される塩、最も好ましくはメシレート塩に変換される。ラサジリン(1)の薬学上許容される塩には、適した酸との酸付加塩が含まれる。その酸には、ハロゲン化水素酸(例えば、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸またはヨウ化水素酸)または他の無機酸(例えば、硝酸、過塩素酸、硫酸またはリン酸)等の無機酸;または有機カルボン酸(例えば、プロピオン酸、ブタン酸、グリコール酸、乳酸、マンデル酸、クエン酸、酢酸、安息香酸、サリチル酸、コハク酸、リンゴ酸もしくは水酸化コハク酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、水酸化マレイン酸、ムチン酸もしくはガラクタル酸、グルコン酸、パントテン酸またはパモ酸)、有機スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸またはカンファースルホン酸)またはアミノ酸(例えば、オルニチン、グルタミン酸またはアスパラギン酸)等の有機酸が含まれるが、それらに限定されない。ラサジリン(1)の好ましい薬学上許容される塩は、ラサジリンメシレートとも呼ばれるメタンスルホン酸の付加塩である。
【0027】
好ましくは、ラサジリン(1)またはラサジリンの塩は、収率70%以上で、好ましくは80%以上で、好ましくは90%以上で、好ましくは95%以上で得られる。
【0028】
好ましくは、ラサジリン(1)またはラサジリンの塩は、商業的スケールで、好ましくは1kg以上、10kg以上、100kg以上、500kg以上、または1000kg以上の単位で得られる。
【0029】
好ましくは、得られるラサジリン(1)またはラサジリンの塩は、鏡像異性的に純粋である。すなわち、それらは、例えばキラルHPLCで測定して、一方の鏡像異性体のみを95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上、好ましくは99.5%以上、好ましくは99.9%以上含む。
【0030】
好ましくは、得られるラサジリン(1)またはラサジリンの塩は、化学不純物を実質的に含まない。すなわち、それらは、例えばHPLCで測定して、不純物を3%より少なく、好ましくは2%より少なく、好ましくは1%より少なく、好ましくは0.5%より少なく、好ましくは0.1%より少なく含む。
【0031】
好ましくは、得られるラサジリン(1)またはラサジリンの塩は、例えばHPLCで測定して、不純物ジプロパルギルインダンアミンを0.8%より少なく、好ましくは0.5%より少なく、好ましくは0.3%より少なく、好ましくは0.1%より少なく含む。
【0032】
好ましくは、この光学純度および化学純度は、クロマトグラフィーを使用せずに達成される。
【0033】
本発明の第二の側面によって、本発明の第一の側面の方法で調製される、ラサジリン(1)またはラサジリンメシレート等のその薬学上許容される塩が提供される。
【0034】
本発明の第三の側面によって、本発明の第一の側面の方法で調製される、鏡像異性的に純粋なラサジリン(1)または鏡像異性的に純粋なラサジリンメシレート等のラサジリン(1)の鏡像異性的に純粋な薬学上許容される塩が提供される。
【0035】
本発明の第四の側面によって、鏡像異性的に純粋なラサジリン(1)または鏡像異性的に純粋なラサジリンメシレート等のラサジリン(1)の鏡像異性的に純粋な薬学上許容される塩が提供される。
【0036】
本発明の第五の側面によって、化学不純物を実質的に含まないラサジリン(1)またはラサジリンメシレート等のラサジリン(1)の化学不純物を実質的に含まない薬学上許容される塩が提供される。
【0037】
本発明の第二、第三、第四または第五の側面によるラサジリン(1)の薬学上許容される塩には、適した酸との酸付加塩が含まれる。その酸には、ハロゲン化水素酸(例えば、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸またはヨウ化水素酸)または他の無機酸(例えば、硝酸、過塩素酸、硫酸またはリン酸)等の無機酸;または有機カルボン酸(例えば、プロピオン酸、ブタン酸、グリコール酸、乳酸、マンデル酸、クエン酸、酢酸、安息香酸、サリチル酸、コハク酸、リンゴ酸もしくは水酸化コハク酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、水酸化マレイン酸、ムチン酸もしくはガラクタル酸、グルコン酸、パントテン酸またはパモ酸)、有機スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸またはカンファースルホン酸)またはアミノ酸(例えば、オルニチン、グルタミン酸またはアスパラギン酸)等の有機酸が含まれるが、それらに限定されない。ラサジリン(1)の好ましい薬学上許容される塩は、ラサジリンメシレートとも呼ばれるメタンスルホン酸の付加塩である。
【0038】
好ましくは、本発明の第二、第三、第四または第五の側面によるラサジリン(1)またはラサジリンメシレート等のその薬学上許容される塩は、パーキンソン病(PD)(単独療法、またはレボドパへの補助療法によるものが含まれる)、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症または多発性硬化症の治療もしくは予防のために適している。
【0039】
本発明の第六の側面によって、本発明の第二、第三、第四または第五の側面によるラサジリン(1)またはラサジリンメシレート等のその薬学上許容される塩を含有する医薬組成物が提供される。好ましくは、本医薬組成物は、パーキンソン病(PD)(単独療法、またはレボドパへの補助療法によるものが含まれる)、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症または多発性硬化症の治療もしくは予防のために適している。
【0040】
本発明の第七の側面によって、本発明の第二、第三、第四もしくは第五の側面によるラサジリン(1)もしくはラサジリンメシレート等のその薬学上許容される塩を治療上もしくは予防上有効な量、または本発明の第六の側面による医薬組成物を治療上もしくは予防上有効な量、それを必要とする患者に投与することを含む、パーキンソン病(PD)(単独療法、またはレボドパへの補助療法によるものが含まれる)、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症または多発性硬化症を治療もしくは予防する方法が提供される。好ましくは、その患者は哺乳動物であり、最も好ましくはその哺乳動物はヒトである。
【0041】
従って、本発明の第八の側面によって、以下の工程を含む、ラサジリンの類縁体の調製方法が提供される:
(a)前駆体アミンを、有機塩基存在下、プロパルギル化合物H−C≡C−CH−X(式中、Xは脱離基を表す)、またはその保護された化合物と反応させる工程。
【0042】
本発明の第一の側面の方法の好ましい態様または特徴はいずれも、同様に本発明の第八の側面の方法の好ましい態様または特徴である。
【0043】
ラサジリンの類縁体としては、セレギリン、パルギリンまたはクロルギリンが含まれるが、これに限定されない。セレギリン、パルギリンおよびクロルギリンの前駆体アミンは、それぞれアミン(I)、(II)および(III)である。
【0044】
【化2】

【0045】
好ましくは、本発明の第八の側面のセレギリンの調製方法において、鏡像異性的に純粋であるか、または鏡像異性体的に富んでいる前駆体アミンR−(I)が用いられる。
【0046】
【化3】

【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
本発明は、ラサジリン(1)およびラサジリンメシレート等のその薬学上許容される塩の単純で、簡便で、高価ではない調製方法を提供する。本発明の方法で得られる生成物は、厄介な精製技術を必要とせず、驚くほど非常に純粋である。特に、本発明によって、不純物ジプロパルギルインダンアミンを実質的に含まない、ラサジリン(1)およびラサジリンメシレート等のその薬学上許容される塩が提供される。そのジプロパルギルインダンアミンは、0.8%より少なく、好ましくは0.5%より少なく、好ましくは0.3%より少なく、最も好ましくは0.1%より少なく存在する。
【0048】
本発明の利点は、高価ではない無害な合成試薬の使用、単純で簡便な方法の条件、および非常に高い化学純度と光学純度という生成物の不純物プロファイルを厳密に制御する非常に速い合成方法にある。
【0049】
本発明の好ましい方法は、有機溶媒中、(R)−1−アミノインダンを有機塩基と反応させ、この混合物にプロパルギルトシレート(プロパルギルp−トルエンスルホナートとしても知られている)を加えて、15〜20℃で攪拌する工程を含む、ラサジリン(1)の調製方法である。驚くことに、有機塩基を試薬として選択することで、ラサジリン(1)が反応混合物から非常に高い収率と純度で単離される。加えて、プロパルギルスルホナートエステルと有機塩基の選択によって、不純物生成の制御および反応速度の向上に、驚くべきほどの相乗的な効果があると思われる。
【0050】
好ましくは、(R)−1−アミノインダンを有機溶媒に溶解させる。その有機溶媒は、好ましくは、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、エチルメチルケトン、アセトニトリルおよびこれらの混合物を含む群から選択される。より好ましくは、有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、エチルメチルケトンまたはこれらの混合物である。最も好ましくは、有機溶媒は、テトラヒドロフランである。
【0051】
好ましくは、有機塩基は、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N−メチルモルホリン、1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)および1,4−ジアザビシクロ−[2.2.2]オクタン(Dabco)から選択される。より好ましくは、有機塩基は、トリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、DMAP、N−メチルモルホリン、DBN、DBUまたはDabcoである。より好ましい態様によって、有機塩基が、DBU、DBNおよびDabcoを含む群から選択される方法が提供される。最も好ましい態様において、有機塩基はDBUである。
【0052】
好ましくは、(R)−1−アミノインダンおよび有機塩基を、0〜10℃、最も好ましくは約0〜5℃で有機溶媒に溶解させて、好ましくは約30分間攪拌する。
【0053】
好ましくは、プロパルギルトシレートは(R)−1−アミノインダンと有機塩基との混合物の中に、約0〜10℃の間の温度でゆっくりと加えられる。最も好ましいのは、0〜5℃の間の温度である。好ましくは、反応混合物は、その後、10〜40℃の間、好ましくは10〜30℃の間、最も好ましくは約15〜20℃に、好ましくは約4時間、保たれる。
【0054】
本発明の方法の好ましい態様をスキーム1に図示する。
【0055】
【化4】

【0056】
スキーム1に示される試薬および溶媒は、本発明を単に説明するためのものであって、本反応は、これら試薬および溶媒に限定されない。適した代替物はいかなるものでも、上記のようにして使用することができる。
【0057】
好ましくは、生成物(1)は、収率70%以上で、好ましくは80%以上で、好ましくは90%以上で、好ましくは95%以上で得られる。
【0058】
ラサジリン(1)のラサジリンメシレートへの変換は、よく確立され、報告された塩形成ルートに従って、実施できる。
【0059】
好ましくは、ラサジリン(1)およびラサジリンメシレートは、化学不純物を実質的に含まない。
【0060】
好ましくは、ラサジリン(1)およびラサジリンメシレートは、商業的スケールで、好ましくは1kg以上、10kg以上、100kg以上、500kg以上、または1000kg以上の単位で得られる。
【0061】
本発明の方法は、ラセミのラサジリンまたはラサジリン(1)に類似するアミン、例えば、セレギリン、パルギリンまたはクロルギリンの調製に容易に適用できる。
【0062】
本発明の第六の側面による医薬組成物は、溶液または懸濁液であってもよいが、好ましくは固形経口投薬形態である。本発明に従った好ましい投薬形態としては、錠剤、カプセル等が含まれ、これらは必要に応じてコーティングを施してもよい。錠剤は、直接圧縮、湿式造粒および乾式造粒等の従来の技術に従って、製造することができる。カプセルは、一般にゼラチン材料から形成され、本発明に従って従来通り製造される顆粒状の賦形剤を含めることができる。
【0063】
本発明の医薬組成物は、典型的には、充填剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤を含む群から選択される1つまたはそれ以上の薬学上許容される従来の賦形剤を含み、任意に着色剤、吸着剤、界面活性剤、膜形成剤および可塑剤から選択されるの少なくとも1つの賦形剤をさらに含む。
【0064】
上記のように、本発明の医薬組成物には、典型的には、微結晶セルロース、乳糖、糖類、デンプン、修飾デンプン、マンニトール、ソルビトールおよびその他のポリオール、デキストリン、デキストランまたはマルトデキストリン等の1以上の充填剤;乳糖、デンプン、修飾デンプン、トウモロコシデンプン、デキストリン、デキストラン、マルトデキストリン、微結晶セルロース、糖類、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、トラガント、ポリビニルピロリドンまたはクロスポビドン等の1以上の結合剤;クロスカルメロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、クロスポビドン、架橋カルボキシメチルデンプン、デンプン、微結晶セルロースまたはポラクリリン(polacrilin)カリウム等の1以上の崩壊剤;および、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、マグネシウムトリシリケート、ステアリン酸、パルミチン酸、カルナウバロウまたは二酸化ケイ素等の1以上の潤滑剤または滑沢剤が含まれる。
【0065】
必要であれば、本発明の医薬組成物は、界面活性剤およびその他の賦形剤をも含んでもよい。
【0066】
固形医薬製剤がコーティング錠の形態である場合、コーティングは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロシキプロピルセルロースまたはメタアクリレートポリマー等のフィルム形成剤の少なくとも1つから調製することができ、ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリエチル等の可塑剤の少なくとも1つ、および色素、充填剤等の膜コーティングにとって慣用的に用いられる、その他の医薬補助物質を任意に含んでもよい。
【0067】
本発明の好ましい実施例の実験の詳細を以下に説明する。
【実施例】
【0068】
ラサジリン(1)
(R)−1−アミノインダン(1当量)を乾燥THF(3 vol)に溶解させて、0〜5℃に冷却した。DBU(1.5当量)をゆっくりと加え、得られた混合物を30分間攪拌して、プロパルギルトシレート(1.25当量)を滴下した。反応混合物を、15〜20℃で4時間攪拌した。反応が完結した後、THFを、真空下、留去して、水(3 vol)を加えた。生成物をDCM(3×3 vol)で抽出し、10%NaOH水溶液(2×3 vol)および水(2×3 vol)で洗浄した。DCMを、真空下、40℃で留去することで、生成物を淡黄色の油状物として得た。
モル収率=80〜82%
化学純度=64.33%(HPLCで測定)
ラサジリンメシレート
ラサジリン(1)(1当量)をIPA(3 vol)に溶解させて、0〜5℃に冷却して、メタンスルホン酸(1当量)のIPA(2 vol)溶液を加えた。混合物を30分間攪拌し、濾取して、得られた固体をIPA(2 vol)およびTBME(2 vol)で洗浄した。その固体を、10mbarの真空下、40℃で乾燥することで、生成物を白色固体として得た。
モル収率=47%
化学純度=99.84%(HPLCで測定)
光学純度=100%(キラルHPLCで測定)((S)−異性体は検出されなかった)
ラサジリン(1)の調製において、先行技術に伴われる困難な点は、本発明の方法で成功裏に解決された。
【0069】
本発明について上述したものが単なる例証のためであったことは、理解されるであろう。その例証には、何ら発明を制限する意図はない。本発明の魂と本質からかけ離れずに、種々の改変および態様を成すことができる。その発明は、続く請求の範囲によってのみ規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1−アミノインダンを、有機塩基存在下、プロパルギル化合物H−C≡C−CH−X(式中、Xは脱離基を表す)、またはその保護された化合物と反応させる工程
を含む、ラサジリン(1)の調製方法。
【請求項2】
1−アミノインダンが、鏡像異性的に純粋であるか、または鏡像異性的に富んでいる(R)−1−アミノインダンであり、その方法がさらに
(b)工程(a)で得られた混合物からラサジリン(1)を単離する工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1−アミノインダンがラセミの1−アミノインダンであり、その方法がさらに
(b1)工程(a)で得られた混合物からラセミのラサジリンを単離する工程、および
(b2)工程(b1)で得られたラセミのラサジリンを光学分割して、ラサジリン(1)を得る工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が有機溶媒中で実施される、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項5】
有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、エチルメチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリルおよびこれらの混合物を含む群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒がテトラヒドロフランである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
有機塩基が、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N−メチルモルホリン、1,4−ジアザビシクロ−[2.2.2]オクタン(Dabco)、1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)および1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)を含む群から選択される、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項8】
有機塩基がDBUである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
脱離基が、ハロ基、カルボン酸エステル基またはスルホン酸エステル基である、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項10】
スルホン酸エステル基が、トシレート、ベシレート、ブロシレート、ノシレート、メシレート、トレシレート、ノナフレートまたはトリフレートである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
スルホン酸エステル基がトシレートまたはベシレートである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
1−アミノインダンを0〜5℃で有機溶媒に溶解させる、請求項4〜11のいずれか記載の方法。
【請求項13】
工程(a)の反応温度が10〜40℃の間である、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項14】
反応温度が15〜20℃の間である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
生成されるラサジリン(1)を薬学上許容される塩に変換する、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項16】
生成されるラサジリン(1)をそのメシレート塩に変換する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか記載の方法に従って調製される、ラサジリン(1)またはその薬学上許容される塩。
【請求項18】
請求項16記載の方法に従って調製される、ラサジリンメシレート。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれか記載の方法に従って調製される、鏡像異性的に純粋なラサジリン(1)またはラサジリン(1)の鏡像異性的に純粋な薬学上許容される塩。
【請求項20】
請求項16記載の方法に従って調製される、鏡像異性的に純粋なラサジリンメシレート。
【請求項21】
鏡像異性的に純粋なラサジリン(1)またはラサジリン(1)の鏡像異性的に純粋な薬学上許容される塩。
【請求項22】
鏡像異性的に純粋なラサジリンメシレート。
【請求項23】
化学不純物を実質的に含まない、ラサジリン(1)またはその薬学上許容される塩。
【請求項24】
化学不純物を実質的に含まない、ラサジリンメシレート。
【請求項25】
パーキンソン病(PD)(単独療法、またはレボドパへの補助療法によるものが含まれる)、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症または多発性硬化症の治療もしくは予防のための、請求項17、19、21または23に記載のラサジリン(1)またはその薬学上許容される塩。
【請求項26】
パーキンソン病(PD)(単独療法、またはレボドパへの補助療法によるものが含まれる)、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症または多発性硬化症の治療もしくは予防のための、請求項18、20、22または24に記載のラサジリンメシレート。
【請求項27】
請求項17、19、21、23または25に記載のラサジリン(1)またはその薬学上許容される塩を含有する医薬組成物。
【請求項28】
請求項18、20、22、24または26に記載のラサジリンメシレートを含有する医薬組成物。
【請求項29】
パーキンソン病(PD)(単独療法、またはレボドパへの補助療法によるものが含まれる)、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症または多発性硬化症の治療もしくは予防のための、請求項27または28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
請求項17、19、21、23もしくは25に記載のラサジリン(1)もしくはその薬学上許容される塩を治療上もしくは予防上有効な量、請求項18、20、22、24もしくは26に記載のラサジリンメシレートを治療上もしくは予防上有効な量、または請求項27、28もしくは29に記載の医薬組成物を治療上もしくは予防上有効な量、それを必要とする患者に投与することを含む、パーキンソン病(PD)(単独療法、またはレボドパへの補助療法によるものが含まれる)、痴呆、アルツハイマー病、うつ、多動性症候群、脳卒中、脳虚血、神経外傷、統合失調症または多発性硬化症を治療もしくは予防する方法。
【請求項31】
患者が哺乳動物である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
哺乳動物がヒトである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
(a)前駆体アミンを、有機塩基存在下、プロパルギル化合物H−C≡C−CH−X(式中、Xは脱離基を表す)、またはその保護された化合物と反応させる工程
を含む、ラサジリンの類縁体の調製方法。
【請求項34】
ラサジリンの類縁体が、セレギリン、パルギリンまたはクロルギリンである、請求項33記載の方法。

【公表番号】特表2011−522025(P2011−522025A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512215(P2011−512215)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050610
【国際公開番号】WO2009/147432
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(508116469)ジェネリクス・(ユーケー)・リミテッド (34)
【Fターム(参考)】