説明

アミン化合物の製造方法

【課題】ヒドロキサム酸金属塩から収率良くアミン化合物を製造する方法を提供。
【解決手段】ニトリル化合物と水の混合溶媒中でヒドロキサム酸金属塩を、好ましくは不活性ガス雰囲気下で加熱反応させて、ロッセン転位反応を行うことを特徴とするアミン化合物の製造方法。ニトリル化合物と水の体積混合比としては、ニトリル化合物:水=5:1〜1:5が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン化合物の製造方法、特に、ヒドロキサム酸金属塩からアミン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミン化合物は、樹脂や染色剤の原料、医薬や農薬等の合成中間体などに用いられる有用な化合物である。従来このようなアミン化合物を合成する方法として、ロッセン転位反応を利用した反応が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。一般的に、ロッセン転位反応を比較的温和な条件で効率良く反応させるには、あらかじめヒドロキサム酸のヒドロキシル基をアシル化するなどして良い脱離基に変えてから反応させる必要がある(例えば、非特許文献2参照。)。一方、芳香族ジヒドロキサム酸金属塩をニトリル化合物や3級アミンの有機溶媒存在下、加熱してロッセン転位反応することでアミン化合物を得る方法も開発されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法によって芳香族ジヒドロキサム酸金属塩から得られるアミン化合物の収率は低いという問題があり、より収率良くアミン化合物を製造する方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭54−157528号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. H. Yale 等 Chem. Rev., 33(1943),p.209
【非特許文献2】W. B. Renfrow 等 J. Am. Chem. Soc., 59(1937),p.2308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒドロキサム酸金属塩から収率良くアミン化合物を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記従来技術に鑑み、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、ニトリル化合物と水の混合溶媒中でヒドロキサム酸金属塩を加熱反応させ、ロッセン転位反応を行うことを特徴とするアミン化合物の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒドロキサム酸金属塩からアミン化合物を収率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。本実施形態におけるヒドロキサム酸金属塩からアミン化合物を製造するプロセスは下記式のように表すことができる。
【0009】
【化1】

[上記式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を示す。Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。Mがアルカリ金属のときはnは1を、Mがアルカリ土類金属のときはnは2を示す。]
【0010】
一般式(I)で表される化合物において、Rはアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を示す。Rとしては、アルキル基、アリール基が好ましく、アリール基としてはフェニル基がより好ましい。またRはさらにヒドロキサム酸金属塩基(−CONHOM基)を有していても良い。一般式(I)で表される化合物において、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられ、好ましくはナトリウム、カリウムであり、より好ましくはカリウムである。アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどが挙げられる。
【0011】
一般式(I)で表される化合物として具体的には、ブチロヒドロキサム酸ナトリウム、ブチロヒドロキサム酸カリウム、ペンチルヒドロキサム酸ナトリウム、ペンチルルヒドロキサム酸カリウム、ヘキシルヒドロキサム酸ナトリウム、ヘキシルヒドロキサム酸カリウム、1,4−ブタンジヒドロキサム酸ナトリウム、1,4−ブタンジヒドロキサム酸カリウム、1,5−ペンタンジヒドロキサム酸ナトリウム、1,5−ペンタンジヒドロキサム酸カリウム、1,6−ヘキサンジヒドロキサム酸カリウム1,6−ヘキサンジヒドロキサム酸ナトリウム、1,6−ヘキサンジヒドロキサム酸カリウム、シクロヘキシルヒドロキサム酸ナトリウム、シクロヘキシルヒドロキサム酸カリウム、p−シクロヘキシルジヒドロキサム酸ナトリウム、p−シクロヘキシルジヒドロキサム酸カリウム、m−シクロヘキシルジヒドロキサム酸ナトリウム、m−シクロヘキシルジヒドロキサム酸カリウム、ベンゾヒドロキサム酸ナトリウム、ベンゾヒドロキサム酸カリウム、p−ベンゾジヒドロキサム酸ナトリウム、p−ベンゾジヒドロキサム酸カリウム、m−ベンゾジヒドロキサム酸ナトリウム、m−ベンゾジヒドロキサム酸カリウム、1−ナフトヒドロキサム酸ナトリウム、1−ナフトヒドロキサム酸カリウム、2−ナフトヒドロキサム酸ナトリウム、2−ナフトヒドロキサム酸カリウム、ナフタレン−2,6−ジヒドロキサム酸ナトリウム、ナフタレン−2,6−ジヒドロキサム酸カリウムなどが挙げられる。これらの中で芳香族ジヒドロキサム酸金属塩を選択することが好ましい。また上記一般式(I)で表される化合物の具体例において、ヒドロキサム酸金属塩基(−CONHOM基[便宜上Mがアルカリ金属の場合を示す。])をアミノ基(−NH基)に置き換えたものが一般式(II)で表される化合物の具体例に相当する。ただし、本発明はこれら化合物に限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態における反応温度としては、基質によって好ましい温度は異なるが、反応温度が低すぎると反応が進行せず、一方、反応温度が高すぎると副反応が進行しやすくなるため、一般的には100℃〜200℃の範囲で行われ、好ましくは150℃〜190℃の範囲で、より好ましくは160〜180℃の範囲で行われる。反応圧力は特段の限定はないが、常圧の反応では反応速度が遅かったり、もしくは反応しないことがあるので、加圧下で反応を行うことが好ましい。また、反応中の雰囲気としては、生成したアミン化合物の酸化を防ぐ目的などから、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、炭酸ガス(二酸化炭素)等の不活性ガス雰囲気下で加熱反応させることが好ましい。本実施形態における反応時間としては、目的のアミン化合物を収率良く得る目的から、15分〜3時間が好ましく、30分〜2時間がより好ましい。
【0013】
本実施形態におけるニトリル化合物としては、特に限定されないが、アセトニトリル、クロロアセトニトリル、ジクロロアセトニトリル、ブロモアセトニトリル、ヨードアセトニトリル、プロピオニトリル、クロロプロピオニトリル、ブロモプロピオニトリル、ヨードプロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、クロロブチロニトリル、ブロモブチロニトリルベンゾニトリル、p−トリニトリル、m−トリニトリル、o−トリニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、アゼラニトリル、セバコニトリル、スベロニトリル、デカンジニトリル、ウンデカンジニトリル、ドデカンジニトリル、マロノニトリル、イソプロピリデンマロノニトリル、t−ブチルマロノニトリル、プロパントリカルボニトリルなどが挙げられ、入手の容易さからアセトニトリルが好ましい。
【0014】
本実施形態におけるニトリル化合物と水の体積混合比としては、ニトリル化合物:水=5:1〜1:5が好ましい。ニトリル化合物、もしくは水の単独溶媒中でもアミン化合物は得られるが、その収率は低い。ニトリル化合物と水の混合溶媒中では、それぞれが相互作用して触媒としても働くために、ニトリル化合物と水の混合溶媒を用いた時に、収率良くアミン化合物が得られると考えられる。本実施形態において生成したアミン化合物の単離・精製は、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなどの通常の方法により行うことができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定を受けるものではない。生成物の分析は、特に記載したもの以外は、高速液体クロマトグラフ(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「LaChrom Elite」、分析用カラム:ジーエルサイエンス株式会社製「Inertsil ODS−4」。以下、HPLCと略記することがある)で行った。
【0016】
[実施例1]
混合溶媒として、ニトリル化合物であるアセトニトリル15mL、水10mLの混合溶媒をオートクレーブ中に入れた。そして、ヒドロキサム酸金属塩としてp−ベンゾジヒドロキサム酸カリウム(以下、p−BDAKと略記することがある)2.5gをオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を窒素置換し、窒素雰囲気下180℃で1時間反応させた。生成物をHPLCで分析し、p−フェニレンジアミン(以下、PPDAと略記することがある)の収率を求めた。結果を表1に示した。
【0017】
[実施例2]
実施例1において、アセトニトリルをベンゾニトリルに代えたこと以外は実施例1と同様にして反応、分析を行い、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0018】
[実施例3]
実施例1において、アセトニトリルと水の量を、それぞれアセトニトリル18.6mL、水6.4mLに代えたこと以外は実施例1と同様にして反応、分析を行い、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0019】
[実施例4]
実施例1において、アセトニトリルと水の量を、それぞれアセトニトリル10.5mL、水14.5mLに代えたこと以外は実施例1と同様にして反応、分析を行い、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0020】
[実施例5]
混合溶媒として、ニトリル化合物であるアセトニトリル20mL、水5mLの混合溶媒をオートクレーブ中に入れた。そして、ヒドロキサム酸金属塩としてm−ベンゾジヒドロキサム酸カリウム(以下、m−BDAKと略記することがある)2.5gをオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を窒素置換し、窒素雰囲気下180℃で1時間反応させた。生成物をHPLCで分析し、m−フェニレンジアミン(以下、MPDAと略記することがある)の収率を求めた。結果を表1に示した。
【0021】
[実施例6]
実施例1において、ヒドロキサム酸金属塩をp−ベンゾジヒドロキサム酸ナトリウム(以下、p−BDANa記することがある)に代えたこと以外は実施例1と同様にして反応、分析を行い、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0022】
[実施例7]
実施例1において、ヒドロキサム酸金属塩をブチルヒドロキサム酸カリウムに代えたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。生成物の分析は、水素炎イオン化検出器を使用したガスクロマトグラフ(Hewlett−Packard Company製「HP6890」、分析用カラム:ジーエルサイエンス株式会社製キャピラリーカラム「INERTCAP 1701」)で行い、プロピルアミンの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0023】
[比較例1]
ヒドロキサム酸金属塩としてp−BDAK2.5gをオートクレーブに仕込み、そこへニトリル化合物としてアセトニトリル25mLを加えて、系内を窒素置換し、窒素雰囲気下180℃で1時間反応させた。生成物をHPLCで分析し、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0024】
[比較例2]
比較例1において、アセトニトリルを水に代えたこと以外は比較例1と同様にして反応、分析を行い、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0025】
[比較例3]
比較例1において、アセトニトリルをベンゾニトリルに代えたこと以外は比較例1と同様にして反応、分析を行い、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0026】
[比較例4]
実施例1において、アセトニトリルをピリジンに代えたこと以外は実施例1と同様にして反応、分析を行い、PPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0027】
[比較例5]
比較例1において、p−BDAKをm−BDAKに代えたこと以外は比較例1と同様にして反応、分析を行い、MPDAの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0028】
[比較例6]
実施例7において、水を加えず、アセトニトリルの量を25mLに代えたこと以外は実施例7と同様にして反応、分析を行い、プロピルアミンの収率を求めた。結果を表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すとおり、ヒドロキサム酸金属塩をニトリル化合物と水の混合溶媒中、不活性ガス雰囲気下で加熱して、ロッセン転位反応を行うことで、収率良くアミン化合物を製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、ヒドロキサム酸金属塩から対応するアミン化合物を製造する方法において、ヒドロキサム酸金属塩をニトリル化合物と水の混合溶媒中、不活性ガス雰囲気下で加熱して、ロッセン転位反応を行うことで、収率良くアミン化合物を製造することができ、その工業的な意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル化合物と水の混合溶媒中で、ヒドロキサム酸金属塩を加熱反応させることを特徴とするアミン化合物の製造方法。
【請求項2】
混合溶媒中のニトリル化合物と水の体積比率が、ニトリル化合物:水=5:1〜1:5であることを特徴とする請求項1記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項3】
ヒドロキサム酸金属塩が芳香族ジヒドロキサム酸金属塩であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項4】
不活性ガス雰囲気下で加熱反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアミン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−224557(P2012−224557A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91132(P2011−91132)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】