説明

アミン含有排水の生物処理法及び処理装置

【課題】超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の生物処理において、条件変動時の処理を安定化させ、運転開始時や排水組成や負荷変動時においても安定な処理を行う。
【解決手段】超純水回収系有機排水であるアミン含有排水を生物処理槽に導入して生物処理する方法において、該生物処理槽内液のpH値に基いて、該生物処理槽に酸を添加するアミン含有排水の生物処理法。超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の生物処理に当たり、アミンの酸化で生成したアンモニアによる生物処理槽内液のpHの上昇を検知して、そのpH値に応じて生物処理槽に酸を添加することにより、生物処理槽内液を生物処理に最適なpH値に調整することができるので、運転開始時や、排水組成ないしは排水負荷の変動時においても、生物処理の活性を低下させることなく、安定かつ効率的な処理を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水回収系有機排水のアミン含有排水を生物処理する方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、プラズマディスプレイ等の製造工程からは、超純水回収系有機排水として、エタノールアミン等の各種のアミンを主体とし、N−メチルホルムアミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ成分を含むアミン含有排水が排出される。これらのアミン含有排水の生物処理法としては、活性汚泥法(AS)、膜分離活性汚泥法(MBR)、流動床式生物処理法(FB)等が適用されるが、いずれの場合も、排水中のアルカリ成分を中和して生物処理に適したpH6.5〜7.5程度にpH調整するために、生物処理槽の前段にpH調整槽を設け、pHを自動調整することが行われている(例えば特許文献1)。
【0003】
生物処理槽では、アミンの生物分解、この生物分解で生成したアンモニアを酸化して硝酸とする硝化が起き、この硝酸の生成で生物処理槽内のpHは低下する。このため、生物処理槽では、アルカリを添加してpH中性に維持する必要がある。
なお、この硝化に伴って低下したpHを中和するためのアルカリ添加量を低減するために、脱窒処理を行ってアルカリの一部を回収することもある。この脱窒処理は、MBRでの採用例が多く、脱窒方式としては、通常、排水中のアミンを有機物源として利用する循環法が利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−80497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の生物処理装置では、処理が良好に行われている場合は、生物処理槽の前段のpH調整槽へのわずかな酸の添加、及び生物処理槽へのアルカリの添加によって、最適運転条件に維持することができる。
しかし、運転開始時や排水組成や排水負荷が極端に変化したときなどには、生物処理槽内液のpHが大きく変化し、処理が不安定になるという問題があり、特にこの問題は、超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の処理の場合に顕著であった。
【0006】
本発明は、超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の生物処理における条件変動時の処理を安定化させ、運転開始時や排水組成や負荷変動時においても安定な処理を行うことができるアミン含有排水の生物処理法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の生物処理における条件変動時の処理の不安定さの原因について検討を行い、以下のような知見を得た。
【0008】
前述のように、生物処理槽内でアミンの生物分解が進行すると、まずアミンの分解でアンモニアが生成してpHが上昇し、次いで、アンモニアが酸化されて硝酸となってpHが低下するという経過をたどる。
これらの反応が、プラグフローに近い生物処理槽や多段の生物処理槽で起こると、処理の進行に伴って、生物処理槽中間部分では、アミンの分解によるアンモニウム生成でpHの上昇が起こり、馴養が進むにつれてアンモニアの酸化による硝酸の生成でpHの低下が起こる。従って、生物処理槽では、すべての部分で、酸、アルカリの両方を添加する必要が生ずる。即ち、pH上昇領域では酸を、pH低下領域ではアルカリを添加することが必要となる。
【0009】
下水、食品排水、化学排水等の通常の一般排水であるアミン含有排水の生物処理においては、排水のアルカリ度が高いため、アミンの分解によるアンモニアの生成やアンモニアの酸化による硝酸の生成によるpHの変動が小さい。このため、多くの場合、生物処理槽への酸、アルカリの添加は不要で、脱窒によるアルカリ回収のみで生物処理槽のpHを十分に中性に維持することができる。また、例外的にアルカリ度が低い場合でも、生物処理槽にわずかなアルカリを添加すればよく、どのような場合でも生物処理槽に酸を添加する必要はなかった。即ち、従来、一般排水のアミン含有排水の生物処理において、生物処理槽内でのアンモニアの生成が生物処理の活性低下の原因となるという認識はなく、生物処理槽への酸の添加は行われていなかった。
【0010】
しかし、半導体、液晶、プラズマディスプレイ等の超純水回収系の有機排水は、超純水にわずかな有機物が溶けているのみであり、アルカリ度は殆ど含まれていないため、pH緩衝作用がなく、pH変動が極めて大きい。このため、アミンの分解で生成するアンモニアによるpH上昇の影響を大きく受け、生物反応に必要なpH範囲を大きく逸脱することになり、この結果、生物処理の活性が低下して処理が不安定となる。この現象は、生物処理槽への排水の流入が断続的になると助長され、連続的に近づくほど軽減される。また、生物処理槽がプラグフロー型であるとより助長され、完全混合型の生物処理槽であると軽減される。
【0011】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 超純水回収系有機排水であるアミン含有排水を生物処理槽に導入して生物処理する方法において、該生物処理槽内液のpH値に基いて、該生物処理槽に酸を添加することを特徴とするアミン含有排水の生物処理法。
【0013】
[2] [1]において、槽内液が完全混合される構造の前記生物処理槽に前記アミン含有排水を連続的に導入することを特徴とするアミン含有排水の生物処理法。
【0014】
[3] [1]又は[2]において、前記pH値が8.5以下となるように前記生物処理槽に酸を添加することを特徴とするアミン含有排水の生物処理法。
【0015】
[4] 超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の生物処理装置において、該アミン含有排水が導入される生物処理槽と、該生物処理槽内の液のpHを測定するpH計と、該pH計の測定値に基いて、該生物処理槽に酸を添加する酸添加手段とを有することを特徴とするアミン含有排水の生物処理装置。
【0016】
[5] [4]において、前記生物処理槽は、槽内液が完全混合される構造の生物処理槽であり、該生物処理槽に前記アミン含有排水が連続的に導入されることを特徴とするアミン含有排水の生物処理装置。
【0017】
[6] [4]又は[5]において、前記pH計の測定値が8.5以下となるように前記酸添加手段により酸が添加されることを特徴とするアミン含有排水の生物処理装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の生物処理に当たり、アミンの酸化で生成したアンモニアによる生物処理槽内液のpHの上昇を検知して、そのpH値に応じて生物処理槽に酸を添加することにより、生物処理槽内液を生物処理に最適なpH値に調整することができるので、運転開始時や、排水組成ないしは排水負荷の変動時においても、生物処理の活性を低下させることなく、安定かつ効率的な処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のアミン含有排水の生物処理法及び処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明で処理対象とするアミン含有排水は、半導体、液晶、プラズマディスプレイ等の超純水回収系の有機排水であり、このような超純水回収系有機排水は、通常、次のような水質である。
<超純水回収系有機排水水質>
pH:8〜11
TOC:10〜200mg/L
TOC成分:モノエタノールアミン、N−メチルホルムアミド、TMAH等のアミン等
TOC成分中のアミンの割合:50〜95%
【0021】
本発明においては、このような超純水回収系有機排水であるアミン含有排水を生物処理槽に導入して生物処理するに当たり、生物処理槽内液のpHを測定し、その値に基いて生物処理槽に酸を添加する。
【0022】
なお、超純水回収系有機排水は、上述のように、通常pH8〜11程度のアルカリ性である。
また、この排水には、生物処理に必要な栄養塩が含まれていないため、必要な栄養塩を添加して生物処理に供することが好ましい。
【0023】
生物処理槽としては特に制限はなく、通常の曝気槽を用いることができるが、前述の如く、生物処理槽がプラグフロー型であるとpH変動の影響が大きいことから、生物処理槽としては、槽内液を完全混合できるもの、具体的には、次の(1)及び/又は(2)のようなものを用いることが好ましく、更に、複数の生物処理領域を直列に設けず、単槽構造としたものが好ましい。
(1) 全面曝気の生物処理槽
(2) タンク形状として、排水の流入部から流出部の長さが、幅の5倍以下であるもの
【0024】
また、前述のように、生物処理槽に排水を断続的に導入するとpH変動の影響が大きくなることから、排水は生物処理槽に連続的に、好ましくは一定の流量で導入することが望ましい。
【0025】
生物処理槽への酸の添加は、生物処理槽内液のpH値が生物処理に好適なpH7〜8.5となるように行われる。従って、生物処理槽内液のpH値が8.5を超えた場合には硫酸、塩酸等の酸を添加して生物処理槽内液pHが8.5以下となるようにpH調整することが好ましい。なお、生物処理槽内液pHが7を下回った場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加する。
【0026】
このような生物処理槽内液のpH値に基く、酸、或いは酸及びアルカリの添加は、生物処理槽に設けたpH計に連動する薬注手段により自動的に行うことができる。
【0027】
なお、本発明で用いる生物処理槽には汚泥の保持のための担体を充填してもよく、担体は流動床、固定床のいずれでもよいが、槽内液の混合のためには流動床式担体が好ましく、また、その充填率は槽容積に対して10〜50%程度が好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0029】
なお、以下の実験例、実施例及び比較例においては、下記水質の液晶工場の超純水回収系有機排水に、以下の通り栄養塩を添加したpH9.5の水に、硫酸を添加してpH7.5に調整した水を原水として処理を行った。
【0030】
<有機排水水質>
TOC:103mg/L
主成分:モノエタノールアミン
その他の成分:N−メチルホルムアミド、TMAH等(モノエタノールアミンとN−メチルホルムアミドとTMAHの合計で全TOCの90%以上)
なお、上記有機排水には、P、Ca、K、Mg、Na、S等はほとんど含まれていなかったため、リン酸2ナトリウムとリン酸1カリウムを合計でリン換算添加量として1mg/Lとなるように、また、硫酸マグネシウムをマグネシウム換算添加量として1mg/L、塩化カルシウムをカルシウム換算添加量として1mg/Lとなるように、それぞれ添加した。添加後の排水のpHは9.5であった。
【0031】
[実験例1]
3Lの曝気槽を3槽直列にし、各曝気槽に10mm角のポリウレタンスポンジ担体を20容量%充填した生物処理装置を用いて、原水の生物処理を行った。第1曝気槽(1段目の曝気槽)と第3曝気槽(3段目の曝気槽)にはpH計を設置し、pH計の測定値が7.0まで低下すると1N、NaOH水溶液が添加されるようにした。空気は3槽とも3vvmとなるよう通気し、他場所の浄化槽廃水の生物汚泥を少量添加して、原水を3つの曝気槽へ連続的に通水して処理を開始した。曝気槽の滞留時間はそれぞれ3時間、合計9時間とした。
その結果、処理開始2日目の処理水(第3曝気槽の流出水)のTOC(溶解性TOC)は50mg/Lで、処理開始3日目でも処理水TOCは42mg/Lであった。
pHを測定したところ、処理水はpH9.0、第2曝気槽(2段目の曝気槽)内液でもpH8.8まで上昇していた。4日目になっても処理水のTOCは39mg/L、pH8.8〜9.0であった。
その後、2週間、処理を継続したが、処理水TOCが20mg/L以下になることはなかった。
【0032】
[比較例1]
実験例1と同じ生物処理装置を用い、別途硝化細菌を十分に付着させたスポンジ担体を20容量%充填して、同水質の原水を同条件で通水して生物処理を行った。
その結果、通水4日後には処理水TOCは10mg/Lとなり、5日後には3mg/Lまで低下した。処理水のアンモニア性窒素濃度は2mg/L以下、硝酸性窒素濃度は40mg/L以上であった。
処理水TOC3〜5mg/Lが1週間継続したため、負荷を3倍に増加させた。
その結果、負荷増加の翌日には処理水の硝酸性窒素はほとんど検出されなくなり、代わりにアンモニア性窒素が45mg/L程度検出された。また、TOCも20mg/Lを超え、処理水TOC20〜25mg/Lが3日間継続した。処理水のpHは8.8〜9.1であった。
その後、処理は徐々に悪化し、一週間後には処理水TOCは30mg/Lを超過した。
処理が回復しなかったため、負荷を下げて元にもどした。しかし、その後も一週間以上処理はほとんど回復せず、処理水TOCは10mg/L以下になることはなかった。
【0033】
[実施例1]
第1曝気槽と第3曝気槽にpH計を設け、pH計の測定値が8を超えたら1N HSO水溶液がそれぞれの曝気槽に自動添加されるように設定して、比較例1の処理を継続した。
その結果、3日後には処理水のTOCは5mg/L以下になり、一週間後には処理水のアンモニア性窒素濃度も1mg/L以下になった。
そこで負荷を3倍に上げた。その結果、負荷上昇から5日後には、処理水TOC5mg/L以下、処理水アンモニア性窒素濃度1mg/L以下で安定し、その後、処理が悪化することはなかった。
【0034】
[実施例2]
9Lの曝気槽(1槽)にpH計と、pH計に連動して、pH計の測定値が7.0〜8.5となるように1N NaOH水溶液又は1N HSO水溶液を添加する薬注設備を設置し、曝気槽に10mm角のポリウレタンスポンジ担体を20容量%添加すると共に、他場所の浄化槽活性汚泥を少量添加した後、実施例1と同水質の原水を同じ負荷(負荷上昇後の負荷)で通水した。
その結果、1週間後には処理水TOCは3〜5mg/Lとなった。また、2週間後には硝化も完全になり、処理水のアンモニア性窒素濃度は1mg/L程度になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水回収系有機排水であるアミン含有排水を生物処理槽に導入して生物処理する方法において、該生物処理槽内液のpH値に基いて、該生物処理槽に酸を添加することを特徴とするアミン含有排水の生物処理法。
【請求項2】
請求項1において、槽内液が完全混合される構造の前記生物処理槽に前記アミン含有排水を連続的に導入することを特徴とするアミン含有排水の生物処理法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記pH値が8.5以下となるように前記生物処理槽に酸を添加することを特徴とするアミン含有排水の生物処理法。
【請求項4】
超純水回収系有機排水であるアミン含有排水の生物処理装置において、
該アミン含有排水が導入される生物処理槽と、
該生物処理槽内の液のpHを測定するpH計と、
該pH計の測定値に基いて、該生物処理槽に酸を添加する酸添加手段とを有することを特徴とするアミン含有排水の生物処理装置。
【請求項5】
請求項4において、前記生物処理槽は、槽内液が完全混合される構造の生物処理槽であり、該生物処理槽に前記アミン含有排水が連続的に導入されることを特徴とするアミン含有排水の生物処理装置。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記pH計の測定値が8.5以下となるように前記酸添加手段により酸が添加されることを特徴とするアミン含有排水の生物処理装置。

【公開番号】特開2013−22536(P2013−22536A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161104(P2011−161104)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】