説明

アモルファス過酸化チタン粒子、親水性塗料、親水性塗膜層、建築材

【課題】結晶化しても有機系基材の分解を生じにくいアモルファス過酸化チタン粒子の提供、有機系基材に塗布しても有機系基材が分解しにくい親水性塗料、該親水性塗料を用いて形成された親水性塗膜層、これを有する建築材の提供。
【解決手段】結晶化により有機物分解能を有するようになる非晶質の金属酸化物に、前記有機物分解能を抑制する他の金属を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物分解能を抑制したアモルファス過酸化チタン粒子、これを用いた親水性塗料、該親水性塗料を用いて形成された親水性塗膜層および該親水性塗膜層を有する建築材に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶質の酸化チタン等の光触媒は、図3に示すように、バンドキャップ以上のエネルギーを有する紫外光が照射されると励起されて電子と正孔を生じ、これらが水分子に作用してOHラジカルが生じるため、有機物分解能を有する。
【0003】
基材に親水性塗膜層を形成する場合、基材が無機系基材の場合は非晶質の金属酸化物を基材に塗布して焼成し、非晶質の金属酸化物を結晶化して光触媒に変えるとともに基材に結着させることが可能であるが、有機系基材の場合には焼成により基材が変質してしまうため、前もって結晶化させておいた光触媒を塗料に含める等して基材に塗布する必要がある。
【0004】
光触媒自体は基材に対する結着力が低いうえに有機物分解能を有するので、粘性を有する無機質で非晶質の金属酸化物粒子をバインダーとして使用して、有機系基材に光触媒を含む層を形成する場合が多い。このようなバインダーとしてアモルファス過酸化チタン粒子が知られている。
【0005】
親水性塗膜層を有機系基材に設ける場合、光触媒とバインダーを含む親水性塗料を基材に直接塗布することもあるが、光触媒による有機系基材の分解を防止するためにアモルファス過酸化チタン粒子の層を親水性塗膜層と有機系基材との間に分解防止膜として介在させることもある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
基材に親水性塗料を直接塗布する場合も分解防止膜として介在させる場合も、アモルファス過酸化チタン粒子が有機系基材に接した状態となる。光触媒は結晶質であるため有機物分解能を有するが、このアモルファス過酸化チタンは、非晶質であることから有機物を分解しないバインダーとして好適に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−262481号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】一ノ瀬 弘道、“酸化チタンコーティング剤の改良と環境浄化への応用” 、[online]、3.研究報告P.85−89 平成14年度研究報告,佐賀県窯業技術センター、[平成21年9月3日検索]、インターネット<URL:http://www.scrl.gr.jp/research/reports/h14/h14titancoat.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、例えば40℃付近の低温でも、バインダーや分解防止膜に含まれるアモルファス過酸化チタンが時間の経過とともに部分的に結晶質に変化していき、分解防止膜やバインダー自体が徐々に有機物分解能を有するようになることから、温度の高低で差はあるが日本の住宅環境として想定される−15〜40℃の温度環境でも意図しない有機系基材の劣化が促進する問題がある。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、結晶化しても上記有機系基材の分解を生じにくいアモルファス過酸化チタン粒子の提供を目的とする。また、別の目的としては、有機系基材に塗布しても有機系基材が分解しにくい親水性塗料、該親水性塗料を用いて形成された親水性塗膜層、これを有する建築材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本願発明に係る非晶質の金属酸化物は、結晶化により有機物分解能を有するようになる非晶質の金属酸化物であって、前記有機物分解能を抑制する他の金属を含有させたことを特徴とする。
【0012】
また、非晶質の金属酸化物がアモルファス過酸化チタン粒子の場合、前記他の金属が、W、V、Nb、Mo、CuおよびFeにより形成される群から選ばれる1又は2以上の金属であってもよい。
【0013】
前記含有はドープで行ってもよく、他の金属がバナジウム(V)の場合、このドープはチタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に酸化剤を添加し、この添加によって起こる反応により行うこととしても良い。
【0014】
さらに、前記含有に用いられるチタンとバナジウムの合計のモル量に対して、バナジウムが1〜10モル%であってもよい。
【0015】
また、本願発明に係る親水性塗料は、有機系基材に塗布されるもので、前記アモルファス過酸化チタン粒子を含有することを特徴とする。さらに、本願発明に係る親水性塗膜層は、この親水性塗料を用いて有機系基材に形成された親水性塗膜層である。また、本願発明に係る建築材は、有機系基材と、この表面に形成された前記アモルファス酸化チタン粒子を含む親水性塗膜層を有する。
【0016】
基材とは、アモルファス過酸化チタン粒子を含む親水性塗料が塗布されるものをさす。
【発明の効果】
【0017】
本願発明に係るアモルファス過酸化チタン粒子は、バナジウムを所定の割合で含有しているので、時間経過とともにその一部が結晶化しても、結晶化により発現した有機物分解能がバナジウムにより抑制される。
【0018】
従って、このアモルファス過酸化チタン粒子をバインダー成分として含めた親水性塗料として、有機系基材に塗布して親水性塗膜層を形成しても、この親水性塗膜層による有機系基材の分解が生じにくいものとなる。
【0019】
また、前記含有をドープにより行うこととすれば、バナジウムがアモルファス過酸化チタン粒子中に均一に散在した状態となるため、発現した有機物分解を抑制する観点から、ムラがなく好ましいものとなる。
【0020】
さらに、バナジウムの含有量はチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%とすれば、十分に有機物分解能を抑制する効果が得られる。
【0021】
本願発明に係る親水性塗膜層は有機系基材に塗布して形成された上記アモルファス過酸化チタンを含む親水性塗膜層であるので、有機系基材が分解しにくい。
【0022】
本発明に係る建築材は、有機系基材と、この表面に形成された前記アモルファス過酸化チタンを含む親水性塗膜層とを有する建築材であるので、有機系基材に接した親水性塗膜層中のアモルファス過酸化チタンが結晶化しても有機系基材が劣化しにくく、この劣化に起因した建築材の短寿命化が生じにくい上に建築材の外観も悪化しにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明の実施の形態に係る親水性塗料の調製方法の工程1、2を工程順に示した図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係る親水性塗料の調製方法の工程3、4を工程順に示した図である。
【図1C】本発明の実施の形態に係る親水性塗料の調製方法の工程5、6を工程順に示した図である。
【図2】(A)バナジウム(V)を含有させない場合の電子と正孔の動きを示す説明図である。(B)バナジウム(V)を含有させた場合の電子と正孔の動きを示す説明図である。
【図3】各金属酸化物のバンドキャップエネルギー、親水能および有機物分解能を示した図である。
【図4】(A)所定期間(日)、温度(40℃)でインキュベートしたアモルファス過酸化チタン溶液(バナジウム含有の有・無)を用いて形成したアモルファス過酸化チタン層の有機物分解能を示した表である。(B)(A)の表の折れ線グラフを示す。
【図5】(A)図4のアモルファス過酸化チタン溶液(バナジウム含有の有・無)をバインダー組成分とした親水性塗料を用いて形成した親水性塗膜層の親水能を示した表である。(B)(A)の表の折れ線グラフを示す。
【図6】(A)バナジウムの含有させる場合とさせない場合のそれぞれで、アナターゼ溶液(ANA)/アモルファス過酸化チタン溶液(AMO)の固形分比を変えて形成した親水性塗膜層の有機物分解能を示した表である。(B)(A)の表の折れ線グラフを示す。
【図7】(A)バナジウムの含有させる場合とさせない場合のそれぞれで、アナターゼ溶液(ANA)/アモルファス過酸化チタン溶液(AMO)の固形分比を変えて形成した親水性塗膜層の親水能を示した表である。(B)(A)の表の折れ線グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る非晶質の金属酸化物は、該金属酸化物が結晶化して光触媒となった場合に有機物分解能を有する非晶質の金属酸化物であって、前記有機物分解能を抑制する他の金属等の元素を含有している。この非晶質の金属酸化物は、例えば日本の住宅環境として想定される−15℃〜40℃の温度環境条件下で徐々に結晶化するものである。
【0025】
具体的には、ZnO、TiO、ZnS、Co、NiO、Ag、ZnTiO、MnO、Cr、La、Fe、SiO、MoO、BaTiO等の非晶質の金属酸化物が挙げられる。
【0026】
他の金属等の元素は、非晶質の金属酸化物に含有され、非晶質の金属酸化物が結晶化した際に呈する有機物分解能を抑制する金属等の元素である。通常、光触媒は特定の波長光で励起されるが他の金属を含有すると励起する光の波長が変わる。
【0027】
例えば結晶性の酸化チタンの場合には紫外光で励起されるが、他の金属が含有された場合には紫外光の波長域だけでなく、可視光域においても励起することが多い。従って、他の金属は、非晶質の金属酸化物が結晶化して他の波長域で励起されるようになっても総合的に有機物分解能を抑制する元素である。
【0028】
非晶質の金属酸化物が酸化チタンの場合は、他の金属としてバナジウム(V)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、銅(Cu)および鉄(Fe)等が挙げられる。金属以外の元素でも有機物分解能を抑制することができるものを使用することができる。
【0029】
これらの金属等の元素をドープや包摂等により非晶質の金属酸化物に含有させることで、例えば日本の住宅環境として想定される−15℃〜40℃の温度環境条件下で非晶質の金属酸化物が意図せず部分的に結晶化しても、発現した有機物分解能を抑制できる。
【0030】
例えば水相のドープにより非晶質の金属酸化物に上記含有をさせる場合、光触媒の金属源となる金属塩の水溶液(例えば光触媒が酸化チタンの場合には四塩化チタンの水溶液)を用意し、この水溶液に他の金属の酸化物を溶解させ、水溶液のpHを調整することで双方の金属を含む金属酸化物の沈殿物(ゲル)を生成し、上記含有をさせることができる。この場合、沈殿物(ゲル)を酸化剤で溶解し非晶質の金属酸化物の溶液とする。
【0031】
他の金属がバナジウムの場合、バナジウム源としては、塩化バナジウム、水酸化バナジウム、硫化バナジウム、ヨウ化バナジウム等のバナジウム化合物を用いることができる。
【0032】
さらに、他の金属がタングステンの場合は酸化タングステン、ニオブの場合は酸化ニオブ、モリブデンの場合は酸化モリブデン、銅の場合酸化銅、そして鉄の場合は酸化鉄等といった具合である。
【0033】
本発明に適用可能な光触媒としては、光触媒のバンドキャップエネルギー以上のエネルギーを有する光が照射されたときに励起して電子と正孔を生じるものであればよく、具体的には、ZnO、TiO、ZnS、Co、NiO、Ag、ZnTiO、MnO、Cr、La、Fe、SiO、MoO、BaTiO等を用いることができる。これらは、市販されているものでもよい。
【0034】
以下、本発明に係る非晶質の金属酸化物粒子の実施の形態について、金属酸化物として酸化チタン、有機物分解能を抑制する金属としてバナジウムを選択したものを例示して、図面を参照しながら、より詳細に説明する。
<アモルファス過酸化チタン粒子>
本発明に係るアモルファス過酸化チタンは、非晶質の金属酸化物であり、前述のように、バナジウムを所定量含有させると、アモルファス過酸化チタンが部分結晶化して有機物分解能を発現しても、この有機物分解能を含有させたバナジウムにより抑制させることができる。アモルファス過酸化チタンは、有機系基材に塗布される親水性塗料のバインダー成分となりうるものである。
【0035】
例えば、アモルファス過酸化チタン粒子を含有する親水性塗料により有機系基材表面に親水性塗膜層を形成すると、バインダー成分として機能するアモルファス過酸化チタン粒子が基材に接した状態で固着されるため、このアモルファス過酸化チタン粒子が時間経過とともに部分結晶化し、その後光励起されると、その接した箇所にて不必要な基材の分解が起こる。
【0036】
しかしながら、本発明に係るアモルファス過酸化チタン粒子はバナジウムを含有していることにより、アモルファス過酸化チタン粒子が部分結晶化してアナターゼ等の結晶質に変化しても、その有機物分解活能を抑制して不必要な有機系基材の分解を抑制できる。
【0037】
有機系基材表面の分解が起こると基材表面に微細な凹凸が生じ、有機系基材表面の光反射が一様でなくなるため有機系基材の外観が悪化するが、アモルファス過酸化チタン粒子にバナジウムを含有させることで基材表面の分解を抑制し、有機系基材の外観悪化も防止することができる。
【0038】
また、有機系基材表面の分解が抑制されるため、その表面に形成した親水性塗膜層の剥離を抑制することができる。
【0039】
バナジウムを混入させる量については、前記アモルファス過酸化チタン粒子形成に用いるチタンとバナジウムの合計のモル量に対して1〜10モル%となるモル量で前記アモルファス過酸化チタン粒子に含有させることが望ましい。
【0040】
このバナジウムのモル量が1モル%より少ない場合は、アモルファス過酸化チタン粒子が部分結晶化した際の有機物分解能を抑制する効果が低くなる。また、10モル%より多い場合は、塗布されるバナジウム量の割に有機物分解能を抑制する効果が低く、バナジウム量と有機物分解能抑制効果の相関が低くなる。さらに、親水性塗膜層の褐色が増すため、下地層(有機系基材以外の部分も含む)の色の再現性が低下する。
【0041】
10モル%を越える範囲の量のバナジウムを酸化チタン粒子に混入させた場合には、より高い酸化チタンの有機物分解能抑制の効果が得られ非常に色味がつくが、この場合にバナジウムの混入量に応じて親水性塗膜層の膜厚を減らして極度に薄塗りすれば許容範囲の色味とすることも可能ではある。
<親水性塗料>
本発明に係る親水性塗料は、少なくとも上記アモルファス過酸化チタン粒子等の金属酸化物を含む塗料である。例えば、親水性塗料が有機系の塗料成分を含有している場合には、親水性塗料を保管している間に、時間経過とともにアモルファス過酸化チタンが結晶化し、その後何らかの照射光によって結晶化してできた酸化チタン粒子が励起されても、上記のようにバナジウムにより酸化チタン粒子の有機物分解能が抑制されているため、親水性塗料に含有される有機系の塗料成分が分解しにくい。そのため、塗料成分が変質しにくいものとなり、塗料としての品質低下が生じにくい。
【0042】
アモルファス過酸化チタンを親水性塗料中のバインダー成分として含める場合には、塗料組成分中に例えば0.01〜0.50重量%とするなど、一般の組成とすることができる。
<親水性塗膜層>
本発明に係る親水性塗膜層は、上記親水性塗料を用いて有機系基材の表面に形成したことを特徴とする。
【0043】
従って、本発明に係る親水性塗膜層は、有機系基材の表面にアモルファス過酸化チタン粒子が接触していても、酸化チタン粒子自体の有機物分解能が抑制されているので、有機系基材の侵食が抑制される。このため、上述したように侵食による基材の外観の悪化や親水性塗膜層の剥がれが生じにくく、親水性塗膜層が従来品より強固なものとなる。
【0044】
本発明に係る建築材は、上記親水性塗膜層を含む建築材であるため、基材が侵食する問題による建築材の短寿命化や外観悪化が生じない。
【0045】
親水性塗料や親水性塗膜層といった状態でも40℃付近の温度環境条件下で30日程度経過すると、アモルファス過酸化チタン粒子が結晶化して、約5倍の有機物分解能を有するようになるが(後述の比較例1〜3)、バナジウムを上述したように5モル%混入すると、メチレンブルー分解率を低く抑えることができる。
【0046】
<有機系基材>
本発明に係るアモルファス過酸化チタンが塗布される有機系基材としては、建築材に用いられ得るもので、有機高分子ポリマーを含有する基材を挙げることができる。例えば、アクリルシリコン系、アクリルウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、フッ素系等の有機ポリマーを用いることができる。
【0047】
この有機系基材として、親水性塗料を塗布した際に基材表面に縞状の液滴の形成が防止される程度に親水性のものであれば、よりムラ無く塗ることができる理由から好ましいが、一様に塗布できるものであればよい。また無機系基材の場合には、特に制限なくどの材質の基材を用いてもよい。
<添加剤>
親水性塗料に界面活性剤を添加すれば、表面張力が下がるので塗る際に有機系基材表面で親水性塗料がはじかれにくくなり、より一層ムラ無く均一に塗ることが出来る。
【0048】
この界面活性剤としては、水溶性の溶剤であればよく、アニオン,カチオンのイオン性分子,ノニオン系の非イオン性分子など用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノールのモノアルコール類や、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールのジアルコール類を使用できる。また、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブのセロソルブ類も使用できる。
【0049】
また、親水性塗料がほぼ無機組成分であることから有機系基材に塗布する場合、形成した親水性塗膜層の基材に対する密着性を高めるために親水性塗料にカップリング剤を添加してもよい。このカップリング剤としては、例えばシランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミカップリング剤を用いることができる。形成されるほぼ無機の親水性塗膜層がこのカップリング剤により有機系基材表面により強固に結合する。
【0050】
さらに、親水性塗膜層のつやを消して見栄えを良くするために親水性塗料につや消し剤を添加してもよい。つや消し剤としては、カオリン、タルク、アルミナ、ハイドロタルサイト、ベントン、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなど体質顔料やクレー類を用いることができる。
<アモルファス過酸化チタン粒子とこれを含む親水性塗料の製造、親水性塗膜層の形成>
非晶質の金属酸化物粒子に他の金属を含有させる方法はドープや包摂等があるが、水相でドープする方法についての具体的な手順は後述の[工程1]〜[工程6]が例示できる。
【0051】
このうち [工程1]〜[工程4]は、バナジウムが混入されたアモルファス過酸化チタン粒子を調製する方法で、チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に過酸化水素水等の酸化剤を添加し、この添加によって起こる反応によって前記チタンと前記バナジウムを同一分子内に含むアモルファス過酸化チタン粒子を形成するものである。以下各工程を順に説明するが、説明中の具体的な数値も例示であってこれらに限定されない。
【0052】
[工程1]:原料準備
図1Aを参照して、後述の工程2以降で使用する原料として、チタン源、バナジウム源等を用意する。
【0053】
まず、最終的に調製するアモルファス過酸化チタン溶液またはアナターゼ溶液の容量を決定し、溶液中に含まれるチタンの終濃度(例えば0.5重量%)とチタンのモル量(例えば0.1mol)を決定し、このチタンのモル量を含む塩化チタン水溶液をチタン源として用意する。アモルファス過酸化チタン溶液を調製する場合とアナターゼ溶液を調製する場合の双方でチタンのモル量を同量とした方が後の親水性塗料の調製時に簡便となる。
【0054】
さらに、上記したチタンとバナジウムの合計のモル量に対して約1〜10モル%となるバナジウムのモル量(上の例ではバナジウム約0.001〜0.01mol)を含む例えば酸化バナジウム(約0.0005〜0.005mol)を用意する。
【0055】
また、中和用のアンモニア水とバナジウム溶液調製用のアンモニア水を用意する。バナジウム溶液調製用のアンモニア水中のアンモニアのモル量は、最終的に中和に用いられるアンモニアのモル量以下で、pH調整のスタートのpHを設定するためのものとして、任意のモル量を加えることができる。
【0056】
そして、図1Aに示すように、バナジウムを含む化合物(上の例では酸化バナジウム)をバナジウム溶液調製用のアンモニア水に溶解し、蒸留水にて適宜希釈(上の例では酸化バナジウム濃度を0.9重量%)としてバナジウム溶液を得る。
【0057】
また、塩化チタンは強酸性であるので塩化チタン水溶液に蒸留水を混合して希釈しておいてもよい。
【0058】
前記塩化チタンの代わりに、チタンアルコキシドの加水分解物を用いることもできる。この場合のチタンアルコキシドとしては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラノルマルプロポキシチタン、テトラノルマルブトキシチタンを例示することができる。
[工程2]:沈殿
工程2では、工程1で調製した各溶液を混合し、沈殿物(ゲル)を形成する。
【0059】
まず、バナジウム溶液と中和用のアンモニア水を混合し、この溶液全量を塩化チタン水溶液(又はチタンアルコキシド水溶液)に徐々に加えていく。その後、さらにアンモニア水にてpHを調整していくが、高粘度のアモルファス過酸化チタン粒子を調製する場合にはpH2〜6とするのが好ましい。
【0060】
これにより、水酸化チタンと水酸化バナジウムが混ざった沈殿物(ゲル)を得る(図1の[工程2]参照)。
【0061】
ここで、上記バナジウム溶液とアンモニア水の混合の際に、混合する酸化バナジウム溶液の量の調節することで含有させるバナジウムの量を調節することができる。
[工程3]:不要イオンの除去(洗浄)
図1Bを参照して、沈殿物(ゲル)の重量に、最終の溶液濃度(実施例ではTi約0.5重量%)にするために必要な量の水を加え、上澄みを除去する(不図示)。これらの動作を繰り返して、上澄みが導電率10μs/cm以下となるまで沈殿物(ゲル)の洗浄を行う。
[工程4]:沈殿物(ゲル)の溶解(アモルファス過酸化チタン溶液の調製)
工程3の沈殿物(ゲル)に水を加えたものに、チタンのモル量に対して10倍のモル量となる過酸化水素等の酸化剤を添加する。過酸化水素等の酸化剤を沈殿物(ゲル)添加することでアモルファス過酸化チタンができる。
【0062】
この場合、沈殿物(ゲル)の溶解熱により、生成したアモルファス過酸化チタン粒子の結晶化が促進されるおそれがあるので、氷水などの恒温槽で反応液を低温に維持して溶解させることが望ましい。
【0063】
これにより、アモルファス過酸化チタン溶液(上の例では0.1molのチタンと0.001〜0.01molのバナジウムを含むと推定されるアモルファス過酸化チタン粒子の溶液)を得る。
【0064】
[工程5]:親水性塗料の調製
次に、図1Cを参照して、アモルファス過酸化チタン、水、(任意に光触媒、添加剤等)から親水性塗料を調製する。光触媒を含める場合には、アモルファス過酸化チタン溶液の固形分比を考慮して親水性塗料の調製を行う。親水性塗料中の光触媒とバインダーの合計重量%は、一般的な組成とすることができ、任意に変更できる。
[工程6]:コーティング
本発明に係る親水性塗膜層は、親水性塗料を用いて有機系基材に形成された塗膜であり、親水性塗膜層の厚さは20μm未満が好ましい。20μm以上の厚塗りすると色味が付き、またクラックが入ったときに目立つため好ましくない。
【0065】
また、可能な限り薄塗りできる。薄塗りできる範囲は親水性塗膜層が形成される有機系基材の親水性に依存し、有機系基材の材質によっても変化するため、上述したように親水性が高くコーティングしやすい有機系基材が好まれる。
【0066】
親水性塗料の有機系基材への塗布方法としては、スプレーコート、ディッピング、スピンコート、刷毛塗り、ベル塗装などの工法で行うことができる。
(親水性塗膜層の乾燥)
塗布後の親水性塗膜層の乾燥については、有機系基材の場合には基材を変質させない温度範囲等、親水性塗膜層や有機系基材に悪影響を及ぼさない乾燥方法であれば、どの乾燥方法で乾燥させてもよい。
(有機物分解能・親水能評価)
親水性塗膜層については「光触媒製品技術協議会会則・諸規定および試験法2005年6月」によって、その有機物分解能を評価できる。また、親水能については、有機物分解能の指標となることから評価する意味があるが、その評価方法については、後述する実施例1の方法に従う。
【0067】
また、有機系基材と親水性塗膜層との界面における有機系基材の分解を調べることについては、親水性塗膜層の表面でも、親水性塗膜層の有機系基材に対する界面と同様の頻度でアモルファス過酸化チタン粒子の一部がむきだしに露出しているため、親水性塗膜層表面の有機物分解能を調べることで、およそ界面におけるアモルファス過酸化チタンの有機物分解能も知ることができる。
【0068】
ここで、より厳密とするには、形成する親水性塗膜層のパラメータ(膜厚やヘイズ値)により界面と表面におけるmW/cmを測定して補正係数を作成して、これによって表面における有機物分解能の評価値を補正してもよい。
【実施例】
【0069】
以下に本発明に係る実施例及び比較例を示し、図4〜7を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。なお、図4〜図7においてバナジウム混入量(V混入量、mol%)は、アモルファス過酸化チタン粒子形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して、用いたバナジウムのモル量(モル%)を示す。
[実施例1]
実施例1では、アモルファス過酸化チタン粒子形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して、バナジウムを1モル%混入させ、アモルファス過酸化チタンの結晶化により発現する有機物分解の抑制効果を評価した。
以下のものを用意した。
[工程1]
(A)塩化チタン水溶液(チタン源)
(和光純薬社製、TiCl4水溶液、チタン(Ti)を16.5±0.5重量%含有)
(B)アンモニア水(アンモニア源)
(和光純薬社製、NH4OH水溶液、アンモニア(NH3)を25〜27.9±0.5重量%含有)
(C)バナジウム溶液(バナジウム源)
(酸化バナジウム95重量以上%含有)
(D)過酸化水素水(過酸化水素源)
(和光純薬社製、過酸化水素水溶液、30.0〜35.5重量%)
(E)バナジウム溶液(酸化バナジウム約0.9重量%)
なお、(E)バナジウム溶液については、バナジウム溶液(C)(和光純薬社製、V2O5として95重量%以上含有)3.6g(バナジウムとして約0.02mol)と(B)のアンモニア水(和光純薬 NH4OH水溶液、NH3として25〜27.9重量%含有)18.0g(アンモニウムイオンとして約0.02mol)と蒸留水378.4gとを混合して酸化バナジウムを約0.9重量%含有するものとして調製した。
[工程2]:沈殿物(ゲル)の形成
3L容のビーカーで塩化チタン溶液(A)30g(チタンとして約0.1mol)と蒸留水60gを混合させた。これとは別に、アンモニア水(B)を2.5重量%となるように蒸留水(約140g)で希釈した。希釈したアンモニア水(約0.074mol)をバナジウム溶液(E)約10.54g(約0.001mol)と混合した。このアンモニア水とバナジウム溶液の混合溶液全量を3L容のビーカーの塩化チタン溶液と混合した。
【0070】
更にアンモニア水(B)を20gずつ3L容のビーカーに加える毎にpHメーター(HANNAHI98129COMBO1)でpHを測定した。pHを4に調整して沈殿(ゲル)を形成した。
[工程3]:不要イオン除去(洗浄)
工程2の終了時の沈殿物を含む溶液(各400g程度)にそれぞれ蒸留水を加えて3Lとし、このときの上澄みの導電率をpHメーター(HANNAHI98129COMBO1または堀場製作所B−173)で測定し、上澄みを除去した。これらの動作を各溶液の上澄み液の導電率が10μS/cm以下となるまで繰り返した。
[工程4]:アモルファス過酸化チタン溶液の調製
工程3の各溶液の上澄みを捨てて沈殿物(ゲル)の重量を測定し、過酸化水素水(D)約118g(約1mol)を用意した。さらに、チタン重量濃度が約0.5%になるよう、沈殿物(ゲル)の重量と過酸化水素の重量を考慮して沈殿物(ゲル)に蒸留水を加えた。
【0071】
アモルファス過酸化チタン粒子の溶液の調製については、この溶液を恒温槽にて約40℃で湯煎を行い、液温が略40℃となった時点で上記溶液に過酸化水素水(D)約118g(約1mol)を溶液に添加し、チタン濃度が約0.5重量%の溶液約1Lとした。
【0072】
その後、橙〜黄色の透明溶液となるまで攪拌し、恒温槽から取り出して常温で放置し、ゼリー状で高粘度のアモルファス過酸化チタン溶液(AMO)を得た。
[工程5]:親水性塗料の調製
この実施例1では、上述したようにアモルファス過酸化チタン粒子が40℃温水浸漬にて結晶化することを調べることから、アモルファス過酸化チタン溶液のみを親水性塗料として用い、その他の添加剤等を含めなかった。
[工程6]:コーティング
市販のスライドグラス(松浪硝子工業(株)S−1111(縦76mm×横26mm×厚さ0.8〜1.0mm))に上記親水性塗料2mlを塗り拡げた後に、スピンコーティング法(500r.p.m 5秒、1,500r.p.m 10秒)によりコーティングした。このスライドグラスを常温で乾燥させた。コーティングと乾燥を合計2回繰り返して、親水性塗膜層を形成した。
(有機物分解能評価)
このスライドグラスの親水性塗膜層に3時間紫外線(1.0mW/cm2)を照射して試験片を作成し「光触媒製品技術会則・諸規定および試験法(2005年6月)」に記載の光触媒性能評価試験法I(液相フィルム密着法、2001年度版)により、親水性塗膜層の有機物分解能を評価した(図4参照)。
【0073】
なお、図4に示す表の値は、調製直後のメチレンブルーの基質溶液をブランク(分解率0%)とした場合のメチレンブルーの分解率[%]を表す。
(親水能評価)
上記コーティングで親水性塗膜層を形成したスライドグラス5枚を用意し、これらを湿度65%、温度23℃の恒温恒湿室内(暗所)に8時間以上放置した。その後、この恒温恒湿室から放置したスライドグラスを取り出した。各スライドグラスの親水性塗膜層に1μlの蒸留水をマイクロピペッター等で滴下して、親水性塗膜層と水との接触角度を測定した。各測定値の平均を取って親水性塗膜層の親水能を評価した。
【0074】
なお、接触角度の測定には協和界面科学(株)DM300を用いた。この結果を暗所(未照射)の親水性塗膜層の接触角度とした(図5参照)。
【0075】
一方、同様に上記コーティングで親水性塗膜層を形成した別のスライドグラス(同上)5枚を用意し、この親水性塗膜層に暗所で3時間紫外線(1.0mW/cm2)を照射した。その後、照射後の親水性塗膜層に1μlの蒸留水をマイクロピペッター等で滴下して、親水性塗膜層と水との接触角度を測定した。接触角度の測定については各スライドグラスの測定値の平均を取って親水性塗膜層の親水能として評価した。この測定には上記同様に協和界面科学(株)DM300を用いた。この結果を照射後の親水性塗膜層の接触角度とした(図5参照)。
[実施例2、実施例3]
実施例1の工程4でアモルファス過酸化チタン溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例2)、60日間(実施例3)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例1と同様に、コーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例4]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E)の量を調節して約31.6g(バナジウムを約0.003mol含む)とした以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例5、6]
実施例4の工程4でアモルファス過酸化チタン溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例5)、60日間(実施例6)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例4と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例7]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E)の量を調節して約52.7g(バナジウムを約0.005mol含む)とした以外は、実施例1と同様に、コーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例8、9]
実施例7の工程4でアモルファス過酸化チタン溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例8)、60日間(実施例9)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例7と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例10]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E)の量を調節して約73.8g(バナジウムを約0.007mol含む)とした以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例11、12]
実施例10の工程4でアモルファス過酸化チタン溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例11)、60日間(実施例12)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例10と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例13]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E)の量を調節して約105.5g(バナジウムを約0.01mol含む)とした以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[実施例14、15]
実施例13の工程4でアモルファス過酸化チタン溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例14)、60日間(実施例15)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例13と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[比較例1]
実施例1の工程2でバナジウム溶液(E)の代わりに同量の純水を加えたこと以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
[比較例2、3]
比較例1の工程4でアモルファス過酸化チタン溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(比較例2)、60日間(比較例3)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、比較例1と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4、5参照)。
(アモルファス過酸化チタン粒子からなる親水性塗膜層の有機物分解能)
図4に示すように、40℃の温水浸漬開始から27〜60日経過したアモルファス過酸化チタンは部分結晶化して有機物分解能が約5倍となった(比較例1〜3)。しかし、バナジウムを1〜10モル%混入させたものは、有機物分解能が低く抑えられ27〜60日経過しても0日と同程度の有機物分解能となった(実施例1〜15)。
【0076】
上記各実施例や比較例では40℃におけるアモルファス過酸化チタンの部分結晶化の程度を評価したが、この部分結晶化は40℃未満の温度でも起きる可能性が高い。日本における住宅環境として想定される−15℃以上〜40℃未満の温度環境条件下でアモルファス過酸化チタンが部分結晶化しても、バナジウムが混入されていれば、発現した有機物分解能を抑制できる。
(アモルファス過酸化チタン粒子からなる親水性塗膜層の親水能)
親水能は有機物分解能の原因であるラジカルの量に比例するため評価する意味がある。
【0077】
図5を参照して、40℃の温水浸漬開始から0日経過のもの(比較例1)では、アモルファス過酸化チタン溶液の調製直後であることから部分結晶化の影響は少なく照射後の水との接触角度が高いが、それでも短い40℃浸漬時間で部分結晶化して僅かに有機物分解能が発現し、この有機物分解能を抑制するバナジウムが含まれていないため、照射後の接触角度が39.6°とやや低め(親水能としてはやや高め)となっている。
【0078】
このアモルファス溶液(比較例1)が40℃の温度条件下で27〜60日経過すると、さらに部分結晶化し、照射後の水との接触角度が0°となり(比較例2、3)、有機物分解能を有するようになる。
【0079】
これに対して、バナジウムの混入量が1〜10モル%(実施例1〜15)の0日経過、27日経過、60日経過の照射後の各区では、一様に各比較例1〜3より親水能が低下し(実施例と比較例の対比参照)、バナジウムの混入により有機物分解能が抑制されたことが分かる。
(親水性塗料、親水性塗膜層にした場合の有機物分解抑制能)
次に、実施例16〜20、比較例4〜8では、バナジウムを含有させた場合とさせない場合のそれぞれで、アナターゼ溶液(光触媒):アモルファス過酸化チタン溶液の固形分比を変えることで、親水性塗膜とした場合に有機物分解能がどのように変化するか評価した。
【0080】
なお、実施例16〜20では、実施例1〜15の結果(図4参照)からバナジウムを5モル%混入する実施例7のアモルファス過酸化チタンが最も効率よく有機物分解能を抑制することが示されたため、バナジウムを5モル%で混入したものを用いた。
【0081】
以下の文章では、各実施例や比較例中の文章中の括弧書きのバナジウムのモル%については、アモルファス過酸化チタンの粒子形成に用いたチタンとバナジウムの合計のモル量に対して用いたバナジウムのモル量を割合として示す。
【0082】
アモルファス過酸化チタン溶液とアナターゼ溶液とを含む親水性塗料を基材に塗布して親水性塗膜層を形成すると、アモルファス過酸化チタン粒子とアナターゼ粒子(光触媒)を主として含む親水性塗膜層となるため、その固形分比によって有機系基材に接する塗膜層中のアモルファス過酸化チタン粒子の割合が変わる。
【0083】
また、アモルファス過酸化チタン粒子中のバナジウムが、初めから親水性塗料に投入されたアナターゼ粒子(光触媒)から生じる電子と正孔の再結合サイトにもなりうる。
【0084】
そのため、それぞれの固形分の比が有機系基材と親水性塗膜層との界面での有機物分解能に影響し、これを調べることには意味がある。界面についての有機物分解能は測定できないので界面と同様の親水性塗膜層の表面を界面として捉えることで測定した。
【0085】
[実施例16]
実施例16では、アナターゼ溶液(ANA,V5モル%混入):アモルファス過酸化チタン溶液(AMO,V5モル%混入)の固形分比(ANA:AMO)を約50:50とするとともに他の組成分は水とした親水性塗料を調製した。それ以外は、実施例1と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。なお、アモルファス過酸化チタン溶液は実施例7の工程4終了時点のものを用いた。アナターゼ溶液(ANA)については、後述する方法で調製する。
(親水性塗料の組成)
(F)アナターゼ溶液(ANA)(Ti約0.5重量%,モル比Ti:V=約0.95:0.05)…0.25重量%
(G)アモルファス過酸化チタン溶液(AMO)(Ti約0.5重量%,モル比Ti:V=約0.95:0.05)…0.25重量%
(H)水…99.5重量%
組成分(F)〜(H)をスターラーで混合し、アナターゼ溶液(F):アモルファス過酸化チタン溶液(G)の固形分比(ANA:AMO)が50:50の親水塗料100gを調製した。
【0086】
この親水性塗料を用いて、実施例1と同様にしてコーティングして親水性塗膜層を形成し、その有機物分解能評価と親水能評価を行った。
【0087】
光触媒として用いたアナターゼ溶液(ANA)は、実施例7の工程4でアモルファス過酸化チタン溶液(AMO)を作成する際に、恒温槽にて約4℃に液温を保持して過酸化水素を添加してアモルファス過酸化チタン溶液を作成した後、この溶液をマントルヒータに1L容のフラスコをセットし、このフラスコに工程4からのアモルファス過酸化チタン溶液を入れ、常に溶液が沸騰する熱量をかけてアモルファス過酸化チタン溶液を1時間以上還流して調製した。
【0088】
[実施例17〜20]
実施例17〜20では、実施例16のアナターゼ溶液:アモルファス過酸化チタン溶液の固形分比(ANA:AMO)をそれぞれ、約0:100(実施例17)、約25:75(実施例18)、約75:25(実施例19)、約100:0(実施例20)とし、それ以外は実施例16と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
【0089】
[比較例4]
比較例4では、バナジウムを含有していない各粒子(アナターゼ粒子、アモルファス過酸化チタン粒子)を用い、アナターゼ溶液(ANA,V0モル%混入):アモルファス過酸化チタン溶液(AMO,V0モル%混入)の固形分比(ANA:AMO)を約50:50とし、それ以外は実施例16と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
【0090】
なお、バナジウムを含んでいないものを用いるために比較例1のアモルファス過酸化チタン溶液とアナターゼ溶液を利用した。具体的には、アモルファス過酸化チタン溶液については、バナジウムを含有していない比較例1の工程4終了時点のものを用いた。また、アナターゼ溶液(ANA,V0モル%混入)については、比較例1の工程3終了時のものを用いて実施例16と同様にして調製した。
[比較例5〜8]
比較例5〜8では、バナジウムを含有していない各粒子(アナターゼ粒子、アモルファス粒子)を用い、アナターゼ溶液(ANA,V0モル%混入):アモルファス過酸化チタン溶液(AMO,V0モル%混入)の固形分比(ANA:AMO)を、0:100(比較例5)、25:75(比較例6)、75:25(比較例7)、100:0(比較例8)となるように混合し、それ以外は実施例16のアナターゼ溶液と同様にしてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
(有機物分解能)
図6を参照して、実施例16〜20について、固形分比(ANA:AMO)が25:75〜100:0では固形分比に拘わらず、親水性塗膜層の有機物分解能が一様であった(実施例16、18〜20)。すなわち、上記固形分比の範囲では、固形分比に拘わらず十分に有機物分解能が抑制されることが示された。
【0091】
一方、比較例4〜8については、バナジウムを含んでいないことから高い有機物分解能を示し、実施例16〜20と同様に固形分比が25:75〜100:0で一様の有機物分解能であった(比較例4、6〜8)。
(親水能)
親水能は有機物分解能の原因であるラジカルの量に比例するため評価する意味がある。
【0092】
図7を参照して、比較例4〜8と実施例16〜20の双方で、固形分比(ANA:AMO)のアナターゼ溶液(ANA)量に応じて照射後の親水性塗膜層の水との接触角度は低下した。
【0093】
固形分比(ANA:AMO)25:75〜100:0の範囲では、各実施例16〜20では、各粒子へのバナジウムの混入により照射後の接触角度は比較例4〜8のものより高くなり、有機物分解能が抑制されたことが分かる。
【0094】
固形分比(ANA:AMO)0:100では、実施例1〜16で示したように、アモルファス過酸化チタン粒子へのバナジウム混入による有機物抑制の効果が伺える。
【0095】
この親水能はバナジウム混入により低下するが、十分にセルフクリーニング能を得られる範囲となっている。
【0096】
実施例16〜20では、市販品とは異なり光触媒として用いたアナターゼ粒子にも5モル%でバナジウムを混入させているので、市販のアナターゼ溶液に比べて有機物分解能が低いが、市販品のようにバナジウムを含んでいないアナターゼ粒子を用いて、上記のように固形分比を変えて実施例16〜20の親水性塗膜層を形成した場合でも、その接触角度が変わるだけで、固形分比を変えて使用可能であることには変わりがない。
【0097】
また、アモルファス過酸化チタンにのみバナジウムを含有させた場合でも、親水性塗料に最初から投入される光触媒や部分結晶化したアモルファス過酸化チタンの有機物分解能を抑制する効果があることは明らかである。
【0098】
そのため、バナジウムを含んでいないアナターゼ粒子を用いる場合、アモルファス過酸化チタン粒子に混入させるバナジウムの量と上記固形分比を調節することで、親水性塗膜層の各性能(有機物分解能、親水能等)を設定することができる。例えば上記実施例で示したような性能とすることもできる。
【0099】
以上、本発明について実施例と比較例を参照しながら説明してきたが、本発明は上記各実施例に限定されるものではなく、実施の態様で説明したように、上記温度範囲で非晶質の金属酸化物が部分結晶化して有機物分解能を発現する種類のものであれば本発明を適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化により有機物分解能を有するようになる非晶質の金属酸化物であって、
前記有機物分解能を抑制する他の金属を含有させたことを特徴とする非晶質の金属酸化物。
【請求項2】
前記他の金属が、W、V、Nb、Mo、CuおよびFeにより形成される群から選ばれる1又は2以上の金属であることを特徴とする請求項1に記載のアモルファス過酸化チタン粒子。
【請求項3】
前記含有をドープで行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のアモルファス過酸化チタン粒子。
【請求項4】
前記含有が、チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に酸化剤を添加し、この添加によって起こる反応により行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のアモルファス過酸化チタン粒子。
【請求項5】
チタンとバナジウムの合計のモル量に対して、バナジウムが1〜10モル%であることを特徴とする請求項4に記載のアモルファス過酸化チタン粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のアモルファス過酸化チタン粒子を使用したことを特徴とする親水性塗料。
【請求項7】
請求項1〜6の親水性塗料を用いて形成したことを特徴とする親水性塗膜層。
【請求項8】
請求項7に記載の親水性塗膜層を有することを特徴とする建築材。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219320(P2011−219320A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91477(P2010−91477)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】