説明

アモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜形成用電気めっき液及び電気めっき方法

【解決手段】シアン化金塩を金基準で0.01〜0.1モル/dm3、水溶性ニッケル塩をニッケル基準で0.017〜0.67モル/dm3、及びクエン酸又はその塩を含有し、金とニッケル濃度の比(Au/Ni)がモル比として0.15〜0.6、クエン酸又はその塩とニッケル濃度の比(Cit/Ni)がモル比として1〜3であり、pHが3〜11であることを特徴とするAu:Niの比率が原子比として31:69〜60:40であるアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を形成する電気めっき液。
【効果】本発明によれば、高硬度で接触抵抗の低いアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を形成することができ、リレー等の電気・電子部品の接点材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を析出、形成することができる電気めっき液及び電気めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一部としてのコネクター、小型リレー、プリント配線板などの高信頼性電気接点材料としては、いわゆる硬質金めっき膜が現在広く使われている。硬質金めっき膜は極めて小さな金の微結晶(20〜30nm)からなり、その硬度は170〜200kgmm-2(ヌープ硬度)に達する。接点材料の良好な耐摩耗性を得るために必要なこのような高い硬度は、粒径の小さな結晶粒が大量に結合することによって得られている。
一方、近年の電子部品の小型化に伴い、電気接点の大きさも微小化しつつあり、近い将来には、接点の大きさが硬質金の結晶粒の大きさと対比されるまでになるものと考えられる。このような微細な接点上の金めっき膜は、それを構成する結晶粒の全数が少ないために、大きい接点で得られるような硬度が保持できなくなるものと推察される。このようなナノメータレベルの大きさになっても物性が影響を受けない微細構造としては、結晶性ではなく、アモルファス構造が理想的である。
また、接点材料として有用であるためには、接点同士が接触したときの電気抵抗が低くなければならない。しかも、接点材料の使用環境下での安定性が必要であることを考え合わせると、アモルファス構造を持った金、又は金合金が望ましい。
【0003】
なお、本発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある。
【特許文献1】特開昭60−33382号公報
【特許文献2】特開昭62−290893号公報
【非特許文献1】川合慧,「金−ニッケル合金メッキの析出構造の研究」,金属表面技術,1968年,Vol.19,No.12,p.487−491
【非特許文献2】清水保雄 他1名,「電析Au−Ni合金の微細構造と相に関する電子顕微鏡的研究」,金属表面技術,1976年,Vol.27,No.1,p.20−24
【非特許文献3】渡辺徹著,「ファインプレーティング めっき膜の構造制御技術とその解析法」,技術情報協会,2002年2月,p256−262
【非特許文献4】渡辺徹,「めっき法による非晶質合金の形成機構」,表面技術,1989年,Vol.40,No.3,p.21−26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高硬度で接触抵抗の小さいアモルファス構造の金−ニッケル合金めっき皮膜を形成することができるアモルファス金−ニッケル系合金電気めっき液及び電気めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、シアン化金塩、水溶性ニッケル塩、クエン酸又はその塩を特定の割合で含有する電気めっき液を用い、特定の陰極電流密度で電気めっきを行うことにより、金属成分中の組成がAu31at%,Ni69at%〜Au60at%,Ni40at%となる範囲でアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜が形成されることを知見した。
【0006】
即ち、本発明者らは、先に微細結晶を有さない均質なアモルファス相で形成された金−ニッケル系アモルファス合金めっき皮膜を得ることができる電気めっき液を提案した(特願2005−28523号)。この電気めっき液は、シアン化金塩を金基準で0.01〜0.1mol/dm3の濃度、ニッケル塩をニッケル基準で0.02〜0.2mol/dm3の濃度、及びタングステン酸塩をタングステン基準で0.1〜0.5mol/dm3の濃度で含有するもので、これにより金及びニッケルを含む金属成分を97.5質量%以上、及び炭素を2.5質量%以下で含有すると共に、上記金属成分中の金及びニッケルの組成が、金及びニッケルの総量として98質量%以上、かつ金/ニッケル=2.2〜5.0(質量比)である金−ニッケル系アモルファス合金めっき皮膜を得ることができるものであるが、上記めっき液はタングステン酸塩の添加を必須とするものである。
【0007】
これに対し、本発明者らは、更に検討を進めた結果、シアン化金塩、水溶性ニッケル塩、錯化剤としてのクエン酸又はその塩の割合を特定比率で選定して特定陰極電流密度で電気めっきを行うことにより、タングステン酸塩を添加することなしに、アモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜が析出、形成することを見出すと共に、この電気めっき液から得られたアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜の硬度が高く、また接触抵抗が通常の硬質金めっきの値と同等に低いことを確認し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、シアン化金塩を金基準で0.01〜0.1モル/dm3、水溶性ニッケル塩をニッケル基準で0.017〜0.67モル/dm3、及びクエン酸又はその塩を含有し、金とニッケル濃度の比(Au/Ni)がモル比として0.15〜0.6、クエン酸又はその塩とニッケル濃度の比(Cit/Ni)がモル比として1〜3であり、pHが3〜11であることを特徴とするAu:Niの比率が原子比として31:69〜60:40であるアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を形成する電気めっき液を提供する。更に、本発明は、被めっき物を陰極として上記電気めっき液に浸漬し、温度20〜90℃、陰極電流密度3mA/cm2以上10mA/cm2未満又は20mA/cm2を超え200mA/cm2の範囲で電気めっきを行うことを特徴とする、Au:Niの原子比率が31:69〜60:40であるアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を形成する電気めっき方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高硬度で接触抵抗の低いアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を形成することができ、リレー等の電気・電子部品の接点材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のアモルファス金−ニッケル系合金電気めっき液は、シアン化金塩、水溶性ニッケル塩、クエン酸又はその塩を含有する。
【0011】
この場合、シアン化金塩としては、シアン化金カリウム、シアン化金ナトリウム、シアン化金リチウム等が挙げられ、その濃度は金基準で0.01〜0.1モル/dm3であり、例えばKAu(CN)2を用いた場合、2.9〜29g/dm3とすることができる。
【0012】
水溶性ニッケル塩としては、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル等が挙げられ、その濃度はニッケル基準で0.017〜0.67モル/dm3であり、例えばNiSO4・6H2Oを用いた場合、4.5〜176g/dm3とすることができる。
【0013】
この場合、金とニッケル濃度の割合は、モル比としてAu/Ni=0.15〜0.6であることが好ましく、この範囲外ではアモルファス構造が得難いものである。
【0014】
本発明のめっき液は、錯化剤としてクエン酸又はそのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の水溶性塩を含有する。その濃度は、クエン酸濃度(Cit)とニッケルの比率がモル比としてCit/Ni=1〜3、特に1.2〜2.0の範囲となる量である。クエン酸濃度が低すぎると、めっき液が分解するおそれがあり、クエン酸濃度が高すぎると、アモルファス構造が得られない。
【0015】
なお、上記めっき液には、必要に応じ、他の錯化剤として酒石酸、りんご酸等、更にホウ酸等の緩衝剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0016】
また、めっき液のpHは3〜11、好ましくは5〜9である。
【0017】
本発明のめっき方法は、上記めっき液に被めっき物を陰極として浸漬して電気めっきを行うものである。この場合、めっき液の温度は20〜90℃、特に50〜70℃とすることが好ましく、陰極電流密度(Dk)は3mA/cm2以上10mA/cm2未満とするか、20mA/cm2を超え200mA/cm2以下とする。好ましくは30〜150mA/cm2である。Dk50mA/cm2以上ではめっき皮膜中の金/ニッケルは浴組成の比率に比例する。電流密度が低くなるとニッケルが多く析出し、Dk10〜20mA/cm2ではアモルファスとなる組成から外れる。更に、低電流密度になると金の析出割合が増し、再びアモルファス領域に入る。
【0018】
なお、陽極としては、白金、白金被覆チタン等の不溶性陽極やニッケル等の可溶性陽極を使用することができる。また、撹拌は特に必要としないが、カソードロッキング等の緩やかな撹拌を行ってもよい。
【0019】
本発明のめっき液を用いて得られるめっき皮膜は、アモルファスな金−ニッケル合金であり、この場合、その割合は原子比(atomic%)としてAu:Ni=31:69〜60:40である。質量比としてはAu/Niが1.5〜5.0であり、金とニッケルの総含有量が97質量%以上、特に98質量%以上で、非金属成分として炭素、窒素を含んでもよく、その含有量がC2.5質量%以下、N0.5質量%以下である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、各分析、測定の方法及び条件は、以下のとおりである。また、質量%をwt%と記す。
【0021】
XRD
理学電機社製 RINT−TTRによる:CuKα(50kV/200mA)
金属組成
理学電機工業 RIX2100による:蛍光X線法
ヌープ硬さ
JIS Z 2251に準じて測定:荷重49.0mN(HK0.005) 荷重保持時間5秒
接触抵抗
山崎精機製電気接点シミュレータCRS−112−ALによる:四端子法で、荷重1N、印加電流10mAの条件で測定
【0022】
[実施例1]
KAu(CN)2を0.035mol/dm3、NiSO4・6H2Oを0.076mol/dm3、クエン酸を0.076mol/dm3含有し、アンモニア水によりpHを6に調整した電気めっき液を用い、温度70℃、電流密度150mA/cm2で純度99.96%の銅板に金−ニッケルアモルファス合金めっき皮膜(膜厚5μm)を形成した。なお、アノードには白金板を用い、めっき中のめっき浴撹拌は行わなかった。
得られた合金めっき皮膜の構造をXRDにより、組成を蛍光X線により解析した。XRDパターンは図1に示すようにブロードでアモルファス構造をとっていることがわかる。皮膜の金属成分解析結果は表1に示すとおりであり、金73wt%、ニッケル27wt%であった。
【0023】
[実施例2]
クエン酸濃度を0.143mol/dm3とした以外は、実施例1と同じ条件でめっきを行った。得られためっき膜のXRDパターンは図1に示すようにブロードで、アモルファス構造をとっていた。皮膜の金属成分解析結果は表1に示すとおりであり、金75wt%、ニッケル25wt%であった。更に、めっき皮膜のヌープ硬度及び接触抵抗を測定したところ、ヌープ硬度は460kg/mm2、接触抵抗は1.9mΩであった。なお、ヌープ硬度測定は、めっき厚みを30μmとして測定した。
【0024】
[実施例3]
電流密度を50mA/cm2とした以外は実施例2と同じ条件にてめっきを行った。得られためっき膜のXRDパターンは図1に示すようにブロードで、アモルファス構造をとっていた。皮膜の金属成分解析結果は表1に示すとおりであり、金72wt%、ニッケル28wt%であった。
【0025】
[実施例4]
NiSO4・6H2Oを0.057mol/dm3、クエン酸濃度を0.143mol/dm3、電流密度を100mA/cm2とした以外は実施例1と同じ条件にてめっきを行った。得られためっき膜のXRDパターンは図1に示すようにブロードで、アモルファス構造をとっていた。皮膜の金属成分解析結果は表1に示すとおりであり、金79wt%、ニッケル21wt%であった。
【0026】
[実施例5]
電流密度を5A/cm2とした以外は実施例1と同じ条件にてめっきを行った。得られためっき膜のXRDパターンはブロードで、アモルファス構造をとっていた。皮膜の金属成分解析結果は表1に示すとおりであり、金64wt%、ニッケル36wt%であった。
【0027】
[比較例1]
クエン酸濃度を0.357mol/dm3とした以外は実施例1と同じ条件でめっきを行った。得られた皮膜の金属成分分析結果は表1に示すように金75wt%、ニッケル25wt%であったが、XRDパターンは図2に示すように2θ=38°付近にAu(111)又はAu−Ni固溶体に由来する微小なピークが認められ、アモルファス構造から外れていることがわかった。
【0028】
[比較例2]
クエン酸濃度を0.257mol/dm3とした以外は実施例1と同じ条件でめっきを行った。得られた皮膜の金属成分分析結果は表1に示すように金76wt%、ニッケル24wt%であったが、XRDパターンは図2に示すように比較的に鋭いピークが認められ、アモルファス構造から外れていると判断した。
【0029】
[比較例3]
電流密度を10mA/cm2とした以外は実施例3と同じ条件にてめっきを行った。得られためっき皮膜の金属成分分析結果は表1に示すように金49wt%、ニッケル51wt%であり、XRDパターンには図2に示すように2θ=45°付近にNi(111)又はAu−Ni固溶体に由来するピークが認められた。また、2θ=39°付近にAu(111)又はAu−Ni固溶体に由来するピークが認められ、アモルファス構造はとっていないことがわかった。
【0030】
[比較例4]
電流密度10mA/cm2とした以外は実施例4と同じ条件にてめっきを行った。得られためっき皮膜の金属成分分析結果は表1に示すように金87wt%、ニッケル13wt%であり、XRDパターンには図2に示すように2θ=38°付近にAu(111)又はAu−Ni固溶体に由来するピークが認められ、アモルファス構造はとっていないことがわかった。
【0031】
以上のめっき液組成、電流密度、得られためっき皮膜中の金属成分組成を表1,2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例で得られた金−ニッケル合金めっき皮膜のXRDパターンを示す図である。
【図2】比較例で得られた金−ニッケル合金めっき皮膜のXRDパターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化金塩を金基準で0.01〜0.1モル/dm3、水溶性ニッケル塩をニッケル基準で0.017〜0.67モル/dm3、及びクエン酸又はその塩を含有し、金とニッケル濃度の比(Au/Ni)がモル比として0.15〜0.6、クエン酸又はその塩とニッケル濃度の比(Cit/Ni)がモル比として1〜3であり、pHが3〜11であることを特徴とするAu:Niの比率が原子比として31:69〜60:40であるアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を形成する電気めっき液。
【請求項2】
被めっき物を陰極として請求項1記載の電気めっき液に浸漬し、温度20〜90℃、陰極電流密度3mA/cm2以上10mA/cm2未満又は20mA/cm2を超え200mA/cm2の範囲で電気めっきを行うことを特徴とする、Au:Niの原子比率が31:69〜60:40であるアモルファス金−ニッケル系合金めっき皮膜を形成する電気めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−169706(P2007−169706A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368186(P2005−368186)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】