説明

アラキドン酸代謝抑制剤

【課題】 アラキドン酸代謝異常による症状を軽減し、もしくは予防できる新規なアラキドン酸代謝抑制剤を提供。
【解決手段】デカン酸、5−デセン酸、6−デセン酸、ジオスフェノール、7−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾジオキセピン−3−オン、4−(2,3,6−トリメチルフェニル)−3−ブテン−2−オン、下記式


で表されるアンゲリカ酸およびそのエステル、下記式


で表されるベンゼン誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物またはフェンネル果実、ナツメグ種子、ブチュ葉およびエストラゴンから選ばれる少なくとも1つの植物抽出物を有効成分として含有するアラキドン酸代謝抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラキドン酸代謝抑制剤に関する。さらには、アラキドン酸の代謝を抑制することによる血流改善剤、抗血栓剤、抗炎症剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
各種プロスタグランジン類やトロンボキサンなどは、アラキドン酸を出発物質として生合成されることが知られている。これらアラキドン酸代謝産物は、生体内の各種調節機構に関与していることが知られている一方、炎症や血栓の生成にも深く関与していることも知られている。また、近年、一般に血液の流動性やアレルギー性のものを含む各種炎症の改善などに対する関心が高まっており、このアラキドン酸の代謝経路を制御することによって、様々な症状を緩和する方法が注目されている。たとえば、キノリルメトキシフェニル酢酸やその誘導体によるアラキドン酸代謝の抑制(特許文献1)、桑白皮、甘草の抽出物またはその成分によるアラキドン酸代謝異常の治療(特許文献2)、モルギンまたはその誘導体によるアラキドン酸代謝を阻害する方法(特許文献3)、カンキツ果皮抽出物によりアラキドン酸代謝酵素を阻害する方法(特許文献4)などが提案されている。
また、カプサイシンやトウガラシ抽出物が血流促進効果を有することが知られているが、これらは刺激が強いため投与方法や投与量に制限があるなど使用方法や用途が限られている。
【特許文献1】特開平06−157463号公報
【特許文献2】特開平07−017859号公報
【特許文献3】特開平08−113536号公報
【特許文献4】特開平08−245412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、アラキドン酸代謝が原因で引き起こされる様々な生体への悪影響の症状を軽減し、もしくは予防することができる、新規なアラキドン酸代謝抑制剤を提供すること、特に、より簡便に入手できるとともに、大量生産が容易に実現可能なアラキドン酸代謝抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、デカン酸、5−デセン酸、6−デセン酸、ジオスフェノール、7−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾジオキセピン−3−オン、4−(2,3,6−トリメチルフェニル)−3−ブテン−2−オン、下記式1
【0005】


(式中R1は水素原子、水酸基および/または炭素数1〜3のアルキル基が結合してもよいフェニル基またはメチルフェニル基またはエチルフェニル基、水酸基で置換されてもよい炭素数1〜10の直鎖まはた分岐鎖もしくは環を形成してもよい飽和または不飽和の炭素鎖を示す)で表されるアンゲリカ酸およびそのエステル、下記式2
【0006】

(式中、Aは任意の位置に不飽和結合を有してもよい炭素数0〜3の炭素鎖を示し、R2は水素、水酸基、メチル基、メトキシ基、エトキシ基のいずれかを示し、R3はメチル基、CH、COR4、CHOR5のいずれかであることを示し、R4はメチル基またはエチル基を示し、R5は水素、メチル基、エチル基、プロピル基のいずれかであることを示す)で表されるベンゼン誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物またはムスカリ花、フェンネル果実、ナツメグ種子、ブチュ葉およびエストラゴンから選ばれる少なくとも1つの植物抽出物を有効成分として含有するアラキドン酸代謝抑制剤である。また、本発明はさらに、該アラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、血流改善剤、抗血栓剤、抗炎症剤または抗アレルギー剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アラキドン酸の代謝異常を改善し、血流促進、血栓予防、各種炎症およびアレルギー症状の予防、緩和の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のデカン酸、5−デセン酸および6−デセン酸、ジオスフェノール、7−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾジオキセピン−3−オン(商品名カロンまたはカローン)、4−(2,3,6−トリメチルフェニル)−3−ブテン−2−オンは、一般に香料として市販されており容易に入手することができる。また、いずれも公知の方法で製造することができる。たとえば、5(または6)−デセン酸は、特開昭59−116247号公報、特開昭58−059908号公報に記載の方法などにより製造することができる。
本発明の下記式1
【0009】

(式中R1は水素原子、水酸基および/または炭素数1〜3のアルキル基が結合してもよいフェニル基またはメチルフェニル基またはエチルフェニル基、水酸基で置換されてもよい炭素数1〜10の直鎖まはた分岐鎖もしくは環を形成してもよい飽和または不飽和の炭素鎖を示す)で表されるアンゲリカ酸およびそのエステル類として具体的には例えば、アンゲリカ酸、2−メチル−2−ブテニルアンゲレート、3−ヘキセニルアンゲレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−3−ブテニルアンゲレート、2−メチル−2−プロぺニルアンゲレート、2−メチルブチルアンゲレート、3−ヒドロキシ−2−メチリデンブチルアンゲレート、3−メチルペンチルアンゲレート、ベンジルアンゲレート、ブチルアンゲレート、エチルアンゲレート、ゲラニルアンゲレート、ヘプチルアンゲレート、ヘキシルアンゲレート、イソブチルアンゲレート、イソペンチルアンゲレート、イソプロピルアンゲレート、ノニルアンゲレート、オクチルアンゲレート、ペンチルアンゲレート、フェネチルアンゲレート、プロピルアンゲレート、セカンダリブチルアンゲレート、ターシャリブチルアンゲレートが挙げられる。これら化合物の内、3−メチルペンチルアンゲレート、ブチルアンゲレート、イソブチルアンゲレート、2−メチルブチルアンゲレートが入手がより容易であるためより好ましい。これらの化合物は、特開昭57−112348号公報に記載された方法などで容易に製造することができる。また、一般に市販されているものを使用することもできる。
【0010】
さらに、前記化合物中のアンゲリカ酸エステル類は、キク科の多年草であるローマンカモミール(Anthemis nobilis L.)の精油の特徴成分として含まれており、この精油を用いることもできる。一般にカモミールとよばれる植物は、ローマンカモミールの他、ジャーマンカモミール(カミツレ)が産業上利用されている。しかしながら、ローマンカモミールとジャーマンカモミールは、形状が類似しているものの、それほど近縁の種ではなく、精油などの成分に大きな相違があることが知られている。本発明のアンゲリカ酸エステル類はローマンカモミールには含有されているが、ジャーマンカモミールには含有されていない。
【0011】
本発明の下記式2
【0012】

(式中、Aは任意の位置に不飽和結合を有してもよい炭素数0〜3の炭素鎖を示し、R2は水素、水酸基、メチル基、メトキシ基、エトキシ基のいずれかを示し、R3はメチル基、CH、COR4、CHOR5のいずれかであることを示し、R4はメチル基またはエチル基を示し、R5は水素、メチル基、エチル基、プロピル基のいずれかであることを示す)で表されるベンゼン誘導体として具体的には、例えばアネトール、メチルチャビコール、ジヒドロアネトール、p−メチルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、アニスケトン、アニシルアセトン、ベンジリデンアセトン、α−メチルアニサールアセトン、ラズベリーケトン、p−ヒドロキシフェネチルアルコール、p−メトキシフェネチルアルコール、ベンジルエチルエーテル、メチルフェネチルエーテル、2−メトキシベンジルエチルエーテル、2−メトキシベンジルプロピルエーテル、2−エトキベンジルメチルエーテル、2−エトキシベンジルエチルエーテル、2−エトキシベンジルプロピルエーテル、2−メトキシフェネチルメチルエーテル、2−メトキシフェネチルエチルエーテル、2−メトキシフェネチルプロピルエーテル、2−エトキシフェネチルメチルエーテル、2−エトキシフェネチルエチルエーテル、2−エトキシフェネチルプロピルエーテル、3−メトキシベンジルメチルエーテル、3−メトキシベンジルエチルエーテル、3−メトキシベンジルプロピルエーテル、3−エトキベンジルメチルエーテル、3−エトキシベンジルエチルエーテル、3−エトキシベンジルプロピルエーテル、3−メトキシフェネチルメチルエーテル、3−メトキシフェネチルエチルエーテル、3−メトキシフェネチルプロピルエーテル、3−エトキシフェネチルメチルエーテル、3−エトキシフェネチルエチルエーテル、3−エトキシフェネチルプロピルエーテル、4−メトキシベンジルメチルエーテル、4−メトキシベンジルエチルエーテル、4−メトキシベンジルプロピルエーテル、4−エトキベンジルメチルエーテル、4−エトキシベンジルエチルエーテル、4−エトキシベンジルプロピルエーテル、4−メトキシフェネチルメチルエーテル、4−メトキシフェネチルエチルエーテル、4−メトキシフェネチルプロピルエーテル、4−エトキシフェネチルメチルエーテル、4−エトキシフェネチルエチルエーテル、4−エトキシフェネチルプロピルエーテルなどを挙げることができ、ジヒドロアネトール、p−メチルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、アニスケトン、アニシルアセトン、ベンジリデンアセトン、α−メチルアニサールアセトン、ラズベリーケトン、p−ヒドロキシフェネチルアルコール、2−メトキシベンジルメチルエーテル、2−メトキシベンジルエチルエーテル、2−メトキシベンジルプロピルエーテル、2−エトキベンジルメチルエーテル、2−エトキシベンジルエチルエーテル、2−エトキシベンジルプロピルエーテル、2−メトキシフェネチルメチルエーテル、2−メトキシフェネチルエチルエーテル、2−メトキシフェネチルプロピルエーテル、2−エトキシフェネチルメチルエーテル、2−エトキシフェネチルエチルエーテル、2−エトキシフェネチルプロピルエーテル、3−メトキシベンジルメチルエーテル、3−メトキシベンジルエチルエーテル、3−メトキシベンジルプロピルエーテル、3−エトキベンジルメチルエーテル、3−エトキシベンジルエチルエーテル、3−エトキシベンジルプロピルエーテル、3−メトキシフェネチルメチルエーテル、3−メトキシフェネチルエチルエーテル、3−メトキシフェネチルプロピルエーテル、3−エトキシフェネチルメチルエーテル、3−エトキシフェネチルエチルエーテル、3−エトキシフェネチルプロピルエーテル、4−メトキシベンジルメチルエーテル、4−メトキシベンジルエチルエーテル、4−メトキシベンジルプロピルエーテル、4−エトキベンジルメチルエーテル、4−エトキシベンジルエチルエーテル、4−エトキシベンジルプロピルエーテル、4−メトキシフェネチルメチルエーテル、4−メトキシフェネチルエチルエーテル、4−メトキシフェネチルプロピルエーテル、4−エトキシフェネチルメチルエーテル、4−エトキシフェネチルエチルエーテル、4−エトキシフェネチルプロピルエーテルがより好ましいものとして挙げられる。さらには、4−メトキシベンジルメチルエーテル、4−メトキシベンジルエチルエーテル、4−メトキシベンジルプロピルエーテル、4−エトキベンジルメチルエーテル、4−エトキシベンジルエチルエーテル、4−エトキシベンジルプロピルエーテル、4−メトキシフェネチルメチルエーテル、4−メトキシフェネチルエチルエーテル、4−メトキシフェネチルプロピルエーテル、4−エトキシフェネチルメチルエーテル、4−エトキシフェネチルエチルエーテル、4−エトキシフェネチルプロピルエーテルが特に好ましい。これらの化合物は、いずれも公知の化合物であり、公知の方法により合成することができる。また、これらの化合物は一般に市販されているものも多く、これらを使用することもできる。
【0013】
本発明において、下記式2
【0014】

(式中、Aは任意の位置に不飽和結合を有してもよい炭素数0〜3の炭素鎖を示し、R2は水素、水酸基、メチル基、メトキシ基、エトキシ基のいずれかを示し、R3はメチル基、CH、COR4、CHOR5のいずれかであることを示し、R4はメチル基またはエチル基を示し、R5は水素、メチル基、エチル基、プロピル基のいずれかであることを示す)で示される化合物中、アルコキシベンジル(またはフェネチル)アルキルエーテル類がより効果が高く好ましい。さらに、これらアルコキシベンジル(またはフェネチル)アルキルエーテル類の内、環に結合する側鎖がパラ位に位置する化合物である、4−メトキシベンジルメチルエーテル、4−メトキシベンジルエチルエーテル、4−メトキシベンジルプロピルエーテル、4−エトキベンジルメチルエーテル、4−エトキシベンジルエチルエーテル、4−エトキシベンジルプロピルエーテル、4−メトキシフェネチルメチルエーテル、4−メトキシフェネチルエチルエーテル、4−メトキシフェネチルプロピルエーテル、4−エトキシフェネチルメチルエーテル、4−エトキシフェネチルエチルエーテル、4−エトキシフェネチルプロピルエーテルが特に効果が高く好ましい。
【0015】
前記のアルコキシベンジル(またはフェネチル)アルキルエーテル類は、ユリ科ムスカリ属のムスカリの花精油中に見いだされた化合物であり(特開平7−291883号公報)、これら化合物に代えてムスカリの花精油を使用することもできる。
【0016】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤としては、ムスカリ花、フェンネル果実、ナツメグ種子、ブチュ葉およびエストラゴンから選ばれる少なくとも1つの植物抽出物を有効成分とすることができる。
【0017】
本発明におけるムスカリ花、フェンネル果実、ナツメグ種子、ブチュ葉およびエストラゴンから選ばれる植物抽出物およびローマンカモミール抽出物は、主として精油を含有する植物体の部位または全草を水蒸気蒸留、溶剤抽出、超臨界抽出などの方法で抽出したものであって、これらの方法によって製造された精油、オイルなど市販されているものを含む。これら抽出方法は公知のものであって、通常行われる抽出方法に従って抽出物を得ることができる。たとえば水蒸気蒸留は常圧下、減圧下のいずれでもよい。また、溶剤抽出は、ペンタン、ヘキサンなど低極性の溶媒を用いることが好ましい。また、超臨界抽出は、二酸化炭素を溶媒として用いることが好ましく、液化二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素抽出と組み合わせることができ、エタノール、水などをエントレーナーとして使用してもよい。
【0018】
本発明のフェンネル(Foeniculum vulgare)とは、セリ科の多年草で茴香とも呼ばれる。果実を香辛料、芳香性健胃剤、駆風剤、去痰剤などに用いる。果実中に約3〜6%の精油を含有し、主な精油成分としてトランス−アネトール、フェンコン、メチルチャビコールなどを含有する。
【0019】
本発明のナツメグ(Myristica fragrans)とは、ニクズク科の常緑樹でニクズクとも呼ばれる。種子を香辛料、健胃剤、駆風剤などに用いる。種子中に約5〜15%の精油を含有し、主な精油成分としてピネン、カンフェン、リモネンなどを含有する。
【0020】
本発明のブチュ(Barosma betulina)とは、ミカン科の低木で、ブッコとも呼ばれる。葉には利尿作用や泌尿器に対する消毒作用がある。主な精油成分としてジオスフェノール、メントン、リモネンなどを含有する。
【0021】
本発明のエストラゴン(Artemisia dracunculus)とは、キク科の多年草で、タラゴンとも呼ばれる。全草を香辛料などに用いる。全草中に0.1〜0.4%の精油を含有し、主な精油成分としてメチルチャビコール、カンフェン、リナロールなどを含有する。
【0022】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、前記化合物群および/または前記のムスカリ花、フェンネル果実、ナツメグ種子、ブチュ葉およびエストラゴンから選ばれる少なくとも1種の植物から得られる精油などの抽出物をそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を配合して用いてもよい。
【0023】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、用途に応じて、エタノール、水、プロピレングリコール、グリセリン、食用油脂またはそれらの混合溶液などの溶剤、医薬や食品に適用可能な塩類、糖、糖アルコール、賦形剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、抗酸化剤、色素、香料などを適宜配合することができる。
【0024】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤において、前記の化合物群の含有量は特に限定されないが、0.0001〜100質量%であることが好ましい。
【0025】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の形態は、特に限定されない。例えば、液状のままでもよく、公知の方法によって乳化、分散、粉末化するなど、用途に応じて適宜選択することができる。
【0026】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、などの栄養強化剤、抗酸化剤、抗菌剤、その他の薬剤などと配合して使用することができる。また、本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、他のアラキドン酸代謝抑制剤と併用してもよい。
【0027】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を、医薬品もしくは医薬部外品として製剤化する場合は、必要に応じて安定化剤、着色剤、嬌味剤、香料、賦形剤、溶剤、界面活性剤、乳化剤、保存剤、溶解補助剤、等張化剤、緩衝剤、保湿剤、結合剤、被覆剤、潤沢剤、崩壊剤、経皮吸収剤などを加え、液剤、粉剤、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、懸濁剤、座剤、浴剤、軟膏、クリーム、ゲル、貼付剤、注射液、点眼剤など任意の剤形を選択することができるが、本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、その緩和な作用から健康補助の目的に特に適していることから、特に経口摂取に適した剤形が好ましい。
【0028】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤に用いる有効成分は、その多くが従来から主に香料として使用されている化合物であるため、飲食品や香粧品などに添加することができる。例えば、乳飲料、清涼飲料、嗜好飲料、アルコール飲料などの飲料、チョコレート、キャンディ、錠菓、ガム、スナック菓子、クッキー、ケーキ、その他焼き菓子などの菓子類、氷菓、アイスクリームなどの冷菓類、即席麺類、レトルト食品、冷凍食品などの調理食品、調味料、栄養補助食品などの食品類に添加することで、血流促進、血栓予防、炎症の緩和、アレルギー症状の低減など健康維持の機能を付加することができる。
【0029】
前記飲食品には、血流改善および/または抗炎症効果を有する旨の表示を付すことができる。本発明における表示の具体的な態様としては、飲食品の包装、容器、店頭表示媒体、広告媒体などが挙げられる。
【0030】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を飲食品に添加する場合、特に添加量の制限はないが、0.001〜5質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を飲食品に添加する方法は、特に制限はないが必要に応じて、乳化剤、分散剤、安定化剤などを加えることもできる。
【0032】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を飲食品に添加する場合は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養強化剤、抗酸化剤、抗菌剤、食物繊維、アラキドン酸代謝抑制以外による血流促進剤、抗血栓剤、抗アレルギー剤など他の機能性成分を本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の機能を阻害しない範囲で併用することもできる。
【0033】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、香水、化粧水、ファンデーション、口紅、クリーム、ローション、乳液、ジェル、パック、日焼け止め、サンオイルなどの化粧品類、石鹸、ボディーシャンプー、洗顔料などの身体洗浄剤、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント剤、整髪料、染毛剤、パーマネント剤、養毛剤などの毛髪化粧料、シェービングフォーム、シェービングクリーム、アフターシェーブローション、歯磨き、洗口剤、粉末洗剤、液体洗剤、漂白剤、柔軟剤、浴剤、衛生用品、避妊具などの香粧品類に添加することができる。
【0034】
また、接触性皮膚炎や、アレルギー症状を緩和する目的で、染料、顔料、塗料、ゴム、プラスチック、シリコン製品、紙製品、不繊布、繊維製品、コンクリート、フィルム、つや出し剤、接着剤、金属表面や木材表面などに付与するコーティング剤など、皮膚に接触する製品に添加することもできる。
【0035】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を香粧品類に添加する場合、特に添加量の制限はないが、0.001〜15質量%であることが好ましい。
【0036】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を香粧品に添加する方法は特に限定されないが、必要に応じて乳化剤、分散剤、安定化剤、賦形剤などを加えることもできる。
【0037】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を香粧品に添加する場合は、抗酸化剤、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、保湿剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、抗かび剤、メラニン生成抑制剤、養毛剤、冷感剤、温感剤、吸収促進剤、アラキドン酸代謝抑制以外による血流促進剤、抗血栓剤、抗アレルギー剤など他の機能性物質を本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の機能を阻害しない範囲で併用することもできる。
【実施例1】
【0038】
(試験方法)
人の血液に10%濃度になるように3.8%クエン酸ナトリウム液を加え、この血液を1000rpmで10分間遠心分離し、上層部を採取、これを多血小板血漿(PRP)とした。更に下層部を3000rpmで15分間遠心分離し、上層部より乏血小板血漿(PPP)を採取して、これを血小板凝集能測定時におけるコントロールとした。
【0039】
測定装置として、興和株式会社製の血小板凝集能測定装置(コーワPA−20)を使用し、被験物質を加えず、凝集惹起剤のみを加えた対象凝集曲線に対する最大凝集率を100%とした時の各試料濃度段階の最大凝集率を求めた。
【0040】
被験物質を測定容器に入れ、さらにPRP270μlを加えたものを測定装置に設置し、37℃で撹拌しながら30秒間インキュベートした。続いて、30秒以内に凝集惹起剤として0.2Mに調整したアラキドン酸のメタノール溶液を2μL加え、測定容器設置から7分後までの凝集率を測定した。
【0041】
アラキドン酸代謝阻害活性は、以下の計算方法により血小板凝集阻害率を求めることで評価した。
(血小板凝集阻害率計算法)
PRP+凝集惹起剤のみを加えたときの最大凝集率をAとする。
被験物質+PRP+アラキドン酸を加えたときの最大凝集率をBとする。
凝集阻害率(%)をCとすると
C=100−B/A×100
【0042】
(試験結果)
前記試験方法において、被験物質100μgを添加した条件下で血小板凝集阻害活性を測定した。さらに活性が比較的高いものについて、被験物質50μg、10μgを添加した条件下での血小板凝集阻害活性を測定した。
【0043】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の内、アルコキシベンジル(またはフェネチル)アルキルエーテルを除く有機化合物の試験結果を、従来血小板凝集阻害活性が知られている市販のトウガラシチンキと、血流改善効果が知られている松樹皮抽出物を比較例として、表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように本発明の化合物には、トウガラシチンキや松樹皮抽出物と比較して、同等かそれ以上の活性が確認された。
【0046】
次に、アルコキシベンジル(またはフェネチル)アルキルエーテル類の試験結果を、トウガラシチンキと松樹皮抽出物での試験結果を比較例として表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すとおり、本発明のアラキドン酸代謝抑制剤において、アルコキシベンジル(またはフェネチル)アルキルエーテルでは、側鎖の結合位置や側鎖の炭素数に関わらず高い効果を示した。また、側鎖がパラ位に結合している化合物は、特に高い効果を示し、添加量を10μgに削減しても、充分な効果が認められ、従来血流改善作用が知られている松樹皮抽出物と比較しても格段に高い効果が認められた。
【0049】
次に、本発明中の植物抽出物の試験結果を示す。試験に供した植物抽出物は、市販の精油を用いた。また、本発明のアンゲリカ酸エステル類を含有するローマンカモミールオイルの試験結果と、ローマンカモミール花の熱水抽出した抽出物を試験した結果を比較例として表3に示す。
【0050】
ローマンカモミールの花の熱水抽出物は、乾燥花2gに熱水200gを加え、3分間撹拌しつつ抽出した後、固液分離して抽出液を得た。得られた抽出液を減圧濃縮し、原料の乾燥花に対して0.42gの抽出物を得、これを被験物質として使用した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示すとおり、本発明の植物抽出物はトウガラシチンキや松樹皮抽出物と同等の効果を示した。また、ローマンカモミールオイルは、添加量を50μgに削減した場合でも松樹皮抽出物と同等以上の効果を示し、ローマンカモミールの水溶性成分を抽出した熱水抽出物では高い効果は得られなかった。
【0053】
以下に本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の製剤例について、一例を示す。
【0054】

錠剤配合例(質量比)
──────────────────────
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 5.0
6%HPC乳糖 80.0
ステアリン酸マグネシウム 4.0
バレイショデンプン 6.0
──────────────────────
【0055】

軟膏剤配合例(質量比)
─────────────────────────
白色ワセリン 20.0
ステアリルアルコール 22.0
プロピレングリコール 12.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
パラベン 0.2
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 5.0
精製水 39.3
─────────────────────────
【0056】

入浴剤配合例(質量比)
――――――――――――――――――――――─
炭酸水素ナトリウム 50.0
硫酸ナトリウム 45.0
ローマンカモミールオイル 0.5
p−メトキシフェネチルメチルエーテル
0.3
香料 0.7
色素 3.0
───────────────────────
【0057】
以下に本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の食品への配合例について一例を示す。
【0058】

アイスクリーム配合例(質量比)
────────────────────────
全脂練乳 10.0
生クリーム 9.4
無塩バター 2.0
脱脂粉乳 3.4
砂糖 12.0
安定剤 0.3
乳化剤 0.2
pH調整剤 0.1
カラメル色素 0.1
5−デセン酸、6−デセン酸混合物 0.01
香料 0.01
水 49.0
────────────────────────
【0059】

クッキー生地配合例(質量比)
────────────────────────
薄力粉 62.5
全粒粉 37.5
ショートニング 30.0
全卵 30.0
砂糖 20.0
水飴 1.0
脱脂粉乳 5.0
食塩 1.2
食用油脂 30.0
重炭酸ソーダ 1.0
重炭酸アンモニウム 1.0
5−デセン酸、6−デセン酸混合物 0.01
イソブチルアンゲレート 0.001
香料 0.3
水 11.0
────────────────────────
【0060】

チョコレート配合例(質量比)
─────────────────────────
カカオ液 12.0
カカオバター 24.0
ショ糖 33.0
フルクリームミルクパウダー 19.0
スキムミルクパウダー 11.4
レシチン 0.5
5−デセン酸、6−デセン酸混合物 0.01
香料 0.1
─────────────────────────
【0061】

ノンオイルドレッシング配合例(質量比)
─────────────────────────
濃口醤油 10.0
醸造酢 6.0
リンゴ酢 5.0
レモン果汁 4.0
液糖 7.0
食塩 2.0
調味料 7.0
p−メトキシフェネチルメチルエーテル 0.01
香料 0.2
水 50.0
─────────────────────────
【0062】

飲料配合例(質量比)
――――――――――――――――――――――───
果糖ぶどう糖液糖 60.0
アップル透明果汁 4.3
クエン酸 2.3
クエン酸三ナトリウム 0.8
アスコルビン酸 0.2
スクラロース 0.03
アセスルファムカリウム 0.02
香料 0.99
ローマンカモミールオイル 0.009
イソブチルアンゲレート 0.001
水 31.0
――――――――――――――――――――――───
【0063】

チューインガム配合例(質量比)
――――――――――――――――――――――─
ガムベース 20.0
砂糖 60.0
ブドウ糖 10.0
水飴 8.0
グリセリン 5.0
香料 0.7
ローマンカモミールオイル 0.2
イソブチルアンゲレート 0.1
───────────────────────
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、香料として使用実績がある化合物であり、刺激性などは極めて小さく、飲食品や香粧品類など幅広く添加することができる。また、本発明の化合物群は容易に合成ができるため、大量生産が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デカン酸、5−デセン酸、6−デセン酸、ジオスフェノール、7−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾジオキセピン−3−オン、4−(2,3,6−トリメチルフェニル)−3−ブテン−2−オン、下記式1


(式中R1は水素原子、水酸基および/または炭素数1〜3のアルキル基が結合してもよいフェニル基またはメチルフェニル基またはエチルフェニル基、水酸基で置換されてもよい炭素数1〜10の直鎖まはた分岐鎖もしくは環を形成してもよい飽和または不飽和の炭素鎖を示す)で表されるアンゲリカ酸およびそのエステル、下記式2


(式中、Aは任意の位置に不飽和結合を有してもよい炭素数0〜3の炭素鎖を示し、R2は水素、水酸基、メチル基、メトキシ基、エトキシ基のいずれかを示し、R3はメチル基、CH、COR4、CHOR5のいずれかであることを示し、R4はメチル基またはエチル基を示し、R5は水素、メチル基、エチル基、プロピル基のいずれかであることを示す)で表されるベンゼン誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物またはムスカリ花、フェンネル果実、ナツメグ種子、ブチュ葉およびエストラゴンから選ばれる少なくとも1つの植物抽出物を有効成分として含有するアラキドン酸代謝抑制剤。
【請求項2】
デカン酸、5−デセン酸、6−デセン酸、ジオスフェノール、7−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ベンゾジオキセピン−3−オン、4−(2,3,6−トリメチルフェニル)−3−ブテン−2−オン、3−メチルペンチルアンゲレート、ブチルアンゲレート、イソブチルアンゲレート、2−メチルブチルアンゲレート、ジヒドロアネトール、p−メチルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、アニスケトン、アニシルアセトン、ベンジリデンアセトン、α−メチルアニサールアセトン、ラズベリーケトン、p−ヒドロキシフェネチルアルコール、2−メトキシベンジルメチルエーテル、2−メトキシベンジルエチルエーテル、2−メトキシベンジルプロピルエーテル、2−エトキベンジルメチルエーテル、2−エトキシベンジルエチルエーテル、2−エトキシベンジルプロピルエーテル、2−メトキシフェネチルメチルエーテル、2−メトキシフェネチルエチルエーテル、2−メトキシフェネチルプロピルエーテル、2−エトキシフェネチルメチルエーテル、2−エトキシフェネチルエチルエーテル、2−エトキシフェネチルプロピルエーテル、3−メトキシベンジルメチルエーテル、3−メトキシベンジルエチルエーテル、3−メトキシベンジルプロピルエーテル、3−エトキベンジルメチルエーテル、3−エトキシベンジルエチルエーテル、3−エトキシベンジルプロピルエーテル、3−メトキシフェネチルメチルエーテル、3−メトキシフェネチルエチルエーテル、3−メトキシフェネチルプロピルエーテル、3−エトキシフェネチルメチルエーテル、3−エトキシフェネチルエチルエーテル、3−エトキシフェネチルプロピルエーテル、4−メトキシベンジルメチルエーテル、4−メトキシベンジルエチルエーテル、4−メトキシベンジルプロピルエーテル、4−エトキベンジルメチルエーテル、4−エトキシベンジルエチルエーテル、4−エトキシベンジルプロピルエーテル、4−メトキシフェネチルメチルエーテル、4−メトキシフェネチルエチルエーテル、4−メトキシフェネチルプロピルエーテル、4−エトキシフェネチルメチルエーテル、4−エトキシフェネチルエチルエーテル、4−エトキシフェネチルプロピルエーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするアラキドン酸代謝抑制剤。
【請求項3】
ムスカリ花、フェンネル果実、ナツメグ種子、ブチュ葉およびエストラゴンから選ばれる少なくとも1つの植物抽出物を有効成分として含有するアラキドン酸代謝抑制剤。
【請求項4】
4−メトキシベンジルメチルエーテル、4−メトキシベンジルエチルエーテル、4−メトキシベンジルプロピルエーテル、4−エトキベンジルメチルエーテル、4−エトキシベンジルエチルエーテル、4−エトキシベンジルプロピルエーテル、4−メトキシフェネチルメチルエーテル、4−メトキシフェネチルエチルエーテル、4−メトキシフェネチルプロピルエーテル、4−エトキシフェネチルメチルエーテル、4−エトキシフェネチルエチルエーテル、4−エトキシフェネチルプロピルエーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするアラキドン酸代謝抑制剤。
【請求項5】
3−メチルペンチルアンゲレート、ブチルアンゲレート、イソブチルアンゲレート、2−メチルブチルアンゲレートから選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とするアラキドン酸代謝抑制剤。
【請求項6】
請求項1に記載のアラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、血流改善剤。
【請求項7】
請求項1に記載のアラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、抗血栓剤。
【請求項8】
請求項1に記載のアラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、抗炎症剤。
【請求項9】
請求項1に記載のアラキドン酸抑制剤を有効成分として含有し、血流改善効果および/または抗炎症効果を有する旨の表示をしてなる飲食品。

【公開番号】特開2006−219471(P2006−219471A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97031(P2005−97031)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)
【Fターム(参考)】