説明

アラキドン酸類含有組成物

【課題】酸化安定性に優れたアラキドン酸類油脂を提供すること。
【解決手段】アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために使用されるアラキドン酸類含有組成物であって、アラキドン酸とともにトコフェロールおよびローズマリー抽出物を含有する組成物である。前記アラキドン酸類はアラキドン酸のアルコールエステルまたは構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、リン脂質または糖脂質であってもよい。アラキドン酸類を1重量%以上含有することが望ましい。前記ローズマリー抽出物が、好ましくは脂溶性抽出物、さらに好ましくはカルノシン酸である。アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために、飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類または香粧品類に添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために使用されるアラキドン酸類含有組成物に関する。さらに詳しくは、トコフェロールおよびローズマリー抽出物を含有する酸化安定性に優れたアラキドン酸類油脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アラキドン酸(ARA;シスー5、8、11、14−エイコサテトラエン酸)は長鎖ω−6系高度(多価)不飽和脂肪酸類の一種であり、動物の臓器および組織から得られるリン脂質中に存在する。これは必須脂肪酸の一種であり、プロスタグランジン、トロンボキサンチンおよびロイコトルエンなどの合成の前駆体となる重要な化合物である。また、アラキドン酸類(以下、ARA類と略称する)は、幼児の脳の発達を促し、高齢者の脳の衰えを予防するなどの生理作用を有していることも指摘されている。
【0003】
このようなアラキドン酸の機能に注目して、従来、アラキドン酸のような長鎖高度不飽和脂肪酸およびそのエステルを、栄養強化または各種生理的作用を付与する目的で油脂および食品などの各種組成物へ添加することが試みられてきた。特開平10-99048号に記載の栄養強化組成物には、母乳に近い成分を実現するために添加される成分の一種としてアラキドン酸が0.1〜10重量%含有されている。また、特開平11-89513号に記載のヒト乳脂肪
に近似する合成脂質組成物には、アラキドン酸を含む長鎖n-6高度不飽和脂肪酸がトリグ
リセリドを構成する脂肪酸の1種として使用されている。さらに、特開平10-70992号および特開平10-191886号にはアラキドン酸をトリグリセリドの形で豊富に含有する微生物由
来の食用油脂が記載されており、その好適用途として、未熟児用調製乳、乳児用調製乳、幼児用食品、および妊婦用食品などが挙げられている。
【0004】
アラキドン酸類に限らず、ドコサヘキサエン酸類、エイコサペンタエン酸類などの高度不飽和脂肪酸はそれぞれ特有の生理作用を有しているが、いずれも、分子内に不飽和結合を多く有しているために不安定であり、時間の経過とともに酸素、光、熱などの作用を受けて酸化され、異味異臭が発生してくる。また、生成した過酸化脂質は老化やガンの原因となることも指摘されており、高度不飽和脂肪酸を利用する場合にその酸化防止は緊急に解決すべき課題となっている。
【0005】
上述の課題を解決するために、すでにいくつかの提案がなされている。例えば茶抽出物を含む水溶液を、必要に応じてヒドロキシカルボン酸および油溶性抗酸化活性物質の相乗剤とともに、一種または二種以上の特定量の親油性乳化剤で乳化した親油性抗酸化剤が提案され、この発明によれば、バター、魚油などの動植物油脂の酸化防止に効果があると記載されている(特公平 3-49315号公報参照)。また茶葉抽出成分、一種または二種以上のポリヒドロキシ化合物、一種または二種以上の有機酸および水からなる水産物の品質保持剤(特公昭 5-66084号公報参照)、さらに構成脂肪酸として高度不飽和脂肪酸(主にDHA、EPA)を含有する脂質を含む食品中に脂溶性ジンジャーフレーバーを存在させる魚臭のマスキング方法(特開6-189717号公報参照)、またさらにドコサヘキサエン酸油およびビタミンCを含有する乳化組成物(特開平7-107938号公報参照)などが提案されている。また、南天の葉の抽出エキスおよびビタミンCを有効成分として含有するドコサヘキサエン酸および/または魚油の安定化剤(特願平 7-47188号公報)なども提案されている。しかし、これらは、高度不飽和脂肪酸のうち、主にDHAおよびEPAを対象としたものである。その理由として、DHAおよびEPAの原料は魚油を対象としたものであるために、酸化によって原料由来の腐敗臭が生じること、DHAおよびEPAはARAに比べて不飽和度が高いために酸化しやすいと考えられていることなどがあげられる。
【0006】
ARAの酸化防止については、これまで公知であり共通して利用されてきた抗酸化剤を利用することが通例であった。例えば微生物により産生されたARAリッチの油状物に対する抗酸化剤として、トコフェロール、アスコルビン酸エステルの使用が提案されていた(特開平10-139673号公報)。もっともトコフェロールには抗酸化力が最も強くなる最適
の添加量が存在し、期待できる抗酸化力には限度があった(特開2004-107599号公報)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは純粋に精製したDHA、EPAおよびARAのエチルエステルを対象に、それらの酸化しやすさを比較した結果、不飽和結合数からの予想に反してARAが最も酸化しやすいことを発見し、高度不飽和脂肪酸のうち、特にARAの酸化防止法を考えること、ならびに油脂全般的な酸化防止でなくARAに対して個別に作用する酸化防止剤の開発が最も緊急の課題であると考えてさらに研究を進め、ARA酸化防止に好ましい抗酸化作用物質の組合せを確立して本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアラキドン酸類含有組成物は上記のように予想外の驚くべき発見に端を発するもので、次の構成を有する発明として特定される。
本発明は、アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために使用される組成物であって、アラキドン酸類とともにトコフェロールおよびローズマリー抽出物を含有することを特徴としている。
【0009】
前記アラキドン酸類はアラキドン酸のアルコールエステルまたは構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、リン脂質または糖脂質であってもよい。アラキドン酸類を1重量%以上含有することが望ましい。
【0010】
前記ローズマリー抽出物が、好ましくは脂溶性抽出物、さらに好ましくはカルノシン酸である。
アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために、飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類または香粧品類に添加されることを特徴としている。したがって、上記組成物が添加された飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類または香粧品類も本発明に包含される。
【0011】
また本発明の別の態様として、トコフェロールおよびローズマリー抽出物を用いるアラキドン酸類の酸化防止法がある。
【発明の効果】
【0012】
高度不飽和脂肪酸、すなわちDHA、EPAおよびARAの中でも、特に酸化されやすいアラキドン酸の酸化は、抗酸化剤としてトコフェロールおよびローズマリー抽出物を使用することにより極めて有効に防止されるため、酸化安定性に優れたアラキドン酸類油脂組成物を提供することができる。トコフェロールおよびローズマリー抽出物の併用は、アラキドン酸類に対して相乗的な抗酸化作用が認められるので、両者の併用はそれぞれが低用量であってもアラキドン酸の劣化を有効に防止でき、その各種生理機能を長期間保持できるように作用する。本発明の組成物は、アラキドン酸を添加することを所望されているか、その含有量を上げることが必要とされる広範囲の製剤、製品に対して何ら支障なく添加することができる。本発明の組成物は、添加されるトコフェロールおよびローズマリー抽出物が天然物由来であるために、飲食物、医薬品などに添加されても安全性の点で問題がない添加剤である。
〔発明の詳細な説明〕
本発明のアラキドン酸類含有組成物は、アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために使用される組成物であって、アラキドン酸類とともにトコフェロールおよびローズマリー抽出物を含有することを特徴とする。すなわち、本発明は、アラキドン酸類とともに、その酸化防止剤としてトコフェロールおよびローズマリー抽出物を有効成分としてともに含有することを特徴としている組成物である。好ましくはアラキドン酸に基づく栄養の強化、または生理的機能の付与のための素材、原料もしくは添加物として、飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類または香粧品類に添加される。「アラキドン酸類(ARA類)」とは、アラキドン酸(ARA)、その塩、あるいは例えばアラキドン酸のアルコールエステルまたは構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、リン脂質または糖脂質であるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明は、本発明者らの研究により、純粋に精製したDHA、EPAおよびARAのエチルエステルの酸化しやすさを比較した結果、ARAが最も酸化しやすいという予想外の発見(図2)に加え、新たに見出された次の数々の新知見に基づいて構成されている。
【0014】
従来から香辛料が天然由来の抗酸化素材として知られているが、その効果の順が油脂の種類によって異なっており、ω−6系高度不飽和脂肪酸であるARAに対する酸化抑制効果は、香辛料のなかでもとりわけローズマリーがよいことを本発明者らは見出したのである。ローズマリーは従来から酸化防止機能を有することは知られていた。例えば、特開2004-107599では、活性酸素消去能を有するローズマリーの60%エタノール抽出物と水へ
の分散性のある被膜剤を含有することを特徴とする油劣化防止剤のリノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸に対する利用が提案されている。しかし、ローズマリー抽出物はARA以外の油脂に対しては、他の香辛料に比べて、特段に酸化防止効果が優れているわけではなかったのである(図3)。例えば、大豆油の酸化防止効果に対しては、ローズマリー抽出物よりも、オレガノ、タイム、タラゴンの抽出物の活性が高い。
【0015】
本発明者らはこのように、ローズマリー抽出物が、特異的にARA類に対してその酸化防止に優れ、とりわけその脂溶性抽出物が格別に優れていることを見出した(図4)。これまで、個別の油脂であるアラキドン酸に対して、特異的かつ有効に酸化防止作用を発揮するものは知られていなかったのである。また抗酸化香辛料による油脂の酸化抑止作用について、油脂の種類と香辛料の種類との間に相性があるとのこの発見は興味深い。これに関連して、ドコサヘキサエン酸類用の酸化防止剤として、トコフェロール、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルおよび茶抽出物を有効成分として含有する製剤が提案されているが(特開平9-111237号公報)、ARA類に対する言及はなされていない。
【0016】
また、カルノシン酸を主要ポリフェノール成分として含む脂溶性抽出成分は一層、酸化防止効果に優れていることも明らかになった。さらに本発明は、従来、単独成分としても酸化防止機能を有することが知られているトコフェロールを併用することにより、それぞれを単独で用いた場合と比較して、ARA類に対する酸化防止効果が一層発揮されるという新しい知見にも依拠しており、従来の課題を一挙に解決できる特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の態様についてさらに具体的に説明する。
本発明の組成物において主要な位置を占める有効成分であり、酸化防止剤(トコフェロールおよびローズマリーの組合せ)の適用対象となるARA類としては、微生物発酵液から抽出・精製した油脂などを挙げることができる。ARA(アラキドン酸)は、モルテイエラなどの真菌類中に遊離の脂肪酸またはそのトリグリセリドとして存在している。ARA類として他にアラキドン酸のアルコールエステルまたは構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、リン脂質または糖脂質などが用いることができる

【0018】
そうしたARA類としては、ARA類の単独油脂のみではなく、例えばDHA類あるいはEPA類と混合したARA類油脂についても好ましい。さらには、ARA含有油脂に他の脂溶性ビタミンや機能成分を溶解させた混合物に対しても使用可能である。
【0019】
本発明の組成物におけるARA類の含有量は、一般的には組成物重量の1重量%以上である。好ましくはARA類を2〜70重量%、さらに好ましくは5〜50重量%の範囲で組成物に含有させる。
【0020】
本発明の組成物で使用するトコフェロールおよびローズマリーは、いずれも市場において容易に入手することができるものである。本発明に使用されるトコフェロールはビタミンEと称される油溶性の化合物である。トコフェロールは、α−型、β−型、γ−型、δ−型など各種の化学構造を有するものが知られているが、本発明ではいずれも使用することができる。また天然物から採取した天然品あるいは化学的手法で合成した合成品の区別なく使用できる。
【0021】
また、本発明で使用するローズマリー抽出物は、水溶性または油溶性のいずれの抽出物でも使用することができるが、ARA類を含む油脂中に共に溶解している方が好ましく、この理由から脂溶性ローズマリー抽出物を用いるのが好ましい。後記の実施例3および実施例4にそれらの調製方法が記載されている。ローズマリー抽出物の調製方法は、また特開2004-107599号公報に具体的に記載されている方法に従ってもよい。脂溶性ローズマリ
ー抽出物に含まれるポリフェノール成分のカルノシン酸は、酸化防止効果に優れていることから、この物質をローズマリー抽出物として使用することもできる。
【0022】
本発明におけるローズマリー抽出物とトコフェロールとの配合割合は、特別に制約されるものではないが、例えばトコフェロール1重量部に対して、ローズマリー抽出物を 0.5〜50重量部、より好ましくは5〜20重量部の範囲が好適である。この範囲を外れてローズマリー抽出物を多く配合すると、抽出物由来の渋みが強くなるといった問題があり、また少なすぎると併用による相乗効果は認められず、ARA類の酸化防止剤としての効果はあまり期待できない。
【0023】
本発明の組成物中に含有され、抗酸化作用の対象となるARA類に対する、酸化防止剤(すなわち、トコフェロールおよびローズマリー抽出物)の配合量は、一般には含有されるARA類の重量に対して約2〜70重量%、好ましくは5〜50重量%程度の範囲をしばしば採用することができる。これは添加量が2重量%未満であると効果が不十分であり、また70重量%を超えて添加しても効果は変らず、不経済でありまたARA類含有組成物への悪影響もある。
【0024】
本発明の組成物において、アラキドン酸類用の酸化防止剤はその使用にあたっては、上述したような組合せであるトコフェロールおよびローズマリー抽出物の混合物のみを使用してもよいし、これら混合物と適当な希釈剤、増量剤もしくは担体との組成物の形態で使用してもよい。このような希釈剤、増量剤もしくは担体としては、例えばアラビアガム、デキストリン、グルコース、シュークロースなどの固体希釈剤、増量剤もしくは担体、また水やエタノール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類あるいはポリグリセリンの脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの液体希釈剤、増量剤もしくは担体を例示することができる。さらに上記成分の作用を損なわない範囲で、香料、色素、pH調整剤、安定化剤などの一般的な組成物用添加物を任意に組み合わせて適宜、組成物に含有させることができる。
【0025】
本発明の組成物は任意の剤形として使用することができ、例えば粉末状、顆粒状、液状、乳液状、ペースト状その他適宜の剤形で使用可能である。例えば、アラビアガム、デキストリンなどを添加して、噴霧乾燥法、凍結乾燥法などの乾燥手段を用いて粉末状、顆粒状などの剤形で使用してもよく、また例えば、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンや乳化剤あるいはこれらの混合物に溶解させ、乳化・分散させた液状剤形として使用することもできる。さらに本発明組成物の態様として、トコフェロールおよびローズマリー抽出物の混合物とともに、その他既知の酸化防止剤、例えば、ビタミンC、茶抽出物、酵素処理ルチン、甘草抽出物、レシチン、没食子酸エステル、抗酸化香辛料などを配合した混合物の形態で使用してもよい。
【0026】
本発明のアラキドン酸類含有組成物は、アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために使用される組成物であって、この組成物を添加する製品に制限は特にない。しかし、従来から試みられてきたアラキドン酸の栄養強化および各種生理的作用を付与する目的で、油脂および食品などの各種組成物へ添加することが本発明でも最も好ましい利用態様である。すなわち、ARA含有量をさらに高めたい製品、あるいはARA類を本来、実質的に含まないがその生理的作用を付与したい製品に本発明組成物を添加すれば、製品中のARA類および該製品の光、酸素、熱などによる経時変化に伴う劣化臭ないし戻り臭の発生を効果的に防止することもできる。そうした製品としては、具体的に飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類、香粧品類などを挙げることができる。例えば、個々の商品としては無果汁飲料、果汁入り飲料、乳酸菌飲料、粉末飲料などの飲料類;アイスクリーム、シャーベット、氷菓などの冷菓類;プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルトなどのデザート類;その他ドロップ、キャンディー、チョコレート、餡、畜肉加工食品、焼肉たれ、漬物などのような飲食品・嗜好品類;経腸栄養剤、補助栄養剤、錠剤、液状経口薬、粉末状の経口薬、湿布薬などのような保健・医薬品類;石鹸、洗剤、シャンプーのような香粧品類などを挙げることができる。しかしながらこれらの例示に限定されるものではなく、必要に応じて様々な製品、製剤が添加の対象に含まれる。本発明の組成物の上記製品に対する添加量が、製品の種類、特性、状態、さらに添加の目的などによって様々に変わることから、その好適な範囲は一概に決められない。したがって実際には個々の製品において、あるいは添加する目的に応じて、その添加量が適宜設定されるだろう。一般的には、製品重量に対して0.01重量%以上となる添加量である。
【0027】
以上より、本発明の最良の態様は、アラキドン酸を添加するかその含有量を増すために、飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類または香粧品類に添加される組成物であって、アラキドン酸類とともに、トコフェロールおよびローズマリー脂溶性抽出物をともに含有することを特徴とする、アラキドン酸類を含有する油脂組成物である。
【0028】
本発明の別の態様として、トコフェロールおよびローズマリー抽出物を用いるアラキドン酸類の特異的な酸化防止法が示される。下記実施例において実証されたように、トコフェロールおよびローズマリー抽出物の併用により、アラキドン酸類の相乗的な酸化抑止効果が期待される。トコフェロールおよびローズマリー抽出物の好ましい配合、添加量などについては、上記組成物に関する記載より容易に導かれる。本発明によるユニークな酸化防止方法によれば、トコフェロールおよびローズマリー抽出物からなる混合物は、これをARA類に直接添加、混合することによって該ARA類の光、酸素、熱などによる経時変化に伴う劣化臭ないし戻り臭の発生を防止することができる。またトコフェロールおよびローズマリー抽出物の混合物またはその組合せとして含有する酸化防止剤を、ARAまたはARA類の酸化防止のために使用してもよく、あるいはARAまたはARA類を含有する製品、例えば飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類、香粧品類などに添加して、製品中のARA類の酸化を抑制する形態であってもよい。
[実施例]
本発明をさらに実施例を挙げて具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を
限定するものではない。また使用材料はこの発明の範囲内の好適例にすぎず、実施例中で用いる使用材料の濃度、使用量、処理時間、処理温度などの数値的条件、処理方法などはこの発明の範囲内の好適例にすぎない。
【実施例1】
【0029】
以下の実施例に示される研究で、油脂の酸化およびその酸化抑制についての評価は、次に示すTBA変法を用いた。試料油脂として大豆油脂0.1ml、0.2M酢酸塩酸バッファー(pH3.7) 1.5ml、TBA(チオバルビツール酸)溶液1.5ml、FeCl3溶液(27,000ppm) 0.1mlを
加えて、100℃・15分保持した際の油脂酸化物とTBAとの反応で生じる赤色反応物を
532nmの吸収で測定するものである。この油脂の過熱酸化の際、抗酸化剤として知られるBHTを種々の濃度で添加して反応液の赤色色素の生成を評価した。結果を図1に示す。縦軸は、油脂酸化抑制率(%)を表わしており、BHTを入れていない場合(油脂酸化抑制率が0%)の吸光度を100として、どれだけ赤色色素の生成が抑制されたかで評価した。BHT添加量が増すに従って、赤色色素の生成、すなわち油脂の酸化が抑制されていることが知られる。
【実施例2】
【0030】
アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、γ−リノレン酸のエチルエステルを各々、クロロホルムで30倍に希釈したものである油脂試料 0.1mlをそれぞれ実施例1の大豆油脂の代わりに添加して、60℃・15分で加熱酸化して生成した赤色色素の吸光度を測定した。アラキドン酸を酸化した場合が最も生成した赤色色素の吸光度が高かった。図2にアラキドン酸の反応液の吸光度を100とした場合の、各油脂試料の吸光度を示した。図から明らかなようにアラキドン酸の易酸化性は、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、γ−リノレン酸のそれと比較して、3〜10倍にものぼる。この結果から、アラキドン酸は他の高度不飽和脂肪酸に比べて、非常に酸化されやすいことがわかった。
【実施例3】
【0031】
種々の香辛料(タラゴン、タイム、オレガノ、ローズマリー)を粉砕して、その9倍量の60%エタノール水溶液を添加して、50℃・2時間で振とう抽出したのち、遠心(5000rpm・10分)して上澄み液を60%エタノール香辛料抽出液として取得した。実施例1の
試料油脂を大豆油脂、あるいはアラキドン酸含有油脂として油脂酸化を評価する際に、各香辛料抽出液 0.1mlを添加し、それぞれの抽出試料による油脂酸化の抑制活性を比較した。結果を図3に示す。
【0032】
大豆油脂の酸化は、タラゴン、タイム、オレガノ、ローズマリーの順で抑制されたが、アラキドン酸含有油脂の酸化に対しては、ローズマリー、タイム、オレガノ、タラゴンの順であり、ローズマリーはアラキドン酸の酸化抑制に適していることが判明した。
【実施例4】
【0033】
実施例1の試料油脂をアラキドン酸として、その油脂酸化を評価する際、ローズマリー60%エタノール抽出由来不揮発成分、脂溶性抽出(100%アセトン抽出)由来不揮発成分の5000ppm溶液を調製し、その0.1mlを添加して、アラキドン酸に対する抗酸化活性を比較した。結果を図4に示す。ローズマリー抽出成分のうち、とくに脂溶性画分による酸化抑制活性が高いことが明らかになった。
【実施例5】
【0034】
ARA類の酸化に対する抑止に関して、トコフェロールおよびローズマリー抽出物の併用効果を、次の4試料について品質安定化の面から調べた。
(試料1)20重量%ARA含有精製油脂10g,トコフェロール0.2g ,ローズマリー脂溶性抽
出物0.2g からなる、トコフェロール・ローズマリー含有油脂を得た。
(試料2)20重量%ARA含有精製油脂10gおよびトコフェロール0.4g からなるトコフ
ェロール含有油脂を得た。
(試料3)20重量%ARA含有精製油脂10gおよびローズマリー脂溶性抽出物0.4g から
なるローズマリー含有油脂を得た。
(試料4)20重量%ARA含有精製油脂10gを得た。
・試料1、2、3および4の油脂の保存安定性試験
調製した油脂試料をそれぞれ 50ccの透明ガラスビンに入れ、遮光下、50℃で30日間保
存し、10日目、20日目および30日目における香味の経時変化を比較した。その結果を表1に示す。表中の各評価記号は下記の評価基準を表わしている。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から明らかなように、試料1の油脂は10日後においても香味の変化はなく安定であったのに対し、比較する試料2、3および4のものは異味、異臭が認められ、明らかにARA油脂の酸化に起因する劣化が生じている。特に試料4の油脂は10日後において、既に著しく不快な異味、異臭の発生が認められ、香味の保存安定性は悪かった。また、試料1の結果と試料2または試料3の結果とを比較することにより、トコフェロール・ローズマリー含有油脂は、トコフェロールあるいはローズマリー単独油脂に比べて相乗的な抗酸化活性も認められた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、TBA変法により測定した、BHTの油脂に対する抗酸化活性を示す。
【図2】図2は、種々の高度不飽和脂肪酸の酸化のしやすさを示す。
【図3】図3は、香辛料から得た抗酸化性エタノール抽出物の油脂の違いによる抗酸化活性の違いを示す。対象とした油脂は大豆油脂(左)およびアラキドン酸含有油脂(右)である。
【図4】図4は、ローズマリーの60%エタンール抽出画分と脂溶性画分の抗酸化活性の比較を表わす。(試料油脂:アラキドン酸エチルエステル、抽出成分濃度5000ppm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために使用される組成物であって、アラキドン酸類とともにトコフェロールおよびローズマリー抽出物を含有することを特徴とするアラキドン酸類含有組成物。
【請求項2】
前記アラキドン酸類がアラキドン酸のアルコールエステルまたは構成脂肪酸の一部もしくは全部がアラキドン酸であるトリグリセリド、リン脂質または糖脂質である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
アラキドン酸類を1重量%以上含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ローズマリー抽出物が脂溶性抽出物である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記ローズマリー抽出物がカルノシン酸である、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
アラキドン酸を添加するかその含有量を強化するために、飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類または香粧品類に添加される、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
トコフェロールおよびローズマリー抽出物を用いるアラキドン酸類の酸化防止法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−225724(P2009−225724A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75356(P2008−75356)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】