説明

アラキドン酸類縁体、及びそれによる鎮痛治療

本発明は、鎮痛治療において使用される活性剤として、アラキドン酸(AA)類縁体、及びそれらの類縁体を含む組成物を提供する。本発明の化合物を製造するための各種方法が提供され、注入用及び経口薬剤を含む製薬処方が記載される。該類縁体はさらに、解熱性組成物として、且つ、関連解熱治療において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本国際出願は、2009年11月25日出願の米国特許仮出願第61/264,434号の利益を主張する。なお、参照することによってこの仮出願全体を全ての目的のために本国際出願に含める。
【0002】
(連邦政府の支援による研究又は開発に関する記述)
該当無し。
【0003】
本発明は疼痛治療に関する。特に、本発明は、アラキドン酸(AA)類縁体、及び、鎮痛治療におけるそれらの使用をその主題とする。
【背景技術】
【0004】
痛覚経路は、末梢において、皮膚、筋肉、腱、又は骨標的に分布する侵害受容器から始まる。活性化又は刺激を受けた侵害受容器は、侵害情報を脊髄の後角に伝達し、次に、脊髄ニューロンが、情報を、視床、網状体、及び中脳の上位センターに伝達する。別のニューロンは、その情報を体性感覚皮質に配送し、そこで痛みが解明される。脊髄を経由して伝達される侵害情報は(nociceptive information)、中枢のニューロン--その軸索は、中脳及び他の上位区域から脊髄に下降する--によって大きく調整される(modulate)が、これらの下降経路は、抑制性(阻害性)か、促進性のいずれかである。
【0005】
ニューロンは、種々の電圧開口型イオンチャンネルを含む。電圧開口型K+及びNa+チャンネルは、神経細胞の興奮性(excitability)を制御し、痛みの感覚閾値(perceptual threshold)の設定において決定的役割を果たす。神経細胞におけるK+又はNa+イオンチャンネルの活性を調整する能力は、痛み信号の伝達制御において重要である。
【0006】
エポキシエイコサトリエノイン酸(epoxyeicosatrienoic acid; EET)は、シトクロムP450(CYP)エポキシゲナーゼによってアラキドン酸から生産される。EETは、炎症、脈管形成、細胞増殖、イオン輸送、及びステロイド生成を制御する。多くの非常事態において、EETレベルは制御されるが、特に、上記酵素に可溶なエポキシドヒドロラーゼ(EPHX2)による、EETのvic-ジオール(vic-ジヒドロキシエイコサトリエノイン酸;DiHETrE)への代謝を通じて制御される。
【0007】
ある種の痛みは、モルフィンなどのオピオイド、若しくは、アスピリン又はイブプロフェンなどの、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)によって効果的に管理されるが、オピオイドもNSAIDも共に多くの有害な副作用を有する。例えば、オピオイドは、しばしば、ユーザーに対し依存性及び禁断症状などの問題を引き起こす。さらに疼痛管理におけるオピオイドの使用は、アヘン剤治療後におけるNa+/K+-ATPアーゼ活性障害によって制限される。同様に、NSAIDは、高血圧、潰瘍穿孔、上部消化管出血、及び、重度の症例では死を招く可能性がある。
【0008】
アセトアミノフェンは、疼痛及び発熱の治療のために世界中でもっとも広く使用される薬剤の一つであり、恐らく、小児においてもっとも一般的に処方される薬剤であろう。アセトアミノフェンを含む製剤は、OTC(市販)の疼痛、風邪、及びインフルエンザ治療薬、及び、バイコディンのような処方薬を含め、600を超える。それは、鎮痛剤の中でも独特の位置を占める。NSAIDと違って、それは、抗炎症剤としては無効と考えられるが、消化管損傷又は有害な心臓・腎臓作用を引き起こすことはなく;アヘン誘導体(opiate)と違って、それは、平滑筋の痙縮によって生じる痛みに対しては無効であるが、呼吸に対して低調作用を及ぼすことはない。鎮痛作用を生じるアセタミノフェン代謝産物はAM404であるが、これは、現在では、CB1及びTRPV1受容体を通じて鎮痛作用を生じることが知られる。図1は、アセタミノフェンの、AM404への、及びそれに加えて、比較的望ましくない分子NAPQ1への代謝を示す。残念なことに、アセタミノフェンは、高用量では有毒であり、米国では急性肝不全の主要原因となっている。NAPQ1は、肝不全をもたらすことが大きく疑われる分子である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、上述の副作用は免れるが、疼痛に対しては有効で安全な治療を実現する、改善された鎮痛治療が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書において、本発明人らは、アラキドン酸類縁体の新規組成物、及び、疼痛治療のためのその使用法を具体的に明らかにする。本発明は、アラキドン酸(AA)は、ニューロンにおいて、シトクロムP450エポキシゲナーゼ(CYP4X1)にとって触媒可能な基質であるという知見に一部基づく。AAは、CYP4X1によって、EETの、4個の位置異性体(すなわち、5,6-EET;8,9-EET;11,12-EET、及び14,15-EET)に変換されるが、EET(例えば、11,12-EET)のナノモル濃度の投与は、外向きK+電流、及び、内向きNa+電流の抑制(阻害)を誘起し、ニューロンにおける細胞膜電位及び分極を有効に変える。従って、EET(又は、他の、P450エポキシゲナーゼ誘導エポキシド)、及び、いくつかの選ばれた共作用類縁体は、ニューロン機能を制御し、疼痛の変調及び治療に寄与する可能性がある。
【0011】
従って、本発明は、第1局面において、下記の構造(化1):
【化1】

を有するAA類縁体であるいくつかの化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩を含む。
上式において、R1は、H、又は、未置換であるか、又は、少なくとも一つのヒドロキシル基によって置換される、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、又はC3-C6シクロアルケニルであり;R2は、H又はC1-C3アルキルであり;若しくは、R1及びR2は、上記R1及びR2に結合する窒素と共にC3-C6ヘテロ環を形成し;
R3は、[化2]又は[化3]であり、
【化2】

【化3】

上式において、
R4は、H、又は、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、又はC3-C6シクロアルケニルであり;R5は、未置換であるか、又は、ヒドロキシル、フェニル、フェニルオキシ、又はフッ素の内の一つ以上によって置換される、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、又はC2-C6アルキルエーテルであり;若しくは、R5は、NR7R8又はC(O)NR7R8であり、式中、R7及びR8は、それぞれ独立に、H、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、又はC3-C6シクロアルケニル基から選ばれ;R6は、H、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、又はC3-C6シクロアルケニル基であり;nは、0、1、又は2である。
【0012】
本発明によって包含される例示化合物として、[化4]に表す化合物が挙げられる。
【化4】

【0013】
本発明による特に好ましい化合物は下記の構造(化5)を有する。
【化5】

【0014】
本発明による化合物は、ある実施態様では、上に記述され特許請求される化合物を、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて含む組成物として提供される。特に好ましい組成物は、注入用剤又は経口用剤の形状を取る。本発明の、ある種の組成物は、水中油乳剤の形で提供されてもよく、一方、別の組成物は、無水の乳剤又は凍結乾燥製剤の形で提供されてもよい。本発明の組成物は、ある種の送達ベヒクル処方において、上記化合物と共にシクロデキストリンを含んでもよい。
【0015】
別の局面では、本発明は、治療対象に鎮痛作用を施すためのキットを包含する。そのようなキットは、上に記述され特許請求される化合物、及び、該化合物を該対象に投与するための送達デバイスを含む。
【0016】
本発明はさらに、治療対象に対し鎮痛治療、特に、治療対象に対し痛みの緩和を実現する方法を提供する。この方法は、治療対象に対し、それによって該対象に鎮痛作用が実施されるよう、上述され特許請求される化合物の治療有効量を投与する工程を含む。投与は、例えば、ボーラス又は連続輸液法による静注、若しくは、錠剤又はカプセルによる経口投与によって実行してもよい。
【0017】
さらに別の実施態様では、本発明は、治療対象において鎮痛作用を実現するための薬剤製造のための、本発明によるAA類縁体の使用を包含する。本発明はさらに、治療対象において鎮痛作用を実現するために使用される本発明の化合物を考慮の対象とする。
【0018】
本発明はさらに、治療対象において解熱する方法を提供する。この方法は、治療対象に対し、上述され特許請求される化合物の治療有効量、すなわち、それによって該治療対象において発熱が緩和される量を投与する工程を含む。もちろん本発明は、治療対象において解熱を実現する薬剤製造のために、本発明の化合物を使用する方法を包含する。
【0019】
別の局面では、本発明は、AA類縁体を供給する方法であって、下記の工程(化6)を含む方法を提供する。
【化6】

【0020】
AA類縁体を供給するもう一つの方法は、下記の工程(化7)を含む。
【化7】

【発明の効果】
【0021】
ここに記述され特許請求される化合物及び方法は、従来の化合物及び方法に比べ、従来の鎮痛剤に見られる副作用を抑えた鎮痛作用を提供するという点で様々な利点を提供する。
【0022】
本発明の他の目的、特色、及び利点は、本明細書、特許請求項、及び図面を参照した後に明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】アセトアミノフェン代謝を示す一般的模式図を示す。
【図2】CMX-020、及び、アセトアミノフェン代謝産物AM404の化学構造を示す。
【図3】化合物CMX-020を含む、本発明の例示AA類縁体を提示する。
【図4】尻尾引っ込み試験で測定した、CMX-020及びモルフィンの用量-反応及び時間プロフィールを示す。
【図5】CMX-020、モルフィン、及びPerfalganについて、ボーラス用量応答及び輸液比較に関わる身もだえ試験データをプロットする。100% MPEでは、よりよく識別されるように、それぞれのグラフは隔てられている。
【図6】LC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)によって測定した、マウスにおけるCMX-020の血漿濃度を示す。
【図7】モルフィンと比較した場合の、化合物CMX-020の、マウスにおける解熱(すなわち、発熱緩和)作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
I.概論
本発明の材料及び方法を記述する前に、本発明は、記述される、特定の方法論、プロトコール、材料、及び試薬に--それらは変動する可能性があるから--限定されないことを理解しなければならない。さらに、本明細書において使用される用語は、特定実施態様の説明のためにのみ使用されるもので、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲はただ、今後出願される非暫定的出願があるならば、ただそれらによってのみ限定される。
【0025】
本明細書及び添付の特許明細書で用いる場合、「ある」及び「一つの」という単数形は、文脈から明らかに別様と指示されない限り、複数の参照を含む。同様に、「一つ」、「一つ以上」、及び「少なくとも一つ」は、本明細書では相互交換的に使用される場合がある。さらに、「含む」、「包含する」、及び「有する」という用語は、相互交換的に使用される場合があることにも注意しなければならない。
【0026】
別様に定義されない限り、本明細書で用いる技術用語及び科学用語は全て、本発明の所属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同じ又は等価的方法及び材料は、いずれのものも、本発明の実行又は試験に使用することが可能であるが、ここでは、好ましい方法及び材料が記載される。本明細書において具体的に引用される刊行物及び特許は全て、本発明に関連して使用されてもよい、刊行物に報告される薬品、装置、統計分析、及び、方法論の記述及び開示を含む全ての目的のために、引用によって本明細書に含められる。本明細書に引用される参考文献は全て、当該技術分野のスキルレベルを示すものと見なすべきである。本明細書に記載されるいかなるものについても、本発明が、先行発明のためにその開示を先行達成する資格を持たないことを許容するものと見なしてはならない。
【0027】
II.本発明
本発明のアラキドン酸(AA)類縁体は、モルフィン及びその他のオピオイド鎮痛剤と同様の鎮痛作用を有する。しかしながら、これらの化合物は、オピオイド鎮痛剤とは異なる作用機序を有する。本発明人らの予備試験から、AA類縁体は、多くの一般的疼痛治療に広く見られる常習的使用による副作用を持たないことが示された。同様に、予備試験結果から、いくつかの異なる送達選択肢、例えば、脳内注入、DRG(後根神経節)注入、腹腔内注入、鼻腔内投与、血液注入、経皮又は経口送達などが可能であることが示された。AAの化学的類縁体は、従来の鎮痛剤よりも持続的な作用を持つように加工し、又は特に持続的作用を送達するように使用することが可能である。AA類縁体をより可溶に、投与をより易しく、及び/又はより安定なものとするのに、リポソーム、ミセル、シクロデキストリン、及び乳化剤を使用することが可能である。本明細書に記載される特に好ましいAA類縁体はCMX-020と表示される。このものは、14,15-EET(エポキシエイコサトリエノイン酸)に化学的に近似する。この14,15-EETは、天然EETの中でももっとも強力な鎮痛剤であることが観察されている。しかしながら、CMX-020は、この天然の14,15-EETよりも、はるかに強力で、持続の長い鎮痛剤である。本発明はさらに、CMX-020を原料とし、鎮痛治療に有用であると予測される化学的変異体(このような例示の化合物が図3に示される)を包含する。CMX-020を含む本発明の化合物はさらに発熱緩和作用を示すので、解熱組成物として、発熱緩和治療にも使用が可能であることが示されている。
【0028】
本明細書で用いる場合、「治療対象」とは、ほ乳類及び非ほ乳類を意味する。「ほ乳類」とは、ほ乳動物綱の任意のメンバー、例えば、ただしこれらに限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、例えば、チンパンジー、及び、その他の類人猿及び猿類;家畜、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、及びブタ;愛玩動物、例えば、ウサギ、イヌ、及びネコ;実験動物、例えば、齧歯類、例えば、ラット、マウス、及びモルモットなどが挙げられる。非ほ乳類動物の例としては、例えば、ただしこれらに限定されないが、鳥類などが挙げられる。「治療対象」という用語は、特定の年齢又は性別を指示するものではない。
【0029】
本明細書で用いる「投与する」又は「投与」とは、それがいずれのものであれ、本発明の化合物を、生体中に、好ましくは循環系に導入するための全ての手段を含む。例としては、ただしこれらに限定されないが、経口、鼻腔内、耳孔内、眼球内、頬内、舌下、肺内、経皮、経粘膜の外、皮下、腹腔内、静脈内、硬膜外、及び筋肉内注入が挙げられる。
【0030】
「治療的有効量」とは、化合物が、障害、病態、又は疾患の治療のために治療対象に投与された場合、該障害、又は病態、又は疾患の治療を実行するのに十分な、該化合物の量を意味する。「治療的有効量」は、化合物、治療される障害、又は病態、又は疾患、治療される障害、又は病態、又は疾患の重度、治療対象の年齢及び相対的健康度、投与ルート及び形態、担当医又は獣医の判断、及びその他の因子に応じて変動することがある。
【0031】
本発明の目的のために、「治療する」又は「治療」とは、疾患、病態、又は障害を克服するための患者の管理及び介護を記載する。これらの用語は、防止的、すなわち、予防治療及び寛解治療の両方を包含する。治療は、症状又は合併症の発症を阻止し、症状又は合併症を緩和し、若しくは、疾患、病態、又は障害を排除するために、本発明の化合物を投与することを含む。
【0032】
化合物は、患者に対し、治療的有効量において投与される。化合物は、単独で投与することも可能であるし、若しくは、薬学的に許容される組成物の一部として投与することも可能である。さらに、化合物又は組成物は、一度に全部、例えば、ボーラス注入によって投与することも、複数回、例えば、一連の錠剤によって投与することも可能であるし、若しくは、ある一定期間事実上均等に、例えば、経皮送達を通じて送達することも可能である。さらに、化合物の用量は経時的に変動させることが可能である。化合物は、急速放出処方剤、調節的徐放処方剤、又はそれらの組み合わせを用いて投与することが可能である。「制御放出(controlled release)」という用語は、持続的放出(sustained release)、遅延放出(delayed release)、及びそれらの組み合わせを含む。
【0033】
本発明の医薬組成物は、バルクとして(in bulk)、単一単位用量として、又は複数単位用量として、調製、包装、又は販売されてもよい。本明細書で用いる場合、「単位用量(unit dose)」とは、所定量の活性成分を含む、個別(discrete)の医薬組成物量である。活性成分の量は、一般に、患者への投与が予想される活性成分用量に等しいか、又は、その用量の好適な分画、例えば、その用量の半分、又は3分の1である。
【0034】
本発明の医薬組成物における活性成分、薬学的に許容可能な担体、及び任意の添加成分の相対量は、治療されるヒトの個性、体格、及び状態に応じて、さらに、該組成物が投与されるルートに応じて変動する。例示として挙げると、組成物は、0.1%から100%(w/w)の活性成分を含むことが可能である。本発明の医薬組成物の単位用量は、一般に、約2ミリグラムから約2グラムの活性成分を含むが、好ましくは、約10ミリグラムから約1.0グラムの活性成分を含む。
【0035】
本発明の別局面は、本発明の医薬組成物及び案内資料(instruction material)を含むキットに関する。案内資料は、本明細書において列挙される目的の一つのヒトにおける達成において本発明の医薬組成物の有用性を告知するために使用される、公刊物、記録、模式図、又は、その他の任意の表現媒体を含む。案内資料はさらに、例えば、本発明の医薬組成物の適正用量を記載してもよい。本発明のキットの案内資料は、例えば、本発明の医薬組成物を含む容器に貼付されてもよいし、若しくは、該医薬組成物を含む容器と共に配送されてもよい。それとは別に、案内資料は、該案内資料と医薬組成物が、受容者によって協調的に使用が可能となるように、容器とは別に輸送されてもよい。
【0036】
本発明はさらに、本発明の医薬組成物、及び、該組成物をヒトに送達するための送達デバイスを含むキットを含む。例示として挙げると、送達デバイスは、ねじ込みスプレーボトル、用量目盛り付きスプレーボトル、エロゾル・スプレーデバイス、噴霧器、乾燥粉末送達デバイス、自己推進型溶媒/粉末散布デバイス、シリンジ、針、タンポン、又は用量測定容器であってもよい。キットはさらに、本明細書に記載される案内資料を含んでもよい。キットはさらに、別々の組成物用の容器、例えば、分割ボトル又は分割フォイルパケットを含む。容器の、さらに別の例としては、シリンジ、箱、バッグなどが挙げられる。典型的には、キットは、別々の成分投与のための指示を含む。このキット形は、別成分が、異なる剤形(例えば、経口及び非経口剤形)として投与されることが好ましい場合、異なる投与間隔で投与される場合、若しくは、その併合薬の個別成分の定量が処方医師によって望まれる場合、特に有利である。
【0037】
キットには、記憶補助(memory aid)を、例えば、錠剤又はカプセルに付随の数字として備えることが好ましい。その場合、数字は、指定されるその錠剤又はカプセルを服用すべき処方日と一致するように選ばれる。このような記憶補助のもう一つの例は、カードに印刷されるカレンダー、例えば、下記:「第1週は月曜、火曜、…;第2週は月曜、火曜、」などである。記憶補助の他の変異例も容易に明らかとなろう。「毎日の用量」は、単一の錠剤又はカプセル、又はいくつかの丸剤であってもよいし、若しくは任意の日に服用すべき複数カプセルであってもよい。
【0038】
本発明の別実施態様では、毎日用量を、その意図される使用順序に従って1回に1用量を調剤するように設計されるディスペンサーが設けられる。このディスペンサーは、投与処方の遵守をさらに促進するよう記憶補助を備えることが好ましい。このような記憶補助の例としては機械的カウンターがある。このものは、これまで服用された毎日用量の数を示す。このような記憶補助の別の例としては、液晶読み取り装置又は記憶呼び覚まし音声信号と結合させた、バッテリー電源マイクロチップメモリーがある。後者は、日々の最終用量を服用した日付を読み出すか、及び/又は、次の用量を服用すべき日付を思い出させる。
【0039】
必要に応じて他の薬学的活性化合物を含む、本発明の化合物は、患者に対し、経口的、直腸的、非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、又は皮下)、脳室内、膣内、腹腔内、膀胱内、硬膜外、耳孔内、眼球内、局所的(例えば、散剤、軟膏、又はドロップス)、又は、頬内又は鼻腔内スプレーとして投与されてもよい。他の考慮の対象とされる処方としては、企図的(projected)ナノ粒子、リポソーム製剤、活性成分を含む封印赤血球(resealed drythrocyte)、及び免疫学的処方薬が挙げられる。
【0040】
医薬組成物の非経口的投与は、ヒトの組織の物理的裂け目(physical breching )によって特徴づけられ、該裂け目を通じて組織に医薬組成物を投与することを含むものであればいずれのものであってもよい。従って、非経口投与は、医薬組成物の注入、外科的切開創を介する組成物の投与、組織侵入性非外科的創傷を介する組成物の投与などによって組成物を投与することを含む。特に、非経口的投与としては、皮下、腹腔内、静脈内、動脈内、筋肉内、又は胸骨内注入、静脈内、動脈内、又は、腎臓透析輸液技術が挙げられる。例えば、本発明の組成物は、治療対象に対し、脳内(vPAG (ventral periaqueductal gray)による)注入、硬膜下腔内注入、腹腔内注入、又は血液注入によって投与することが可能である。
【0041】
非経口投与に好適な組成物は、薬学的に許容可能な担体、例えば、生理学的に許容可能な水性又は非水性滅菌液、分散液、懸濁液、又は乳液と組み合わせて活性成分を含むか、若しくは、滅菌注入液又は分散液として再構成するよう滅菌粉末を含んでもよい。適切な水性及び非水性担体、希釈剤、溶媒、又はベヒクルの例としては、水、等張生理的食塩水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールなど)、それらの適切な混合物、トリグリセリド、例えば、オリーブ油などの植物油、又は、エチルオレエートなどの注入可能な有機エステルが挙げられる。適度の流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合には必要粒径の維持、及び/又は、界面活性剤の使用によって維持することが可能である。このような処方は、ボーラス投与又は連続投与に相応しい形態において、調製、包装、又は販売することが可能である。注入処方は、アンプルなどの単位剤形として、若しくは、防腐剤を含む複数用量容器において、若しくは、自己注入又は投薬実行者による注入用の一回使用デバイスとして調製、包装、又は販売することが可能である。
【0042】
非経口投与用処方としては、懸濁液、溶液、油性又は水性ベヒクル中の乳液、ペースト、及び、埋設可能な、持続放出性又は生分解性処方が挙げられる。これらの処方はさらに、一つ以上の追加成分、懸濁剤、安定剤、又は分散剤などを含んでもよい。非経口投与用処方の一実施態様では、活性成分は、組成物の非経口投与の前に、適切なベヒクル(例えば、発熱因子非含有滅菌水)によって再構成されるよう、乾燥形態(すなわち、粉末又は顆粒)として準備される。
【0043】
医薬組成物は、注入可能な、滅菌性の、水性又は油性(乳液)の懸濁液又は溶液の形で調製、包装、又は販売することが可能である。この懸濁液又は溶液は、従来技術にしたがって処方されてもよく、且つ、活性成分の外に、追加の成分、例えば、本明細書に記載される分散剤、湿潤剤、又は懸濁剤を含んでもよい。これらの滅菌注入用処方は、無毒な、非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒、例えば、水又は1,3-ブタンジオールを用いて調製することが可能である。他の許容可能な希釈剤及び溶媒としては、リンゲル液、塩化ナトリウム等張液、及び、合成モノ又はジ-グリセリドなどの固定油が挙げられる。他の、非経口的に投与可能な有用処方としては、活性成分を、微結晶形として、リポソーム製剤の中に、又は、生分解性ポリマーシステムの一成分として含む処方が挙げられる。持続放出すなわち埋設用の組成物は、薬学的に許容可能なポリマー又は疎水材料、例えば、乳液、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、又は難溶性塩を含んでもよい。
【0044】
本発明による化合物はさらに、防腐、湿潤、乳化、及び/又は分散剤などのアジュバント、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含んでもよい。それはさらに、等張剤、例えば、糖類、塩化ナトリウムなどを含むことが望ましい場合がある。注入性医薬組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせることが可能な薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及び/又はゼラチンを用いることによって実現することが可能である。特に、本発明の化合物を送達のためにより可溶とするために、リポソーム、マイソーム、及び乳化剤を使用してもよい。
【0045】
剤形は、固形又は注入可能なインプラント剤又はデポ剤を含んでもよい。好ましい実施態様では、インプラント剤は、有効量の活性剤及び生分解性ポリマーを含む。好ましい実施態様では、適切な生分解性ポリマーは、ポリアスパルテート、ポリグルタメート、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D,L-アクチド)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ無水物、ポリ(ベータ-ヒドドロキシブチレート)、ポリ(オルソ-エーテル)、及びポリフォスファゼンから成る群から選ぶことが可能である。別の実施態様では、インプラント剤は、有効量の活性剤、及びシリコンポリマーを含む。このインプラント剤は、約1週間から数年の長期に亘って有効量の活性剤の放出を実現する。
【0046】
経口投与用の固形剤形としては、カプセル、錠剤、散剤、及び顆粒剤が挙げられる。このような固形剤形では、活性化合物は、少なくとも一つの、不活性な、常套的賦形剤(又は担体)、例えば、クエン酸ナトリウム、リン酸二カルシウムなど、又は、(a)充填剤又は増量剤、例えば、澱粉、ラクトース、スクロース、マンニトール、又はケイ酸;(b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニールピロリドン、スクロース、又はアカシア;(c)湿潤剤、例えば、グリセロール;(d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカ澱粉、アルギン酸、ある種のケイ酸複合体、又は炭酸ナトリウム;(e)溶解遅延剤、例えば、パラフィン;(f)吸収加速剤、例えば、四級アンモニウム化合物;(g)濡らし剤、例えば、セチルアルコール、又はグリセロールモノステアレート;(h)吸着剤、例えば、カオリン又はベントナイト;及び/又は、(i)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール固形物、ラウリル硫酸ナトリウム、又はそれらの混合物と混ぜ合わされる。カプセル及び錠剤の場合、投与剤形はさらに、バッファー剤を含んでもよい。
【0047】
活性成分を含む錠剤は、例えば、該活性成分を、必要に応じて一つ以上の追加成分と共に成形することによって製造することが可能である。圧縮錠剤は、適切なデバイスにおいて、粉末又は顆粒状調剤などの自由に流動的な活性成分を、必要に応じて、結合剤、潤滑剤、賦形剤、界面活性剤、及び分散剤の内の一つ以上と混ぜ合わせて圧縮することによって調製することが可能である。成形錠剤は、適切なデバイスにおいて、活性成分及び薬学的に許容可能な担体の混合物と、少なくとも該混合物を湿らすのに十分な量の液体とを成形することによって製造することが可能である。
【0048】
錠剤製造に使用される薬学的に許容可能な賦形剤は、不活性希釈剤、顆粒化剤及び崩壊剤、結合剤、及び潤滑剤を含む。公知の分散剤としては、ジャガイモ澱粉、及び澱粉グリコール酸ナトリウムが挙げられる。公知の界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。公知の希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、微細結晶セルロース、リン酸カルシウム、水素リン酸カルシウム、及びリン酸ナトリウムが挙げられる。公知の顆粒化及び崩壊剤としては、コーン澱粉及びアルギン酸が挙げられる。公知の結合剤としては、ゼラチン、アカシア、あらかじめゼラチン化されたメイズ澱粉、ポリビニールピロリドン、及びヒドロキシメチルセルロースが挙げられる。公知の潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリカ、及びタルクが挙げられる。
【0049】
錠剤は、コート被覆されなくてもよいし、若しくは、ヒトの消化管において崩壊遅延をもたらすよう、公知の方法を用いてコート被覆し、活性成分の持続放出(徐放性)及び吸収を実現するようにしてもよい。例示として挙げると、錠剤をコートするには、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの材料を使用することが可能である。さらに例示として挙げると、錠剤は、浸透圧による放出制御錠剤を形成するには、米国特許第4,256,108; 4,160,452; 及び4,265,874号に記載される方法を用いてコートすることが可能である。錠剤はさらに、薬学的に優美で、飲みやすい調剤を提供するよう、甘味剤、芳香剤、着色剤、防腐剤、又はそれらのいくつかの組み合わせを含んでもよい。
【0050】
錠剤、糖剤、カプセル、及び顆粒などの固形剤形は、コーティング又はシェル、例えば、腸溶コーティング、及び従来技術で公知の他のコーティング付きで調製することが可能である。それらはさらに、不透明剤を含んでもよく、又は、単一の、又は複数の活性化合物を遅延的に放出するような組成を有していてもよい。使用が可能な埋設組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスがある。活性化合物はさらに、適切であれば、上述の賦形剤の内の一つ以上と共に微少封入形状を取ってもよい。
【0051】
同様のタイプの固形組成物はさらに、軟質又は硬質の充填ゼラチンカプセルにおいて、ラクトース又は乳糖などの賦形剤の外、高分子量のポリエチレングリコールなどによる充填剤として使用してもよい。活性成分を含む硬質カプセルは、ゼラチンなどの生理学的に分解可能な組成物を用いて製造することが可能である。そのような硬質カプセルは、活性成分を含むが、さらに追加の成分、例えば、不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又はカオリンなどの成分を含むことが可能である。活性成分を含む軟質ゼラチンカプセルは、ゼラチンなどの生理学的に分解可能な組成物を用いて製造することが可能である。このような軟質カプセルは活性成分を含むが、該活性成分は、水、又は、ピーナツ油、液体パラフィン、又はオリーブ油などの油状媒体と混ぜ合わせることが可能である。
【0052】
経口組成物は、ヒトの患者の小腸又は大腸において経口投与剤を特異的に放出する公知技術を用いて製造することが可能である。例えば、結腸を含む消化管への送達用処方は、例えば、ポリ(メタクリル酸、メチルメタクリレート)などのメタクリレートコポリマーを主原料とする腸溶コート・システム--該コポリマーは、pH6以上で始めて可溶となるので、該ポリマーは、小腸に進入して始めて溶解を始める--を含む。このポリマー処方が崩壊する部位は、小腸移送速度及び存在するポリマー量に依存する。近位結腸へ送達するには、例えば、比較的分厚いポリマーコーティングを使用する(Hardy et al., Aliment. Pharmacol. Therap. (1987) 1:273-280)。部位特異的結腸送達を実現することが可能なポリマーを使用することも可能である。その場合、ポリマーは、該ポリマーコートの酵素的崩壊を実現し、従ってその薬剤の放出を実現するのに大腸の細菌叢に依存する。そのような処方では、例えば、アゾポリマー(米国特許第4,663,308号)、グリコシド(Friend et al., J. Med. Chem. (1984) 27:261-268)、及び、各種天然及び人工的改変ポリサッカリド(PCT出願、PCT/GB89/00581)を用いることが可能である。
【0053】
さらに、米国特許第4,777,049号に記載されるもののようなパルス放出技術を用いて、消化管内部の特定部位に活性剤を投与することも可能である。このシステムは、指定時間の薬剤送達を可能とし、活性成分を、必要に応じて、薬剤安定性と取り込みを促進するよう局所的微少環境を変えることが可能な他の添加剤と共に、インビボ放出の際に供給する水の存在を除いては外部条件に依存することなく、送達するために使用することが可能である。
【0054】
経口投与用液体剤形としては、薬学的に許容可能な乳剤、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシルが挙げられる。この液体剤形は、活性化合物の外、当該技術分野において一般的に使用される不活性希釈剤、例えば、水又は他の溶媒、等張生理的食塩水、可溶化剤、及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルフォルムアミド、油状物、特に、アーモンド油、アラキス油、ココナツ油、綿実油、落花生油、コーン胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、ごま油、MIGLYOL(商標)、グリセロール、分割植物油、鉱油、例えば、液体パラフィン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタンの脂肪酸エステル、又は、これらの物質の混合物などを含んでもよい。
【0055】
このような不活性希釈剤の外、本発明の化合物はさらに、アジュバント、例えば、湿潤剤、乳化及び懸濁剤、粘滑(粘膜の痛みを緩和する)剤、防腐剤、バッファー、塩、甘味剤、芳香剤、着色剤、及び香料を含んでもよい。懸濁液は、活性剤の外に、懸濁剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール、又はソルビタンエステル、微細結晶セルロース、水素添加食用脂肪、アルギン酸ナトリウム、ポリビニールピロリドン、トラガカントゴム、アカシアゴム、寒天、及びセルロース誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、又はこれらの物質の混合物などを含んでもよい。経口投与に好適な本発明の医薬組成物の液体処方は、液体形状として、若しくは、服用前、水又は他の適切なベヒクルによる再構成が意図される乾燥製剤の形状として調製、包装、及び販売されてもよい。
【0056】
公知の分散又は湿潤剤としては、レシチンなどの天然フォスファチド、長鎖の脂肪族アルコールを有するアルキレンオキシドと脂肪酸の縮合産物であって、脂肪酸とヘキシトールから誘導される部分的エステル、又は、脂肪酸及び無水ヘキシトールから誘導される部分的エステル(例えば、それぞれ、ポリオキシエチレンステアレート、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、及び、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)を有する産物が挙げられる。公知の乳化剤としては、レシチン及びアカシアが挙げられる。公知の防腐剤としては、メチル、エチル、又はn-プロピル-パラ-ヒドロキシベンゾエート、アスコルビン酸、及びソルビン酸が挙げられる。公知の甘味剤としては、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、スクロース、及びサッカリンが挙げられる。懸濁液専用の、公知の増粘剤としては、例えば、蜜蝋、硬質パラフィン、及びセチルアルコールが挙げられる。
【0057】
水性又は油性溶媒における活性成分の溶液は、液体懸濁液と事実上同じやり方で調製することが可能であり、主な違いは、活性成分が、溶媒に懸濁されるのではなく溶解されることである。本発明の医薬組成物の溶液は、液体懸濁液に関連して上述した各成分を含むことが可能であるが、懸濁剤は、溶媒に対する活性成分の溶解を必ずしも支援しないことを理解しなければならない。水性溶媒としては、例えば、水及び等張生理的食塩水が挙げられる。油状溶媒としては、例えば、アーモンド油、油状エステル、エチルアルコール、アラキス、オリーブ、胡麻などの植物油、又はココナツ油、分割植物油、及び、液体パラフィンなどの鉱油が挙げられる。
【0058】
本発明の組成物はさらに、活性製薬成分の水溶性の向上、薬剤放出の延長、及び錠剤特徴の改善のために、シクロデキストリン成分を含んでもよい。一般に、グルコースの環状構造オリゴマー(「シクロデキストリン」)は、ある種の細菌の澱粉消化物から得られる。もっとも豊富なシクロデキストリンは、それぞれ、6、7、及び8個のグルコース単位を有するアルファ、ベータ、及ガンマシクロデキストリンである。シクロデキストリンの内腔は疎水性であり、該分子の露出表面は親水性である。シクロデキストリンは、活性製薬成分の安定性、水溶性を強化し、揮発性を抑えることが知られる。市販のシクロデキストリン又はその誘導体の例を二三挙げると、下記:アルファ-シクロデキストリン(CAS#: 10016-20-3);(2-ヒドロキシプロピル)-アルファ-シクロデキストリン(CAS#: 128446-33-3);ベータ-シクロデキストリン(CAS#: 7585-39-9);6-O-アルファ-D-グルコシル-ベータ-シクロデキストリン(CAS#: 92517-02-7);ガンマ-シクロデキストリン(CAS#: 17465-86-0);及び(2-ヒドロキシプロピル)-ガンマ-シクロデキストリン(CAS#: 128446-34-4)となる。本発明の化合物を投与するための送達ベヒクルの処方に特に有用なシクロデキストリンとしては:Cydex Pharmaceuticals社からCAPTISOLという商標の下に販売されるスルフォブチルエーテルベータ-シクロデキストリン(SBE-ベータ-CD)、及び、Roquette PharmaからKLEPTOSEという商標の下に販売されるヒドロキシプロピルベータシクロデキストリンが挙げられる。例示の静注処方には、0.9%の塩化ナトリウムを含む生理的食塩水において、450 mg/mLのCAPTISOLシクロデキストリン、及び、1.5mg/mLの、本明細書に記載され特許請求されるCMX-020と表示される化合物が処方されてもよい。
【0059】
直腸又は膣内投与用組成物は、本発明の化合物及び任意の追加化合物を、適切な非刺激性賦形剤又は担体、例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、又は坐剤ワックスと、すなわち、常温では固体であるが、体温では液体となり、従って、直腸又は膣腔では融解して活性成分を放出する賦形剤又は担体と混ぜ合わせることによって調製することが可能である。この組成物は、例えば、坐剤、保持型浣腸剤、及び、直腸又は結腸浣腸用溶液の形状を取ることも可能である。坐剤処方はさらに、各種追加成分、例えば、抗酸化剤及び防腐剤などを含むことが可能である。保持型浣腸剤及び直腸又は結腸浣腸用溶液は、活性成分を、薬学的に許容可能な液体担体と組み合わせることによって製造することが可能である。当該技術分野で公知なように、浣腸剤は、ヒトの直腸形態に適応される送達デバイスを用いて投与し、該デバイス内に納めて包装することが可能である。浣腸剤はさらに、抗酸化剤及び防腐剤を含む、各種追加成分を含むことが可能である。
【0060】
本発明の医薬組成物は、膣内投与に好適な処方として調製、包装、又は販売することが可能である。このような組成物は、例えば、坐剤、含浸又はコート被覆膣内挿入材料、例えば、タンポン、灌注剤、又は、膣灌水用溶液の形状を取ってもよい。これらの化合物は、滅菌下に、生理学的に許容可能な担体、及び、必要に応じて、任意の防腐剤、バッファー、及び/又は推進剤と共に混ぜ合わされる。局所投与に好適な処方としては、液体又は半液体の調剤、例えば、塗布剤、ローション、水中油又は油中水乳剤、例えば、クリーム又はペースト、及び溶液及び懸濁液が挙げられる。局所投与が可能な処方は、例えば、約0.1%から約10%(w/w)の活性成分を含むことが可能であるが、ただし、活性成分の濃度は、溶媒における該活性成分の可溶性限界と同程度である。局所投与が可能な処方はさらに、本明細書に記載される、さらに別の成分の内の一つ以上を含むことが可能である。
【0061】
眼科処方、眼科軟膏、散剤、及び溶液も、本発明の範囲内にあるものとして考慮の対象とされる。このような処方は、例えば、点眼剤、例えば、水性又は油性の液性担体において0.1-1.0%(w/w)の活性成分の溶液又は懸濁液を含む点眼剤の形状を取ってもよい。このような点眼剤はさらに、バッファー剤、塩、又は、本明細書に記載される別成分の内の一つ以上を含んでもよい。別の実施態様では、眼球に投与が可能な処方は、微細結晶形状又はリポソーム製剤の中に活性成分を含む。
【0062】
肺送達のために処方される本発明の医薬組成物は、活性成分を、溶液又は懸濁液の液滴形状において供給することが可能である。このような処方は、必要に応じて滅菌され、活性成分を含む、水性又はアルコール希釈液又は懸濁液として調製、包装、又は販売されてもよく、任意の噴霧又は微粒化デバイスによって好適に投与することが可能である。このような処方はさらに、一つ以上の追加成分、例えば、サッカリンナトリウムなどの芳香剤、揮発油、バッファー剤、界面活性剤、又は、メチルヒドロキシベンゾエートなどの防腐剤を含むことが可能である。この投与ルートによって供給される微粒滴は、約0.1から約200ナノメートルの範囲の平均直径を有することが好ましい。
【0063】
本発明の医薬組成物は、頬内投与に好適な処方として調製、包装、又は販売することが可能である。このような処方は、例えば、通例法によって製造される錠剤又はロゼンジの形状を取ってもよく、経口的に溶解又は分解可能な組成物を含むようにバランスされた0.1から20%(w/w)の活性成分と、必要に応じて、本明細書に記載される追加成分の一つ以上を含んでもよい。それとは別に、頬内投与に好適な処方は、活性成分を含む粉末、又は、エロゾル化又は噴霧化される溶液又は懸濁液を含んでもよい。このような粉末状、エロゾル化、又は噴霧化処方は、分散されると、約0.1から約200ナノメートルの範囲の平均粒径又は液滴径を有することが好ましく、さらに、本明細書に記載される追加成分の一つ以上を含んでもよい。
【0064】
本発明の化合物は、非ヒト動物における非経口投与のために、ペースト又はペレットの形に調製され、インプラントとして、通常、該動物の頭部又は耳の皮下に投与されてもよい。ペースト処方は、一つ又は複数の化合物を、ピーナツ油、胡麻油、コーン油などの薬学的に許容可能な油の中に分散させることによって調製することが可能である。治療的有効量の、一つ又は複数の化合物を含むペレットは、該化合物を、カルボワックス、カルナウバワックスなどの希釈剤と混ぜ合わせて調製することが可能であり、且つ、ペレット形成プロセスを促進するために、ステアリン酸マグネシウム又はカルシウムなどの潤滑剤を加えることが可能である。所望の用量レベルを実現するために、動物に対し、一つを超える数のペレットを投与してもよいことは言うまでもない。さらに、このようなインプラントは、動物の体内で適切な活性成分レベルを維持するために、該動物の治療期間の間定期的に投与されてもよいことが見出されている。
【0065】
本発明の化合物、及び、薬学的に許容可能なその塩は、1日当たり約0.01から1,000 mgの範囲の用量レベルで患者に投与することが可能である。約70 kgの体重を有する正常な成人ヒトの場合、典型的には、約0.01から300 mgの範囲の用量で十分であり、1-10 mgが好ましい用量である。しかしながら、全体用量範囲において、治療される対象の年齢及び体重、意図される投与ルート、投与される特定化合物などに応じて若干の変動が必要とされる場合がある。ある特定患者に対する用量範囲及び最適用量の決定は、十分に、本開示の利点に浴する当業者の能力範囲の中にある。さらに、本発明の化合物は、持続放出、制御放出、及び遅延放出処方--その形状は当業者に周知される--において使用することが可能である。
【0066】
本発明の化合物が、直接、細胞に、該細胞を含む組織に、該細胞に接する体液に、又は、該化合物がそれから細胞に向かって拡散するか、又は運ばれる生体内部位に投与されるかどうかは、結果を左右するほど決定的ではない。化合物は、細胞中の脂質を移動させるのに十分な量が、直接・間接に該細胞に到達することを可能とする量及びルートを通じて投与されれば十分である。最少量は、化合物の本体に応じて変動する。
【0067】
使用が可能な特定用量及び用量範囲は、いくつかの因子、例えば、患者の要求、治療される病態の重度、投与される化合物の薬理学的活性などに依存する。ある特定患者に対する用量範囲及び最適用量の決定は、十分に、本開示を参照する当業者の通常能力の範囲内にある。通常の技能を持つ医師、歯科医、又は獣医であれば、患者において脂質蓄積を移動し、減量を誘発し、又は食欲を抑制するのに有効な本化合物の量を、容易に決定し、処方するであろうと了知される。そのような治療の進行中、医師又は獣医は、例えば、最初は比較的低用量を処方し、次いで用量を増していき、最終的に適切な応答が得られるレベルに達することが可能である。一方、ある特定のヒトのための特定用量レベルは、様々な因子、例えば、用いられる特定化合物の活性、該ヒトの年齢、体重、一般的健康、性別、及び食餌など、投与時間、投与ルート、排泄速度、併用薬剤があればその薬剤、及び、治療される障害の重度などの因子に依存することを理解しなければならない。
【0068】
本発明の化合物は、製薬注入可能用量として、例えば、本明細書に記載され、特許請求される化合物を、注入可能な担体システムと組み合わせて含む用量として処方されると特に有用である。本明細書で用いる場合、注入及び輸液剤形(すなわち、非経口投与剤形)としては、例えば、ただしこれらに限定されないが、リポソーム注入剤、活性薬剤物質を封入する、リン脂質含有脂質二重層ベジクルが挙げられる。注入剤は、非経口的使用が意図される滅菌調剤を含む。
【0069】
USP(米国薬局方)の定義によると、注入剤には、五つの異なるクラスがある:乳剤、液体、散剤、溶液、及び懸濁液である。乳剤注入剤は、非経口的投与が意図される、滅菌された、発熱物質非含有調剤を含む乳剤を含む。溶液注入のための液体複合体及び散剤は、非経口用溶液形成のための再構成が意図される滅菌調剤である。懸濁注入用散剤は、非経口用懸濁液形成のための再構成が意図される滅菌調剤である。リポソーム性懸濁注入剤のために凍結乾燥される散剤は、非経口用溶液形成のための再構成が意図される滅菌調剤であり、その場合、該調剤は、リポソームの取り込みを可能とするやり方で、例えば、脂質二重層又は水性空間内に活性薬剤物質を封入するように使用されるリン脂質を有する、脂質二重層ベジクルとして処方され、該処方は再構成時に形成されてもよい。溶液注入用に凍結乾燥される散剤は、「凍結乾燥」によって溶液の調製が意図される剤形であって、その工程は、極端な低圧下の凍結状態において製剤から水分を除去することを含み、その後の液体添加によって、全ての点において注入剤の要求に合致する溶液が産み出される。懸濁注入のために凍結乾燥される散剤は、適切な液体媒体に懸濁される固形物を含む、非経口服用が意図される液体調剤であって、懸濁用を意図される薬剤が凍結乾燥によって調製されるよう、全ての点で滅菌懸濁液の要求に合致する。溶液注入剤は、適切な一溶媒、又は、注入に好適な、互いに混和可能な複数の溶媒の混合物に溶解される、一つ以上の薬剤物質を含む液体調剤を含む。高濃度液体注入剤は、非経口服用のための滅菌調剤であって、適切な溶媒を添加すると、全ての点で注入剤要求に合致する溶液を生成する。懸濁注入剤は、液相全体に分散される固体粒子を含む液体調剤(注入に好適な)を含み、その場合、該粒子は液相に不溶であり、油相は水相全体に分散されるか、若しくは、その逆となる。リポソーム懸濁注入剤は、水相全体に油相が分散される液体調剤(注入に好適)であって、分散は、リポソーム(脂質二重層か、水相空間のいずれかの中に活性薬剤物質を封入するように使用されるリン脂質を通常含む脂質二重層ベジクル)が形成されるように行われる。超音波処理懸濁注入剤は、液相全体に分散される固体粒子を含む液体調剤(注入に好適)であって、分散は、該粒子が不溶となるように行われる。さらに、製剤は、気体を懸濁液中に通気し、固体粒子による微少球形成を誘起する際超音波処理してもよい。
【0070】
この非経口担体システムは、一つ以上の薬学的に適切な賦形剤、例えば、溶媒及び共溶媒、可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤、増粘剤、乳化剤、キレート剤、バッファー、pH調整剤、抗酸化剤、還元剤、抗菌性防腐剤、バルク剤、保護剤、浸透圧調整剤、及び特別添加物を含む。
【0071】
本発明はさらに、本明細書に記載され、特許請求される化合物と、麻酔剤の両方を含む、製薬併合組成物の処方を考慮の対象とする。このような組成物は、例えば、ただしこれらに限定されないが、全身麻酔、人工呼吸下の治療対象の鎮静、及び処置としての鎮静を含む医学的処置に有用である。一般に、「麻酔剤」とは、治療対象に麻酔状態をもたらす薬剤である。しかしながら、現今、多くの麻酔剤は無意識状態を創り出すものの、それらは鎮痛作用を与えないので、他の薬剤と組み合わせて使用しなければならない。例えば、プロポフォルは、50を超える国々で承認され、ジェネッリク版薬品も市販されている。プロポフォルは、併合的麻酔作用及び疼痛緩和を実現するために、オピオイド、例えば、フェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル、及びスフェンタニルと組み合わせて規則的に投与される。了解されるように、本発明の化合物は、麻酔/鎮痛併用処方剤において、このようなオピオイド鎮痛剤に代わるものとして、及び、関連医学処置で使用するのに好適である。本発明の化合物と組み合わせて、各種麻酔剤の使用が可能であり、例えば、バルビツレート、ベンゾジアゼピン、エトミデート、ケタミン、及びプロポフォルなどの静注剤が用いられる。一実施態様では、CMX-020と表示される鎮痛化合物は、麻酔及び鎮痛の両作用を実現する静注投与処方を実現するために、医薬組成物においてプロポフォルと組み合わされる(Astra ZenecaからDIPRIVANという商標の下に市販される)。
【0072】
これから、下記の実施例において、本発明による種々の例示的組成物及び方法を記載する。これらの実施態様では、アラビア数字(例えば、1、2、3など)によって特定される具体的製剤は、下記の説明において特定される具体的構造を指す。下記の実施例は、例示目的のためにのみ提示されるものであって、いかなる意味でも本発明の範囲を限定することを意図するものではない。実際、図示し本発明に記載するものの外に、本発明の様々な改変が、当業者には、前述の説明及び下記の実施例から明白となろうが、それらは、添付の特許請求項の範囲内に納まるものである。
【実施例1】
【0073】
CMX-020の特徴説明
本実施例は、図2において、AM404と同様に描かれる化合物CMX-020の特徴を記述する。
【0074】
CMX-020結合アッセイ結果 CMX-020を、Cerep Full BioPrint Profileで試験した。これは、158種の異なるインビトロ受容体結合及び酵素アッセイのパネルである。最初のBioPrintスクリーンでは、10 μM濃度--これは、マウスでは2.5 mg/kgのボーラス用量に相当する--の遊離化合物を用いた。注入されると、CMX-020液体治療剤は、血漿又は血清タンパクに部分的に結合する;我々の分析もほぼ99%のCMX-020が結合することを示した。従って、2.5 mg/kgのボーラス用量は、0.1 μMの遊離化合物濃度と等価であると考えられる。このBioPrintアッセイでは、10 μMのCMX-020濃度において50%を超える阻害を示す受容体結合又は酵素アッセイ結果を持つものを全て選出し、その後のIC50分析に用いた。下の表1は、Cerep BioPrint Profileにおいて、50%を超える阻害を有する全ての受容体を、そのIC50濃度と共に示す。
【表1】

【0075】
依存性及び常習性に与る受容体 このBioPrintアッセイでスクリーニングした158種の受容体及び酵素の内、依存性及び常習パネルへの関与に関して53種がCerepによって選出された(下記の受容体・酵素カテゴリー表を参照されたい)。依存性及び常習に関与する、この53種の受容体及び酵素の中で、CMX-020は、カンナビノイド(canabinoid)及びオピオイド受容体においてのみ有意な阻害を示した。依存性及び常習におけるこれらの受容体の役割は下記に論じられる。
【0076】
依存性及び常習におけるCB1受容体 CB1カンナビノイド受容体に対する天然リガンド、アナンダミド及び2-アラキドニルグリセロールは、報酬、記憶、認識、痛みの知覚などの神経系機能に影響を及ぼすことはよく知られる。依存性及び常習性におけるCB1受容体の認められた役割は、主に、大衆的娯楽薬剤であるマリファナの活性剤であるΔ9-THCによって駆動される。Δ9-THCは、二つのやり方で、すなわち、CB1受容体に対する天然リガンドを模倣すること、及び、ドーパミンレベルの上昇を引き起こすことによって、依存性又は常習性を産み出すと考えられている。しかしながら、他のドラッグによる依存性及び常習性と比較すると、マリファナは、オピオイド(例えば、モルフィン、ヘロイン)、コカイン、又はアルコールと同じレベルのリスクを呈することはない。オピオイド、コカイン、及びアルコールと違って、マリファナの過剰投与にはほとんど危険が無い。さらに、マリファナによる依存性の発達は、ニコチン及びコカインよりもはるかに支配的ではない。CMX-020は強力なCB1受容体アゴニストではあるが、それは、ドーパミンレベルを上げないという点でΔ9-THCとは異なる。すなわち、CMX-020は、ティレノール中の活性成分で、CB1及びTRPV1二つのアゴニストであり、依存性及び常習性において目立ったリスクを持たないAM404により近似する。
【0077】
依存性及び常習性におけるκ-オピオイド及びδ-オピオイド オピオイド受容体μ、κ、δ(ミュー、カッパ、及びデルタ)は、中枢神経系に見出されるGタンパク結合受容体である。疼痛管理に使用される従来の多くのオピオイド、例えば、モルフィン及びフェンタニルを始め、極めて常習性の高いオピオイドヘロインなどは、μ-オピオイド受容体アゴニストである。興味あることに、モルフィンの常習性は、μ-オピオイド受容体を欠如するマウスでは完全に排除される。従って、このμ-オピオイド受容体が、モルフィン、及び、疼痛管理に使用される他の多くの従来のオピオイドにおける常習作用の原因である。上のCMX-020結合アッセイ表が示すように、CMX-020は、κ-オピオイド受容体及びδ-オピオイド受容体の活性アゴニストではあるが、μ-オピオイド受容体に対してはそうではない。報酬及び常習性におけるδ-オピオイド受容体の役割は依然として十分には理解されていないけれども、δ-オピオイド受容体がオピオイドの報酬及び常習性に関与することを示す証拠は得られつつある。従って、CMX-020は、比較的弱いδ-オピオイドアゴニストである--δ-アゴニストとしてのそのIC50濃度は、δ-アゴニストとしてのその値よりもほぼ3x低い。一方さらに、κ-オピオイド受容体活性化は、忌避状態を産み出すことが示され、これは、依存性及び常習性というδ-介在性の、低レベルではるが、有害なリスクを抑えると考えられる。
【0078】
完全BioPrintプロフィール(Cerep)におけるCMX-020のスクリーニング結果から、依存性及び常習性に関する重要な情報が得られる。CMX-020に関する重大な関心事は、カンナビノイド及びオピオイドアゴニスト活性であろう。CMX-020は強力なCB1作用剤であるが、それは、Δ9-THCのようにドーパミンレベルを上げることはしない。CMX-020がさらにCB1及びTRPV1活性を有することを考え合わせると、CMX-020は、見かけ上依存性及び常習性の危険性がないことが判明しているティレノールの活性成分AM404に近似すると考えられる。CMX-020はさらに、κ-オピオイド及びδ-オピオイド受容体に対しアゴニスト活性を示す。この組み合わせは、疼痛治療用の、従来のμ-オピオイドに取って代わる、ユニークな非習慣性薬剤を構成することを窺わせる。
【0079】
下記の表2は、依存及び常習に与るCerep BioPrint受容体及び酵素において、CMX-020を用いてスクリーニングされたが活性を持たない受容体を提示する。
【表2】

【実施例2】
【0080】
CMX-020及び静注/経口処方の鎮痛作用
本発明人らの研究によれば、CMX-020は、従来のオピオイド、すなわち単独型鎮痛剤に対する補助剤として使用が可能な、作用の速やかな静注鎮痛剤である。化学的には、これは、生体が痛みを制御するために使用するアラキドン酸から誘導される、一組の脂質介在因子の、構造的にきわめて近似する類縁体である。アセトアミノフェン同様、CMX-020の鎮痛作用も、CB1及びTRPV1受容体を介して誘起されるように見える。AM404の、CMX-020との並列比較から、CMX-020の方が、毒性作用が無く、より強力な鎮痛剤であることが明らかにされた。CMX-020は、アセトアミノフェンの毒性作用を持たないので、より高い毎日用量が可能である。より高い用量が使用されると、その鎮痛作用はモルフィンと同じになる。
【0081】
CMX-020は、水に対しきわめて僅かに可溶であり、従って、白色不透明な水中油乳液として処方される。本明細書に記載される通り、バルク量として製造されると、それは、10 mg/mlのCMX-020を含む。活性成分CMX-020の外に、好ましい等張処方はさらに、重量で、大豆油(10%)、グリセロール(2.25%)、Tween 80(0.61%)、水素添加リン脂質(0.49%)、及びエデト酸二ナトリウム(0.005%)を含み;さらにpH調整のために水酸化ナトリウムを含有する。注入用乳剤として提供されるCMX-020は等張であり、7-8.5のpH を有する。CMX-020の構造式はC26H44N2Oである(化8)。
【化8】

【0082】
CMX-020の鎮痛特性の正確な機序はまだ確立されていないが、ここでは、一操作方式が採用されているのではないことは確かである。しかしながら、アセトアミノフェンと違って、CMX-020の作用は、一部は、カンナビノイド及びバニロイド受容体を通じて仲介されるようである。CB1及びカンナビノイド及びTRPV1バニロイド・ノックアウトマウス(共にホモ接合体)を用いた実験では、CMX-020の作用は、両方で変更されるが、CB1カンナビノイドノックアウトマウスでは、CMX-020の鎮痛作用はほぼ完全にブロックされることが示された。さらに、この機序はユニークで、モルフィン、フェンタニル、及びNSAIDとは異なるようである。
【0083】
注入用乳剤(1 mg/mL)として提供されるCMX-020は、モルフィン様の性能を示す、即効性静注疼痛治療剤であり、高度の鎮痛作用を発揮するが、このことは、用量定量分析によって定めることが可能である。CMX-020は、見かけ上、アセトアミノフェンよりも強力な鎮痛剤であり、アセトアミノフェンを肝臓に対して有毒なものとするAPI化学成分を持たない。従って、CMX-020は、アセトアミノフェンに対する代替薬、オピオイド省略治療、又はオピオイド代行剤として機能することが可能である。治療用量のCMX-020の静脈注入は、急速に、通常、注入開始から3-5分以内に、鎮痛作用を発揮し、これが、鎮痛の急速誘発の原因である。
【0084】
注入用溶液として提供されるCMX-020は、ボーラス注入又は輸液後3-5分以内に疼痛緩和の開始を実現するので、穏やかな、中等度の、又は重度の急性疼痛に適切である。ボーラス注入による作用の持続時間は20-30分である。連続輸液を用いると、持続的鎮痛作用が確立される。鎮痛作用のレベルは、用量滴定によって調整することが可能である。持続的無痛レベルは、48時間以上維持することが可能である。具体的応用としては、手術後の急性疼痛管理;破綻出血時の疼痛管理;集中治療室;急性外傷;患者制御型静注鎮痛処置;及び、終末期疼痛コントロールが挙げられる。
【0085】
CMX-020注入用溶液はさらに、疼痛緩和及び麻酔剤の補助として、手術又は歯科処置の際患者に投与してもよい。CMX-020注入用溶液はさらに、投与開始後30分以内に発熱を下げ、この解熱作用の持続時間は、投与終了後、少なくとも2時間である。
【0086】
本発明人らによって、CMX-020について、アセトアミノフェン及びモルフィンと等価な用量及び鎮痛作用が定量された。鎮痛作用の相対レベルを定めるために、マウスにおいて臨床前writhing(身もだえ)試験を用いると、静注アセトアミノフェンの推薦用量(ヒトでは1,000 mg当量)に対し、等価レベル(1x)の鎮痛作用を発揮するCMX-020の用量は、0.01 mg/kgのボーラス注入と、それに続く0.08 mg/kg/時の速度における連続輸液である。アセトアミノフェンによって確立される鎮痛レベルは用量依存性ではない。CMX-020によって発揮される鎮痛作用のレベルは用量依存性である。マウスの身もだえ試験において、アセトアミノフェンに比べより高い鎮痛レベル(2x及び3x)に一致するCMX-020の用量を下記の表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
LD50(「50%致死用量」の略語)はマウスを用いて定量した。マウスとヒトの間の用量転換は、体表面積相対転換に基づく。例えば、マウスにおける1 mg/kgの用量は、ヒトにおける0.08 mg/kg用量と等価である。種間の用量転換に関するさらに詳細については、Reagan-Shaw et. al., FASEB J. 22, 659-651(2007)を参照されたい。
【表4】

【0089】
上の表4に示すように、CMX-020は、モルフィンの種々の用量に対し等価的鎮痛レベルを発揮する用量として投与することが可能である。ボーラス注入では、CMX-020の鎮痛作用は、mg/kg換算でモルフィンと等価である。例えば、CMX-020の1 mgボーラス用量は、モルフィンの1 mgボーラス用量とほぼ同レベルの鎮痛作用を定める。しかしながら、CMX-020の方がより即効的であり(CMX-020の3-5分・対・モルフィンの20分)、その鎮痛作用の持続時間は、より短い(CMX-020の20-25分・対・モルフィンの35-40分)。一定レベルの鎮痛作用を維持するには、ボーラス注入に続けて連続輸液を実行しなければならない。連続輸液によって鎮痛当量を確定するには、2倍の、CMX-020のmg/kg用量が必要とされる。例えば、CMX-020の6 mg/時輸液用量は、モルフィンの3 mg/時輸液用量と等価である。患者にとって必要な鎮痛レベルを確定するために、モルフィン同様、CMX-020の用量効果を広範囲に亘って定量することが可能である(上の表3参照)。
【実施例3】
【0090】
標準的疼痛アッセイにおけるAA類縁体の効力
この実施例では、本発明人らは、tail-flick(尻尾引っ込め)及びwrithing(身もだえ)試験において、静注によって送達されるCMX-020の成績を、Perfalgan(静注用アセトアミノフェン)及びモルフィン(市場をリードする静注用オピオイド)の両方と比較する。尻尾引っ込め試験は、もっとも重度の痛み表示を表す。身もだえ試験は、体内の侵害性痛みの表示を表すだけでなく、炎症性、化学的、及び持続的中枢性疼痛表示を表す、より穏やかな疼痛試験である。この二つの試験の間の重要な違いは、これらの試験それぞれにおいて有効であるために必要な鎮痛剤強度である。後述するように、中等度効力を実現するには、CMX-020及びモルフィンの両方において、尻尾引っ込め試験は、身もだえ試験よりもほぼ100x高い用量を必要とする。試験の実施方法は後述する。
【0091】
マウスにおける尻尾引っ込め試験 尻尾引っ込め試験とは、輻射熱源に対して尻尾を反射的に引っ込めるために測定される時間に基づく。輻射熱源に対する最大暴露時間は10秒に設定される。処置前、尻尾引っ込めに測定される基礎(BL)時間を、輻射熱源に対する、30分間隔てた、2回の暴露後に定量した。コントロールのマウスにはベヒクルを静注して処置し、試験マウスには、試験鎮痛化合物を静注して処置した。処置マウス(TM)の尻尾引っ込めに関するデータは、可能な最大作用(MPE)として計算される。その場合、MPE = (TM - BL)/(10 - BL)である。尻尾引っ込めは、5分、15分、30分、及び1時間に測定される。各試験時点について、合計3-5匹のマウスが使用される。
【0092】
マウスにおける身もだえ試験: 身もだえ試験は、希釈酢酸(0.55%)--これは、マウスの身もだえを招く内部的疼痛反応を誘起する--の静脈内注入を使用する。身もだえは、全身の伸展、又は、下腹部の収縮として示される。身体の捩りの平均数は、処置マウス(TM)では試験鎮痛剤の静注後、又は、基礎値(BL)のためにベヒクルの静注後、5-0分、15-20分、25-30分、及び35-40分の5分間に亘ってカウントする。各時点で、捩り試験のデータは、最大可能作用(MPE)として計算され、その場合、MPE = (1 - TM/BL)*100である。各試験鎮痛剤について合計5匹のマウスが使用される。
【0093】
尻尾引っ込め試験成績比較--ボーラス注入 図4において、CMX-020の用量応答は、乳液ベヒクルにおいて送達され、モルフィンと比較されるが、この二つの化合物は、同じ用量ではきわめて近似する鎮痛効力を示す。図4の時間経過比較は、CMX-020がきわめて速やかに作用し、5分で最大鎮痛応答を発揮することを示す。このCMX-020最大応答の持続時間は、10 mg/kg用量において30分ずっと続く。同じ用量で、モルフィンは、その完全な鎮痛作用を発揮するのに15分を要する。この作用も30分続く。
【0094】
身もだえ試験成績比較--ボーラス注入 図5の最初のグラフにおいて、CMX-020及びモルフィンの用量応答は、同じ効力を示し、両化合物とも、約0.5 mg/kgの用量で100% MPEを実現する。Perfalganの場合(静注のアセトアミノフェン)、12.5 mg/kg用量において、比較的低いが、約35% MPEという測定可能な鎮痛応答が達成される。最初のグラフでは単一用量のPerfalganのみが示されているが、我々の試験では、身もだえアッセイにおいて、最大200 mg/kgの用量でも、Perfalganによって実現される鎮痛レベルは、35% MPEを超えて上昇しないことが示された。0.05 mg/kgの用量で、CMX-020は、12.5 mg/kg用量のPerfalgan--この場合、Perfalganの用量は、CMX-020のそれの250倍である--よりも高い鎮痛応答を発揮する。
【0095】
輸液実験 長期の疼痛管理を必要とする患者では、鎮痛薬の連続的輸液を行うことによって、長期に亘って一定の鎮痛レベルの維持が可能とされる。連続輸液では、治療剤は、末梢の静脈カテーテルを通じて一定流速の輸液流として送達される。輸液流の流速は、滴下速度を調整するか、より精密には、送達される合計治療用量を制御する輸液ポンプを用いることによって調節することが可能である。図5の第2グラフでは、マウスに対し、24時間に亘ってCMX-020又はモルフィンの輸液を行った。CMX-020及びモルフィンの輸液は、外科的に埋め込まれた頚静脈カニューレに接続される、小型の治療用Alzetポンプを利用する。皮下に埋設されるこのAlzetポンプは、24時間に亘って治療剤の一定流通を管理する。身もだえ試験を用いて、鎮痛応答レベルを、連続輸液開始後3時間及び20時間で測定した。CMX-020及びモルフィン両試験薬の用量は、鎮痛レベルが、この身もだえ試験においてほぼ50% MPEで発揮されるように選ばれた。図5は、各時点及びコントロールにおいて3から4匹の動物を使用する予備結果を示す。この実験からいくつかの重要な結論を導くことが可能である。先ず、鎮痛作用は、連続輸液を用いると24時間に亘って一定レベルで持続することが可能である。図5の第2グラフの鎮痛レベルは、12.5 mg/kg用量のPerfalgan(アセトアミノフェン)によって誘起されるものよりも高い。第2に、モルフィンとほぼ同レベルの鎮痛作用を維持するのに必要とされるCMX-020の用量は、僅かに高いだけである:2 mg/kg/時のCMX-020は、1 mg/kg/時のモルフィンと同レベルの鎮痛作用を発揮する。これよりもはるかに高レベルの鎮痛作用を実現するために、CMX-020及びモルフィンについてより高い輸液用量を使用することも可能である。
【0096】
了知されるように、CMX-020は、能力及び効力においてモルフィンに匹敵する、即効性静注疼痛治療薬である。動物試験において、CMX-020とモルフィンの間のもっとも大きな有意差は化合物の作用の速さである。CMX-020の場合、ピーク作用は数分内に達せられるが、モルフィンでは、ピーク作用は15-40分を要する。連続輸液では、CMX-020及びモルフィンは24時間に亘って同じ鎮痛レベルを維持する。連続輸液において、CMX-020の必要用量はモルフィンよりも高いが、70 kgのヒトに対する、CMX-020の典型的な6-10 mg用量の追加コストは最少と考えてよい。
【0097】
尻尾引っ込め及び身もだえ試験は、異なる医学的応用を代表する。尻尾引っ込め試験は、重度の急性疼痛応用、例えば、急性外傷、集中治療、及び破綻出血時の疼痛を代表する。重度の急性疼痛応用では、CMX-020はより高い用量を必要とする。急性疼痛において70 kgのヒトに対する予測される用量は、短期の疼痛管理のためのボーラス注入では2.8 mg、より長期の疼痛管理のための連続輸液では23.0 mg/時であってもよい。身もだえ試験は、中等度の疼痛応用、例えば、術後の疼痛管理に関連するものを代表する。CMX-020は、短期応用のためのボーラス投与では0.6 mg、より長期の疼痛管理のための連続輸液では6.0 mg/時の用量で投与されてもよい。アセトアミノフェンの対応用量は1000 mgである。
【実施例4】
【0098】
鎮痛治療のための例示のAA類縁体処方
予備試験から、CMX-020は、表5に示すように、脂質内封入用乳液ベヒクル処方を用いて送達された場合でも完全に機能的であることが示された。脂質内封入剤は、静注の栄養サプリメントとして使用されるが、治療薬送達のための市販の先行物、例えば、Propofol(AstraZenecaによって販売される)を有する。CMX-020はさらに、浸液物質--これは、長期保存に使用可能であることが予想され、通常そのために使用されるが、標準的注入ベヒクルによって希釈される--などの乳化界面活性剤と共に調製される。これらの二つのベヒクルの調製を下記の表5に記載する。
【表5】

【0099】
脂質内封入ベヒクルの調製 変異例#1:この変異例は、動物モデルにおいてCMX-020に関して上手くいくことが本発明人らによって証明された。重量で1%のCMX-020を含む脂質内封入処方のための成分を表5に示す。簡単に要約すると、調製は下記の通り:グリセロール、エデット酸二水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、及び水を含む水相を混ぜ合わせ、ろ過する。平行して、大豆油、CMX-020、及び卵フォスファチドを含む油相を攪拌し、ろ過し、スタチックミキサーを通じて該水相に添加する。次に、この混合物を、高圧ホモジェナイザーの中を、250 nmの平均粒径が実現されるまで循環させる。次に、この乳剤をろ過し、窒素下に容器に充填し、オートクレーブ処理する。変異例#2:純粋のCMX-020はそれ自体が軽い油であるので、大豆油は不要であるから含めない。この処方変異例では、CMX-020は、成分として単純に大豆油に取って代わることになる。この変異例では、同じ乳剤において、はるかに高い治療濃度を実現することが可能であると考えられる。
【0100】
浸液ベヒクルの調製 浸液物質とは、冷凍保護剤/バルク剤を含む無水乳液組成物であり、水を加えると再分散されて、ほぼ同一の粒径分布を持つ油滴を含む元の水を与える。この乳液組成物は、凍結乾燥によって水相を除去することによって調製される。
【実施例5】
【0101】
例示のAA類縁体の薬物動態
CMX-020のLC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)薬物動態の予備結果 マウスの尾静脈に10 mg/kgのCMX-020を注入した。このCMX-020の注入後2、5、15、30、及び60分時に静脈血サンプルを収集した。この血液サンプルを遠心して血漿を収集し、15 μLの血漿から、クロロフォルム:メタノール(2:1)によってCMX-020を抽出した。この抽出物を、室温でN2気流下に乾燥し、移動相に再懸濁しLC/MSによって定量した。図6に見られるように、血漿中のCMX-020の濃度は、約17分の半減期で低下する。時間ゼロに外挿すると、14 ng/μL(又は33 μM)の大凡の血漿濃度が得られる。CMX-020の単一用量の投与後15及び60分に採取した肝臓及び脳のサンプルをホモジェナイズし、CMX-020を、血漿の場合と同様に抽出した。15分時点では、脳中に存在するCMX-020の量(1 gの組織当たり704, 843 ng、n = 2)、は、肝中に見出されるもの(1 gの組織当たり170, 211 ng、n = 2)よりも高かった。60分時点では、1 gの組織当たり20 ng未満のCMX-020が脳でも肝臓でも認められた。これらの結果は、CMX-020が好んで、鎮痛作用を仲介する主要な標的器官と考えられる脳に分布する傾向のあることを示唆する。
【実施例6】
【0102】
アラキドン酸からのAA類縁体の合成
本実施例は、アラキドン酸を開始材料とする本発明によるAA類縁体の合成法を具体的に示す。下記の方法は、好ましい化合物CMX-020を生成するものであるが、本法は、僅かな慣例的最適化によって関連類縁体の供給にも好適である。(N,N-カルボニルジイミダゾール("IM2CO");N,N'-ジシクロヘキシカルボジイミド("DCC"))
【化9】

【実施例7】
【0103】
AA類縁体の新規合成
本実施例は、本発明のAA類縁体の新規合成法を具体的に示す。図示の合成法は、好ましい類縁体CMX-020を生成するものであるが、僅かな慣例的最適化によって、図3に示す化合物を含む関連類縁体の製造にも適用が可能である。
【化10】

【0104】
無水CH2Cl2(50 ml)に溶解した5-ヘキシノイン酸(5 g, 44.59 mmol)の攪拌溶液に、N,N'-ジシクロヘキシカルボジイミド("DCC")(13.80 g, 66.88 mmol)を、次いでシクロプロピルアミン(2.80 g, 49.05 mmol)を、0°Cでアルゴン雰囲気下に加えた。0°Cで2時間後、反応混合物のTLC(薄層クロマトグラフィー)によって完全な反応が示された。白色沈殿をろ過除去し、濾液を減圧濃縮した。ゴム状残留物を、Biotageプレパックカラム(サイズ:100 g;溶媒システム:10-75% EtOAc/ヘキサン)使用のSiO2カラムクロマトグラフィーによって精製し、純粋アミド2(6.54 g, 97%)を白色固体として得た。融点:54.5-55.0°C
【化11】

【0105】
無水CH2Cl2(100 ml)に溶解した、2-ブチン-1,4-ジオール(10.00 g, 116.157 mmol)の0°C攪拌溶液に、無水ピリジン(18.276 g, 232.215 mmol)をアルゴン雰囲気下に加えた。次に、TsCl(22.145 g, 116.157 mmol)を、部分に分けて15分間に亘って加えた。0°Cでさらに1時間攪拌後、反応混合物のTLC(薄層クロマトグラフィー)分析によって、約70:30比のモノ及びジ-トシレートが明らかにされ、開始時のジオールは見られなかった。水を加えて反応を停止させた。CH2Cl2層を、水及びCuSO4液で洗浄し、最後に無水Na2SO4上で乾燥した。溶媒留去後、粗製産物を、Biotageプレパックカラム(サイズ:340 g;溶媒システム:10-50% EtOAc/ヘキサン)使用のSiO2カラムクロマトグラフィーによって精製し、純粋のモノトシレート3(20.93 g, 25%)をゴム状半固形物として得た。
【化12】

【0106】
0°Cで無水DMF(50 ml)に溶解した、アセチレン2(1.0 g, 6.613 mmol)、CuI(1.26 g, 6.618 mmol)、NaI(0.99 g, 6.618 mmol)及びCs2CO3 (2.16 g, 6.613 mmol)の不均一攪拌混合液に、DMF(2 mL)に溶解したモノトシレート3(2.07 g, 8.603 mmol)をアルゴン雰囲気下に加えた。0°Cで2時間攪拌後、反応混合物をゆっくりと室温に温め、さらに24時間攪拌した。この反応混合物を酢酸エチル(200 mL)で希釈し、少量の沈殿物をろ過除去した。濾液を水、塩水で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥した。溶媒留去後、残渣を、Biotageプレパックカラム(サイズ:50 g;溶媒システム:10-100% EtOAc/ヘキサン)使用のSiO2カラムクロマトグラフィーによって精製し、純粋のジ-アセチレン4(1.17 g, 81%)を得た。
【0107】
ジ-アセチレン4は、自己酸化に対してきわめて敏感である。酸素を含まない、ヘキサン又はトルエンなどの非極性溶媒においてアルゴン雰囲気下に保存されたい。できるだけ速やかに次の工程で使用されたい。
【化13】

【0108】
無水CH2Cl2(25 ml)に溶解した、アルコール4の0°C攪拌溶液に、ET3N(0.647 g, 6.402 mmol)をアルゴン雰囲気下に加えた。次に、MsCl (0.678 g, 5.869 mmol)をシリンジによって15分に亘って滴下した。0°Cで1時間後、反応を水によって停止させた。このCH2Cl2層は、水及び塩水で洗浄し、次いで、無水Na2SO4上で乾燥した。溶媒留去後、残渣を、Biotageプレパックカラム(サイズ:100 g;溶媒システム:10-75% EtOAc/ヘキサン)使用のSiO2カラムクロマトグラフィーによって精製し、純粋のメシル酸塩5(1.44 g, 91%)を灰白色固体として得た。融点:88.0-88.5°C(分解)
【化14】

【0109】
無水CH2Cl2(100 mL)に溶解した、3-ブチン-1-オール6(10.0 g, 142.67 mmol)の0°C攪拌溶液に、TEA(21.65 g, 213.95 mmol)をアルゴン雰囲気下に加えた。次に、MsCl(16.34 g, 11.04 mmol)を、シリンジを通じて15分間に亘って滴下した。0°Cで1時間後、反応を水で停止させた。CH2Cl2層を、水及び塩水で洗浄し、次いで無水Na2SO4上で乾燥した。溶媒留去後、残渣を、Biotageプレパックカラム(サイズ:340 g;溶媒システム:0-30% EtOAc/ヘキサン)使用のSiO2カラムクロマトグラフィーによって精製し、純粋のメシル酸塩7(20.08 g, 95%)を得た。
【化15】

【0110】
密閉チューブ中で、メシル酸塩7(5.0 g, 33.74 mmol)、イソプロピルアミン(2.99 g, 50.61 mmol)、及びTEA (5.12 g, 7.05 mmol)を70°Cで加熱した。3時間後、この反応混合物を濃縮し、残渣を高度の真空下に乾燥し、粗製のN-イソプロピルブト-3-イン-1-アミンを得た。これを、それ以上精製することなく次の工程に用いた。
【化16】

【0111】
無水CH2Cl2(50 ml)に溶解した、ヘキサノイン酸(3.75 g, 33.72 mmol)の0°C攪拌溶液に、DCC(13.918 g, 67.44 mmol)を加え、次いで、DIPEA(17.43 g, 84.43 mmol)及び、上記で得た粗製N-イソプロピルブト-3-イン-1-アミン(3.75 g, 33.72 mmol)をアルゴン雰囲気下に加えた。0°Cで2時間攪拌後、白色沈殿物をろ過除去した。濾液を減圧濃縮し、ゴム状残留物を、Biotageプレパックカラム(サイズ:100 g;溶媒システム:0-40% EtOAc/ヘキサン)使用のSiO2カラムクロマトグラフィーによって精製し、純粋のアミド8(6.42 g)を粘稠油状物として得た。
【化17】

【0112】
無水DMF(50 mL)に溶解した、アセチレン8(0.844 g, 4.035 mmol)、CuI(0.768 g, 4.035 mmol)、NaI(0.604 g, 4.035 mmol)及びCs2CO3 (1.314 g, 4.035 mmol)の不均一な0°C攪拌混合液に、DMF(5 mL)に溶解したメシル酸塩5(1.2 g, 4.035 mmol)の溶液をアルゴン雰囲気下に加えた。0°Cで2時間攪拌後、反応混合物をゆっくりと室温に温め、さらに24時間攪拌した。次に、この反応混合物を酢酸エチル(200 mL)で希釈し、沈殿塊をろ過除去した。濾液を水、塩水で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、減圧蒸留した。残渣を、Biotageプレパックカラム(サイズ:100 g;溶媒システム:10-75% EtOAc/ヘキサン)使用のSiO2カラムクロマトグラフィーによって精製し、tris-アセチレン9(1.3 g, 89%)を淡黄色油状物として得た。これをできるだけ速やかに次工程に使用した。
【0113】
tris-アセチレン9は、自己酸化に対してきわめて敏感である。酸素を含まない、ヘキサン又はトルエンなどの非極性溶媒においてアルゴン雰囲気下に保存されたい。
【化18】

【0114】
絶対EtOH(5 mL)に溶解した、ニッケルアセテートテトラ-ヒドレート(0.606 g, 2.435 mmol)の室温攪拌溶液に、固体NaBH4(0.092 g, 2.43 mmol)を、H2雰囲気下(バルーン、〜1気圧)に加えた。得られた黒色懸濁液を30分攪拌し、次いで、蒸留エチレンジアミン(0.658 g, 10.948 mmol)をシリンジを通じて加えた。完全な添加後、この懸濁液をさらに15分攪拌し、次いで、絶対EtOH(5 mL)に溶解したトリアセチレン9(0.50 g, 1.217 mmol)を加えた。H2雰囲気下(バルーン、〜1気圧)室温で3時間攪拌した後、TLCによって反応の完了が示された。Dエチルエーテル(50 mL)を加えてこの反応混合物を希釈し、次いで、これを短いシリカゲルカラムに通じて触媒及びエチレンジアミンを除去した。濾液を減圧濃縮し、真空濃縮した。残渣を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(0-75%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製し、CMX-020(91%)を無色油状物として得た。この産物のHPLC分析(C18, 70/30アセトニトリル/H2O)から、約10%の過飽和産物が示された。このものを、予備的HPLCによってさらに精製したところCMX-020の99%純度産物が粘稠油状物として得られた。CMX-020は、-20°C又は-80°Cにおいてアルゴン下に保存する。
【実施例8】
【0115】
CMX-020の解熱作用
本実施例は、モルフィンと比較した場合の、化合物CMX-020の解熱作用を明らかにする。雄性マウス(30グラム)の体温記録は、マウス用直腸温プローブを用いて行った。基礎値は、15分の記録無し期間をおいて、2分間隔で10分間、2回記録した。CMX-020(10 mg/kg)又はモルフィン(10 mg/kg)のボーラス静脈注入後、2分置きに50分間体温を記録した。図7は、モルフィンと比較した場合の、化合物CMX-020の解熱作用を示す。
【0116】
本発明の他の実施態様及び用法は、本明細書及びそこに開示される本発明の実施例の考察から当業者には明白であろう。本明細書に引用される文献は、それがいずれの理由で引用されるものであれ、雑誌の引用、及び米国/外国の特許及び特許出願を含め、その全てが、引用により本明細書中に、それぞれ指定されてその全体が本明細書に含まれる。本発明は、本明細書に図示され説明される、特異的試薬、処方、反応条件などに限定されず、下記の特許請求の範囲内に納まる、その修飾形態をも包含することを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[化1]で表す構造を有する化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩であって、
【化1】

上式において:
R1は、H、又は、未置換であるか、若しくは、少なくとも一つのヒドロキシル基によって置換された、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、若しくは、C3-C6シクロアルケニルであり、かつ、R2は、H又はC1-C3アルキルであるか、又は、
R1及びR2は、前記R1及びR2に結合する窒素と共にC3-C6ヘテロ環を形成し、
R3は、[化2]又は[化3]であり、
【化2】

【化3】

前記[化2]及び[化3]において、
R4は、H、又は、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、若しくはC3-C6シクロアルケニルであり、
R5は、未置換であるか、又は、ヒドロキシル、フェニル、フェニルオキシ、若しくはフッ素の内の一つ以上によって置換された、C1-C6アルキル、C1-C6アルコキシ、若しくはC2-C6アルキルエーテルであるか、又は、R5は、NR7R8若しくはC(O)NR7R8であり(式中、R7及びR8は、それぞれ独立に、H、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、又はC3-C6シクロアルケニル基から選ばれる)、
R6は、H、又は、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C3-C6シクロアルキル、若しくはC3-C6シクロアルケニル基であり、そして、
nは、0、1、又は2である、化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩
【請求項2】
R3が、[化4]であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【化4】

【請求項3】
R5が、直鎖C5アルキル基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【請求項4】
R1が、シクロプロピル基であり、そして、R2が、Hであることを特徴とする、請求項1-3のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【請求項5】
R4が、C3イソプロピル基であることを特徴とする、請求項1-4のいずれか1項に記載化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【請求項6】
nが、1であることを特徴とする請求項1-5のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【請求項7】
前記化合物が、下記の[化5]で表す構造を有することを特徴とする請求項1に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【化5】

【請求項8】
下記の[化6]で表す化合物の群から選ばれる構造を有する化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【化6】

【請求項9】
請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩、及び薬学的に許容可能な担体を含む組成物。
【請求項10】
前記組成物が、注入可能な剤形を有することを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、経口剤形を有することを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、水中油乳剤形状を取ることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、無水乳剤形状を取ることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物がシクロデキストリンを含むことを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
麻酔剤をさらに含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項16】
治療対象に鎮痛作用を施すためのキットであって、請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩、及び、該化合物を該対象に投与するための送達デバイスを含むキット。
【請求項17】
治療対象に鎮痛作用を施す方法であって、請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の治療有効量を治療対象に投与することを含み、それによって鎮痛作用が前記対象において実現される方法。
【請求項18】
前記化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の投与が静脈内注入によることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の投与が経口送達によることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の投与が静脈内ボーラス注入によることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の投与が静脈内連続輸液によることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
治療対象において鎮痛作用を実現する薬剤の製造のための、請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項23】
治療対象において鎮痛作用を実現するための、請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。
【請求項24】
アラキドン酸(AA)類縁体の製造方法であって、下記の[化7]で表す工程を含む製造方法。
【化7】

【請求項25】
アラキドン酸(AA)類縁体の製造方法であって、下記の[化8]で表す工程を含む製造方法。
【化8】

【請求項26】
治療対象の発熱を下げる方法であって、請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の治療有効量を治療対象に投与することを含み、それによって前記対象において発熱が下げられる方法。
【請求項27】
治療対象の発熱を下げる薬剤製造のための、請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の使用。
【請求項28】
治療対象の発熱を下げるために使用される、請求項1-8のいずれか1項に記載の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−512255(P2013−512255A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541202(P2012−541202)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/058041
【国際公開番号】WO2011/066414
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512137739)サイトメティックス、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】