説明

アラミド−ポリオレフィン積層体

【課題】機械的特性、電気絶縁性、誘電特性、液体窒素含浸性などにすぐれ、超電導機器の高効率化・大容量化に適する低誘電絶縁紙を提供する。
【解決手段】アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙の層にポリオレフィンを層状に含む積層体構造に形成され、前記アラミド紙の層の少なくともポリオレフィン層と接する面にポリオレフィンが含浸しており、透気度が1万秒以上であることを特徴とするアラミド−ポリオレフィン積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性、電気絶縁性、誘電特性、液体含浸性などにすぐれ、低温で使用される超電導機器の絶縁部材として好適に用いられる新規なアラミド−ポリオレフィン積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
1986年に高温超電導が発見されてから、25年が経過し、近年の電力需要の増大に伴い、太陽光発電、風力発電、水力発電など自然エネルギーの活用とともに、発電機、モータ、変圧器、限流器、電力ケーブルなどの高温超電導技術による高効率化、大容量化及びコンパクト化が進行しつつある。この種の超電導機器に使用される絶縁部材としては、例えば特開2011−71129号公報に示されるように、クラフト絶縁紙、ポリプロピレンラミネート絶縁紙(PPLP)などが実用化に向けて鋭意実証テスト中であるが、いずれもクラフト紙を使用するため、誘電率及び誘電正接が高くなり、近年の超電導機器の益々の高効率化、大容量化及びコンパクト化には必ずしも十分な対応ができていない。
高効率及び大容量が要求される発電機、モータ、変圧器、限流器、電力ケーブルなどの超電導機器の絶縁紙には、
1)誘電率及び誘電正接が低いこと(低誘電性)、
2)高い耐電圧、
3)機械的強度を有すること、及び
4)液体窒素などの冷却剤を十分に含浸すること
の4つの特性を同時に満たすことが必要とされている。特に低温の状態で上記4つの特性を満たすことが、超電導状態を維持する意味で、極めて重要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−71129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、超電導機器の高効率化・大容量化に耐えうる低誘電絶縁紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはかかる状況に鑑み、超電導機器の高効率化・大容量化に耐えうる低誘電絶縁紙を開発すべく鋭意検討を進めた結果、本発明に到達した。
第1の態様において、本発明は、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙の層にポリオレフィンを層状に含む積層体構造に形成され、前記アラミド紙の層の少なくともポリオレフィン層と接する面にポリオレフィンが含浸しており、透気度が1万秒以上特徴とするアラミド−ポリオレフィン積層体を提供する。
第2の態様において、本発明は、ポリオレフィンの層がポリエチレン、ポリプロピレンまたはエチレンプロピレン共重合体である、第1の態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を提供する。
第3の態様において、本発明は、−70℃の誘電率及び誘電正接が測定周波数の増加に対して減少傾向を示す、第1の態様又は第2の態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を提供する。
第4の態様において、本発明は、アラミド紙の層の空隙率が50%以上である、第1〜第3のいずれかの態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を提供する。
第5の態様において、本発明は、第1〜第4のいずれかの態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導機器を提供する。
第6の態様において、本発明は、第1〜第4のいずれかの態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導発電機を提供する。
第7の態様において、本発明は、第1〜第4のいずれかの態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導モータを提供する。
第8の態様において、本発明は、第1〜第4のいずれかの態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導変圧器を提供する。
第9の態様において、本発明は、第1〜第4のいずれかの態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導限流器を提供する。
第10の態様において、本発明は、第1〜第4のいずれかの態様に記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導ケーブルを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(アラミド)
本発明において、アラミドとは、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物(芳香族ポリアミド)を意味する。このようなアラミドとしては、例えばポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4’−ジフェニルエーテル)テレフタールアミドなどが挙げられる。これらのアラミドは、例えばイソフタル酸塩化物およびメタフェニレンジアミンを用いた従来既知の界面重合法、溶液重合法等により工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのアラミドの中で、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが、良好な成型加工性、熱接着性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。
【0007】
(アラミドファイブリッド)
本発明において、アラミドファイブリッドとは、抄紙性を有するフィルム状のアラミド粒子であり、アラミドパルプとも呼ばれる(特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等参照)。
アラミドファイブリッドは、通常の木材パルプと同様に、離解、叩解処理を施し抄紙原料として用いることが広く知られており、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、デイスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することが出来る。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、日本工業規格P8121に規定の濾水度試験方法(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後のアラミドファイブリッドの濾水度は、10cm3〜300cm3(カナディアンフリーネス(JISP8121))の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のファイブリッドでは、それから成形される多熱性電気絶縁シート材料の強度が低下する可能性がある。一方、10cm3よりも小さな濾水度を得ようとすると、投入する機械動力の利用効率が小さくなり、また、単位時間当たりの処理量が少なくなることが多く、さらに、ファイブリッドの微細化が進行しすぎるためいわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。したがって、このように10cm3よりも小さい濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0008】
(アラミド短繊維)
アラミド短繊維は、アラミドを材料とする繊維を切断したものであり、そのような繊維としては、例えば帝人(株)の「テイジンコーネックス(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」などの商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
アラミド短繊維の長さは、一般に1mm以上50mm未満、好ましくは2〜10mmの範囲内から選ぶことができる。短繊維の長さが1mmよりも小さいと、シート材料の力学特性が低下し、他方、50mm以上のものは、湿式法でのアラミド紙の製造にあたり「からみ」、「結束」などが発生しやすく欠陥の原因となりやすい。
【0009】
(アラミド紙)
本発明において、アラミド紙とは、前記のアラミドファイブリッド及びアラミド短繊維から主として構成されるシート状物であり、一般に20μm〜1000μmの範囲内の厚さを有している。さらに、アラミド紙は、一般に10g/m2〜1000g/m2の範囲内の坪量を有している。
アラミド紙は、一般に、前述したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維とを混合した後シート化する方法により製造される。具体的には、例えば上記アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などが適用できるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
湿式抄造法では、少なくともアラミドファイブリッド、アラミド短繊維を含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合一することで複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤が使用される。
上記のようにして得られたアラミド紙は、一対のロール間にて高温高圧で熱圧することにより、密度、機械強度を向上することができる。熱圧の条件は、たとえば金属製ロール使用の場合、温度100〜350℃、線圧50〜400kg/cmの範囲内を例示することができるが、これらに限定されるものではない。熱圧の際に複数のアラミド紙を積層することもできる。上記の熱圧加工を任意の順に複数回行うこともできる。
【0010】
(ポリオレフィン)
本発明において、ポリオレフィンとは単純なオレフィン類やアルケンをモノマー(単位分子)として合成されるポリマーである。例えば、ポリエチレンはエチレンを重合させて得られるポリオレフィンである。このようなポリオレフィンとしては、例えばポリエチレンおよびその共重合体、ポリプロピレンおよびその共重合体、ポリブテンおよびその共重合体、エチレンプロピレン共重合体などが挙げられる。これらのポリオレフィンは工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのポリオレフィンの中で、ポリエチレン、ポリプロピレン、及び、エチレンプロピレン共重合体が、良好な成型加工性、熱接着性、低誘電性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。
【0011】
(透気度が1万秒以上であるアラミド−ポリオレフィン積層体)
本発明における前記アラミド紙の層の少なくとも表面にポリオレフィンが溶融含浸している透気度が1万秒以上であるアラミド−ポリオレフィン積層体を形成する方法としては、ポリオレフィンがアラミド紙の少なくとも表面に溶融含浸している限り、どのような方法であってもよく、特に制限はない。例えば、予めポリオレフィンを溶融製膜したファイルムと上記アラミド紙を重ね合せて加熱加圧し、ポリオレフィンをアラミド紙中に溶融含浸させる方法、ポリオレフィン抄造物(ウエブ)とアラミド紙とを抄合せるか、重ね合わせて、加熱加圧し、アラミド紙中にポリオレフィンを溶融含浸させる方法、アラミド紙上にポリオレフィンを溶融押出して熱融着する方法が用いられる。
積層の層数は積層体の用途、目的に応じて適宜選択できるが、少なくとも片方の表層はアラミド紙の層であることが、液体窒素などの冷却剤の含浸性を確保する意味で好ましい。例えば、アラミド紙とポリオレフィンの2層の積層体、アラミド紙とポリオレフィンとアラミド紙の3層の積層体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
積層体の厚みは、積層体の用途及び目的に応じて適宜選択でき、折り曲げ、巻きつけなどの加工性に問題がなければ、任意の厚みを選択することができる。一般には、加工性の観点から50μm〜1000μmの範囲内の厚みが好ましいが、これに限定されるものではない。
以下、本発明について実施例を挙げて説明する。なお、これらの実施例は、本発明の内容を、例を挙げては説明するためのものであり、本発明の内容を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0012】
(測定方法)
(1)長さ加重平均繊維長
Op Test Equipment社製Fiber Quality Analyzerを用い、約4000個の微粒子についての長さ加重平均繊維長を測定した。
(2)坪量、厚みの測定
JIS C2300−2に準じて実施した。
(3)密度の計算
坪量÷厚みで計算した。
(4)空隙率の計算
アラミド、ポリプロピレン、クラフト(セルロース)の真比重をそれぞれ1.38、0.90、1.50として計算した。
(5)引張強度の測定
テンシロン引張試験機を幅15mm、チャック間隔50mm、引張速度50mm/分で実施した。
(6)誘電率、誘電正接
JIS K6911にしたがって実施した。
(7)絶縁破壊電圧
ASTM D149にしたがって、電極径51mmで交流による直昇圧法により実施した。
(8) ガーレー透気度
JIS P8117に規定されたガーレー透気度測定器を使用し、外径28.6mmの円孔を有する締め付け板により押さえられたシート試料(面積642mm2)を100cc(0.1dm3)の空気が通過する時間(秒)を測定した。
【0013】
(実施例、対照例)
(原料調製)
特開昭52−15621号公報に記載の、ステーターとローターの組み合わせで構成されるパルプ粒子の製造装置(湿式沈殿機)を用いて、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。これを、離解機、叩解機で処理し長さ加重平均繊維長を0.9mmに調節した。得られたアラミドファイブリッドの濾水度は90cm3であった。
一方、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2デニール)を、長さ6mmに切断(以下「アラミド短繊維」と記載)した。
(アラミド紙の製造)
調製したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維をおのおの水中で分散しスラリーを作成した。これらのスラリーを、ファイブリッドとアラミド短繊維とが1/1の配合比率(重量比)となるように混合し、タッピー式手抄き機(断面積625cm2)にてシート状物を作製し、厚み144μmのアラミド紙を得た。このようにして得られたアラミド紙の主要特性値を対照例として表1に示す。
(アラミド−ポリオレフィン積層体の製造)
上記アラミド紙と王子特殊製紙社製ポリプロピレンフィルム(アルファン E−201F、厚み50μm)を各1枚重ね合わせて、温度180、圧力17g/cm2で10分間プレスし、アラミド−ポリオレフィン積層体を得た。このようにして得られたアラミド−ポリオレフィン積層体の主要特性値を表1に示す。
実施例のアラミド−ポリオレフィン積層体は、誘電率及び誘電正接も低く、絶縁破壊電圧及び透気度も十分に高く、強度も高く、さらに使用したアラミド紙の空隙率が高いため、積層体の空隙率も高く、液体窒素などの冷却剤の含浸性も高いと考えられることから、超電導機器の高効率化・大容量化に耐えうる低誘電絶縁紙として有用である。さらに−70℃では周波数が高くなるに従って、誘電率及び誘電正接がさらに低くなる傾向を示していることから、低温高周波仕様の例えば高周波インバータで作動する超電導モータのような超電導機器の低誘電絶縁紙として特に有用である。
【0014】
【表1】

【0015】
(比較例1及び2)
(クラフト−ポリオレフィン積層体の製造)
比較例1に示すクラフト紙と上記ポリプロピレンフィルムを各1枚重ね合わせて、温度180、圧力17g/cm2で10分間プレスし、クラフト−ポリオレフィン積層体を得た。このようにして得られたクラフト−ポリオレフィン積層体の主要特性値を表2に示す。
比較例2のクラフト−ポリオレフィン積層体は誘電率、誘電正接が高いため、超電導機器の高効率化・大容量化に耐えうる低誘電絶縁紙としては不十分であると考えられる。
【0016】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙の層にポリオレフィンを層状に含む積層体構造に形成され、前記アラミド紙の層の少なくともポリオレフィン層と接する面にポリオレフィンが含浸しており、透気度が1万秒以上であることを特徴とするアラミド−ポリオレフィン積層体。
【請求項2】
前記ポリオレフィンの層がポリエチレン、ポリプロピレンまたはエチレンプロピレン共重合体である、請求項1記載のアラミド−ポリオレフィン積層体。
【請求項3】
−70℃の誘電率及び誘電正接が測定周波数の増加に対して減少傾向を示す、請求項1又は請求項2記載のアラミド−ポリオレフィン積層体。
【請求項4】
アラミド紙の層の空隙率が50%以上である、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアラミド−ポリオレフィン積層体。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導機器。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導発電機。
【請求項7】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導モータ。
【請求項8】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導変圧器。
【請求項9】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導限流器。
【請求項10】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアラミド−ポリオレフィン積層体を絶縁部材として使用することを特徴とする超電導ケーブル。

【公開番号】特開2013−95057(P2013−95057A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240123(P2011−240123)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】