説明

アラミド心線及び動力伝動用ベルト

【課題】アラミド繊維のホツレを防止することができ、また耐屈曲疲労性が高く、ゴムとの接着性に優れたアラミド心線を提供する。
【解決手段】アラミド心線は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)液をアラミド繊維原糸に浸漬させて前記RFL液の固形分が少なくとも前記原糸の内部及ぶ外表面に付着し、さらにこのアラミド繊維原糸を上撚りしたコードの表面にゴム被膜を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維から形成されるアラミド心線及び、このアラミド心線を用いて形成した動力伝動用ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝動用ベルトの心線として、アラミド繊維コードからなる心線が、その優れた特性のために広く用いられている。アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)は、高強度、高モジュラスの有機繊維であり、熱中での寸法安定性が他の有機繊維より優れているという特性を有する。
【0003】
そしてアラミド繊維のコードを動力伝動用ベルトに心線(アラミド心線)として埋設して使用するにあたって、両側面のカット面が露出した状態で使用されるVリブドベルトやカットエッジタイプのVベルトなどでは、ベルトのカットしたこの側面にアラミド心線が露出することになる。そしてこのようにアラミド心線の動力伝動用ベルトの側面に露出すると、アラミド心線の切断面のアラミド繊維フィラメントが解れて、動力伝動用ベルトの側面から飛び出すという、いわゆるホツレという問題が生じる。特にベルトの側面をカットする際に同時にカットされるアラミド心線の切断面が露出すると、ホツレの問題が生じ易い。またアラミド繊維はポリエステル繊維やポリアミド繊維に比べてゴムとの接着性が悪いという問題があり、さらにアラミド繊維は剛直な分子構造を有するために耐屈曲疲労性に劣るという問題もある。
【0004】
上記のような問題に対処するため、従来から種々の提案がされている。例えば特許文献1には、アラミド繊維の原糸をゴムラテックスの前処理液に含浸し、次にこの原糸を2本以上引き揃えて撚り合わせ、続いてレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液に含浸し、さらにゴム層を被覆することによって作製したアラミド心線が開示されている。そしてこの特許文献1には、ベルトの屈曲疲労性を改善することができると共に、アラミド心線のホツレを防止できることが記載されている。
【0005】
また特許文献2には、無撚りのアラミド繊維を、ポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理した後、RFL液で処理し、次いで加撚処理をした後に、さらにRFL液で処理することによって作製したアラミド心線が開示されている。そしてこの特許文献2には、ベルト端面に露出したアラミド心線のホツレを防止し、かつゴムとの接着性を向上させ、疲労性の低下を抑制できることが記載されている。
【0006】
また特許文献3には、エポキシ化合物やイソシアネート化合物で処理した無撚りリボン状のアラミド繊維フィラメントを下撚りすると共に、これを2本以上束ねて上撚りし、これをRFL液で処理し、さらにゴム糊で接着処理することによって作製したアラミド心線が開示されている。そしてこの特許文献3には、ベルトの屈曲疲労性及びホツレを改善できると共に、心線の接着性を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−29644号公報
【特許文献2】特開平6−25978号公報
【特許文献3】特公平7−72578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献1においては、前処理剤に柔らかいゴムラテックスを使用してアラミド繊維を処理しているため、屈曲疲労性には優れるものの、ベルトを長時間走行させるとアラミド心線のアラミド繊維フィラメント間の結束性が低下して、次第にホツレが発生するおそれがあり、ホツレの改善の効果については十分に認めることができない。しかも柔軟なゴムラテックスのみの前処理剤で処理した後にRFL液で処理するため、前処理剤とそれを被覆するRFL層との接着性が十分でないという問題もある。
【0009】
また、上記の特許文献2においては、ポリアミド繊維を加撚処理する前にポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理し、加撚処理後にさらにRFL液で処理するようにしているので、ホツレや接着性は改善されるものの、ポリアミド繊維に含浸させるポリエポキシド化合物によってアラミド繊維の柔軟性が低下するので、屈曲疲労性を改善する効果については十分に認めることができない。
【0010】
さらに、上記の特許文献3においては、無撚りリボン状のアラミド繊維フィラメントをエポキシ化合物やイソシアネート化合物で処理した後に撚りをかけ、この後にRFL等の処理をしているので、ホツレや接着性は改善されるものの、特許文献2の場合と同様に、エポキシ化合物やイソシアネート化合物で処理することによってアラミド繊維の柔軟性が損なわれるものであり、屈曲疲労性を低下させる要因になるおそれがある。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、アラミド繊維のホツレを防止することができ、また耐屈曲疲労性が高く、ゴムとの接着性に優れたアラミド心線を提供することを目的とするものであり、またこのようなアラミド心線を用いてこれらの特性に優れた動力伝動用ベルトを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るアラミド心線は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)液をアラミド繊維原糸に浸漬して前記RFL液の固形分を少なくとも前記原糸の内部まで付着させ、さらにこのアラミド繊維原糸を上撚りしたコードの表面にゴム被膜を設けることを特徴としている。
【0013】
このように本発明に係るアラミド心線は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるRFL液をアラミド繊維原糸に浸漬させることで前記RFL液の固形分が少なくともアラミド繊維原糸を構成するフィラメント群の内部まで付着させ、このためフィラメント群の結束性を良好にしてホツレ発生を防ぐことができ、またフェノールノボラック型エポキシ樹脂が熱可塑性であるために、コード処理時の加熱温度で硬化することがなくコードの屈曲疲労性が良好に維持される。そして、コードの表面に付着させたゴム被膜によってゴム層の接着性を改善することができる。
【0014】
また、RFL液の固形分濃度は5〜30質量%であり、この範囲であればRFL液がアラミド繊維原糸の内部まで浸透して、その固形分が内部及ぶ外表面に付着することになる。
【0015】
本発明に係る動力伝動用ベルトは、ゴム中に心線としてアラミド心線を埋設し、ベルト側面を露出させた動力伝動用ベルトであり、前記アラミド心線がアラミド繊維フィラメント群からなる原糸を撚糸したコードであって、アラミド繊維原糸を、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるRFL液に浸漬して、前記RFL液の固形分を少なくともアラミド繊維原糸の内部まで付着させ、さらにアラミド繊維原糸を上撚りして得られたコードの表面にゴム被膜を設けていることを特徴としている。
【0016】
上記の動力伝動用ベルトは、アラミド繊維フィラメント群の結束性が良好になってホツレ発生を防ぐことができ、またフェノールノボラック型エポキシ樹脂が熱可塑性であるためにコード処理時の温度で硬化することがなく、コードの屈曲疲労性を良好に維持し、更にはゴム層との接着力を向上させて寿命の長いベルトになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱可塑性のフェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるRFL液をアラミド繊維原糸に浸漬させることでRFL液の固形分を少なくともアラミド繊維原糸を構成するフィラメント群の内部まで付着させ、このためフィラメント群の結束性を良好にしてホツレ発生を防ぐことができるものであり、またフェノールノボラック型エポキシ樹脂が熱可塑性であるためにコード処理時の加熱温度で硬化することがなく、コードの屈曲疲労性を改善することができ、更にはコードの表面に設けたゴム被膜がゴム層との接着力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る動力伝動用ベルトの実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る動力伝動用ベルトの他の実施形態の一例を示す断面図である。
【図3】実施例における性能試験を示すものであり、(a)は剥離試験の試験片の作製を示す平面図、(b)は屈曲疲労試験に用いる装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
(アラミド心線の構成と作製)
アラミド心線は、アラミド繊維のフィラメント群を無撚りでリボン状に引き揃えたアラミド繊維フィラメントの束(アラミド繊維単糸という)を、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるRFL液に浸漬した後に加熱乾燥して内部(フィラメント群の隙間)及ぶ外表面にRFL液の固定分を付着させ、このアラミド繊維単糸を無撚りあるいは2〜3本収束して下撚り係数0〜1の範囲で下撚りし、この下撚り糸を通常2〜3本程度引き揃えて、この下撚り糸の撚り方向と逆方向もしくは同一方向に上撚り係数1〜4の範囲で撚糸してコードにし、しかる後、ゴム糊によりオーバーコート処理してゴム被膜を設ける。この場合、RFL液の固形分付着量をアラミド心線全質量に対して1〜20質量%であり、この範囲であればアラミド心線とゴムとの接着性を高く維持して、心線のホツレ性、屈曲疲労性を改善することができるものである。
【0021】
またアラミド心線は、アラミド繊維単糸を1〜3本収束して下撚り係数0〜1の範囲で下撚りした後に、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるRFL液に浸漬した後に加熱乾燥して内部(フィラメント群の隙間)及ぶ外表面にRFL液の固定分を付着させ、更にこの下撚り糸を2〜3本程度引き揃えて、下撚り糸の撚り方向と逆方向もしくは同一方向に上撚り係数1〜4の範囲で撚糸してコードにし、しかる後、ゴム糊をオーバーコート処理してゴム被膜を設けてもよい。
【0022】
ここで、撚り係数は、撚り係数=〔(撚り数(回/m)×√(トータル繊度(dtex)〕/960で定義されるものである。
【0023】
アラミド繊維単糸の浸漬や加熱乾燥条件は、特に限定されるものではないが、浸漬時間は1〜10秒程度に設定し、加熱乾燥条件は90〜130℃で1〜5分程度で、張力を付与して行なうのが好ましい。特に、100N以上の張力を掛けながら加熱乾燥することによって含浸されたRFL液の原糸に対する馴染みが良くなって、撚りムラを低減することができ、撚りムラによって生じる撚りコードの径のばらつきを、より小さくすることができるものである。
【0024】
前記加熱乾燥時の張力の上限は、特に限定されるものではない。ただ、150Nを超える張力を掛けても、撚りコードの径のばらつきを小さくする効果をさらに向上することはできず、また熱処理を行なう処理装置に過度の負荷がかかるおそれがあるため、150N程度が実用上の上限である。
【0025】
(アラミド繊維)
本発明においてアラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)としては、パラ系アラミドとメタ系アラミドのいずれを用いることもできるが、心線に用いるアラミド繊維としてはモジュラスが高いパラ系アラミドが好ましい。例えばコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレン・テレフタルアミド(例えば帝人(株)の「テクノーラ」)、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド(例えば帝人(株)の「トワロン」、東レ・デュポン(株)の「ケブラー」)などを挙げることができる。
【0026】
(RFL液)
RFL液では、ラテックスとしてポリブタジエンラテックスが主に使用され、レゾルシンとホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとを混合して調製されるものである。
ポリブタジエンラテックスを使用すれば、他のラテックスに比べてアラミド心線とゴムとの接着性を高く維持し、そして心線のホツレ発生を阻止して屈曲疲労性を改善することができる。
【0027】
レゾルシンとホルマリンのモル比は1:0.5〜3程度に設定されるのが一般的であり、アラミド心線とゴムとの接着性を高めるうえでこの範囲が好ましい。このレゾルシンとホルマリンの初期縮合物を、ゴムラテックスのゴム分100質量部に対して10〜100質量部の範囲で混合し、水等の溶媒で希釈することによって、RFL液を調製することができる。
【0028】
RFL液の固形分濃度は6〜35質量%であり、より好ましくは10〜30質量%である。35質量%を越えると、RFL液がアラミド繊維原糸を構成するフィラメント群の内部へ浸透しにくくなって均一に付着しにくくまた付着量も減り、フィラメント群の結束性が悪くなってホツレやすくなり、またモジュラスが低下して伸びやすくなる。他方、10質量%未満では、RFL液の固形分の付着量が少なくなって、ホツレやすくなる。
【0029】
そして前記RFL液には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が含まれる。このフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、エポキシ化合物が下記の式で表される。
【0030】
【化1】

(式中、nは整数である。)
【0031】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂は熱可塑性であり、RFL液の加熱乾燥時の熱により硬化することがないために、コードの屈曲疲労性が損なわれることがない。また、アラミド繊維単糸をRFL液にディップする原糸ディップ処理では、アラミド繊維単糸を撚糸した後にディップする場合に比べてRFL液の固形分付着量が多くなるが、上記のエポキシ樹脂は熱可塑性であるために、アラミド心線の曲げ剛性率は小さくなって、屈曲疲労性が改善される。
【0032】
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、DIC社製のエピクロンN−665、同670、同673、同680、同690、同695、同730、同740、同770、同865、同870、ダウケミカル社製のXD−7855、旭化成エポキシ社製のECN−1273、同1299、吉村油化学工業社製のユカレジンNE−754(以上、いずれも商品名)などが挙げられる。
【0033】
(ゴム被膜)
ゴム被膜は、アラミド心線の表面に形成されるゴム層であって従来から使用されているものであり、後述の接着ゴム層のゴムとの接着性が優れるものであれば何でもよい。例えは、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン、水素化ニトリルゴム、エチレン−α・オレフィン(EPM、EPDMなど)などのゴム成分とイソシアネート化合物、エポキシ化合物などの樹脂成分とを、メチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤に溶解乃至分散したものを用いることができる。ゴム糊の濃度は特に限定されるものではないが、2〜10質量%程度の範囲が好ましい。
【0034】
そして、前記ゴム被膜となるゴム組成物には、硫黄、有機過酸化物等の架橋剤、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、充填材、カーボンブラックやシリカ等の補強材が含まれたゴム組成物をメチルエチルケトン等の溶剤に溶かしたゴム糊である。
【0035】
ゴム被膜の付着量はアラミド心線の全量(コード本体とRFL固形分とゴム被膜を加えた重量)に対して5〜15質量%が好ましく、5質量%未満では付着量が少なくなって接着処理したアラミド繊維コードと接着ゴム(例えば、EPDM組成物)との接着力が低下し、他方15質量%を超えると付着量が多くなり、ゴム被膜自身が破損しやすくなって接着力が低下するといった不具合が発生する。
【0036】
ゴム被膜に含まれる架橋剤(加硫剤)としては、たとえば、p−キノンジオキシムなどのキノンジオキシム系架橋剤、ラウリルメタアクリレートやメチルメタアクリレートなどのメタアクリレート系架橋剤、DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、TAC(トリアリルシアヌレート)およびTAIC(トリアリルイソシアヌレート)などのアリル系架橋剤、またビスマレイミド、フェニールマレイミドまたはN,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤(マレイミドまたはマレイミド誘導体)を用いることができる。
尚、ゴム被膜を形成する材料として、ゴムと架橋剤とを含む市販の接着剤を用いてもよい。そのような接着剤としては、例えばケムロック402(ロードコーポレーション製)が挙げられる。
【0037】
このように、RFL液の固定分を付着したアラミド繊維コードの表面にゴム糊の被膜をオーバーコートすることによって、本発明のアラミド心線に仕上げることができるものである。ゴム糊の被膜の厚みは特に限定されるものではないが、ゴム被膜の付着量と関係するもので5〜15μm程度の範囲であることが好ましい。
【0038】
(動力伝動用ベルト)
図1は上記のようにして作製したアラミド心線1を用いた動力伝動用ベルトの一例を示すものである。アラミド心線1は接着ゴム層6に埋設してベルト長手方向に沿って配置してあり、この接着ゴム層6の内周の伝動面側に隣接して圧縮ゴム層2を積層すると共に、接着ゴム層6の背面側に隣接して伸長ゴム層8を積層してある。圧縮ゴム層2にはその内周面にV溝を切削することによって、ベルト長手方向に沿う複数本のリブ9が形成してある。図1において10は圧縮ゴム層2に含有される短繊維である。また、ベルト背面には、織物、不織布、編物などで形成される補強布を積層してもよい。
【0039】
上記のように形成される動力伝動用ベルトにあって、その両側面は切断したカット面となっており、この切断の際にアラミド心線1も長手方向に切断され、アラミド心線1の切断面が動力伝動用ベルトの側面に露出することになる。そしてアラミド心線1が動力伝動用ベルトの側面に露出していると、アラミド心線1のアラミド繊維フィラメントが解れた場合に、動力伝動用ベルトの側面から解れたアラミド繊維を起点としてアラミド心線がベルト側面より飛び出るポップアウトが生じ、ポップアウトしたアラミド心線が回転するプーリの軸に巻き付いてベルトが破断するなどのおそれがある。しかし本発明に係るアラミド心線1は上記のようなRFL処理を行なうことによって、フィラメント同士の結束性を高め、アラミド繊維フィラメントの解れを防ぐようにしているので、動力伝動用ベルトの側面においてアラミド心線1にホツレが発生することを防ぐことができるものである。
【0040】
図2は、本発明の動力伝動用ベルトの他の例であるローエッジVベルトを示す概略断面図である。ローエッジVベルトは、ベルト長手方向に延びる複数のアラミド心線1を埋設した接着ゴム層6と、の接着ゴム層6の内周の伝動面側に隣接して圧縮ゴム層2を積層すると共に、接着ゴム層6の背面側に隣接して伸長ゴム層8を積層した横断面が台形形状になっている。このローエッジVベルトでは、前記Vリブドベルトと比べて、圧縮ゴム層2にリブ部が形成されていない点で相違する。このローエッジVベルトは、ベルト長手方向に沿って、所定の間隔をおいてコグ(凸部)を形成してもよく、また、伸長ゴム層8の背面と圧縮ゴム層2の内面には、織物、不織布、編物などで形成される補強布を積層してもよい。
【0041】
前記動力伝動用ベルトでは、接着ゴム層6や圧縮ゴム層2はゴム組成物を成形して作製されるが、これらのゴム組成物のゴム成分としては、エチレン−α−オレフィンエラストマーが用いられるものである。このエチレン・α−オレフィンゴムとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、あるいはオクテンなど)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などを用いることができる。このジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。具体的にはエチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマー(EPDM)などが用いられるが、EPDMがより好ましい。
【0042】
本発明の動力伝動用ベルトは、前記Vリブドベルト、ローエッジVベルトに限定されず、歯付ベルト、平ベルトなどにも利用できる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0044】
(実施例1〜10)
1670dtex(フィラメント数1000本)のアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ」)からなる無撚りでリボン状に引き揃えたアラミド繊維フィラメントの束(アラミド繊維単糸という)1本を、表1に示す組成からなるRFL液(RFL1〜3)に浸漬して、乾燥する処理をした。また浸漬は、アラミド繊維単糸を第1に示すRFL液に3秒間通過させることによって行ない、加熱乾燥は230℃、1.5分間の条件で行なった。
【0045】
次に、RFL処理したアラミド繊維単糸を表6に示す下撚り係数で下撚りした。下撚り係数の範囲は0〜1の範囲であり、0の場合には下撚りがない場合を示している。そして、これを2本束ね、表6に示すように上撚り係数を1〜4の範囲で下撚りと同じ方向もしくは逆方向に上撚りし、アラミド繊維コードを作製した。
【0046】
この後、RFL処理したアラミド繊維コードをゴム糊に浸漬して、乾燥する処理をすることによって、アラミド心線を得た。ここで、ゴム糊として、表4に示すEPDM配合ゴム組成物をトルエンに溶解し、これにイソシアネートを添加した表3に示す組成の溶液(濃度9%)を用いた。また浸漬は、アラミド繊維コードをゴム糊に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は170℃、1.5分間の条件で行なった。この場合、RFL固形分付着量は10質量%であった。
【0047】
【表1】

【0048】
(比較例1〜6)
実施例1と同じアラミド繊維単糸1本を、表2に示す組成からなるRFL液(RFL4〜9)に浸漬して、乾燥する処理をした。また浸漬は、アラミド繊維単糸を第1のRFL液に3秒間通過させることによって行ない、加熱乾燥は230℃、1.5分間の条件で行なった。
次に、RFL処理したアラミド繊維単糸を表7に示す下撚り係数0.5で下撚りした。そして、これを2本束ね、表7に示す上撚り係数2.5で下撚りと同じ方向に上撚りし、アラミド繊維コードを作製した。
【0049】
この後、RFL処理したアラミド繊維コードをゴム糊に浸漬して、乾燥する処理をすることによって、アラミド心線を得た。ここで、ゴム糊として、実施例1と同様に表4に示すEPDM配合ゴム組成物をトルエンに溶解し、これにイソシアネートを添加した表3に示す組成の溶液(濃度9%)を用いた。また浸漬は、アラミド繊維コードをゴム糊に3秒間通過させることによって行ない、乾燥は170℃、1.5分間の条件で行なった。この場合、RFL固形分付着量は10質量%であった。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
上記の実施例1〜13及び比較例1〜6で得たアラミド心線について、ホツレ試験、剥離試験、屈曲疲労試験、そして曲げ剛性を以下のようにして行なった。その結果を上記の表6(実施例)、表7(比較例)に示す。
【0055】
(ホツレ試験)
アラミド心線のホツレ性を評価するため、次の方法でVリブドベルトを作製した。まず、表面が平滑な円筒状の成形モールドの外周に、1プライのゴム付綿帆布を巻き付け、その外側に表5のゴム組成物の未加硫の接着ゴム用シートを巻き付けた。次にこの接着ゴム層用シートの上からアラミド心線をスピニングして巻き付け、さらにこの上に表4のゴム組成の未加硫接着ゴム層用シート及び未加硫の圧縮ゴム層用シートをこの順に巻き付けた。この後、圧縮ゴム層用シートの外側に加硫用ジャケットを配置した状態で、成形モールドを加硫缶に入れて加硫した。そして加硫して得られた筒状の加硫ゴムスリーブを成形モールドから取り出し、加硫ゴムスリーブの圧縮ゴム層をグラインダーによりV溝状に研削することによって複数のリブを形成した後、加硫ゴムスリーブを輪切りするようにカッターで周方向に切断することによって、Vリブドベルト(図1参照)に仕上げた。
【0056】
上記のように作製したVリブドベルトについて、カッターで周方向に切断したベルト側面に露出するアラミド心線を手で擦り、目視でホツレの有無やその程度を調べるホツレ試験をした。そして露出したアラミド心線を強く擦ってもホツレが発生しない場合を「◎」、ホツレは発生するが微少である場合を「○」、ホツレが大きく発生する場合を「△」、カッターで切断した時点で既にホツレが発生している場合を「×」と評価し、評価が「○」以上の場合を良好と判定した。
【0057】
(剥離試験)
表5に示す組成の未加硫のEPDM配合ゴムシート(厚み4mm)の一方の面に、長さ150mmのアラミド心線を25mm幅となるように複数本平行に揃えて並べ(図3(a)にアラミド心線1を平行に揃えて並べた状態を示す)、EPDM配合ゴムシートの他方の面に帆布を重ねて、プレス板で0.2MPa(2kgf/cm2)の圧力をかけてプレスし、さらに160℃で30分間加熱して加硫することによって、剥離試験用の短冊試験片(幅25mm、長さ150mm、厚み4mm)を作製した。この試験片を用いて、JIS K6256に準拠して、引張速度50mm/minで剥離試験を行ない、アラミド心線とゴムとの接着力(加硫接着力)を室温雰囲気下で測定した。そして接着力が500N以上であれば「◎」、400N以上550N未満であれば「○」、250N以上400N未満であれば「△」、250N未満であれば「×」と評価し、評価が「○」以上であれば接着性は良好と判定した。
【0058】
(屈曲疲労試験)
屈曲疲労試験用の試験片を次のようにして作製した。まず表4に示す組成の未加硫のEPDM配合ゴムシート(厚み0.5mm)を円筒状の金型に巻き付け、この上にアラミド心線をスパイラル状に巻き付けた後、さらにこの上に同じ未加硫のEPDM配合ゴムシート(厚み0.5mm)を巻き付け、これにジャケットを被せて加熱することよって加硫し、加硫ゴムスリーブを作製した。そしてアラミド心線が2本埋設され、且つカットした側面にアラミド心線が露出しないように加硫ゴムスリーブを周方向にカッターでカットし、幅3mm、長さ50cm、厚み1.5mmの試験片を作製した。
【0059】
屈曲疲労試験は、図3(b)に示すように、上下に配置した一対の円柱形の回転バー(直径30mm)12a,12bに上記のように作製した試験片13を屈曲させて巻き掛け、試験片13の一端をフレーム14に固定すると共に試験片13の他端に2kgの荷重15をかけ、一対の回転バー12a,12bを相対距離を一定に保ったまま、上下方向に300000回往復(ストローク:100mm、サイクル:100回/分)させることによって、回転バー12a,12bへの試験片13の巻き付け・巻き戻しを繰り返し、屈曲疲労させた。そしてオートグラフ((株)島津製作所製「AGS−J10kN」)を用いて、この屈曲後の試験片を引張速度50mm/minの条件で引張り、試験片の破断時の強力を測定した。一方、屈曲前の試験片の破断時の強力を予め測定しておき、
強力保持率(%)=(屈曲後の強力/屈曲前の強力)×100
の式から強力保持率を算出した。そして強力保持率が60%以上であれば「◎」、40%以上60%未満であれば「○」、20%以上40%未満であれば「△」、20%未満であれば「×」と評価し、評価が「○」以上であれば耐屈曲疲労性は良好と判定した。
【0060】
(曲げ剛性率)
処理したアラミド心線を並べて短冊状の試料(幅10mm×長さ70mm)を作製し、これを温湿度23°C、65%の雰囲気下で8時間放置して調節した。更に、試料をオルゼン式曲げ試験機にセットして試験片とした。そして、試験片のいったん一端を試験片つかみ具に装着し、他端を固定した。試験片つかみ具を駆動させて支点に対して試験片を曲げた。そのときの試験片の曲げ角度と、試験片に掛かる力より試験片の曲げモーメントを算出し、心線の曲げ剛性率(MPa)とした。
【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
表6にみられるように、実施例1〜10のアラミド心線は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂とポリブタジエンラテックスを組み合わせたRFL液を使用しているため、ホツレ性、接着性、そして屈曲疲労性に優れていることが判る。
【0064】
一方、表7にみられるように、比較例1はエポキシ樹脂を使用していないため、ホツレが発生している。また、比較例2はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を使用しているために、ホツレ性が改善されているが、屈曲疲労性が悪くなっている。これはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が熱硬化性であるために、曲げ剛性が増して屈曲疲労性が悪くなっている。
【0065】
比較例3はラテックスとしてアクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)を使用しているため、EPDMゴム組成物との接着性が悪くなっている。比較例4はラテックスとして水素化ニトリル(HNBR)を使用しているため、比較例3と同様に接着力が悪く、またホツレも発生している。
【0066】
比較例5はラテックスとしてビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(Vp)を使用しているため、接着力と屈曲疲労性が改善されていない。そそて、比較例6はラテックスとしてNBRとクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を併用しているために、接着力、ホツレ性、そして屈曲疲労性の評価が悪くなっている。
【0067】
以上の結果から、フェノールノボラック型エポキシ樹脂とラテックスとしてポリブタジエンを併用することにより、アラミド心線とゴムとの接着性を高く維持して、心線のホツレを防止し、そして耐屈曲疲労性を改善することができるものである。
【符号の説明】
【0068】
1 心線
2 圧縮ゴム層
6 接着ゴム層
8 伸長ゴム層
9 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)液をアラミド繊維原糸に浸漬して前記RFL液の固形分を少なくとも前記原糸の内部まで付着させ、さらにこのアラミド繊維原糸を上撚りしたコードの表面にゴム被膜を設けることを特徴とするアラミド心線。
【請求項2】
RFL液の固形分濃度は5〜30質量%である請求項1記載のアラミド心線。
【請求項3】
ゴム中に心線としてアラミド心線を埋設し、ベルト側面を露出させた動力伝動用ベルトであり、前記アラミド心線がアラミド繊維フィラメント群からなる原糸を撚糸したコードであって、アラミド繊維原糸を、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含むとともにラテックスとしてポリブタジエンからなるRFL液に浸漬して、前記RFL液の固形分を少なくともアラミド繊維原糸の内部まで付着させ、さらにアラミド繊維原糸を上撚りして得られたコードの表面にゴム被膜を設けていることを特徴とする動力伝動用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219412(P2012−219412A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87643(P2011−87643)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】