説明

アラミド撚糸コードの製造方法

【目的】 本発明の目的は、高強力、高弾性率のパラ配向アラミド繊維を用いて撚糸コードを作成する場合、従来にない高い強力または弾性率を有する撚糸コードを得ることができる製造方法を提供することにある。
【構成】 強度15g/d以上のパラ配向アラミド繊維からなる撚糸コードの製造方法において、撚係数が2以上で撚糸し、撚糸した後に100〜600℃の温度下で伸長率1.05〜1.30で緊張熱処理することを特徴とするアラミド撚糸コードの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高強力・高弾性率を有するアラミド撚糸コードの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】パラ配向アラミド繊維は、本来、分子骨格が剛直であるため強力・弾性率が高く、また優れた耐熱性と寸法安定性とを有する。これらの繊維は、産業用途や一般用途に広く応用され、ロープ、漁網あるいは防護衣料などに使用されている。しかし、パラ配向アラミド繊維は強力・弾性率が高い反面、切断伸度はかなり低く、取扱は必ずしも容易ではない。特に、タイヤコードやベルトなどのゴム補強材として使用する場合は、伸度が低いと疲労性が悪化するので、通常は撚糸コードとして疲労性の改善を図るが、この撚糸の役割は熱可塑性高分子からなる繊維と比べはるかに重要である。
【0003】なぜならば、パラ配向アラミド繊維は剛性が高いため、撚糸が技術的に困難というだけでなく撚糸後のコード強力やコード弾性率が著しく低下するという問題がある。特に、撚数が高くなるほど撚糸コードの強力や弾性率の低下の割合が大きい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、高強力・高弾性率のパラ配向アラミド繊維を用いて撚糸コードを作成する場合、従来にない高い強力または弾性率を有する撚糸コードを得ることができる製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】パラ配向アラミド繊維の撚糸コードの強力が低下し易いのは、繊維自身の剛性が高いために、捩りに対してヤーンあるいは単繊維が均一に引き揃えられ難いためである。しかも、パラ配向アラミド繊維の伸度は3〜5%と著しく低いために、ますます引き揃えが困難となる。従来は、この撚糸強力を改善する手段として、原糸の単繊維の引き揃えを良くしたり、原糸にポリエチレンワックス系油剤を付与して繊維同士の摩擦を少なくしたり、撚糸操作を2回に分けてできるだけ均斉な撚糸が行われるように工夫したりしていたが、撚糸コードの強力やモジュラスは満足できる程度には至らなかった。
【0006】我々は、パラ配向アラミド繊維の撚糸強力改善を鋭意検討した結果、撚糸後のコードに高緊張下で熱処理を施すことによって撚糸コード内の残存歪を除去し、ヤーンおよび単繊維を再配列させることによって著しく高い撚糸強力あるいは高弾性率が得られることを見出し本発明に到達した。
【0007】即ち、本発明は、「(請求項1)強度15g/de以上のパラ配向アラミド繊維からなる撚糸コードの製造方法において、撚係数が2以上で撚糸し、撚糸した後に100〜600℃の温度下で伸長率1.05〜1.30で緊張熱処理することを特徴とする撚糸コードの製造方法」である。
【0008】以下、本発明について詳細に説明する。本発明のパラ配向アラミド繊維は、好ましくは、下記繰返し単位(化3)からなるパラ配向アラミド繊維、
【0009】
【化3】


【0010】あるいは、下記繰返し単位(化4)からなる共重合パラ配向アラミド繊維である。
【0011】
【化4】


【0012】原糸の強度は15g/deが必要である。15g/de未満の場合は高強度繊維としての価値が低下し、通常の熱溶融合成繊維とあまり変らなくなる。好ましくは20g/de以上である。撚係数(TM)は次式(3)にて定義される。
【0013】
【数1】


【0014】撚係数TMが2以上の高撚数でないと本発明の効果が十分発揮できない。特にTMが3以上になると本発明の効果が著しい(撚糸強力は撚数が高くなる程、低下の度合いが著しくなる)。使用されるヤーンの全繊度は凡そ200〜10000デニールが好ましい。撚糸コードとして使用されるのは1000〜3000デニールのマルチフィラメントヤーンが一般的である。作成されるコードは1000〜18000デニールの範囲が通常である。撚糸コードの作成方法は、1本のヤーンを1方向のみに撚糸する片撚の場合と2本以上のヤーンを縄のように撚合わせる場合があり、いずれの方法でもよい。2本以上のヤーンを撚り合わせる場合は、予め各々のヤーンに同じ撚数の下撚を施した後、これらのヤーンを揃えて逆方向にほぼ下撚と同じ上撚をかける。この場合撚係数の計算には、全繊度として合糸されたヤーンの全繊度を用い、撚数としては下撚または上撚の多い方の値を用いて算出する。
【0015】本発明の特徴は、撚糸コードを作成した後に100〜600℃の温度下で伸長率1.05〜1.30で緊張熱処理を行って、剛直なパラ配向アラミドの分子を緩和させると同時に、撚糸の際に生じたヤーン間および単糸間の歪を除去することにある。これは、剛直なパラ配向アラミド繊維にのみ有効であって、従来の熱溶融性高分子、例えばポリエステルやナイロンには効果がない。何故なら、ポリエステルやナイロンは分子骨格が十分柔軟であるので、撚係数の高い撚糸を行っても単糸もヤーンも柔軟に追従でき、またヤーンの伸度も10〜20%と高いので撚糸時の歪を吸収できるからである。パラ配向アラミド繊維のヤーン伸度は3〜5%であるから、上記緊張熱処理は極めて高い張力下での加工処理となる。撚糸コードを緊張する温度は100〜600℃であり、好ましくは200〜400℃である。温度が100℃未満では撚糸コードの強力の増分が少ない。また温度が600℃を超えると繊維が劣化する。加熱ヒーターは、接触式の熱板でも、非接触式の円筒型またはスリット型のヒーターでも使用可能である。
【0016】伸長率は1.05〜1.30である。伸長率が1.05未満では緊張不十分で撚糸コードの強力があまり改善されない。また伸長率が1.30を超えると、パラ配向アラミド繊維としては緊張過多となり、断糸などのトラブルが発生する。伸長率の最適化は、撚係数や処理温度によっても影響を受けるが、撚係数が高い場合あるいは処理温度が高い場合は、伸長率を高くすると撚糸コードの強力およびモジュラスが増加しやすい。なお、本発明の緊張熱処理は、独立した工程として実施しても良いし、他の加工工程で薬液処理を行いつつ連続的に緊張熱処理を実施してもよい。
【0017】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、パラ配向アラミド繊維を撚糸した後に緊張熱処理を施すことにより、強力およびモジュラスが著しく改善された撚糸コードを得ることができる。本発明の撚糸コードはタイヤ、ベルトなどのゴム補強材およびロープ、紐などの産業資材等に使用できる。
【0018】以下に本発明を実施例をもって説明する。
【0019】
【実施例1】(化5)に示される共重合ポリマーからなる繊維を製糸した。繰返し単位(化6)および(化7)の共重合比率は1:1とした。
【0020】
【化5】


【0021】
【化6】


【0022】
【化7】


【0023】(該繊維の製造方法は、特公昭52―39719号公報、特公昭54―43612号公報および特公昭55―11143号公報等に記載されており、テクノーラ(登録商標)繊維として市販されている。)
得られた繊維は単糸1000本からなる全繊度1500デニールのマルチフィラメントヤーンである(以下、1500de/1000fと略記する)。
【0024】ヤーンの強度は28.5g/deで切断伸度は4.9%であった。該テクノーラヤーンを2本準備し、各々のヤーンに10cmあたり45回の下撚を入れた後に、この2本のヤーンを揃えて逆方向に10cmあたり45回の上撚を付与して撚糸コードを作成した。この撚糸操作は、一般に双撚と呼ばれ常用の撚糸機にて実施できる。得られた撚糸コードを長さ3mの筒型ヒーター中に毎分20m/分の速度で通過させながら緊張熱処理を行った。筒型ヒーターの内温を80℃から620℃まで変化させ、伸長率は一定値1.08倍で熱処理を行った結果を表1に記す。
【0025】
【表1】


【0026】なお、該撚糸コードの撚係数は式(3)により
【0027】
【数2】


【0028】と計算される。
【0029】表1から明らかなように撚糸直後のコード強力は39.6kgにすぎなかったが、温度120〜550℃の範囲で緊張熱処理を施すとコード強力が44kg以上に改善される。処理温度が80℃ではコード強力の改善が少なく、また原コードの保有する解撚トルクが残存して取扱性がよくなかった。本発明の撚糸コード(実験NO3〜6)はいずれも十分熱セットされ解撚トルクは殆んど発生しなかった。また、温度が620℃になると撚糸コードが茶褐色に変色しコード強力が低下してしまった。
【0030】
【実施例2】実施例1で作成した原撚糸コード(実験NO1,ブランク)を用い長さ3mの筒型ヒータ中を毎分20m/分で通過させた。ヒーター温度は350℃に固定し、伸長率を種々変更した結果を表2に示す。
【0031】伸長率が1.05未満の場合(実験NO8)、撚糸コードの強力はブランク(実験NO1)に比べて若干改善されるものの効果が少ない。伸長率が1.06〜1.25倍の範囲では撚糸コード強力が46kg以上に改善され処理時の断糸も殆んど発生しない。しかし、伸長率が1.30倍を超えると断糸が頻発し満足なサンプルが得られなかった。
【0032】
【表2】


【0033】
【実施例3】実施例1で作成したテクノーラ原糸1500de/1000fのヤーンを2本準備し、今回は、下撚10cmあたり30回および上撚10cmあたり30回の撚糸コードを作成した。該コードの撚係数は5.3であった。これを、長さ1mの熱板に接触させつつ緊張熱処理した。伸長率は一定値1.06倍とし熱板温度を80℃から620℃まで変化させた。この緊張熱処理で得られた撚糸コード強力の結果を表3に示す。本実施例では撚係数が若干低いので原コード自身の強力(ブランク)もかなり高いが、それでも本発明の緊張熱処理により撚糸コードの強力が約3kg向上している。本実施例の場合も熱板温度が100℃未満ではコード強力があまり改善されず、600℃を超えるとかえってコード強力が低下した。
【0034】
【表3】


【0035】
【実施例4】実施例1で作成したテクノーラ原糸1500de/1000fのヤーン1本に一方向の片撚を付与した。撚係数を種々変化させて撚糸コードを作成し、それぞれのコードを実施例3の熱板を用いて緊張熱処理した。伸長率は1.06で熱板温度は400℃であった。緊張熱処理後のコード強力を処理前のコード強力と比較して表4に示す。撚係数が2未満では緊張熱処理の効果が発現しない。撚係数が2以上で本発明の効果が得られる。
【0036】
【表4】


【0037】
【実施例5】(化8)に示されるポリマーからなる繊維を製糸した。
【0038】
【化8】


【0039】該繊維はポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維と呼ばれその製造方法は特開昭47―43419号公報に記載されている。本実施例5で用いた原糸は単糸1000本からなる全繊度1500デニールのマルチフィラメントヤーンであった。本PPTAヤーンの強度は23g/deで切断伸度は3.7%であった。該PPTAヤーンを2本用意し、各々のヤーンに10cmあたり45回の下撚を入れた後に、2本揃えて逆方向に10cmあたり45回の上撚を付与して撚糸コードを作成した。得られた撚糸コードを実施例1と同じ筒型ヒーターにて緊張熱処理を行った。ヒーターの内温は350℃に固定し、伸長率を変化させて熱処理を行った。結果を表5に示す。
【0040】
【表5】


【0041】PPTA繊維の場合、強力に関しては本発明の効果が現れなかったが、撚糸コードの1%伸長時のモジュラスは本発明により約2倍高く改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 強度15g/de以上のパラ配向アラミド繊維からなる撚糸コードの製造方法において、撚係数が2以上で撚糸し、撚糸した後に100〜600℃の温度下で伸長率1.05〜1.30で緊張熱処理することを特徴とするアラミド撚糸コードの製造方法。
【請求項2】 パラ配向アラミドの繰返し単位の85モル%以上が下記の繰返し単位(化1)からなる請求項1に記載のアラミド撚糸コードの製造方法。
【化1】


【請求項3】 パラ配向アラミドの繰返し単位の85モル%以上が下記の繰返し単位(化2)からなる請求項1に記載のアラミド撚糸コードの製造方法。
【化2】