説明

アラミド繊維の乾燥方法およびアラミド繊維

【課題】アラミド繊維の生産性を高めることができ、高い強力および伸度のアラミド繊維を効率よく得ることができるアラミド繊維の乾燥方法およびその方法により製造したアラミド繊維を提供する。
【解決手段】紡糸後の水分率が15〜200重量%の範囲に維持されているアラミド繊維の乾燥方法において、前記アラミド繊維糸条をボビンに巻き取った後、該アラミド繊維糸条を巻き取ったボビンを、電磁波発振器を備えた乾燥装置内で電磁波を照射して加熱乾燥する。これにより、高強力および高伸度で、コードの強度保持率の高いアラミド繊維を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維の乾燥方法およびアラミド繊維に関し、詳細には、生産効率が高く、乾燥に伴う繊維の物性変化が少ないアラミド繊維の乾燥方法、およびその方法により製造したアラミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、「PPTA」と記す。)繊維は、紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は、紡糸直後に水洗およびアルカリにより中和処理された後、低温(100〜150℃)で好ましくは5〜20秒間乾燥することにより、水分率が15〜200重量%の範囲内にあるPPTA繊維が調製される。さらに、100〜500℃で乾燥・熱処理されて、平衡水分率が7.5%以下のアラミド繊維が製造される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかしながら、水分率が15〜200重量%の範囲内にあるPPTA繊維は、一般に結晶サイズが35〜45オングストロームの範囲内にあり、結晶間の間隙が広く、エポキシ化合物や接着剤などが含浸しやすいため、乾燥・熱処理したPPTA繊維は、ゴムとの接着性および樹脂との親和性に優れたものとなるが、結晶サイズが大きくなることで、繊維の強力や伸度は乾燥・熱処理前に比べてやや低下する。
【0004】
また、水分率が15〜200重量%の範囲内にあるPPTA繊維糸条を、巻取り工程でボビンに巻き取った後、ボビンから巻き出して加熱乾燥する方法は、生産性が悪い。また、PPTA繊維糸条を巻き取ったボビンを、熱オーブンを用いて加熱乾燥する方法では、PPTA繊維を均一に加熱乾燥することが難しい;熱媒体として熱伝導率の悪い空気を使用しているために、既存の処理装置では、処理速度を上げることができず、生産性に制約を受ける;生産性を高めようとすると装置の巨大化を招き、スペース、コストが増大する;など種々の問題がある。従って、このような問題がなく、短時間で効率よく乾燥・熱処理を行うことができ、これにより所望の性能を備えるアラミド繊維を得ることができる技術が求められている。
【0005】
従来、上記対策として有効な方法はなく、特許文献3、4には、水分を含有するアラミド繊維をマイクロ波で加熱する方法が提案されているが、熱オーブンの代わりにマイクロ波共鳴キャビティアプリケーターを用い、張力下に、200〜550℃で0.05〜0.5秒間加熱するので、生産性が高められる方法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−181679号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−152533号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平7−018518号公報(特許請求の範囲、[0001]、図1)
【特許文献4】特開平4−308681号公報([0017]〜[0018])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アラミド繊維の生産効率を高めることができ、高い強力および伸度のアラミド繊維を効率よく得ることができるアラミド繊維の乾燥方法およびその方法により製造したアラミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するため、次の手段をとるものである。
【0009】
(1)紡糸後の水分率が15〜200重量%の範囲に維持されているアラミド繊維の乾燥方法において、前記アラミド繊維をボビンに巻き取った後、該ボビンに巻き取ったアラミド繊維に電磁波を照射することにより加熱乾燥することを特徴とするアラミド繊維の乾燥方法、
(2)加熱乾燥が、30〜180℃の温度条件下で行われる上記(1)記載のアラミド繊維の乾燥方法、
(3)アラミド繊維として、硬化性エポキシ化合物または硬化性エポキシ化合物を含む油剤をアラミド繊維骨格内に含浸させたアラミド繊維を用いる上記(1)または(2)記載のアラミド繊維の乾燥方法、
(4)上記(1)〜(3)いずれか記載の方法により乾燥されたアラミド繊維、当該アラミド繊維からなるコードもしくは布帛、
(5)電磁波を発生する発振器と、ボビンに巻き取ったアラミド繊維糸条の表面近傍の温度を計測する温度計測手段と、アラミド繊維糸条の表面近傍の温度を所定の範囲内に維持するよう制御する制御手段と、乾燥中に内部の水蒸気を排出する排出手段とを有することを特徴とするアラミド繊維の加熱乾燥装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水分率が高いアラミド繊維を、ボビンに巻き取った状態で電磁波を照射して乾燥するので、一度に大量のボビンを短時間に処理することができ、熱オーブンを用いた従来方法に比して、生産効率を大幅に改善することができる。また、無張力下で乾燥することで、繊維の物性の変化を抑制することができる。得られるアラミド繊維は、高い強力と伸度を有しており、さらにコード化した場合の強力保持率が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、紡糸後の水分率が15〜200重量%の範囲内に維持されているアラミド繊維糸条をボビンに巻き取った後、該アラミド繊維糸条を巻き取ったボビンを、通常の電磁波発生装置を備えた乾燥装置内に入れ、アラミド繊維糸条に電磁波を照射して、加熱乾燥する。電磁波としては、5MHz〜500GHzの範囲の周波数のマイクロ波または高周波を用いることが好ましい。電磁波を用いることで、水分率の高いアラミド繊維の乾燥を、従来の1/100〜1/30程度の短時間で行うことができ、また、アラミド繊維の強力低下を抑えることができるため、高強力のアラミド繊維を効率よく得ることができる。乾燥装置内にはアラミド繊維糸条を巻き取ったボビン複数本を入れて加熱乾燥することが好ましく、かかるバッチ処理を行うことで、本数に比例して、ボビン1本あたりの乾燥時間がさらに短縮される。
【0012】
すなわち、本発明では、アラミド繊維糸条を巻き取ったボビンに電磁波を照射して加熱乾燥することにより、一度に大量のボビンを無張力下で乾燥できるため、ボビンから巻き出して乾燥する方法に比べ、著しく生産性に優れている。さらに、アラミド繊維糸条を張力なしに無張力下で乾燥するため、テンションを与えることによるアラミド繊維の物性低下が抑制され、従来では得られなかった高い強力および伸度を有するアラミド繊維を得ることができる。
【0013】
アラミド繊維糸条の電磁波による加熱乾燥は、30〜180℃の温度条件下で行われることが好ましく、より好ましくは40〜110℃である。加熱温度は、ボビンに巻き取ったアラミド繊維糸条の表面近傍の温度が30〜180℃の範囲となるようにするのが好ましい。加熱温度が180℃を超える場合は、加熱に伴うアラミド繊維の物性変化が大きくなることで、乾燥後のアラミド繊維の強力低下が生じ易くなるだけでなく、熱量の増大によりコストが増大する。一方、加熱温度が30℃未満では、乾燥に要する時間が増大することで、生産効率が低下する。
【0014】
電磁波を照射する場合は、アラミド繊維の水分率に変動させて、電磁波の出力を制御することが好ましく、これにより電磁波の過剰照射による繊維の劣化や、乾燥不良を防止することができる。照射時間は、アラミド繊維の水分率が7.5重量%以下、より好ましくは3〜7.5重量%の範囲になるように、乾燥装置内のボビンの本数に応じて設定することが好ましい。アラミド繊維が絶乾状態になると、アラミド繊維の劣化を招くおそれがある。
【0015】
電磁波の照射方法は、アラミド繊維糸条から十分に水分を蒸発させることができるものであれば、特に制限されるものではなく、所望に応じ設定することができる。例えば、出力は、乾燥処理するアラミド繊維糸条の繊度および水分率に基づき、適宜選定することができ、好ましい出力範囲は50〜1,000Wである。また、乾燥装置内では、複数本のボビンを並列配置することが生産効率向上の点から好ましいが、当該並列配置は垂直方向または水平方向のいずれであってもよい。
【0016】
また、加熱乾燥時には、乾燥効率を高めるために、熱風また温風の発生装置を併用して、乾燥装置内が蒸発に伴い発生した水蒸気で過飽和状態にならないように装置外部へ水蒸気を排出することが好ましい。
【0017】
乾燥装置は、内部に電磁波を照射することができれば、その構造自体は公知のものでよい。具体的には、電磁波を発生する発振器を備えており、乾燥中に発生する乾燥装置内部の水蒸気を排出する排出手段を有し、アラミド繊維糸条を巻き取ったボビンを入れるための開口部と、装置内部を密封できかつ開閉可能な蓋が取付けられている装置などが挙げられる。
【0018】
アラミド繊維の熱劣化を防止するためには、ボビンに巻き取ったアラミド繊維糸条の表面近傍の温度を計測する温度計測手段と、アラミド繊維糸条の表面近傍の温度を30〜180℃の範囲内に維持するよう制御する制御手段を有することが好ましい。例えば、アラミド繊維の表面近傍の温度を計測する温度計測手段(温度計、熱電対など)と、発振器へ供給する電圧を制御する電圧制御装置とを有しており、該電圧制御装置が設定温度入力手段を備え、入力された設定値と温度計測手段による計測値を用いて、発振器へ供給する電圧を制御する。電圧操作は手動でもできるが、自動制御機器を用いる方が好ましい。加熱乾燥装置には、アラミド繊維糸条を巻き取ったボビンが配置されているので、電磁波発振器から発振された電磁波によって、アラミド繊維糸条が加熱され、その表面温度が予め設定した温度に制御されながら加熱乾燥されることになる。
【0019】
アラミド繊維糸条を巻き取るボビンとしては、円筒形の紙管、セラミックス管、プラスチック管などを用いることができるが、電磁波に対する安定性を考慮すると、紙管またはセラミックス管が好ましく、紙管がより好ましい。金属管では放電のおそれがある。
【0020】
ボビンに巻き取るアラミド繊維糸条の量は、使用するボビンの大きさなどにより異なるが、熱オーブンを用いた従来法と同様、巻厚が約20mm以上であることが好ましい。従来法では、巻き取る繊維糸条の厚みが大きい場合、ボビンの内側の繊維と表面の繊維との間で乾燥速度が異なるために均一に乾燥できないことがあるが、電磁波による乾燥方法によれば、巻厚が大きい場合でも短時間で均一に乾燥することが可能になる。
【0021】
加熱乾燥に供するアラミド繊維の形状および繊度は特に限定されず、単糸繊度、繊維の断面形状等は任意である。アラミド繊維の総繊度も特に限定はなく、広範囲(200〜8,000dtex)のアラミド繊維に適用できる。
【0022】
乾燥後のアラミド繊維は、常温で放置されることにより、温度25℃、湿度65%での平衡水分率が7.5重量%以下となる。得られるアラミド繊維は、高強力・高伸度である。
【0023】
本発明において処理対象となる、水分率が15〜200重量%の範囲内に維持されているアラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維が好ましく、特に剛直構造を有するポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が好ましい。
【0024】
ポリパラフェニレンテレフタルアミドは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものでもよい。得られる重合体または共重合体の数平均分子量は通常20,000〜25,000の範囲内が好ましい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法の代表例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解して、18〜20重量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金からせん断速度25,000〜50,000sec−1で吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸する。その後、紡糸浴中で凝固した繊維を水酸化ナトリウム水溶液で中和処理した後、100〜150℃で、好ましくは5〜20秒間乾燥することにより、水分率が15〜200重量%の範囲内にあるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を調製することができる。
【0025】
本発明の水分率が15〜200重量%の範囲内に維持されているアラミド繊維は、水分率が前記範囲内に維持されていることを必須とするが、水分率が前記範囲内にあれば、硬化性エポキシ化合物、または硬化性エポキシ化合物を含む油剤を、アラミド繊維骨格内に含浸させたものも好ましい。含浸量は、0.1重量〜10.0重量%の範囲であることが好ましく、0.1重量%以上含浸させることにより、ゴムあるいは樹脂との接着性が改良される。硬化性エポキシ化合物の硬化を促進するために硬化剤を併用することもできる。さらに必要に応じて、グリコールエーテル系化合物、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、有機界面活性剤、オキサゾリンや酸無水物などの樹脂改良剤、シラン系やイソシアネート系などのカップリング剤などの処理剤の1種または2種以上を、それぞれ0.1重量〜10.0重量%の範囲で含浸させることもできる。
【0026】
硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物または芳香環を有するエポキシ化合物を好ましく用いることができ、これらの化合物を併用することもできる。
【0027】
脂肪族エポキシ化合物としては、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロールなどの多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが特に好ましく用いられる。
【0028】
芳香環を有するエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールC]などのグリシジルエーテル化物が挙げられる。これらの中でも、常温で液状の、ビスフェノールA、ビスフェノールFのグリシジルエーテル化物が特に好ましく用いられる。
【0029】
硬化剤は、アミン化合物が好ましく、三級アミン化合物が特に好ましい。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミンなどが挙げられる。
【0030】
油剤は、アラミド繊維に用いられる一般的な油剤であればよく、例えば、炭素数18以下の低分子量脂肪酸エステル、ポリエーテル、鉱物油などが挙げられる。
【0031】
本発明の方法で得られるアラミド繊維は、高強力および高伸度であり、高強力糸は一般的に強力保持率が劣る傾向があるにも拘わらず、コード化した場合の強力保持率が高いという従来にない特徴を有しているので、該アラミド繊維のフィラメントまたはステープルは、ゴムや樹脂の補強材として好適に用いることができる。また、該アラミド繊維を公知の方法により加工し、高強力かつ耐切断性に優れるコードもしくは布帛を製造できる。
【0032】
上記コードもしくは布帛は、アラミド繊維を、エポキシ化合物、カップリング剤などで浸漬処理した後、熱処理し乾燥、硬化させるが、あらかじめエポキシ化合物、カップリング剤などを含浸させたアラミド繊維を用いる場合は、前記工程は不要である。次いで、レゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物とゴムラテックスとを混合熟成したレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)液などの接着剤液に浸漬した後、乾燥・熱処理を施し、高強力を要する様々な用途に用いられる材料の補強材を製造できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示すが、実施例中の各測定値は次の方法にしたがった。
【0034】
(1)水分率
試料約5gの重量を測定し、300℃×20分の熱処理を行い、25℃65%RHで5分間放置した後、再度重量を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前重量−乾燥後重量]/[乾燥後重量]で得られるドライベース水分率である。
【0035】
(2)平衡水分率
JIS L 1013:1999“化学繊維フィラメント糸試験方法”8.2に準じて測定した。すなわち、水分平衡に達した試料から約5gを採り、その質量および絶乾質量を量り、次式により平衡水分率(%)を算出した。
((試料採取時の質量−試料の絶乾質量)/試料の絶乾質量)×100
【0036】
(3)繊維の引張強力及び伸度
テンシロンを使用して、JIS L 1013:1999“化学繊維フィラメント糸試験方法”8.5に準じて測定した。
【0037】
(4)コードの引張強力、強度保持率(%)
テンシロンを使用して、JIS L 1017:2002“化学繊維タイヤコード試験方法”8.5a)標準時試験に準じて測定した。
強度保持率(%)は、(ディップコードの引張強力/(原糸の引張強力×2))×100により算出した。
【0038】
(5)接着強力(T−引抜力)
JIS L 1017の接着力−A法に準じて下記条件で処理コ−ドを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で150℃、30分プレス加硫を行ない、放冷後、コードをゴムブロックから30cm/minの速度で引き抜き、その引き抜き荷重をN/cmで表示した。接着評価におけるゴムコンパウンドとしては、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムを使用した。
【0039】
(6)結晶サイズ;
試料を長さ4cm、重さ20mgに調製し、コロジオン溶液で固めたものを用いて、広角X線回析(ディフラクトメーター法)によりデータを採取した後、得られた2θ/θ強度データのうち、110方向の面の半値幅からScherrerの式を用いて計算した。
【0040】
[実施例1]
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間の低温乾燥をして、水分率35重量%の処理前のPPTA繊維(水分率0重量%換算のとき総繊度1,670dtex)を得た。
【0041】
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてトリグリセロールトリグリシジルエーテルを50重量%含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド/鉱物油の混合物)を、水分率0重量%換算としたときの繊維に1.0重量%含浸し、硬化性エポキシ化合物を含有する油剤をPPTA繊維に浸透させた後、巻き取り工程で、直径107mm、長さ216mmの円筒形の紙管に12,000m巻き取った。
【0042】
PPTA繊維を巻き取ったボビンを、マイクロ波発振器と熱風発生装置を備えた加熱乾燥装置に入れ、周波数2.45GHzのマイクロ波を出力100W/mで照射しながら、80℃×180分間乾燥することにより、水分率5.3重量%のPPTA繊維を得た。
【0043】
得られたPPTA繊維のマルチフィラメント2本を用いて、下撚15.7回/10cm,上撚15.7回/10cmの撚数で撚糸してコードとした。
【0044】
別途、水酸化ナトリウムの存在下でビニルピリジン−スチレン−ブタジエンラテックス100重量部に対し、レゾルシン1モルに対しホルムアルデヒドを0.30モル反応させて得られた初期縮合物を17重量部混合し、24時間熟成させた(A)液を準備した。調製した(A)液に、ジフェニルメタン−ビス4,4´−N,N´−ジエチレンイミン15重量部の水分散液にトリヒドロキシエチルイソシアヌレート12重量部を水で溶解したものを混合することにより、固形分濃度20%のレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)処理液を得た。
【0045】
続いて上記のPPTA繊維で作製したコードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、前記RFL処理液に浸漬(固形分付着量8重量%)し、140℃で150秒乾燥し、続いて245℃で60秒間熱処理することにより、RFLディップコードを作製した。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、110℃×10秒間の低温乾燥をして、水分率50重量%の処理前のPPTA繊維を得、硬化性エポキシ化合物を含有する油剤をPPTA繊維に浸透させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取った。PPTA繊維を巻き取ったボビンを、マイクロ波発生装置と熱風発生装置を備えた加熱乾燥装置に入れ、周波数2.45GHzのマイクロ波を出力100W/mで照射しながら、80℃×180分間乾燥することにより、水分率5.3重量%のPPTA繊維を得た。得られたPPTA繊維を用いて、実施例1と同様にしてRFLディップコードを作製した。
【0047】
[比較例1]
実施例2と同様の方法で、110℃×10秒間の低温乾燥をして、水分率50重量%の処理前のPPTA繊維を得、硬化性エポキシ化合物を含有する油剤をPPTA繊維に浸透させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取った。PPTA繊維を巻き取ったボビンを、減圧乾燥装置に入れ、80℃×48時間乾燥することにより、PPTA繊維を得た。得られたPPTA繊維を用いて、実施例1と同様にしてRFLディップコードを作製した。
【0048】
実施例1〜2および比較例1で得た乾燥前後のPPTA繊維の原糸の物性を測定した結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より、減圧乾燥では顕著に繊維の物性が変化しているのに対し、マイクロ波乾燥では物性の変化が小さく、特に乾燥に伴う繊維の強力保持率が高く、しかも伸度の高い繊維が得られたことがわかる。
【0051】
[比較例2]
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、200℃×15秒間、緊張下、オーブンで加熱乾燥して、水分率7.0重量%のPPTA繊維(水分率0重量%換算のとき繊度1,670dtex)を得た。得られたPPTA繊維を用いて、実施例1と同様にしてRFLディップコードを作製した。
【0052】
実施例1〜2および比較例1〜2で得たRFLディップコードの物性を測定した結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2より、マイクロ波乾燥したPPTA繊維(実施例1,2)は、加熱オーブンで減圧乾燥したPPTA繊維(比較例1)と比べると、原糸の引張強力が同等以上で、ディップコードの引張強力が高く、接着強力にも優れていた。
【0055】
また、マイクロ波乾燥したPPTA繊維(実施例1,2)は、乾燥後の水分率を15重量%以上に維持することなくオーブンで乾燥したPPTA繊維(比較例2)と比べると、ディップコードの引張強力が同等以上で、強度保持率が優れており、しかも水分率や乾燥条件を選定することにより、接着強力にも優れるものとなった。
【0056】
[実施例3]
実施例1で得た水分率35重量%のPPTA繊維を、直径107mm、長さ216mmの円筒形の紙管に12,000m巻き取った。PPTA繊維を巻き取ったボビンを、マイクロ波発振器と熱風発生装置を備えた加熱乾燥装置に入れ、周波数2.45GHzのマイクロ波を出力100W/mで照射しながら、80℃×180分間乾燥することにより、水分率7.3重量%のPPTA繊維を得た。
【0057】
[比較例3]
実施例1で得た水分率35重量%のPPTA繊維を、直径107mm、長さ216mmの円筒形の紙管に12,000m巻き取った。PPTA繊維を巻き取ったボビンを、減圧乾燥装置に入れ、80℃×48時間乾燥することにより、水分率7.2重量%のPPTA繊維を得た。
【0058】
実施例3および比較例3で得た乾燥前後のPPTA繊維の原糸の物性を測定した結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3より、マイクロ波乾燥により、減圧乾燥よりも乾燥に伴う繊維の強力保持率が高いPPTA繊維が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のアラミド繊維および当該アラミド繊維からなるコードもしくは布帛は、高強力・高伸度で強力保持率が高いことより、タイヤ・ゴム資材、プラスチック分野などにおける補強材料などとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸後の水分率が15〜200重量%の範囲に維持されているアラミド繊維の乾燥方法において、
前記アラミド繊維糸条をボビンに巻き取った後、該ボビンに巻き取ったアラミド繊維糸条に電磁波を照射することにより加熱乾燥することを特徴とするアラミド繊維の乾燥方法。
【請求項2】
加熱乾燥が、30〜180℃の温度条件下で行われる請求項1記載のアラミド繊維の乾燥方法。
【請求項3】
アラミド繊維として、硬化性エポキシ化合物または硬化性エポキシ化合物を含む油剤をアラミド繊維骨格内に含浸させたアラミド繊維を用いる請求項1または2記載のアラミド繊維の乾燥方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の方法により乾燥されたアラミド繊維、当該アラミド繊維からなるコードもしくは布帛。
【請求項5】
電磁波を発生する発振器と、ボビンに巻き取ったアラミド繊維糸条の表面近傍の温度を計測する温度計測手段と、アラミド繊維糸条の表面近傍の温度を所定の範囲内に維持するよう制御する制御手段と、乾燥中に内部の水蒸気を排出する排出手段とを有することを特徴とするアラミド繊維の加熱乾燥装置。

【公開番号】特開2013−96019(P2013−96019A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237196(P2011−237196)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】