説明

アラミド繊維織編布の抗ピル加工方法

【課題】織編布の風合いや着用感を損ねることなく、ピリングの発生を抑制する織編布の処理方法を提供すること。
【解決手段】アラミド繊維からなる織編布を、第4級アンモニウム塩を含むアルカリ水溶液中に、70℃以上の温度で15分以上浸漬処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維からなる織編布の抗ピル加工方法に関するものであり、更に詳しく述べるならば、本発明は、アラミド繊維からなる織編布を第4級アンモニウム塩を含むアルカリ水溶液中に浸漬処理することにより、その抗ピル性を可及的に向上させることが可能な抗ピル加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アラミド繊維を含む織編布は、優れた物理的性質を有するために、衣料用、産業用資材として広く用いられている。特にメタ系アラミド繊維、例えばポリメタフェニレンイソフタラミド繊維は、高い耐熱性、耐炎性、耐薬品性、強力な耐放射線性、電気特性等に優れた性質を有するため、ノロ(溶融金属塊)や溶接火花が飛散する可能性のある作業者用の防護作業衣や耐熱性に加えて、耐スパッター性も必要とする防護衣料用布帛などに利用されている。
【0003】
しかしながら、アラミド繊維は分子配向が極めて高く、分子間結合力が強固で緻密な分子構造となっているために、特にその短繊維織編布においてはピリングが発生し易いという問題があった。
【0004】
このようなピリングの発生を抑えるため、例えば、特開平8−337963号公報には、毛焼処理によるメタ系アラミド繊維のピリング防止方法が開示されているが、このような機械的方法を採用した場合は、一時的にピリングの発生を抑えることができても、加工工程中や着用中に繰り返し摩擦を受けることにより、ピリングが再発しやすいという問題があった。
【0005】
特に、アラミド繊維の場合には、毛焼処理してもその効果が他の一般合繊ほど大きくなく、ピリング防止効果自体も必ずしも十分とは言えない。また、毛焼処理後の織編布の表面をよく観察すると、毛焼処理により短繊維の先端にはメタ系アラミド繊維が溶融したものと思われる球状の塊が生じており、このために表面の風合いもザラザラしたものになりがちである。
【0006】
一方、樹脂被覆等の化学的方法によるピリング防止方法においては、形成された被膜のため、織編布が硬くなり着用感を損ねるなどの問題があり、その解決策が切望されていた。
【特許文献1】特開平8−337963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決し、織編布の風合いや着用感を損ねることなく、ピリングの発生を抑制する織編布の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、アラミド繊維からなる織編布を、第4級アンモニウム塩を含むアルカリ水溶液中に浸漬させるとき、所望の抗ピル効果が奏されることを究明し、本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、アラミド繊維からなる織編布を、第4級アンモニウム塩を含むアルカリ水溶液中に、70℃以上の温度で15分以上浸漬処理することを特徴とするアラミド繊維織編布の抗ピル加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、織編布の風合いや着用感を損ねることなく、ピリングの発生を抑制する織編布の処理方法が提供されるので、溶接火花が飛散する可能性のある作業者用の防護作業衣や、耐スパッター性が必要とされる防護衣料用布帛などの用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において使用する織編布を構成するアラミド繊維の具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、あるいは、これに第3成分を共重合させたパラ系アラミド繊維を挙げることができる。第3成分を共重合させたパラ系アラミド繊維の一例としては、下記式に示すコポリパラフェニレン・3,4‘オキシジフェニレンテレフタルアミドを挙げることができる。
【0012】
【化1】

ここで、m及びnは正の整数を表す。
【0013】
また、本発明において使用する織編布を構成するアラミド繊維の他の具体例としては、優れた難燃性を有するメタ系アラミド繊維、すなわちポリメタフェニレンイソフタルアミドが挙げられる。
【0014】
上記のアラミド繊維は、他の繊維との混繊糸又は混紡糸として使用されても良い。他の繊維としては、アラミド繊維の他、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、ポリエステル繊維、綿、ウールなどが例示される。中でも、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維の混繊糸又は混紡糸が好ましい。
【0015】
上記のアラミド繊維は、織編布とされた後、第4級アンモニウム塩を含むアルカリ水溶液中に、70℃以上の温度で15分以上浸漬処理されることが肝要である。
【0016】
ここで、第4級アンモニウム塩の添加量は、10g/l以上、好ましくは15g/l〜30g/lの範囲が推奨される。該添加量が10g/l未満の場合は、助剤としての効力が弱く、水酸化ナトリウムを反応させるのに長時間を要するので、不経済となる場合がある。一方、該添加量が30g/lを超える場合は、助剤としての効力が強くなり過ぎ、糸の強力劣化が大きくなることがある。
【0017】
また、第4級アンモニウム塩に加えて、助剤としてアミン化合物、リン酸エステル系化合物を併用しても良い。
【0018】
また、上記のアルカリ水溶液は、水酸化ナトリウムを20g/l以上、好ましくは25〜40g/l含む水溶液であることが好ましい。該添加量が20g/l未満の場合は、アルカリ溶液の濃度が低く、処理に長時間を要するので、不経済となる場合がある。一方、該添加量が40g/lを超える場合は、高濃度のアルカリ溶液でアラミド繊維を処理することになるので、極めて厳しく加工条件を管理しなければならず、僅かな条件変化によっても糸強力低下のばらつきが現れることがある。
【0019】
上記水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウムを用いても良いが、コスト面から水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0020】
アルカリ水溶液による浸漬処理は、70℃以上の温度で15分以上行うことが好ましく、20分以上がより好ましい。該処理温度が70℃未満或いは処理時間が15分未満の場合は、アルカリ減量処理が不均一になり易い。
【0021】
本発明においては、上記の浸漬処置の後、繊維内に残留した溶媒を除去するために、通常用いられる方法により、湯洗、水洗、乾燥を行うことが好ましい。また、織編布の染色を行う場合は、本発明の処理方法を施す前または後、あるいは同時に行ってもよい。本発明の処理方法と同時に染色を施す場合には、アルカリ水溶液中に染料を配合するとよい。ただし、色相管理を容易にするために、本発明の処理方法を行う前に染色しておくことが好ましい。
【0022】
かくして得られたアラミド繊維からなる織編布の、JIS L 1706 A法(ICI法、10時間)に準拠して測定した抗ピリング性は3級以上であることが好ましい。但し、該織編布の風合いや着用感などの優れた機能はそのまま保持されていることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および効果をさらに詳細に説明する。尚、実施例における各物性は以下の方法により求めたものである。
【0024】
(1)抗ピリング性
JIS L1076 A法に記載の方法に準拠して測定した。10時間試験で、3級以上であれば抗ピル性があるものと判断する。
【0025】
(2)強伸度
浸漬処理後の織編布から取り出した単糸の強伸度をJIS L 1095に記載の方法に準拠して測定した。
【0026】
[実施例1]
パラ系アラミド繊維(商品名:トワロン、帝人テクノプロダクツ(株)製)からなる20番手(綿番手)の紡績糸を用いて、目付が80g/m2の天竺構造の丸編物を得た。
該編物を、第4級アンモニウム塩(商品名:DYK-1125、一方社油脂工業(株)製)を20g/l、水酸化ナトリウムを30g/l含んでなる水溶液に浸漬し、温度98℃で20分処理した。次いで、95℃の熱湯で20分間湯洗して、よく水洗し、乾燥した。
得られた編物の物性を前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0027】
[実施例2]
実施例1において、パラ系アラミド繊維に代えて、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製、商標名:コーネックス)とパラ系アラミド繊維(商品名:トワロン、帝人テクノプロダクツ(株)製)とが60:40となる割合で混紡された紡績糸を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
得られた編物の物性を前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0028】
[比較例1]
実施例1において、編物を第4級アンモニウム塩と水酸化ナトリウムからなる水溶液で処理しなかった以外は実施例1と同様に実施した。
得られた編物の物性を前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0029】
[比較例2]
実施例1において、編物を水酸化ナトリウムのみからなる水溶液に浸漬し、温度98℃で20分処理した以外は実施例1と同様に実施した。
得られた編物の物性を前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0030】
[比較例3]
実施例1と同様の方法により得られた丸編物に毛焼処理のみを施した。
得られた編物の物性を前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、織編布の風合いや着用感を損ねることなく、ピリングの発生を抑制する織編布の処理方法が提供されるので、溶接火花が飛散する可能性のある作業者用の防護作業衣や、耐スパッター性が必要とされる防護衣料用布帛などの用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維からなる織編布を、第4級アンモニウム塩を含むアルカリ水溶液中に、70℃以上の温度で15分以上浸漬処理することを特徴とするアラミド繊維織編布の抗ピル加工方法。
【請求項2】
アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウムを20g/l以上含む水溶液である請求項1記載のアラミド繊維織編布の抗ピル加工方法。
【請求項3】
アルカリ水溶液が、第4級アンモニウム塩を10g/l以上含む水溶液である請求項1又は2記載のアラミド繊維織編布の抗ピル加工方法。
【請求項4】
アラミド繊維からなる織編布が、パラ系アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維の混繊糸又は混紡糸からなる織編布である請求項1、2又は3記載のアラミド繊維織編布の抗ピル加工方法。
【請求項5】
アラミド繊維からなる織編布の、JIS L 1706 A法(ICI法、10時間)に準拠して測定した抗ピリング性が3級以上である請求項1〜4にいずれか1項に記載のアラミド繊維織編布の抗ピル加工方法。

【公開番号】特開2006−45721(P2006−45721A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229044(P2004−229044)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】