説明

アリルイソチオシアネート揮散製剤

【課題】別途バリア袋を用意することなく、アリルイソチオシアネート放出体を包装して適切に保存しておくことができ、かつ必要時には簡便な方法で揮散開始できるようにする。
【解決手段】単層又は複数層からなるアリルイソチオシアネート透過層と、ポリエステル系ウレタン樹脂からなる樹脂接着剤層と、単層又は複数層からなるアリルイソチオシアネート非透過層とを順に有し、全体としてアリルイソチオシアネート非透過性である積層体を、アリルイソチオシアネート非透過層を外側面に向けて、アリルイソチオシアネート放出体を密封する包装の一部又は全部に配するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アリルイソチオシアネートの揮散を手作業により任意に開始させることができる製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アリルイソチオシアネートは揮散性を有し、高い抗菌作用を発揮するため、抗菌剤としての利用が可能である。ただし、強い刺激性と透過性を有するため、アリルイソチオシアネートを保存する際にはガスバリア性の高い容器に収納することが必要であった。また、アリルイソチオシアネート放出体を取り出して使用する際には、強い刺激臭により目に痛みを感じたり、食品に対して抗菌剤として用いると独特の臭気が移行したりするといった問題もあった。
【0003】
一方、香料などの揮散性薬剤を封入し、必要な時点から揮散を開始できるようにすることは、揮散性薬剤に共通の課題であり、種々の方法が検討されている。特許文献1には、ガス透過性を有する主フィルム層と、ガス封止性を有する剥離フィルム層とを、溶融樹脂層で接着して作製した多層フィルムを製造し、この多層フィルムを、香料含有物を収容した収容容器の開口部に封着して密封した香料容器が記載されている。剥離フィルム層を剥離すると、香料の揮散が開始される。
【0004】
また、特許文献2には、複数層からなる複合フィルムからなり、層間の一部が接着されておらず、芳香物質を収容する空間を有するものが記載されている。その複合フィルムの一方面から、アルミ箔を含む外側のフィルムをはぎ取ることができ、外側フィルムをはぎ取った後に容器に付着したままの内側の層は、発泡ポリプロピレンとポリエチレンとからなり、芳香物質を透過する。
【0005】
さらに、特許文献3には、揮散性物質を収容し、開放側を有する金属性トレーの開放側を覆い、二軸配向ポリプロピレン膜からなる気体透過性の層と、そこに取り外し可能に接合された箔層とからなる蓋を備えた揮発性物質ディスペンサが揮散されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3383654号公報
【特許文献2】特許第2598605号公報
【特許文献3】特表2005−521442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法でアリルイソチオシアネートを封止しておくと、種類によっては接着剤を侵してしまい、アリルイソチオシアネート非透過層の剥離を待たずに、透過層と非透過層との間の接着剤層から漏れてしまう場合があった。また、積層体であるフィルムを用いる場合には、それ以外の層間の接着に用いる接着剤を侵してしまう場合もあった。これに対抗するために、アリルイソチオシアネートに対して耐性を有する接着剤を用いると、接着力が高すぎて、フィルムの剥離ができなくなって揮散を開始できなくなってしまった。
【0008】
そこでこの発明は、別途バリア袋を用意しなくても、アリルイソチオシアネート放出体を包装して適切に保存しておくことができ、かつ必要時には簡便な方法で揮散開始できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、単層又は複数層からなるアリルイソチオシアネート透過層と、ポリエステル系ウレタン樹脂を接着成分とする樹脂接着剤層と、単層又は複数層からなるアリルイソチオシアネート非透過層とを順に有し、全体としてアリルイソチオシアネート非透過性である積層体を、アリルイソチオシアネート非透過層を外側面に向けて、アリルイソチオシアネート放出体を密封する包装の一部又は全部に配する製剤により、上記の課題を解決したのである。なお、アリルイソチオシアネート放出体とは、アリルイソチオシアネートを多孔質体などの担体に担持させたものだけでなく、アリルイソチオシアネートそのものの単独体も含む。
【0010】
この発明の要点は、アリルイソチオシアネートに対して耐性のあるポリエーテル系ウレタン樹脂を用いるのではなく、あえてアリルイソチオシアネートに侵食されうるポリエステル系ウレタン樹脂を用いる点にある。この選択には、アリルイソチオシアネートが示す非常識な特性が影響している。まず、一般的に侵食を起こす化合物に対しては、ポリエーテル系樹脂接着剤よりも、ポリエステル系樹脂接着剤の方が耐薬品性に優れていることが知られている。ところが、アリルイソチオシアネートに対しては、ポリエーテル系樹脂接着剤の方が、ポリエステル系樹脂接着剤よりも耐薬品性を示すという特異な特徴を示す。この発明の検討にあたっては、その事実にまず行き当たった上で、さらに逆転の発想により、耐薬品性が比較的劣ることになるポリエステル系樹脂接着剤を用いることで初めて課題を解決しうるものとした。
【0011】
比較的耐アリルイソチオシアネート性に劣るポリエステル系ウレタン樹脂を層間接着剤として用いることで、保存期間中に、内側面にあるアリルイソチオシアネート透過層をアリルイソチオシアネートが透過して上記樹脂接着剤層の接着力を低下させることができる。ただし、ポリエステル系ウレタン樹脂の場合、上記樹脂接着剤層に蓄積するアリルイソチオシアネートの量が飽和した状態で、接着力の低下が初期時点の1/6程度で下げ止まるため、接着状態を維持しつつ、上記樹脂接着剤層よりも外側の層、すなわちアリルイソチオシアネート非透過層が容易に剥離可能になる。むろん、アリルイソチオシアネート非透過層を剥離した後はアリルイソチオシアネート透過層と、樹脂接着剤の一部が残存するのみであるので、これらを透過してアリルイソチオシアネートの揮散が可能になる。同じウレタン系樹脂であってもポリエーテル系ウレタン樹脂を用いた場合では、このように絶妙な接着力低下効果が起こらないため、アリルイソチオシアネート非透過層を剥離できなかったり、アリルイソチオシアネート透過層まで破ってしまったりするので利用できない。また、他の接着剤ではそもそもアリルイソチオシアネートの侵食に耐えきれず、接着状態を維持できない。つまり、ポリエステル系ウレタン樹脂と、アリルイソチオシアネートとの組み合わせでのみこの効果が実現できる。
【0012】
アリルイソチオシアネート透過層は、単層でも複数層からなるものでもよい。アリルイソチオシアネートの透過性、及び強度の点から、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが含まれていることが好ましい。アリルイソチオシアネート透過層が複数層からなるものである場合、その層間の接着はポリエーテル系ウレタン樹脂により接着するか、サーマルラミネートによるとよい。これらで接着した場合には、アリルイソチオシアネートによって接着力が低下しすぎることがなく、アリルイソチオシアネート透過層自体が剥離することがない。
【0013】
上記積層体のみでアリルイソチオシアネート放出体を収容してもよいし、アリルイソチオシアネート非透過性である開口容器に収容し、その開口部に上記積層体を貼り付けて密封してもよい。ただし、上記積層体同士を貼り合わせたり、上記積層体と上記開口容器とを貼り合わせたりする際には、ポリエーテル系ウレタン樹脂を接着剤として用いるか、熱溶着などにより接着すると、アリルイソチオシアネートによる接着力の低下が抑制できる。なお、上記積層体を密封する際の一部に用いる場合には、その他の部分、例えば積層体を貼り付けることになる容器がアリルイソチオシアネート非透過性でないと、密封が実現できない。
【0014】
上記積層体を上記開口容器に貼り合わせて用いる場合、上記積層体は開口容器の開口縁からはみ出したタブを有していて、そのタブから上記アリルイソチオシアネート非透過層を剥がせるようにしておくとよい。剥がし易くするには、タブに、上記アリルイソチオシアネート透過層側から、上記アリルイソチオシアネート非透過層近傍にまで切り込んだハーフカットを設けておくと、そのハーフカットから先を摘んで引き上げることで、容易にアリルイソチオシアネート非透過層を剥がすことができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明にかかる製剤より、アリルイソチオシアネートを必要な時点から容易に揮散開始させることができる。これにより、従来は必要となっていたガスバリア袋を用いなくても、それだけで保存時の密封を実現できる。また、アリルイソチオシアネート透過層とアリルイソチオシアネート非透過層との間に空間が無いため、アリルイソチオシアネートの揮散を開始させる際に、アリルイソチオシアネートガスの揮散量を最小限に抑制することができ、強い刺激臭と抗菌効果を与える対象物への着臭を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一の実施形態の断面図
【図2】第一の実施形態の積層体の拡大断面図
【図3】(a)第一の実施形態の積層体側から見た図、(b)ハーフカットを入れたタブ付近の断面図、(c)アリルイソチオシアネート非透過層を剥がした後の断面図
【図4】第一の実施形態でタブ部分にアリルイソチオシアネート透過層と樹脂接着剤層を設けないようにした例の断面図
【図5】第二の実施形態の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明について、具体的な実施形態を挙げつつ詳細に説明する。
図1は、第一の実施形態の断面図である。この実施形態はアリルイソチオシアネート放出体31を収容する開口容器32の開口部33に積層体11を貼り付けて封止したアリルイソチオシアネート揮散製剤である。なお、以下の記載でアリルイソチオシアネートを「AITC」と略記する。この実施形態を構成する積層体11の詳細と、その製造方法について説明する。
【0018】
積層体11は、AITC透過層12と、AITC非透過層14と、この層間を接着させる樹脂接着剤層13とからなり、AITC透過層12側が開口容器32に向いている。
【0019】
AITC透過層12は、単層又は複数層からなり、図2では二枚のフィルム15,16をサーマルラミネートした二層からなる実施形態を示している。AITC透過層12を構成するフィルムの材料としては、二軸延伸ポリプロピレンフィルムや、無延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、無延伸ポリエステルフィルムなどが挙げられる。この中でも特に、AITCの透過性と強度の点から、二軸延伸ポリプロピレンが少なくとも一層を構成していることが好ましく、フィルム15が熱溶着性を有しない場合、他の容器に積層体11を熱溶着させるための熱溶着層17として無延伸ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムなどを開口容器32側に面する最内層となるように貼り合わせた構成が好ましい。また、AITC透過層12が複数層からなる場合には、個々の層を構成するフィルム間の接着を、ポリエーテル系ウレタン樹脂を接着剤として用いて行うか、又はサーマルラミネートにより行うかのいずれかが望ましい。ポリエーテル系ウレタン樹脂以外のビニル系、アクリル系、又はポリエステル系ウレタン樹脂などの接着剤を用いて接着していると、フィルム間を透過するAITCにより接着力が低下し、その層間で剥離が生じてしまうおそれがある。なお、サーマルラミネートと熱溶着はいずれも加熱により接着するものであるが、本願ではフィルム同士の全面的な貼り合わせをサーマルラミネートと表記し、部分的な熱によるシールを熱溶着と表記する。複数層からなるものであると、AITC透過量が制御しやすくなるという利点があり、また、主として用いるフィルムが熱溶着性を有しない場合でも必要とするAITC透過量を阻害することなく熱溶着性を付与することもできる。
【0020】
AITC透過層12の厚さは、使用するフィルムの材料によって異なるが、層全体としては40μm以上200μm以下であるとよい。40μm未満であると強度が低すぎて破れる可能性が無視できないものとなる。一方で、200μmを超えると溶着強度が不十分であったり、溶着条件によってはAITC非透過層14に悪影響を与えたり、十分な透過量を確保できなくなる場合がある。また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを一部に用いる場合には、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚みを20μm以上100μm以下で用いるとよい。20μm未満では強度が低すぎて破れる可能性が無視できず、また、汎用性に乏しいため、入手しづらいという欠点もある。一方、100μmを超えると十分な透過性を確保できない場合がある。
【0021】
AITC透過層12全体のAITC透過量は、30℃条件下で100mg/m・24hr以上である必要があり、200mg/m・24hr以上20000mg/m・24hr以下であると好ましい。100mg/m・24hr未満では、透過層として透過量が不十分である。その値を満たしても200mg/m・24hr未満では、使用環境によっては十分な抗菌効果が得られない場合がある。一方で、20000mg/m・24hrを超える透過量は現実的ではなくなる。
【0022】
AITC非透過層14は、単層又は複数層からなり、層全体でのAITC透過量が30℃条件下で50mg/m・24hr以下である。図2では二枚のフィルム18,19を接着剤層20で接着させた三層からなる実施形態を示している。AITC非透過層14を構成するフィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂やエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PCDC)などをコーティングしたバリアフィルム、アルミ箔などが挙げられる。これらの、フィルムを複数層重ねると、突き刺しなどによるピンホールを防止したり、剥がす際の破れを防止したりすることができるので好ましい。特に、樹脂接着剤層13と接触する下層側のフィルム(図2ではフィルム18に相当する。)としてアルミ箔を用いると、AITC透過層12と樹脂接着剤層13を透過して上がってくるAITCに対して高い耐性を有し、変性を起こさずに遮断することができるので好ましい。
【0023】
単層でAITCの透過量が50mg/m・24hr以下となるフィルムの厚さは、材料によって異なる。アルミ箔の場合、厚みが7μm以上、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂の場合、厚みが12μm以上であればよい。
【0024】
また、樹脂接着剤層13側のフィルム18がアルミ箔やエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂のように高いAITC耐性、AITC遮断性を有するものである場合、それよりも表面側に積層するフィルムは、必ずしもAITC非透過性でなくてもよい。高い遮断性を有する一層だけで、それより表面側の層へのAITCの侵入をほぼ確実に防ぐことができるからである。なお、樹脂接着剤層13側のフィルムとして遮断性の高いフィルム18を有する場合、それよりも表面側の層(図2ではフィルム19に相当する。)は、インクによる印刷層や、その印刷層を保護するラミネート層などを含んでいてもよい。
【0025】
また、AITC非透過層14が複数層からなる場合に、樹脂接着剤層13と直接に接し、使用時には樹脂接着剤層13から剥離される面を構成する、アリルイソチオシアネート非透過性であるフィルム18がアルミ箔やエチレン−ビニルアルコール共重合体のように高いAITC耐性、AITC遮断性を有するものである場合、その複数層の接着剤層20に用いる接着剤は特に限定する必要はない。
【0026】
上記樹脂接着剤層13を構成する樹脂接着剤は、ポリエステル系ウレタン樹脂を接着成分とするものである必要がある。この樹脂接着剤の数平均分子量は1000以上15000以下であると好ましい。数平均分子量が1000未満であると接着力が不十分で、必要以上に剥がれやすくなってしまう場合がある。一方で、15000を超えると塗工しにくく、また、長期保存後でも剥離が十分に容易にはならない場合がある。この平均分子量は、用意する材料によって最初から実現しているのではなく、主剤と硬化剤との混合によって硬化反応を起こさせて実現するものでよい。
【0027】
上記樹脂接着剤層13を形成させて積層体11を得るには、上記AITC透過層12を構成する単層のフィルムの表面に、又は複数層のフィルムの積層体の表面に、刷毛塗りやローラによる転写などによりポリエステル系ウレタン樹脂を塗工した後、上記AITC非透過層14となる単層のフィルム又は複数層からなる積層体を貼り合わせることで実現できる。また、それとは逆にAITC非透過層14となるフィルム又は積層体上にポリエステル系ウレタン樹脂を塗工した後、AITC透過層12となるフィルム又は積層体を貼り合わせてもよい。なお、塗工の際には溶剤を用いてもよい。
【0028】
上記樹脂接着剤層13を構成する上記ポリエステル系ウレタン樹脂の塗工量は、ウェットで3g/m以上20g/m以下であると好ましい。3g/m未満ではAITC透過層12とAITC非透過層14との初期接着力が不十分となり、層間に蓄積するAITCによって接着力が低下するため、本来必要な接着強度を維持できないものとなってしまう。一方、20g/mを超えて塗工した場合、乾燥に時間を要するため生産速度が遅くなり、また、残留溶剤の可能性も高くなるため無駄である。
【0029】
具体的にこの発明で課題を達成するために実現すべき、低下した接着部分の剥離強度は、0.01N/15mm以上0.1N/15mm以下であるとよい。0.01N/15mm未満の場合、保管中、すなわち揮散を必要としないときにAITC非透過層14が剥離してしまう可能性が高く、0.1N/15mmを超えるとAITC非透過層14を剥離する際にAITC透過層12が破れてしまったり、剥がすことが困難となったりする場合がある。この調整は上記の塗工量と、用いる接着剤に添加する硬化剤の量、用いる接着剤の接着に関与するポリエステル系ウレタンの選択等により実現できる。
【0030】
このようにして形成した積層体11を、AITC放出体31を収容した開口容器32の開口部33を覆って密封するように貼り付ける。開口容器32は、ポリエチレンテレフタレートやエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂等のAITC耐性を有する樹脂を、少なくとも全面一層に配した樹脂などで形成したものであればよい。ここで全面一層とは、単層が上記樹脂からなるものでもよいし、積層された複数層のうち少なくとも一層を占めていて、AITCと直接接するものでもよいし、複数層のうち接していない層でもよいが、容器全周を覆うことのできる層に含まれているものである。開口部33にはフランジ34が設けてあり、このフランジ34に、積層体11のAITC透過層12側の面を貼り付ける。貼り付ける方法としては、AITC透過層12を構成する樹脂フィルムを熱溶着で接着させる方法が好ましい。接着剤を用いて接着すると、AITCによって接着力が低下してしまい、積層体11が丸ごと剥がれてしまうおそれがある。
【0031】
積層体11を貼り付けて密封した製剤は、保存している間に、AITC放出体31から気体のAITCが放出され、AITC透過層12を透過して樹脂接着剤層13にまで到達する。図2は、この状態における積層体11付近の拡大図であり、図中矢印は気体のAITCを示す。樹脂接着剤層13にまで到達したAITCは、樹脂接着剤層13を構成するポリエステル系ウレタン樹脂の接着強度を低下させ、樹脂接着剤層13とAITC非透過層14との間の接着力を低下させる。樹脂接着剤層13には飽和状態になるまでAITCが蓄積され、この飽和状態で、樹脂接着剤層13の接着力は初期接着力の約1/6まで低下する。これにより、ひとりでには剥離しないものの、人力を加えることで容易に剥離可能な状態となる。この接着力の低下効果は、AITC非透過層14の最も樹脂接着剤層13側の層を形成するフィルム(図2の18に相当する。)がアルミ箔であると、元々樹脂と接着しにくい材質であるため、特に効果的に発揮される。
【0032】
この積層体11のうち、AITC非透過層14のみを剥がして、AITC透過層12を開口容器32の開口部33に接着させたままとするには、積層体11の一部を開口部33のフランジ34からはみ出させたタブ25を形成させておくとよい。このタブ25の好ましい形態としては、例えば、以下のように図3や図4に示す形態が挙げられる。
【0033】
図3(a)は、タブ25に、AITC透過層12側面からハーフカット26を入れた形態の、積層体11の表面から見た図を示す。図3(b)は、そのタブ25近傍の断面図を示す。ハーフカット26はタブ25の根本近くに、開口容器32の縁に沿って設けてあり、ハーフカット26より先の部分は摘むことが可能な幅であることが必要となる。AITC透過層12側から入れたハーフカット26は、少なくとも樹脂接着剤層13までは到達している必要があり、途中までであればAITC非透過層14にまで切り込みが入っていてもよい。なお、AITC非透過層14にまで切り込みが入っている場合には、剥がす際にタブ25を摘んで引き上げたとき、ハーフカット26がAITC非透過層14の反対側、すなわち積層体11の表面にまで裂けることが無い程度の深さであることが必要である。
【0034】
上記のように樹脂接着剤層13にAITCが飽和状態になって接着力が低下した後、上記のような形態のタブ25を摘んで、積層体11を剥がす方向に引っ張ると、タブ25は全体が引っ張られるが、ハーフカット26よりもフランジ34側では、AITC非透過層14が剥がれてAITC透過層12が残る。この状態の断面図を図3(c)に示す。この状態で、残るAITC透過層12によってAITC放出体31自体がこぼれ落ちることは防止しつつ、ガス状のAITCを放出可能となる。
【0035】
図4は、積層体11のうちタブ25となる部分について、予めAITC透過層12を設けず、樹脂接着剤層13も設けずに、AITC非透過層14のみによって形成されるようにした形態の断面図を示す。この形態では、タブ25部分でAITC非透過層14を構成するフィルムだけを摘むことができるので、上記のように樹脂接着剤層13が飽和状態になって接着力が低下した後は、そのまま引っ張ることで、積層体11全体についてAITC非透過層14のみを剥がすことができ、剥がした後は同様にガス状のAITCを放出可能となる。
【0036】
次に、第二の実施形態について説明する。図5は、この実施形態にかかる袋45であるAITC揮散性剤の断面図である。この実施形態では、上記第一の実施形態で用いる積層体11と同様に、AITC透過層42、樹脂接着剤層43、AITC非透過層44を順に積層した積層体41を用い、二枚の積層体41で形成した袋45の中に、AITC放出体31を封入する。袋45を形成させる際、積層体41、41は、AITC透過層42、42が互いに向かい合うようにし、ドライラミネートによりAITC透過層42、42を構成する樹脂を接着させる。なお、図中、接着面46はドライラミネートの接着面を示す。
【0037】
この実施形態では、二枚ある積層体41のうち、少なくともいずれか片方の積層体41のAITC非透過層44を剥離すれば、AITCの揮散を開始させることができる。その具体的手段としては、積層体41のうちの一方を、他方からはみ出させ、そのはみ出させた部分の根本に、AITC透過層42から樹脂接着剤層43にまで切り込むハーフカット47を設けておくと、上記の図3と同様にはみ出させた部分を摘み、引っ張ることで、AITC非透過層44を剥がすことができる。
【0038】
以下、これら実施形態に限らず、発明全般について説明する。
この発明にかかるAITC揮散製剤の形態としては、上記の実施形態に限られるものではなく、保存時にはAITCの揮散を防ぎ、必要時には積層体11、41の表面にあるAITC非透過層14、44の少なくとも一部を剥離することで揮散を開始させることができるものであればよい。
【0039】
AITC非透過層14、44としてアルミ箔を用いる場合、樹脂接着剤層13、43を構成する樹脂接着剤には、アルミ箔への樹脂接着力を高めるために添加するシランカップリング剤を任意に添加することができる。シランカップリング剤の添加の有無により、剥離強度の微調整が可能となるためである。
【実施例】
【0040】
以下、この発明の具体的なアリルイソチオシアネート揮散製剤の実施例、及びその前段階となる積層シートの製造例について記載する。
【0041】
まず、使用するフィルムのAITC透過量を30℃条件下で測定した。その値を下記に列記する。
<透過層に使用しているフィルムのAITC透過量>
・厚さ20μm二軸延伸ポリプロピレンフィルム:4700mg/m・24hr
・厚さ40μm二軸延伸ポリプロピレンフィルム:2900mg/m・24hr
・厚さ20μm無延伸ポリプロピレンフィルム:11000mg/m・24hr
・厚さ40μm無延伸ポリエチレンフィルム:31000mg/m・24hr
<非透過層に使用しているフィルムのAITC透過量>
・厚さ25μm二軸延伸ポリエステルフィルム:25mg/m・24hr
・厚さ12μm二軸延伸ポリエステルフィルム:70mg/m・24hr
・厚さ9μmアルミ箔:10mg未満/m・24hr
【0042】
(製造例1)
ポリエステル系主剤(三井化学ポリウレタン(株)製:タケラックA−525S)と芳香族イソシアネート系硬化剤(同社製:タケネートA−3)を配合重量比率が10:1となるように混合し、酢酸エチルを溶剤とした樹脂接着剤を、乾燥後の塗布量が固形分で3g/mとなるように、厚さ25μm二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡績(株)製:T−4200、表中「二軸延伸PET」と略記する。)に塗布した。二軸延伸ポリエステルフィルムがAITC非透過層であり、塗布により形成させた層が樹脂接着剤層である。また、塗布の際には一部に未塗工部分を設けた。さらにその塗布により形成させた樹脂接着剤層の上に、AITC透過層となる20μm無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績(株)製:P−1128、表中「無延伸PP」と略記する。)を貼り合わせ、40℃にて3日間エージングを行った。得られた積層体を、幅15mm、長さ40mm(そのうち10mmは未塗工部)に切断し、AITC100mgを担持したセルロース粒子(レンゴー(株)製:ビスコパールAH−4050L)500mgと一緒にガスバリア性を有する幅80mm、長さ120mmのアルミ袋に入れて密封し、60℃で7日間保管した後、JISZ1702に準じて剥離強度を測定した。その値を表1に示す。
【0043】
【表1】

単位:N/15mm
【0044】
(製造例2)
製造例1で用いた25μm二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡績(株)製:T−4200)の変わりに、厚さ12μm二軸延伸ポリエステルフィルムと厚さ9μmアルミ箔とをポリエーテル系ウレタン樹脂接着剤層で接着させたものとした以外は、同様にして積層体を得て、同様の手順で剥離強度を測定した。その値を表1に示す。
【0045】
(実施例1)
製造例2で得られた積層体と同じ層構造であるシート2枚を、厚さ20μm無延伸ポリプロピレンフィルム同士が内側となるように重ね合わせ、熱溶着によって1辺が100mmの袋体を作製した。この袋体に、製造例1で用いたAITCを担持したセルロース粒子500mgを入れて密封し、60℃で7日間保管した後、引っ張り試験機にて剥離強度を測定した。その値を表1に示す。
また、得られた袋体を30℃の環境に放置して経時的に重量変化を測定し、その重量減少をAITCリーク量(透過量)とした。袋体の表面積をmあたりに換算した透過量は、10mg/m・24hr未満であった。
【0046】
(実施例2)
共押出しからなるポリプロピレン/エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂/ポリプロピレンの三層構成で、厚さ0.8μmの積層シートを真空成型することにより、中央に凹みとして内包部分を形成され、矩形開口部の周囲に縁を有し、その縁の一辺が100mmとなる成型容器を得た。この成型容器自体はAITC非透過性である。この成型容器内に、製造例1で用いたAITCを担持したセルロース粒子500mgを入れ、製造例2で製造した積層体を、AITC透過層となる20μm無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績(株)製:P−1128)側、すなわちAITC透過層側を成型容器に向け、成型容器の開口部の全周と重ねて、熱溶着によって密封した後、60℃で7日間保管した後、引っ張り試験機にて剥離強度を測定した。その値を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
実施例2において、AITC透過層に用いる厚さ20μm無延伸ポリプロピレンの代わりに、厚さ40μm無延伸ポリエチレンフィルム(東洋紡績(株)製:L6102、表中「無延伸PE」と略記する。)を用いた以外は実施例1と同様の試験を実施した。しかし、剥離の際に材料破壊は生じなかったものの、ポリエチレンフィルムが伸びてしまい、引っ張り試験の値が測定できず、外観上の問題を呈した。ただし、AITCの揮散は可能であった。なお、意図的に剥離の際の速度を速めて剥離したところ、伸びきらずに途中で破れが生じてしまった。
【0048】
(実施例4)
実施例2において、AITC透過層を、ポリエーテル系主剤(三井化学ポリウレタン(株)製:タケラックA−969)と芳香族イソシアネート系硬化剤(三井化学ポリウレタン(株)製:タケネートA−5)の配合重量比率が3:1となるように混合した樹脂接着剤によって厚さ20μm二軸延伸ポリプロピレンフィルムと厚さ20μm無延伸ポリプロピレンフィルムとを接着させた積層体に変更した以外は、実施例2と同様の試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0049】
(実施例5)
実施例1において、AITC非透過層から、厚さ9μmアルミ箔とポリエーテル系樹脂接着剤とを除き、厚さ12μm二軸延伸ポリエステルフィルムのみからなるAITC非透過層とした以外は、実施例1と同様の試験を実施した。その結果を表1に示す。また、得られた袋体を30℃の環境に放置して経時的に重量変化を測定し、その重量減少をAITCリーク量(透過量)とした。袋体の表面積をmあたりに換算した透過量は、95mg/m・24hrであった。
【0050】
(実施例6)
実施例1において、AITC非透過層から、厚さ12μm二軸延伸ポリエステルフィルムとポリエーテル系樹脂接着剤とを除き、厚さ9μmアルミ箔のみからなるAITC非透過層とした以外は、実施例1と同様の試験を実施した。その結果を表1に示す。また、得られた袋体を30℃の環境に放置して経時的に重量変化を測定し、その重量減少をAITCリーク量(透過量)とした。袋体の表面積をmあたりに換算した透過量は、21mg/m・24hrであり、アルミ箔単独の方が、二軸延伸ポリエステルフィルム単独の場合よりもリーク量が少なくなることがわかった。
【0051】
(比較例1)
製造例1で用いた樹脂接着剤の代わりに、ポリエーテル系主剤(三井化学ポリウレタン(株)製:タケラックA−969)と芳香族イソシアネート系硬化剤(三井化学ポリウレタン(株)製:タケネートA−5)の配合重量比率が3:1となるように混合した樹脂接着剤を用いた以外は、製造例1と同様にして積層体を得て、同様の試験を実施した。その値を表1に示す。なお、表中「材破」は20μm無延伸ポリプロピレンフィルムが破れたことを示し、接着力が低下しきらなかったことを意味する。以下、同じである。
【0052】
(比較例2)
製造例2で用いた樹脂接着剤の代わりに、比較例1で用いた樹脂接着剤を用い、製造例1と同様の試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0053】
(比較例3)
実施例1で用いた積層体の代わりに、比較例2で得た積層体を用いた以外は、実施例1と同様の試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0054】
(比較例4)
実施例2で用いた積層体の代わりに、比較例2で得た積層体を用いた以外は、実施例2と同様の試験を実施した。その結果を表1に示す。以上比較例1〜4により、ポリエーテル系ウレタン樹脂を、溶剤を用いるドライラミネートにより接着剤層を形成させても、剥離可能な接着力の低下は起きないことが示された。
【0055】
(比較例5)
製造例1で用いた樹脂接着剤の代わりに、無溶剤ラミネーション用接着剤であるポリエーテル系主剤(三井化学ポリウレタン(株)製:タケラックA−244B)と芳香族イソシアネート系硬化剤(三井化学ポリウレタン(株)製:タケネートA−244A)とを配合重量比率が5:10となるように混合したものを使用し、溶剤を用いないようにした以外は、製造例1と同様にして積層体を得て、製造例1と同様の試験を実施した。その結果を表1に示す。これにより、ポリエーテル系ウレタン樹脂を接着剤層に用いると、無溶剤のノンソルベントラミネート法であっても、剥離可能な接着力の低下は起きないことがわかった。
【0056】
(比較例6)
実施例2で用いた積層体の樹脂接着剤の代わりに、合成ゴム系接着剤(コニシ(株)製:G17)を用いた以外は、実施例2と同様の試験を実施した。その結果、保管中に接着剤層の一部に層間剥離が見られた。また、値は測定限界である0.01N/15mm未満となった。
【0057】
(参考例)
上記のそれぞれの例において、製造例1で用いたAITC100mgを担持したセルロース粒子を介在させずに同様の日数保管し、製造例1と同様の試験を実施したところ、結果は全て無延伸ポリプロピレンフィルム又は無延伸ポリエチレンフィルムが破断することとなり、接着強度は十分に高いままを維持していることがわかった。
【符号の説明】
【0058】
11,41 積層体
12,42 AITC透過層
13,43 樹脂接着剤層
14,44 AITC非透過層
15,16 (AITC透過性の)フィルム
17 熱溶着層
18 (AITC非透過性の)フィルム
19 フィルム
20 接着剤層
25 タブ
26、47 ハーフカット
31 AITC放出体
32 開口容器
33 開口部
34 フランジ
46 接着面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層又は複数層からなるアリルイソチオシアネート透過層と、ポリエステル系ウレタン樹脂を接着成分とする樹脂接着剤層と、単層又は複数層からなるアリルイソチオシアネート非透過層とを順に有し、全体としてアリルイソチオシアネート非透過性である積層体を、上記アリルイソチオシアネート非透過層を外側面に向けて、アリルイソチオシアネート放出体を密封する包装の一部又は全部に配し、
保存期間中に、内側面にあるアリルイソチオシアネート透過層をアリルイソチオシアネートが透過して上記樹脂接着剤層の接着力を低下させることにより、上記樹脂接着剤層よりも外側の層が容易に剥離可能になり、剥離後はアリルイソチオシアネートの揮散を可能にする、アリルイソチオシアネート揮散製剤。
【請求項2】
上記アリルイソチオシアネート透過層を構成する少なくとも一層が二軸延伸ポリプロピレンからなる層である請求項1に記載のアリルイソチオシアネート揮散製剤。
【請求項3】
上記アリルイソチオシアネート透過層が複数層を積層したものであり、それら複数層を構成するフィルム間の接着が、ポリエーテル系ウレタン樹脂、又はサーマルラミネートによる、請求項1又は2に記載のアリルイソチオシアネート揮散製剤。
【請求項4】
上記アリルイソチオシアネート非透過層の、上記樹脂接着剤層と接し、使用時には上記樹脂接着剤層から剥離される面を形成するアリルイソチオシアネート非透過フィルムがアルミ箔からなる請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアリルイソチオシアネート揮散製剤。
【請求項5】
上記積層体を、アリルイソチオシアネート放出体を収容したアリルイソチオシアネート非透過性である開口容器の開口部を覆うように熱溶着により貼り付けた、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアリルイソチオシアネート揮散製剤。
【請求項6】
上記積層体が上記開口容器の開口縁からはみ出したタブを有しており、そのタブに、上記アリルイソチオシアネート透過層側から上記樹脂接着剤層と上記アリルイソチオシアネート非透過層との間にまで切り込んだハーフカットを有する、又は、そのタブからは上記アリルイソチオシアネート透過層が排除された、請求項5に記載のアリルイソチオシアネート揮散製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74014(P2011−74014A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227104(P2009−227104)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】