説明

アリールアジド基を有する高分子重合開始剤およびこれを利用した環式オレフィン共重合体表面改質方法。

【課題】アリールアジド基を有する高分子重合開始剤を利用して、フォットグラフト方法と表面開始型原子移動ラジカル高分子重合反応を起こして環式オレフィン共重合体表面を改質する方法を提供する。
【解決手段】環式オレフィン共重合体表面改質方法は、下記化合物(式中、XはHまたはFであり、nは1から6の整数)を環式オレフィン共重合体基板表面に塗布し、前記基板に紫外線を照射し、前記環式オレフィン共重合体基板上に高分子を重合させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールアジド基を有する高分子重合開始剤およびこれを利用した環式オレフィン共重合体表面の改質方法に関し、より詳細には、アリールアジド基を有する高分子重合開始剤を利用して、フォットグラフト方法と表面開始型原子移動ラジカル高分子重合反応を起こして環式オレフィン共重合体表面を改質する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環式オレフィン共重合体(Cyclic Olefin Copolymer)は、環式オレフィンが高分子主鎖(backbone)の一部分になったオレフィン共重合体の一種である。前記環式オレフィン共重合体は、ガラスのような優秀である光学透明度、極性溶媒に対する抵抗性、電気的な特性、水分抵抗性を有する。前記環式オレフィン共重合体のガラス遷移温度(Tg:glass transition temperature)は、70℃〜180℃であり、ガラス遷移温度が高い状態で生産された環式オレフィン共重合体は、高い弾性率を有する。
【0003】
前記の環式オレフィン共重合体の物理的な特性によって、環式オレフィン共重合体の応用分野は、非常に多様である。前記環式オレフィン共重合体は、例えば、レンズ、キャパシティフィルム、食品および薬品の包装材、医学品箱、反射体、および光学複合体などに広く使用される。また、水分抵抗性が高い特性を利用して包装材として使用することができ、単層ポリエチレンを添加することによって摩擦封印特性を改善させることができる。前記環式オレフィン共重合体は、医薬分野でも極性溶媒や水分に高い抵抗性を有するという点および優秀である光学的な性質を有するという点を利用して、バイオチップに活用されることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国特許公開第2006−0049922号公報
【特許文献2】米国特許公開第2004−0028928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、環式オレフィン共重合体表面に結合することができるアリールアジド基を有する高分子重合開始剤を提供し、前記高分子重合開始剤を利用して環式オレフィン共重合体の表面を改質する方法を提供することである。
【0006】
また他の目的は、前記の方法に表面を改質した環式オレフィン共重合体基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、下記化学式1を有する高分子重合開始剤を含む。
【0008】
【化1】

【0009】
ここで、XはHまたはFであり、nは1から6の整数である。
【0010】
本発明は、前記化学式1を有する高分子重合開始剤を利用して環式オレフィン共重合体の表面を改質する方法を含む。
【0011】
本発明による環式オレフィン共重合体表面改質方法は、前記化学式1の化合物を環式オレフィン共重合体基板表面に塗布し、前記基板に紫外線を照射し、前記環式オレフィン共重合体基板上に高分子を重合させることを含む。
【0012】
前記化学式1の化合物は、スピンコーティングを利用して塗布されることができる。
【0013】
前記照射する紫外線は、200nmから300nm波長を有することができ、5〜60分間照射されることができる。望ましくは254nmの波長を有する。
【0014】
前記化学式1の化合物を前記環式オレフィン共重合体基板に塗布する前に前記環式オレフィン共重合体基板を酸素プラズマ処理することができる。また、前記酸素プラズマ処理段階の直前に前記環式オレフィン共重合体基板を洗浄することができ、前記洗浄段階は、超音波を加えて洗浄する段階であってもよい。
【0015】
前記高分子を重合させる段階は、高分子の単量体を遷移金属触媒を利用して原子移動ラジカル高分子重合反応を進行させる段階である。前記遷移金属触媒は、銅、パラジウム、ニッケル、鉄、ルテニウムの錯化合物であってもよく、前記高分子の単量体は、アクリル系、メタアクリル系、アクリルアミド系の単量体であってもよい。
【0016】
前記アクリル系の単量体は、オリゴ(エチレングリコール)メタクリルレートまたは(3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシドなどがあり、その結果、ポリ(オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリルレート)薄膜またはポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド)薄膜が形成された環式オレフィン共重合体基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
環式オレフィン共重合体と反応して結合することができるアリールアジド基を含む高分子重合開始剤を提供することによって、高分子重合開始剤を環式オレフィン共重合体表面に結合させる。また、前記高分子重合開始剤を利用して、環式オレフィン共重合体の表面に高分子薄膜を形成することによって、環式オレフィン共重合体の表面を改質する方法を提供する。
【0018】
前記したように、環式オレフィン共重合体の表面を改質することによって、環式オレフィン共重合体が有してない異なる官能基を導入することができるようになる。本発明は、前記表面改質過程で、フォットグラフト方法を利用することによって、パターニングすることができるので、共重合体の一部領域のみに薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】環式オレフィン共重合体基板に何の処理もしない状態で、基板表面と水との間の接触状態を撮影した写真である。
【図2】環式オレフィン共重合体基板の表面を酸素プラズマ処理した後に基板表面と水との間の接触状態を撮影した写真である。
【図3】高分子重合開始剤を前記プラズマ処理した環式オレフィン共重合体基板に固定した後に基板表面と水との間の接触状態を撮影した写真である。
【図4】エックス線光電子分光分析を通じたアリールアジド作用基を有する高分子重合開始剤化合物が固定およびコーティングされた環式オレフィン共重合体の窒素ピークグラフである。
【図5】エックス線光電子分光分析を通じたアリールアジド作用基を有する高分子重合開始剤化合物が固定およびコーティングされた環式オレフィン共重合体の臭素ピークグラフである。
【図6】環式オレフィン共重合体表面にポリ(オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリルレート薄膜が形成されたことを示す赤外線分光分析であり、(a)は、高分子重合開始剤にコーティングおよび固定された環式オレフィン共重合体の赤外線分光分析グラフであり、(b)は、前記高分子が形成された赤外線分光分析グラフである。
【図7】環式オレフィン共重合体表面に形成されたポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド)薄膜の赤外線分光分析グラフである。
【図8】高分子薄膜形成の前、アリールアジド作用基を有する高分子重合開始剤化合物が固定およびコーティングされた環式オレフィン共重合体表面の原子間力顕微鏡写真である。
【図9】環式オレフィン共重合体表面に形成されたポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド)薄膜形成後の環式オレフィン共重合体表面の原子間力顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が本発明の技術的な思想を容易に実施することができるように、本発明の最も望ましい実施形態を図面を参照して説明する。
【0021】
本発明では、環式オレフィン共重合体表面に高分子重合開始剤を固定し、前記高分子重合開始剤を利用して前記環式オレフィン共重合体表面に高分子を重合させることによって、環式オレフィン共重合体表面に薄膜を形成する。
【0022】
前記環式オレフィン共重合体表面に高分子重合開始剤を固定するために、紫外線を利用したフォトグラフト法(Photo−grafting method)を利用する。この際、使用される高分子重合開始剤は、環式オレフィン共重合体と反応が可能であるアリールアジド作用基を含む。前記フォトグラフト法では、紫外線光を利用して分子のラジカルを形成し、形成した分子のラジカルと対象物質の表面を共有結合に結合させる。フォトグラフトは、一部領域に光を照射して反応を進行させることができるので、多様な形態にパターニングすることができ、これを利用して多様な形態に表面吸着も可能になる。
【0023】
前記環式オレフィン共重合体表面に高分子重合開始剤が固定されると、表面開始型原子移動ラジカル重合方法(Surface−Initiated、Atom Transfer Radical Polymerization)を利用して環式オレフィン共重合体表面に高分子薄膜を形成する。表面開始型原子移動ラジカル重合反応は、基板上に高分子重合開始剤を先ず固定した後に、遷移金属触媒を利用して開始剤から高分子重合を発生させることによって、表面上に高分子薄膜を形成する反応である。
【0024】
前記の方法に形成した薄膜は、蛋白質と細胞などのような生体物質の非特異的な吸着を防止する機能を有する。非特異的な吸着というのは、特別な結合力無しに表面に吸着されることであり、前記薄膜が表面に形成されることによって前記生体物質の非特異的な吸着を防止する。
【0025】
以下、本発明による環式オレフィン共重合体表面の改質方法に対して詳細に説明する。
【0026】
先ず、本発明による高分子重合開始剤を説明する。前記高分子重合開始剤は、アリールアジド作用基を有し、内部にエチレングリコールが反復される形態の化合物として化学式1のような構造を有する。
【0027】
【化2】

【0028】
ここで、XはHまたはFであり、nは1から6の整数である。
【0029】
前記アリールアジド基は、以後に環式オレフィン共重合体と反応して結合を形成するようになる。前記エチレングリコール部分は、非特異的な吸着を防止する効果があり、反復回数によって非特異的な吸着の防止程度が調節されることができる。また、前記高分子重合開始剤の末端には、臭素が結合されていて、以後の臭素の分離によるラジカルの形成が容易である。
【0030】
前記の高分子重合開始剤の例としては、下記の化学式2および化学式3の構造を有する化合物がある。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
前記の化学式のアリールアジド基が含まれた高分子重合開始剤を利用して環式オレフィン共重合体表面に薄膜を形成して、表面を改質させる方法を詳細に説明すると次のようである。
【0034】
先ず、アリールアジド作用基を有する前記化学式1の高分子重合開始剤を極性溶媒に溶解させる。
【0035】
前記溶媒は、前記高分子重合開始剤を環式オレフィン共重合体の表面に容易に塗布するために適切な粘度を有する液状の形態に作るためである。前記アリールアジド作用基を有する高分子重合開始剤を溶解させるための溶媒としては、前記高分子重合開始剤を容易に溶解させて、以後段階で容易に除去することが可能であると、特別に限定されることではなく、多様な溶媒を使用することができる。望ましくは、水、メタノールまたはエタノールを単独、または混合して使用する。前記水、エタノールまたはメタノールは、前記高分子重合開始剤を容易に溶解させることができ、薄膜を形成しようとする目的物質の表面上に塗布し易く、スピンコーティング以後に容易に乾燥されて除去しやすい。
【0036】
前記高分子重合開始剤は、室温条件下で約1%濃度に溶解させることができる。この際、前記濃度は、重量対体積%であり、高分子重合開始剤(単位は、mg)とメタノールのような溶媒(単位は、μL)の比に該当する。
【0037】
次に、薄膜を形成しようとする目的物質である環式オレフィン共重合体基板を準備して洗浄する。ここで、前記環式オレフィン共重合体は、基板からなったことを称したが、基板の形態のみに限定されることではなく、環式オレフィン共重合体からなったことであると、基板の形態ではない多様な形態に形成されることができることは当然である。
【0038】
前記洗浄過程では、前記基板を先ずエタノールに漬した後、前記エタノールに超音波を加える方法を利用する。前記超音波洗浄は、表面上にありうる汚染物質を除去するためである。洗浄された前記基板は、以後に乾燥される。
【0039】
次に、乾燥された環式オレフィン共重合体基板を酸素プラズマ処理する。前記酸素プラズマ処理は、前記環式オレフィン共重合体の表面の特性を一時的に変化させるためである。酸素プラズマ処理されない環式オレフィン共重合体基板は、大部分炭素からなっているので、実質的に疎水性の表面を有する。疎水性表面を有する物質上に薄膜を形成する場合、均一である薄膜形成が難しくて、特に親水性を有する物質に塗布をする場合には、より不均一である分布に塗布される。これは、表面エネルギ差によることで、界面での反撥力が大きいためである。
【0040】
従って、環式オレフィン共重合体基板上に化合物、特に親水性化合物を均一に塗布するためには、表面を親水性に変える必要がある。前記環式オレフィン共重合体基板表面は、酸素プラズマ処理されると、ヒドロキシル基(−OH)を有するように一時的に変化される。前記ヒドロキシル基は、代表的な親水性官能基に該当し、結局、前記環式オレフィン共重合体基板が一定程度の親水性に変わるようになる。
【0041】
その次、プラズマ処理した環式オレフィン共重合体表面に前記高分子重合開始剤溶液をコーティングする。この際、前記環式オレフィン共重合体基板の炭素は、時間が経つことによって、ヒドロキシル基を失って元の状態に戻るので、酸素プラズマ処理後に前記基板の表面が一時的に親水性に変わった際に前記高分子重合開始剤を塗布する。この際、前記高分子重合開始剤溶液は、前記基板の親水性によって均一に塗布される。
【0042】
ここで、前記高分子重合開始剤は、前記基板全体に均一に塗布されることができることであると、多様な方法を利用して塗布することができる。例えば、スリットコーティング、ロールコーティング、グラビア印刷(gravure printing)などの多様な方法を利用することができ、簡単な段階に塗布が可能であるスピンコーティングが望ましい。
【0043】
また、前記高分子重合開始剤は、必要によって表面を改質しようとする所定領域のみに塗布されることができる。例えば、グラビア印刷を利用して、後に薄膜を形成しようとする所定領域のみに前記高分子重合開始剤を塗布することができる。
【0044】
前記高分子重合開始剤の溶媒は、塗布後に全てが蒸発して、基板の表面上には、高分子重合開始剤のみが残るようになる。
【0045】
その次に、前記高分子重合開始剤がコーティングされた環式オレフィン共重合体基板に紫外線を照射する。前記紫外線は、アリールアジド基と、オレフィン共重合体主鎖の架橋結合を発生させるためのことである。前記紫外線は、必要によって、表面を改質しようとする所定領域に対することのみを照射することができ、この場合、前記環式オレフィン共重合体の表面にパターニングされた形態に薄膜を形成することができる。
【0046】
前記アリールアジド基の環式オレフィン共重合体主鎖の架橋結合反応は、次の化学式4のようである。下記の反応式は、一実施形態として前記化学式2の高分子重合開始剤を利用したことを示した。
【0047】
【化5】

【0048】
前記化学式4に示すように、紫外線を照射するようになるとアリールアジド基の−N3でN2が分離されて、ラジカルが形成される。形成されたラジカルは、環式オレフィン共重合体表面と結合するようになる。これによって、前記高分子重合開始剤がアリールアジド基の反応を通じて前記環式オレフィン共重合体表面に固定される。
【0049】
アリールアジドと環式オレフィン共重合体主鎖の架橋結合を発生することに充分であるエネルギを加えることができる波長範囲を有する紫外線を照射する。約200nmから300nmの波長を利用して、紫外線を約5〜60分間照射してもよい。望ましくは、254nm程度の波長を有する紫外線を利用することができる。
【0050】
前記高分子重合開始剤が環式オレフィン共重合体表面に固定された以後には、前記高分子重合開始剤が固定された環式オレフィン共重合体表面を高分子単量体が含まれた溶液に漬して、遷移金属触媒を利用して原子移動ラジカル高分子重合反応を発生させる。
【0051】
原子移動ラジカル高分子重合法のメカニズムは、化学式5のようである。
【0052】
【化6】

【0053】
この際、ここで、前記高分子重合開始剤の末端基では、Brが分離されて、ラジカルが形成され、前記ラジカルを利用して異なる単量体Mと結合するようになり、このような反応が連続に進行されて結局、環式オレフィン共重合体表面に高分子Pがコーティングされるようになる。
【0054】
前記高分子重合反応で、一実施形態として銅錯化合物を触媒に使用することができ、必要によって異なる種類の遷移金属錯化合物、例えば、銅、パラジウム、ニッケル、鉄、ルテニウム錯化合物を触媒に使用することができる。
【0055】
この際、前記原子移動ラジカル重合反応を発生させる高分子薄膜形成用単量体は、特別に限定されることではなく、アクリル系、メタアクリル系、アクリルアミド系単量体が使用されることができる。例えば、オリゴ(エチレングリコール)メタクリルレート(Oligo(ethylene glycol)methacrylate)または(3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド((3−(methacryloylamino)propyl)−dimethyl(3−sulfopropyl)ammonium hydroxide)が使用されることができる。
【0056】
前記原子移動ラジカル高分子重合反応の結果、環式オレフィン共重合体の表面に高分子からなる薄膜が形成される。前記薄膜が形成された環式オレフィン共重合体基板は、以後に洗浄される。この際、使用される洗浄液には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどに単独に使用、或いは混合して使用することができる。
【0057】
以下、本発明の実験形態と実施形態を説明する。
【0058】
[実験形態1]
環式オレフィン共重合体基板の表面の状態による水に対する接触角を撮影した。図1は、環式オレフィン共重合体基板に何の処理もしない状態で基板表面と水との間の接触状態を撮影した写真であり、図2は、環式オレフィン共重合体基板の表面を酸素プラズマ処理した後に基板表面と水との間の接触状態を撮影した写真である。図3は、高分子重合開始剤を前記プラズマ処理した環式オレフィン共重合体基板に固定した後に基板表面と水との間の接触状態を撮影した写真である。二つの物質間の接触角は、基板の表面と水との間の接触状態を観察することによって測定することができる。前記接触角θの測定は、基板の表面に水滴を落とした後に基板の界面と水滴が形成する角度を測定して、表面の親水性および疎水性の程度を確認する方法に測定手続きが簡単で、容易に表面改質程度を分かることができて表面研究に広範囲に利用されている方法である。
【0059】
前記図1から図3を参考にすると、前記水と基板の接触角θの変化を通じて、前記環式オレフィン共重合体基板の表面特性の変化を確認することができる。
【0060】
図面を参照すると、疎水性である環式オレフィン共重合体基板の場合、表面処理前の接触角θ1が110°程度であるが、酸素プラズマ処理後に接触角θ2が約30°に減り、高分子重合開始剤を導入した後には接触角θ3が約40°程度に変わった。
【0061】
酸素プラズマ処理後には、親水性が強い表面が形成されるので、接触角が顕著に小さくなる。高分子重合開始剤コーティング以後には、開始剤の影響に相対的に親水性表面よりは疎水性を有する表面が形成されるので、接触角が少量増加するようになるが、何の処理もしない基板に比べては接触角が小さい。
【0062】
酸素プラズマ処理後に接触角が顕著に減ったことは、プラズマ処理過程で前記共重合体表面性質が親水性に変化したためであり、高分子重合開始剤導入後に少し増加したことは、前記開始剤の性質に起因したことである。
【0063】
[実験形態2]
環式オレフィン共重合体基板表面に高分子重合開始剤が導入されたのかの可否は、エックス線光電子分光分析(X−ray photoelectron spectroscopy)を通じても確認することができた。
【0064】
前記高分子重合開始剤を導入させた環式オレフィン共重合体基板をエックス線光電子分光分析を実行した結果、前記高分子重合開始剤のみに存在する元素である窒素と臭素ピークが各々399.1eV、69.8eVで観察された。前記結果は、高分子重合開始剤が前記共重合体基板によく固定されたことを示す。窒素ピークと臭素ピークのエックス線光電子分光分析結果は、各々図4、図5に示した。図4は、エックス線光電子分光学機分析を通じたアリールアジド作用基を有する高分子重合開始剤化合物が固定およびコーティングされた環式オレフィン共重合体の窒素ピークグラフであり、図5は、エックス線光電子分光学機分析を通じたアリールアジド作用基を有する高分子重合開始剤化合物が固定およびコーティングされた環式オレフィン共重合体の臭素ピークグラフである。
【0065】
[実施形態1]
環式オレフィン共重合体表面にポリ(オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリルレート(poly(oligo(ethylene glycol) methacrylate))薄膜を形成した。
【0066】
先ず、環式オレフィン共重合体基板を準備する。
【0067】
その次に、1mmolの臭化銅(I)(Copper Bromide、Cu(I)Br)143mgと2mmolの2、2'−ジピリジル(2、2'−dipyridyl)312mgを高分子反応容器に入れた。その次に、酸素機体を除去したアルゴンArの雰囲気下で脱酸素化(degassed)されたメタノール5.39mLと脱イオン水(deionized water)1.34mLを注入した。その後に、10mmolのオリゴ(エチレングリコール)メタクリルレート(Oligo(ethyleneglycol)methacrylate:OEGMA、分子量:〜360)3.27mLを前記高分子反応容器に注入して、高分子溶液を約5〜10分間混ぜた。高分子溶液の濃度は、1mmol濃度に調節した。
【0068】
異なる反応容器に前記高分子重合開始剤が固定された前記共重合体を入れて、アルゴン気体下で前記共重合体が前記高分子溶液に浸るように前記高分子溶液を注入した後、3時間の間、常温で反応させた。反応後、前記共重合体を洗浄剤に洗った。洗浄剤は、メタノールと蒸溜水を使用した。上のような方法にポリ(オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリルレート高分子薄膜を前記共重合体表面に形成した。
【0069】
[実験形態3]
本実験形態3では、実施形態1の環式オレフィン共重合体表面にポリ(オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリルレート薄膜が形成されたのかの可否を赤外線分光分析を利用して確認した。
【0070】
赤外線分光分析の結果、高分子重合開始剤が特徴的に有する元素間の結合振動エネルギであるC=Oストレッチング、C−Oストレッチングピークが各々1740、1170cm-1で生じたことを確認した。高分子重合後には、前記高分子が特徴的に有する元素間の結合振動エネルギC−Oストレッチングピークが1170cm-1で強度が大きくなったことを確認した。このようなピークの生成および強度の変化から高分子重合開始剤固定および前記高分子の薄膜形成を確認した。
【0071】
図6は、環式オレフィン共重合体表面にポリ(オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリルレート薄膜が形成されたことを示す赤外線分光分析に、(a)は、高分子重合開始剤にコーティングおよび固定された環式オレフィン共重合体赤外線分光分析グラフであり、(b)は、前記高分子が形成された赤外線分光分析グラフである。
【0072】
[実施形態2]
環式オレフィン共重合体表面にポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド)薄膜を形成した。
【0073】
高分子反応容器に8.55mmolの(3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド((3−(methacryloylamino)propyl)−dimethyl(3−sulfopropyl)ammonium hydroxide)2.5gと0.017mmolの臭化銅(II)(Copper Bromide、Cu(II)Br)0.0038g、そして0.427mmolの2、2'−ジピリジル0.0667gを高分子反応容器に入れた。その後、蒸溜水4mLとメタノール1mLを注入して、得られた混合物を4時間にわたって脱酸素化過程にかけた。
【0074】
4時間の面酸素化過程が過ぎた後に、0.171mmolの臭化銅(I)(Copper Bromide、Cu(I)Br)0.0245gを入れて、また10分の面酸素化過程を行った。この高分子溶液を前記高分子重合開始剤が固定された環式オレフィン共重合体が浸るように注入した後に常温で一定時間反応が発生するように維持した。反応後に前記共重合体を洗浄剤で洗った。洗浄剤には、水とメタノールを使用した。
【0075】
[実験形態4]
本実験形態4では、実施形態2の環式オレフィン共重合体表面にポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド薄膜が形成の可否を赤外線分光分析および原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)写真を通じて確認した。
【0076】
(1)赤外線分光分析
環式オレフィン共重合体表面に形成されたポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド高分子薄膜は、赤外線分光分析を通じて確認した。分析の結果、ポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド薄膜が特徴的に有する元素間の結合振動エネルギであるC=Oストレッチング、N−Hベンディング、S=Oの対称形ストレッチングピークが各々1623cm-1、1570cm-1、1220cm-1で確認された。
【0077】
図7は、環式オレフィン共重合体表面に形成されたポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド)薄膜の赤外線分光分析グラフである。
【0078】
(2)原子間力顕微鏡写真
環式オレフィン共重合体表面に形成されたポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド高分子薄膜は、原子間力顕微鏡写真分析を通じて間接的に確認した。
【0079】
前記高分子形成の前後の原子間力顕微鏡写真を比較することで、間接的に前記共重合体表面の変化があることを分かる。
【0080】
図8は、高分子薄膜形成前、アリールアジド作用基を有する高分子重合開始剤化合物が固定およびコーティングされた環式オレフィン共重合体表面の原子間力顕微鏡写真である。図9は、環式オレフィン共重合体表面に形成されたポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド)薄膜形成後の環式オレフィン共重合体表面の原子間力顕微鏡写真である。
【0081】
図面を参照すると前記高分子形成前の絵では表面が荒くて変化が激しかったが、前記高分子形成後に前記共重合体の表面が高度に滑らかになったことが観察することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式1
【化1】

(式中、XはHまたはFであり、nは、1から6の整数である)を有することを特徴とする高分子重合開始剤。
【請求項2】
下記化学式1の化合物
【化2】

(式中、XはHまたはFであり、nは1から6の整数である)を環式オレフィン共重合体基板表面に塗布する段階と、
前記環式オレフィン共重合体基板に紫外線を照射する段階と、
前記環式オレフィン共重合体基板上に高分子を重合させる段階と
を含むことを特徴とする環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項3】
前記化学式1の化合物を前記環式オレフィン共重合体基板に塗布する前に前記環式オレフィン共重合体基板を酸素プラズマ処理する段階をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項4】
前記酸素プラズマ処理段階の直前に前記環式オレフィン共重合体基板を洗浄する段階をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項5】
前記洗浄段階は、超音波を加えて洗浄する段階であることを特徴とする請求項4に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項6】
前記紫外線は、200nmから300nmの波長に、5〜60分間照射されることを特徴とする請求項2に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項7】
前記塗布する段階は、スピンコーティングする段階であることを特徴とする請求項2に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項8】
前記高分子を重合させる段階は、高分子の単量体を遷移金属触媒を利用して、原子移動ラジカル高分子重合反応を進行させる段階であることを特徴とする請求項2に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項9】
前記遷移金属触媒は、銅錯化合物、パラジウム錯化合物、ニッケル錯化合物、鉄錯化合物、またはルテニウム錯化合物であることを特徴とする請求項8に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項10】
前記高分子の単量体は、アクリル系単量体、メタアクリル系単量体、またはアクリルアミド系単量体であることを特徴とする請求項8に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項11】
前記アクリル系単量体は、オリゴ(エチレングリコール)メタクリルレートまたは(3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシドであることを特徴とする請求項10に記載の環式オレフィン共重合体表面改質方法。
【請求項12】
ポリ(オリゴ(エチレングリコール)メチルメタクリルレート)薄膜が形成された環式オレフィン共重合体。
【請求項13】
ポリ((3−(メタクリロイルアミノ)プロピル)−ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド)薄膜が形成された環式オレフィン共重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−132868(P2010−132868A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215743(P2009−215743)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(596180076)韓國電子通信研究院 (733)
【氏名又は名称原語表記】Electronics and Telecommunications Research Institute
【住所又は居所原語表記】161 Kajong−dong, Yusong−gu, Taejon korea
【出願人】(504441831)コリア アドバンスド インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (15)
【Fターム(参考)】