説明

アリールエーテルの製造方法

本発明は、式(IV)の化合物を製造するための鏡像異性体選択的方法を含む:(a)式(I)の化合物(式中、R1およびmは前記に定めたものである)を酸化剤で光学活性化合物の存在下に不斉エポキシ化して、光学活性エポキシド(式中、R1およびmは前記に定めたものである)を製造し、続いて(b)この光学活性エポキシドとフェノール誘導体を塩基の存在下で反応させ;その際、この方法は光学活性エポキシドを単離せずに実施される。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、特定のアリールエーテルを製造するための改良法に関する。本発明はまた、この方法に有用な中間体、およびそれらの中間体の製造方法に関する。
【0002】
発明の背景
USP 4,229,449には、式(A)の化合物:
【0003】
【化1】

【0004】
またはその医薬的に許容できる塩が開示されている:
式中:
nおよびn1は、独立して1、2または3であり;
基RおよびR1は、それぞれ同一でも異なってもよく、水素;ハロゲン;ハロ-C1-C6アルキル;ヒドロキシ;C1-C6アルコキシ;置換されていてもよいC1-C6アルキル;置換されていてもよいアリール-C1-C6アルキル;置換されていてもよいアリール-C1-C6アルコキシ;-NO2;NR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)であり;あるいは隣接する2つのR基または隣接する2つのR1基が一緒になって-O-CH2-O-基を形成し;
R2は、水素;置換されていてもよいC1-C12アルキル、またはアリール-C1-C6アルキルであり;
基R3およびR4は、それぞれ同一でも異なってもよく、水素、置換されていてもよいC1-C6アルキル、C2-C4アルケニル、C2-C4アルキニル、置換されていてもよいアリール-C1-C4アルキル、置換されていてもよいアリール-C3-C7シクロアルキルであり;あるいはR3およびR4は、それらが結合している窒素原子と共に、置換されていてもよい5原子または6原子の飽和または不飽和ヘテロ単環式基を形成し、これはO、SおよびNのクラスに属する他のヘテロ原子を含有してもよく;
あるいはR3とR4は、一緒になって-CH2-CH2-基を形成する。
【0005】
これらの化合物は抗うつ活性をもつことが開示されている。
特に、USP 4,229,449には化合物:
2-[α-(2-エトキシフェノキシ)ベンジル]モルホリン:
【0006】
【化2】

【0007】
またはその医薬的に許容できる塩が開示されており、これは有用な抗うつ特性をもつ。この化合物は、レボキセチン(reboxetine)としても知られている。
レボキセチンは大部分の抗うつ薬と同様に作用するのではない。三環系抗うつ薬、さらに選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)と異なり、レボキセチンは8-OH-DPAT低体温試験において無効であり、これはレボキセチンがSSRIではないことの指標となる。参照:Brian E. Leonard, ”うつ病の基本モデルにおけるノルアドレナリン”, European - Neuropsychopharmacol. 7 Suppl. 1 pp, S11-6およびS71-3 (1997年4月)、その全体を本明細書に援用する。レボキセチンは選択的ノルエピネフリン再取込み阻害薬であり、セロトニン再取込み阻害活性は最低限にすぎず、ドーパミン再取込み阻害活性はない。レボキセチンは種々の動物モデルにおいて抗コリン作動性結合活性を示さず、実質的にモノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害活性をもたない。
【0008】
多数の有機化合物が光学活性形態で存在し、すなわちそれらは平面偏光面を回転させる能力をもつ。光学活性化合物を記載する際、そのキラル中心の周りにおける分子の絶対立体配置を表わすために接頭辞RおよびSを用いる。接頭辞DおよびL、または(+)もしくは(-)は、その化合物による平面偏光の回転の記号を表示し、Lまたは(-)はその化合物が左旋性であることを示す。これに対し、接頭辞Dまたは(+)を付けた化合物は右旋性である。絶対立体化学についての命名と鏡像異性体の回転についての命名の間に相関性はない。たとえばD-乳酸は(-)-乳酸と同一であり、L-乳酸は(+)-乳酸と同一である。特定の化学構造について、一対の鏡像異性体は、互いに重ね合わせることができない鏡像であること以外は、それぞれ同一である。個々の立体異性体を鏡像異性体と呼ぶこともでき、それらの異性体の混合物はしばしば鏡像異性体混合物またはラセミ混合物と呼ばれる。
【0009】
1つの分子に2つのキラル中心がある場合、4種類の立体異性体の可能性がある:(R,R)、(S,S)、(R,S)および(S,R)。これらのうち、(R,R)と(S,S)は一対の鏡像異性体(互いに鏡像)の例であり、これらは一般に他の鏡像異性体対と同様に化学的特性および融点が共通である。しかし、(R,R)および(S,S)の鏡像を(R,S)および(S,R)に重ね合わせることはできない。この関係をジアステレオ異性と呼び、(S,S)分子は(R,S)分子のジアステレオ異性体であり、一方(R,R)分子は(S,R)分子のジアステレオ異性体である。
【0010】
化学的には、レボキセチンは2つのキラル中心をもち、2つの鏡像異性体対のジアステレオマー、すなわち(R,R)および(S,S)鏡像異性体対、ならびに(R,S)および(S,R)鏡像異性体対として存在する。現在、レボキセチンは鏡像異性体(R,R)と(S,S)の1:1比率のラセミ混合物としてのみ市販されており、本明細書中で一般名”レボキセチン”という表現は、この鏡像異性体混合物、すなわちラセミ混合物を表わす。レボキセチンは商品名EDRONAX(商標)、PROLIFT(商標)、VESTRA(商標)およびNOREBOX(商標)で市販されている。
【0011】
現在、レボキセチンの(S,S)-鏡像異性体は、セロトニンの再取込みよりノルエピネフリンの再取込みに対して大幅に改善された選択性をもつことが知られている(参照:WO 01/01973、その全体を援用する)。したがってWO 01/01973には、ノルエピネフリンの再取込みを選択的に阻害する方法が開示されており、その方法は療法有効量の組成物を個体に投与する工程を含み、その組成物はセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性、少なくとも約5000をもつ化合物を含む。その明細書には、(S,S)-レボキセチンの新規用途がさらに多数開示されており、これには慢性疼痛、末梢神経障害、失禁(ストレス性失禁、真性ストレス性失禁、および混合型失禁を含む)、線維筋痛その他の身体形態障害、および偏頭痛の治療における(S,S)-レボキセチンの使用が含まれる。
【0012】
USP 5,068,433および5,391,735、ならびにGB-A-2162517には、式VIbの化合物の単一ジアステレオマーの製造に有用な方法および中間体が開示されている:
【0013】
【化3】

【0014】
式中、Rは、C1-C6アルコキシまたはトリハロメチルである。これらのジアステレオマーは、レボキセチンを含めた式Aの化合物の製造に有用な中間体であると開示されている。しかし、これらの特許およびUSP 4,229,449に開示される方法は非効率的であり、商業的規模で実施した場合に得られる式Aの化合物の全収率は低い。さらに、これらの方法は高価な試薬の使用を必要とし、著しい製造時間を必要とする。したがって、これらの特許に開示される方法を用いて式Aの化合物を商業的規模で実施するのは経済的でない。
【0015】
WO 00/39072は、式VIIaのアミン:
【0016】
【化4】

【0017】
を製造するための下記の工程を含む方法を提供する:
a)置換されていてもよいトランス-シンナミルアルコールを酸化して、式Iaの中間体エポキシド:
【0018】
【化5】

【0019】
を製造し;
b)このエポキシドと置換されていてもよいフェノールを反応させて、式IIaのジオール:
【0020】
【化6】

【0021】
を製造し;
c)このジオールとシリル化試薬を反応させて、式IIIaのアルコール:
【0022】
【化7】

【0023】
(式中、Pはシリル結合基である)を製造し;
d)式IIIaのアルコールとスルホン酸の反応性誘導体を反応させて、式IVaの化合物:
【0024】
【化8】

【0025】
(式中、Raはスルホン酸残基である)を製造し;
e)式IVaの化合物からPを除去して、式Vaのアルコール:
【0026】
【化9】

【0027】
を製造し;
f)スルホニルオキシ基を置換して、式VIaのエポキシド:
【0028】
【化10】

【0029】
を製造し;そして
g)このエポキシドとアンモニアを反応させて、式VIIaの化合物を製造する。
WO 00/39072は、前記アミンからラセミ体レボキセチンを製造するための下記の工程を含む方法も提供する:
h)式VIIaの化合物
【0030】
【化11】

【0031】
と式HOOCCH2Lのカルボン酸またはその反応性誘導体(式中、Lは脱離基である)を反応させて、式VIIIaのアミド:
【0032】
【化12】

【0033】
を製造し;
i)式VIIIaの化合物を反応させて、式IXaの化合物:
【0034】
【化13】

【0035】
を製造し;そして
j)式IXaの化合物を還元して、対応する次式の化合物:
【0036】
【化14】

【0037】
を製造する;
前記の各式において、R、R1、nおよびn1は、前記のUSP 4,229,449中に定義されたものである。
【0038】
以上の刊行物はすべて、レボキセチンの製造方法を開示し、(R,R)-および(S,S)-鏡像異性体のラセミ混合物の形の化合物に関するものである。より有効な(S,S)-鏡像異性体を単離するためには、追加の分割工程が必要である。
【0039】
(S,S)-レボキセチン合成の別法がGB-A-2167407に記載されている。この明細書には、キラルフェニルグリシド酸から出発する(S,S)-レボキセチンのキラル合成が開示されている。しかし、フェニルグリシド酸の適切なキラル合成法はないので、このキラル酸は分割により製造しなければならず、これは非効率的である。後続のフェニルグリシドールへの還元は収率が低い。この工程に続くGB-A-2167407に記載の合成は、ラセミ合成に相当する:前記のように、この合成は低い選択性を示し、低収率で非効率的である。
【0040】
目的外の(R,R)-鏡像異性体の生成が避けられ、先行技術の合成法により可能なものより効率的に、より高い収率および純度で(S,S)-レボキセチンを製造できる、(S,S)-レボキセチン製造に有用な(S,S)-アリールエーテルの鏡像異性体選択的合成法を提供することが望ましい。
【0041】
本発明者らは意外にも、本発明による新規な合成法によれば(S,S)-レボキセチン合成に有用な中間体を鏡像異性体選択的に、効率的に、かつ高い収率および純度で製造しうることを見いだした。
【0042】
発明の概要
1観点において本発明は、式(IV)の化合物:
【0043】
【化15】

【0044】
[式中:
nおよびmは、独立して0または1〜5の整数であり;
基RおよびR1は、それぞれ同一でも異なってもよく、下記のものであり:ハロゲン;ハロ-C1-C6アルキル;ヒドロキシ;C1-C6アルコキシ;C1-C6アルキル:これはハロゲン、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、NR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)または-CONR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;アリール-C1-C6アルキル:ここでアリール環は、C1-C6アルキル、ハロゲン、ハロ-C1-C6アルキル、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、およびNR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;アリール-C1-C6アルコキシ:ここでアリール環は、C1-C6アルキル、ハロゲン、ハロ-C1-C6アルキル、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、およびNR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;-NO2;NR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである);あるいは隣接する2つのR基または隣接する2つのR1基が一緒になって-O-CH2-O-基を形成する]
の製造方法であって、
(a)式(I)の化合物:
【0045】
【化16】

【0046】
(式中、R1およびmは前記に定めたものである)を酸化剤で光学活性化合物の存在下に不斉エポキシ化して、式(II)の化合物:
【0047】
【化17】

【0048】
(式中、R1およびmは前記に定めたものである)を製造し、続いて
(b)式(II)の化合物と式(III)の化合物:
【0049】
【化18】

【0050】
(式中、Rおよびnは前記に定めたものである)を塩基の存在下で反応させる
ことを含み、
その際、式(II)の化合物を単離せずに実施される方法を提供する。
【0051】
本発明者らは意外にも、式(II)の化合物を単離せずに工程(a)と(b)を連続して実施すると、式(IV)の化合物を鏡像異性体選択的に、かつ良好な収率および純度で製造しうることを見いだした。式(II)の化合物をその合成に用いた試薬から単離して仕上げ処理する必要があると考えられていたので、これは予想に反する;これらの試薬の存在は式(IV)の化合物の合成および精製を妨害すると予想されていたのである。
【0052】
本発明はさらに、式(IX)の化合物:
【0053】
【化19】

【0054】
(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものである)
の製造方法であって、
(a)式(IV)の化合物を前記方法に従って製造し;
(b)式(IV)とシリル化剤を反応させて、式(V)の化合物:
【0055】
【化20】

【0056】
(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものであり、Pはシリル保護基である)を製造し;
(c)式(V)の化合物と式R'SO2Xのスルホニル化剤(式中、R'はスルホン酸残基であり、Xは脱離基である)を反応させて、式(VI)の化合物:
【0057】
【化21】

【0058】
(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものであり、Pは前記に定めたものであり、R'はスルホン酸残基である)を製造し;
(d)シリル保護基を除去して、式(VII)の化合物:
【0059】
【化22】

【0060】
(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものであり、R'は前記に定めたものである)を製造し;
(e)スルホニルオキシ基を置換して、式(VIII)の化合物:
【0061】
【化23】

【0062】
(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものである)を製造し;そして
(f)式(VIII)の化合物とアンモニアまたはアンモニウム化合物を反応させて、式(IX)の化合物を製造する
ことを含む方法を提供する。
【0063】
好ましくは、この方法は式(V)、(VI)、(VII)および(VIII)の化合物を単離せずに実施される。
他の観点において、本発明は式(V)の化合物:
【0064】
【化24】

【0065】
(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものであり、Pはシリル保護基である)を提供する。
他の観点において、本発明は式(VI)の化合物:
【0066】
【化25】

【0067】
(式中、R、R1、n、m、PおよびR'は前記に定めたものである)を提供する。
好ましい態様の詳細な記述
式(I)〜(IX)の化合物において、基RおよびR1は、それぞれ同一でも異なってもよく、下記のものであり:ハロゲン;ハロ-C1-C6アルキル;ヒドロキシ;C1-C6アルコキシ;C1-C6アルキル:これはハロゲン、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、NR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)または-CONR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;アリール-C1-C6アルキル:ここでアリール環は、C1-C6アルキル、ハロゲン、ハロ-C1-C6アルキル、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、およびNR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;アリール-C1-C6アルコキシ:ここでアリール環は、C1-C6アルキル、ハロゲン、ハロ-C1-C6アルキル、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、およびNR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;-NO2;NR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである);あるいは隣接する2つのR基または隣接する2つのR1基が一緒になって-O-CH2-O-基を形成する;nおよびmは、独立して0または1〜5の整数である。
【0068】
用語”アルキル”は、1〜6個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基を意味する。
用語”ハロアルキル”は、前記に定義したアルキル基が1個以上のハロゲン原子により置換されたものを意味する。
【0069】
用語”アルコキシ”は、”アルキル-O-”を意味し、ここでアルキル基は前記に定義したものである。
用語”アリール”は、フェニル基またはナフチル基を意味する。
【0070】
適切には、基RおよびR1は、同一でも異なってもよく、ヒドロキシおよびC1-C6アルコキシから選択される。好ましくは、Rはメトキシまたはエトキシ、より好ましくはエトキシである。
【0071】
好ましくは、nは1または2、より好ましくは1である。
好ましくは、mは0または1、より好ましくは0である。
特に好ましい態様において、nは1であり、mは0であり、Rはフェニル環の2-位にあるエトキシである。
【0072】
工程1
本発明方法は、式(I)の化合物を酸化剤で光学活性化合物の存在下に不斉エポキシ化して、式(II)の化合物の(R,R)-鏡像異性体を製造することから開始する。
【0073】
式(I)の化合物の不斉エポキシ化は、酸化剤を用いて光学活性化合物の存在下で達成される。酸化剤および光学活性化合物が前記オレフィンのエポキシ化を不斉様式で達成して式(II)の化合物の(R,R)-鏡像異性体を製造しうる限り、それらの厳密な性質は決定的ではない。酸化剤自体が光学活性であってもよく、その場合、別個の光学活性化合物を供給する必要はない。
【0074】
適切な酸化剤の例には、ヒドロペルオキシド類、たとえばt-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、α,α-ジメチルフェニルヒドロペルオキシド、ビスジイソブチル-2,5-ジヒドロペルオキシド、1-メチルシクロヘキシルヒドロペルオキシド、もしくはシクロヘキシルヒドロペルオキシド、またはジオキシラン類、特にYian Shi et al. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 11224-11235により記載されたタイプのキラルジオキシラン類が含まれる。キラルジオキシラン類の場合、ジオキシラン自体がキラルであるので、別個の光学活性化合物を供給する必要はない。
【0075】
適切な光学活性化合物の例には、光学活性有機酸の塩およびエステル、特に酒石酸エステルが含まれる。特に好ましい光学活性化合物の例は、(-)-酒石酸ジイソプロピルである。
【0076】
この反応は、他の試薬の存在下で実施することもでき、その例にはチタンアルコキシド、たとえばチタンメトキシド、エトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、n-、s-、l-またはt-ブトキシドが含まれる。チタンイソプロポキシドが好ましい。
【0077】
不斉エポキシ化をJ. Am. Chem. Soc., 1980, 102, 5974-5976(”Sharpless不斉エポキシ化”)条件下で実施するのが特に好ましい。この場合、酸化剤はt-ブチルヒドロペルオキシドであり、光学活性化合物は(-)-酒石酸ジイソプロピルであり、反応はチタンイソプロポキシドの存在下で実施される。この操作についての情報はさらにUSP 4,471,130およびK.B.Sharpless et al., J. Am. Chem. Soc. 1987, 110, 5765-5780中にある。
【0078】
この反応は、普通は溶媒の存在下で実施するのが好ましい。その性質は、反応に対して不活性であり、かつ反応体を少なくともある程度は溶解しうる限り、特に決定的ではない。適切な溶媒の例には、脂肪族炭化水素、たとえばペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類およびオクタン類、ノナン類、またはデカン類、芳香族炭化水素、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレン類、ハロゲン化炭化水素、たとえば塩化メチレン、クロロホルムおよび1,2-ジクロロエタン、エーテル類、たとえばメチルt-ブチルエーテル、ならびにその混合物が含まれる。溶媒は塩化メチレンと脂肪族炭化水素の混合物であることが好ましい。
【0079】
反応温度は種々の要因、たとえば試薬の性質および溶媒に依存する。しかし、温度は一般に-50℃から室温まで、好ましくは-30〜0℃である。
反応時間は種々の要因、たとえば試薬の性質、溶媒および温度に依存する。しかし、反応時間は一般に10分から24時間まで、好ましくは30分から12時間まで、より好ましくは1〜6時間である。
【0080】
この反応は、好ましくは無水条件下で実施される。存在する水を吸収するために、反応混合物中にモレキュラーシーブが存在することが好ましい。
反応終了後に、存在する過剰の酸化剤を失活させるために一般に失活剤を添加する。慣用される大部分の失活剤が無効であるか、あるいはそれらの存在下では生成物が不安定であるので、失活剤の性質は重要である。好ましい失活剤は、亜リン酸(C1-C6)アルキル、たとえば亜リン酸トリメチルおよび亜リン酸トリエチルである。亜リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0081】
式(II)の化合物を反応混合物から単離しない。むしろ、式(II)の化合物および失活剤を含有する反応混合物を次の工程で式(III)の化合物と直接反応させる。
工程2
次の工程では、式(II)の化合物と式(III)の化合物を塩基の存在下で反応させる。
【0082】
塩基が塩基として作用しうる限り、その性質は特に決定的ではない。適切な塩基の例には、アルカリ金属水酸化物、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム、水酸化テトラ(C1-C6)アルキルアンモニウム、たとえば水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウム、アルカリ金属炭酸塩、たとえば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウムおよび炭酸セシウム、ならびに有機アミン、たとえばトリメチルアミンおよびトリエチルアミンが含まれる。アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0083】
この反応は、普通は溶媒の存在下で実施するのが好ましい。その性質は、反応に対して不活性であり、かつ反応体を少なくともある程度は溶解しうる限り、特に決定的ではない。適切な溶媒の例には、水、アミド、たとえばジメチルホルムアミド、DMAおよびNMP、脂肪族炭化水素、たとえばペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類およびオクタン類、芳香族炭化水素、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレン類、ハロゲン化炭化水素、たとえば塩化メチレン、クロロホルムおよび1,2-ジクロロエタン、エーテル類、たとえばテトラヒドロフラン、メチルt-ブチルエーテル、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、およびジメトキシエタン、ならびにその混合物が含まれる。溶媒は、塩化メチレンと水の二相混合物であることが好ましい。
【0084】
この反応は、好ましくは相間移動触媒の存在下で実施される。その機能は、塩基性アニオン、たとえばヒドロキシドイオンを有機層内へ移動させることである。適切な相間移動触媒の例には、テトラ(C1-C6)アルキルアンモニウム塩およびベンジルトリ(C1-C6)アルキルアンモニウム塩、たとえばテトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドおよびベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが含まれる。テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0085】
反応温度は種々の要因、たとえば試薬の性質、塩基および溶媒に依存する。しかし、温度は一般に室温から80℃まで、より好ましくは35〜70℃である。
反応時間は種々の要因、たとえば試薬の性質、溶媒および温度に依存する。しかし、反応時間は一般に10分から24時間まで、好ましくは30分から12時間まで、より好ましくは1〜6時間である。
【0086】
反応終了後に、式(IV)の化合物を反応混合物から常法により単離する。たとえばこの化合物を有機溶媒で抽出し、存在するイオン種を除去するために有機層を水性溶液、たとえば水、水酸化ナトリウムまたは塩化ナトリウムで洗浄し、濾過して固体を除去し、濃縮して溶媒を除去することができる。生成物を常法により、たとえば結晶化またはカラムクロマトグラフィーにより、さらに精製することができる。
【0087】
工程3
この工程では、式(IV)のアリールエーテルをシリル化して、式(V)の化合物を製造する。この変換は、塩基の存在下でシリル化剤との反応により達成される。
【0088】
この工程で結合するシリル保護基Pがヒドロキシル基を普通に保護しうる限り、その厳密な性質は本発明にとって決定的ではない。好ましくは、シリル保護基は第二級ヒドロキシル基の存在下で第一級ヒドロキシル基を保護することができる。適切なシリル基の例には、トリメチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、およびt-ブチルジフェニルシリル基が含まれ、これらのうちトリメチルシリル基が好ましい。
【0089】
シリル化剤は、一般にハロゲン化シリル、好ましくは塩化シリルである。
塩基が塩基として作用しうる限り、その性質は特に決定的ではない。適切な塩基の例には、アルカリ金属水酸化物、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム、水酸化テトラ(C1-C6)アルキルアンモニウム、たとえば水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウム、アルカリ金属炭酸塩、たとえば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウムおよび炭酸セシウム、ならびに有機アミン、たとえばトリメチルアミンおよびトリエチルアミン、ピリジン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリn-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、ならびに高級トリアルキルアミン、ピコリン類、ルチジン類およびコリジン類、2-メチル-5-エチルピリジン(ロンザピリジン)、2,6-ジ-t-ブチルピリジン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルピリジン、ならびにアルキルキノリンおよびアルキルイソキノリン、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、N-メチルモルホリン、ならびにこれらの化合物の高級アルキル類似体が含まれる。有機アミンが好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0090】
この反応は、普通は溶媒の存在下で実施するのが好ましい。その性質は、反応に対して不活性であり、かつ反応体を少なくともある程度は溶解しうる限り、特に決定的ではない。適切な溶媒の例には、アミド、たとえばジメチルホルムアミド、脂肪族炭化水素、たとえばペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類およびオクタン類、芳香族炭化水素、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレン類、ハロゲン化炭化水素、たとえば塩化メチレン、クロロホルムおよび1,2-ジクロロエタン、エーテル類、たとえばジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタンおよびジオキサン、エステル、たとえば酢酸エチル、ならびにその混合物が含まれる。溶媒は、ハロゲン化炭化水素、特に塩化メチレンであることが好ましい。
【0091】
反応温度は種々の要因、たとえばシリル化剤の性質、塩基および溶媒に依存する。しかし、温度は一般に-78℃から室温まで、好ましくは-50〜-10℃である。
反応時間は種々の要因、たとえば試薬の性質、溶媒および温度に依存する。しかし、反応時間は一般に5分から2時間まで、好ましくは10分から1時間までである。
【0092】
式(V)の化合物は新規であり、したがって本発明の一部を形成する。
式(V)の化合物を普通は反応混合物から単離しない。むしろ、式(V)の化合物を含有する溶液を次の工程でスルホニル化剤と直接反応させる。
【0093】
工程4
この工程では、シリル保護された式(V)の化合物をスルホニル化して、式(VI)の化合物を製造する。この変換は、式(V)の化合物と式R'SO2Xのスルホニル化剤を塩基の存在下で反応させることにより達成される。
【0094】
スルホニル化剤はヒドロキシ基をスルホニル化するのに普通に使用しうる限り、その厳密な性質は本発明にとって特に決定的ではない。スルホン酸残基R'の例には、(C1-C6)アルキル基、ハロ-(C1-C6)アルキル基、および1〜3個の(C1-C6)アルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基が含まれ、好ましい例にはメチル、エチル、トリフルオロメチル、フェニルおよびp-トリルが含まれる。脱離基Xの例には、ハロゲン原子および式R'Oのスルホニルオキシ基(R'は前記のスルホン酸残基のいずれかである)が含まれ、好ましいものはハロゲン原子である。好ましいスルホニル化剤の例には、メタンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド、p-トルエンスルホニルクロリドおよび無水p-トルエンスルホン酸が含まれ、メタンスルホニルクロリドが特に好ましい。
【0095】
塩基が塩基として作用しうる限り、その性質は特に決定的ではない。適切な塩基の例には、有機アミン、たとえばトリメチルアミンおよびトリエチルアミン、ピリジン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、ならびに高級トリアルキルアミン、ピコリン類、ルチジン類およびコリジン類、2-メチル-5-エチルピリジン(ロンザピリジン)、2,6-ジ-t-ブチルピリジン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルピリジン、ならびにアルキルキノリンおよびアルキルイソキノリン、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、N-メチルモルホリン、ならびにこれらの化合物の高級アルキル類似体が含まれ、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0096】
この反応は、普通は溶媒の存在下で実施するのが好ましい。その性質は、反応に対して不活性であり、かつ反応体を少なくともある程度は溶解しうる限り、特に決定的ではない。適切な溶媒の例には、アミド、たとえばジメチルホルムアミド、DMAおよびNMP、脂肪族炭化水素、たとえばペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類およびオクタン類、芳香族炭化水素、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレン類、ハロゲン化炭化水素、たとえば塩化メチレン、クロロホルムおよび1,2-ジクロロエタン、エーテル類、たとえばジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタンおよびジオキサン、エステル、たとえば酢酸エチル、ならびにその混合物が含まれる。溶媒は、ハロゲン化炭化水素、特に塩化メチレンであることが好ましい。
【0097】
反応温度は種々の要因、たとえばスルホニル化剤の性質、塩基および溶媒に依存する。しかし、温度は一般に-78℃から室温まで、好ましくは-50〜-10℃である。
反応時間は種々の要因、たとえば試薬の性質、溶媒および温度に依存する。しかし、反応時間は一般に5分から2時間まで、好ましくは10分から1時間までである。
【0098】
式(VI)の化合物は新規であり、したがって本発明の一部を形成する。
式(VI)の化合物を普通は反応混合物から単離しない。むしろ、式(VI)の化合物を含有する溶液を次の工程で脱保護剤と直接反応させる。
【0099】
工程5
この工程では、シリル保護基を除去して、式(VII)の化合物を製造する。この工程は、脱保護剤との反応により達成される。
【0100】
この工程において脱保護剤は、普通に使用してヒドロキシル基からシリル保護基を除去しうる限り、その厳密な性質は決定的ではない。適切な脱保護剤の例には、酸、たとえば塩酸、臭化水素酸、硫酸および酢酸、ならびにフッ素イオン源、たとえばフッ化カリウムおよびフッ化テトラブチルアンモニウムが含まれる。酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0101】
この反応は、普通は溶媒の存在下で実施するのが好ましい。その性質は、反応に対して不活性であり、かつ反応体を少なくともある程度は溶解しうる限り、特に決定的ではない。適切な溶媒の例には、水、アルコール類、たとえばメタノールおよびエタノール、アミド、たとえばジメチルホルムアミド、脂肪族炭化水素、たとえばペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類およびオクタン類、芳香族炭化水素、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレン類、ハロゲン化炭化水素、たとえば塩化メチレン、クロロホルムおよび1,2-ジクロロエタン、エーテル類、たとえばジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタンおよびジオキサン、ならびにその混合物が含まれる。溶媒は、ハロゲン化炭化水素、特に塩化メチレンと、水の二相混合物であることが好ましい。
【0102】
反応温度は種々の要因、たとえば脱保護剤の性質、塩基および溶媒に依存する。しかし、温度は一般に0〜50℃、好ましくは室温である。
反応時間は種々の要因、たとえば試薬の性質、溶媒および温度に依存する。しかし、反応時間は一般に2〜48時間、好ましくは6〜24時間、より好ましくは8〜16時間である。
【0103】
反応終了後に、式(VII)の化合物を含有する溶液を常法により仕上げ処理することができる。たとえば、存在するイオン種を除去するために溶液を水性溶液、たとえば水、炭酸水素ナトリウムまたは塩化ナトリウムで洗浄し、または濾過して固体を除去することができる。しかし、式(VII)の化合物を溶液から単離しない。むしろ、式(VII)の化合物を含有する溶液を次の工程で直ちに反応させてスルホニルオキシ基を置換する。
【0104】
工程6
この工程では、式(VII)の化合物のスルホニルオキシ基を分子内置換して、式(VIII)の化合物を形成する。これは、好ましくは式(VII)の化合物と塩基の反応により達成される。
【0105】
塩基が塩基として作用しうる限り、その性質は特に決定的ではない。適切な塩基の例には、アルカリ金属水酸化物、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム、水酸化テトラ(C1-C6)アルキルアンモニウム、たとえば水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウム、ならびにアルカリ金属炭酸塩、たとえば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウムおよび炭酸セシウムが含まれる。アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0106】
この反応は、普通は溶媒の存在下で実施するのが好ましい。その性質は、反応に対して不活性であり、かつ反応体を少なくともある程度は溶解しうる限り、特に決定的ではない。適切な溶媒の例には、水、アルコール類、たとえばメタノールおよびエタノール、アミド、たとえばジメチルホルムアミド、スルホキシド、たとえばジメチルスルホキシド、脂肪族炭化水素、たとえばペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類およびオクタン類、芳香族炭化水素、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレン類、ハロゲン化炭化水素、たとえば塩化メチレン、クロロホルムおよび1,2-ジクロロエタン、エーテル類、たとえばジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサン、ならびにその混合物が含まれる。溶媒は、塩化メチレンと水の二相混合物であることが好ましい。
【0107】
この反応は、好ましくは相間移動触媒の存在下で実施され、その機能は、塩基性アニオン、たとえばヒドロキシドイオンを有機層内へ移動させることである。適切な相間移動触媒の例には、テトラ(C1-C6)アルキルアンモニウム塩およびベンジルトリ(C1-C6)アルキルアンモニウム塩、たとえばテトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドおよびベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが含まれる。テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0108】
反応温度は種々の要因、たとえば試薬の性質、塩基および溶媒に依存する。しかし、温度は一般に0℃から溶媒の沸点まで、好ましくは10〜40℃、より好ましくは室温である。
反応時間は種々の要因、たとえば試薬の性質、溶媒および温度に依存する。しかし、反応時間は一般に5分から12時間まで、好ましくは10分から6時間まで、より好ましくは30分から3時間までである。
【0109】
反応終了後に、式(VIII)の化合物を含有する溶液を常法により仕上げ処理することができる。たとえば、存在するイオン種を除去するために溶液を水性溶液、たとえば水または塩化ナトリウムで洗浄し、濾過して固体を除去し、または他の適切な溶媒に再溶解することができ、その例は前記に挙げたものである。しかし、式(VIII)の化合物を溶液から単離しない。むしろ、式(VIII)の化合物を含有する溶液を次の工程で直ちにアンモニアまたはアンモニウム化合物と反応させる。
【0110】
工程7
この工程では、式(VIII)のエポキシドとアンモニアまたはアンモニウム化合物を反応させて、式(IX)の化合物を製造する。
【0111】
この変換はアンモニアとの反応により達成され、その厳密な供給源は特に決定的ではない。アンモニアはガス状アンモニア、または溶媒(たとえば水、メタノールまたはエタノール)に溶解したアンモニアであってよい。あるいは、アンモニアをその場でアンモニウム塩(たとえば塩化アンモニウムまたは酢酸アンモニウム)と塩基(その例は工程2および6に挙げてある)の反応により生成させてもよい。
【0112】
この反応は、普通は溶媒の存在下で実施するのが好ましい。その性質は、反応に対して不活性であり、かつ反応体を少なくともある程度は溶解しうる限り、特に決定的ではない。適切な溶媒の例には、アルコール類、たとえばメタノール、エタノールおよびイソプロパノール、アミド、たとえばジメチルホルムアミド、DMAおよびNMP、脂肪族炭化水素、たとえばペンタン類、ヘキサン類、ヘプタン類およびオクタン類、芳香族炭化水素、たとえばベンゼン、トルエンおよびキシレン類、エーテル類、たとえばジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサン、ならびにその混合物が含まれる。溶媒は、アルコール類、特にメタノールであることが好ましい。
【0113】
反応温度は種々の要因、たとえば試薬の性質および溶媒に依存する。しかし、温度は一般に室温から溶媒の沸点まで、好ましくは30〜50℃である。
反応時間は種々の要因、たとえば試薬の性質、溶媒および温度に依存する。しかし、反応時間は一般に10分から12時間まで、好ましくは30分から6時間まで、より好ましくは2〜4時間である。
【0114】
反応終了後に、式(IX)の化合物を反応混合物から常法により単離する。たとえばこの化合物を有機溶媒で抽出し、濃縮して溶媒を除去することができる。酸、たとえば塩酸の添加によりこの化合物を酸付加塩として水中へ抽出し、塩基、たとえば水酸化ナトリウムの添加により中和し、次いで有機溶媒で抽出し、濃縮して溶媒を除去することができる。生成物を常法により、たとえば結晶化またはカラムクロマトグラフィーにより、さらに精製することができる。
【0115】
実施例
本発明方法を以下の実施例によりさらに記載する。これらの実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0116】
実施例1.(2R,3R)-2,3-エポキシ-3-フェニルプロパノール
【0117】
【化26】

【0118】
シンナミルアルコール(150g)、粉末4Aモレキュラーシーブ(60g)、およびD-酒石酸ジイソプロピル(39.3g)を塩化メチレン(2.25L)と共に撹拌し、混合物を-15〜-20℃に冷却した。Ti(OiPr)4(33.2mL)を添加し、反応混合物を-20〜-25℃で30分間撹拌した。イソオクタン中のt-ブチルヒドロペルオキシド乾燥溶液(500mL, 4.47M, 0.1%未満のKF)を、1時間以上かけて、温度を-20℃より低く維持しながら添加した。添加終了後、混合物を約-20℃で3時間撹拌した。反応が終了した時点で、冷却により温度を+20℃より低く維持しながら亜リン酸トリエチル(210mL)を徐々に添加した。次いで混合物をセライト(Celite、登録商標)で濾過して、表題化合物の溶液を得た。
【0119】
実施例2.(2R,3S)-3-(2-エトキシフェノキシ)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノール
【0120】
【化27】

【0121】
水酸化ナトリウム(49.2g)、テトラn-ブチルアンモニウムクロリド(15.5g)、および2-エトキシフェノール(169.9g)を、水(1080mL)に溶解した。実施例1で得た(2R,3R)-2,3-エポキシ-3-フェニルプロパノール溶液を添加し、混合物を約40℃の内部温度に加熱し、塩化メチレンを蒸留した。塩化メチレンの蒸留に伴って内部温度を徐々に65℃に高め、塩化メチレンの除去が終了した後、3時間、加熱を続けた。反応混合物を30℃に冷却した。メチルt-ブチルエーテル(1.5L)を添加し、混合物を30分間撹拌した。相を分離させ、水相を除去した。有機層を1M NaOH(1L、2回)、水(1L)および飽和NaCl水溶液(1L)で洗浄した。KFが約0.9%になるまでディーン-スターク(Dean-Stark)トラップで還流することにより、有機溶液を乾燥させた。熱溶液を0.2μmフィルターにより濾過した。メチルt-ブチルエーテル(950mL)を濾液から蒸留し、イソオクタン(200mL)を添加した。さらに200mLの溶媒を蒸留した。イソオクタン(200mL)を添加し、結晶が生成し始めるまで溶液を冷却した。結晶化が開始すると、イソオクタン(700mL)を3回に分けて約1時間かけて添加した。このスラリーを15分間撹拌し、次いで-20℃に冷却し、-20℃に1時間保持した。母液をスティックフィルターで除去し、固体をイソオクタン(500mL)で洗浄した。洗液をスティックフィルターで除去した。メチルt-ブチルエーテル(300mL)を固体に添加し、混合物を加熱して固体を溶解した。溶液を約20〜25℃に冷却し、イソオクタン(400mL)を50mLずつ約30分間かけて添加した。次いでこのスラリーを徐々に-15℃に冷却した。このスラリーを-15℃で1時間撹拌し、濾過した。結晶をイソオクタン(300mL)で洗浄し、次いで窒素プレスで乾燥させて、206gの表題化合物を得た。この物質は97%鏡像異性体過剰とアッセイされた。
【0122】
キラルHPLCアッセイ
カラム: キラルOD-H
移動相: 90:10 ヘキサン:イソプロパノール
流速: 1 mL/分
検出器: 215nm
実施時間: 20分間
保持時間:
(2R,3R)-3-(2-エトキシフェノキシ)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノール:8.7分間
(2R,3S)-3-(2-エトキシフェノキシ)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノール:10.8分間
mp 91.9-93.4℃
【0123】
【化28】

【0124】
実施例3および4
【0125】
【化29】

【0126】
実施例3.(2R,3S)-3-(2-エトキシフェノキシ)-2-メシルオキシ-3-フェニル-1-ヒドロキシプロパン
(2R,3S)-3-(2-エトキシフェノキシ)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノール(40.00g)およびトリエチルアミン(23.4mL)を塩化メチレン(400mL)に溶解し、溶液を約-20℃に冷却した。内部温度を-15℃より低く維持しながら、CH2Cl2(28mL)中のトリメチルシリルクロリド(18.7mL)溶液を添加した。添加終了後、混合物を-15℃より低い温度で約15分間撹拌した。温度を-20〜-15℃に維持しながらメタンスルホニルクロリド(13.2mL)を溶液に添加し、続いて同様にポット温度を-20〜-15℃に維持しながらトリエチルアミン(19.5mL)を添加した。トリメチルシリルの添加終了後、混合物を15分間撹拌した。塩酸(1M, 140.6mL)を反応混合物に添加した。混合物を20〜25℃に高め、12時間撹拌した。相を分離させ、有機溶液を5%(w/v)炭酸水素ナトリウム水溶液(131mL)で洗浄した。水相を分離して、表題化合物の溶液を得た。
【0127】
実施例4.(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(2-エトキシフェノキシ)-3-フェニルプロパン
水酸化ナトリウム(25g)、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロリド(1.92g)、および水(100mL)を、固体が溶解するまで撹拌した。実施例3で得た塩化メチレン中の(2R,3S)-3-(2-エトキシフェノキシ)-2-メシルオキシ-3-フェニル-1-ヒドロキシプロパン溶液を添加し、反応が終了するまで混合物を高速撹拌した。相を分離し、水相を塩化メチレン(100mL)で抽出した。有機相を合わせて飽和NaCl水溶液(76mL)で洗浄した。有機溶液を60mLに真空濃縮した。メタノール(300mL)を添加し、溶液を60mLに濃縮した。メタノール(300mL)を添加し、混合物を60mLの体積にまで蒸留して、表題化合物の溶液を得た。
【0128】
実施例5.(2S,3S)-3-(2-エトキシフェノキシ)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロピルアミン
【0129】
【化30】

【0130】
実施例4で得た(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(2-エトキシフェノキシ)-3-フェニルプロパン溶液、メタノール(280ml)、および濃水酸化アンモニウム(450mL)を、マグネチックスターラー付きの1L耐圧フラスコに装入した。フラスコをシールし、40℃に3時間加熱した。混合物を冷却し、塩化メチレン(340mL)を添加した。相を分離し、水相を塩化メチレン(150mL、2回)で抽出した。有機相を合わせて450mLの体積にまで蒸留した。塩化メチレン(250mL)を生成物溶液に再添加した。有機相を水(375mL)で洗浄し、水相を塩化メチレン(150mL)で抽出し、塩化メチレン溶液を合わせた。塩酸(0.5M、375mL)を添加し、混合物を撹拌し、次いで沈降させた。相を分離し、有機相を水(375mL)で洗浄した。水相を合わせて塩化メチレン(70mL)で洗浄した。有機相を分離し、廃棄した。塩化メチレン(220mL)を添加し、次いでpHが12を超えるまで50% NaOH溶液を添加した。相を分離し、水相を塩化メチレン(100mL)で抽出した。有機相を合わせて固体になるまで蒸留した。酢酸エチル(250mL、2回)を添加し、蒸留した。酢酸エチル(116mL)およびヘプタン(116mL)を添加した。固体が溶解するまで混合物を加熱した。溶液を急速撹拌しながら徐々に20〜25℃に冷却した。スラリーの温度が20〜25℃に達した時点で、ヘプタン(116mL)を添加し、スラリーを-15℃に冷却し、15℃に1時間保持した。固体を濾過し、窒素プレスで乾燥させて、25gの表題化合物を得た。
【0131】
【化31】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IV)の化合物:
【化1】

[式中:
nおよびmは、独立して0または1〜5の整数であり;
基RおよびR1は、それぞれ同一でも異なってもよく、下記のものであり:ハロゲン;ハロ-C1-C6アルキル;ヒドロキシ;C1-C6アルコキシ;C1-C6アルキル:これはハロゲン、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、NR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)または-CONR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;アリール-C1-C6アルキル:ここでアリール環は、C1-C6アルキル、ハロゲン、ハロ-C1-C6アルキル、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、およびNR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;アリール-C1-C6アルコキシ:ここでアリール環は、C1-C6アルキル、ハロゲン、ハロ-C1-C6アルキル、ヒドロキシ、C1-C6アルコキシ、およびNR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである)から選択される1個以上の置換基により置換されていてもよい;-NO2;NR5R6(R5およびR6は独立して水素またはC1-C6アルキルである);あるいは隣接する2つのR基または隣接する2つのR1基が一緒になって-O-CH2-O-基を形成する]
の製造方法であって、
(a)式(I)の化合物:
【化2】

(式中、R1およびmは前記に定めたものである)を酸化剤で光学活性化合物の存在下に不斉エポキシ化して、式(II)の化合物:
【化3】

(式中、R1およびmは前記に定めたものである)を製造し、続いて
(b)式(II)の化合物と式(III)の化合物:
【化4】

(式中、Rおよびnは前記に定めたものである)を塩基の存在下で反応させる
ことを含み、
その際、式(II)の化合物を単離せずに実施される方法。
【請求項2】
式(IX)の化合物:
【化5】

(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものである)
の製造方法であって、
(a)式(IV)の化合物を請求項1の方法に従って製造し;
(b)式(IV)の化合物とシリル化剤を反応させて、式(V)の化合物:
【化6】

(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものであり、Pはシリル保護基である)を製造し;
(c)式(V)の化合物と式R'SO2Xのスルホニル化剤(式中、R'はスルホン酸残基であり、Xは脱離基である)を反応させて、式(VI)の化合物:
【化7】

(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものであり、Pは前記に定めたものであり、R'はスルホン酸残基である)を製造し;
(d)シリル保護基を除去して、式(VII)の化合物:
【化8】

(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものであり、R'は前記に定めたものである)を製造し;
(e)スルホニルオキシ基を置換して、式(VIII)の化合物:
【化9】

(式中、R、R1、nおよびmは前記に定めたものである)を製造し;そして
(f)式(VIII)の化合物とアンモニアまたはアンモニウム化合物を反応させて、式(IX)の化合物を製造する
ことを含む方法。
【請求項3】
式(V)、(VI)、(VII)および(VIII)の化合物を単離せずに実施する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Rがエトキシである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
nが1であり、mが0である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
nが1であり、mが0であり、Rがフェニル環の2-位にあるエトキシである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程(a)で使用する酸化剤がヒドロペルオキシドである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)で使用する酸化剤がt-ブチルヒドロペルオキシドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)で使用する光学活性化合物が(-)-酒石酸ジイソプロピルである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)をチタンイソプロポキシドの存在下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)の終了後に、存在する過剰の酸化剤を失活させるために失活剤を添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
失活剤が亜リン酸トリエチルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(b)を相間移動条件下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
式(V)の化合物:
【化10】

(式中、R、R1、nおよびmは請求項1に定めたものであり、Pはシリル保護基である)。
【請求項15】
式(VI)の化合物:
【化11】

(式中、R、R1、nおよびmは請求項1に定めたものであり、PおよびR'は請求項2に定めたものである)。

【公表番号】特表2007−523153(P2007−523153A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553699(P2006−553699)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【国際出願番号】PCT/IB2005/000315
【国際公開番号】WO2005/082824
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)
【Fターム(参考)】