説明

アリールプロパン誘導体を有効成分とする糖化最終産物形成阻害剤

【課題】新規なAGE形成阻害剤を提供すること。本発明のAGE形成阻害剤は、優れたAGE産生阻害作用を有し、糸球体疾患の予防及び/又は治療剤、特に糖尿病性腎症の予防及び/又は治療用の医薬として有用である。
【解決手段】次の一般式(1)
【化1】


で表されるアリールプロパン誘導体、若しくはその溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症又は進展に対する予防及び/又は治療に有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、本邦では糖尿病患者、糖尿病が疑われる患者及び糖尿病予備群が約2千万人存在するといわれている。糖尿病を起因とした合併症のうち、糖尿病性腎症の発症率は年々増加の推移をたどり、すでに慢性糸球体腎炎の発症率を上回り第一位となっている。
【0003】
糖尿病性腎症が発症した場合における最大の問題点は、末期腎不全即ち透析への移行率が、非常に高いことにある。また、糖尿病性腎症による透析への移行は医療費高騰等の社会的に大きな問題となっている。そこで、糖尿病性腎症に関わる治療剤、又は予防を期待できる薬剤が強く望まれている。
【0004】
糖尿病性腎症の成因には、(1)遺伝的素因をはじめとして、(2)糸球体血行動態変化、(3)グリケーションの亢進やカルボニル・酸化ストレスにより生じた糖化最終産物(Advanced Glycation End Products(以下、「AGE」と称する))の蓄積、(4)Protein Kinase Cの活性化や、(5)ポリオール代謝の亢進など、様々な因子の関与が考えられている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。
【0005】
現在、糖尿病性腎症の治療現場では、糸球体血行動態の改善を主目的としたアンジオテンシン変換酵素阻害剤(以下、「ACE阻害剤」と称する)やアンジオテンシンIIの1型受容体拮抗剤(以下、「ARB」と称する)が汎用されており、基礎のみならず臨床的なevidenceが報告されている(非特許文献6、非特許文献7)。しかしながら、これらの多くは血圧降下剤として認可されており、糖尿病性腎症の治療剤としての認可はほとんどなされていない。単に、糖尿病性腎症の患者の多くは高血圧であることから、これらが汎用されているに過ぎない。なお、ACE阻害剤のタナトリル錠(塩酸イミダプリル)は1型糖尿病性腎症の治療剤として初めて認可されたものの、糖尿病性腎症に対する治療又は予防的作用を有する薬剤はほとんどなく、新規な薬剤の登場が切望されている。
【0006】
そこで次の糖尿病性腎症の治療剤として、AGE形成阻害剤が注目を浴びている。AGEで修飾されたタンパクは腎循環動態、腎糸球体基底膜の濾過機構等、多数の腎機能に悪影響を及ぼし、また、AGE自身がメサンギウム細胞等の腎構成細胞に多数存在するAGE関連受容体(例えば、Receptor for AGE:RAGE)に作用して、サイトカインや増殖因子等の障害因子を産生させることが報告されている(非特許文献8)。従って、AGEの形成を抑制することは、糖尿病性腎症の進展抑制に繋がると考えられる。
【0007】
アミノグアニジンは、反応性カルボニル化合物(3−デオキシグルコソン、メチルグリオキサールなど)の捕捉作用、酸素ラジカル(特に、ヒドロキシラジカル)の捕捉作用及び金属キレート形成作用により、AGEの形成を阻害すると考えられており、AGE阻害に基づく糖尿病性腎症の治療剤として、最初に本格的な研究がなされた化合物である。しかし、これはすでに臨床治験も終了したが、いまだ実用化には至っていない。(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【0008】
また、その他のAGE形成阻害剤としてはアミノグアニジンの誘導体であるOPB−9195、LR−90、ALT−946、天然化合物及びその類縁体であるチアミン(ビタミンB)、チアミンピロリン酸、ベンフォチアミンなど幾つかの化合物が知られている(非特許文献12)が、いずれも実用化には至っていない。その一方で下記一般式(1)で示されるようなアリールプロパン構造を骨格として持つAGE形成阻害剤は知られていなかった。
【0009】
【非特許文献1】Cooper,ME.et al.;Lancet,352,213-219,1998.
【非特許文献2】槙野博史;糖尿病性腎症 発症・進展機序と治療:80−121,1999年;診断と治療社
【非特許文献3】Bohlender, J.et al.; Am. J. Physiol. Renal Physiol., 89, F645-F659, 2005
【非特許文献4】D, Jay.et al.; Free Radical Biology & Medicine, 40, 183-192, 2006
【非特許文献5】Vinik, A.; Expert Opin. Investig. Drugs, 14(12), 1547-1559, 2005
【非特許文献6】Masakuni,N.et al.; Jpn. J. Pharmacol., 85: 416-422, 2001
【非特許文献7】Rossing, K.et al.; Diabetes Care., 28(9): 2106-2112, 2005
【非特許文献8】Locatelli, F. et al.; Nephrol. Dial. Transplant., 18(9): 1716-25, 2003
【非特許文献9】Price,DL.et al.; J. Biol. Chem., 276, 8967-48972, 2001
【非特許文献10】Abdel-Rahman, E.et al.; Expert Opin. Investig. Drugs., 11(4): 565-574,2002
【非特許文献11】Mark E.et al.; Current Diabetes Reports., 4: 441-446, 2004
【非特許文献12】今泉勉 ほか;AGEs研究の最前線:209−217,2004年;メディカルレビュー社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新規なAGE形成阻害剤を提供することにある。AGE形成阻害剤は糸球体病変における不可逆的蛋白修飾による糖尿病性腎症の発症及び進展に対する予防又は治療に有用である。また、原疾患が糖尿病性腎症と診断されていない患者であっても、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症などの糸球体疾患により透析移行している患者の多くは血漿中のAGEが著しく増加しているという周知の事実から、AGE形成阻害剤は糖尿病性腎症のみならず、慢性糸球体腎炎や高血圧性腎症なども含めた糸球体疾患に対する予防又は治療に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記実情に鑑み、本発明者らは、AGE形成阻害作用を持つ化合物を探索した結果、下記一般式(1)で表される化合物が、AGEの一種であるペントシジンを指標にしたin vitro系での阻害試験において、アミノグアニジンと比較して、強いAGE形成阻害作用を有することを見出し、また、下記一般式(1)で表される化合物がin vivo系において、尿中排泄アルブミン量、尿中8−hydroxy−2’−deoxyguanosine(以下、「8−HOdG」と称する)排泄量、及び過ヨウ素酸シッフ染色陽性領域(以下、「PAS陽性領域」と称する)が減少することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
(I)下記一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
〔式中、Ra1、 Ra2、 Ra3は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヒドロキシ、ニトロ、ハロアルキル、アルキルチオ、シアノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、フェニル、又はアルキルセレノを示し、
は、水素原子、シアノ、置換基を有してもよいアルキル、置換基を有してもよいシクロアルキル、又はC(=W)−Rを示し、ここで、Rはアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、又は置換基を有してもよいフェニルを示し、Wは酸素又はCHを示し、
は、水素原子又はハロゲン原子を示し、
Xは、CRa3又は窒素を示し、
Yは、水素原子、オキソ、ヒドロキシ、置換基を有してもよいアルコキシ、又は置換基を有してもよいアミノを示し、
Zは、結合又はCRe1e2−(CH)−を示し、ここでRe1、Re2は同一または異なって、水素、アルキル、フェニル、又はヒドロキシを示す。
Z,R及びRは、ZとRの間の2個の炭素原子と共に環(2)
【0015】
【化2】

【0016】
を形成してもよい。
mは0又は1の整数を示し、
nは0〜2の整数を示す。
実線と点線の二重線部分は単結合、又は二重結合を示す。
ただし、Yがオキソのとき、実線と点線の二重線部分は、式(3)
【0017】
【化3】

【0018】
であり、Yが水素のとき、実線と点線の二重線部分は、式(4)
【0019】
【化4】

【0020】
であり、Yがヒドロキシ、置換基を有してもよいアルコキシ、又は置換基を有してもよいアミノのとき、実線と点線の二重線部分は、式(5)又は式(6)
【0021】
【化5】

【0022】
である。〕
で表される化合物、又はその溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤を提供するものである。
【0023】
(II)また、本発明は、一般式(1)で示されるアリールプロパン誘導体が、
アンチ−2−クロロメチル−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロパンチオ酸エチル、
シン−2−クロロメチル−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロパンチオ酸エチル、
(Z)−3−ヒドロキシ−2−ヨードメチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
(E)−3−クロロメチル−4−(4−メチルフェニル)ブタン−3−エン−2−オン、
2−クロロメチレン−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−6−フェニルヘキサン−2−オン、
(Z)−2−クロロメチレン−3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−4−フェニルブタン−2−オン、
シン−3−クロロメチル−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
(E)−3−ブロモメチル−4−(4−クロロフェニル)ブタン−3−エン−2−オン、
(E)−3−ブロモメチレン−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−トリフルオロメチルフェニル)プロピオン酸イソプロピル、
3−(4−フルオロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)−3−メチレンブタン−2−オン、
2−ヒドロキシ−2−メチル−3−メチレン−4−(2−メチルチオフェニル)−4−オキソブタン酸エチル、
3−(4−シアノフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸イソプロピル、
3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−ヒドロキシ−3−メチル−2−メチレン−1−(2−メチルチオフェニル)ペンタン−1,4−ジオン、
2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
1,5−ビス(2−N,N−ジメチルアミノフェニル)−2−メチレンペンタン−1,5−ジオン、
2−メチレン−3−メチルオキシ−1−(2−メチルチオフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
2−メチレン−3,3−ジメチルオキシ−1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(3,4,5−トリメチルオキシフェニル)プロピオノニトリル、
3−ヒドロキシエチルオキシ−2−メチレン−1−(2−メチルチオフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオノニトリル、
2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニル−3−(4−トルエンスルホニルアミノ)プロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ビフェニリル)プロピオノニトリル、
2−[1−(ヒドロキシ)−1−(4−ニトロフェニル)メチル]シクロペンタン−2−エン−1−オン、
2−メチレン−3−メチルオキシ−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
4−エチルオキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)ペンタン−4−エン−1−オン、
3−ヒドロキシエチルオキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−ピリジン−4−イルプロピオノニトリル、
3−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−1−オン、
2−ヒドロキシ−3−メチレン−4−(2−メチルセレノフェニル)−4−オキソ−2−フェニルブタン酸メチル、
2−[[1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン−2−イル](フェニル)メチルオキシエチルオキシ](フェニル)メチル−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)プロパン−1−オン、
2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、及び
1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン
からなる群から選ばれる化合物である、上記(I)記載のAGE形成阻害剤を提供するものである。
【0024】
(III)また、本発明は、上記(I)又は(II)記載のAGE形成阻害剤を有効成分とする糸球体疾患の予防又は治療剤を提供するものである。
【0025】
(IV)さらに、本発明は、(I)又は(II)記載のAGE形成阻害剤を有効成分とする糖尿病性腎症の予防又は治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
後記実施例に記載するとおり、血液透析患者の血漿を用い、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した評価において、各被検薬物は、アミノグアニジンと比べ、優れたAGE形成阻害活性を示した。即ち、血液透析患者の血漿を用い、37℃、7日間、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した系において認められた主要なAGEの一種であるペントシジンの生成に対して、各被検薬物の添加は、いずれもアミノグアニジン添加に比べ、強いペントシジン生成抑制作用を示した。また、糖尿病モデル動物を用い、被検薬物を投与した評価において、被検薬物は疾患の緩和をもたらした。即ち、糖尿病モデル動物KKAyマウスを用い、一日二回、12週間投与し、尿中排泄アルブミン量及び尿中排泄8−OHdG量、PAS陽性領域を測定したところ、対照群に比べその値が減少し、疾患の緩和が認められた。従って、本発明の一般式(1)で表される化合物、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、後記試験例に示すように、優れたAGE形成阻害作用を有し、糸球体疾患の予防及び/又は治療剤、特に糖尿病性腎症の予防及び/又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明において、アルキル、アルキルチオ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、アルキルセレノ、アルキルスルホニルにおける「アルキル」部分とは、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基を示す。即ち、「アルキル」とは、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等が挙げられる。
【0028】
本発明において、置換基を有してもよいアルケニルにおける、「アルケニル」部分とは、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖の不飽和炭化水素基を示す。すなわち、「アルケニル」とは、具体的には、エチニル、プロパン−1−エン−1−イル、プロパン−2−エン−1−イル、ブタン−1−エン−1−イル、ブタン−3−エン−1−イル、1−メチルプロパン−2−エン−1−イル、ペンタン−1−エン−1−イル、ペンタン−4−エン−1−イル、ヘキサン−1−エン−1−イル、ヘキサン−5−エン−1−イル等が挙げられる。
【0029】
本発明において、シクロアルキル、置換基を有してもよいシクロアルキルにおける「シクロアルキル」とは、炭素数3〜6の環状の飽和炭化水素基を示す。即ち、「シクロアルキル」とは、具体的には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロプロピルプロピル、シクロブチルメチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルメチル等が挙げられる。
【0030】
本発明において、ハロゲン、ハロアルキルにおける、「ハロゲン」とは、ハロゲン原子を示す。すなわち、「ハロゲン」とは、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0031】
本発明において、ハロアルキル、ハロアルキルスルホニルにおける「ハロアルキル」部分とは、前記ハロゲンが1〜5個置換した、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基を示す。即ち、「ハロアルキル」とは、具体的には、モノフルオロメチル、トリフルオロメチル、モノクロロメチル、モノブロモメチル、モノヨードメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル、2−クロロエチル、2−ブロモエチル、3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル、3−クロロ−n−プロピル、3−ブロモ−n−プロピル、4,4,4−トリフルオロ−n−ブチル、4−クロロ−n−ブチル、4−ブロモ−n−ブチル、5,5,5−トリフルオロ−n−ペンチル、5−クロロ−n−ペンチル、5−ブロモ−n−ペンチル、6,6,6−トリフルオロ−n−ヘキシル、6−クロロ−n−ヘキシル、6−ブロモ−n−ヘキシル等が挙げられる。
【0032】
本発明において、「アルキルチオ」とは、前記アルキル基が硫黄原子に結合した基を示す。すなわち、「アルキルチオ」とは、具体的には、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、イソプロピルチオ、n−ブチルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、t−ブチルチオ、n−ペンチルチオ、n−ヘキシルチオ等の炭素数1〜6のアルキルチオが挙げられる。
【0033】
本発明において、「アルキルアミノ」とは、前記アルキル基が窒素原子に1個結合した基を示す。すなわち、「アルキルアミノ」とは、具体的には、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n−ブチルアミノ、イソブチルアミノ、sec−ブチルアミノ、t−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、n−ヘキシルアミノ等の炭素数1〜6のアルキルアミノが挙げられる。
【0034】
本発明において、「ジアルキルアミノ」とは、前記アルキル基が同一又は異なって窒素原子に2個結合した基を示す。すなわち、「ジアルキルアミノ」とは、具体的には、ジメチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジエチルアミノ、メチル−n−プロピルアミノ、エチル−n−プロピルアミノ、ジ−n−プロピルアミノ、メチルイソプロピルアミノ、エチルイソプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジ−n−ブチルアミノ、ジ−n−ペンチルアミノ、ジ−n−ヘキシルアミノ等の炭素数2〜12のジアルキルアミノが挙げられる。
【0035】
本発明において、「アルコキシ」とは、前記アルキル基が酸素原子に結合した基を示す。すなわち、「アルコキシ」とは、具体的には、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ等の炭素数1〜6のアルコキシが挙げられる。
【0036】
本発明において、「アルキルセレノ」とは,前記アルキル基がセレン原子に結合した基を示す。すなわち、「アルキルセレノ」とは、具体的には、メチルセレノ、エチルセレノ、n−プロピルセレノ、イソプロピルセレノ、n−ブチルセレノ、イソブチルセレノ、sec−ブチルセレノ、t−ブチルセレノ、n−ペンチルセレノ、n−ヘキシルセレノ等の炭素数1〜6のアルキルセレノが挙げられる。
【0037】
本発明の置換基を有してもよいアルキル、置換基を有してもよいシクロアルキル、置換基を有してもよいフェニル、置換基を有してもよいアルコキシ、置換基を有してもよいアミノにおける「置換基」としては、前記ハロゲン、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヒドロキシ、ニトロ、ハロアルキル、アルキルチオ、シアノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、フェニル、アルキルセレノに加え、アルキルスルホニル、ハロアルキルスルホニル、置換基を有してもよいベンゼンスルホニル、次式(7):
【0038】
【化6】

【0039】
が挙げられる。
【0040】
一般式(1)中、Ra1、Ra2、Ra3の「アルキル」としては、メチルが好ましい。
【0041】
一般式(1)中、Ra1、Ra2、Ra3の「ハロゲン」としては、フッ素、塩素が好ましい。
【0042】
一般式(1)中、Ra1、Ra2、Ra3の「ハロアルキル」としては、トリフルオロメチルが好ましい。
【0043】
一般式(1)中、Ra1、Ra2、Ra3の「アルキルチオ」としては、メチルチオが好ましい。
【0044】
一般式(1)中、Ra1、Ra2、Ra3の「ジアルキルアミノ」としては、ジメチルアミノが好ましい。
【0045】
一般式(1)中、Ra1、Ra2、Ra3の「アルコキシ」としては、メトキシが好ましい。
【0046】
一般式(1)中、Ra1、Ra2、Ra3の「アルキルセレノ」としては、メチルセレノが好ましい。
【0047】
一般式(1)中、Rの置換基を有してもよいアルキルの「アルキル」としては、メチルが好ましい。「置換基」としてはアルコキシが好ましく、メトキシがより好ましい。「置換基を有してもよいアルキル」としては、ジメトキシメチルが特に好ましい。
【0048】
一般式(1)中、Rの置換基を有してもよいシクロアルキルの「シクロアルキル」としては、シクロヘキシルが好ましい。「置換基」としては、ヒドロキシが好ましい。「置換基を有してもよいシクロアルキル」としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルが特に好ましい。
【0049】
一般式(1)中、Rの「ハロゲン」としては、塩素、臭素、ヨウ素が好ましい。
【0050】
一般式(1)中、Rの「アルキル」としては、メチルが好ましい。
【0051】
一般式(1)中、Rの「アルコキシ」としては、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシが好ましい。
【0052】
一般式(1)中、Rの「アルキルチオ」としては、エチルチオが好ましい。
【0053】
一般式(1)中、Rの置換基を有してもよいフェニルの「置換基」としては、ジアルキルアミノ(特にジメチルアミノ)、アルキルチオ(特にメチルアミノ)、アルキルセレノ(特にメチルセレノ)が好ましい。
【0054】
一般式(1)中、Re1、Re2の「アルキル」としては、メチルが好ましい。
【0055】
一般式(1)中、Yの置換基を有してもよいアルコキシの「アルコキシ」としては、メトキシ、エトキシが好ましい。「置換基」としては、ヒドロキシ、次式(7):
【0056】
【化7】

【0057】
が好ましい。
【0058】
一般式(1)中、Yの置換基を有してもよいアミノの「置換基」としては、置換基(メチル等のアルキル)を有してもよいベンゼンスルホニルが好ましい。
【0059】
特に好ましい様態として、Rが「ハロゲン」であり、Zが結合である組み合わせを挙げることができる。
【0060】
本発明の一般式(1)好ましい例としては、
アンチ−2−クロロメチル−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロパンチオ酸エチル、
シン−2−クロロメチル−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロパンチオ酸エチル、
(Z)−3−ヒドロキシ−2−ヨードメチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
(E)−3−クロロメチル−4−(4−メチルフェニル)ブタン−3−エン−2−オン、
2−クロロメチレン−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−6−フェニルヘキサン−2−オン、
(Z)−2−クロロメチレン−3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−4−フェニルブタン−2−オン、
シン−3−クロロメチル−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
(E)−3−ブロモメチル−4−(4−クロロフェニル)ブタン−3−エン−2−オン、
(E)−3−ブロモメチレン−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−トリフルオロメチルフェニル)プロピオン酸イソプロピル、
3−(4−フルオロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)−3−メチレンブタン−2−オン、
2−ヒドロキシ−2−メチル−3−メチレン−4−(2−メチルチオフェニル)−4−オキソブタン酸エチル、
3−(4−シアノフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸イソプロピル、
3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−ヒドロキシ−3−メチル−2−メチレン−1−(2−メチルチオフェニル)ペンタン−1,4−ジオン、
2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
1,5−ビス(2−N,N−ジメチルアミノフェニル)−2−メチレンペンタン−1,5−ジオン、
2−メチレン−3−メチルオキシ−1−(2−メチルチオフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
2−メチレン−3,3−ジメチルオキシ−1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(3,4,5−トリメチルオキシフェニル)プロピオノニトリル、
3−ヒドロキシエチルオキシ−2−メチレン−1−(2−メチルチオフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオノニトリル、
2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニル−3−(4−トルエンスルホニルアミノ)プロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ビフェニリル)プロピオノニトリル、
2−[1−(ヒドロキシ)−1−(4−ニトロフェニル)メチル]シクロペンタン−2−エン−1−オン、
2−メチレン−3−メチルオキシ−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
4−エチルオキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)ペンタン−4−エン−1−オン、
3−ヒドロキシエチルオキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−ピリジン−4−イルプロピオノニトリル、
3−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−1−オン、
2−ヒドロキシ−3−メチレン−4−(2−メチルセレノフェニル)−4−オキソ−2−フェニルブタン酸メチル、
2−[[1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン−2−イル](フェニル)メチルオキシエチルオキシ](フェニル)メチル−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)プロパン−1−オン、
2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オンが挙げられる。
【0061】
一般式(1)で表される化合物の溶媒和物としては、水和物等が挙げられる。
【0062】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、繊維原料や天然物の合成に利用されている森田−ベイリス−ヒルマン反応(K.Morita, Bull. Chem. Soc. Jpn., 41, 2815(1968)、 Baylis, GR2155113公報(1972))として知られているアルケンとアルデヒドの付加反応を利用して製造することができる。
【0063】
【化8】

【0064】
本反応は、トリシクロヘキシルホスフィン等のホスフィン類、ジメチルスルフィド等のスルフィド類、1,3−プロパンジアミン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、ピロコリン、キヌクリジン等の鎖状又は環状アミン類、トリフルオロボレート ジエチルエーテレート等のルイス酸等の触媒存在下に進行し、アルケン(I)とアルデヒド類(II)から化合物(III)を生成する。マイクロウェーブ照射や加圧下で反応を行うことにより反応時間を短縮することができる。反応温度は0〜100℃、反応時間は数時間〜数日である。使用する溶媒には特に制限はないが、溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ヘキサン、酢酸エチル、メチル−tert−ブチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の有機溶媒、水若しくはこれらの混合溶媒を単独又は組み合わせて使用することができる。
【0065】
1)本発明の一般式(1)において、Yがオキソである化合物(IIIA)は、前記の方法又は公知文献記載の方法(Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852, Tetrahedron, 57, 2001, 8455, Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852, Chem. Eur. J., 2003, 9, 7, 1496, Pest Manag Sci., 2006, 62, 288等に記載の方法)に従い製造することができる。原料のアルデヒド誘導体(IIA)、及びエノン誘導体(IA)は市販品を用いることもできるが、公知の方法(Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852等に記載の方法)に従い製造したものを使用することができる。また、Rがハロゲンである化合物は、ルイス酸としてテトラクロロチタン、テトラブロモチタン、テトラヨードチタン等のハロゲン化金属を用い、一般式(IIIA)で表される化合物を製造することができる。
【0066】
【化9】

【0067】
〔図中、Ra1、Ra2、R、R、X、及びnは前記と同じものを示し、Rは水素原子、アルキル又はフェニルを示す。〕
【0068】
2)一般式(1)において、Yがヒドロキシであり、Rがシアノである化合物(IIIB)は、前記の方法又は公知文献記載の方法(Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852, Tetrahedron, 57, 2001, 8455, Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852, Chem. Eur. J., 2003, 9, 7, 1496, Pest Manag Sci., 2006, 62, 288等に記載の方法)に従い製造することができる。アルデヒド誘導体(IIB)、アクリロニトリル誘導体(IB)は市販品を用いることができる。
【0069】
【化10】

【0070】
〔図中、Ra1、Ra2、R、X、及びnは前記と同じものを示す。〕
【0071】
3)一般式(1)において、Yが置換基を有してもよいアミノである化合物(IIIC)は、前記の方法又は公知文献記載の方法(Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852, Tetrahedron, 57, 2001, 8455, Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852, Chem. Eur. J., 2003, 9, 7, 1496, Pest Manag Sci., 2006, 62, 288等に記載の方法)に従い製造することができる。ベンジリデン誘導体(IIC)は市販品を用いることもできるが、公知の方法により製造することができる。エノン誘導体(IC)は市販品を用いることもできるが、公知の方法(Eur. J. Org. Chem., 2003, 4852に等に記載の方法)に従い製造することができる。
【0072】
【化11】

【0073】
〔図中、Ra1、Ra2、R、R、X、及びZは前記と同じものを示し、Rは置換基を有してもよいアルキル又は置換基を有してもよいフェニルを示す。〕
【0074】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、上記方法によって得られるが、さらに必要に応じて再結晶法、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いて精製することができる。また必要に応じて、常法によって前記した所望の溶媒和物にすることもできる。
【0075】
また、一般式(1)で表される化合物は、水和物に代表される任意の溶媒和物を形成することができ、これらの溶媒和物も本発明に包含される。
【0076】
さらに、一般式(1)で表される化合物に光学異性体や幾何異性体が存在する場合は、これらすべての異性体が本発明に包含される。
【0077】
本発明の医薬組成物は、一般式(1)で表される化合物、又はそれらの溶媒和物を含有するものであって、単独で用いてよいが、通常は薬学的に許容される担体、添加物等を配合して使用される。医薬組成物の投与形態は、特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。斯かる剤形としては、例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等を挙げることができる。
【0078】
これらの製剤は、その剤形に応じて製剤学上使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物と適宜混合、希釈又は溶解し、常法に従い製造することができる。
【0079】
例えば、散剤の場合は、必須成分のほかに、必要に応じて適当な賦形剤、滑沢剤等を加えよく混和して調製すればよい。錠剤の場合は、必要に応じて適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を加え、常法に従い打錠して調製すればよい。また錠剤は必要に応じてコーティングを施し、フィルムコート錠、糖衣錠等にすることができる。
【0080】
また、注射剤の場合は、液剤(無菌水又は非水溶液)、乳剤及び懸濁剤の形態とすることができる。これらに用いられる非水担体、希釈剤、溶媒又はビヒクルとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機酸エステルが挙げられる。また、該組成物には防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の補助剤を適宜配合することができる。
【0081】
本発明の一般式(1)で表される化合物の投与量は年齢、体重、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して1日1〜1000mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]
(Z)−3−ヒドロキシ−2−ヨードメチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチルの製造
4−ニトロベンズアルデヒド(760mg)、メチルプロピオレート(840mg)、ジメチルスルフィド(30mg)の無水塩化メチレン溶液に氷冷下、テトラヨードチタン(2.8g)をアルゴン雰囲気下、徐々に加えた。 室温で5日間攪拌し、飽和重曹水を加えた。反応液をろ過し、塩化メチレンで抽出、乾燥し、減圧下溶媒を留去した。残渣を薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、(E)体(91mg,5%)、及び(Z)体(173mg,9.5%)を得た。
【0084】
(E)体 H−NMR(400 MHz;CDCl)δ:3.74(3H,s),4.23(1H,d,J=11 Hz),5.90(1H,d,J=11 Hz),7.60(2H,d,J=8 Hz),8.21(2H,d,J=8 Hz),8.25(1H,s).
(Z)体 H−NMR(400 MHz;CDCl)δ:3.71(1H,br s),3.77(3H,s),5.63(1H,s),7.47(1H,s),7.54(2H,d,J=8 Hz),8.22(2H,d,J=8 Hz).
【0085】
[実施例2]
2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニル−3−(4−トルエンスルホニルアミノ)プロパン−1−オンの製造
N−ベンジリデン−4−トルエンスルホンアミド(380mg)、1−(2−メチルセレノフェニル)プロペノン(113mg)の無水アセトニトリル(1.6mL)溶液に、氷冷下トリフルオロボレート ジエチルエーテレート(127μL)を滴下した。室温で20時間攪拌し、飽和重曹水を加え、塩化メチレンで抽出、乾燥し、減圧下溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、生成物(68mg,9.5%)を得た。
【0086】
淡黄色針状結晶(塩化メチレン/ヘキサン)、融点157℃、IR(KBr;cm−1)3277,1644,1326,1159.
H−NMR(400MHz;CDCl)δ:2.19(3H,s),2.37(3H,s),5.48(1H,d,J=8.3 Hz),5.59(1H,s),6.02(1H,s),6.03(1H,d,J=8.3 Hz),7.11(1H,t,J=7.5 Hz),7.15−7.26(8H,m),7.34(1H,t,J=7.5 Hz),7.41(1H,d,J=7.5 Hz),7.70(2H,d,J=8.3 Hz).
MS(EI)m/z:485(M),91(100%).Anal.Calcd.forC2423NOSSe:C,59.50;H,4.79;N,2.89.Found:C,59.35;H,4.81;N,2.73.
【0087】
[実施例3]
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−ピリジン−4−イルプロピオノニトリルの製造
4−ピリジンカルボキシアルデヒド(53.5mg)、アクリロニトリル(159mg)、及びDABCO(5.6mg)を無水塩化メチレン(2mL)に溶解し、室温で60時間攪拌した。反応液を濃縮し、残渣を薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、生成物(56.1mg,70%)を得た。
【0088】
H−NMR(CDCl)δ:4.73(1H,br s),5.34(1H,s),6.09(1H,d,J=6 Hz),6.18(1H,d,J=1 Hz),7.38(2H,d,J=6 Hz),8.54(2H,d,J=6 Hz).
MS m/z:160(M).
Anal.Calcd.for CO:C,67.75;H,5.04;N,7.50.Found:C,67.85;H,5.16;N,17.44.
【0089】
[実施例4]
血液透析患者の血漿を用いてのAGE形成阻害作用
血液透析患者の血漿中AGE(指標:ペントシジン)の測定はMiyataらの報告に従って実施した(Miyata,T.et al:JAm Soc Nephrol,13,2478-2487,2002)。血液透析患者の血漿0.9mLをアミノグアニジン又は各被検薬物の存在下(添加量は0.1mL)で、37℃で7日間反応した。アミノグアニジン及び各被検薬物の最終濃度は5.0mMとした。なお、アミノグアニジン又は各被検薬物はジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解して使用した。DMSOの最終濃度は反応溶液1mL中、反応時における酸化反応に影響しない10%とした。7日間の反応後に、アミノグアニジン又は各被検薬物を添加した血漿中のペントシジンの濃度を以下に示す方法で測定した。
【0090】
反応溶液0.05mLに等量の10%トリクロロ酢酸(以下、「TCA」と称する)を加え、5000×g、5分間遠心した。上清を除去し、沈殿物を5%TCA0.3mLで洗い、その後凍結乾燥し乾燥させた。次いで、窒素条件下で110℃、16時間6N塩酸0.1mL添加し、乾燥物を加水分解した。引き続き、5N水酸化ナトリウム0.1mLと0.5Mリン酸緩衝液(pH7.4)0.2mLを添加し中和した。中和溶液は、口径0.5μmのフイルターを通し、リン酸緩衝液で希釈し、ペントシジン測定用サンプルを調整した。ペントシジン濃度の測定はMiyataらの方法に従って実施した。
【0091】
表1に、各被検薬物によるペントシジン形成阻害強度を、アミノグアニジンによる形成阻害強度を1.0とした場合における相対値として表した(形成阻害強度はコントロール群を対照においた。コントロール群にはDMSOのみ添加した)。
相対値=(被検薬物の形成阻害率)÷(アミノグアニジンの形成阻害率)
【0092】
アミノグアニジン及び各被検薬物の反応中における最終濃度は5.0mMに固定した。
【0093】
各被検薬物の相対値は、いずれもアミノグアニジンによるペントシジン形成阻害強度と同等以上であった。以上から、一般式(1)で表される本発明の化合物は、アミノグアニジンよりも強力なAGE形成阻害作用を有し、さらに強力な治療剤としての可能性が本実験結果より明らかとなった。
【0094】
【表1】







【0095】
[実施例5]
KKAyマウスを用いた糖尿病性腎症抑制作用の検討
雄性KKAyマウス(日本チャールズリバー株式会社)を6週齢で入荷し、7週齢時にメタボリックケージ(商品名:METABOLICA、製造元:株式会社杉山元医理器社製)を用いて、18時間の採尿を実施した。採取した尿より、尿中アルブミン濃度をDC2000システム(ミクロアルブミン・クレアチニンカートリッジ(バイエルメデイカル社製))を用いて測定し、尿中アルブミン排泄量(尿中アルブミン濃度×尿量)を指標にブロック化割付により群分けを行い、対照群(n=5)に対し薬物投与群(n=6)とした。なお、尿量は重量法によって算出した。すなわち、採尿開始前にあらかじめ測定しておいた採尿瓶(品名:ボトル30mL、型:MM−09、製造元:株式会社杉山元医理器社製)の重量と、採尿終了後の採尿瓶の重量との差から、18時間あたりの尿量とした。薬物投与は8週齢時より開始し、12週間の反復投与(1日2回(bid)、強制経口投与)を行った。投与期間中、2, 4, 6, 8,および12週間後に投与前と同様の方法で18時間の蓄尿を実施し、主要パラメータである尿中アルブミン排泄量を測定した。また、酸化ストレスマーカーとして尿中8−OHdG濃度を測定し、18時間あたりの尿中8−OHdG排泄量(尿中8−OHdG濃度×尿量)を算出した。測定には投与開始前、投与後8および12週の尿を使用した。8−OHdG濃度は、8−OHdG測定用ELISAキット(New 8−OHdG Check:日本老化制御研究所)を用いて、プレートリーダー(可視)MS−UV(LABSYSTEMS,Helsinki)により測定を行った。12週間の投与後、腎糸球体におけるPAS陽性領域を評価するために剖検を実施した。0.5%ペントバルビタール(東京化成工業株式会社製)を10mL/kgの割合で腹腔内投与し、麻酔後、開腹し腹部大動脈切開の後に腎臓を摘出した。摘出した腎臓を氷冷した生理食塩水で洗浄後、腎動静脈に平行に中央部約2mm程度を切り出し、10%中性緩衝ホルマリン溶液に浸潤させ固定した。ホルマリン溶液中に固定した腎切片については、PAS染色標本スライドを各個体について作製し(標本作製は株式会社イナリサーチに依頼)、スライド1枚に対して糸球体20個の画像をランダムに取り込み、画像解析ソフト(Lumina Vision)を用いて、PAS陽性領域を糸球体面積(ボーマン嚢より内側領域)に対する面積率で算出した。なお、選択した糸球体は糸球体の形態が構築されているものに限定した。
【0096】
図1に、被検薬物11(表1中の試験化合物番号11)によるKKAyモデルマウスに対する尿中排泄アルブミン量を表し、図2に、被検薬物11によるKKAyモデルマウスに対する尿中排泄8−OHdG量を表し、図3に、被検薬物11によるKKAyモデルマウスに対するPAS陽性領域の面積率を表した。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】KKAyモデルマウスに対する尿中排泄アルブミン量を表す図。
【図2】KKAyモデルマウスに対する尿中排泄8−OHdG量を表す図。
【図3】KKAyモデルマウスに対するPAS陽性領域の面積率を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】


〔式中、Ra1、 Ra2、 Ra3は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヒドロキシ、ニトロ、ハロアルキル、アルキルチオ、シアノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、フェニル、又はアルキルセレノを示し、
は、水素原子、シアノ、置換基を有してもよいアルキル、置換基を有してもよいシクロアルキル、又はC(=W)−Rを示し、ここで、Rはアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、又は置換基を有してもよいフェニルを示し、Wは酸素又はCHを示し、
は、水素原子又はハロゲン原子を示し、
Xは、CRa3又は窒素を示し、
Yは、水素原子、オキソ、ヒドロキシ、置換基を有してもよいアルコキシ、又は置換基を有してもよいアミノを示し、
Zは、結合又はCRe1e2−(CH)−を示し、ここでRe1、Re2は同一または異なって、水素原子、アルキル、フェニル、又はヒドロキシを示す。
Z,R及びRは、ZとRの間の2個の炭素原子と共に環(2)
【化2】

を形成してもよい。
mは0又は1の整数を示し、
nは0〜2の整数を示す。
実線と点線の二重線部分は単結合、又は二重結合を示す。
ただし、Yがオキソのとき、実線と点線の二重線部分は、式(3)
【化3】

であり、Yが水素原子のとき、実線と点線の二重線部分は、式(4)
【化4】

であり、Yがヒドロキシ、置換基を有してもよいアルコキシ、又は置換基を有してもよいアミノのとき、実線と点線の二重線部分は、式(5)又は式(6)
【化5】

である。〕
で表されるアリールプロパン誘導体、若しくはその溶媒和物を有効成分とするAGE形成阻害剤。
【請求項2】
一般式(1)で表されるアリールプロパン誘導体が、
アンチ−2−クロロメチル−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロパンチオ酸エチル、
シン−2−クロロメチル−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロパンチオ酸エチル、
(Z)−3−ヒドロキシ−2−ヨードメチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
(E)−3−クロロメチル−4−(4−メチルフェニル)ブタン−3−エン−2−オン、
2−クロロメチレン−3−ヒドロキシ−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−6−フェニルヘキサン−2−オン、
(Z)−2−クロロメチレン−3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、
(E)−3−クロロメチレン−4−ヒドロキシ−4−フェニルブタン−2−オン、
シン−3−クロロメチル−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
(E)−3−ブロモメチル−4−(4−クロロフェニル)ブタン−3−エン−2−オン
(E)−3−ブロモメチレン−4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)ブタン−2−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−トリフルオロメチルフェニル)プロピオン酸イソプロピル、
3−(4−フルオロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
4−ヒドロキシ−4−(4−ニトロフェニル)−3−メチレンブタン−2−オン、
2−ヒドロキシ−2−メチル−3−メチレン−4−(2−メチルチオフェニル)−4−オキソブタン酸エチル、
3−(4−シアノフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸イソプロピル、
3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−ヒドロキシ−3−メチル−2−メチレン−1−(2−メチルチオフェニル)ペンタン−1,4−ジオン、
2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
1,5−ビス(2−N,N−ジメチルアミノフェニル)−2−メチレンペンタン−1,5−ジオン、
2−メチレン−3−メチルオキシ−1−(2−メチルチオフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
2−メチレン−3,3−ジメチルオキシ−1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(3,4,5−トリメチルオキシフェニル)プロピオノニトリル、
3−ヒドロキシエチルオキシ−2−メチレン−1−(2−メチルチオフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオノニトリル、
2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニル−3−(4−トルエンスルホニルアミノ)プロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−(4−ビフェニリル)プロピオノニトリル、
2−[1−(ヒドロキシ)−1−(4−ニトロフェニル)メチル]シクロペンタン−2−エン−1−オン、
2−メチレン−3−メチルオキシ−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
4−エチルオキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)ペンタン−4−エン−1−オン、
3−ヒドロキシエチルオキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニルプロパン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−ピリジン−4−イルプロピオノニトリル、
3−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレンプロピオノニトリル、
3−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−1−オン、
2−ヒドロキシ−3−メチレン−4−(2−メチルセレノフェニル)−4−オキソ−2−フェニルブタン酸メチル、
2−[[1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン−2−イル](フェニル)メチルオキシエチルオキシ](フェニル)メチル−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
1−(2−メチルチオフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、
3−ヒドロキシ−2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)プロパン−1−オン、
2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン、及び
1−(2−メチルセレノフェニル)プロパン−2−エン−1−オン
からなる群から選ばれる化合物である請求項1記載のAGE形成阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のAGE形成阻害剤を有効成分とする糸球体疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
請求項3記載の糸球体疾患が、糖尿病性腎症である予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
(Z)−3−ヒドロキシ−2−ヨードメチレン−3−(4−ニトロフェニル)プロピオン酸メチル、2−メチレン−1−(2−メチルセレノフェニル)−3−フェニル−3−(4−トルエンスルホニルアミノ)プロパン−1−オン、若しくは3−ヒドロキシ−2−メチレン−3−ピリジン−4−イルプロピオノニトリルからなる群から選ばれるアリールプロパン誘導体、若しくはその溶媒和物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−29750(P2009−29750A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196535(P2007−196535)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】