説明

アルカリシリカ反応判定方法

【課題】 管理が比較的容易な試薬を用いることができ、比較的安全性と実用性の高いアルカリシリカ反応判定装置の提供。
【解決手段】 ウラン濃度約0.0005%から約0.00075%の希釈酢酸ウラニル溶液を試料コンクリート断面に塗布する工程と、希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した後約5分から約30分反応させる反応工程と、反応時間経過後に紫外線を照射し発光の有無を判定し、発光が有る場合にアルカリシリカゲルが存在すると判定する評価工程を経ることを特徴とするアルカリシリカ反応判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリシリカ反応の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酢酸ウラニル溶液をコンクリートに塗布し、暗室で紫外線を照射することにより、発光するアルカリシリカゲルの存在を確認する手法が広く知られている。
この様なコンクリートのアルカリシリカ反応(以下ASR例えば下記特許文献1参照)の判定には、一般的には、走査型電子顕微鏡やEPMAによりゲル状の物質の化学組成を分析することにより、ゲル状の物質がアルカリシリカゲルであるか否かを確認する手法が用いられるが、分析するための試料の作成や観察自体に高度な技術や技能が必要である。
そのため、コンクリートの劣化原因判定においては、ASRによる劣化の可能性が高い場合であっても、確実な判定にまで至らない場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−99833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、経年劣化したコンクリート構造物の維持管理においては、劣化原因を明らかにした上で対応する事が必要であることから、精密機器等を要しない簡易なASR判定手法の開発が望まれている。
【0005】
酢酸ウラニル蛍光法(従来手法)は、研究目的として、大学や研究機関等で適用されてきた手法であり極めて有用な手法であるが、試薬のウラン濃度が高く、放射性溶液としての取扱いが必要であることから、国内で実施している施設は希少である。
従って、取扱いの容易なウラン濃度の低い試薬によるASR判定手法が確立されれば、コンクリート構造物の維持管理において有用であるばかりでなく、コンクリート診断分野においても、画期的な技術となると考えられる。
【0006】
そこで、簡易なASR判定手法の開発を試みたところ、市販の硝酸ウラニル溶液(ICP汎用混合液)を希釈し、薄い濃度の酢酸ウラニル溶液(希釈酢酸ウラニル溶液)を調合して使用した場合、従来手法と同様の発光現象が確認できた。
【0007】
更に、希釈酢酸ウラニル溶液の必要濃度や必要反応時間を確認する試験を実施し、ASR簡易判定手法の開発において判定試薬の実用濃度や実用反応時間を見出すこととした。
【0008】
以上の如く、本発明は、従来手法の問題点を解決し、現場において試料を採取しつつ判定しえる簡易かつ有用なアルカリシリカ反応判定方法の提供を目的とする。
【0009】
尚、ここで、アルカリシリカゲルとは、反応性鉱物(反応性シリカ鉱物)を含む骨材がコンクリート中のアルカリ溶液と反応して生成するものである。これが、吸水・膨張することにより、コンクリートに異常膨張やひび割れを発生させ、コンクリート構造物の劣化現象を誘発する原因となるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために為された本発明によるアルカリシリカ反応判定方法は、ウラン濃度約0.0005%から約0.00075%の希釈酢酸ウラニル溶液を試料コンクリート断面に塗布する工程と、希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した後約5分から約30分放置する反応工程と、反応時間経過後に紫外線を照射し発光の有無を判定し、発光が有る場合にアルカリシリカゲルが存在すると判定する評価工程を経ることを特徴とする。
【0011】
ウラン濃度を低くする点、反応時間を短くする点、及び発光が明確である点より、ウラン濃度約0.0005%の希釈酢酸ウラニル溶液を試料コンクリート断面に塗布する工程と、希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した後約5分放置する反応工程と、反応時間経過後に紫外線を照射し発光の有無を判定し、発光が有る場合にアルカリシリカゲルが存在すると判定する評価工程を経ることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるアルカリシリカ反応判定方法によれば、管理が比較的容易な試薬を用いて、短時間に正確な判定を行えるだけの発光を得ることができ、従来手法に勝るとも劣らない代替手法となる。
希釈酢酸ウラニル溶液は、多元素(29元素)が含まれた調合された溶液であり、この溶液からウランを抽出することは困難であると判断できるため、使用量に関らず国際規制物質とはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるアルカリシリカ反応判定方法の一実施の形態におけるサンプル2(反応時間5分)の発光状況の一例を示す画像である。
【図2】本発明によるアルカリシリカ反応判定方法の一実施の形態におけるサンプル2の表面に希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した面の白色灯下の画像である。
【図3】本発明によるアルカリシリカ反応判定方法の一実施の形態におけるサンプル2(反応時間5分)の表面に希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した面の紫外線灯下の発光状況を示す画像である。
【図4】本発明によるアルカリシリカ反応判定方法の一実施の形態におけるサンプル2(反応時間5分)の化学分析結果を示す画像である。
【図5】本発明によるアルカリシリカ反応判定方法の一実施の形態におけるサンプル2の表面に希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した面の白色灯下の画像である。
【図6】本発明によるアルカリシリカ反応判定方法の一実施の形態におけるサンプル2(反応時間5分)の表面に希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した面の紫外線灯下の発光状況を示す画像である。
【図7】従来のアルカリシリカ反応判定方法(酢酸ウラニル蛍光法)の一実施の形態におけるサンプル2の表面に酢酸ウラニル溶液を塗布した面の白色灯下の画像である。
【図8】従来のアルカリシリカ反応判定方法(酢酸ウラニル蛍光法)の一実施の形態におけるサンプル2(反応時間5分)の表面に酢酸ウラニル溶液を塗布した面の紫外線灯下の発光状況を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明によるアルカリシリカ反応判定方法の実施の形態を図面に基づき説明する。
本実施の形態は、ウラン濃度約0.0005%から約0.00075%の希釈酢酸ウラニル溶液を試料コンクリート断面に塗布する工程と、希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した後約5分から約30分反応させる反応工程と、反応時間経過後に紫外線を照射し発光の有無を判定し、発光が有る場合にアルカリシリカゲルが存在すると判定する評価工程を経る。
【0015】
(試験1)溶液の必要濃度及び反応時間確認試験
本実施の形態で用いる希釈酢酸ウラニル溶液の試薬は、市販されている硝酸ウラニン標準液(ICP汎用混合液:2%HNO3(硝酸)溶液,29元素含有,0.0017%のU(ウラン)を含む)をNaOHにより中和後、酢酸を少量加え、低濃度の酢酸とウランを含む溶液で希釈し、数種類の異なる濃度となるように調合作成した試薬である(表1参照)。尚、サンプル3はNaOHによる中和を2回行なったものであり、サンプル4及びサンプル5はサンプル3を更に希釈したものである。
【0016】
【表1】

【0017】
濃度の異なる前記試薬をASRが発生している試料コンクリートの切断面に塗布し、反応時間を5分、30分、1時間とした場合の、暗室下でのUV(紫外線)灯照射で観られる発光状況を比較した。
尚、試料コンクリートの断面に対して試薬を反応させる反応時間は、試薬を塗布後、そのまま放置し軽く水洗するまでの時間であり、塗布後5分間放置し、水洗、発光確認後、同じ面に更に試薬を塗布し、25分間放置したものを30分の反応時間とした。また、同様に、更に試薬を塗布し、30分間放置したものを1時間の反応時間とした。
【0018】
(試験2)化学分析(EPMA)によるASRゲルの確認試験
ASRが発生している試料コンクリートを切断した片面に、希釈酢酸ウラニル溶液(上記試験1で最も発光したサンプル)を適用し、発光の有無を確認すると共に、その反対面の発光した部分に対応する場所を化学分析(EPMA)し、その成分を確認した。
【0019】
(試験3)従来手法との対応確認(照合)試験
ASRが発生している試料コンクリートを切断した片面に、希釈酢酸ウラニル溶液(上記試験1で最も発光したサンプル)を適用し、発光した部分を確認した。また、その反対面において従来手法を適用し、同じ部分が発光しているか否かを確認した。
【0020】
試験結果を表2に示す。
評価は、○:「緑色の発光がはっきりわかる」、△:「発光があり緑色に発色している部分もあるが、はっきりしていない」、×:「発光はあるが弱くてほとんど緑色にまで発色していない、或いは発光していない」とした。
【0021】
【表2】

【0022】
(試験結果1)溶液の必要濃度及び反応時間確認試験
試験の結果、希釈酢酸ウラニル溶液として、ウラン濃度0.00058%(従来手法の4/10,000相当)、反応時間5分の場合(サンプル2)に、判定に十分な明るさの発光現象が確認できた(図1参照)。
【0023】
(試験結果2)化学分析(EPMA)によるASRゲルの確認試験
上記サンプル2(反応時間5分)を適用し、発光した部分に対応する部分を分析(EPMA)した結果、成分比が、周囲のセメントペーストとは異なり、ARSゲルの成分であるCa,Si,Na,Kを含み、Al,Feを含まないことからASRゲルであることが確認できる。
この際の発光状況と分析結果の一例を図2乃至図4に示す。
図4の例にあっては、写真中央部から右端に至る領域においてNa濃度2%に相当する色彩が認められることからASRゲルであることが確認できる。
【0024】
(試験結果3)従来手法との対応確認試験
上記サンプル2(反応時間5分)と従来手法との発光状況を図5乃至図8に示す。
写真に現れた通り、同じ部分での発光が確認できた。
【0025】
以上の如く、硝酸ウラニン標準液等に弱アルカリ化工程及び希釈工程を経て得た希釈液を用いてもアルカリシリカゲルの存否の判定が可能であり、取扱いに公的規制が緩やかな比較的安全性と実用性の高いアルカリシリカ反応判定方法とその試薬が提供されることとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウラン濃度約0.0005%から約0.00075%の希釈酢酸ウラニル溶液を試料コンクリート断面に塗布する工程と、希釈酢酸ウラニル溶液を塗布した後約5分から約30分反応させる反応工程と、反応時間経過後に紫外線を照射し発光の有無を判定し、発光が有る場合にアルカリシリカゲルが存在すると判定する評価工程を経ることを特徴とするアルカリシリカ反応判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−78204(P2012−78204A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223699(P2010−223699)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【Fターム(参考)】