説明

アルカリシリカ反応判定装置

【課題】 暗所と明所を実現でき、試料を同じ撮影条件下におくことができ、且つ容器内の洗浄が容易な携帯性の高いアルカリシリカ反応判定装置の提供。
【解決手段】 蓋及び容器本体からなる遮光性容器を備え、蓋の裏面中央部に、封鎖時において容器本体に向けられる撮像手段を備え、蓋の裏面縁部に、封鎖時において容器本体を照らす紫外線ランプ及び白色ランプを備え、容器本体の内部底面に、吸水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設し、判定容器の外部に、撮像手段を機能させ、又は紫外線ランプ若しくは白色ランプを選択的に点灯させる操作手段を備えるアルカリシリカ反応判定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリシリカ反応の判定を簡易に行なう為の判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酢酸ウラニル溶液をコンクリートに塗布し、暗室で紫外線を照射することにより、発光するアルカリシリカゲルの存在を確認する手法が広く知られている。
アルカリシリカゲルとは、反応性鉱物(反応性シリカ鉱物や炭酸塩岩等)を含む骨材がコンクリート中のアルカリ溶液と反応して生成するものである。これが、吸水・膨張することにより、コンクリートに異常膨張やひび割れを発生させ、コンクリート構造物の劣化現象を誘発する原因となるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2006/049192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酢酸ウラニル溶液等を使用したアルカリシリカ反応判定は、比較的簡易にアルカリシリカゲルの存否を判定し得るものであることから、現場において試料を採取しつつ判定し、且つ通常の態様及び紫外線照射による発光状況を撮影して、機動的にデータ収集を行なうことが望まれる。
【0005】
しかしながら、撮影には暗室を要するのみならず、撮影を要する面を撮像装置に向け、多数のサンプルについて同じ撮影条件で静止させておく支持手段が必要である。
また、酢酸ウラニル溶液等の試薬は、放射性物質であり、試薬や廃棄物の扱い管理には細心の注意が必要であるところ、従来の装置では、試料を交換する毎に、判定に用いた道具の洗浄といった煩雑な作業が不可欠であり、そういった作業を行う施設を、試料を採取できる現場に求めることは極めて困難であった。
【0006】
尚、他分野であるが、一定の条件下で撮影できる道具として、上記特許文献1に記載の皮膚トリートメント装置が挙げられる。しかしながら、この文献に開示された技術では、試料としての人肌に圧着する形態を採っており、本願発明における上記課題の解決に貢献し得る記載は無い。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、暗所と明所を実現でき、試料を同じ撮影条件下におくことができ、且つ容器内の洗浄が容易な携帯性の高いアルカリシリカ反応判定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、蓋及び容器本体からなる遮光性容器を備え、蓋の裏面中央部に、封鎖時において容器本体に向けられる撮像手段を備え、蓋の裏面縁部に、封鎖時において容器本体を照らす紫外線ランプ及び白色ランプを備え、容器本体の内部底面に、吸水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設し、判定容器の外部に、撮像手段を機能させ、又は紫外線ランプ若しくは白色ランプを選択的に点灯させる操作手段を備えるアルカリシリカ反応判定装置である。
【0009】
撮像手段は、CCDカメラ等である。
紫外線ランプや白色ランプは、試料の蓋に面する面へ全周から影を造ることなく均一に照らせる態様で配置すればよく、光源が単一であるか複数であるかを問わない。
低反発マットとは、人力によって凹むが、反発復帰作用が極めて緩やかに生じる性状を持つシート状の発泡成形物等である。
【0010】
容器本体の内部底面に、吸水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設する構成に換えて、容器本体の内部底面に、通水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設し、容器本体の底壁内面に、弾性低反発マットを通過した試薬を溜める液溜りを備えるアルカリシリカ反応判定装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
遮光性容器は、簡易な暗室となり、蓋の裏面中央部に、封鎖時において容器本体に向けられる撮像手段を備えることによって、容器の内空部における一定の位置から試料を撮影することができる。
蓋の裏面縁部に、封鎖時において容器本体を照らす紫外線ランプ及び白色ランプを備えることによって、暗所において照射する光を選択し、明所における試料の外観像と暗所において発光した試料の外観像とを、同じ撮影条件において、対比できる態様で撮影することができる。
【0012】
容器本体の内部底面に、吸水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設することによって、種々の形状を有する試料を所望の向きに安定した状態で定着することができると共に、試料に散布した試薬の余分を低反発マットに吸収し、データを取り終えた後に試料とともに取り外して廃棄することができる。
また、低反発マットを交換して別の試料を固定してデータ収集を図ることができる。
判定容器の外部に操作手段を備えることによって、遮光性容器を開けることなく、撮像手段を機能させ、又は紫外線ランプ若しくは白色ランプを選択的に点灯させることができる。
【0013】
容器本体の内部底面に、通水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設し、容器本体の底壁内面に、弾性低反発マットを通過した試薬を溜める液溜りを備える構造を採用することによって、アルカリシリカ反応試薬を回収することができる。
【0014】
上記の如く、本発明によれば、暗所と明所を実現でき、試料を同じ撮影条件下におくことができ、且つ容器内の洗浄が容易な携帯性の高いアルカリシリカ反応判定装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1(A)(B)】本発明によるアルカリシリカ反応判定装置の一例を示す蓋の下面図、及び容器本体の上面図。
【図2(A)(B)】本発明によるアルカリシリカ反応判定装置の開閉の態様の一例を示す斜視図である。
【図3(A)(B)】本発明によるアルカリシリカ反応判定装置の光漏れ防止構造の一例を示す断面図である。
【図4】本発明によるアルカリシリカ反応判定装置の操作手段の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明によるアルカリシリカ反応判定装置の実施の形態を図面に基づき説明する。
図に示す例は、遮光性容器1と、撮像手段2と、紫外線ランプ3及び白色ランプ4と、低反発マット5と、撮像手段2を機能させ、又は紫外線ランプ3若しくは白色ランプ4を選択的に点灯させる操作手段6を備えるアルカリシリカ反応判定装置である。
【0017】
この例の遮光性容器1は、有底円筒状の遮光素材からなる蓋1a及び容器本体1bからなり、その連結部に複数の凹凸を組み合わせる等の光漏れ防止構造7と、蓋1aと容器本体1bとの一定の位相関係を以って連結状態をロックする方位固定構造8を備えたものである。
【0018】
具体的には、蓋1aは、その開口部内周縁に、容器本体1bの上縁1cを全周に亘って囲う内鉤部1dを備え、外周縁に、側方に迫出した係止部1eを備える。容器本体は、開口部外周縁に、係止部1eの下面、側面、及び上面を囲う外鉤部1fを備える。
蓋1aと容器本体1bは、容器本体1bの上縁1cを、蓋1aの内鉤部1dに嵌め入れ、そのままストッパ1gに当たるまで回転させて、蓋1aの係止部1eを容器本体1bの外鉤部1fへ嵌め入れることによって、内部へ光が漏れ入らない状態で一体化する。
【0019】
この例の蓋1aは、撮影機器部として機能し、裏面中央部に撮像手段2を備える。
この例の撮像手段2は、撮像素子2aとしてCCDを備えたカメラであり、撮像手段2のレンズ2bは、封鎖時において容器本体1bの底壁に向けて支持する(以下、この方向を前方と記す。)。撮像手段2は、その対物レンズ(以下、レンズ2bと記す。)の表面から低反発マット5の表面に至る距離の範囲内で、遮光性容器1の外部からピントを微調整できる機能(以下、接写機能と記す。)を有するものが望ましく、更に、撮影した画像データを保存し、或いは他の機器に移動、複製する便宜としてスマートメディアやメモリスティック等の記録メディア用ドライバを備えることも望ましい。
【0020】
また、この蓋1aは、その内側に、封鎖時において遮光性容器1の内部を照らす紫外線ランプ3及び白色ランプ4を備える(図1(A)参照)。
この例の紫外線ランプ3及び白色ランプ4は、紫外線光源及び白色光源たる複数のLEDを用いたものであるが、円周状の蛍光灯その他のランプでも良い。
この例では、これらの紫外線ランプ3及び白色ランプ4を、蓋1aの内側に側壁に沿って円周状に各々単数列又は複数列配列し、撮像手段2の周囲に均等に存在し、且つ各紫外線ランプ3及び白色ランプ4が前後方向へ相互に重ならないように設ける。
【0021】
容器本体1bは、試料設置部として機能する。
容器本体1bの底壁内面は、平面状に成形するか、又は液体を受け得る液溜り1hを備えた皿状に成形する。
底壁内面には、吸水性又は通水性を有する低反発マット5を脱着可能に敷設する。
底壁内面又は側面は、敷設した低反発マット5が回転することによって、容器本体1bに対する試料Sの向きが変わらない様に、低反発マット5の側面に食い込む突片等の回転止め1iを備える。
【0022】
低反発マット5には、吸水性発泡ウレタンフォーム(例えば、特表2002−519042号公報、又は実用新案登録第3128247号公報参照)等の発泡合成樹脂、試料Sを装着する際の人為的加圧によって部分的に破壊することが可能なハニカム構造など多数の気室を有する紙製のシート、又は、それらと同等の構造を有する樹皮や木片等を用いる。
【0023】
操作手段6は、撮像機器部の電源を供給する電源部13、撮像手段2のピント調整機能及び撮影の開始・停止を制御する撮影制御信号発生部9、紫外線ランプ3及び白色ランプ4へ電力を供給する為の照明制御信号発生部11、紫外線ランプ3及び白色ランプ4の点灯又は消灯を選択的に行ない、並びにピント調整機能及び撮影の開始・停止の操作を行うスイッチ部10を備える(図4参照)。操作手段6で発生する制御信号は、ケーブル12を介して蓋1aの内部に備える撮像手段2、並びに紫外線ランプ3及び白色ランプ4に供給する。蓋1aのケーブル引出部は、遮光素材によるシール等を施し、光が漏れ入ることを防止する。
尚、前記撮像手段2からケーブル12を介して画像データを取り出せば、操作手段6と一体的に記録メディア用ドライバを備えることもできる。
【0024】
以上の如く構成されたアルカリシリカ反応判定装置を用いれば、データの採取を行なうにあたり、先ず、試料Sを低反発マット5押し付け、低反発マット5の表面に嵌め込む(図1(B)及び図2(A)参照)。その際、試料Sの表面のうち、撮影しようとする面(以下、撮影面と記す。)を撮像手段2のレンズ2bに向け、撮影面をレンズ2bに対してできるだけ平行にする。固定の態様が決まれば、固定された試料Sの撮影面に試薬(酢酸ウラニル溶液)を適量吹付けた後、軽く水(以下、洗浄水と記す。)で洗い流し、遮光性容器1の蓋1aを閉じる。
【0025】
こうして、試料Sは、回転止め1iにより回転が禁止された低反発マットに支持され、逆さにし、又は急激な衝撃を与えない限り、嵌め込まれた位置で、嵌め込まれたままの姿勢を維持する。この作用が方位固定構造8と相俟って、レンズと試料との位置関係、距離関係、及び位相関係が決まり、操作手段で露光やシャッター速度を一旦決めれば、何度蓋1aを開け閉めしようとも、同じ位置条件で試料Sを撮影することが可能となる。
【0026】
撮影環境は、紫外線ランプ3が照射されている環境での撮像(アルカリシリカゲルの発光像)と、白色ランプ4が照射されている環境の撮像(自然環境下での外観像)を操作手段6で選択することができる。上記の如く、位置条件が決まっていることから、発光像と外観像の形態と状態とが整合し、暗所撮影による発光像において試料Sの輪郭が不鮮明であっても、比較的容易に精密な比較対照を行なうことが可能となる。
【0027】
データを取り終えた後、低反発マット5、低反発マット5に吸収された試薬や洗浄水は、試料Sとともに取り外して廃棄する。また、液溜り1hに溜まった試薬や洗浄水は、所定の容器に回収する。
【0028】
アルカリシリカゲルの吸着力を利用すれば、試薬には、酢酸ウラニル溶液以外の弱アルカリ性蛍光物質(例えば、硝酸ウラニン標準液、蛍石、ウラニン溶液(フルオレセインナトリウム)等が挙げられる。)を用いることができる可能性がある。
【0029】
酢酸ウラニル溶液は、高濃度のウランを含む放射性溶液であり、一般的には溶液の扱いや廃棄物の扱いに公的な規制が存在することから、この様な規制を回避できる安全で扱い易い試薬が求められていた。以下、硝酸ウラニン標準液についての試験結果の一部を示す。
【0030】
以下、酢酸ウラニル蛍光法の手順を、硝酸ウラニン標準液を試薬として行なった場合についての試験結果の一部を示す。
【0031】
(1)硝酸ウラニン標準液+酢酸による試験
硝酸ウラニン標準液(2ml)に酢酸(0.05ml)を添加したものに試料を浸し、湯煎(50℃半日)し、一晩放置後、水洗浄し発光を確認した。
結果、発光が確認できたが微弱であった。硝酸によりゲルが流出してしまった可能性がある。
【0032】
(2)硝酸ウラニン標準液(NaOHにより中和)+酢酸による試験
硝酸ウラニン標準液(2ml)にNaOHを添加しPHを弱酸性とした後、酢酸0.1mlを添加して希釈したものに、試料を浸し、湯煎(50℃半日)し、一晩放置後、水洗浄し発光を確認した。
結果、骨材の周囲にはっきりとした発光が確認できた。発光した部分はアルカリシリカゲルが生成していると考えられる部分であり、低濃度の放射性溶液を試薬として酢酸ウラニル蛍光法が実現できることが確認できた。
【0033】
以上の如く、硝酸ウラニン標準液等に弱アルカリ化工程及び希釈工程を経て得た希釈液を用いてもアルカリシリカゲルの存否の判定が可能であり、取扱いに公的規制が緩やかな比較的安全性の高い試薬と、本発明による判定装置を併用すれば、調査現場におけるアルカリシリカ反応の判定に伴う実用性が、法的にも安全性においても、より高いものとなる。
【符号の説明】
【0034】
1 遮光性容器,2 撮像手段,3 紫外線ランプ,4 白色ランプ,
5 低反発マット,6 操作手段,7 光漏れ防止構造,8 方位固定構造,
9 撮影制御信号発生部,10 スイッチ部,11 照明制御信号発生部,
12 ケーブル,13 電源部,
S 試料,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋及び容器本体からなる遮光性容器を備え、
蓋の裏面中央部に、封鎖時において容器本体に向けられる撮像手段を備え、
蓋の裏面縁部に、封鎖時において容器本体を照らす紫外線ランプ及び白色ランプを備え、
容器本体の内部底面に、吸水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設し、
判定容器の外部に、撮像手段を機能させ、又は紫外線ランプ若しくは白色ランプを選択的に点灯させる操作手段を備えるアルカリシリカ反応判定装置。
【請求項2】
蓋及び容器本体からなる遮光性容器を備え、
蓋の裏面中央部に、封鎖時において容器本体に向けられる撮像手段を備え、
蓋の裏面縁部に、封鎖時において容器本体を照らす紫外線ランプ及び白色ランプを備え、
容器本体の内部底面に、通水性を有する低反発マットを脱着可能に敷設し、
容器本体の底壁内面に、弾性低反発マットを通過した試薬を溜める液溜りを備え、
判定容器の外部に、撮像手段を機能させ、又は紫外線ランプ若しくは白色ランプを選択的に点灯させる操作手段を備えるアルカリシリカ反応判定装置。

【図1(A)(B)】
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【図2(A)(B)】
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【図3(A)(B)】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−237091(P2010−237091A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86537(P2009−86537)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【Fターム(参考)】