説明

アルカリプロテアーゼ

【課題】高い洗浄性と生産性を併せ持つアルカリプロテアーゼの提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼ又はこれと機能的に等価なアルカリプロテアーゼにおいて、下記(a)〜(e)から選ばれる1種類以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入がなされ、且つ前記アミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼより高い比活性及び/又は洗浄性を有するアルカリプロテアーゼ。(a)133位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換、(b)133位と134位又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基の挿入、(c)挿入前の134位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換、(d)挿入前の135位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換、(e)132位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄剤配合酵素として有用なアルカリプロテアーゼ、それをコードする遺伝子に及び当該アルカリプロテアーゼを含有する洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業分野でのプロテアーゼ利用の歴史は古く、衣料用洗剤をはじめとする洗浄剤から繊維の改質剤、皮革処理剤、化粧料、浴剤、食品改質剤或いは医薬品としての利用まで非常に多岐にわたっている。中でも最も工業的に大量に生産されているものが洗剤用プロテアーゼであり、例えば、アルカラーゼ、サビナーゼ(登録商標;ノボザイムズ)、マクサカル(登録商標;ジェネンコア)、ブラップ(登録商標;ヘンケル)、及びKAP(花王)等が知られている。
【0003】
洗剤中にプロテアーゼを配合する目的は、衣料に付着したタンパク質を主成分とする汚れを分解して低分子化し、界面活性剤による可溶化を促進することである。しかし、実際の汚れはタンパク質だけでなく皮脂由来の脂質や固体粒子等、有機物と無機物が入り混じった複数の成分を内包する複合汚れであり、このような複合汚れに対する洗浄性の高い洗浄剤が望まれていた。
【0004】
かかる観点から本発明者らは、高濃度の脂肪酸存在下でも十分なカゼイン分解活性を保持し、タンパク質だけでなく皮脂等の混在する複合汚れに対しても優れた洗浄性を有する分子量約43,000のアルカリプロテアーゼを数種見出し、先に特許出願した(特許文献1参照)。斯かるアルカリプロテアーゼ群は、その分子量、一次構造、酵素学的性質、特に非常に強い酸化剤耐性を有する点で、従来から知られているバチルス属細菌由来のセリンプロテアーゼであるズブチリシンとは異なり、新しいズブチリシンサブファミリーに分類することが提唱されている(非特許文献1参照)。
【0005】
上記アルカリプロテアーゼ群は、皮脂汚れ等の混在する条件下でも高い洗浄性能を有するが、更に高い洗浄性能が求められていることも事実である。また、このように洗浄性に優れたプロテアーゼを工業的に大量生産するには、生産性を高めることも必要である。生産性を向上させる方法としては、生産菌の変異育種による改良、プロテアーゼをコードする遺伝子あるいはその発現制御に関わる遺伝子を改変してタンパク質分泌量を高める方法、プロテアーゼをコードする遺伝子を改変して、比活性を向上させる方法が挙げられる。そこで、本発明者らは、上記アルカリプロテアーゼの遺伝子改変について検討し、タンパク質分泌能や比活性が向上した変異アルカリプロテアーゼを見出した(特許文献2、3)。
【0006】
しかしながら、大量に且つ廉価な酵素を生産するには更なる生産性の向上が必須であり、その為には更なる比活性の向上や分泌量の向上または洗浄力の向上などが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第99/18218号パンフレット
【特許文献2】特開2004−000122号公報
【特許文献3】特開2004−057195号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Saekiら, Biochem.Biophys.Res.Commun., 279, 313-319, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、複合汚れに対して有効なアルカリプロテアーゼの洗浄性能を更に向上させ、酵素の比活性を高めることにより、高い洗浄性と生産性を併せ持つアルカリプロ
テアーゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、新しいズブチリシンサブファミリーに分類することが提唱されている分子量約43,000のアルカリプロテアーゼについて、これらのアミノ酸配列の適切なアライメントをとることにより、改変候補となるアミノ酸の選抜を試み、任意のアミノ酸への置換、挿入、欠失等の部位特異的変異導入を行なった。その結果、ある種のアルカリプロテアーゼにおいて、比活性を向上させるには当該アミノ酸配列中の特定位置に特定のアミノ酸残基が必要であることを見出した。更に洗浄性能を向上させるには当該アミノ酸配列中の特定位置に特定のアミノ酸残基の挿入が必要であることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼ又はこれと機能的に等価なアルカリプロテアーゼにおいて、下記(a)〜(e)から選ばれる1種類以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入がなされ、且つ配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼより高い比活性及び/又は洗浄性を有するアルカリプロテアーゼを提供するものである。
(a)133位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換、
(b)133位と134位又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の間への他のアミノ酸残基の挿入、
(c)挿入前の134位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換、
(d)挿入前の135位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換及び
(e)132位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
【0012】
また本発明は、該アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子、該遺伝子を含有するベクター、該ベクターを含有する形質転換体を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、該アルカリプロテアーゼを含有する洗浄剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複合汚れに対しても優れた洗浄性を有するアルカリプロテアーゼの洗浄性能及び、酵素の比活性を高めることにより、洗浄剤に配合するのに適したアルカリプロテアーゼを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】配列番号1で示されるアミノ酸配列と同一性の高いプロテアーゼのアミノ酸 配列を整列させた図である。
【図2−1】本発明アルカリプロテアーゼの洗浄力を示した図である。
【図2−2】本発明アルカリプロテアーゼの洗浄力を示した図である。
【図2−3】本発明アルカリプロテアーゼの洗浄力を示した図である。
【図2−4】本発明アルカリプロテアーゼの洗浄力を示した図である。
【図2−5】本発明アルカリプロテアーゼの洗浄力を示した図である。
【図2−6】本発明アルカリプロテアーゼの洗浄力を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアルカリプロテアーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼ又はこれと機能的に等価なアルカリプロテアーゼにおいて、下記(a)〜(e)から選ばれる1種類以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入がなされたもので、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼより比活性又は洗浄性が向上していることが好ましく、さらに比活性及び洗浄性の向上していることが好ましい。
(a)133位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)133位と134位又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の間への他のアミノ酸残基の挿入
(c)挿入前の134位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
(d)挿入前の135位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
(e)132位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
斯かるアルカリプロテアーゼは、野生型、野生型の変異体或いは人為的に変異を施した変異体であってもよい。
【0017】
また、上記(a)〜(e)から選ばれる2種類以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入の好適な組み合わせとしては、例えば、以下の1)〜5)が挙げられる。
1)(a)で示されるアミノ酸残基の置換と(b)で示されるアミノ酸残基の挿入の組み合わせ
2)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(c)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせ
3)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入、(c)で示されるアミノ酸残基の置換及び(d)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせ
4)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせ
5)(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の
組み合わせ
【0018】
さらに、本発明のアルカリプロテアーゼの好適な具体例として、以下の6)〜16)で示されるものが挙げられる。
6)(a)で示されるアミノ酸残基の置換であって、他のアミノ酸残基が、リジン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、バリン、ロイシン又はイソロイシンである
7)(b)で示されるアミノ酸残基の挿入であって、他のアミノ酸残基が、リジン、ロイシン、セリン、メチオニン、グリシン、スレオニン、チロシン又はアルギニンである
8)(a)で示されるアミノ酸残基の置換と(b)で示されるアミノ酸残基の挿入の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)プロリン/(b)イソロイシン、(a)ロイシン/(b)セリン、(a)ロイシン/(b)グリシン、(a)ロイシン/(b)スレオニン、(a)セリン/(b)アラニン、(a)セリン/(b)アスパラギン、(a)セリン/(b)グルタミン、(a)セリン/(b)トリプトファン、(a)セリン/(b)ヒスチジン、(a)セリン/(b)グリシン、(a)リジン/(b)セリン、(a)スレオニン/(b)セリン、(a)イソロイシン/(b)セリン、(a)メチオニン/(b)セリン、(a)グリシン/(b)セリン、(a)アルギニン/(b)セリン、(a)グルタミン酸/(b)セリン、(a)アスパラギン/(b)セリン、(a)フェニルアラニン/(b)セリン、(a)トリプトファン/(b)セリン、(a)リジン/(b)アラニン、(a)アルギニン/(b)アラニン、(a)リジン/(b)グリシン又は(a)セリン/(b)セリンである
9)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(c)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)セリン/(b)セリン/(c)スレオニン、セリン、グリシン又はアラニンである
10)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入、(c)で示されるアミノ酸残基の置換及び(d)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)セリン/(b)セリン/(c)セリン/(d)アラニン、(a)セリン/(b)セリン/(c)セリン/(d)アルギニン又は(a)セリン/(b)セリン/(c)セリン/(d)メチオニンである
11)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)セリン/(b)セリン/(e)セリン、(a)セリン/(b)セリン/(e)グルタミン又は(a)セリン/(b)セリン/(e)メチオニンである
12)(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(b)アラニン、アルギニン、グリシン又はロイシン/(e)セリンである
13)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)イソロイシン/(b)アラニン/(e)セリン、(a)ヒスチジン/(b)アラニン/(e)セリン、(a)セリン/(b)アラニン/(e)セリン、(a)ロイシン/(b)アラニン/(e)セリン、(a)アルギニン/(b)アラニン/(e)セリン、(a)リジン/(b)アラニン/(e)セリン又は(a)リジン/(b)セリン/(e)セリンである
14)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)イソロイシン/(b)アラニン/(e)アルパラギン、(a)プロリン/(b)アラニン/(e)アルパラギンである
15)(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(b)アラニン/(e)メチオニン又はスレオニンである
16)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)リジン/(b)セリン/(e)アルパラギン酸又はイソロイシンである
【0019】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼとしては、例えばプロテアーゼKP43〔バチルス エスピーKSM−KP43(FERM BP−6532)由来、WO99/18218、GenBank accession no.AB051423〕が挙げられる。
【0020】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼと機能的に等価なアルカリプロテアーゼとしては、野生型又は野生型の変異体であってもよい。例えば、配列番号1において132位、133位、134位若しくは135位又はこれらに相当する位置以外のアミノ酸残基が1〜数個欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるアルカリプロテアーゼ、或いは配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは87%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアルカリプロテアーゼであり、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼと同様の性質を有するものが挙げられる。特に、pH8以上のアルカリ性領域で作用する、酸化剤耐性を有する、50℃、pH10で10分間処理したとき80%以上の残存活性を示す、ジイソプロピルフルオルリン酸(DFP)及びフェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)で阻害され、SDS−PAGEによる分子量が43,000±2,000であるものが好ましい。ここで、酸化剤耐性を有することとしては、当該アルカリプロテアーゼを50mM過酸化水素、5mM塩化カルシウムを含む20mMブリットンロビンソン緩衝液(pH10)中で、30℃、20分間の放置後の残存活性が少なくとも50%以上を保持していることが挙げられる。
【0021】
「配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性をもつアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼ」としては、例えばプロテアーゼKP9860[バチルス エスピーKSM―KP9860(FERM BP−6534)由来、WO99/18218、GenBank accession no.AB046403]、プロテアーゼE−1[バチルス No.D−6(FERM P−1592)由来、特開昭49−71191、GenBank accession no.AB046402]、プロテアーゼYa[バチルス エスピーY(FERM BP−1029)由来、特開昭61−280268、GenBank accession no.AB046404]、プロテアーゼSD521[バチルス SD521(FERM P−11162)由来、特開平3−191781、GenBank accession no.AB046405]、プロテアーゼA−1[NCIB12289由来、WO88/01293、GenBank accession no.AB046406]、プロテアーゼA−2[NCIB12513由来、WO98/56927]、プロテアーゼ9865〔バチルス エスピーKSM−9865(FERM P−18566)由来、GenBank accession no.AB084155〕や、特開2002−218989、特開2002−306176、特開2003−125783、特開2004−000122、特開2004−057195に記載の変異プロテアーゼ、配列番号1のアミノ酸配列の63位をセリンに置換した変異体、89位をヒスチジンに置換した変異体、120位をアルギニンに置換した変異体、63位及び187位をセリンに置換した変異体、226位をチロシンに置換した変異体、296位をバリンに置換した変異体、304位をセリンに置換した変異体(特開2004-305175)、配列番号1のアミノ酸配列の15位をヒスチジンに置換した変異体、16位をスレオニン又はグルタミンに置換した変異体、166位をグリシンに置換した変異体、167位をバリンに置換した変異体、346位をアルギニンに置換した変異体、405位をアスパラギン酸に置換した変異体(特開2004-305176)、などが挙げられる。
【0022】
なお、アミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法 (Science, 227, 1435, (1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を1として解析を行なうことにより算出される。
【0023】
また、本発明おいて、「相当する位置のアミノ酸残基」を特定する方法としては、例えばリップマン−パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各アルカリプロテアーゼのアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の相同性を与えることにより行なうことができる。プロテアーゼのアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各プロテアーゼにおける配列中の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象のプロテアーゼの特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。
【0024】
すなわち、上記方法でアミノ酸配列を整列させた図1より、
(1)配列番号1の132位のアミノ酸残基はアラニン残基であるが、その位置に相当する位置のアミノ酸残基は、上記の方法を用いることにより、例えばプロテアーゼE−1においては131位のアラニン残基というように特定することができる。
(2)配列番号1の133位のアミノ酸残基はアラニン残基であるが、その位置に相当する位置のアミノ酸残基は、上記の方法を用いることにより、例えばプロテアーゼYaにおいては132位のプロリン残基というように特定することができる。
(3)配列番号1の134位のアミノ酸残基はバリン残基であるが、その位置に相当する位置のアミノ酸残基は、上記の方法を用いることにより、例えばプロテアーゼKP9860においては134位のバリン残基というように特定することができる。
(4)配列番号1の135位のアミノ酸残基はアスパラギン残基であるが、その位置に相当する位置のアミノ酸残基は、上記の方法を用いることにより、例えばプロテアーゼSD521においては134位のアスパラギン残基というように特定することができる。
【0025】
プロテアーゼKP43のアミノ酸配列の(1)132位、(2)133位(3)134位、(4)135位に相当する位置及びアミノ酸残基の具体例を、上記で例示したプロテアーゼKP9860、プロテアーゼE−1、プロテアーゼYa、プロテアーゼSD521、プロテアーゼA−1、プロテアーゼA−2、プロテアーゼ9865について示す(表1)。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明のアルカリプロテアーゼが変異体である場合、変異を施す前のアルカリプロテアーゼ(親アルカリプロテアーゼということがある)としては、「配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するプロテアーゼ」又は上述した「これと機能的に等価なアルカリプロテアーゼ」として示したものが該当し、これに目的部位の変異を施すことにより本発明のアルカリプロテアーゼが得られる。
例えば、プロテアーゼKP43の配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し、前記6)〜16)で示されるアミノ酸残基の置換又は/及び挿入を行なう、又はこれと機能的に等価なアルカリプロテアーゼのアミノ酸配列において当該位置に相当する位置のアミノ酸残基に対して同様の置換又は/及び挿入を行なうことで得ることができる。
【0028】
本発明アルカリプロテアーゼは、例えば以下の方法により得ることができる。すなわち、クローニングされた親アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子(配列番号2)に対して変異を施し、得られた変異遺伝子を用いて適当な宿主を形質転換し、当該組換え宿主を培養し、培養物から採取することにより得られる。親アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子のクローニングは、一般的な遺伝子組換え技術を用いればよく、例えばWO99/18218、WO98/56927記載の方法に従って行なえばよい。
【0029】
親アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子の変異手段としては、一般的に行われている部異特異的変異の方法がいずれも採用できる。より具体的には、例えばSite-Directed Mutagenesis System Mutan-Super Express Kmキット(タカラ)等を用いて行なうことができる。また、リコンビナントPCR(polymerase chain reaction)法(PCR protocols, Academic Press, New York, 1990)を用いることによって、遺伝子の任意の配列を、他の遺伝子の該任意の配列に相当する配列と置換することが可能である。
【0030】
得られた変異遺伝子を用いた本発明プロテアーゼの生産方法としては、例えば当該変異遺伝子を安定に増幅できるDNAベクターに連結させ宿主菌を形質転換する、或いは当該変異遺伝子を安定に維持できる宿主菌の染色体DNA上に導入させる、等の方法が採用できる。この条件を満たす宿主としては例えばバチルス属細菌、大腸菌、カビ、酵母、放線菌などが挙げられ、これらの菌株を用い、資化性の炭素源、窒素源その他必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従い培養すればよい。
【0031】
かくして得られる本発明のアルカリプロテアーゼは、酸化剤耐性を有し、高濃度の脂肪酸によるカゼイン分解活性の阻害を受けず、SDS−PAGEにより認められる分子量が43,000±2,000であり、アルカリ性域で活性を有すると共に、親アルカリプロテアーゼに比べ、比活性の向上、及び/又は洗浄力の向上が認められるという性質を新に獲得したものである。
従って、本発明のアルカリプロテアーゼは、各種洗剤組成物配合用酵素として有用である。
【0032】
洗浄剤組成物中への本発明品プロテアーゼの配合量は、アルカリプロテアーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、洗浄剤組成物1kg当たり0.1〜5000PUが配合できるが、経済性等を考慮し、500PU以下が好ましい。
【0033】
本発明の洗浄剤組成物は、本発明品プロテアーゼ以外に様々な酵素を併用することもできる。例えば、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼ等である。このうち、本発明以外のプロテアーゼ、セルラーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等が好ましく、特にプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼが好ましい。プロテアーゼとしては市販のアルカラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、カンナーゼ(登録商標;ノボザイムズ社)、プロペラーゼ、プラフェクト(登録商標;ジェネンコア社)、またKAP(花王)、等が挙げられる。セルラーゼとしてはセルザイム、ケアザイム(登録商標;ノボザイムズ社)、またKAC、特開平10−313859号公報記載のバチルス・エスピーKSM−S237株が生産するアルカリセルラーゼ、特開2003-313592の号公報記載の変異アルカリセルラーゼ(以上、花王)等が挙げられる。アミラーゼとしてはターマミル、デュラミル、ステインザイム(登録商標;ノボザイムズ社)、プラスター(登録商標;ジェネンコア社)、またKAM(花王)、等が挙げられる。リパーゼとしてはリポラーゼ、リポラーゼウルトラ、ライペックス(登録商標;ノボザイムズ社)が挙げられる。
【0034】
洗浄剤組成物中で本発明品プロテアーゼ以外のプロテアーゼを併用する場合の配合量は、洗浄剤組成物1kg当たり0.1〜500PUが好ましい。セルラーゼを併用する場合は、特開平10−313859号公報の段落〔0020〕に記載の酵素活性測定方法より決定される単位(KU)に基づき、洗浄剤組成物1kg当たり300〜3000000KUが好ましい。
【0035】
またアミラーゼを併用する場合は、特開平11−43690号公報の段落〔0040〕記載のアミラーゼ活性測定方法より決定される単位(IU)に基づき、洗浄剤組成物1kg当たり50〜500000IUが好ましい。
【0036】
さらにリパーゼを併用する場合は、特表平8−500013号公報の実施例1記載のリパーゼ活性測定方法より決定される単位(LU)づき、洗浄剤組成物1kg当たり10000〜1000000LUが好ましい。
【0037】
本発明の洗浄剤組成物には公知の洗浄剤成分を配合することができ、当該公知の洗浄剤成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0038】
(1)界面活性剤
界面活性剤は洗浄剤組成物中0.5〜60質量%配合され、特に粉末状洗浄剤組成物については10〜45質量%、液体洗浄剤組成物については20〜50質量%配合することが好ましい。また本発明洗浄剤組成物が漂白剤、または自動食器洗浄機用洗剤である場合、界面活性剤は一般に1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%配合される。
【0039】
本発明洗浄剤組成物に用いられる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤の1種または組み合わせを挙げることが出来るが、好ましくは陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤である。
【0040】
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8〜20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。本発明では特に、アルキル鎖の炭素数が10〜14の、より好ましくは12〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、特にナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。
【0041】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。特に、非イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを4〜20モル付加した〔HLB値(グリフィン法で算出)が10.5〜15.0、好ましくは11.0〜14.5であるような〕ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0042】
(2)二価金属イオン捕捉剤
二価金属イオン捕捉剤は0.01〜50質量%、好ましくは5〜40質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる二価金属イオン捕捉剤としては、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩などの縮合リン酸塩、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩などが挙げられる。このうち結晶性アルミノケイ酸塩(合成ゼオライト)が特に好ましく、A型、X型、P型ゼオライトのうち、A型が特に好ましい。合成ゼオライトは、平均一次粒径0.1〜10μm、特に0.1〜5μmのものが好適に使用される。
【0043】
(3)アルカリ剤
アルカリ剤は0.01〜80質量%、好ましくは1〜40質量%配合される。粉末洗剤の場合、デンス灰や軽灰と総称される炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号などの非晶質のアルカリ金属珪酸塩が挙げられる。これら無機性のアルカリ剤は洗剤乾燥時に、粒子の骨格形成において効果的であり、比較的硬く、流動性に優れた洗剤を得ることができる。これら以外のアルカリとしてはセスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、またトリポリリン酸塩などのリン酸塩もアルカリ剤としての作用を有する。また、液体洗剤に使用されるアルカリ剤としては、上記アルカリ剤の他に水酸化ナトリウム、並びにモノ、ジ又はトリエタノールアミンを使用することができ、活性剤の対イオンとしても使用できる。
【0044】
(4)再汚染防止剤
再汚染防止剤は0.001〜10質量%、好ましくは1〜5質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる再汚染防止剤としてはポリエチレングリコール、カルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。このうちカルボン酸系ポリマーは再汚染防止能の他、金属イオンを捕捉する機能、固体粒子汚れを衣料から洗濯浴中へ分散させる作用がある。カルボン酸系ポリマーはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのホモポリマーないしコポリマーであり、コポリマーとしては上記モノマーとマレイン酸の共重合したものが好適であり、分子量が数千〜10万のものが好ましい。上記カルボン酸系ポリマー以外に、ポリグリシジル酸塩などのポリマー、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、並びにポリアスパラギン酸などのアミノカルボン酸系のポリマーも金属イオン捕捉剤、分散剤及び再汚染防止能を有するので好ましい。
【0045】
(5)漂白剤
例えば過酸化水素、過炭酸塩などの漂白剤は1〜10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6−316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01〜10質量%配合することができる。
【0046】
(6)蛍光剤
本発明洗浄剤組成物に用いられる蛍光剤としてはビフェニル型蛍光剤(例えばチノパールCBS−Xなど)やスチルベン型蛍光剤(例えばDM型蛍光染料など)が挙げられる。蛍光剤は0.001〜2質量%配合するのが好ましい。
【0047】
(7)その他の成分
本発明品洗浄剤組成物には、衣料用洗剤の分野で公知のビルダー、柔軟化剤、還元剤(亜硫酸塩など)、抑泡剤(シリコーンなど)、香料、その他の添加剤を含有させることができる。
【0048】
本発明の洗浄剤組成物は、上記方法で得られた本発明品プロテアーゼ及び上記公知の洗浄成分を組み合わせて常法に従い製造することができる。洗剤の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形などにすることができる。
【0049】
斯くして得られる本洗浄剤組成物は、衣料洗浄剤、漂白剤、硬質表面洗浄用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、医療器具用の殺菌洗浄剤などとして使用することができる。
【実施例】
【0050】
実施例1
アミノ酸配列のアライメントの結果(図1)から、バチルス エスピーKSM−KP43株由来のアルカリプロテアーゼ構造遺伝子の終止コドンまでを含む約2.0kb(配列番号2)に対して部位特異的変異を導入するアミノ酸残基を63位、101位、133位に特定し、任意のアミノ酸を導入するようにプライマーをデザインした。63位の変異導入にはプライマー1(配列番号3)とプライマー2(配列番号4)及びプライマー3(配列番号5)とプライマー4(配列番号6)を、101位の変異導入にはプライマー1とプライマー5(配列番号7)及びプライマー6(配列番号8)とプライマー4を、133位の変異導入にはプライマー1とプライマー7(配列番号9)及びプライマー8(配列番号10)とプライマー4を用いPCRを行った。プライマー1にはセンス鎖の5’末端側にBamHIリンカーを、プライマー4にはアンチセンス鎖の5’末端側にXbaIリンカーを付与し、プライマー2とプライマー3、プライマー5とプライマー6、プライマー7とプライマー8は、それぞれの5’末端から10〜15bpの長さで互いに相補するようにデザインした。PCRのDNAポリメラーゼとして、Pyrobest (タカラ)を用い、PCRの条件は94℃で2分間鋳型DNAを変性させた後、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を1サイクルとし30サイクル反応させた。増幅したDNA断片をPCR product purification kit(ロッシュ)にて精製後、それぞれ対応する増幅断片のみで、94℃で2分間DNAを変性させた後、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を1サイクルとし30サイクル反応させ、リコンビナントPCRを行なった。得られた増幅断片に対し、プライマー1とプライマー4によりPCRを行なった。94℃で2分間鋳型DNAを変性させた後、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で2分間を1サイクルとし30サイクル反応させ、変異が導入された全長遺伝子を得た。増幅断片を精製後、末端に付与されている制限酵素リンカーを、BamHI、XbaI(ロッシュ)により切断した。増幅DNA断片を予めBamHI、XbaIで処理したプラスミドpHA64(特許第349293号:プロモーター64の下流にBamHI、XbaI切断部位を有する)と混合した後、Ligation High(東洋紡)により、リガーゼ反応を行った。反応液からエタノール沈殿により回収したプラスミドを用い宿主菌であるバチルス エスピー KSM9865株(FERM P−18566)を形質転換した。
【0051】
9865株の形質転換体をスキムミルク含有アルカリ寒天培地[スキムミルク(ディフコ)1%(w/v)、バクトトリプトン(ディフコ)1%、酵母エキス(ディフコ)0.5%、塩化ナトリウム1%、寒天1.5%、炭酸ナトリウム0.05%、テトラサイクリン15ppm]に生育させ、ハローの形成状況により、変異プロテアーゼ遺伝子導入の有無を判定した。形質転換体は、5mLの種母培地[6.0%(w/v)ポリペプトンS、0.05%酵母エキス、1.0%マルトース、0.02%硫酸マグネシウム7水和物、0.1%リン酸2水素カリウム、0.25%炭酸ナトリウム、30ppmテトラサイクリン]に植菌し、30℃で16時間振盪培養を行った。次いで30mLの主培地[8%ポリペプトンS、0.3%酵母エキス、10%マルトース、0.04%硫酸マグネシウム7水和物、0.2%リン酸2水素カリウム、1.5%無水炭酸ナトリウム、30ppmテトラサイクリン]に種母培養液を1%(v/v)植菌し、30℃で3日間振盪培養を行った。
【0052】
得られた培養液を遠心分離し、培養上清中のプロテアーゼ活性を測定した。プロテアーゼ活性はSuc−Ala―Ala―Pro−Phe−pNA(以下、AAPF:シグマ)を基質とした活性測定法により、タンパク質量はプロテインアッセイキット(和光純薬)を用いて測定した。野生型酵素遺伝子を有する形質転換体を同条件で培養した場合の培養上清の値と比較することにより、プロテアーゼ活性の向上が認められた変異プロテアーゼ遺伝子を選抜した。
【0053】
選抜された形質転換体からHigh pure plasmid isolation kit(ロッシュ)を用いプラスミドを回収し、塩基配列を決定した。プラスミドDNA300ngを鋳型として、適宜合成したプライマーとBig Dye DNA sequencing kit(アプライドバイオシステム)を用いて20μLの反応系でPCRを行い、DNA Sequencer 377型(アプライドバイオシステムズ)を用いた解析に供した。
【0054】
その結果、プロテアーゼ活性が向上した変異体は133位のアラニンがグルタミン、アスパラギン、スレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、リジンであった。これらの培養液の一部を希釈し、2mM塩化カルシウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE−トヨパール(東ソー)カラムにかけ、非吸着画分を回収することにより、ほぼ均一なプロテアーゼを得た。精製酵素のタンパク質量、AAPF分解活性を測定した結果、上記変異の導入によりそれぞれ比活性が1.2倍〜2倍に向上したことを確認した(表2)。
【0055】
【表2】

【0056】
アミノ酸はアルファベット1文字で表し、アミノ酸を置換した部位を数値で表記している。置換前のアミノ酸を数値の前に、置換後のアミノ酸を数値の後に示した。例えばA133Qの場合、133位のアラニンをグルタミンに置換した変異体を表している。以下、表3、図2−1〜2−6においても同様に表現した。
【0057】
次に133位の変異により多様性を与えるために以下の変異を導入した。
(1)133位と134位の間に任意の1アミノ酸を挿入
(2)133位を任意のアミノ酸に置換し、更に任意の1アミノ酸の挿入
(3)133位を任意のアミノ酸に置換し、更に任意の1アミノ酸を挿入し、134位を任意のアミノ酸に置換
(4)133位を任意のアミノ酸に置換し、更に任意の1アミノ酸を挿入し、134位及び135位を任意のアミノ酸に置換
(5)132位を任意のアミノ酸に置換し更に、133位と134位の間に任意の1アミノ酸の挿入
(6)132位及び133位を任意のアミノ酸に置換し、更に任意の1アミノ酸の挿入
【0058】
(1)の変異導入にはプライマー1とプライマー7及びプライマー9(配列番号11)とプライマー4を、(2)の変異導入にはプライマー1とプライマー7及びプライマー10(配列番号12)とプライマー4を、(3)の変異導入にはプライマー1とプライマー7及びプライマー11(配列番号13)とプライマー4を、(4)の変異導入にはプライマー1とプライマー7及びプライマー12(配列番号14)とプライマー4を、(5)の変異導入にはプライマー1とプライマー13(配列番号15)及びプライマー14(配列番号16)とプライマー4を、(6)の変異導入にはプライマー1とプライマー7及びプライマー15(配列番号17)とプライマー4を用い、前述の通りリコンビナントPCRにより変異導入がなされた遺伝子を得た。前記pHA64に結合後、9865株を形質転換し、培養を行なうことにより変異体の評価を行なった。
その結果、以下の変異体において野生型を上回るプロテアーゼ活性の向上が認められた。
【0059】
(1)の変異導入から
133位と134位の間の挿入アミノ酸残基;リジン、チロシン
(2)の変異導入から
133位+挿入アミノ酸残基;プロリン+イソロイシン、ロイシン+セリン、ロイシン+グリシン、ロイシン+スレオニン、セリン+セリン、リジン+セリン、イソロイシン+セリン、アルギニン+セリン、リジン+アラニン、リジン+グリシン
(3)の変異導入から
133位+挿入アミノ酸残基/134位;セリン+セリン/スレオニン、セリン+セリン/セリン、セリン+セリン/グリシン、セリン+セリン/アラニン
(4)の変異導入から
133位+挿入アミノ酸残基/134位/135位;セリン+セリン/セリン/アラニン、セリン+セリン/セリン/アルギニン、セリン+セリン/セリン/メチオニン
(5)の変異導入から
132位/133位と134位の間の挿入アミノ酸残基;セリン/アラニン、セリン/グリシン、メチオニン/アラニン、スレオニン/アラニン
(6)の変異導入から
132位/133位+挿入アミノ酸残基;セリン/セリン+セリン、グルタミン/セリン+セリン、メチオニン/セリン+セリン、セリン/イソロイシン+アラニン、セリン/リジン+アラニン、セリン/リジン+セリン、アスパラギン/プロリン+アラニン、アスパラギン酸/リジン+セリン、イソロイシン/リジン+セリン
【0060】
上述の方法にて比活性を求めた結果、これらの変異体において野生型の1.2倍〜4.8倍の比活性向上を確認した(表3)。
【0061】
【表3】

【0062】
133位と134位との間の挿入アミノ酸を+で示した。例えばA133P+Iの場合、133位をプロリンに置換し、更にイソロイシンを挿入した変異体を表し、+Kの場合、133位と134位との間にリジンの挿入がある変異体を表している。図2−1〜2−6においても同様に表現した。
【0063】
変異体の洗浄力を評価した結果、例えば以下の変異体において野生型を上回る洗浄性能が認められた(図2−1〜2−6)。
(1)133位;イソロイシン、バリン
(2)133位と134位の間の挿入アミノ酸残基;リジン、ロイシン、セリン、メチオニン、グリシン、スレオニン、チロシン、アルギニン
(3)133位+挿入アミノ酸残基;セリン+セリン、セリン+アラニン、セリン+アスパラギン、セリン+グルタミン、セリン+トリプトファン、セリン+ヒスチジン、セリン+グリシン、ロイシン+セリン、リジン+セリン、スレオニン+セリン、イソロイシン+セリン、メチオニン+セリン、グリシン+セリン、アルギニン+セリン、グルタミン酸+セリン、アスパラギン+セリン、フェニルアラニン+セリン、トリプトファン+セリン、リジン+アラニン、アルギニン+アラニン、リジン+グリシン
(4)133位+挿入アミノ酸残基/134位;セリン+セリン/セリン、セリン+セリン/スレオニン
(5)133位+挿入アミノ酸残基/134位/135位;セリン+セリン/セリン/メチオニン
(6)132位/133位と134位の間の挿入アミノ酸残基;セリン/アラニン、セリン/アルギニン、セリン/グリシン、セリン/ロイシン、スレオニン/アラニン
(7)132位/133位+挿入アミノ酸残基;セリン/ヒスチジン+アラニン、セリン/セリン+アラニン、セリン/ロイシン+アラニン、セリン/アルギニン+アラニン、セリン/リジン+アラニン、セリン/リジン+セリン、アスパラギン/イソロイシン+アラニン、アスパラギン/プロリン+アラニン、アスパラギン酸/リジン+セリン
【0064】
また、2mM塩化カルシウム水溶液中で75℃、10分間熱処理した後のAAPF分解活性を測定し、未処理の酵素サンプルを100%とした場合の残存活性を算出し、耐熱性を検討した。その結果、野生型の残存活性が50%であるのに対し、133位+挿入アミノ酸残基の組み合わせがセリン+セリンの変異体では76%と、約1.5倍の残存活性の向上が認められた。
【0065】
上記の本発明アルカリプロテアーゼ変異体はAAPFに対する分解活性を向上させる、洗浄力を向上させる、(133位+挿入アミノ酸残基の組み合わせがセリン+セリンの変異体については、さらに耐熱性を向上させる)こと以外は親アルカリプロテアーゼの特性、すなわち、酸化剤耐性を有し、高濃度の脂肪酸によるカゼイン分解活性の阻害を受けず、SDS−PAGEにより認められる分子量が43,000±2,000であり、アルカリ性域で活性を有する性質を保持していることを確認した。
【0066】
試験例1 プロテアーゼ活性測定法(合成基質法)
100mM AAPF(DMSOに溶解;終濃度3mM)、0.2M ホウ酸緩衝液(pH10.5;終濃度50mM)及び適宜希釈した培養上清50μLを加え、100μLに調製後、マイクロプレートリーダー(iEMS Reader MF;Labsystems社製)にて30℃、15分間振盪しながら414nmの吸光度を経時的に測定し、単位時間当たりの吸光度の変化(OD414/min)を求めた。得られた傾きに酵素の希釈率を乗じた値をプロテアーゼの力価とし、変異体の相対評価を行なった。
【0067】
試験例2 プロテアーゼ活性測定法(カゼイン法)
カゼイン(ハンマーステイン氏法:メルク)1%(w/v)を含む50mMホウ酸緩衝液(pH10.5)1mLを30℃、5分間恒温した後、0.1mLの酵素液を添加し反応を開始した。15分間反応させた後、2mLの反応停止液(0.11Mトリクロロ酢酸/0.22M酢酸ナトリウム/0.33M酢酸)を加えた。室温で30分間放置し、沈殿物をワットマンNo1濾紙を用いて濾過した。分解産物はLowryらの方法により定量した。即ち、0.5mLの濾液に2.5mLのアルカリ性銅溶液(1%ロッシェル塩:1%硫酸銅・5水和物:2%炭酸ナトリウム/0.1N水酸化ナトリウム溶液=1:1:100)を加え、30℃で10分間恒温した後、0.25mLのフェノール試薬[市販のフェノール試薬(関東化学)を脱イオン水にて2倍に希釈した溶液]を添加、よく攪拌し、30℃で30分間放置した。その後、660nmにおける吸光度を測定した。プロテアーゼ1単位(1PU)は、上記反応条件下において1分間に1mmolのチロシンに相当する酸可溶性タンパク質を生成するのに必要な酵素量とした。
【0068】
試験例3 相対洗浄率
変異酵素の洗浄力評価は、ターゴトメーター(上島製作所製)を用いて行った。市販の衣料用洗剤(アタック;花王、2002年10月製造)から配合されている酵素造粒物を除いたものを所定の使用濃度になるように調製した溶液に、酵素を最終濃度で40mPU/Lになるように添加した。次いで、汚染布EMPA117(EMPA社製、血液/ミルク/カーボン)を6×6cm画に裁断したものを添加し、特に断りのない限り20℃で洗浄(80rpm)を行った。水道水によるすすぎを行った後、色彩色差計(MINOLTA、CM3500d)を用いて明度を測定し、洗浄前後における明度の変化から洗浄率を算出した(下式)。
【0069】
洗浄率(%)=(L2−L1)/(L0−L1)×100
L0:汚染布の原布の明度
L1:洗浄前の汚染布の明度
L2:洗浄後の汚染布の明度
相対洗浄率は野生型酵素の洗浄率を100とした場合の変異体の洗浄率とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼ又は当該アミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアルカリプロテアーゼにおいて、下記6)、8)〜11)、13)〜16)
から選ばれる1種類以上のアミノ酸残基の置換及び/又は挿入がなされ、
且つ配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼより高い比活性及び/又は洗浄性を有するアルカリプロテアーゼ。
(但し、下記6)、8)〜11)、13)〜16)における(a)〜(e)は、各々
(a)133位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
(b)133位と134位又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基の間への他のアミノ酸残基の挿入
(c)挿入前の134位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
(d)挿入前の135位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換
(e)132位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換を示す)
6)(a)で示されるアミノ酸残基の置換であって、他のアミノ酸残基が、リジンである
8)(a)で示されるアミノ酸残基の置換と(b)で示されるアミノ酸残基の挿入の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)ロイシン/(b)セリン又は(a)ロイシン/(b)グリシン
である
9)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(c)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)セリン/(b)セリン/(c)セリン又はアラニンである
10)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入、(c)で示されるアミノ酸残基の置換及び(d)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)セリン/(b)セリン/(c)セリン/(d)アルギニン又は(a)セリン/(b)セリン/(c)セリン/(d)メチオニンである
11)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)セリン/(b)セリン/(e)メチオニンである
13)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)イソロイシン/(b)アラニン/(e)セリンである
14)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)プロリン/(b)アラニン/(e)アスパラギンである 15)(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(b)アラニン/(e)メチオニンである
16)(a)で示されるアミノ酸残基の置換、(b)で示されるアミノ酸残基の挿入及び(e)で示されるアミノ酸残基の置換の組み合わせであって、置換及び挿入される他のアミノ酸残基がそれぞれ、(a)リジン/(b)セリン/(e)イソロイシンである
【請求項2】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼと90%以上の配列同一性を有するアルカリプロテアーゼが、配列番号1において132位、133位、134位若しくは135位又はこれらに相当する位置以外のアミノ酸残基が1〜数個欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるものである請求項1記載のアルカリプロテアーゼ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアルカリプロテアーゼをコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項3記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項5】
宿主が微生物である請求項4記載のベクターを導入した形質転換体。
【請求項6】
請求項1又は2記載のアルカリプロテアーゼを含有する洗浄剤組成物。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【公開番号】特開2011−200249(P2011−200249A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123174(P2011−123174)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【分割の表示】特願2005−241456(P2005−241456)の分割
【原出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】