説明

アルカリ二次電池

【課題】電池残量を高精度にて判定し易く且つ寿命特性に優れるアルカリ二次電池の提供。
【解決手段】アルカリ二次電池の負極(4)は、それぞれ希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金からなり且つ互いに水素平衡圧の異なる第1及び第2の水素吸蔵合金粒子(14),(16)を少なくとも含む。負極(4)に含まれる希土類-Mg-Ni水素吸蔵合金の全質量に占める第1の水素吸蔵合金粒子(14)の質量の比率は50%以上90%以下であり且つ第2の水素吸蔵合金粒子(16)の質量の比率は10%以上50%以下であり、第1の水素吸蔵合金粒子(14)は、所定の一般式で示される組成を有する。第1の水素吸蔵合金粒子(14)の水素平衡圧P1は、第2の水素吸蔵金粒子(16)の水素平衡圧P2よりも大きく、水素平衡圧差ΔP(=log10(P1/P2))は0.3以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ二次電池としてニッケル水素二次電池の負極に用いられる水素吸蔵合金としては、例えば、MmNi系水素吸蔵合金(Mmはミッシュメタル)が既に実用化されている。MmNi系水素吸蔵合金は、CaCu型結晶構造を主結晶相とし、MmNiのNiの一部を、Co,Mn,AIなどの元素で置換したものである。
また、アルカリ二次電池の負極用の水素吸蔵合金として、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が知られている。希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金は、MmNi系水素吸蔵合金よりも常温下において多量の水素を吸蔵可能である(特許文献1)。
【0003】
ところで、アルカリ二次電池は、例えばデジタルスチルカメラ等の電子・電気機器の電源として用いられるが、これらの電子・電気機器にあっては、使用者の利便性を考慮し、電池残量を表示することが一般に行われている。
電池残量を判定する際には、DOD(放電深度:Depth of Discharge)とOCV(開路電圧:Open Circuit Voltage)の関係が用いられる。例えば、DODを0%〜4O%、40%〜80%、80%〜100%の3段階で判定する場合には、DODが40%のときのOCVの基準値V1、及び、DODが80%のときのOCVの基準値V2を予め設定しておき、検出したOCVと基準値V1及びV2とを比較する。
【特許文献1】特開2002-164045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルカリ二次電池にあっては、そのサイクル寿命を延ばす取り組みがなされている。
具体的には、負極にMmNi系水素吸蔵合金を用いる場合には、MmNi系水素吸蔵合金に比較的多くのCoを含有させ、充放電サイクルに伴うMmNi系水素吸蔵合金の微粉化を抑制している。しかしながら、MmNi系水素吸蔵合金に多くのCoを含有させた場合、電池の貯蔵特性が、特に高温で貯蔵した場合に低下する。すなわち、貯蔵中に、負極のMmNi系水素吸蔵合金から溶出したCoが正極を還元したり、セパレータに析出することで、電池容量の低下や自己放電特性の低下が生じる。
【0005】
希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金については、特許文献1が、組成を限定することによりサイクル寿命・放電特性を向上させることを開示している。しかしながら、特許文献1が開示する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金にあっても、十分な特性改善がなされていない。
一方、検出したOCVに基づいて電池残量を判定する場合、基準値V1と基準値V2の差が大きいことが必要になる。
【0006】
しかしながら、負極が一種類のMmNi系水素吸蔵合金のみを含む場合、基準値V1と基準値V2の差が小さく、検出したOCVに基づいて電池残量を判定することが困難であった。
これに対し、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いたアルカリ二次電池では、MmNi系水素吸蔵合金を用いた場合に比べて、DODが40%から80%に変化するときのOCVの変化の割合が大きいという特徴がある。つまり、DODに対するOCVの変化を示す放電曲線の傾きが大きく、これは、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金と水素ガスとの気固系反応のPCT特性(圧力組成等温線)では、プラトー性が低い傾向にあるためである。このため、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いたアルカリ二次電池では、検出したOCVに基づいて、電池残量を高精度にて容易に判定可能である。
【0007】
しかしながら、PCT特性のプラ卜ー性が顕著に低い希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を負極に用いた場合、電池のサイクル寿命が短くなる傾向がある。
かくして従来のアルカリ二次電池にあっては、サイクル寿命と電池残量の判定のし易さとが両立しなかった。
本発明は、上述した事情に基づいてなされたものであって、その目的とするところは、電池残量をOCV若しくはCCV(閉回路電圧:Closed Circuit Voltage)によって高精度にて判定し易く、且つ、寿命特性に優れるアルカリ二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明者らは種々の検討を重ね、本発明に想到した。本発明によれば、正極、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を含む負極、セパレータ及び電解液を備えるアルカリ二次電池において、前記負極は、前記希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金として、互いに水素平衡圧の異なる第1の水素吸蔵合金及び第2の水素吸蔵合金を少なくとも含み、前記負極に含まれる希土類-Mg-Ni水素吸蔵合金の全質量に占める前記第1の水素吸蔵合金の質量の比率は50%以上90%以下であり且つ前記第2の水素吸蔵合金の質量の比率は10%以上50%以下であり、前記第1の水素吸蔵合金は、
一般式:((Pr,Nd,Sm)αLn1―α)1−βMgβNiγ−δ―εAlδTε
(式中、Lnは、La,Ce,Pm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、TはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.7<α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.50を満たす数を表す)で示される組成を有し、前記第1の水素吸蔵合金の水素平衡圧をP1とし、前記第2の水素吸蔵金の水素平衡圧をP2とし、水素平衡圧差ΔPをΔP=log(P1/P2)としたときに、P1>P2且つΔP≧0.3であることを特徴とするアルカリ二次電池が提供される(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1のアルカリ二次電池にあっては、負極に含まれる水素吸蔵合金の全質量に占める第1の水素吸蔵合金及び第2の水素吸蔵合金の質量の比率が所定の範囲にあり、第1の水素吸蔵合金の水素平衡圧P1が第2の水素吸蔵合金の水素平衡圧P2よりも大きく、水素平衡圧差ΔPが0.3以上であり、第1の水素吸蔵合金が所定の組成を有することにより、寿命特性が優れているとともに、OCV又はCCVにより電池残量が高精度にて容易に判定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態のアルカリ二次電池として、ニッケル水素蓄電池を示す。
このニッケル水素蓄電池は、有底円筒形状の導電性を有する外装缶1を備え、外装缶1の中に電極群2が収容されている。電極群2は、正極3及び負極4を、セパレータ5を介して渦巻状に巻回してなる積層体であり、電極群2の最外周には、その渦巻き方向でみて負極4の外端側の部位が配置され、負極4が外装缶1の内周壁と電気的に接続されている。また、外装缶1の中には、図示しないアルカリ電解液が収容されている。
【0011】
なお、アルカリ電解液としては、例えば水酸化カリウム水溶液と、これに水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などを混合したものが使用される。
外装缶1の開口端には、中央にガス抜き孔6を有する円形の封ロ板7が配置されている。具体的には、封ロ板7の外周縁と外装缶1の開口端縁との間にはリング状の絶縁性ガスケット8が配置されている。そして、外装缶1の開口端縁を径方向内側に縮径するかしめ加工を行うことにより、外装缶1の開口端にガスケット8を介して封ロ板7が気密に固定されている。
【0012】
電極群2と封口板7との間には正極リード9が配置されている。正極リード9の一端は、電極群2中の正極3に接続され、正極リード9の他端は封ロ板7の内面に接続されている。封口板7の外面上には、ガス抜き孔6を閉塞するようにゴム製の弁体10が配置され、更に、弁体10を囲むようにフランジ付きの円筒形状の正極端子11が取り付けられている。
また、外装缶1の開口端縁上には環状の押さえ板12が配置され、正極端子11の円筒部は押さえ板12の中央孔を貫通して突出している。符号13は、外装チューブに付されており、外装チューブ13は押さえ板12の外周縁、外装缶1の外周面及び底壁外周縁を被覆している。
【0013】
正極3は、導電性の正極基板と、正極基板に保持された正極合剤とから構成されている。正極基板としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状、繊維状、フエルト状の金属多孔体を用いることができる。
正極合剤は、正極活物質としての水酸化ニッケルを主成分とする粉末(水酸化ニッケル粉末)、導電剤及び結着剤を含むが、水酸化ニッケル粉末としては、ニッケルの平均価数が2価よりも大きく且つ各粒子の表面の少なくとも一部若しくは全部がコバルト化合物で被覆されている粉末を用いるのが好ましい。また、水酸化ニッケル粉末は、コバルト及び亜鉛が固溶していてもよい。
【0014】
導電剤としては、例えば、コバルト酸化物、コバルト水酸化物、金属コバルトなどの粉末を用いることができる。また結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFEディスパージョン、HPCディスパージョンなどを用いることができる。
上記した正極3は、例えば、水酸化ニッケル粉末、導電剤、結着剤、及び水を混練して正極用スラリを調製し、この正極用スラリが塗着・充填された正極基板を、正極用スラリの乾燥を経てから圧延・裁断して作製することができる。
【0015】
負極4は、導電性の負極基板と負極基板に保持された負極合剤とから構成される。負極基板としては例えば、ニッケルめっきされたパンチングメタルを用いることができる。
負極合剤は、図1の円内に概略的に示したように、複数の第1の水素吸蔵合金粒子14、複数の第2の水素吸蔵合金粒子16、結着剤18、及び必要に応じて導電剤から構成される。結着剤18としては、正極合剤と同じ結着剤の外に、更に例えばポリアクリル酸ナトリウムなどを併用してもよい。また、導電剤としては、例えばカーボン粉末などを用いることができる。なお図1の円内には、第1の水素吸蔵合金粒子14、第2の水素吸蔵合金粒子16及び結着剤18のみを概略的に示し、負極基板及び導電剤を省略した。
【0016】
第1の水素吸蔵合金粒子14及び第2の水素吸蔵合金粒子16は、それぞれ希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金(希土類-Mg-Ni系合金)からなり、結晶構造がCaCu(AB)型ではなく、CeNi型若しくはCeNi型に類似した結晶構造を有する。CeNi型は、AB型とAB型とをあわせたような超格子構造である。
AB3.5型(CeNi型)に類似する結晶構造の希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金としては、AB3.8型(CeCo19型)、AB3.8型(PrCo19型)又はAB3.0型(PuNi型)のものを用いることができる。
【0017】
第1の水素吸蔵合金粒子14と第2の水素吸蔵合金粒子16とでは、互いに水素吸蔵合金の組成が異なり、第1の水素吸蔵合金粒子14における組成は、
一般式(I):((Pr,Nd,Sm)αLn1―α)1−βMgβNiγ−δ―εAlδTε
で示される。ただし式(I)中、Lnは、La,Ce,Pm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、TはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.7<α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.50を満たす数を表す。
【0018】
第1の水素吸蔵合金粒子14と第2の水素吸蔵合金粒子16とでは、水素平衡圧が異なり、第1の水素吸蔵合金粒子14の水素平衡圧をP1とし、第2の水素吸蔵金16の水素平衡圧をP2とし、水素平衡圧差ΔPをΔP=log10(P1/P2)と定義したときに、P1>P2且つΔP≧0.3である。つまり、第1の水素吸蔵合金粒子14の水素平衡圧P1は、第2の水素吸蔵金粒子16の水素平衡圧P2よりも大きく、水素平衡圧差ΔPは0.3以上であり、好ましくは、0.5以上である。
【0019】
なお、水素平衡圧P1、P2は、温度80℃、H/M=0.4での水素平衡圧である。
負極4は、第1の水素吸蔵合金粒子14及び第2の水素吸蔵合金粒子16以外の希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を含んでいてもよいが、負極4に含まれる水素吸蔵合金の全質量に占める、第1の水素吸蔵合金粒子14の質量の比率は50%以上90%以下であり、好ましくは60%以上80%以下である。
【0020】
第2の水素吸蔵合金粒子16は、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金であれば、その組成は特に限定されない。負極4に含まれる水素吸蔵合金の全質量に占める第2の水素吸蔵合金粒子16の比率は10%以上50%以下であり、好ましくは20%以上40%以下である。
負極4は、第1の水素吸蔵合金粒子14、第2の水素吸蔵合金粒子16、結着剤及び必要に応じて導電剤を混練して負極用スラリを調製し、調製した負極用スラリを塗着した負極基板を、負極用スラリの乾燥を経てから圧延・裁断して作製することができる。
第1の水素吸蔵合金粒子14及び第2の水素吸蔵合金粒子16は、例えば以下のようにして得られる。
【0021】
まず、所定の組成となるよう金属原材料を秤量して混合し、この混合物を例えば高周波溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の温度の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施し、インゴットの金属組織をCeNi型若しくはこれに類似した結晶構造にする。この後、インゴットを粉砕し、篩分けにより所望粒径に分級して、第1の水素吸蔵合金粒子14又は第2の水素吸蔵合金粒子16が得られる。
【0022】
上述したニッケル水素蓄電池では、負極4に含まれる希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の全質量に占める第1の水素吸蔵合金粒子14の質量の比率が50%以上90%以下であり且つ第2の水素吸蔵合金の比率が10%以上50%以下であり、第1の水素吸蔵合金粒子14の水素平衡圧P1が第2の水素吸蔵合金粒子16の水素平衡圧P2よりも大きく、水素平衡圧差ΔPが0.3以上であり、第1の水素吸蔵合金粒子14が所定の組成を有することにより、寿命特性が優れているとともに、OCV又はCCVにより電池残量が高精度にて容易に判定される。
【0023】
なお、上述したニッケル水素蓄電池においては、一般式中αが0.7よりも大に設定されることにより、合金構造の安定化を図ることができる。また後述するAl量を所定量まで増やせる効果がある。更に水素平衡圧を高められ、P1値を高くすることができる。なお、αの上限は1である。
一般式(I)中、添字βが0.15未満に設定されることにより、Mgを主成分とする不所望の相の析出が防止され、この点からも、電池の寿命特性が向上する。すなわち、添字βが0.15未満であることにより、充放電サイクルに伴う第1の水素吸蔵合金粒子14の微粒子化が抑制され、もって、寿命特性が向上する。一方、添字βが0.05よりも大きく設定されることにより、第1の水素吸蔵合金粒子14は多量の水素を吸蔵可能である。
【0024】
一般式(I)において、添字γが小さくなりすぎると、第1の水素吸蔵合金粒子14内における水素の吸蔵安定性が高くなるため、水素放出能が劣化し、また添字γが大きくなりすぎると、今度は、水素吸蔵合金における水素の吸蔵サイトが減少して、水素吸蔵能の劣化が起こりはじめる。それ故、添字γは、3.0≦γ≦4.2を満たすように設定される。
一般式(I)において、添字δはNiのAlによる置換量を示すが、0.15>δの場合、合金構造が不安定になり、合金容量が小さくなる。若しくは、サイクル進行に伴い構造が不安定化し合金容量が大きく低下する。一方δ>0.30の場合、Alを主成分とする不所望の相が析出し、合金容量の低下や耐食性が低下することで寿命特性が低下する。それ故、添字δは、0.15≦δ≦0.30を満たすように設定される。
【0025】
一般式(I)において、添字εはNiの置換元素Tによる置換量を示すが、添字εが大きくなりすぎると、水素吸蔵合金はその結晶構造が変化して水素の吸蔵・放出能を喪失しはじめるとともに、アルカリ電解液への置換元素Tの溶出が起こりはじめ、その複合物がセパレータに析出して電池の長期貯蔵性が低下する。それ故、添字εは、0≦ε≦0.50を満たすように設定される。
【実施例】
【0026】
1.正極の作製
各粒子の全部若しくは一部がコバルト化合物で被覆された水酸化ニッケル粉末を用意し、この水酸化ニッケル粉末100質量部に対し、濃度が40質量%のHPCディスパージョンを混合して正極用スラリを調製した。この正極用スラリが塗着・充填されたシート状のニッケル多孔体を、乾燥を経てから、圧延・裁断して正極を作製した。
2.負極の作製
原材料として、組成が異なる4種類の水素吸蔵合金の粉末A,B,C,Dを用意した。これら合金粉末A,B,C,Dの組成及び水素平衡圧を表1に示す。なお、JIS H7201に準じて、温度80℃及びH/Mが0.4のときの水素平衡圧を測定した。
【0027】
具体的には、表1に示した組成となるように、各元素を含む原材料を秤量し、その混合物を高周波溶解炉で溶解したのちインゴットを製造した。熱処理を施した後、各インゴットを平均粒径D50が50μmになるように粉砕、分級し、合金粉末A,B,C,Dを作製した。
なお、平均粒径D50は、各合金粉末A,B,C,Dについてレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製LA-300)を用いて測定した粒度分布において、重量積分50%にあたる粒径である。
【0028】
合金粉末A,B,Cの結晶構造をX線粉末回折法により解析したところ、合金粉末A,B,Cの主相の結晶構造は、CeNi型若しくはそれに酷似する結晶構造であることが確認された。同じく合金粉末Dの主相の結晶構造は、CaCu型であることが確認された。
得られた合金粉末A,B,C,Dを表2に示す混合比率にて混合したもの100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.5質量部、カルボキシメチルセルロース0.12質量部、PTFEディスバージョン(比重1.5、固形分60質量%)1.0質量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0質量部、および水30質量部を混練して負極用スラリを調製した。調製した負極用スラリを塗着したパンチングメタルを、負極用スラリの乾燥を経てからロール圧延・裁断して、負極を作製した。
【0029】
3.ニッケル水素蓄電池の組立て
作製した正極と負極とを、これらの間にポリプ口ピレン繊維製不織布から成る厚み0.10mm(目付量50g/m)のセパレータを介装しながら渦巻状に巻回して電極群を作製した。この電極群を有底円筒形状の外装缶に収納し、同時に、7Nの水酸化カリウム水溶液と1Nの水酸化リチウム水溶液とから成るアルカリ電解液を注液し、封ロして、定格容量2000mAhのAAサイズ密閉円筒形ニッケル水素蓄電池を組み立てた。
【0030】
4.ニッケル水素蓄電池の評価
(1)電池活性化
各ニッケル水素蓄電池につき、温度25℃において、0.1C相当の電流で15時間充電してから、0.2C相当の電流で終止電圧1.0Vまで放電させる初期活性化処理を施した。
(2)放電曲線の測定
初期活性化処理を施した各ニッケル水素蓄電池につき、1C相当の電流でdV制御の充電を行ってから、20%ずつ放電させた。この際、各DODにて、放電から60分の休止時間をおいてOCVを測定し、OCVの測定が終わってから次のDODまで放電させた。実施例1及び比較例1〜3,5の結果を図2に示すとともに、実施例1〜4及び比較例1〜5について、DODが40%のときのOCVとDODが80%のときのOCVとの差ΔVを表2に示す。
【0031】
(3)寿命特性
初期活性化処理を施した各ニッケル水素蓄電池につき、温度25℃にて、1C相当の電流でdV制御の充電後、1C相当の電流で終止電圧1.0Vまで放電させる充放電サイクルを反復し、1サイクル目の放電容量に対する容量維持率が60%に到達するまでのサイクル数を寿命特性として数えた。この結果を比較例1のサイクル数を1とする比(サイクル数比)にして表2に示す。
【0032】
(4)評価結果
表1、表2及び図2から次のことが明らかである。
(i)比較例2のOCVは、比較例1のOCVと比較して、DODの浅い領域から深い領域に亘り全体的に低下している。これは、合金粉末A,Bの水素平衡圧の差に依存していると考えられる。
(ii)組成が一般式(I)から外れている合金粉末Bを用いた比較例2においては、寿命特性が大きく低下している。寿命特性評価後のニッケル水素蓄電池を分解して合金粉末Bの劣化調査をした結果、合金粉末Bの腐食量は、比較例1の合金粉末Aよりも増加していることが確認された。
【0033】
(iii)水素平衡圧の異なる合金粉末A,Bを混合して用いた実施例1のOCVは、DODが浅い領域では、水素平衡圧の高い合金粉末Aのみを用いた比較例1のOCVをトレースし、DODが深い領域では、水素平衡圧の低い合金粉末Bのみを用いた比較例2のOCVをトレースしている。この結果として、実施例1では、DODが40%のときのOCVとDODが80%のときのOCVとの差△Vが、比較例1及び比較例2に比べて広くなっており、残容量の検出がし易い。実施例2、3についても本発明の範囲内において同様な結果である。また合金粉末Cを用いた場合も、実施例4において同様な効果が得られた。
【0034】
(iv)水素平衡圧の異なる合金粉末A,Bを混合して用いているものの、合金粉末Aの混合比率が50%より少ない比較例3では、実施例1に比べて、寿命特性が低下した。また合金粉末Cを用いた場合も、同様に比較例4において寿命特性が低下した。
(v)MmNi5系水素吸蔵合金である合金粉末Dを用いた比較例5では、合金粉末DのPCT特性におけるプラトー性が良い為、△Vが小さく残容量を検出するのが困難である。また、寿命特性も低下している。
【0035】
本発明は上記した一実施形態及び実施例に限定されることはなく、種々変形が可能である。例えば、一実施形態の二次電池は円筒形であったけれども、角形であってもよいのは勿論である。また、電池の形状及び寸法、安全弁の仕組み、及び、電極板と電極端子との間の接続方法等も上述の記載に限定されることはない。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一実施形態のニッケル水素二次電池の1例を示す部分切欠斜視図であり、円内に負極の一部を拡大して概略的に示した。
【図2】実施例1及び比較例1,2,5のニッケル水素蓄電池におけるDOD(放電深度)とOCV(開路電圧)の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 外装缶
2 電極群
3 正極
4 負極板
5 セパレータ
14 第1の水素吸蔵合金粒子
16 第2の水素吸蔵合金粒子
18 結着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を含む負極、セパレータ及び電解液を備えるアルカリ二次電池において、
前記負極は、前記希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金として、互いに水素平衡圧の異なる第1の水素吸蔵合金及び第2の水素吸蔵合金を少なくとも含み、
前記負極に含まれる希土類-Mg-Ni水素吸蔵合金の全質量に占める前記第1の水素吸蔵合金の質量の比率は50%以上90%以下であり且つ前記第2の水素吸蔵合金の質量の比率は10%以上50%以下であり、
前記第1の水素吸蔵合金は、一般式:
((Pr,Nd,Sm)αLn1―α)1−βMgβNiγ−δ―εAlδTε
(式中、Lnは、La,Ce,Pm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、TはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.7<α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.50を満たす数を表す)で示される組成を有し、
前記第1の水素吸蔵合金の水素平衡圧をP1とし、前記第2の水素吸蔵金の水素平衡圧をP2とし、水素平衡圧差ΔPをΔP=log10(P1/P2)としたときに、P1>P2且つΔP≧0.3である
ことを特徴とするアルカリ二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−4255(P2009−4255A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165192(P2007−165192)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】