説明

アルカリ二次電池

【課題】希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含む負極を備えて高容量化に適し、且つ、サイクル寿命特性及び高温貯蔵特性が改善されたアルカリ二次電池を提供する。
【解決手段】アルカリ二次電池は、負極26に水素吸蔵合金の粒子36を含み、この水素吸蔵合金は、一般式:(Aα1−α1−βMgβNiγδにて表される組成を有する。式中、Aは、Sm及びGdよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mは、La、Ce、Nd等よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Tは、V、Nb、Zn、Al等よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α、β、γ、δは、それぞれ0.4≦α、0.05<β<0.22、0.04≦δ≦1.00、2.7≦γ+δ≦3.30を満たす数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ二次電池に関し、より詳しくは、水素吸蔵合金を含む負極を備えたアルカリ二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ二次電池には、水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素二次電池がある。
この種の負極は、例えば、以下のようにして製造されている。
まず、水素吸蔵合金、結着剤及び水に必要に応じて導電剤を加えてこれらを混合してペーストを調製する。得られたペーストは、ニッケルパンチングシートに塗着された後、乾燥させられる。ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金等が付着したニッケルパンチングシートは、ロール圧延されてから所定の寸法の負極に裁断される。このようにして、水素吸蔵合金を担持した負極が得られる。
【0003】
この負極に用いられる水素吸蔵合金として、例えば、CaCu型結晶構造を主結晶相とするMmNi(AB型)系水素吸蔵合金(Mmはミッシュメタル)のNiの一部をCo、Mn又はAlなどの元素で置換したものがある。斯かる水素吸蔵合金は、既に実用化されている。
ここで、通常、ニッケル水素二次電池では、過充電時、正極で発生した酸素を負極で吸収し、かつ、負極自身から水素が発生しないように、負極が放電できる容量(以下、負極容量という)を正極が放電できる容量(以下、正極容量という)よりも大きくし(充電リザーブ)、過充電時でもガスの蓄積による内圧上昇を抑制している。このように、ニッケル水素二次電池においては、過充電に対応できるように負極容量と正極容量とのバランスを適当なところで保つ設計がなされている。
【0004】
ところで、近年、アルカリ二次電池の高容量化への要求が高まっているが、上記水素吸蔵合金を用いて、斯かる要求に対応しようとした場合、この水素吸蔵合金では、吸蔵及び放出可能な水素の量(以下、合金容量という)が足りず、この合金容量に依存する負極容量の高容量化は難しい。このため、従来のMmNi系水素吸蔵合金を用いて高容量の電池を製造しても、負極容量の更なる増加が見込めないため、正極容量だけ向上して上記したバランスが保てなくなり、電池として成り立たなくなってしまうという不具合が生じる。
【0005】
一方、上記したAB型系水素吸蔵合金よりも常温下において多量の水素を吸蔵することができる合金として、希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金が知られている。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いたアルカリ二次電池においては、特に近年、サイクル寿命及び放電特性を向上させる取組みがなされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−164045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1が開示するアルカリ二次電池においても、十分な特性改善を達成していないのが現状である。
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含む負極を備え、高容量化に適し、且つ、サイクル寿命特性及び高温貯蔵特性が改善されたアルカリ二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者等は、アルカリ二次電池の充放電サイクルの進行に伴う希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の合金容量の低下を抑制する手段を鋭意検討した。本発明者等は、この検討過程で、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金にSm、Gdのうち少なくとも1種を含ませることにより、十分な合金容量が確保されることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の一態様によれば、正極と、水素吸蔵合金を含む負極と、アルカリ電解液とを備えたアルカリ二次電池において、前記水素吸蔵合金は、一般式:(Aα1−α1−βMgβNiγδにて表される組成を有し、前記式中、Aは、Sm及びGdよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Zn、Al、Ga、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α、β、γ、δは、それぞれ0.4≦α、0.05<β<0.22、0.04≦δ≦1.00、2.7≦γ+δ≦3.30を満たす数を表すことを特徴とするアルカリ二次電池が提供される(請求項1)。
【0010】
好ましくは、前記水素吸蔵合金が、PuNi型又はCeNi型の結晶構造を有している(請求項2)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1のアルカリ二次電池においては、負極が、Sm、Gdのうち少なくとも1種を必須元素として含む所定の組成を有する希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を含んでいる。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は常温下での水素吸蔵量が多いことから、斯かる合金を含む負極を用いたアルカリ二次電池は、高容量化に適しており、しかも、電池の充放電サイクルの進行に伴う合金容量の低下も抑制することができる。また、この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、優れた耐食性を有することから、このアルカリ二次電池は高温貯蔵特性において優れている。
【0012】
請求項2のアルカリ二次電池においては、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金がPuNi型又はCeNi型の結晶構造を有していることで、充放電による合金粒子の微粉化が抑制され、アルカリ二次電池のサイクル特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るニッケル水素二次電池を示す部分切欠斜視図である。
【図2】実施例1〜3、7及び比較例1に係る水素吸蔵合金のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るニッケル水素二次電池を、図面を参照して説明する。
本発明が適用されるニッケル水二次電池としては特に限定されないが、例えば、図1に示すAAサイズの円筒型電池2に適用した場合を例に説明する。
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10の底壁は導電性を有し、負極端子として機能する。外装缶10の開口内には、リング状の絶縁パッキン12を介して導電性を有する円板形状の蓋板14が配置され、これら蓋板14及び絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁に固定されている。
【0015】
蓋板14は中央にガス抜き孔16を有し、蓋板14の外面上にはガス抜き孔16を塞いでゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うフランジ付き円筒形状の正極端子20が固定され、正極端子20は弁体18を蓋板14に押圧している。従って、通常時、外装缶10は絶縁パッキン12及び弁体18を介して蓋板14により気密に閉塞されている。一方、外装缶10内でガスが発生し、その内圧が高まった場合には弁体18が圧縮され、ガス抜き孔16を通して外装缶10からガスが放出される。つまり、蓋板14、弁体18及び正極端子20は、安全弁を形成している。
【0016】
外装缶10には、電極群22が収容されている。電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、これらは正極24と負極26の間にセパレータ28が挟まれた状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互い重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、負極26の最外周部が外装缶10の内周壁と接触することで、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。なお、正極24、負極26及びセパレータ28については後述する。
【0017】
そして、外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に、正極リード30が配置され、正極リード30の両端は正極24及び蓋板14にそれぞれ接続されている。従って、蓋板14の正極端子20と正極24との間は、正極リード30及び蓋板14を介して電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の絶縁部材32が配置され、正極リード30は絶縁部材32に設けられたスリットを通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の絶縁部材34が配置されている。
【0018】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注液され、このアルカリ電解液はセパレータ28に含まれることで、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。なお、アルカリ電解液の種類としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びこれらのうち2つ以上を混合した水溶液等をあげることができ、またアルカリ電解液の濃度についても特には限定されず、例えば、8N(規定)のものを用いることができる。
【0019】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを用いることができる。
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極基板と、正極基板の空孔内に保持された正極合剤とからなる。
【0020】
このような正極基板としては、例えば、ニッケルめっきによって作製された網状、スポンジ状、繊維状、若しくはフエルト状の金属体を用いることができる。
正極合剤は、正極活物質粒子からなるが、必要に応じて導電剤及び結着剤を含むことができる。
正極活物質粒子は、ニッケル水素二次電池の場合、水酸化ニッケル粒子であるが、この水酸化ニッケル粒子は、コバルト、亜鉛、カドミウム等を含む固溶体の形態をなすもの、あるいは表面がアルカリ熱処理されたコバルト化合物で被覆されているものであってもよい。
【0021】
正極合剤の導電剤としては、例えばコバルト酸化物(CoO)、コバルト水酸化物(Co(OH))などのコバルト化合物や、金属コバルトから選択された1種又は2種以上の粉末を用いることができる。なお、水酸化ニッケル粉末の粒子の表面がコバルト化合物で被覆されている場合、この被覆されたコバルト化合物が導電剤として機能するので、正極合剤は導電剤の粉末を含んでいなくてもよい。つまり、導電剤は、粉末又は被覆の少なくとも一方の形態で正極合剤に含まれていればよい。
【0022】
正極合剤の結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
正極24は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水酸化ニッケル粉末、結着剤、水、そして、必要に応じて導電剤を含むペーストを調製する。ペーストは例えばスポンジ状のニッケル製金属体に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粉末等が充填された金属体は、ロール圧延されてから裁断され、正極24が作製される。
【0023】
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、パンチングメタルシートや、金属粉末を成型してから焼結した金属粉末焼結体基板を用いることができる。従って、負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるとともに、負極基板の両面上に層状にして保持される。
【0024】
負極合剤は、図1中円内に概略的に示されているが、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子36と、必要に応じて例えばカーボン等の導電助剤(図示せず)と、これら水素吸蔵合金及び導電助剤を負極基板に結着する結着剤38とからなる。結着剤38としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電助剤としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。なお、活物質が水素の場合、負極容量は水素吸蔵合金量により規定されるので、本発明では、水素吸蔵合金のことを負極活物質ともいう。また、負極24のことを水素吸蔵合金電極ともいう。
【0025】
電池2の水素吸蔵合金粒子36における水素吸蔵合金の組成は、一般式:
(Aα1−α1−βMgβNiγδ ・・・(I)
で表される。
ただし、一般式(I)中、Aは、Sm及びGdよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Zn、Al、Ga、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α、β、γ、δは、それぞれ0.4≦α、0.05<β<0.22、0.04≦δ≦1.00、2.7≦γ+δ≦3.30を満たす数を表す。
【0026】
一般式(I)で示される組成の水素吸蔵合金は、PuNi型又はCeNi型の結晶構造を有している。
水素吸蔵合金粒子36は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるよう金属原材料を秤量して混合し、この混合物を例えば高周波溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施す。この後、インゴットを粉砕し、篩分けにより所望粒径に分級して、水素吸蔵合金粒子36が得られる。
【0027】
負極26は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子36、結着剤38、必要に応じて導電剤、及び、水を混練してペースト(負極用)を調製する。ペーストは負極基板に塗着され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子36等が付着した負極基板はロール圧延及び裁断され、これにより負極26が作製される。
【0028】
上述した一実施形態のニッケル水素二次電池によれば、負極26は、Sm及びGdのうち少なくとも1種を必須元素とし、一般式(I)の組成を有する希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を含んでいる。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は常温下での水素吸蔵量が多いことから、このニッケル水素二次電池は、高容量化に適している。また、この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は優れた耐食性を有することから、このニッケル水素二次電池はサイクル特性及び高温貯蔵特性においても優れている。
【0029】
理由は以下の通りである。
ニッケル水素二次電池において、高容量化を図り、更にサイクル特性及び高温貯蔵特性を向上させるには、常温下での水素吸蔵量が多い希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を負極に採用するとともに、電池の充放電サイクルの進行(以下、サイクル進行という)に伴う水素吸蔵合金の合金容量の低下及び充放電に伴う水素吸蔵合金粒子の微粉化を抑制する必要がある。従来、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の合金容量の向上及び合金粒子の微粉化を抑制する手段として、結晶構造がPuNi型の合金を採用することが試みられていた。
【0030】
しかしながら、PuNi型の結晶構造を呈していても合金の組成によりその特性は大きく異なり、合金粒子が微粉化しやすいもの、合金容量が小さいもの、一方、電池の高容量化が図れ、且つ、微粉化の抑制が可能であるものの、電池のサイクル進行に伴い合金容量が低下してしまうもの等が生じてしまい、満足いく特性を示す合金を得ることは困難であった。より詳しくは、PuNi型結晶構造は、A24ユニットが増えると、水素吸蔵量は高くなるが、安定な水素化物を形成しやすくなり、サイクル進行に伴い、合金容量が減少してしまう。また、ABユニットが少ないと、合金粒子の微粉化を抑制する元素としてのAl等の元素を固溶できる量が少なくなり、十分な微粉化抑制効果が得られなくなる。なお、A24ユニットとは、MgZn型(C14)結晶構造又はMgCu型(C15)結晶構造のユニットであり、ABユニットとは、CaCu型結晶構造のユニットである。
【0031】
これに対し、本発明者らは、一般式(I)で示される組成の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が、Sm及びGdの少なくとも1種を必須元素とし、これら必須元素の含有量を示す添字αが0.4以上の下、Mgの含有量を示す添字βを0.05<β<0.22の範囲とすることにより、充放電による粒子の微粉化を抑制できるとともに、サイクル進行に伴う合金容量の低下を抑制できることを見出した。このため、本実施形態のニッケル水素二次電池は、高容量であり、優れたサイクル特性を有する。また、上記組成の合金は、水素平衡圧を高めることができ、それにより負極の電位を下げることができるので、正極との電位差を広げることができる。このため、電池の作動電圧を高めることができ、本実施形態のニッケル水素二次電池は、放電特性にも優れている。
【0032】
これは、本発明に係る希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金がPuNi型、もしくは、このPuNi型と類似し、同様な効果を奏するCeNi型の結晶構造を呈しており、斯かる結晶構造において、合金粒子の微粉化及びサイクル進行に伴う合金容量の低下をともに抑制できる最適な組成の合金が提供されたためと考えられる。
ここで、βが0.22以上の場合、PuNi型もしくはCeNi型の結晶構造の数が減少し、C15構造のラーベス相とCeNi型又はCaCu型とからなる結晶構造が生成される。この場合、合金容量は低く、合金粒子の微粉化もし易く、電池の充放電サイクルが進行すると更なる合金容量の低下を招いてしまう。このため、得られた電池は、サイクル特性や貯蔵特性が劣る電池となる。一方、βが0.005以下の場合、合金自体の水素吸蔵量が著しく減少し、得られる電池のサイクル特性は大きく低下する。
【0033】
また、一般式(I)の組成の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、Tで表される元素は、Niを置換する元素であり、この元素としては、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Zn、Al、Ga、Sn、In、Cu、Si、P及びBが挙げられる。Tは、単独であってもよく、また、2種以上を組み合わせても良い。Tの含有量を示す添字δは、0.04≦δ≦1.00の範囲とする。この範囲から外れると、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、その結晶構造が変化することで、水素の吸蔵放出能を喪失し、また、合金の微粉化が進行して耐食性が低下する。好ましいδの値の範囲は、0.10≦δ≦0.35である。
【0034】
更に、一般式(I)の組成の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、PuNi型若しくはCeNi型の結晶構造を生成するためには、Tの含有量を示す添字δとNiの含有量を示す添字γとの和の値を、2.7≦γ+δ≦3.30の範囲内に設定することが必要である。
(実施例)
【0035】
1.正極の製造
水酸化ニッケル粉末として、粉末表面の全部または一部がコバルト化合物で被覆されたものを用意した。この粉末100質量部に対して、濃度が40質量%のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)ディスバージョンを5質量部混合してペーストを調製し、このペーストを正極基板としての発泡ニッケルシートに塗着・充填した。乾操後、水酸化ニッケル粉末が付着した発泡ニッケルシートをロール圧延して裁断し、正極を得た。
【0036】
2.希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金及び負極の製造
表1に示した実施例1〜7及び比較例1〜5の各組成になるように金属原料を秤量してそれぞれの混合物を調製した。各混合物は、それぞれ高周波溶解炉で溶解され、インゴットとされた。次いで、これらインゴットに対し、温度1000℃のアルゴン雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施した。この後、各インゴットを不活性雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、平均粒径50μmである表1の組成を有する希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の粉末を得た。
【0037】
得られた希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.5質量部、カルボキシメチルセルロース0.12質量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)ディスバージョン(固形分50質量%)1.0質量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0質量部、および水30質量部を添加して混練し、ペーストを調製した。
このペーストを負極基板としてのパンチングニッケルシートに塗布し、乾燥させた。乾燥後、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の粉末が付着したパンチングニッケルシートを更にロール圧延して裁断し、負極を得た。
3.ニッケル水素二次電池の製造及び初期活性化
得られた正極及び負極を、両者の間にポリプロピレン繊維製不織布から成る厚み0.1mm(目付量40g/m2)のセパレータを挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群を作製した。
【0038】
有底円筒形状の外装缶10内に、上記電極群を収納し、同時に、7Nの水酸化カリウム水溶液と1Nの水酸化リチウム水溶液とから成るアルカリ電解液を注液した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、定格容量が2000mAhのAAサイズの密閉円筒形ニッケル水素二次電池2を組み立てた。
組み立てられた各ニッケル水素二次電池について、温度25°Cにおいて、0.1CmAの充電電流で15時間の充電後、0.2CmAの放電電流で終止電圧1.OVまで放電させる初期活性化処理を施した。
【0039】
4.ニッケル水素二次電池及び希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の評価方法
(1)電池特性
初期活性化処理が施された各ニッケル水素二次電池に対し、充放電−蔵置処理を4回繰り返して実施した。ここでの充放電−蔵置処理は1回当たり、温度25℃において、dV制御の下での1CmAの充電、休止60分、終止電圧1.0Vまでの1CmAの放電を1サイクルとする50回の充放電サイクルと、60℃において1週間の蔵置期間とを含む。
【0040】
ここで、1回目の充放電サイクルの放電容量を測定し、初期放電容量とした。一方、4回目の充放電−蔵置処理が終了した後の電池に対し、dV制御の下での1CmAの充電、休止60分、終止電圧1.0Vまでの1CmAの放電を行い、このときの放電容量を測定し、蔵置後放電容量とした。そして、(II)式で示される容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=(蔵置後放電容量/初期放電容量)×100 ・・・(II)
この結果を電池特性として容量維持率にて表1に示した。
【0041】
(2)飽和磁化測定(合金劣化試験)
充放電−蔵置処理を4回行った後の電池を分解して希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を取り出し、斯かる合金について、VSM(試料振動型磁力計:理研電子社製、BHV-30H)を用いて、飽和磁化を測定した。飽和磁化の値が低いほど合金の腐食が抑制出来ていることを示しており、この結果を合金の腐食量の指標として表1に示した。
【0042】
(3)X線回折測定(希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の結晶構造)
粉砕直後の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の粉末を取り分けておき、この合金粉末のX線回折測定(XRD測定)を行った。測定には株式会社リガク製(平行ビームX線回折装置)の装置を用い、X線源:CuKα、管電圧:50kV、管電流:300mA、スキャンスピード:1°/min、試料の回転速度:60rpmの条件で測定を行った。得られたプロファイルの一例を図2に示した。
【0043】
(4)希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の水素吸蔵量
(i)初期の水素吸蔵量
上記X線回折測定と同様に、粉砕直後の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の粉末に対し、ジーベルツ法に基づきPCT(Pressure−Composition−Temperature:圧力−組成−等温)特性を測定した。測定結果として、80℃雰囲気下で1.OMPa時の水素吸蔵量(初期水素吸蔵量)を表1に示した。
【0044】
なお、この水素吸蔵量は、被吸蔵水素の原子数と合金構成金属の原子数の比を表すH/M値で示した。
(ii)蔵置後の水素吸蔵量
上記飽和磁化測定と同様に、充放電−蔵置処理を4回行った後の電池内から取り出した合金に対し、上記(i)と同様にして求めた水素吸蔵量(蔵置後水素吸蔵量)を表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
5.評価結果
表1及び図2から次のことが明らかである。
(1)実施例1、2、3の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、初期の水素吸蔵量が高く、これを用いた電池は、容量維持率が高いことを示している。蔵置後の電池より取り出した合金は、初期よりも水素吸蔵量は低下し、劣化しているものの、その劣化の度合いは大きなものではないことがわかる。
【0047】
(2)図2より、実施例1、2、3の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金においては、2θ=48度付近のPuNiに起因するピークが現れていることがわかる。これより、実施例1、2、3の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、PuNi型の結晶構造を有していることがわかる。また、実施例7の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金においては、2θ=34度付近のCeNiに起因するピークが現れていることがわかる。これより、実施例7の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、CeNi型の結晶構造を有していることがわかる。
【0048】
(3)実施例4,5より、一般式(I)のA中の成分を変更しても、電池の容量維持率は高く、合金も大きくは劣化していないことがわかる。
(4)実施例6、7より、Alの量を下げたもの、あるいはZnを含有するものについても同様に、電池の容量維持率が高く、合金も大きくは劣化していないことがわかる。
(5)一方、添字βが0.25でMg量が一般式(I)の組成よりも多い合金を用いた比較例1、2では、初期の水素吸蔵量が低下しており、電池の容量維持率も大きく低下している。また、蔵置後の電池より取り出した合金は、飽和磁化の値が大きいことから、合金粒子の微粉化が進行し、耐食性が低下したと考えられる。そのため、蔵置後の水素吸蔵量も大きく低下し、合金が劣化していることがわかる。
【0049】
(6)図2より、比較例1の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金においては、2θ=48度付近のPuNiに起因するピークが消失し、2θ=24度付近のC15型のラーベス層に起因するピークが現れている。これは、Mgが増えることで、C15型結晶構造、即ち、Aユニットの数が増え、ABユニットとの割合が変化し、PuNi型結晶構造を維持できなくなったものと考えられる。このため、水素吸蔵量の低下や、合金粒子の微粉化が進行したと考えられる。
【0050】
(7)比較例3より、添字αの値が0.40以下において、Laを多く含有する組成では、初期の水素吸蔵量が低下しており、電池の容量維持率も低下している。また、蔵置後の水素吸蔵量も大きく低下している。これは、必須元素のSmの含有量を一般式(I)の組成よりも減らしたことにより、合金の水素吸蔵能が低下したためと考えられる。
(8)比較例4より、添字αの値が0.40以下において、Ndを多く含有する組成では、初期の水素吸蔵量は高いものの、電池の容量維持率は低下している。そして、蔵置後の飽和磁化の値は増加していないものの、蔵置後の水素吸蔵量は大きく低下している。また、この電池については、蔵置後の質量が大きく減少していた。
【0051】
これは、必須元素のSmを一般式(I)の組成よりも減らし、Ndの含有量を増やすと、合金粒子の微粉化の進行は抑制されるが、サイクル進行に伴う合金容量の低下が進行するためである。
つまり、比較例4においては、飽和磁化の値が増加していないことから、充放電に伴う合金粒子の微粉化は有効に抑えられていると考えられる。しかし、サイクル進行に伴う負極の合金容量が減ったために、負極容量が減り、その結果、充電リザーブ(過充電時におけるガスの蓄積による電池内圧上昇を抑制するために、予め正極容量に比べ過剰に設けられている負極の容量)が減少すると考えられる。充電リザーブが減少すると、充電末期における酸素ガスの吸収がスムーズに進行せず、更に、負極から水素が発生するため、電池内圧が上昇する。その結果、安全弁が作動し、アルカリ電解液が外部に放出されたため、電池全体としての質量が減少したものと考えられる。
(9)比較例5より、添字δの値が0.04以下となると、初期の水素吸蔵量が大きく低下し、電池評価の途中で放電不能となった。これは、Tで示される元素の含有量が一般式(I)の組成よりも少なくなると、合金の水素吸蔵能が低下するためであると考えられる。
【0052】
本発明は、上記した一実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能であり、例えば、アルカリ二次電池は、角形電池であってもよく、機械的な構造は格別限定されることはない。
【符号の説明】
【0053】
2 ニッケル水素二次電池
24 正極
26 負極
36 水素吸蔵合金粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、水素吸蔵合金を含む負極と、アルカリ電解液とを備えたアルカリ二次電池において、
前記水素吸蔵合金は、
一般式:
(Aα1−α1−βMgβNiγδ
にて表される組成を有し、
前記式中、
Aは、Sm及びGdよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Zn、Al、Ga、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、
添字α、β、γ、δは、それぞれ0.4≦α、0.05<β<0.22、0.04≦δ≦1.00、2.7≦γ+δ≦3.30を満たす数を表す
ことを特徴とするアルカリ二次電池。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金が、
PuNi型又はCeNi型の結晶構造を有していることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−231940(P2010−231940A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76193(P2009−76193)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】