説明

アルカリ分解性繊維構造体

【課題】生コンクリート等のアルカリと接触した状態で経時的に分解する、特殊な繊維構造体を提供する。
【解決手段】L体が95%以上のポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸系繊維、あるいは、前記ポリ乳酸系繊維に、ポリ乳酸以外のアルカリ分解性を有する脂肪族ポリエステルを共重合もしくはブレンドにより含有させた繊維からなる、沸水収縮率が12%以下、かつ引張強度が1.76cN/dtex以上の仮撚糸がすくなくとも一部に用いられており、前記仮撚糸を織成もしくは編成してなる繊維構造体であって、袋状もしくは筒状の形態をとり、アルカリ環境下で分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ環境下で分解する繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、土壌上にコンクリート構造物を施工したり、土壌をコンクリート層で被覆する場合、生コンクリートを土壌に直接打設すると、生コンクリート中の水分(硬化剤の反応時に必要な水分)が土壌に吸収されて、コンクリートの硬化が不充分になる場合がある。そこで、このような事態を防ぐために、吸水しやすい土壌に対し、予め吸水防止シートを敷設することがよく行われている。
【0003】
また、護岸や土留めを目的として、現場施工により法面をコンクリートで被覆する場合、法面に鉄製や木製の型枠を取り付け、法面と型枠の間に生コンクリートを流し込んで硬化させる方法が採用されている。
【特許文献1】特開平11−293797号公報
【特許文献2】特開平11−124854号公報
【特許文献3】特開平6−65835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記吸水防止シートを用いる方法では、土壌とコンクリートの間に吸水防止シートが介在するため、土壌とシートの間や、シートとコンクリートの間に隙間が生じ、その隙間に水が滲み出して流水層を形成してコンクリート破壊を招きやすく、問題となっている。また、シートは、布等の繊維構造体ほど形状の自由度がないため、必ずしも平らでない土壌等の周辺環境への形状対応がしにくいという問題もある。
【0005】
一方、上記法面コンクリート被覆時に型枠を用いる方法では、コンクリート硬化後に、いちいち型枠を外さなければならないという手間を要するだけでなく、脱型されたコンクリートに順次コンクリートを打継施工する際、コールドジョイント等のトラブルが生じないよう迅速かつ適正な工程管理が必要で、作業が容易でないという問題がある。また、型枠内で硬化するコンクリートが収縮するため、隣り合うコンクリート硬化体同士の間に大きな隙間が形成されやすいという問題もある。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するために、生コンクリートと接触時当初には、これを包む等の役割を果たし、経時的に分解もしくは消滅してコンクリートと土壌、あるいはコンクリートとコンクリートを直接接触させることのできる、特殊な素材の開発が強く望まれている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、生コンクリート等のアルカリと接触した状態で、経時的に分解しうる、特殊な繊維構造体の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、L体が95%以上のポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸系繊維からなる、沸水収縮率が12%以下、かつ引張強度が1.76cN/dtex以上の仮撚糸が少なくとも一部に用いられていることを特徴とするアルカリ分解性繊維構造体を第1の要旨とする。
【0009】
また、本発明は、上記繊維構造体が、袋状もしくは筒状に形成された生地であるアルカリ分解性繊維構造体を第2の要旨とし、そのなかでも、特に、上記生地が、仮撚糸を織成もしくは編成してなるものを第3の要旨とする
そして、本発明は、これらのなかでも、特に、ポリ乳酸系繊維以外に、ポリ乳酸以外のポリエステル系繊維が用いられているアルカリ分解性繊維構造体を第4の要旨とする。
【0010】
さらに、本発明は、これらのなかでも、特に、ポリ乳酸系繊維に、ポリ乳酸以外のアルカリ分解性を有する脂肪族ポリエステルを共重合もしくはブレンドにより含有させたものであるアルカリ分解性繊維構造体を第5の要旨とする。
【0011】
なお、本発明において、「ポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸系繊維」とは、ポリマー成分がポリ乳酸のみからなるポリ乳酸繊維と、ポリ乳酸と他のポリマー成分とを、共重合もしくはブレンドという形態で含有するポリ乳酸系繊維の両方を含む趣旨である。また、「アルカリ分解性」とは、pH9以上の環境下で繊維がアルカリ加水分解を生起し、繊維構造体が物理的に分解して繊維構造体としての形状が崩壊する場合と、全体が分解して完全に消滅する場合の2態様を含む趣旨である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のアルカリ分解性繊維構造体は、ポリ乳酸系繊維を含有し、アルカリ環境下で徐々に分解するよう構成されているため、使用後に取り出しにくい部位において、ものとものを仕切る、ものを捕縛する、ものを包む、ものを囲う、等の用途に用いた後、アルカリ溶液に浸すか、もの自身からアルカリ溶液を滲み出させることにより、その一部または全部を分解させることができる。したがって、その回収作業が不要となり、従来不便であった作業をより効率化することができる。特に、コンクリートを用いる作業において、型枠等を用いる場合に比べ、硬化に伴う収縮への追従性があり、また繊維構造体が薄いことと相俟って、良好な仕上りが得られるという利点を有する。さらに、従来用いられていたシートに比べて屈曲部や土壌その他の周辺環境に対する形状対応性に優れているという利点を有する。
【0013】
また、中空部を有する成形品を得る場合等において、中空部となるべき部分に、予め本発明のアルカリ分解性繊維構造体を補填して成形し、後から成形品をアルカリ溶液に浸す等して繊維構造体を分解させることにより、中空部を形成するという用途等にも用いることができる。
【0014】
そして、本発明のアルカリ分解性繊維構造体に用いられるポリ乳酸は、生分解性も有するため、土壌に直接接する用途においては、土壌中の微生物によって分解させることができるという利点も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
まず、本発明において、繊維構造体とは、使用時には一定の形態を保ち、ものとものを仕切る、ものを捕縛する、ものを包む、ものを囲う、中空部となるべき部分を補填する、等の機能を果たし、アルカリ環境下で分解して、上記対象とするものを剥き出しにしたり、中空部を形成したりするのに用いられる。したがって、その形態は、用途に応じて適宜に選択されるのであり、特に限定されるものではない。例えば、繊維の塊である綿(わた)や糸、織り生地,編み生地,スパンボンド等の不織布、あるいはこれらの生地を用いた袋や筒等があげられる。また、不織布用ウェッブを積層し、加温・加圧下で固めたブロック等もあげられる。
【0017】
なお、繊維構造体の形態を、糸や、糸を用いた織り生地や編み生地を用いた袋等の形態にする場合は、上記糸を、嵩高加工糸、なかでも仮撚糸とすることが好適である。すなわち、糸に嵩高性を与えることにより、糸の表面積が大きくなり、アルカリ環境下での分解が迅速に行われるようになるからである。また、嵩高性が付与された糸やそれを用いた生地は、周辺環境への形状対応性がより向上するという利点もある。
【0018】
そして、本発明のアルカリ分解性繊維構造体は、少なくともその一部に、ポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸系繊維を用いたものでなければならない。すなわち、上記ポリ乳酸が、アルカリ環境下で加水分解することにより、繊維構造体全体が、分解する特性を示すからである。
【0019】
上記ポリ乳酸とは、天然に存在するL−乳酸、その光学異性体であるD−乳酸、これらの2量体であるLL−ラクチド、DD−ラクチド、LD−ラクチド等のうち1種または2種以上を重合して得られるものである。
【0020】
上記ポリ乳酸としては、特に限定するものではないが、L体の比率が95%以上のものが、熱に対する寸法安定性に優れ、好適である。すなわち、寸法安定性に優れるということは、比較的高温で熱セットすることができ、熱安定性に優れた捲縮特性の仮撚糸を得ることができるからである。また、ポリ乳酸の加水分解により、70〜80℃に発熱しても、繊維構造体がその目的を達成する前に収縮する心配がないため、コンクリートの打継部等の熱のこもりやすい部位に使用する場合に、特に好適である。
【0021】
そして、本発明のアルカリ分解性繊維構造体は、そのアルカリ分解性を、目的に応じて適宜の速度にコントロールして用いられるが、このコントロールは、ポリ乳酸中のモノマー含有量を調整することによって達成される。すなわち、モノマー量が多いと、アルカリ分解が始まりやすく、モノマー量が少ないと、その逆になる。ただし、モノマー量が少ない方が、繊維が脆化せず、引張強度も強くなるため、仮撚加工時に糸切れするおそれがない。したがって、アルカリ分解速度を速めたい場合は、モノマー含有量を多くしてもよいが、繊維構造体製造の操業性を優先する場合には、モノマー含有量を0.5重量%以下にすることが好ましい。
【0022】
ただし、上記モノマーとは、分子量1000以下の成分をいい、その含有量は、下記の方法によって算出されるものである。そして、上記のように、モノマーの含有量を0.5重量%以下にするには、ポリ乳酸を得るための重合反応の際、反応槽を真空吸引する、重合チップを適当な液体で洗浄する、固相重合を行う等の一般的な手法を用いることができる。
【0023】
[モノマー含有量の算出方法]試料を10mg/mlの濃度になるようクロロホルムに溶解し、標準物質としてポリスチレンを用いて、GPC分析法(ゲル浸透クロマトグラフィ法)により各成分の重量平均分子量を測定する。そして、分子量1000以下を成分の割合から、ポリマー中のモノマー含有量を算出する。
【0024】
さらに、ポリ乳酸は、分岐構造のない直鎖状のものを用いることが好適である。すなわち、分岐構造がないポリ乳酸から得られた糸条を用いると、嵩高加工糸を得るための仮撚時に、糸切れが少なく、引張強度の高い仮撚糸が得られるからである。
【0025】
また、耐熱性の点から、相対粘度(ηrel)2.7〜3.9のポリ乳酸を用いることが好適である。ただし、上記相対粘度は、下記の方法で測定されるものである。
【0026】
[相対粘度]フェノール/テトラクロロエタン=60/40(重量比)の混合溶媒に試料を1g/dlの濃度になるよう溶解し、20℃でウベローデ粘度管を用いて相対粘度を測定する。
【0027】
なお、マルチフィラメントの相対粘度は、紡糸による低下率が低い程よく、ポリマーに対する粘度低下率が7%以下であることが好ましい。7%以下の場合、紡糸時にポリマーの分解が殆どなく、紡糸時の糸切れ等の発生もないため紡糸性がよく、延伸仮撚工程においても引張強度が非常に強くなるからである。ただし、上記紡糸時粘度低下率は、下記の方法で算出されるものである。
【0028】
[紡糸時粘度低下率の算出方法]紡糸ノズルから紡出されたマルチフィラメントの相対粘度を、前述の方法によって測定し、その値を用いて下記の式から算出する。なお、溶融ポリマーの滞留時間は約10分とする。
【0029】
【数1】

【0030】
また、ポリ乳酸において、触媒としてSn(錫)系触媒を用いた場合、ポリマー中のSnの含有量が30ppm以下になるよう調製することが好適である。すなわち、ポリマー中のSn含有量を30ppm以下にすることによって、紡糸時の解重合から生じる不純物に起因する口金濾過圧の上昇を最小限に抑え、紡糸操業性を向上させることができるからである。上記Sn含有量を少なくするには、重合時に使用するSn系触媒の使用量を少なくしたり、チップを適当な液体で洗浄する方法があげられる。なお、上記Sn含有量は、下記の方法で測定されるものである。
【0031】
[Sn含有量]0.5gの試料を硫酸/硝酸により湿式灰化する。そして、これを水で希釈して50ミリリットル溶液として、ICP発光分析法により測定する。
【0032】
なお、本発明のポリ乳酸系繊維には、上記ポリ乳酸以外の他のポリマー成分を、ポリ乳酸の共重合成分として含有させたり、あるいはポリ乳酸にブレンドする成分として含有させることができる。このような他のポリマー成分としては、特に限定されるものではないが、なかでも、同様のアルカリ分解性を有する脂肪族ポリエステル等を用いると、アルカリ分解性がさらに向上して好適である。上記脂肪族ポリエステルとしては、ブタンジオールおよびエチレングリコールの少なくとも一方とコハク酸からなるポリエステル等があげられる。ただし、上記ポリ乳酸以外の他のポリマー成分の配合割合は、ポリマー成分全体の50重量%以下となるようにすることが好ましい。すなわち、一般に、他のポリマー成分にはアルカリ分解性がないので、上記ポリ乳酸以外の他のポリマーの配合割合が50重量%を超えると、アルカリ環境下でのポリ乳酸の分解性能が落ち、繊維構造体全体の分解速度が低下する場合がある外、たとえアルカリ分解性ポリマーを用いても、ポリ乳酸との混合が困難となり、製糸化に支障をきたすおそれがあるからである。
【0033】
本発明のアルカリ分解性繊維構造体は、上記ポリ乳酸系繊維のみで構成してもよいし、他の繊維と組み合わせた構成にしてもよい。このような他の繊維としては、特に限定されるものではないが、ナイロンに代表されるポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維等の、高強度の繊維を用いることが、繊維構造体の補強となり好適である。ただし、上記ポリ乳酸系繊維以外の他の繊維の配合割合は、ポリ乳酸系繊維におけるポリ乳酸の配合割合を考慮して、全体として、アルカリ環境下での分解性能が損なわれないよう調整される。
【0034】
そして、ポリ乳酸系繊維と他の繊維を組み合わせる場合、その組み合わせ方法は、両者をコンジュゲート繊維として同時に紡出する方法、各々紡出した後に混繊糸として得る方法、各々で短繊維を作った後に混紡糸あるいは不織布として得る方法等があげられる。また、織り生地や編み生地等の生地の形態にする場合は、ポリ乳酸系繊維からなる糸と、他の繊維からなる糸を、適宜の分配で組み合わせて交編,交織することもできる。
【0035】
なお、本発明の繊維構造体において、上記ポリ乳酸系繊維もしくはポリ乳酸系繊維と他の繊維とを組み合わせた繊維を用いて糸の形態にする場合は、すでに述べたように、糸を、嵩高加工糸、特に仮撚糸にすることが好適である。
【0036】
上記仮撚糸とする場合、その引張強度は、1.76cN/dtex以上、なかでも2.21cN/dtexに設定することが好適である。すなわち、1.76cN/dtex以上において、仮撚後の加工時に仮撚糸が切れにくく、使用しやすいからである。なお、上記引引張強度は、下記の方法で測定されるものである。
【0037】
[引張強度]島津製作所製の引張試験機を用い、試料長20cm、速度20cm/分で引張試験を行い、破断強度を引張強度とする。
【0038】
また、仮撚糸の伸縮復元率が10%以上となるよう嵩高性を与えることが好適であり、その沸水収縮率が12%以下となるよう設定することが好適である。沸水収縮率を12%以下にすると、織成,編成後の熱セット時の寸法安定性が良好で、優れた生地が得られるからである。なお、上記伸縮復元率および沸水収縮率は、下記の方法で算出されるものである。
【0039】
[伸縮復元率]試料に表示繊度の1/10gの初期荷重を与え、かせ長40cm、捲き数10回の小かせを作製し、これに表示繊度の1/10×20gの重荷重をかけて、温度20±2℃の水中に3分間浸漬し、かせ長(a)を測定する。そして、重荷重を取り除いて2分間放置した後再びかせ長(b)を測定し、下記の式によって算出する。
【0040】
【数2】

【0041】
[沸水収縮率]枠周100cmの検尺機を用い、初期荷重(1/10g)を与え、捲き数10回の小かせを作製し、デシテックス当たり1/10×20×9/10gの荷重をかけて水中(常温)に浸漬して8分後の長さ(L0 )を測定する。つぎに、水中より取り出し、8の字状にして2つに折り重ね、さらに8の字状にして沸騰水中で80分間浸漬し、その後再び水中(常温)にてデシテックス当たり1/10×20×9/10gの荷重をかけて8分後の長さ(L1 )を測定する。そして、下記の式により算出する。
【0042】
【数3】

【0043】
本発明のアルカリ分解性繊維構造体は、このようにして得られる糸を、そのまま用いたり、あるいは紐状に縒ったり、織成もしくは編成によって生地にしたりして用いる。また、糸にせず、繊維のままで、綿にしたり不織布にしたりして用いる。さらに、全体を筒状や袋状に形成して用いることもできる。あるいは、不織布用ウェッブを積層して加温・加圧下でブロック状に固めて用いることもできる。
【0044】
そして、本発明のアルカリ分解性繊維構造体によれば、使用後に取り出しにくい部位や取り出しが不可能な部位において、ものとものを仕切る、ものを捕縛する、ものを包む、ものを囲う、等の用途に用いた後、アルカリ溶液に浸すか、もの自身からアルカリ溶液を滲み出させることにより、一部または全体を分解させることができるため、その回収作業が不要となり、作業効率がよい。
【0045】
また、中空部を有する成形品を得る場合等において、中空部となるべき部分に、予め本発明のアルカリ分解性繊維構造体を補填して成形し、後から成形品をアルカリ溶液に浸す等して繊維構造体を分解させることにより、中空部を形成するという用途等にも用いることができる。
【0046】
より具体的な用途として、例えば、本発明のアルカリ分解性繊維構造体を、法面の保護・強化のためのコンクリート封入袋として用いる例をあげることができる。これは、本発明のアルカリ分解性繊維構造体を、縦横各々数メートルの大きな袋として用いるもので、図1に示すように、袋1に、生コンクリートを充填して封をしたのち、保護・強化の対象とする法面(ダムの斜面や護岸に必要な河川岸斜面等)の土壌に隙間なく並べる。そして、袋1の周縁部に、例えば50cm間隔で杭2を打ち付けて、袋1を土壌に固定する。すると、コンクリートが硬化する過程で、コンクリートの強アルカリ性(通常、pH10以上)によって、袋1が分解するため、型枠を用いた場合のように、いちいち型枠を外す必要がなく、作業が簡単になるという利点を有する。しかも、袋1と袋1との重なり部が薄く、袋1の中でコンクリートが収縮硬化しても、袋1がそれに追従しながら分解していくため、隣り合うコンクリート硬化体同士の間に隙間が生じにくく、良好なコンクリート層を形成することができる。
【0047】
なお、このようなコンクリート封入用の袋1として用いる場合、袋1には、充分な強度が必要であるため、繊度4000〜7000dtexといった太い糸を用いて袋1を構成することが好ましい。
【0048】
そして、袋1のアルカリによる分解が、コンクリート養生期間内となるよう、ポリ乳酸の使用割合や袋の目付,繊維の太さ等を調製する必要がある。
【0049】
また、他の用途として、土壌とコンクリートの間に介在させる吸水防止シートや、特開平5−321362号公報に記載されている膨潤止水材の細長袋として用いる例をあげることができる。これらの例においても、生コンクリートと接した状態で敷設されるシートや袋が、コンクリート養生期間中に、コンクリートの強アルカリ性によって分解するため、コンクリートと、シートや袋との間に隙間が生じて流水路を形成するようなことがなく、良好なコンクリート層を形成することができる。
【0050】
なお、シートや袋を形成する際、迅速に分解させるには、全体をポリ乳酸系繊維からなる糸で構成することが望ましいが、アルカリ分解性繊維構造体全体の強度をさらに向上させるため、シートや袋の生地に、所定間隔で筋状、もしくは格子状に、高強度の繊維からなる糸を配するようにすることが好適である。上記高強度繊維としては、ナイロン等のポリアミド系繊維,ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維等があげられる。そして、上記高強度繊維は、アルカリ分解性繊維構造体の基本構成要素である経糸,緯糸等として織り込んだり、編み込んだりすることができる。また、アルカリ分解性繊維構造体を完成させた後に、さらに縫製等して結合させることもできる。
【0051】
例えば、特開平5−321362号公報に記載されている膨潤止水材の細長袋として用いる場合、ポリ乳酸系繊維を筒状に編成したものを用いるが、その際、袋の長手方向の強度を高め形状を保持するとともに、袋が長手方向によじれず、設置時の位置決めをしやすくするために、図2に示すように、複数本の筋状に、ポリエチレンテレフタレート100%の繊維からなる糸を編み込む(その部分を斜線Pで示す)ことが好適である。
【0052】
上記ポリエチレンテレフタレート繊維としては、繊度が例えば84dtex/36f程度のものを用いることが一般的である。また、編み込み率は、ウエール180本中12本以上とすることが、強度向上の効果を高める上で好適である。
【0053】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。
【実施例】
【0054】
[実施例1〜3]
L−ラクチド、D−ラクチドを原料として、オクチル酸スズを重合触媒として、定法によりポリ乳酸を重合した。そして、得られたポリマーに対し、135℃で固相重合を行い、残存モノマー量の低減を図った。
【0055】
そして、各ポリマーを所定温度で溶融し、直径0.3mmの口金から紡出し、紡糸速度3800m/分で巻き取ったのち、延伸同時仮撚加工を行い、84dtex/24fの仮撚糸を作製した。なお、延伸同時仮撚機は、村田機械社製の33Hマッハクリンパーを使用した。
【0056】
[実施例4]
また、上記実施例1のポリ乳酸90重量部に対し、脂肪酸ポリエステル(昭和高分子社製、ビオノーレ:コハク酸/ブタンジオール/エチレングリコールからなるポリエステル)10重量部を混合して所定温度で溶融し、上記実施例1〜4と同様にして、仮撚糸を作製した。
【0057】
[比較例1]
L−ラクチド、D−ラクチドを原料として、オクチル酸スズを重合触媒として、定法によりポリ乳酸を重合した。そして、得られたポリマーに対し、135℃で固相重合を行い、残存モノマー量の低減を図った。
【0058】
そして、ポリマーを所定温度で溶融し、直径0.3mmの口金から紡出し、紡糸速度3800m/分で巻き取ったのち、延伸同時仮撚加工を行い、84dtex/24fの仮撚糸を作製した。なお、延伸同時仮撚機は、村田機械社製の33Hマッハクリンパーを使用した。
【0059】
[比較例2]
比較例2として、ポリエチレンテレフタレート100重量部を用い、上記実施例1〜3と同様にして、仮撚糸を作製した。
【0060】
上記実施例1〜4および比較例1〜2におけるそれ以外の条件,ポリマー物性等については、下記の表1にまとめて示す。そして、得られた仮撚糸の特性についても、表1に併せて示す。なお、各項目の評価方法,算出方法は前述のとおりである。
【0061】
【表1】

【0062】
また、これらの実施例品,比較品の仮撚糸を、編密度(41コース/2.54cm、37ウエール/2.54cm)で編成して縦横各10cmの編み生地とした。そして、上記編み生地をコンクリート内に埋め込んで打設し、所定の期間放置した後、コンクリートを切断して、内部の編み生地がコンクリートのアルカリによって分解しているか否かを評価した。評価は、○・・・完全に分解、△・・・分解途中、×・・・分解せず、の3段階評価とした。その結果を下記の表2に示す。
【0063】
さらに、上記と同様の縦横各10cmの編み生地を、85℃の温水中に15分間浸漬して、その浸漬後、風乾して面積を測定し、面積収縮率を算出した。その結果を下記の表2に併せて示す。
【0064】
【表2】

【0065】
上記の表2からわかるとおり、一般に用いられているポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)繊維は、アルカリ環境下で全く分解がみられなかったのに対し、本発明の実施例品であるアルカリ分解性繊維構造体は、1〜2週間で完全に分解した。そして、ポリ乳酸のL体比率が95%以上のもの(実施例1,2,4)は、L体比率が95%未満のもの(実施例3)に比べて、85℃の熱水中での編み生地の面積収縮率が低く、熱に対する寸法安定性に優れていた。なかでも、沸水収縮率が12%以下のもの(実施例1,2)は、熱水中での編み生地の面積収縮率が特に低かった。また、アルカリ分解性に優れた他のポリマーを、紡糸性を損なわない範囲でポリ乳酸にブレンドしたもの(実施例4)は、分解速度が特に速かった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】本発明の他の実施例の説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 袋
2 杭
P 編み込んだ繊維部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L体が95%以上のポリ乳酸を主成分とするポリ乳酸系繊維からなる、沸水収縮率が12%以下、かつ引張強度が1.76cN/dtex以上の仮撚糸が少なくとも一部に用いられていることを特徴とするアルカリ分解性繊維構造体。
【請求項2】
繊維構造体が、袋状もしくは筒状に形成された生地である請求項1に記載のアルカリ分解性繊維構造体。
【請求項3】
上記生地が、仮撚糸を織成もしくは編成してなるものである請求項1または2記載のアルカリ分解性繊維構造体。
【請求項4】
上記ポリ乳酸系繊維以外に、ポリ乳酸以外のポリエステル系繊維が用いられている請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ分解性繊維構造体。
【請求項5】
上記ポリ乳酸系繊維に、ポリ乳酸以外のアルカリ分解性を有する脂肪族ポリエステルを共重合もしくはブレンドにより含有させたものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルカリ分解性繊維構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−233415(P2006−233415A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52457(P2006−52457)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【分割の表示】特願平11−374833の分割
【原出願日】平成11年12月28日(1999.12.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】