説明

アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質及びその長期安定性を改善するための方法

本発明は、改善された長期安定性を有するアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質及びアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を改善するための対応する方法に関する。本発明による発光物質は、一般化学式EAxSiyz(式中、x,y,z>0)で示される基本格子を有する発光物質である。成分EAは、1つ以上のアルカリ土類金属で形成されている。賦活剤、例えばEu2+又はMn2+、が基本格子中にドープされている。前記発光物質は、第1の波長域の放射線を吸収して第1の波長域とは異なる第2の波長域の放射線を放射する、という基本的な特性を有する。前記発光物質は、粒状に形成されている。本発明によれば、前記発光物質の粒子は、その表面の少なくとも一部が一般式Eau2の化合物によって形成されていることによって、その表面が化学的に変性されている。成分Zは、前記発光物質のEAカチオンと化学結合することが可能なアニオンによって、形成されている。変数uは、アニオンZのイオン電荷に等しい。従って、前記化学的な変性は、被覆ではない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射挙動における長期安定性が改善されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質に関する。このような発光物質は、例えば変換発光物質として、白色発光LEDに基づく光源に使用される。更に、本発明は、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質は、湿気に対して著しく不安定である。この不安定性により、これまでに多くの適用分野で、その使用可能性が著しく制限されてきた。本質的に湿気によって惹起される望ましくない反応として、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の場合には、次の化学反応がある。
(Ba,Sr,Ca)2SiO4+2H2O→2(Ba,Sr,Ca)OH2+SiO2
【0003】
アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質は、比較的長く貯蔵した場合に、集塊(Agglomeration)及び凝集(Verklumpung)の傾向があり、それにより、この発光物質の使用が著しく制限される。更に、多くのアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質は、比較的長く貯蔵した場合、又は、とりわけLEDに基づく光源に比較的長期間使用した場合には、不可逆的なルミネセンス損失及び分解現象を示す。これらの現象は、とりわけ、より高い湿度の場合に現われ、従って、この発光物質は、湿度の高い空間での適用及び湿度が高められた領域での使用には、条件付きでしか、適していない。
【0004】
特許文献1は、希土類酸化物ハロゲン化物発光物質に保護層を塗布するための方法を開示している。保護層は、水、水蒸気、空中湿度の攻撃及びその他の大気の影響並びに加工時に作用する影響を回避するために、使用され、その結果、発光物質特性が損なわれることがない。保護層は、難溶性のタングステン酸塩化合物又は/及びモリブデン酸塩化合物から成る。
【0005】
非特許文献1の学術論文には、NH4HF2で表わされる発光物質の熱処理によるSrAl24:Eu2+、Dy3+の耐湿性の改善が記載されている。この場合には、フッ化ストロンチウムから成る保護層が生じる。
【0006】
特許文献2は、赤色発光アルカリ土類金属硫化物リン光体粒子の耐湿性を改善するための該粒子の処理方法を開示している。このリン光体粒子は、フッ素化剤を含有する溶剤中に分散される。この場合には、リン光体粒子上に液体不透過性のフッ素化被膜が生じる。
【0007】
非特許文献2の学術論文には、アルカリ土類金属硫化物に基づく発光物質Ca0.8Sr0.2S:Eu2+、Tm3+の、ZnO粒子及びAl23粒子による被覆が開示されている。
【0008】
特許文献3は、それぞれ本質的に透明な多層酸化物被膜を酸化アルミニウムベース上に有するカプセル化した発光物質粒子を、開示している。この多層金属酸化物被膜は、酸化アルミニウム及び少なくとも1つの他の金属酸化物を含んでなる。
【0009】
特許文献4には、(Ca、Sr、Ba)2SiO4に基づく表面変性された発光物質粒子が開示されており、この発光物質粒子上には、金属酸化物、遷移金属酸化物又は半金属酸化物の被膜及び有機被膜が設けられている。金属酸化物、遷移金属酸化物又は半金属酸化物を用いた被覆は、湿式化学法又は蒸着法で行なわれ、結合剤、例えばLEDに基づく光源に使用される結合剤、の化学的特性に発光物質表面特性を適合させるのに、役立てられる。被覆の際には、発光物質粒子との化学反応は、生じない。
【0010】
特許文献5は、少なくとも2つの出発物質及び少なくとも1つのドーパントが湿式化学法により混合され、次いで、カ焼によって発光物質前駆体とすることによって製造される被覆発光物質粒子を、開示している。金属酸化物、遷移金属酸化物又は半金属酸化物を用いた発光物質粒子の被覆は、湿式化学法及び引き続くカ焼の後に行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】旧東ドイツ特許第293128A5号明細書
【特許文献2】欧州特許第1124913B1号明細書
【特許文献3】ドイツ特許第69830180T2号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102007056343A1号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102007053285A1号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Guo,C.;Luan,L.;Huang,D.;Su,Q.及びLv,Y.著、「Study on the stability of phosphor SrAl2O4:Eu2+,Dy3+ in water and method to improve its moisture resistance」、Materials Chemistry and Physics誌、106(2007)、p.268−272
【非特許文献2】Guo,C.;Chu,B.及びSu,Q.、「Improving the stability of alkaline earth sulfide−based phosphors」、Applied Surface Science誌、225(2004)、p.198−203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、従来技術から出発して、改善された長期安定性、とりわけ湿気に対する長期安定性、を有するアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質を、提供することである。更に、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を改善するための対応する方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、添付の請求項1に記載の発光物質によって、解決される。この課題は、更に、添付の従属請求項6に記載された方法によって解決される。
【0015】
本発明による発光物質は、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質である。従って、発光物質は、一般化学式EAxSiyz(式中、x,y,z>0)で示される基本格子(Grundgitter)を有する。成分EAは、1つ以上のアルカリ土類金属で形成されている。Eu2+又はMn2+等の賦活剤が、基本格子中にドープされている。複数の賦活剤、更に共賦活剤又は増感剤が、基本格子中にドープされていてもよい。
【0016】
本発明による発光物質は、第1の波長域の放射線を吸収し、第1の波長域とは異なる第2の波長域の放射線を放射するという、基本的な特性を有する。従って、これは、変換発光物質である。典型的な実施形態において、前記発光物質は、青及び/又は紫外の波長域の放射線を吸収し、可視波長域、例えば黄緑色、黄色及び/又は橙色の波長域、の放射線を放射する。しかしながら、本発明は、特定の波長域に限定されない。
【0017】
本発明による発光物質は、粒状に形成されている。この発光物質の粒は、例えば1μm〜40μmの直径を有する粒子を、形成する。本発明は、特定の粒度に限定されない。とりわけ、本発明は、その直径が20μmより小さい粒子にも、適切である。
【0018】
本発明によれば、発光物質の粒子は、その表面の少なくとも一部が一般式EAu2の化合物によって形成されていることによって、その表面が化学的に変性されている。成分Zは、発光物質のEAカチオンと化学結合することが可能なアニオンによって、形成されている。変数uは、アニオンZのイオン電荷に等しく、好ましくはu=2又はu=3であり、いずれにせよ、u>0である。変数uが偶数である場合には、一般式は、係数が約分された式で表わすこともできる。本発明による発光物質は、その粒子の表面が化学的に変性されていることを特徴とする。化学的な変性によって、基本格子内に存在するアルカリ土類金属が化学結合される。基本格子のアルカリ土類金属イオンは、粒子表面の少なくとも一部において、アニオンZと化学結合している。従って、化学的な変性は、例えば化学蒸着法又は物理蒸着法(CVD、PVD)によって発光物質の粒子上に設けられた、もっぱら物理的に作用する、被覆ではない。このような被覆との更なる相違は、本発明による化学的な変性が必ずしも発光物質粒子の表面全体に行なわれていなくともよい点である。発光物質粒子の表面の一部が、一般式EAu2で示される化学結合を示せば十分である。この化合物は、発光物質粒子へのないしは発光物質粒子からの水の浸入及び/又は水との反応生成物の漏出を、減少された拡散速度に基づいて、阻止しないしは遅延する。粒子表面における化学的な変性によって生成された化合物は難溶性であることが好ましく、それにより、発光物質は、著しく長い時間に亘って湿気から保護される。
【0019】
本発明によれば、発光物質の基本格子のアルカリ土類金属EAは、粒子の表面の少なくとも一部において、アニオンZと化学結合している。アニオンZは、元素アニオンの形に形成されていてもよいし、分子アニオンの形に形成されていてもよい。当業者は、基本格子の具体的な組成に従って、そして、化学的な変性を生じさせるための選択された方法に従って、適切なアニオンを選択することができる。
【0020】
化合物EAu2は、例えば(Sr,Ba,Ca)SO4、(Sr,Ba,Ca)3(PO42、(Sr,Ba,Ca)CO3、(Sr,Ba,Ca)C24、(Sr,Ba,Ca)SiO3及び(Sr,Ba,Ca)SiF6によって、表わすことができる。
【0021】
本発明による発光物質は、更に、粒子表面に存在する一般式EAu2で示される化合物が、透明であるか又は前記第1の波長域の放射線及び前記第2の波長域の放射線に対して少なくとも十分に透明である、ことを特徴とする。従って、粒子の表面における化学的な変性によって、発光物質の効率は減少しない。とりわけ、一般式EAu2の化合物は、380nmを超える波長を有する放射線に対する吸収特性を示さない。
【0022】
本発明による発光物質は、安価に製造可能であり、且つ、本発明により化学的に変性された表面を有する具体的な発光物質及び具体的な用途に種々な方法で適合させて、製造できるという、利点を有している。
【0023】
本発明による発光物質の有利な実施形態において、アニオンは、次の化学式の1つ以上によって表現される:SO42-、PO43-、CO32-、C242-、SiO32-、F-及びSiF62-。これらの式のアニオンは、アルカリ土類金属のカチオンと化学結合して、発光物質粒子表面に、透明で難溶性の発光物質の変性を生じるのに、特に適切である。アニオンがSO42-、CO32-、C242-、SiO32-及びSiF62-である場合には、u=2である。アニオンがPO43-である場合には、u=3である。アニオンがF-である場合には、u=1である。
【0024】
本発明による発光物質の有利な実施形態において、前記基本格子は、式(Baa,Srb,Cac2SiO4で示される。変数a、b及びcの少なくとも1つは、0より大きく、更にa+b+c=1である。この発光物質は、とりわけLEDをベースとする光源への適用に適切な、アルカリ土類金属ケイ酸塩である。
【0025】
本発明による発光物質の別の有利な実施形態において、前記基本格子中のEAは、マグネシウム及び更なるアルカリ土類金属を含む。これら実施形態において、基本格子は、次の化学式の1つを示す:EA’3MgSi28、EA’2MgSi27及びEA’2MgSiO5。ここで、EA’は、マグネシウムを除く1つ以上のアルカリ土類金属によって形成されている。
【0026】
本発明による発光物質の別の有利な実施形態は、化学式EA3SiO5又はEASiO3の基本格子を示す。
【0027】
本発明による発光物質の特別な実施形態において、それぞれ、発光物質粒子表面全体が一般式EAu2の化合物で形成されている。従って、粒子表面全体が化学的に変性されている。
【0028】
アルカリ土類金属ケイ酸塩中のケイ素は、部分的に、アルミニウム、ホウ素、ゲルマニウム、ガリウム及び/又はリンで置換されていてよい。アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質のこのような変性の可能性は当業者に公知である。いずれにせよ、当業者は、このように変性された発光物質をアルカリ土類金属ケイ酸塩とも呼称し、たいていの場合、一般式EAxSiyOによって命名する。特に正確な命名には、当業者は、場合によっては、一般式EAx(Si,Al,B,Ge,Ga,P)yz又は式EAx(Si1-e-f-g-h-iAlefGegGahiyz(式中、e、f、g、h及び/又はi>0)を挙げる。アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の更に可能な変性は、10モル%までのハロゲン化物イオンの挿入である。
【0029】
本発明による方法は、発光物質、殊にアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質、の長期安定性の改善に役立つ。この発光物質は、一般化学式EAxSiyzで示される基本格子を有し、ここで、EAは、1つ以上のアルカリ土類金属によって形成されており、更に、x、y、z>0の条件が成り立つ。改善されるべき発光物質は、粒状である。本発明による方法は、先ず、発光物質のEAカチオンと化学結合することが可能なアニオンを提供する化学物質を選択する工程を、備える。化学物質は、例えば、化学元素又は固形、液状若しくはガス状で存在する化合物であってよい。しかし、この化学物質は、物質混合物、例えば水溶液、であってよい。本発明による方法にとって重要な、化学物質の特性は、この化学物質によって、アルカリ土類金属のカチオンと化学結合することが可能なアニオンが遊離され得ることである。本発明による方法の更なる工程では、この化学物質は、この化学物質、殊にこの化学物質から遊離されるアニオン、と、発光物質の粒子の表面、殊にそこに存在するアルカリ土類金属のカチオン、との化学反応に備えるため、発光物質の粒子と混合することができる。更に、上記の化学反応を進行させるための条件が与えられる。このために、この化学物質と混合された発光物質粒子は、例えば加熱されてもよいし、撹拌されてもよいし、又は特別な雰囲気に曝されてもよい。当業者は、選択された化学物質及びアルカリ土類金属ケイ酸塩の具体的な組成に応じて条件を選択する。この化学反応は、次のとおりに、表現することができる:
uEA2++2Zu-→EAu2
【0030】
成分Zは、アニオンである。変数uは、アニオンZのイオン電荷に等しく、好ましくはu=2又はu=3であり、いずれにせよ、u>0である。反応は、とりわけ発光物質の粒子の自由表面で行なわれる。EAu2として変性された領域の厚さが増大するとともに、反応速度が減少し、従って、変性全体は、拡散により決定される。同時に、この連関が、点状の形成に代わって有利な密度の高いEAu2領域を形成する。本発明による方法の更なる工程においては、発光物質の粒子を、化学反応後に後処理することができる。つまり、発光物質の粒子は、洗浄し、乾燥し又はガス流から切り離すことによって、分離することができる。
【0031】
本発明による方法によって、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を著しく改善するための、安価で適合させることができる可能性が示される。この際、重要なことは、前記化学物質のアニオンZとの発光物質のEAの反応が、熱力学的に引き起こされて、水との反応が特に起こりやすい、エネルギー的に有利な箇所で強制的に進行することである。このエネルギー的に有利な箇所が上記変性によって水との反応に対して遮断される場合には、そのことから、発光物質粒子の耐湿性の顕著な増大がもたらされる。発光物質粒子と前記化学物質との反応が続行されると、完全に変性された表面及び本質的に高められた長期安定性を有する材料が、最終的に得られる。変性された表面層の厚さは、本来の表面の反応性に比例している。従って、変性された粒子が等方的に安定化されていること及び有利な攻撃点がもはや存在しないことが保証される。
【0032】
前記化学物質から提供されるべきアニオンは、アルカリ土類金属のカチオンと適切に化学結合することが可能でなければならない。その際、前記化学物質は、一方で、この化学物質から提供されるべきアニオンがアルカリ土類金属のカチオンとの間で、特に難溶性であり且つ著しく透明である、化学結合を生じるよう選択されなければならない。他方で、前記化学物質は、化学物質から提供されるべきアニオンとアルカリ土類金属EAのカチオンとの化学反応が可能であるよう選択されるべきである。次の化学式:SO42-、PO43-、CO32-、C242-、SiO32-及びSiF62-のうちの1つによって示されるアニオンを提供する化学物質が特に適切である。
【0033】
本発明による方法の第1の有利な実施形態においては、化学反応は、水性懸濁液中で行なわれる。このために、アニオンを含有する可溶性の化合物が選択され、水に溶解されることによって、化学物質の選択が行なわれる。発光物質の粒子と化学物質との混合は、該粒子を水溶液に入れ、更にこの水溶液を撹拌することによって行なわれる。発光物質の粒子の分離は、好ましくは、先ずデカンテーション、濾過又は遠心分離によって行なわれる。乾燥過程がこれに続く。場合によっては、粒子は、乾燥前に、水で洗浄してもよく、更にエタノール中に懸濁してもよい。
【0034】
本発明による方法の代替的な有利な実施形態において、粒子表面の変性は、固体−気相反応によって行なわれる。このために、例えばガス状のSO3のような、ガス状の化学物質が選択されるべきである。例えば、粒子が炉内でガス流に曝されることにより、粒子の周囲にガスが流され、これによって、発光物質の粒子と化学物質との混合が、行なわれる。
【0035】
本発明による方法の別の代替的な実施形態において、化学的な変性は、乾燥状態での2つの固形物質の化学反応によって行なわれる。このために、アニオンを含有する粉末状の化合物が選択されることによって、化学物質の選択が行なわれる。発光物質の粒子と化学物質との混合は、粒子を粉末状の化合物と混合し均質化することによって行なわれ、それにより化学反応の準備がされる。
【0036】
本発明の更なる利点、詳細及び別の形態は、図面を参照して、有利な実施形態についての以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による、ヘキサフルオロケイ酸塩により変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を示す図である。
【図2】本発明による、炭酸アンモニウム溶液により変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を示す図である。
【図3】本発明による、フッ化アンモニウムにより変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、ヘキサフルオロケイ酸塩により変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を、従来技術によるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性と、比較した図である。本発明による、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の粒子表面の変性のために、脱イオン水中の(NH42SiF6の溶液を調製した。この水溶液200mLに、撹拌下に、50gのアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Euを添加した。この水溶液を加熱し、その温度を25℃で一定に保持した。撹拌を20分後に停止した。その後、粒子の表面が化学的に変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩を、3回デカンテーションしながら、水で洗浄した。懸濁されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質を吸引濾過し、最終的に105℃で乾燥した。具体的な試験パラメータは、本明細書に記載された値に、限定されない。変性された表面は、主としてアルカリ土類金属ヘキサフルオロケイ酸塩EASiF6から成る。線01は、温度60℃及び湿度90%での貯蔵期間(単位:時間)に亘る、相対放射強度の依存性をパーセント単位で示している。本発明による、変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質は、1,000時間を超える貯蔵期間後にも、90%を遥かに超える相対放射強度を有する。この図には、更に、温度60℃及び湿度90%での貯蔵期間(単位:時間)に対する、従来技術による変性されていないアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の、相対放射強度を示す線02が示されている。線02によって、従来技術によるこの発光物質の相対放射強度が、数十時間後に、既に60%未満に減少していることが明らかである。
【0039】
図2は、従来技術によるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性と比較した、本発明による、炭酸アンモニウム溶液により変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を示す図である。本発明による、炭酸アンモニウム溶液による変性のために、先ず、脱イオン水中のNH4HCO3の溶液を調製した。この水溶液200mLに、撹拌下に、一般式(Ba,Sr,Ca)3MgSi28:Euで示されるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質25gを添加した。この水溶液を加熱し、その温度を40℃で一定に保持した。撹拌を60分の継続時間後に終了させた。変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩を、3回デカンテーションしながら、水で洗浄し、吸引濾過し、最終的に105℃で乾燥した。具体的な試験パラメータは、本明細書に記載された値に、限定されない。変性された表面は、主としてアルカリ土類金属炭酸塩EACO3から成る。このようにして変性された本発明によるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の相対放射強度は、温度60℃及び湿度90%での貯蔵期間(単位:時間)に依存して、線04によって示されている。この本発明によるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の相対放射強度は、数百時間の貯蔵期間で、相変わらずほぼ100%である。これに対して、線09によって貯蔵期間(単位:時間)に対して示された従来技術による変性されていないアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の相対放射強度は、100時間未満の貯蔵期間後に、既に約70%でしかない。
【0040】
リン酸アンモニウム−/シュウ酸アンモニウム溶液を用いた別の有利な実施形態における、本発明による変性のために、先ず、脱イオン水中の(NH43PO4の0.05Mの溶液及び(NH4224の0.05Mの溶液を調製し、同量の両溶液を合一した。この水溶液200mLに、撹拌下に、一般式(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Euで示されるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質25gを添加した。この水溶液を加熱し、その温度を40℃で一定に保持した。撹拌を30分の継続時間後に終了させた。変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩を、3回デカンテーションしながら、水で洗浄し、吸引濾過し、最終的に95℃で乾燥した。具体的な試験パラメータは、本明細書に記載された値に、限定されない。変性された表面は、主としてアルカリ土類金属リン酸塩EA3(PO42及びアルカリ土類金属シュウ酸塩EAC24から成る。本発明による変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質は、1,000時間を超える貯蔵期間後にも、90%を遥かに超える相対放射強度を有する。これに対して、従来技術による変性されていないアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の場合には、温度60℃及び湿度90%での貯蔵中の相対放射強度は、数十時間後に、既に60%未満に減少している。
【0041】
本発明による方法の、別の有利な実施形態においては、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の粒子表面の変性のための化学反応は、固体−気相反応によって行なわれる。これは、例えば、式(Ba,Sr,Ca)2MgSi27:Euで示されるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質25gを、管状炉内の酸化アルミニウムボート上で5L/分の体積流量の窒素流下に、温度200℃に加熱することによって、行なうことができる。管状炉内を流れる窒素は、水で満たされた洗びんを通して泡立たせることによって管状炉内に入る前に、湿らされる。アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質を200℃に加熱した後で、1L/分の最大容積流量のSO3の第2のガス流を生成させる。この2つのガス流がアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の周囲を流れ、その結果、発光物質粒子の変性のための化学反応が行なわれる。30分の反応時間後に、SO3ガス流が終了され且つ熱の供給が停止され、その結果、発光物質が窒素雰囲気下に迅速に冷却される。これにより、酸化アルミニウムボート内に、本発明による変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質が存在する。SO3の代わりにCO2もガス流として使用してよい。
【0042】
図3は、従来技術による変性されていないアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性と比較した、本発明による、フッ化アンモニウムにより変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性を示すための図である。本発明による、フッ化アンモニウムによる変性の場合には、2つの固形粉末状の物質が乾燥状態で反応する。示された例の場合には、一般式(Ba,Sr,Ca,Mg)3SiO5:Euで示されるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質25gを10gの微粉砕されたNH4Fと混合し、均質化した。この混合物を、管状炉内の酸化アルミニウムボートに載せ、5L/分の容積流量の窒素流下に、徐々に温度300℃に、加熱した。この混合物を、30分間に亘ってこの条件下に放置し、更に引き続き迅速に冷却した。線12は、温度85℃及び相対湿度85%での貯蔵期間(単位:時間)に対する、本発明による変性されたこのアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の相対放射強度を示している。線12からは、本発明による発光物質の相対放射強度が、150時間の貯蔵期間後に、ほとんど低下せず、そして更には90%を遥かに超えていることが分かる。線13は、85℃及び相対湿度85%での貯蔵期間(単位:時間)に対する、従来技術による変性されていないアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の相対放射強度を示している。150時間の貯蔵期間後に、アルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の相対放射強度は、既に70%未満の値になった。
【0043】
上述の本発明による方法の実施形態は、対応するアンモニウム化合物を使用してのフッ化物又は炭酸塩による発光物質の粒子表面の変性に適切である。
【符号の説明】
【0044】
01 ヘキサフルオロケイ酸塩により変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性のグラフ
02 従来技術によるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性のグラフ
03 −
04 炭酸アンモニウム溶液により変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性のグラフ
05 −
06 −
07 −
08 −
09 従来技術によるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性のグラフ
10 −
11 −
12 フッ化アンモニウムにより変性されたアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性のグラフ
13 従来技術によるアルカリ土類金属ケイ酸塩発光物質の長期安定性のグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の波長域の放射線を吸収して第1の波長域とは異なる第2の波長域の放射線を放射する、改善された長期安定性を有する発光物質であって、発光物質が粒子の形状に形成されており、一般化学式EAxSiyz(ここで、EAは、1つ以上のアルカリ土類金属によって形成されており、x、y、z>0の条件が成り立つ。)で示されるアルカリ土類金属ケイ酸塩を基本格子として有し、この基本格子が賦活剤でドープされている発光物質において、前記粒子が、前記粒子の表面の少なくとも一部が一般式EAu2(ここで、Zは、EAのカチオンと化学結合することが可能なアニオンによって形成されており、uは、アニオンZのイオン電荷に等しい。)の化合物によって形成されていることによって、化学的に変性されている表面を有することを特徴とする発光物質。
【請求項2】
アニオンが、次の化学式:SO42-、PO43-、CO32-、C242-、SiO32-、SiF62-及びF-の1つ以上によって示されていることを特徴とする請求項1に記載の発光物質。
【請求項3】
その基本格子が次の化学式:
−(BaaSrbCac2SiO4(式中、変数a、b及びcの少なくとも1つは、0より大きく、更にa+b+c=1である);
−EA’3MgSi28、EA’2MgSi27、EA’2MgSiO5(式中、EA’は、マグネシウムを除く1つ以上のアルカリ土類金属によって形成されている);
−EA3SiO5;及び
−EASiO3
の1つによって示されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光物質。
【請求項4】
賦活剤がEu2+及び/又はMn2+によって形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光物質。
【請求項5】
それぞれ発光物質の粒子の表面全体が一般式EAu2の化合物で形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光物質。
【請求項6】
粒状に形成されており、一般化学式EAxSiyz(ここで、EAは1つ以上のアルカリ土類金属によって形成されており、x、y、z>0の条件が成り立つ。)で示されるアルカリ土類金属ケイ酸塩を基本格子として有する発光物質の長期安定性を改善するための方法であって、以下の工程:
−EAのカチオンと化学結合することが可能なアニオンを提供する化学物質の選択;
−発光物質の粒子と化学物質との混合;
−化学物質と発光物質の粒子の表面との化学反応のための条件の準備;及び
−発光物質の粒子の分離
を備える方法。
【請求項7】
アニオンが次の化学式:SO42-、PO43-、CO32-、C242-、SiO32-及びSiF62-の1つ以上によって示されていることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
−アニオンを含有する化合物を選択し、水に溶解することによって、化学物質の選択を行ない;
−発光物質の粒子と化学物質との混合を、該粒子を水溶液に入れ、更にこの水溶液を撹拌することによって、行ない;そして
−発光物質の粒子の分離を粒子の乾燥によって行なう
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
−ガス状の化学物質を選択し;そして
−発光物質の粒子と化学物質との混合を、粒子の周囲にガスを流すことによって行なう
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
−アニオンを含有する粉末状の化合物を選択することによって、化学物質の選択を行ない;そして
−発光物質の粒子と化学物質との混合を、該粒子を粉末状の化合物と混合し均質化することによって、行なう
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−507508(P2013−507508A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533625(P2012−533625)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065380
【国際公開番号】WO2011/045359
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(503233336)ロイヒトシュトッフヴェルク ブライトゥンゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【Fターム(参考)】