説明

アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートの製造方法

【課題】アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートを製造する方法を提供する。
【解決手段】下記工程からなるアルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートを製造する方法:(a):(i)少なくとも一種の油溶性スルホン酸もしくはアルカリ土類金属スルホン酸塩またはこれらの混合物;(ii)少なくとも一種のアルカリ土類金属源;および(iii)少なくとも一種のホウ素源を、(iv)少なくとも一種の炭化水素溶媒;(v)少なくとも一種の低分子量アルコール;および(vi)ホウ素源に対して0から10モル%未満の、ホウ素源以外の過塩基化酸を含む混合液の存在下で反応させる工程、そして
(b):上記(a)の反応生成物を、(iv)および(v)の蒸留温度より高い温度に加熱して、(iv)、(v)そして反応により生成する水(但し、水は添加しない)を留去する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートを製造するための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦特性の改良と共に、摩耗の防止および/または減少は、潤滑油組成物の非常に重要な特性である。ホウ素を含む添加剤、特に、アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートは、潤滑油組成物に使用すると、優れた耐摩擦性だけでなく、清浄、さび止め、腐食防止、および極圧の特性を付与することが見出されている。
【0003】
特許文献1には、二つの工程からなるアルカリ土類金属ホウ酸塩分散液の製造方法が開示されている。第一工程は、次の成分(A)から(E)の混合物を20℃−100℃で反応させることからなる。(A):100質量部のアルカリ土類金属の油溶性中性スルホネート、(B):10−100質量部のアルカリ土類金属の水酸化物もしくは酸化物、(C):成分(B)に対して0.5−6.5倍モルとなる量のホウ酸、(D):5−50質量部の水、および(E):50−200質量部の希釈溶媒。第二工程では、第一工程で得られた反応混合物を100℃−200℃に加熱して、水および、必要により一部の希釈溶媒を除去する。
【0004】
特許文献2には、アルカリ土類金属炭酸塩とアルカリ土類金属炭化水素スルホネートの潤滑油分散液を、ホウ酸、酸化ホウ素および水性のホウ酸のアルキルエステルからなる群より選ばれたホウ素化合物と反応させることによって得られる潤滑油組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、アルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化したアルカリ土類金属スルホネート潤滑油組成物のアルカリ土類金属比を増加させる方法として、アルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化したアルカリ土類金属スルホネートのコロイド状の分散液、アルカリ土類金属水酸化物、およびホウ酸を含む潤滑油中間物を調製し、そして得られた混合物と二酸化炭素とを接触させることを含む方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、ホウ酸化された炭酸塩で過塩基性とされた生成物が開示されている。その製法は特に、(a):過塩基性スルホネートと任意の必要な不活性な液体溶媒とを混合し、(b):(a)の混合物をホウ酸化剤で、相当量の泡立ちが発生しないような低温でホウ酸化させ、(c):(b)の混合物の温度を、(b)の混合物中の水の沸点より高い温度に上昇させ、(d):混合物中の炭酸塩の全てを実質上残しながら、(c)の反応混合物から水の実質上全てを分離し、そして(e):(d)の生成物を高炭酸塩含有ホウ酸化生成物として取り出すことからなる。
【0007】
特許文献5には、潤滑剤用のホウ酸化された過塩基性油溶性金属清浄剤添加物の製造方法として、(a):炭化水素溶剤に溶解している金属塩と金属塩基とに、極性溶媒を混合し、(b):上記金属塩混合物を、約10℃から約100℃までの範囲の温度で、該混合物に酸性ガスを通しながら処理し、(c):上記の約10℃から約100℃の範囲の温度で処理された混合物をろ過し、(d):上記のろ液に、ホウ酸化剤を加え、そして該ろ液を、約0.25から約5.0時間、約15℃から約100℃までの範囲の温度で反応させ、(e):上記ホウ酸化混合物を、十分に高い温度に加熱して、極性溶剤と水の主要部を留去し、(f):留去処理したホウ酸化混合物を、残留している溶剤の沸点以下にまで冷却し、該冷却したろ液混合物をろ過し、そして(g):冷却した蒸留ろ液混合物を、約10から約200mmHgまでの範囲の圧力下で、約20℃から約150℃までの範囲の温度にてストリッピングすることによって、ホウ酸化金属清浄添加剤を取り出すことを含む方法が開示されている。
【0008】
特許文献6には、(a):プロトン性溶媒と炭化水素溶媒の存在下、過塩基性金属塩にホウ酸化剤を加え、そして約0.25から約5.0時間、約15℃から約100℃までの範囲の温度で反応させ、(b):上記ホウ酸化金属塩混合物を十分に高い温度で加熱して、供給されたプロトン性溶媒の少なくとも約80%と等しい蒸留液の量を留去し、(c):上記蒸留ホウ酸化混合物を残存溶剤の沸点以下に冷却し、そして該冷却混合物をろ過し、(d):冷却した蒸留ろ液混合物を、約10から約200mmHgまでの範囲の圧力下で、約20℃から約150℃までの範囲の温度でストリッピングし、そしてホウ酸化金属清浄添加剤を取り出すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4683126号明細書、イノウエ等、
【特許文献2】米国特許第3480548号明細書、ヘルムート等、
【特許文献3】米国特許第3679584号明細書、ヘルムート等、
【特許文献4】米国特許第4744920号明細書、フィッシャー等、
【特許文献5】米国特許第4965003号明細書、シュリヒト等、
【特許文献6】米国特許第4965004号明細書、シュリヒト等、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートを製造するための改良された方法の発見に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、その最も広い具体化において、本発明は、下記の工程からなるアルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートを製造するための方法に関する。
(a):(i)少なくとも一種の油溶性スルホン酸もしくはアルカリ土類金属スルホン酸塩またはこれらの混合物;(ii)少なくとも一種のアルカリ土類金属源;および(iii)少なくとも一種のホウ素源を、(iv)少なくとも一種の炭化水素溶媒;(v)少なくとも一種の低分子量アルコール;および(vi)ホウ素源に対して0から10モル%未満の、ホウ素源以外の過塩基化酸を含む混合液の存在下で反応させる工程、そして
(b):上記(a)の反応生成物を、(iv)および(v)の蒸留温度より高い温度に加熱して、(iv)、(v)そして反応により生成する水(但し、水は添加しない)を留去する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明の中で開示された方法によって製造されたホウ酸化スルホネートは、沈降物が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明には種々の変更や別の形態が可能であるが、本発明の特定の態様について、実施例として示し、および以下に詳細に説明する。しかしながら、以下の特定の態様の説明は、本発明を開示する特定の態様に限定しようとするものではなく、むしろ反対に、本発明は、添付した特許請求の範囲で規定した本発明の真意および範囲内に含まれる変更、同等および別の形態全てを包含するものである。
【0014】
「全塩基価」または「TBN」は、試料1グラム中のKOHのミリグラムと等価な塩基の量を意味する。従って、TBN価が高いほど、生成物のアルカリ性が強く、よって保持するアルカリ度が大きいことを反映している。本発明の目的において、TBNは、AST
M試験第D2896番により決定することができる。
【0015】
(アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートの製造方法)
本発明は、アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートを製造するための改良された方法に関する。
アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートの製造方法は、下記の工程からなる。
(a):(i)少なくとも一種の油溶性スルホン酸もしくはアルカリ土類金属スルホン酸塩またはこれらの混合物;(ii)少なくとも一種のアルカリ土類金属源;および(iii)少なくとも一種のホウ素源を、(iv)少なくとも一種の炭化水素溶媒;(v)少なくとも一種の低分子量アルコール;および(vi)ホウ素源に対して0から10モル%未満の、ホウ素源以外の過塩基化酸を含む混合液の存在下で反応させる工程、そして
(b):上記(a)の反応生成物を、(iv)および(v)の蒸留温度より高い温度に加熱して、(iv)、(v)そして反応により生成する水(但し、水は添加しない)を留去する工程。
【0016】
(炭化水素溶媒)
本発明の方法において用いる炭化水素溶媒は、n-ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘ
キサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびそれらの混合物からなる群より選ぶことができる。炭化水素溶媒は、芳香族溶媒であり、キシレン、ベンゼンおよびトルエンからなる群より選ばれることが好ましい。最も好ましい芳香族溶媒はキシレンである。
【0017】
(低分子量アルコール)
低分子量アルコールは、反応が進行した後、容易に蒸留にて取り除けるように、十分に低い沸点を有していなければならない。低分子量アルコールは、典型的には、約1個から約13個の炭素原子を持ち、そして分子量が約200よりも高くない。ある態様として、低分子量アルコールは、低分子量一価アルコールである。より好ましい態様として、本方法において用いる低分子量一価アルコールは、(C1−C13)アルコール、そしてグリコ
ールのモノエーテルおよびモノエステルからなる群より選ばれる。低分子量アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソオクタノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、イソブチルアルコール、ベンジルアルコール、β−フェニル−エチルアルコール、2−エチルヘキサノール、ドデカノール、トリデカノール、2−メチルシクロヘキサノール、エチレングリコールのモノメチルエーテル、エチレングリコールのモノブチルエーテル、sec−ペンチルアルコールおよびtert−ブチルアルコールであることが好ましい。最も好ましい低分子量一価アルコールは、メタノールである。
【0018】
他の態様として、低分子量アルコールは、多価アルコールである。好ましい態様としては、多価アルコールはエチレングリコールのような二価アルコールである。
【0019】
(油溶性スルホン酸またはアルカリ土類金属スルホン酸塩)
本発明では、油溶性のスルホン酸か、または油溶性アルカリ土類金属スルホン酸塩が、ホウ酸化スルホネートを調製する工程において用いられる。
【0020】
(スルホン酸)
本発明のある態様では、油溶性スルホン酸が、ホウ酸化スルホネートを調製する工程において用いられる。スルホン酸は、スルホン化されたアルキル芳香族化合物、特にアルキルベンゼンおよびアルキルトルエン、例えば、線状のアルキルベンゼンもしくはアルキルトルエン、分岐を有するアルキルベンゼンもしくはアルキルトルエン、またはポリアルケニル基(例えば、ポリイソブテン)を有するベンゼンもしくはトルエンと、硫酸、三酸化硫黄、クロロスルホン酸またはスルファミン酸とから誘導することができる。スルホン酸
の調製法は、当該分野でよく知られている。
【0021】
本発明の別の態様では、油溶性スルホン酸は、ポリアルキレンスルホン酸、特にポリイソブテンスルホン酸である。ポリイソブテンから得られたスルホン酸は、その内容も参照内容として本明細書の記載内容とする米国特許第6410491号明細書の主題であり、そしてポリイソブテンから誘導されたスルホン酸から得られたスルホネートは、その内容も参照内容として本明細書の記載内容とする米国特許第6632781号明細書に開示されている。
【0022】
スルホン酸は、約20個から約24個の炭素原子を有する複数種の重質のアルファ線状オレフィンの混合物によってアルキル化されたベンゼンから得られた第一級モノアルキルベンゼンの混合物のスルホン化によって得られたものであることが好ましい。
【0023】
別の態様では、スルホン酸は、複数種の約20個から約24個の炭素原子を有する重質のアルファ線状オレフィンの混合物によってアルキル化されたトルエンから得られた第一級モノアルキルトルエンの混合物のスルホン化によって得られる。
【0024】
アルキルベンゼンは、芳香族化合物のアルキル化(アルキル化は、ルイス酸の存在下での、少なくとも16個の炭素原子を含む線状オレフィンと芳香族化合物との反応である)により誘導することができる。オレフィンは、約18個の炭素原子から約26個の炭素原子を持つノルマルアルファオレフィンであることが好ましい。アルキル化された芳香族化合物は、その製法が当該分野でよく知られており、これらに限定されるものではないが、米国特許出願公開第2005/0202954号、第2005/0203323号および第2005/0203322号の明細書に開示された製法を包含する多数の製法により誘導することができる。
【0025】
(アルカリ土類金属スルホン酸塩)
本発明の別の態様では、アルカリ土類金属スルホン酸塩が、ホウ酸化スルホネートを製造する工程において用いられる。アルカリ土類金属スルホン酸塩は、アルカリ土類金属源とアルキルベンゼンスルホン酸との反応により誘導することができる。線状アルキルベンゼンを用いる場合、それから生成する合成線状アルキルベンゼンスルホン酸生成物を、アルカリ土類金属源で中和することが好ましい。より好ましい態様では、線状アルキルベンゼンスルホン酸を、これらに限定されるものではないが、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムのようなアルカリ土類金属水酸化物で中和する。
【0026】
本発明の一つの重要な特徴は、アルカリ土類金属スルホン酸が使用された場合、生成するホウ酸化スルホネートが、ホウ素源に対して、0から10モル%未満のホウ素源以外の過塩基化酸を含むような量にて、ホウ素源以外の過塩基性酸を含んでいることである。好ましい態様では、アルカリ土類金属スルホン酸塩は、ホウ素源以外の過塩基化酸を含まない。好ましいアルカリ土類金属スルホン酸塩は、中性アルカリ土類金属スルホン酸塩である。アルカリ土類金属スルホン酸塩は、TBNが約0から約50であることが好ましい。
【0027】
スルホン酸塩は、実質的に、疎水性であり、有機材料から形成されたものである。有機スルホネート化合物は、潤滑油および清浄剤の分野ではよく知られた材料である。有機スルホネート化合物は、平均で約10から約40の炭素原子、好ましくは約12から約36の炭素原子、さらに好ましくは約14から約32の炭素原子を含む。
【0028】
スルホネートは、典型的には、アルキル基が好ましくはノルマルアルファオレフィンから誘導されたアルキル芳香族スルホネートである。芳香族基がベンゼンまたはトルエンであって、アルキル基が約20から約24の炭素原子を持つことがより好ましい。最も好ま
しいスルホネート組成物は、モノスルホン酸化アルキル化ベンゼンである。
【0029】
(アルカリ土類金属)
アルカリ土類金属源は、炭化水素溶媒と低分子量アルコールとを含む混合物の存在下にて、前述の化合物(すなわち、少なくとも一種の油溶性のスルホン酸またはアルカリ土類金属スルホン酸塩もしくはそれらの混合物)と反応する。本発明の反応において用いるアルカリ土類金属は、アルカリ土類金属の水酸化物または酸化物であることが好ましい。最も好ましいアルカリ土類金属源は、水酸化カルシウム(消石灰)である。
【0030】
(ホウ素源)
ホウ素源はまた、炭化水素溶媒と低分子量アルコールとを含む混合物の存在下にて、前述の化合物(すなわち、少なくとも一種の油溶性のスルホン酸またはアルカリ土類金属スルホン酸塩もしくはそれらの混合物、およびアルカリ土類金属源)と反応する。ホウ素源は、ホウ酸、無水ホウ酸、ホウ素エステルおよび同類材料の重合体を包含する。最も好ましいホウ素源は、オルトホウ酸である。
【0031】
(過塩基化酸)
ここで用いる「過塩基化酸」は、スルホン酸に対する金属が化学量論量よりも大きい油溶性金属スルホン酸塩を与えることができる酸を意味する。最も一般的な過塩基化酸は、二酸化炭素であり、他の過塩基化酸は、二酸化硫黄および三酸化硫黄を包含する。上記の酸そのものが過塩基性化工程を部分的に形成するか、あるいはエチレンカーボネートのような過塩基化酸源を、過塩基化酸を導入するために用いてもよい。
【0032】
(方法および希釈油)
ホウ酸化スルホネートが粘性であるならば、粘度を低減させるために、不活性液性媒体を使用できる。不活性液性媒体は、生成物を分散させ、そして成分の混合を容易にする作用もある。好ましい不活性液性媒体は潤滑油である。ジョージ・E.・トッテンによって編集されたFuels and Lubricants Handbook(2003年)の199頁に、潤滑油あるい
は「ベースとなる流体は、鉱物起源、合成化学起源または生物学的起源のものであることができる。鉱物基材油は石油精留から得られる(誘導される)のに対し、合成基材油は石油由来の有機化合物の変性を経て製造される。部分合成(半合成)基材油は、鉱油と合成基材油とが相溶した混合物である。」と記載されている。生物学的起源の基材油は、植物油及び動物油から誘導することができる。
【0033】
不活性液性媒体は、例えば、生成物を押し出すときは、省略することもできる。そのような場合では、機械的な混合が溶媒の必要性を代用する。
【0034】
また、消泡剤および他の処理助剤を加えることもできる。
【0035】
(スルホン酸の中和方法)
本発明の典型的な方法では、炭化水素溶媒は、まず、低分子量アルコールおよびアルカリ土類金属源と予備混合される。一般に、この予備混合は、環境温度付近、すなわち約15−40℃で行われる。次に、スルホン酸が撹拌を伴って添加される。スルホン酸は、典型的には、約20℃から約40℃までの範囲の温度にある期間にわたって添加される。反応熱によって、温度は約20℃から約55℃に上昇する。混合物は、スルホン酸がアルカリ土類金属源によって適切に中和されることを確実にし、中性アルカリ土類金属スルホネートを生成させるために、約5から20分の間、約40℃から約50℃で維持される。アルカリ土類金属スルホン酸塩が、スルホン酸の代わりに使用される場合は、この中和工程は省略される。
【0036】
ホウ酸のようなホウ素源は、約5分から約20分かけて添加され、その間、温度は約30℃から約50℃に維持される。反応は、約30℃から約50℃で、約5分から約15分間維持される。反応混合物は、最終生成物の沈降物を減少させるために約70℃から約80℃の間の温度に維持してもよい。メタノール、水およびキシレンは、その後、当該分野でよく知られている分離方法、例えば蒸留によって除去される。蒸留工程は、典型的には、上記の反応混合物が約125℃から約140℃に加熱されている間に進行する。100N油のような希釈油が典型的には使用され、全ての炭化水素溶媒が蒸留される前に、反応混合物に添加される。未反応の消石灰およびホウ酸は、遠心分離やろ過のような通常の方法によって、除去される。最終生成物は、約10から約250mgKOH/gの全塩基価を有する。
【0037】
ホウ素源以外の過塩基化酸を使用する場合には、アルカリ土類金属スルホン酸塩と共に加えるか、反応の間にその場で加えるか、または反応の後に加えることができる。好ましい態様では、本方法は、ホウ素源以外の過塩基化酸は使用しない。
【0038】
本発明の好ましい態様では、ホウ酸化スルホネートは、ホウ酸化カルシウムスルホネートである。
【0039】
この方法で得られるホウ酸化スルホネートは、ホウ素源に対して、0から10モル%未満の、ホウ素源以外の過塩基化酸を含んでいる。アルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートの製造方法の好ましい態様においては、二酸化炭素および酸化硫黄などのようなホウ素源以外の過塩基化酸を含まない。なお、水は反応の副生物であるが、反応混合物に水は添加しない。
【0040】
本発明の好ましい態様では、アルカリ土類金属源に対する低分子量アルコールの質量比は、少なくも0.2、好ましくは少なくとも0.35、より好ましくは少なくとも0.5である。アルカリ土類金属源に対する低分子量アルコールの質量比は、少なくとも0.65であることが最も好ましい。
【0041】
本発明において使用されるスルホネートのホウ素含有量は、約3.0質量%から約5.0質量%である。スルホネートのホウ素量は、約3.5質量%から約4.5質量%であることがより好ましい。スルホネートのホウ素量は、約3.7質量%から約4.3質量%であることが最も好ましい。
【0042】
ホウ酸化スルホネートの水含有量は、典型的には1質量%未満である。製造工程の間で分離が起こらないならば、保存中に、スルホネート生成物の中に容認できないほど高いレベルの水が存在することによって、ホウ素含有量は減少することがある。スルホネート生成物の水含有量は、1.0質量%未満であることが好ましく、0.50質量%であることがより好ましい。
【0043】
本発明について、以下の実施例により更に説明するが、これらの実施例は特に有利な方法の態様を示すものである。なお、実施例は本発明を説明するために記されるのであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0044】
[実施例A−スルホン酸の調製]
典型的な製法にて、ベンゼンをC20−C24の重質アルファ線状オレフィンにてアルキル化することによって、モノアルキルベンゼンの混合物を製造した。硫黄を燃焼させて製造したSO2を、固定層反応装置中で、V25触媒を用いて、SO3に転換させた。
スルホン酸は、SO3/アルキレートのモル比を0.85/1.00で充填して、モノ
アルキルベンゼンの混合物をSO3でスルホン化させることによって得た。アルキレート
は、55−60℃で、落下膜型スルホン化装置の中で、SO3/空気混合物に接触させた

【0045】
[実施例1]
加熱マントルおよび混合機を備えた1リットルのガラス製反応器に、464gの混合キシレン溶媒を加えた。この反応器に、62gのメタノール、そして52gの消石灰(水酸化カルシウム)を連続して加えた。上記の混合物に、環境温度にて150gのスルホン酸(実施例Aで調製したもの)を加えた。温度は30℃に上昇した。その後、74gのホウ酸を反応器に加えたところ、温度は35℃に上昇した。
【0046】
続いて、反応器を127℃で2時間かけて加熱して、少量のキシレンと共に水とメタノールを除去した。80gのI種基油を、反応器に加えた。反応器中の沈降物は、1.8体積%であった。その後、反応器を170℃、1psiaで加熱して、キシレンを蒸留した。得られた生成物の沈降物量は3.6体積%であった。
【0047】
その後、生成物をろ過した。得られた生成物は、以下の特性を示した。
カルシウム:9.4質量%
ホウ素: 4.1質量%
BN: 173
粘度: 390cST(100℃)
【0048】
[実施例2]
加熱マントルおよび混合機を備えた1リットルのガラス製反応器に、234gの混合キシレン溶媒を加えた。この反応器に、50gの消石灰(水酸化カルシウム)を加えた。上記の混合物に、環境温度にて150gのスルホン酸(実施例Aで調製したもの)を加えた。温度は40℃に上昇した。反応器を18℃に冷却して、974gのホウ酸を加えた。62gのメタノールを反応器に加えた。温度は32℃に上昇した。
【0049】
2時間かけて、反応器を127℃に加熱して、水、メタノールおよび少量のキシレンを除去した。80gのI種基油を反応器に加えた。沈降物量は2.0体積%であった。その後、反応器を170℃、1psiaで加熱して、キシレンを蒸留した。得られた生成物の沈降物量は3.2体積%であった。
【0050】
[実施例3]
加熱マントルおよび混合機を備えた1リットルのガラス製反応器に、406gの混合キシレン溶媒を加えた。この反応器に、50gの消石灰(水酸化カルシウム)を加えた。上記の混合物に、環境温度にて150gのスルホン酸(実施例Aで調製したもの)を加えた。温度は44℃に上昇した。反応器を18℃に冷却して、74gのホウ酸を加えた。62gのメタノールを反応器に加えた結果、温度は32℃に上昇した。2時間かけて、反応器を127℃に加熱して、水、メタノールおよび少量のキシレンを除去した。80gのI種基油を反応器に加えたところ、沈降物量は1.8体積%であった。その後、反応器を170℃、1psiaで加熱して、キシレンを蒸留した。
【0051】
得られた生成物の沈降物量は3.6体積%であった。
【0052】
[実施例4]
加熱マントルおよび混合機を備えた1リットルのガラス製反応器に、300gの混合キシレン溶媒を加えた。この反応器に、50gの消石灰(水酸化カルシウム)を加えた。上記の混合物に、環境温度にて150gのスルホン酸(実施例Aで調製したもの)を加えた
。温度は44℃に上昇した。反応器を18℃に冷却して、74gのホウ酸を加えた。42gのメタノールを反応器に加えた結果、温度は32℃に上昇した。2時間かけて、反応器を127℃に加熱して、水、メタノールおよび少量のキシレンを除去した。80gのI種基油を反応器に加えたところ、沈降物量は1.8体積%であった。その後、反応器を170℃、1psiaで加熱して、キシレンを蒸留した。
【0053】
得られた生成物の沈降物量は3.6体積%であった。
【0054】
[実施例5]
加熱マントルおよび混合機を備えた1リットルのガラス製反応器に、300gの混合キシレン溶媒を加えた。この反応器に、47gの消石灰(水酸化カルシウム)を加えた。上記の混合物に、環境温度にて150gのスルホン酸(実施例Aで調製したもの)を加えた。温度は43℃に上昇した。反応器を18℃に冷却して、74gのホウ酸を加えた。30gのメタノールを反応器に加えた結果、温度は24℃に上昇した。
【0055】
2時間かけて、反応器を127℃に加熱して、水、メタノールおよび少量のキシレンを除去した。80gのI種基油を反応器に加えたところ、沈降物量は2.8体積%であった。その後、反応器を170℃、1psiaで加熱して、キシレンを蒸留した。
【0056】
得られた生成物の沈降物量は4.8体積%であった。
【0057】
[実施例6]
加熱マントルおよび混合機を備えた1リットルのガラス製反応器に、300gの混合キシレン溶媒を加えた。この反応器に、50gの消石灰(水酸化カルシウム)を加えた。上記の混合物に、環境温度にて150gのスルホン酸(実施例Aで調製したもの)を加えた。温度は43℃に上昇した。反応器を18℃に冷却して、74gのホウ酸を加えた。20gのメタノールを反応器に加えた結果、温度は29℃に上昇した。
【0058】
2時間かけて、反応器を127℃に加熱して、水、メタノールおよび少量のキシレンを除去した。80gのI種基油を反応器に加えたところ、沈降物量は10.4体積%であった。得られた生成物の沈降物量は、多すぎて測定不可能だった。
【0059】
[比較例1]
比較例は、特許文献1の方法に従って行なった。加熱マントルおよび混合機を備えた1リットルのガラス製反応器に、234gの混合キシレン溶媒を加えた。同一の反応器に、50gの消石灰(水酸化カルシウム)を加えた。同一の反応器に、150gのスルホン酸(実施例Aで調製したもの)を加えた。
【0060】
74gのホウ酸を18℃で加えた。次いで、15gの水を加えた。その後、反応器を60℃に加熱し、別に15gの水を加え、反応器を79℃で1時間保持した。そのときの沈降物は40体積%であった。反応器を127℃で100分間かけて加熱した。反応終了時の沈降物量は48%であった。この沈降物量は、この反応で取り込まれたとしても、消石灰の取り込みはわずかであることを示している。
【0061】
表1
────────────────────────────────────────
実施例 メタノール/消石灰 127℃での沈降物量 最終沈降物量
(質量%比) (体積%) (体積%)
────────────────────────────────────────
1 1.24 1.8 3.6
2 1.24 2.0 3.2
3 1.24 0.8 3.6
4 0.83 1.8 3.6
5 0.62 2.8 4.8
6 0.41 10.4 −
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比較例1 0 40 48
────────────────────────────────────────
【0062】
この比較により、ホウ酸化スルホネートの製造プロセスにおいて、水の添加が、プロセスを不利にさせるような沈降物の増加を引き起こすことを示している。さらに、反応混合物に添加するときの閾値量の低分子量アルコールが、最終生成物の沈降物量の減少をもたらすと考えられる。
【0063】
本発明の真意および範囲から逸脱することなく本発明の変更や変形を行なうことが可能であるが、添付した特許請求の範囲に示したような制限しか課されないことを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程からなるアルカリ土類金属ホウ酸化スルホネートを製造する方法:
(a):(i)少なくとも一種の油溶性スルホン酸もしくはアルカリ土類金属スルホン酸塩またはこれらの混合物;(ii)少なくとも一種のアルカリ土類金属源;および(iii)少なくとも一種のホウ素源を、(iv)少なくとも一種の炭化水素溶媒;(v)少なくとも一種の低分子量アルコール;および(vi)ホウ素源に対して0から10モル%未満の、ホウ素源以外の過塩基化酸を含む混合液の存在下で反応させる工程、そして
(b):上記(a)の反応生成物を、(iv)および(v)の蒸留温度より高い温度に加熱して、(iv)、(v)そして反応により生成する水(但し、水は添加しない)を留去する工程。
【請求項2】
油溶性スルホン酸が芳香族スルホン酸である請求項1に従う方法。
【請求項3】
芳香族スルホン酸が線状アルキルベンゼンスルホン酸である請求項2に従う方法。
【請求項4】
線状アルキルベンゼンスルホン酸が、芳香族化合物のアルキル化により誘導されたアルキレートのスルホン化により誘導された化合物であり、アルキル基がC16以上の炭素原子を有している請求項3に従う方法。
【請求項5】
低分子量アルコールが一価アルコールである請求項1に従う方法。
【請求項6】
低分子量一価アルコールがメタノールである請求項5に従う方法。
【請求項7】
炭化水素溶媒がキシレンである請求項1に従う方法。
【請求項8】
アルカリ土類金属源が水酸化カルシウムである請求項1に従う方法。
【請求項9】
ホウ素源がホウ酸である請求項1に従う方法。
【請求項10】
低分子量アルコールとアルカリ土類金属源との質量比が少なくとも0.2:1である請求項1に従う方法。
【請求項11】
ホウ素源以外の過塩基化酸を使用しない請求項1に従う方法。
【請求項12】
請求項1に従う方法によって得られた生成物。

【公開番号】特開2013−82948(P2013−82948A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−24695(P2013−24695)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2006−322482(P2006−322482)の分割
【原出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】