アルカリ土類金属炭酸塩の製造方法、チタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウム
【課題】熱による粒子成長を抑制した炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法、均一で微細なチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを提供する。
【解決手段】炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩の表面を水酸化チタン等のチタン化合物によって処理することによって、熱による粒子成長が抑制されたアルカリ土類金属炭酸塩を製造する。
【解決手段】炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩の表面を水酸化チタン等のチタン化合物によって処理することによって、熱による粒子成長が抑制されたアルカリ土類金属炭酸塩を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法、更にその方法によって得られる炭酸バリウムおよび炭酸ストロンチウムを原料として製造されるチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムに関し、更に詳しくは、熱による粒子成長を抑制したアルカリ土類金属炭酸塩を製造する方法、並びに、その方法によって得られる炭酸バリウムおよび炭酸ストロンチウムを原料として製造されるチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ土類金属炭酸塩、特に、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムは、誘電体の原料などとして有用であり、例えば、炭酸バリウムは、セラミック磁器コンデンサの誘電体層に使用されるチタン酸バリウム(BaTiO3)の出発原料として広く利用されている。
【0003】
チタン酸バリウムは、一般に固相合成法によって製造され、この固相合成法では、炭酸バリウム(BaCO3)粉末と酸化チタン(TiO2)粉末とを湿式で混合し、乾燥後、混合粉末を900〜1200℃程度の温度で焼成するものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−222522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子部品の小型化・高性能化に伴ってコンデンサについても小型化が要望されており、コンデンサの誘電体層の薄層化が求められている。この薄層化を実現するためには、誘電体材料であるチタン酸バリウムおよびその原料である酸化チタンと炭酸バリウムの両原料をいかに微粒子化させるかが重要である。
【0006】
上記固相合成法における炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との混合粉末の焼成では、炭酸バリウムが、その昇温過程で粒子成長することが知られており、その昇温過程での炭酸バリウムの粒子成長により、微細な酸化チタンとの混合の均一さが低下し、また炭酸バリウムと酸化チタンの接触点の数が減ってしまうため、生成するチタン酸バリウム粉末の粒子径等の特性にバラツキが生じてしまい、微細な原料の特性が生かしきれないという不具合が発生する。
【0007】
したがって、均一で微細なチタン酸バリウムを得るためには、炭酸バリウムの熱による粒子成長を抑制する必要がある。
【0008】
かかる課題は、炭酸バリウムに限らず、炭酸ストロンチウムでも同様である。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑みて為されたものであって、熱による粒子成長を抑制したアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法、均一で微細なチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本件発明者らは鋭意研究を重ねた結果、チタン化合物によって、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩の表面を処理することによって、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の熱による粒子成長を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法は、アルカリ土類金属炭酸塩の表面をチタン化合物によって処理するものである。
【0012】
前記アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸バリウムまたは炭酸ストロンチウムが好ましく、チタン化合物としては、水酸化チタンが好ましいが、含水酸化チタン、酸化チタンなどであってもよい。
【0013】
前記チタン化合物による処理は、例えば水酸化チタンを前記アルカリ土類金属炭酸塩の表面に吸着させる処理であるのが好ましい。
【0014】
チタン化合物である前記水酸化チタンは、四塩化チタン水溶液をアンモニア等の塩基性物質で中和して生成するのが好ましい。
【0015】
本発明の他の実施態様では、前記アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程を含むものである。
【0016】
本発明の更に他の実施態様では、前記添加する工程で前記四塩化チタン水溶液および前記アルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程を更に含むものである。
【0017】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法では、水酸化チタン等のチタン化合物で表面処理することによって、詳細な機構は不明であるが、アルカリ土類金属炭酸塩の粒子表面に吸着したチタン化合物によって、アルカリ土類金属炭酸塩粒子同士の接触が阻害され、熱によるアルカリ土類金属炭酸塩粒子の粒子成長を抑制することができる。
【0018】
本発明のチタン酸バリウムは、上記本発明の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が、炭酸バリウムである。
【0019】
出発原料である本発明の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩は、粉末であるのが好ましいが、スラリーの状態であってもよい。
【0020】
チタン酸バリウムを製造する方法は、本発明の製造方法によって製造される炭酸バリウムを出発原料とするものであれば、特に限定されず、公知の製造方法を適用することができる。
【0021】
また、本発明のチタン酸ストロンチウムは、上記本発明の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が、炭酸ストロンチウムである。
【0022】
このチタン酸ストロンチウムを製造する方法も、本発明の製造方法によって製造される炭酸ストロンチウムを出発原料とするものであれば、特に限定されず、公知の製造方法を適用することができる。
【0023】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法によれば、熱による粒子成長を抑制した炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を得ることができる。
【0024】
したがって、本発明の製造方法によって得られる炭酸バリウムを出発原料として製造される本発明のチタン酸バリウムは、その製造の際の昇温過程において、炭酸バリウム粒子の熱による粒子成長が抑制される結果、炭酸バリウム粒子を、微細な酸化チタンと微細な粒子のまま均一に混合された状態で反応させることができ、生成するチタン酸バリウムの粒子径等の特性のバラツキを低減して均一で微細なチタン酸バリウムを得ることができる。
【0025】
また、本発明の製造方法によって得られる炭酸ストロンチウムを出発原料として製造される本発明のチタン酸ストロンチウムは、その製造の際の昇温過程において、炭酸ストロンチウム粒子の熱による粒子成長が抑制される結果、炭酸ストロンチウム粒子を、微細な酸化チタンと微細な粒子のまま均一に混合された状態で反応させることができ、生成するチタン酸ストロンチウムの粒子径等の特性のバラツキを低減して均一で微細なチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩の表面を水酸化チタン等のチタン化合物で処理することによって、熱による粒子成長を抑制したアルカリ土類金属炭酸塩を得ることができる。
【0027】
また、かかるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料としてチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを製造するので、均一で微細な粒子径のチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図2】実施例2の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図3】比較例1の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図4】図3よりも低倍率の図3(c)に対応するSEM写真である。
【図5】反応装置の構成を示す概略図である。
【図6】実施例3の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図7】実施例4の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図8】比較例2の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図9】実施例5の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図10】比較例3の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図11】実施例6の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図12】実施例7の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図13】比較例4の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図14】実施例8の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図15】比較例5の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図16】実施例9の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図17】実施例10の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図18】比較例6の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法について詳細に説明する。
【0030】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法は、アルカリ土類金属炭酸塩の表面をチタン化合物によって処理するものである。
【0031】
アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムが好ましい。
【0032】
チタン化合物によって表面が処理されるアルカリ土類金属炭酸塩の粒子径、例えば、炭酸バリウムの粒子径は、電子顕微鏡写真による粒子径が10nm〜2000nm程度であるのが好ましく、50nm〜1000nmであるのがより好ましい。炭酸ストロンチウムの粒子径は、10nm〜2000nm程度であるのが好ましく、50nm〜1000nmであるのがより好ましい。炭酸バリウム及び炭酸ストロンチウムは製法によっては粒子形状が針状になることが知られているが、その場合の上記粒子径としては長径が該当する。
【0033】
チタン化合物としては、水酸化チタンが好ましいが、含水酸化チタンや酸化チタンなどであってもよい。
【0034】
炭酸バリウムおよび炭酸ストロンチウムは、従来公知の方法によって製造すればよく、特にその製造方法は限定されない。
【0035】
チタン化合物によるアルカリ土類金属炭酸塩の表面の処理は、アルカリ土類金属炭酸塩の表面に水酸化チタンを吸着させるのが好ましい。
【0036】
この水酸化チタンの吸着量は、0.3wt%〜20wt%であるのが好ましく、0.7wt%〜15wt%であるのがより好ましい。水酸化チタンの吸着量が、前記0.3wt%未満では、熱による粒子成長を抑制する効果が得られず、逆に前記20wt%を超えると、炭酸バリウムに含まれる酸化チタンの割合が増え、最終的に得られるチタン酸バリウムの特性への影響が大きくなる。
【0037】
水酸化チタンは、水溶性チタン化合物と塩基性物質との反応によって生成するのが好ましく、例えば、四塩化チタン水溶液をアンモニア水等で中和して生成するのが好ましい。
【0038】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法は、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程を含むのが好ましく、更に、前記添加する工程で前記四塩化チタン水溶液および前記アルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程を含むのが好ましい。
【0039】
前記添加する工程で四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーを、例えば、固相法チタン酸バリウムの炭酸バリウム原料としてそのまま用いることも可能である。
【0040】
アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン溶液およびアルカリ溶液を添加する際の順序については特に限定されないが、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーにアンモニア水を加えて、この混合液に四塩化チタン溶液を加え、pHが6〜11になるように、より好ましくはpH8〜9になるようにする。あるいは、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、pH6〜10を保ちながら四塩化チタン水溶液とアルカリ溶液を同時に加える、より好ましくはpH7〜9を保ちながら四塩化チタン水溶液とアルカリ溶液を同時に加える。
【0041】
本発明では、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリー中のアルカリ土類金属炭酸塩の濃度に関係なくアルカリ土類金属炭酸塩を処理できるが、スラリーの粘度や生産性、作業性を考慮した場合には、スラリー中のアルカリ土類金属炭酸塩の濃度は、10g/L〜400g/Lであるのが好ましく、50g/L〜200g/Lであるのがより好ましい。
【0042】
前記スラリーに添加する前記四塩化チタン水溶液は、チタン濃度として5g/L〜200g/Lであるのが好ましく、15g/L〜30g/Lであるのがより好ましい。前記スラリーに添加するアルカリ溶液として、例えば、アンモニア水溶液を用いる場合の濃度は、1wt%〜30wt%であるのが好ましく、5wt%〜25wt%であるのがより好ましい。
【0043】
前記スラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加して、アルカリ土類金属炭酸塩の表面を処理する際の処理温度は、5℃〜100℃であるのが好ましく、10℃〜40℃であるのがより好ましい。
【0044】
前記スラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程の後に、前記両溶液が添加されたスラリーを熟成する工程を設けるのが好ましく、この熟成する工程では、前記両溶液が添加されたスラリーを攪拌するのが好ましい。
【0045】
熟成は、5℃〜100℃程度の温度で、5分〜1時間程度行うのが好ましく、10℃〜40℃の温度で、10分〜30分程度行うのがより好ましい。
【0046】
四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程では、吸引ろ過器、加圧ろ過器、遠心分離機等を用いて分離するのが好ましい。
【0047】
本発明のチタン酸バリウムは、本発明の製造方法によって製造される炭酸バリウムを出発原料として製造されるものであり、その製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0048】
本発明のチタン酸ストロンチウムは、本発明の製造方法によって製造される炭酸ストロンチウムを出発原料として製造されるものであり、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0049】
次に、本発明の実施例を、比較例と併せて説明する。但し、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0050】
また、以下の説明では、炭酸バリウムについては、チタン化合物である水酸化チタンで処理する前の炭酸バリウムの製法や商品毎に、実施例及び比較例を対応させている。
【実施例】
【0051】
[第1の製法による炭酸バリウムについて]
(実施例1)
実施例1では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムを次のようにして製造した。
【0052】
すなわち、塩化バリウム・2水和物を純水に溶かし、400g/Lの濃度に調整した。この時の液温を60℃に調整し、この塩化バリウム水溶液を原料Aとする。次に、アンモニア水に炭酸ガスを吸収させ、CO2濃度として44g/Lの炭酸アンモニウム溶液を調整した。この時の液温を30℃に調整し、この炭酸アンモニウム溶液を原料Bとする。
【0053】
5Lのガラスビーカーに原料Bを2L入れ、テフロン(登録商標)製の75mmの2枚羽根の攪拌棒を取り付けた攪拌機で、300rpmの回転数で攪拌した。そこへ、850mlの原料Aを、53ml/分の流量で滴下し、炭酸バリウムのスラリーを得た。
【0054】
このスラリーに分散している炭酸バリウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0055】
すなわち、得られた炭酸バリウムのスラリーに、濃度25wt%のアンモニア水を2ml添加した後、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4(四塩化チタン)水溶液を、3ml/minの添加速度で88ml添加した。添加後のスラリーのpHは8.6であった。添加終了後、1時間そのままの状態で攪拌し熟成した。熟成後のスラリーは、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、その後続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0056】
(実施例2)
実施例1において、アンモニア水の添加量を1ml、TiCl4の添加量を44mlとした以外は、すべて同じ操作を行って、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0057】
(比較例1)
実施例1において、アンモニア水およびTiCl4を添加せずに、それ以外は、すべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0058】
これら実施例1,2及び比較例1の熱安定確認試験を次のようにして行った。
すなわち、各サンプルをアルミナるつぼに約5g入れ、各設定温度に予め熱した電気炉に入れ、そのまま30分強熱する。30分後取出して放冷し、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子の大きさ及び形状を確認した。強熱温度は、500℃及び800℃とした。
【0059】
また、実施例1,2の炭酸バリウムの表面に吸着されている水酸化チタンの吸着量を四塩化チタンの添加量から計算した。
【0060】
実施例1,2の水酸化チタンの吸着量は、水酸化チタンが吸着していない比較例1に対して、それぞれ1.5wt%、0.7wt%であった。
【0061】
図1〜図3に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例1,2及び比較例1のSEM写真をそれぞれ示す。また、800℃で30分強熱した比較例1のSEM写真では、成長した粒子が大きいために、倍率10,000以外に、倍率1,000倍の低倍率のSEM写真を、図4に示す。
【0062】
800℃で30分強熱した実施例1,2の粒子をそれぞれ示す図1(c),図2(c)に比べて、同じ倍率の比較例1の粒子を示す図3(c)では、粒子径が大きすぎて、画面に入りきらない大きな粒子の表面に小さな粒子が付着している状態が示されている。図3(c)の倍率を、1/10にした図4に示されるように、比較例1では、倍率を1/10にしても、実施例1,2に比べて大きな粒子となっていることが分る。
【0063】
すなわち、実施例1,2は、比較例1に比べて熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0064】
[第2の製法による炭酸バリウムについて]
(実施例3)
実施例3では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムを次のようにして製造した。
【0065】
すなわち、水酸化バリウム・8水和物を純水に溶かし、濃度75g/Lの水酸化バリウム水溶液を50L調整した。この時の液温を40℃に調整し、この水酸化バリウム水溶液を原料Cとする。
【0066】
この原料Cを、図5に示した反応装置1を用いて炭酸ガスと混合し、炭酸バリウムを合成した。図5において、P1,P2,P3は第1段,第2段,第3段の各ポンプであり、各段のポンプP1〜P2の構成は、次の通りである。
【0067】
(a)第1段のポンプP1:渦巻ポンプ(ラサ商事株式会社製)、吸入口径1.5インチ、吐出口径1インチ、吐出量170L/分、インペラ回転数2080rpm
(b)第2段のポンプP2:渦巻ポンプ(ラサ商事株式会社製)、吸入口径1インチ、吐出口径3/4インチ、吐出量30L/分、インペラ回転数1420rpm
(c)第3段のポンプP3:渦巻ポンプ(太平洋金属株式会社製)、吸入口径1インチ、吐出口径3/4インチ、吐出量30L/分、インペラ回転数1420rpm
炭酸バリウムの具体的な合成方法は、原料Cと炭酸ガスを、二重管を用いて第1段のポンプP1に送り込む。この時の原料Cの流速は、12L/minで、炭酸ガスの流速300L/minである。反応と同時に、25g/Lに濃度調整したクエン酸溶液を、1.2L/minの流速で図5中のクエン酸投入箇所から二重管を用いて連続的に第3段のポンプP3に添加し、炭酸バリウムのスラリーを得た。
【0068】
次に、このスラリーに分散している炭酸バリウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0069】
すなわち、図5のスラリー受け2の炭酸バリウムのスラリー22Lに、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液324mlを30分かけて添加した。TiCl4添加と同時に濃度25wt%のアンモニア水をスラリーに添加し、スラリーのpHが、8.5±0.2になるように調整した。添加中は、ステンレス製の10mmφの6枚羽の攪拌羽を取り付けた攪拌機を用いて、300rpmの攪拌速度で攪拌を続けた。添加終了後30分間そのままの状態で攪拌を続け、熟成を行った。熟成後スラリーを、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕してサンプルとした。
【0070】
(実施例4)
実施例3において、TiCl4の添加量を810mlとした以外は、すべて同じ操作を行って水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、サンプルを得た。
【0071】
(比較例2)
実施例3において、アンモニア水及びTiCl4を添加せずに、それ以外は、すべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0072】
これら実施例3,4及び比較例2について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0073】
また、上述の実施例1,2と同様にして算出した実施例3,4の水酸化チタンの吸着量は、それぞれ1.4wt%、3.6wt%であった。
【0074】
図6〜図8に、熱安定試験による倍率10,000倍の実施例3,4及び比較例2のSEM写真をそれぞれ示す。
【0075】
800℃で30分強熱した実施例3,4の粒子をそれぞれ示す図6(b),図7(b)では、同じく800℃で30分強熱した比較例2の粒子を示す図8(b)に比べて、明らかに粒子サイズが小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0076】
[第3の製法による炭酸バリウムについて]
(実施例5)
実施例5では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムを次のようにして製造した。
【0077】
すなわち、50wt%のグルコン酸溶液3.7kgと水酸化バリウム8水塩6kgと純水を混ぜ、50Lの水酸化バリウム水溶液を調整する。この時の水溶液の温度を40℃に調整し、この水酸化バリウム水溶液を原料Dとする。この原料Dと炭酸ガスとを、二重管を用いて図5の反応装置1の第1段のポンプP1に送り込む。この時の原料Dの流速は、12L/minで、炭酸ガスの流速は300L/minである。反応と同時に12.5g/Lに濃度調整したクエン酸溶液を1.2L/minの速度で図中のクエン酸投入箇所から二重管を用いて連続的に第3段のポンプP3に添加し、炭酸バリウムのスラリーを得た。
【0078】
この炭酸バリウムのスラリーを、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗したケーキを、純水にリパルプし、炭酸バリウムの固形分として、67.5g/Lのスラリーを22L調整した。
【0079】
次に、このスラリーの炭酸バリウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0080】
すなわち、このスラリーに、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液324mlを30分かけて添加した。TiCl4添加と同時に濃度25wt%のアンモニア水をスラリーに添加し、スラリーのpHが、8.5±0.2になるように調整した。添加中は、ステンレス製の10mmφ6枚羽根の攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、300rpmの攪拌速度で攪拌を続けた。添加終了後30分間そのままの状態で攪拌を続け、熟成を行った。
【0081】
熟成後スラリーを、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0082】
(比較例3)
実施例5において、アンモニア水及びTiCl4を添加せずに、それ以外はすべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0083】
これら実施例5及び比較例3について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、550℃及び800℃とした。
【0084】
また、実施例5の水酸化チタンの吸着量は、1.0wt%であった。
【0085】
図9,図10に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例5及び比較例3のSEM写真をそれぞれ示す。
【0086】
800℃で30分強熱した実施例5の粒子を示す図9(c)では、同じく800℃で30分強熱した比較例3の粒子を示す図10(c)に比べて、明らかに粒子サイズが小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0087】
[炭酸バリウム BW−KHR(商品名)について]
(実施例6)
実施例6では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムとして、堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KHRを用いた。
【0088】
この炭酸バリウムBW−KHRの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0089】
すなわち、炭酸バリウムBW−KHRを純水と混合し、75mmのテフロン(登録商標)製攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、回転数300rpmで攪拌して濃度10g/リットルのスラリーを5L調整した。そのスラリーにTi濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液12.8mlを30分かけて添加した。TiCl4水溶液を添加している間のスラリーpHが、8.5±0.2になるように、濃度25wt%のアンモニア水を連続的に添加した。
【0090】
TiCl4添加終了後30分そのままの状態で攪拌した。反応は、すべて室温で行った。5分後、スラリーをヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0091】
(実施例7)
実施例6において、炭酸バリウムスラリー添加する濃度18.8g/LのTiCl4水溶液の添加量を25.6mlに増やした以外は、全て同じ操作を行って、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0092】
(比較例4)
水酸化チタンによる表面の処理がされていない比較サンプルとして、堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KHRを比較例4とした。
【0093】
これら実施例6、実施例7及び比較例4について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0094】
また、実施例6、実施例7の水酸化チタンの吸着量は、それぞれ1.2wt%、2.3wt%であった。
【0095】
図11,図12、図13に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例6、実施例7及び比較例4のSEM写真をそれぞれ示す。
【0096】
800℃で30分強熱した実施例6,7の粒子をそれぞれ示す図11(b),図12(b)では、同じく800℃で30分強熱した比較例4の粒子を示す図13(b)に比べて、粒子サイズが小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0097】
[炭酸バリウム BW−KH30(商品名)について]
(実施例8)
実施例6において、使用する炭酸バリウムを堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KH30に変えた以外は、全て同じ操作を行って、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0098】
(比較例5)
水酸化チタンによる表面の処理がされていない比較サンプルとして、堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KH30を比較例5とした。
【0099】
これら実施例8及び比較例5について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0100】
実施例8の水酸化チタンの吸着量は、1.2wt%であった。
【0101】
図14,図15に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例8及び比較例5のSEM写真をそれぞれ示す。
【0102】
800℃で30分強熱した実施例8の粒子を示す図14(b)では、同じく800℃で30分強熱した比較例5の粒子を示す図15(b)に比べて、粒子サイズが明らかに小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0103】
[炭酸ストロンチウムについて]
(実施例9)
実施例9では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸ストロンチウムを次のようにして製造した。
【0104】
すなわち、塩化ストロンチウム(SrCl2・1H2O)を純水に溶かし、200g/Lの濃度に調整した。この時の液温を、60℃に調整し、この塩化ストロンチウム水溶液を原料Eとする。次にアンモニア水に炭酸ガスを吸収させ、CO2濃度として44g/Lの炭酸アンモニウム溶液を調整した。この時の液温を、30℃に調整し、この炭酸アンモニウム溶液を原料Fとする。
【0105】
5Lのステンレス製タンクに原料Fを2L入れ、75mmのテフロン(登録商標)製の2枚羽根の攪拌羽根を取り付けた攪拌機で、300rpmの回転数で攪拌した。そこへ、1Lの原料Eを188ml/分の流量で滴下させ、炭酸ストロンチウムのスラリーを得た。
【0106】
このスラリーに分散している炭酸ストロンチウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0107】
すなわち、得られた炭酸ストロンチウムのスラリーに、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液72mlを一定の流速で30分かけて添加した。TiCl4添加と同時に濃度25wt%のアンモニア水をスラリーに添加し、スラリーのpHが、8.5±0.2になるように調整した。TiCl4添加終了後30分間そのままの状態で攪拌し熟成した。
【0108】
熟成後、スラリーをヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸ストロンチウムを得た。乾燥した炭酸ストロンチウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0109】
(実施例10)
実施例9において、TiCl4の添加量を180mlとした以外は、すべて同じ操作を行って酸化チタンによって表面が処理された炭酸ストロンチウムを製造し、サンプルを得た。
【0110】
(比較例6)
実施例9において、TiCl4及びアンモニア水を添加せず、それ以外は、すべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸ストロンチウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0111】
これら実施例9,10及び比較例6について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0112】
また、実施例9,10の水酸化チタンの吸着量は、それぞれ2.0wt%、4.9wt%であった。
【0113】
図16〜図18に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例9,10及び比較例6のSEM写真をそれぞれ示す。
【0114】
上述の各実施例では、水酸化チタンによって、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩の表面を処理したけれども、水酸化ジルコニウムによって表面の処理を行なうようにしてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1 反応装置
2 スラリー受け
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法、更にその方法によって得られる炭酸バリウムおよび炭酸ストロンチウムを原料として製造されるチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムに関し、更に詳しくは、熱による粒子成長を抑制したアルカリ土類金属炭酸塩を製造する方法、並びに、その方法によって得られる炭酸バリウムおよび炭酸ストロンチウムを原料として製造されるチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ土類金属炭酸塩、特に、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムは、誘電体の原料などとして有用であり、例えば、炭酸バリウムは、セラミック磁器コンデンサの誘電体層に使用されるチタン酸バリウム(BaTiO3)の出発原料として広く利用されている。
【0003】
チタン酸バリウムは、一般に固相合成法によって製造され、この固相合成法では、炭酸バリウム(BaCO3)粉末と酸化チタン(TiO2)粉末とを湿式で混合し、乾燥後、混合粉末を900〜1200℃程度の温度で焼成するものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−222522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子部品の小型化・高性能化に伴ってコンデンサについても小型化が要望されており、コンデンサの誘電体層の薄層化が求められている。この薄層化を実現するためには、誘電体材料であるチタン酸バリウムおよびその原料である酸化チタンと炭酸バリウムの両原料をいかに微粒子化させるかが重要である。
【0006】
上記固相合成法における炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との混合粉末の焼成では、炭酸バリウムが、その昇温過程で粒子成長することが知られており、その昇温過程での炭酸バリウムの粒子成長により、微細な酸化チタンとの混合の均一さが低下し、また炭酸バリウムと酸化チタンの接触点の数が減ってしまうため、生成するチタン酸バリウム粉末の粒子径等の特性にバラツキが生じてしまい、微細な原料の特性が生かしきれないという不具合が発生する。
【0007】
したがって、均一で微細なチタン酸バリウムを得るためには、炭酸バリウムの熱による粒子成長を抑制する必要がある。
【0008】
かかる課題は、炭酸バリウムに限らず、炭酸ストロンチウムでも同様である。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑みて為されたものであって、熱による粒子成長を抑制したアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法、均一で微細なチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本件発明者らは鋭意研究を重ねた結果、チタン化合物によって、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩の表面を処理することによって、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の熱による粒子成長を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法は、アルカリ土類金属炭酸塩の表面をチタン化合物によって処理するものである。
【0012】
前記アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸バリウムまたは炭酸ストロンチウムが好ましく、チタン化合物としては、水酸化チタンが好ましいが、含水酸化チタン、酸化チタンなどであってもよい。
【0013】
前記チタン化合物による処理は、例えば水酸化チタンを前記アルカリ土類金属炭酸塩の表面に吸着させる処理であるのが好ましい。
【0014】
チタン化合物である前記水酸化チタンは、四塩化チタン水溶液をアンモニア等の塩基性物質で中和して生成するのが好ましい。
【0015】
本発明の他の実施態様では、前記アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程を含むものである。
【0016】
本発明の更に他の実施態様では、前記添加する工程で前記四塩化チタン水溶液および前記アルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程を更に含むものである。
【0017】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法では、水酸化チタン等のチタン化合物で表面処理することによって、詳細な機構は不明であるが、アルカリ土類金属炭酸塩の粒子表面に吸着したチタン化合物によって、アルカリ土類金属炭酸塩粒子同士の接触が阻害され、熱によるアルカリ土類金属炭酸塩粒子の粒子成長を抑制することができる。
【0018】
本発明のチタン酸バリウムは、上記本発明の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が、炭酸バリウムである。
【0019】
出発原料である本発明の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩は、粉末であるのが好ましいが、スラリーの状態であってもよい。
【0020】
チタン酸バリウムを製造する方法は、本発明の製造方法によって製造される炭酸バリウムを出発原料とするものであれば、特に限定されず、公知の製造方法を適用することができる。
【0021】
また、本発明のチタン酸ストロンチウムは、上記本発明の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が、炭酸ストロンチウムである。
【0022】
このチタン酸ストロンチウムを製造する方法も、本発明の製造方法によって製造される炭酸ストロンチウムを出発原料とするものであれば、特に限定されず、公知の製造方法を適用することができる。
【0023】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法によれば、熱による粒子成長を抑制した炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩を得ることができる。
【0024】
したがって、本発明の製造方法によって得られる炭酸バリウムを出発原料として製造される本発明のチタン酸バリウムは、その製造の際の昇温過程において、炭酸バリウム粒子の熱による粒子成長が抑制される結果、炭酸バリウム粒子を、微細な酸化チタンと微細な粒子のまま均一に混合された状態で反応させることができ、生成するチタン酸バリウムの粒子径等の特性のバラツキを低減して均一で微細なチタン酸バリウムを得ることができる。
【0025】
また、本発明の製造方法によって得られる炭酸ストロンチウムを出発原料として製造される本発明のチタン酸ストロンチウムは、その製造の際の昇温過程において、炭酸ストロンチウム粒子の熱による粒子成長が抑制される結果、炭酸ストロンチウム粒子を、微細な酸化チタンと微細な粒子のまま均一に混合された状態で反応させることができ、生成するチタン酸ストロンチウムの粒子径等の特性のバラツキを低減して均一で微細なチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩の表面を水酸化チタン等のチタン化合物で処理することによって、熱による粒子成長を抑制したアルカリ土類金属炭酸塩を得ることができる。
【0027】
また、かかるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料としてチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを製造するので、均一で微細な粒子径のチタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図2】実施例2の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図3】比較例1の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図4】図3よりも低倍率の図3(c)に対応するSEM写真である。
【図5】反応装置の構成を示す概略図である。
【図6】実施例3の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図7】実施例4の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図8】比較例2の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図9】実施例5の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図10】比較例3の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図11】実施例6の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図12】実施例7の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図13】比較例4の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図14】実施例8の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図15】比較例5の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図16】実施例9の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図17】実施例10の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【図18】比較例6の粒子の大きさ及び形状を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法について詳細に説明する。
【0030】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法は、アルカリ土類金属炭酸塩の表面をチタン化合物によって処理するものである。
【0031】
アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムが好ましい。
【0032】
チタン化合物によって表面が処理されるアルカリ土類金属炭酸塩の粒子径、例えば、炭酸バリウムの粒子径は、電子顕微鏡写真による粒子径が10nm〜2000nm程度であるのが好ましく、50nm〜1000nmであるのがより好ましい。炭酸ストロンチウムの粒子径は、10nm〜2000nm程度であるのが好ましく、50nm〜1000nmであるのがより好ましい。炭酸バリウム及び炭酸ストロンチウムは製法によっては粒子形状が針状になることが知られているが、その場合の上記粒子径としては長径が該当する。
【0033】
チタン化合物としては、水酸化チタンが好ましいが、含水酸化チタンや酸化チタンなどであってもよい。
【0034】
炭酸バリウムおよび炭酸ストロンチウムは、従来公知の方法によって製造すればよく、特にその製造方法は限定されない。
【0035】
チタン化合物によるアルカリ土類金属炭酸塩の表面の処理は、アルカリ土類金属炭酸塩の表面に水酸化チタンを吸着させるのが好ましい。
【0036】
この水酸化チタンの吸着量は、0.3wt%〜20wt%であるのが好ましく、0.7wt%〜15wt%であるのがより好ましい。水酸化チタンの吸着量が、前記0.3wt%未満では、熱による粒子成長を抑制する効果が得られず、逆に前記20wt%を超えると、炭酸バリウムに含まれる酸化チタンの割合が増え、最終的に得られるチタン酸バリウムの特性への影響が大きくなる。
【0037】
水酸化チタンは、水溶性チタン化合物と塩基性物質との反応によって生成するのが好ましく、例えば、四塩化チタン水溶液をアンモニア水等で中和して生成するのが好ましい。
【0038】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法は、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程を含むのが好ましく、更に、前記添加する工程で前記四塩化チタン水溶液および前記アルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程を含むのが好ましい。
【0039】
前記添加する工程で四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーを、例えば、固相法チタン酸バリウムの炭酸バリウム原料としてそのまま用いることも可能である。
【0040】
アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン溶液およびアルカリ溶液を添加する際の順序については特に限定されないが、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーにアンモニア水を加えて、この混合液に四塩化チタン溶液を加え、pHが6〜11になるように、より好ましくはpH8〜9になるようにする。あるいは、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、pH6〜10を保ちながら四塩化チタン水溶液とアルカリ溶液を同時に加える、より好ましくはpH7〜9を保ちながら四塩化チタン水溶液とアルカリ溶液を同時に加える。
【0041】
本発明では、アルカリ土類金属炭酸塩のスラリー中のアルカリ土類金属炭酸塩の濃度に関係なくアルカリ土類金属炭酸塩を処理できるが、スラリーの粘度や生産性、作業性を考慮した場合には、スラリー中のアルカリ土類金属炭酸塩の濃度は、10g/L〜400g/Lであるのが好ましく、50g/L〜200g/Lであるのがより好ましい。
【0042】
前記スラリーに添加する前記四塩化チタン水溶液は、チタン濃度として5g/L〜200g/Lであるのが好ましく、15g/L〜30g/Lであるのがより好ましい。前記スラリーに添加するアルカリ溶液として、例えば、アンモニア水溶液を用いる場合の濃度は、1wt%〜30wt%であるのが好ましく、5wt%〜25wt%であるのがより好ましい。
【0043】
前記スラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加して、アルカリ土類金属炭酸塩の表面を処理する際の処理温度は、5℃〜100℃であるのが好ましく、10℃〜40℃であるのがより好ましい。
【0044】
前記スラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程の後に、前記両溶液が添加されたスラリーを熟成する工程を設けるのが好ましく、この熟成する工程では、前記両溶液が添加されたスラリーを攪拌するのが好ましい。
【0045】
熟成は、5℃〜100℃程度の温度で、5分〜1時間程度行うのが好ましく、10℃〜40℃の温度で、10分〜30分程度行うのがより好ましい。
【0046】
四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程では、吸引ろ過器、加圧ろ過器、遠心分離機等を用いて分離するのが好ましい。
【0047】
本発明のチタン酸バリウムは、本発明の製造方法によって製造される炭酸バリウムを出発原料として製造されるものであり、その製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0048】
本発明のチタン酸ストロンチウムは、本発明の製造方法によって製造される炭酸ストロンチウムを出発原料として製造されるものであり、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0049】
次に、本発明の実施例を、比較例と併せて説明する。但し、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0050】
また、以下の説明では、炭酸バリウムについては、チタン化合物である水酸化チタンで処理する前の炭酸バリウムの製法や商品毎に、実施例及び比較例を対応させている。
【実施例】
【0051】
[第1の製法による炭酸バリウムについて]
(実施例1)
実施例1では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムを次のようにして製造した。
【0052】
すなわち、塩化バリウム・2水和物を純水に溶かし、400g/Lの濃度に調整した。この時の液温を60℃に調整し、この塩化バリウム水溶液を原料Aとする。次に、アンモニア水に炭酸ガスを吸収させ、CO2濃度として44g/Lの炭酸アンモニウム溶液を調整した。この時の液温を30℃に調整し、この炭酸アンモニウム溶液を原料Bとする。
【0053】
5Lのガラスビーカーに原料Bを2L入れ、テフロン(登録商標)製の75mmの2枚羽根の攪拌棒を取り付けた攪拌機で、300rpmの回転数で攪拌した。そこへ、850mlの原料Aを、53ml/分の流量で滴下し、炭酸バリウムのスラリーを得た。
【0054】
このスラリーに分散している炭酸バリウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0055】
すなわち、得られた炭酸バリウムのスラリーに、濃度25wt%のアンモニア水を2ml添加した後、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4(四塩化チタン)水溶液を、3ml/minの添加速度で88ml添加した。添加後のスラリーのpHは8.6であった。添加終了後、1時間そのままの状態で攪拌し熟成した。熟成後のスラリーは、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、その後続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0056】
(実施例2)
実施例1において、アンモニア水の添加量を1ml、TiCl4の添加量を44mlとした以外は、すべて同じ操作を行って、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0057】
(比較例1)
実施例1において、アンモニア水およびTiCl4を添加せずに、それ以外は、すべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0058】
これら実施例1,2及び比較例1の熱安定確認試験を次のようにして行った。
すなわち、各サンプルをアルミナるつぼに約5g入れ、各設定温度に予め熱した電気炉に入れ、そのまま30分強熱する。30分後取出して放冷し、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子の大きさ及び形状を確認した。強熱温度は、500℃及び800℃とした。
【0059】
また、実施例1,2の炭酸バリウムの表面に吸着されている水酸化チタンの吸着量を四塩化チタンの添加量から計算した。
【0060】
実施例1,2の水酸化チタンの吸着量は、水酸化チタンが吸着していない比較例1に対して、それぞれ1.5wt%、0.7wt%であった。
【0061】
図1〜図3に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例1,2及び比較例1のSEM写真をそれぞれ示す。また、800℃で30分強熱した比較例1のSEM写真では、成長した粒子が大きいために、倍率10,000以外に、倍率1,000倍の低倍率のSEM写真を、図4に示す。
【0062】
800℃で30分強熱した実施例1,2の粒子をそれぞれ示す図1(c),図2(c)に比べて、同じ倍率の比較例1の粒子を示す図3(c)では、粒子径が大きすぎて、画面に入りきらない大きな粒子の表面に小さな粒子が付着している状態が示されている。図3(c)の倍率を、1/10にした図4に示されるように、比較例1では、倍率を1/10にしても、実施例1,2に比べて大きな粒子となっていることが分る。
【0063】
すなわち、実施例1,2は、比較例1に比べて熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0064】
[第2の製法による炭酸バリウムについて]
(実施例3)
実施例3では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムを次のようにして製造した。
【0065】
すなわち、水酸化バリウム・8水和物を純水に溶かし、濃度75g/Lの水酸化バリウム水溶液を50L調整した。この時の液温を40℃に調整し、この水酸化バリウム水溶液を原料Cとする。
【0066】
この原料Cを、図5に示した反応装置1を用いて炭酸ガスと混合し、炭酸バリウムを合成した。図5において、P1,P2,P3は第1段,第2段,第3段の各ポンプであり、各段のポンプP1〜P2の構成は、次の通りである。
【0067】
(a)第1段のポンプP1:渦巻ポンプ(ラサ商事株式会社製)、吸入口径1.5インチ、吐出口径1インチ、吐出量170L/分、インペラ回転数2080rpm
(b)第2段のポンプP2:渦巻ポンプ(ラサ商事株式会社製)、吸入口径1インチ、吐出口径3/4インチ、吐出量30L/分、インペラ回転数1420rpm
(c)第3段のポンプP3:渦巻ポンプ(太平洋金属株式会社製)、吸入口径1インチ、吐出口径3/4インチ、吐出量30L/分、インペラ回転数1420rpm
炭酸バリウムの具体的な合成方法は、原料Cと炭酸ガスを、二重管を用いて第1段のポンプP1に送り込む。この時の原料Cの流速は、12L/minで、炭酸ガスの流速300L/minである。反応と同時に、25g/Lに濃度調整したクエン酸溶液を、1.2L/minの流速で図5中のクエン酸投入箇所から二重管を用いて連続的に第3段のポンプP3に添加し、炭酸バリウムのスラリーを得た。
【0068】
次に、このスラリーに分散している炭酸バリウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0069】
すなわち、図5のスラリー受け2の炭酸バリウムのスラリー22Lに、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液324mlを30分かけて添加した。TiCl4添加と同時に濃度25wt%のアンモニア水をスラリーに添加し、スラリーのpHが、8.5±0.2になるように調整した。添加中は、ステンレス製の10mmφの6枚羽の攪拌羽を取り付けた攪拌機を用いて、300rpmの攪拌速度で攪拌を続けた。添加終了後30分間そのままの状態で攪拌を続け、熟成を行った。熟成後スラリーを、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕してサンプルとした。
【0070】
(実施例4)
実施例3において、TiCl4の添加量を810mlとした以外は、すべて同じ操作を行って水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、サンプルを得た。
【0071】
(比較例2)
実施例3において、アンモニア水及びTiCl4を添加せずに、それ以外は、すべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0072】
これら実施例3,4及び比較例2について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0073】
また、上述の実施例1,2と同様にして算出した実施例3,4の水酸化チタンの吸着量は、それぞれ1.4wt%、3.6wt%であった。
【0074】
図6〜図8に、熱安定試験による倍率10,000倍の実施例3,4及び比較例2のSEM写真をそれぞれ示す。
【0075】
800℃で30分強熱した実施例3,4の粒子をそれぞれ示す図6(b),図7(b)では、同じく800℃で30分強熱した比較例2の粒子を示す図8(b)に比べて、明らかに粒子サイズが小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0076】
[第3の製法による炭酸バリウムについて]
(実施例5)
実施例5では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムを次のようにして製造した。
【0077】
すなわち、50wt%のグルコン酸溶液3.7kgと水酸化バリウム8水塩6kgと純水を混ぜ、50Lの水酸化バリウム水溶液を調整する。この時の水溶液の温度を40℃に調整し、この水酸化バリウム水溶液を原料Dとする。この原料Dと炭酸ガスとを、二重管を用いて図5の反応装置1の第1段のポンプP1に送り込む。この時の原料Dの流速は、12L/minで、炭酸ガスの流速は300L/minである。反応と同時に12.5g/Lに濃度調整したクエン酸溶液を1.2L/minの速度で図中のクエン酸投入箇所から二重管を用いて連続的に第3段のポンプP3に添加し、炭酸バリウムのスラリーを得た。
【0078】
この炭酸バリウムのスラリーを、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗したケーキを、純水にリパルプし、炭酸バリウムの固形分として、67.5g/Lのスラリーを22L調整した。
【0079】
次に、このスラリーの炭酸バリウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0080】
すなわち、このスラリーに、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液324mlを30分かけて添加した。TiCl4添加と同時に濃度25wt%のアンモニア水をスラリーに添加し、スラリーのpHが、8.5±0.2になるように調整した。添加中は、ステンレス製の10mmφ6枚羽根の攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、300rpmの攪拌速度で攪拌を続けた。添加終了後30分間そのままの状態で攪拌を続け、熟成を行った。
【0081】
熟成後スラリーを、ヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0082】
(比較例3)
実施例5において、アンモニア水及びTiCl4を添加せずに、それ以外はすべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0083】
これら実施例5及び比較例3について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、550℃及び800℃とした。
【0084】
また、実施例5の水酸化チタンの吸着量は、1.0wt%であった。
【0085】
図9,図10に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例5及び比較例3のSEM写真をそれぞれ示す。
【0086】
800℃で30分強熱した実施例5の粒子を示す図9(c)では、同じく800℃で30分強熱した比較例3の粒子を示す図10(c)に比べて、明らかに粒子サイズが小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0087】
[炭酸バリウム BW−KHR(商品名)について]
(実施例6)
実施例6では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸バリウムとして、堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KHRを用いた。
【0088】
この炭酸バリウムBW−KHRの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0089】
すなわち、炭酸バリウムBW−KHRを純水と混合し、75mmのテフロン(登録商標)製攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、回転数300rpmで攪拌して濃度10g/リットルのスラリーを5L調整した。そのスラリーにTi濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液12.8mlを30分かけて添加した。TiCl4水溶液を添加している間のスラリーpHが、8.5±0.2になるように、濃度25wt%のアンモニア水を連続的に添加した。
【0090】
TiCl4添加終了後30分そのままの状態で攪拌した。反応は、すべて室温で行った。5分後、スラリーをヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを得た。乾燥した炭酸バリウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0091】
(実施例7)
実施例6において、炭酸バリウムスラリー添加する濃度18.8g/LのTiCl4水溶液の添加量を25.6mlに増やした以外は、全て同じ操作を行って、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0092】
(比較例4)
水酸化チタンによる表面の処理がされていない比較サンプルとして、堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KHRを比較例4とした。
【0093】
これら実施例6、実施例7及び比較例4について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0094】
また、実施例6、実施例7の水酸化チタンの吸着量は、それぞれ1.2wt%、2.3wt%であった。
【0095】
図11,図12、図13に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例6、実施例7及び比較例4のSEM写真をそれぞれ示す。
【0096】
800℃で30分強熱した実施例6,7の粒子をそれぞれ示す図11(b),図12(b)では、同じく800℃で30分強熱した比較例4の粒子を示す図13(b)に比べて、粒子サイズが小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0097】
[炭酸バリウム BW−KH30(商品名)について]
(実施例8)
実施例6において、使用する炭酸バリウムを堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KH30に変えた以外は、全て同じ操作を行って、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸バリウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0098】
(比較例5)
水酸化チタンによる表面の処理がされていない比較サンプルとして、堺化学工業株式会社製高純度炭酸バリウムBW−KH30を比較例5とした。
【0099】
これら実施例8及び比較例5について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0100】
実施例8の水酸化チタンの吸着量は、1.2wt%であった。
【0101】
図14,図15に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例8及び比較例5のSEM写真をそれぞれ示す。
【0102】
800℃で30分強熱した実施例8の粒子を示す図14(b)では、同じく800℃で30分強熱した比較例5の粒子を示す図15(b)に比べて、粒子サイズが明らかに小さく、熱による粒子成長が抑制されていることが分る。
【0103】
[炭酸ストロンチウムについて]
(実施例9)
実施例9では、水酸化チタンによって表面を処理する前の炭酸ストロンチウムを次のようにして製造した。
【0104】
すなわち、塩化ストロンチウム(SrCl2・1H2O)を純水に溶かし、200g/Lの濃度に調整した。この時の液温を、60℃に調整し、この塩化ストロンチウム水溶液を原料Eとする。次にアンモニア水に炭酸ガスを吸収させ、CO2濃度として44g/Lの炭酸アンモニウム溶液を調整した。この時の液温を、30℃に調整し、この炭酸アンモニウム溶液を原料Fとする。
【0105】
5Lのステンレス製タンクに原料Fを2L入れ、75mmのテフロン(登録商標)製の2枚羽根の攪拌羽根を取り付けた攪拌機で、300rpmの回転数で攪拌した。そこへ、1Lの原料Eを188ml/分の流量で滴下させ、炭酸ストロンチウムのスラリーを得た。
【0106】
このスラリーに分散している炭酸ストロンチウムの表面に、水酸化チタンによる処理を次のようにして行なった。
【0107】
すなわち、得られた炭酸ストロンチウムのスラリーに、Ti濃度18.8g/Lに調整したTiCl4水溶液72mlを一定の流速で30分かけて添加した。TiCl4添加と同時に濃度25wt%のアンモニア水をスラリーに添加し、スラリーのpHが、8.5±0.2になるように調整した。TiCl4添加終了後30分間そのままの状態で攪拌し熟成した。
【0108】
熟成後、スラリーをヌッチェで5Cろ紙を用いてろ過して分離し、続けて純水で水洗を行った。水洗は、水洗水の電導度が100μs以下になるまで実施した。水洗後のケーキは、110℃に温めた箱型乾燥機で12時間乾燥し、水酸化チタンによって表面が処理された炭酸ストロンチウムを得た。乾燥した炭酸ストロンチウムを、小型の粉砕機で粉砕しサンプルとした。
【0109】
(実施例10)
実施例9において、TiCl4の添加量を180mlとした以外は、すべて同じ操作を行って酸化チタンによって表面が処理された炭酸ストロンチウムを製造し、サンプルを得た。
【0110】
(比較例6)
実施例9において、TiCl4及びアンモニア水を添加せず、それ以外は、すべて同じ操作を行って、すなわち、水酸化チタンによる表面の処理を行なうことなく、炭酸ストロンチウムを製造し、そのサンプルを得た。
【0111】
これら実施例9,10及び比較例6について、上述と同様の熱安定確認試験を行った。強熱温度は、800℃とした。
【0112】
また、実施例9,10の水酸化チタンの吸着量は、それぞれ2.0wt%、4.9wt%であった。
【0113】
図16〜図18に、熱安定確認試験による倍率10,000倍の実施例9,10及び比較例6のSEM写真をそれぞれ示す。
【0114】
上述の各実施例では、水酸化チタンによって、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩の表面を処理したけれども、水酸化ジルコニウムによって表面の処理を行なうようにしてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1 反応装置
2 スラリー受け
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属炭酸塩の表面をチタン化合物によって処理する、
ことを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属炭酸塩が、炭酸バリウムまたは炭酸ストロンチウムであり、
前記チタン化合物が、水酸化チタンである、
請求項1に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記処理が、前記水酸化チタンを前記アルカリ土類金属炭酸塩の表面に吸着させる処理である、
請求項2に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程を含む、
請求項2または3に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記添加する工程で前記四塩化チタン水溶液および前記アルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程を更に含む、
請求項4に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が、炭酸バリウムである、
ことを特徴とするチタン酸バリウム。
【請求項7】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が炭酸ストロンチウムである、
ことを特徴とするチタン酸ストロンチウム。
【請求項1】
アルカリ土類金属炭酸塩の表面をチタン化合物によって処理する、
ことを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属炭酸塩が、炭酸バリウムまたは炭酸ストロンチウムであり、
前記チタン化合物が、水酸化チタンである、
請求項1に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記処理が、前記水酸化チタンを前記アルカリ土類金属炭酸塩の表面に吸着させる処理である、
請求項2に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属炭酸塩のスラリーに、四塩化チタン水溶液およびアルカリ溶液を添加する工程を含む、
請求項2または3に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記添加する工程で前記四塩化チタン水溶液および前記アルカリ溶液が添加されたアルカリ土類金属炭酸塩のスラリーからアルカリ土類金属炭酸塩を分離する工程を更に含む、
請求項4に記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が、炭酸バリウムである、
ことを特徴とするチタン酸バリウム。
【請求項7】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載のアルカリ土類金属炭酸塩の製造方法によって製造されるアルカリ土類金属炭酸塩を出発原料として製造され、該出発原料が炭酸ストロンチウムである、
ことを特徴とするチタン酸ストロンチウム。
【図5】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−28509(P2013−28509A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166514(P2011−166514)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
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