説明

アルカリ型燃料電池用電極触媒の評価方法

【課題】
アルカリ型燃料電池用のアノード触媒を開発するために、多数の触媒のアルカリ電解質中でのアノード活性を迅速に評価する方法を提供する。
【解決手段】
多数の触媒を重ならないよう配列したアレイ電極1を作製し、適切な水素イオン濃度指示薬、および燃料用アルコールを混合したアルカリ電解質溶液とともに、電気化学セル2内で電位掃引を行う。
アルコール酸化の進行にともない、水素イオン濃度が変化する様子を水素イオン濃度指示薬の変色により視覚的に確認し、アレイ電極内での変色開始の順位により、アルコール活性の優劣を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ型燃料電池の電極触媒の評価方法に関する。特に、アルカリ型燃料電池のアノード触媒を迅速に評価できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質と電極触媒およびその他の補助材料からなる。燃料電池の種類により作動温度が異なり、室温付近から100℃付近で作動する燃料電池を低温燃料電池といい、プロトン型固体電解質燃料電池とアルカリ型燃料電池がある。それ以外に、200℃付近で作動するリン酸型燃料電池と、650℃以上で作動する固体酸化物燃料電池がある。
【0003】
作動温度まで昇温するための燃料が必要な中温および高温で作動する燃料電池よりも、発電用以外に余分な燃料を必要としない低温燃料電池であるプロトン型固体電解質燃料電池が次世代のエネルギー源として注目を集めてきた。
【0004】
この種類の燃料電池で代表的なものは、プロトン伝導する膜―スルホン化した炭化水素膜またはナフィオン膜を電解質としている。この電解質はスルホン基がプロトンイオンの伝導を担っているため硫酸によく似た強酸性を示す。従って、卑金属は容易に溶解されるため、たとえプロトン型固体電解質燃料電池の電極触媒として活性であっても使用できない。
【0005】
白金などの貴金属は、地球上に埋蔵量が少ないといった資源的制限から、非常に高価なため、それを使用する燃料電池も当然コストが高くなる。このことは燃料電池を大規模に普及させるには大きな障害になる。さらに、白金族の貴金属は、自動車排ガス触媒などの組成としても不可欠であり、プロトン型燃料電池を大規模に普及させるには、自動車排ガス触媒との資源の奪い合いが避けられない。このように、コストと資源制限の両面から、白金代替電極触媒または白金族貴金属を使用しない燃料電池の開発が切望されている。
【0006】
近年、プロトン型固体燃料電池触媒の低白金化または非白金化の研究について注力されてきたが、実用化を見込める技術はまだ見出されていない。その理由の一つは、プロトン型燃料電池の電解質が強酸であるため、それに耐えられる触媒組成が容易に見つからないからである。
【0007】
強酸型電解質であるプロトン電解質を使用する燃料電池と異なり、アニオン(OH)伝導する電解質を使用する燃料電池であるアルカリ型燃料電池は、電解質がアルカリ性であるため、白金族貴金属以外の遷移金属も使用可能となる。
【0008】
最初に実用化されたアルカリ燃料電池は、液体の電解質を使用するものであり、用途は宇宙用に限定されていた。民生用に普及できなかった理由は、液体のアルカリ電解質に含まれるアルカリ金属が、空気中のCOと下記のように反応し、生成したKCOが電極触媒層の細孔や配管などをつまらせ、燃料電池の性能低下を招くからであった。
CO+KOH=KCO+H
【0009】
COの問題を克服する手段として、アニオン膜を伝導する膜を使用する方法がある。アニオン膜では、4級アンモニウム塩基をアニオン交換基としているので、液体のアルカリ電解質のようにアルカリ金属カチオン源が存在しないため、CO吸収によるKCOの生成、析出による電極層の細孔の閉塞などへの懸念が低減できる。
【0010】
このような背景から、近年はアニオン伝導膜の研究開発が進められ、低コストで大規模に普及しやすい燃料電池としてアルカリ型燃料電池への関心が高まっている。
【0011】
コストの低減、および貴金属の資源制限から脱却できるという点から、アルカリ型燃料電池は、移動電源として従来最も注力されてきたプロトン伝導型電解質を使用する固体電解質燃料電池の代替として、実用化される可能性が最も大きいと考えられ活発に研究・開発されるようになってきた。
【0012】
燃料電池のアノード触媒は、燃料と電解質との間で電子およびイオンの授受を行う役割があり、その性能が燃料電池の性能を決定する。従って、高性能アノード触媒なしには、高性能のアルカリ型燃料電池は成り立たない。いかに効率よく高性能アノードを開発できるかがアルカリ型燃料電池開発の重要課題となる。
アノード触媒の評価には、通常、いわゆる半電池測定を行う。ちなみに半電池測定とはアノード極、またはカソード極のどちらか片方での酸化還元反応の測定を行うものである。アノード触媒を評価する場合、アルカリ性の電解質溶液と燃料のアルコールを入れた電気化学セルに、触媒を担持したカーボン電極を使用し、参照電極に対して電位掃引を行う。こうして得たI−V曲線により、アノード触媒のアルコールに対する酸化性能を評価している。
【0013】
アルカリ型燃料電池用触媒では、材料として使用できる金属の種類が多くなる上に、2成分、3成分、4成分など、貴金属系のみの触媒よりも多彩な組み合わせができるため、最適な触媒組成を見出すのに膨大な時間を要し、費用と人件費も膨大となる。
たとえば2種類の元素から触媒の組成を決定する場合、組成を0%から100%まで10%刻みで考えると11種類が考えられる。3種類の元素からの場合は66種類、4種類の元素からの場合は286種類が考えられる。ここで2元素に限定したとして、たとえば20種類の元素の中から2種類の元素を抽出する場合、その組合せだけでも190通りあり、10%刻みの組成を考えると1710種類(組合せの元素のどちらかが100%の場合を含めると1730種類)である。これを通常の半電池測定で行うとなると、1日に3種類行っても、570日、人員とポテンショスタットの台数を10倍に増加しても57日を要することになる。
【0014】
燃料電池の評価方法として、特許文献1および非特許文献1に、水素イオン濃度指示薬を用いた評価方法が開示されている。同文献では、酸性雰囲気下ではNi−PTP(Ni+3−pyridin−2−yl−<4,5,6>triazolo−<1,5−a>pyridine)を使用可能であるとし、pH=6の時には、キニーネを使用可能であるとしている。いずれも紫外線照射下での使用される水素イオン濃度支持薬である。また、酸素の反応に係わる触媒には、PhloxineBを適用できるとしている。
【0015】
特許文献1に開示される、酸性条件下で使用されている水素イオン濃度指示薬である遷移金属Niの錯体は、アルカリ性の溶液中では沈澱してしまう。従って、開示された方法を使用できるのは、電解質が酸性である場合に限定され、アルカリ型燃料電池用電極触媒の探索には使用できない。
【0016】
さらに、非特許文献1に開示されるpH=6付近の電解質条件で使用できるキニーネに関しては、下記のように、追試実験を行った。この結果から、同論文で用いられているキニーネについては電解質に対する濃度については言及されていないが、pH=6の電解質液用とされていることから数μ〜数十μmol/l程度の濃度で使用されていると考えられる。
【0017】
図3の(a)に10μmol/lキニーネの紫外線照射下でのpHによる変色の状態を示す。10μmol/lの場合、アルカリ性域では変色せず、pH6から薄っすらと変色が見られる。この結果から、非特許文献1、特許文献1に開示されたpH=6/中性域でキニーネを適用できる事は再現できた。しかし、アルカリ性域での水素イオン濃度指示方法に関しては、特許文献1、非特許文献1ともに情報を開示していない。
【0018】
アルカリ燃料電池を評価する際には、pH=6よりも高いpHで作動する事が要求され、必然的に触媒の活性を評価できる雰囲気もアルカリであることが要求される。このような高いpH域でも有効な水素イオン濃度指示薬に関する情報を、特許文献1、非特許文献1ともに一切開示しておらず、従って、実質的に特許文献1、非特許文献1の方法だけでは、アルカリ型燃料電池の評価は出来ない。
【0019】
さらに、特許文献1においては、酸性であれば、アノード触媒用の評価にはNi−PTPが、カソード触媒用の評価にはPhloxineBが適用できるとしか開示しておらず、アルカリ条件下でも適用できるものに関しては、アノード、カソードに係らず、一切開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】WO 00/04362(PCT/US99/12520)
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】「Combinatorial electrochemistry:A Highly Parallel,Optical Screening Method for Discovery of Better Electrocatalysts」[Science 280(1998)pp.1735−1737](Reddington,E.,Sapienza,A.,Gurau,B.,Viswanathan,R.,Sarangapani,S.,Smotkin,E.S.,Mallouk,T.E.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従来、酸性領域で色の変化により触媒の活性を評価する方法はあったが、それらに用いられる指示薬はアルカリ電解質中では沈殿を生じてしまう、色の変化が明確でないとの問題点があった。
従って、本発明は、アルカリ型燃料電池用のアノード触媒活性を評価する方法を開発することを目的とし、特に、アルカリ電解質中で多数の触媒のアノード活性を、迅速に評価できる方法(高速スクリーニング)を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、以下に記載する発明の完成に至った。
【0024】
本発明の第1の特徴は、アルカリ型燃料電池のアノード電極触媒を評価する方法であって、触媒点を配置した電極と、アルカリ性域で変色が起こる水素イオン濃度指示薬との共存下で電位掃引を行うことにより、触媒点の色の変化から電極触媒の性能を判断することである。
【0025】
本発明の方法では、アルカリ型燃料電池のアノード触媒の性能を水素イオン濃度指示薬の色の変化と関連付けることにより、アノード触媒の性能評価を可能にしている。通常のI−V特性の評価によるアノード触媒の評価は、各触媒ごとの評価にしか使用できないが、本発明の方法は複数の触媒を評価するのに用いることができる。
【0026】
本発明の第2の特徴は、電解質の中に水素イオン濃度指示薬として濃度が0.1mmol/l以上になるようにしたキニーネを使用することである。
【0027】
キニーネの濃度を高濃度にしたことにより、アルカリ性の域で水素イオン濃度指示薬として使用することが可能になった。その上、キニーネ溶液の濃度を変化させることにより、変色するpHを調節し、評価に用いる電解質溶液を種々選択することができる。
【0028】
通常の濃度範囲での使用では、例えば、10μmol/lのキニーネでは、pH=6付近に色が変化するため、アルカリ雰囲気下では適用できない。濃度を増大させると、変色点も変動し、濃度が0.1mmol/l以上であれば、明らかにアルカリ性域に入り、アルカリ雰囲気下での水素イオン濃度指示が可能となる。
【0029】
キニーネの濃度の上限はとくに限定しないが、飽和濃度であっても良く、電解質中に沈殿させた状態でも使用することもできる。
【0030】
本発明の第3の特徴は、複数の小さい触媒点からなるアレイ電極を使用することである。
【0031】
本発明にように複数の小さい触媒点からなるアレイ電極を使用することで、アルカリ型燃料電池のアノード触媒の性能を水素イオン濃度指示薬の色の変化と関連付けることにより、多数の触媒の高速スクリーニングを可能にしている。
【発明の効果】
【0032】
本発明の方法では、アルカリ型燃料電池のアノード触媒の性能を水素イオン濃度指示薬の色の変化と関連付けることにより、アノード触媒の性能評価を可能にしている。通常のI−V特性の評価によるアノード触媒の評価は、各触媒ごとの評価にしか使用できないが、本発明の方法は複数の触媒を評価するのに用いることができる。
【0033】
また、本発明によれば、複数の小さい触媒点からなるアレイ電極を使用することにより、アルカリ型燃料電池のアノード電極触媒を高速スクリーニングすることが可能となり、アルカリ型燃料電池のアノード触媒の開発を効率よく行える。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明で使用する触媒評価用の装置概念図
【図2】本発明に使用する作用電極(アレイ電極)
【図3】キニーネの調整濃度による蛍光変色域の変化の写真:(a)10μmol/lキニーネ水溶液のpHの違いによる呈色状態(b)50μmol/lキニーネ水溶液のpHの違いによる呈色状態(c)0.1mmol/lキニーネ水溶液のpHの違いによる呈色状態(d)0.4mmol/lキニーネ水溶液のpHの違いによる呈色状態(e)pH8のキニーネ水溶液の濃度の違いによる呈色状態(f)pH9のキニーネ水溶液の濃度の違いによる呈色状態
【図4】キニーネの濃度とpHによる変色状態を明暗で視覚的に表現した図
【図5】8種類の触媒で作製した16点アレイ電極の触媒点配置図
【図6】通常の評価方法による8種類の触媒のメタノール酸化活性を測定した結果
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、アルカリ型燃料電池のアノード電極触媒を評価する方法であって、アルカリ電解質溶液に燃料としてのアルコールなどを混合し、触媒点を配置した電極と、アルカリ性域で変色が起こる水素イオン濃度指示薬との共存下で電位掃引を行うことにより、触媒点の色の変化から電極触媒の性能を判断することである。
【0036】
本発明に用いられるアルカリ性域で変色が起こる水素イオン濃度指示薬としては、アルカリ性域で変色が起こる水素イオン濃度指示薬であれば特に限定されないが、具体的には、高濃度のキニーネ溶液、HPTS(8−hydroxypyrene−1,3,6−trisulfonic acid)、LysoSensorYellow/Blue、などを用いることができる。
【0037】
その中でも、高濃度のキニーネ溶液を用いるのが好ましく、電解質の中にキニーネとして濃度が0.1mmol/l以上になるようにするのがより好ましい。
キニーネの濃度の上限はとくに限定しないが、飽和濃度であっても良く、電解質中に沈殿させた状態でも使用することもできる。
【0038】
そして、高濃度のキニーネ溶液を水素イオン濃度指示薬として用いる場合には、電位掃引を紫外線照射下で行い、蛍光を観察することで色の変化を判断することができる。
【0039】
本発明は、多数の触媒の高速スクリーニングするために複数の小さい触媒点からなるアレイ電極を使用するのがよい。
【0040】
その場合、評価対象の複数種類の触媒をカーボンシートで作製した電極用基材の同一面上にそれぞれ重ならないよう異なる位置に配置したアレイ電極を使用することができる。
【0041】
多数の触媒を一枚のカーボンシート上に、小さい点として配置させることで、多数の触媒を一度に評価できる。例えば、親水または疎水処理したカーボンシートの上に、複数の触媒インクからなる点を配置する。
点の数は、カーボンシートのサイズにもよるが、2〜300までとする。
点の数が多すぎると、近隣の触媒点の反応生成物の拡散が、互いに影響し合い、個々の触媒の性能を評価することが困難になる。少なすぎると、高速スクリーニングの意義が薄まる。従って、近隣の点が互いに影響を及ぼさない範囲で出来るだけ多くの触媒の点を作製することが望ましい。
【0042】
カーボンシートに配置する触媒点は、触媒の原料となる金属塩類、または還元過程を経た触媒微粒子と、水―エタノールの混合液から作製される。
【0043】
カーボンシートに触媒点を配置したあと、適当な処理を施す。例えば、乾燥器内にて乾燥させる。還元剤を用いて還元させる。水などによる洗浄処理など、必要に応じて行う。
【0044】
本発明の複数の小さい触媒点からなるアレイ電極を使用して触媒の性能を評価することについて次に説明する。
下記の装置およびアレイ電極を使用し、触媒の性能を評価する。
【0045】
本発明にかかる評価装置を図1に示す。図1において、1は作製したアレイ電極で、2は電気化学用セルである。アレイ電極1の大きさに合わせて電気化学用セル2の大きさを変更しても良いし、電気化学用セル2の大きさに合わせてアレイ電極1を作製しても良い。3はポテンショスタットである。6は参照電極であり、アルカリ電解質溶液に適するものを使用する。7は白金対極である。8は水素イオン濃度指示薬と燃料のアルコールを混合したアルカリ電解質溶液である。アルカリ電解質溶液にはNaOH水溶液やKOH水溶液などがあり、必要に応じてNaClOのような電解質塩を混合したものを用いる。9は窒素ガスパージチューブである。アレイ電極1、参照電極6、白金対極7、をポテンショスタット3に接続し、電位掃引する。アレイ電極1は作用電極として接続する。4はUVランプであり、紫外線照射光が十分にアレイ電極1にあたるよう配置する。5はアレイ電極撮影用カメラである。蛍光強度が弱い状態でも観察できるよう、電気化学用セル2とカメラ5とUVランプ4を含む周囲を暗くする。カメラ5は暗い環境でも撮影可能な程度に高感度のものが良い。
【0046】
本発明にかかるアレイ電極1のイメージを図2に示す。撥水コーティングされたカーボンシートを、電気化学セルおよび触媒点の数に適する大きさに裁断して作製する。黒丸は触媒点であり、触媒を含むインクをカーボンシートに滴下した後60−80℃で乾燥させる。触媒点の大きさは直径2mmから3mm程度が良い。上辺にワニ口クリップをはさみ、図1のポテンショスタット3に接続する。
【0047】
電位掃引を行うことにより、アルコールの酸化反応が進み、触媒点近傍でOHイオンが消費されることで局所的に水素イオン濃度が変化する。この局所的な水素イオン濃度が電気化学セル内のアルカリ電解質溶液全体の水素イオン濃度よりも高くなり、水素イオン濃度指示薬が変色する濃度に到達することにより、その触媒点近傍の変色(蛍光)が起こる。本発明方法での評価方法は、触媒点近傍で変色を確認できた順番により行う。順番の早い触媒点ほど、低い電位でアルコール酸化が進行するという考えからである。
【実施例】
【0048】
実施例として、キニーネ溶液を水素イオン濃度指示薬として使用した例を以下に示す。
まず、キニーネ溶液をアルカリ型燃料電池のアノード電極触媒を評価する水素イオン濃度指示薬として用いることができるか否かの検討を行った。
【0049】
<アルカリ雰囲気下での水素イオン濃度を指示する方法の検討>
キニーネの濃度が10μmol/l、50μmol/l、0.1mmol/l、0.4mmol/lである水溶液を準備した。各濃度で変色点およびその前後のpHの溶液を数種類ずつ調整した。pHの調整にはHSOとNaOH水溶液を用いた。pHの誤差範囲は±0.05程度である。pH8、pH9に関しては0.2mmol/lの濃度の溶液も調整した。調整した溶液は10mlの透明容器に移し、図3(a)〜(f)に示すように並べて、紫外線照射下で高感度カメラで撮影した。
【0050】
図3の(a)〜(d)にそれぞれキニーネ10μmol/l、50μmol/l、0.1mmol/l、0.4mmol/lの水溶液の紫外線照射下でのpHによる変色の状態を写真で示す。10μmol/lの場合、pH6から薄っすらと変色が見られ、pHが低くなるにつれ蛍光強度が増している(写真上ではpHが低くなるにつれて白みが増す)。
50μmol/lの場合、pH9から同様の変色が見られる。0.1mmol/l、0.4mmol/lの場合、pH10でわずかに変色を示し、pH9では明らかに変色しているのが見られる。
【0051】
図3の(e)、(f)にキニーネ10μmol/lから0.4mmol/lの濃度ごとにpH8に調整したものを並べた写真、およびpH9に調整したものを並べた写真を示す。10μmol/lではpH9、pH8ともに変色が見られず、50μmol/lではpH8では変色がみられ、pH9でもごく薄く変色が確認できる。0.1mmol/l以上の濃度の場合はpH9ではさらにはっきりと呈色いるのが見られる。
図4に上記の結果を帯の明暗で変色具合を表現した図を示す。帯の色が白くなるほど蛍光変色の度合いが大きい。
【0052】
以上のような検討結果からキニーネ溶液の濃度が電解溶液中で0.1mmol/l以上になるようにすれば、キニーネ溶液をアルカリ型燃料電池のアノード電極触媒を評価する水素イオン濃度指示薬として使用することが十分に可能であることが判った。
【0053】
例えば、pH11以下の弱アルカリ電解質溶液の場合は50μmol/l〜0.1mmol/lのキニーネ、pH11をこえるアルカリ電解質溶液の場合はより濃度の高いキニーネを用いるなど、キニーネの濃度を調節することにより評価に用いるアルカリ電解質溶液のpHの選択に幅ができる。
【0054】
次に、水素イオン濃度指示薬として0.40mmol/lキニーネ溶液を使用して、アノード電極触媒を評価した実施例を示す。
【0055】
0.40mmol/l キニーネ、0.02mol/lNaClOからなる水溶液をNaOH水溶液でpH11.37程度に調整したものをアルカリ電解質溶液として用いた。
参照電極としてAg|AgCl|3M NaCl塩橋参照電極を用いた。
【0056】
8種類の触媒を使用し、図5に示す16点のアレイ電極を作製した。
市販品および弊社で作製した電極用粉末触媒をAからHのアルファベットで表す。各触媒についての情報を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
触媒はA1とA2のように同じ触媒を2点ずつ配置した。
カーボンシートGDL24BC(SGL社製)を図2のような形状に切り抜いた。正方形状の触媒配置部は一辺が約20mmで、長手方向に約40mm、ポテンショスタットに接続するワニ口クリップをはさむ箇所の幅は約6mmである。
触媒インクは粉末触媒を0.008g秤量し、水0.8ml、エタノール0.8mlを加え、超音波装置で攪拌し、作製した。上記のカーボンシート上に各触媒インクを1点につき7μlずつ滴下した。これを60℃の恒温槽で十分に乾燥させて高速スクリーニング評価用のアレイ電極1とした。
【0059】
20ml容量の電気化学セルを用意し、前述のようにして作製した電解質溶液を15ml入れた。
十分に窒素パージした後、電極表面の電気化学クリーニングを行った。セル内の電解質溶液にメタノールを約1.63g加え(セル内の電解質溶液全体の約3mol/lに相当する)、窒素ガスで1分程度攪拌した。
【0060】
<触媒活性の評価>
電気化学セルに紫外線照射を開始し、0.400(vs.RHE)から掃引速度1mV/sで電位掃引し、触媒点近傍が変色(蛍光)する様子を観察、写真撮影した。撮影は市販のデジタルカメラをISO3200に設定して行った。表2に各触媒点近傍で変色が確認された電位を示す。
【0061】
【表2】

【0062】
より低電位の時点で変色(蛍光)し始める触媒点は、より低電位で近傍の水素イオン濃度が高くなることを意味し、その触媒の反応活性が高いことを意味する。従って、本発明の方法による高速スクリーニングから得たアノード触媒の活性順位は
A>B>C>D>E>F≧G≧H
であった。
【比較例】
【0063】
<通常の評価方法での触媒評価>
上記実施例で用いたものと同じ8種類の触媒を、1種類ずつ通常の試験で使用されるグラッシーカーボン電極を用いて、メタノール酸化測定を行った結果を図6に示す。表3に通常立ち上がり電位として算出される電位を、図6に立ち上がり電位を含む0.400V(vs.RHE)までのI−V曲線を示す。
【0064】
【表3】

【0065】
アルカリ電解質溶液として1mol/lのNaOH水溶液、燃料用アルコールとして1Mのメタノールを用いた。担持触媒量0.056mg、バインダーとしてアニオン交換樹脂(トクヤマ製)を使用した。
【0066】
アノード触媒活性の立ち上がり電位を触媒活性の指標とした触媒の活性順位は
A>B>C>F>D,G,H>E
であった。
【0067】
通常の評価法(比較例)で得られた触媒の活性順位は、本発明の高速スクリーング方法(実施例)で得た触媒の活性順位とおおむね一致しており、特に触媒活性の高い触媒については完全に一致しており、触媒の高速スクリーニングに使用できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る触媒評価方法は、アルカリ型燃料電池用電極触媒のアノード電極触媒の活性を、多数の触媒に対して、迅速かつ安価に評価することを可能にする。
【符号の説明】
【0069】
1 アレイ電極
2 電気化学セル
3 ポテンショスタット
4 UVランプ(365nm)
5 カメラ
6 参照電極
7 白金対極
8 電解質溶液
9 ガスパージチューブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ型燃料電池のアノード電極触媒を評価する方法であって、触媒点からなる電極と、アルカリ性域で変色が起こる水素イオン濃度指示薬との共存下で電位掃引を行うことにより、触媒点に見られる色変化により電極触媒の性能を判断することを特徴とする電極触媒の評価方法。
【請求項2】
前記アルカリ性域で変色が起こる水素イオン濃度指示薬が、その濃度が電解溶液中で0.1mmol/l以上になるようにしたキニーネ溶液であることを特徴とする請求項1に記載の電極触媒の評価方法。
【請求項3】
前記電極が複数の小さい触媒点からなるアレイ電極であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極触媒の評価方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−181301(P2011−181301A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43793(P2010−43793)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月10日 社団法人電気化学会発行の「2009年電気化学秋季大会講演要旨集」に発表
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】