説明

アルカリ塩共存下に水蒸気ガス化反応を用いる使用済み電気電子機器から資源を回収する方法

【課題】プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及び繊維状のガラス繊維等の各種有価物を回収する方法を提供すること。
【解決手段】嫌気性ガス雰囲気中にて、過熱水蒸気を導入させると共に反応器内に収容したプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩と接触させて前記プラスチックを水蒸気ガス化させるプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維を回収する。前記アルカリ塩が、(1)融点が水蒸気ガス化反応温度以上の固体状のアルカリ塩、又は(2)融点が水蒸気ガス化反応温度以下の液体状のアルカリ塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック層を有し、回路基板を備える電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩の共存下にて水蒸気ガス化反応させることを特徴とするプラスチック層を有し、回路基板を備える電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維を回収する方法に関し、詳しくは、プラスチック層を有し、回路基板を備える電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩の共存下にて水蒸気ガス化反応させ、金属及びガラス繊維を回収することができ、しかもアルカリ塩とガラスとの反応が抑制されるので、アルカリ塩の無駄な消耗が低減されることを特徴とするからプラスチック層を有し、回路基板を備える電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術革新が急速に発展し、多くの民生用機器や産業用機器では、種々の機能が電子回路によって制御されるようになってきている。その結果、例えば回路基板の使用量は、益々増える方向にある。これは、使用済となり、廃棄される回路基板も増えることとなる。
この回路基板にはプリント配線板用基板が用いられ、銅張積層板が最も多く使用されている。該銅張積層板は、通常、ガラス布およびガラス不織布などの基材に、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、などの熱硬化性樹脂を塗布含浸・乾燥させたものを積層し、これに銅箔を片面あるいは両面にプレスで加工・加熱して作られている。
この回路基板を備える電気電子機器は各種プラスチックを例えば筐体等として使用している。
【0003】
廃棄される電子機器又は電子部品から有価物を回収する技術が盛んに研究され報告されている。例えば、電子機器に用いられるガラス基材と樹脂と金属箔よりなる積層板を前記金属箔がガラス化しない程度の温度に加熱して樹脂からガスを放出させた後に、該積層板にせん断力を加えて金属箔と基材とを分離するようにして、積層板から資源を回収することが記載され(特許文献1)、プラスチック・金属複合体の廃棄物を、金属の融点以下の温度で、プラスチックを熱分解ガス化する以上の温度、好ましくは400〜600℃の熱媒体と直接接触させることにより、プラスチック分を除去し金属を回収することが記載されている(特許文献2)。
それら熱分解物を排出することになるが、前記プラスチックとしてポリ塩化ビニルが使用されているとき、あるいは前記プラスチックに臭素系難燃剤が使用されているときには、熱分解物を排出するには環境を汚さないようにさらに熱分解物を処理することが必要となる。
【0004】
また、ロータリーキルンタイプの過熱水蒸気処理装置の間接加熱による内筒に、過熱水蒸気の雰囲気温度を500〜600℃として有価金属を含有するガラス繊維および樹脂製の集積回路基板からなる廃集積回路基板を、連続装入してガラス繊維と樹脂からなる積層基板を炭化により剥離し、さらに廃集積回路基板の難燃剤成分のハロゲンをガス化して回収し、一方、廃集積回路基板に含有の金、銀、銅、鉛、亜鉛、パラジウムその他の金属などの有価金属を分離回収することが記載されている(特許文献3)。この技術には、廃集積回路基板に存在するガラス繊維を繊維状として回収する考えはない。
【0005】
なお、電子回路板を含む使用済み形態電話の破砕物をナトリウム、カリウム、カルシウムの炭酸塩との存在下に処理する技術が例えば特許文献4にて報告されている。しかし、有機物を水蒸気ガス化して水素を発生させ、炭酸塩をその触媒として利用し、さらに炭酸塩とガラスとの反応を抑制させ、炭酸塩の無駄な消耗を低減させる考えはなく、また電子回路板中のガラス繊維は前記炭酸塩と反応してガラス繊維が崩壊し粉状となり、繊維状を保持したガラス繊維として回収することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−314711号公報
【特許文献2】特開平9−323076号公報
【特許文献3】特開2008−194618号公報
【特許文献4】特開2003−301225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、従来から知られている電気電子機器又は電子部品の廃棄物の熱分解・過熱水蒸気分解では、プラスチックの多くが炭化するために残渣中に多くの炭素が残留しており、ガラス繊維や金属類を容易に分別回収することができなかったこと、また、回路基板中のガラス繊維は崩壊し粉状となること、多くの電気電子機器又は電子部品にて使用される塩化ビニル樹脂や難燃剤含有プラスチックから塩化水素ガスや臭化水素ガス等の有害ガスが発生し、後段のエネルギー回収が困難であると知り、できるだけ繊維状を保持するガラス繊維を回収する技術の開発等を目指して研究するなか、プラスチック層を有し、回路基板を備える電気電子機器又は電子部品の廃棄物を水蒸気ガス化し、前記プラスチック層を熱分解する際にアルカリ塩を共存させることが有用であるとの知見を得た。さらに、当該知見に基づき、鋭意研究を重ね、遂に本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維等の各種有価物を回収する方法を提供するものであり、とくにプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を水蒸気ガス化して前記プラスチック層を熱分解する際に、共存させるルカリ塩のガラスとの反応が抑制され、アルカリ塩の無駄な消耗が低減される技術を提供することにあり、また、その点に加えて、さらに、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を水蒸気ガス化して前記プラスチック層を熱分解する際に、回路基板にて使用されるガラス繊維を粉状ではなく、繊維状として回収すると共に、反応後に回収されるガラス繊維や金属中に残留する炭素および臭素を低減化させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究し、以下の発明に到達した。
(1)嫌気性ガス雰囲気中にて、過熱水蒸気を導入させると共に反応器内に収容したプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩と接触させて前記プラスチックを水蒸気ガス化させるプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維を回収する方法であって、前記アルカリ塩が、(1)融点が前記水蒸気ガス化反応温度以上の固体状のアルカリ塩、又は(2)融点が前記水蒸気ガス化反応温度以下のアルカリ塩の液体状物であることを特徴とするプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
ここで、なお、本発明でいう金属とは金、銀、パラジウム等の貴金属や銅、鉛、亜鉛などのベースメタル、レアメタルやレアアースおよびその他の有価金属等の電気電子機器又は電子部品に用いられる金属類を意味する(以下、同様)。
(2)アルカリ塩が、融点が前記水蒸気ガス化反応温度以上の固体状のアルカリ塩であり、前記固体状のアルカリ塩の量はプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、0.001〜20質量倍である上記(1)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
(3)アルカリ塩が、融点が前記水蒸気ガス化反応温度以下のアルカリ塩の液体状物であり、前記液体状のアルカリ塩の量はプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、20質量倍以下であるである上記(1)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
(4)アルカリ塩が、液体状の炭酸リチウム、液体状の炭酸ナトリウム、及び液体状の炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(3)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【0010】
(5)アルカリ塩が、固体状の炭酸リチウム、固体状の炭酸ナトリウム、及び固体状の炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
(6)反応器内に収容した液体状のアルカリ塩へ、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を投入する上記(1)又は(3)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
(7)固体状の炭酸塩を、反応器内に収容したププラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物にふりかける上記(1)又は(2)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
(8)反応器がロータリーキルン又は流動層炉である上記(1)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
電気電子機器又は電子部品には各種プラスチック、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が多用されている。本発明でいうプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品は、前記プラスチックからなる層を有し、しかも回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品をいう。具体的には、電子計算機、携帯電話機、パソコン、携帯用オーディオ、液晶テレビや冷蔵庫等の家電製品、制御機用電子基板、電子回路基板、自動車回収された電子部品等が挙げられるが、それら具体物に限定されない。前記家電製品は、いわゆるマテリアルリサイクルに必要なプラスチックを除くことが好ましい。
本発明では、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、難燃剤入りプラスチック、ポリ塩化ビニルなどの全てのプラスチックを一度に処理できるのであり、前記廃棄物を事前に分解する必要がないという有利さがある。さらに、前記電気電子機器又は電子部品と共にバイオマスや石炭などが混入していても所期の効果を達成することができるので、その点でも有利である。
【0012】
本発明では、それら電気電子機器又は電子部品の廃棄物を水蒸気ガス化することが一つの大きな特徴であるが、当該廃棄物には使用後に廃棄される廃棄物の他、未使用であっても廃棄される物も含まれる。なお、水蒸気ガス化するまえに、前記廃棄物を小さく破断することが好ましい。
本発明でいう回路基板はすでに広く知られており、例えば何らかの機能を実現させるための機能を有するものを配置する板状物を例示できるが、それに限定されない。
【0013】
水蒸気ガス化すること自体は本出願前から知られていることであるが、本発明では、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を後述するアルカリ塩の共存下に水蒸気ガス化することにも特徴がある。具体的には、電気炉等の反応器内にて、嫌気性ガス雰囲気下、過熱水蒸気を導入して、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を500℃〜800℃、1秒〜180分程度加熱してプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を水蒸気ガス化する。なお、嫌気性ガス雰囲気とは、酸素ガスを含まないガス雰囲気を意味するが、本発明の所期の目的を果たすことができる範囲内において僅かな酸素ガスが共存していてもよい。
【0014】
本発明では、それら電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩と接触させる点が一つの特徴である。ここでいうアルカリ塩は、炭酸塩が好ましく、例えば炭酸カリウムや水酸化カリウム等のカリウム塩)、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウム等のナトリウム塩、炭酸リチウム等のアルカリ塩を例示でき、これらアルカリ塩単独あるいは2種以上の混合物として用いる。このアルカリ塩は液状としてあるいは固体状として使用することができる。
本発明では、融点が水蒸気ガス化反応温度以上のアルカリ塩を用いるときには、固体状のアルカリ塩とし、融点が水蒸気ガス化反応温度以下のアルカリ塩を用いるときには、液体状のアルカリ塩とすることが一つの大きな特徴である。前記水蒸気ガス化反応温度は、水蒸気ガス化させる対象物の種類や性状、その量等により変動するがおおむね500〜800℃の間におさまるときが多い。
【0015】
本発明の好ましい態様の一つが、融点が700℃以上の固体のアルカリ塩を用いることにある。当該アルカリ塩をプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、0.001〜20質量倍、さらに0.1〜20質量倍、さらに0.5〜20質量倍とすると、水蒸気ガス化反応を促進させ、水素ガスの収率が高まるので、その点で有利である。当該アルカリ塩を用いると、水蒸気ガス化反応温度は固体のアルカリ塩の融点に対して十分低いため、当該固体のアルカリ塩とガラス繊維との反応が抑制され、ガラス繊維はほとんど劣化しないで回収できる。また、プラスチック層に存在するハロゲン系難燃剤の分解によって生成されるハロゲン化水素やハロゲンガスも、固体の炭酸カリウムによって十分捕捉できる。
固体のアルカリ塩の中では、固体の炭酸塩を用いることが好ましく、さらには固体の炭酸カリウムを用いることが、本発明の所期の効果をもたらす点で有利である。
【0016】
本発明の好ましい他の態様の一つが、融点が600℃以下であって水蒸気ガス化反応温度以下のアルカリ塩の液体状物を用いることにあり、とくに液体状のアルカリ塩混合物を用いることにある。当該アルカリ塩をプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、20質量倍以下、さらには2質量倍以下、より好ましくは、0.5質量倍以下とすると、アルカリ塩の融点は水蒸気ガス化反応温度よりも十分低いため、液体状のアルカリ塩は廃棄物や過熱水蒸気と物理的な接触効率が高くなり、固体のアルカリ塩に比べて少量で高い触媒活性やハロゲン捕捉能を発揮する。一方、試料に付着する混合炭酸塩は極微量であるため、ガラス繊維と反応してもガラス繊維の劣化は少なく、ガラス類と反応して消耗される炭酸塩の消費量も抑制することができる。この反応では、当該アルカリ塩とガラス繊維との反応が抑制され、ガラス繊維はほとんど劣化しないで回収できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を水蒸気ガス化処理して、金属及び繊維状のガラス繊維を回収することができる。とくに、固体の炭酸カリウムを用いたときには、炭酸カリウムとガラス繊維との反応が抑制され、ガラス繊維はほとんど劣化しないで回収できる。また、プラスチックに多用される臭素系難燃剤の分解によって生成される臭素も、固体の炭酸カリウムによって十分捕捉でき、熱分解ガス中には臭化水素ガス等の有毒ガスは殆ど存在しない。また、熱分解ガス中には水素ガスを多量に存在させることも可能にした。液体状の炭酸塩混合物を微量用いると、水蒸気ガス化反応は円滑に進行し、しかもガラス繊維の劣化は少なくなるので有利である。さらに、アルカリ塩、とくに炭酸塩とガラスとの反応が抑制されるので、アルカリ塩の無駄な消耗が低減されるので、その点でも本発明は優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好ましい態様及び実施例に基いて説明する。
実施態様1
使用済み電気電子機器に多量の固体の炭酸カリウムを、粉砕ボールが予め収容されている500−800℃のロータリーキルン内で混合して水蒸気ガス化させた。
使用済み電気電子機器に使用されているプラスチックの水蒸気ガス化に対し、固体の炭酸カリウムの添加量が十分多ければ水蒸気ガス化反応を促進させ、水素の収率が高まることを見出した。また反応温度は炭酸カリウムの融点に対して十分低いため、炭酸カリウムとガラス繊維との反応が抑制され、ガラス繊維はほとんど劣化しないで回収できる。また、電気電子機器のプラスチック層に存在する難燃剤の分解によって生成される臭素も、固体の炭酸カリウムによって十分捕捉できることが確認された。
【0019】
実施態様2
使用済み電気電子機器に微量な溶融混合炭酸塩を吹き付け、水蒸気ガス化させた。
混合溶融炭酸塩(炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム)の融点は本反応温度よりも低く、液状の炭酸塩は試料や水蒸気と物理的な接触効率が高いために固体の炭酸カリウムに比べて少量で高い触媒活性や臭素捕捉能を発揮する。一方、試料に付着する混合炭酸塩は極微量であるため、ガラス繊維と反応してもガラス繊維の劣化は少なく、ガラス類と反応して消耗される炭酸塩の消費量も抑制することができる。
【0020】
以下、本発明を実施例に基いて説明する。本発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。
実施例1
表1の組成を有する両面を銅で覆われたガラス繊維強化エポキシ基板(日立化成社製、MCL-E-67)を一辺5mmの正方形に切断した試料10g、炭酸カリウム100gを1000cm3の反応器に入れ、窒素ガスを160cm3/minで流しながら昇温を開始した。反応器の温度がおよそ100℃に達した直後から水蒸気を1.0 g/min導入し、所定の温度まで約20分間で昇温した。反応器内部の温度が625℃または675℃に達してから60分間保持し、その後冷却して生成物を取りだした。反応中に反応器から流出する全ての生成物を氷水に浸したステンレス管を通すことで室温まで冷却した後、水とタール状物質とガス生成物に分離し、ガス生成物をガスバックに捕集した。
前記エポキシ基板の熱分解生成物として水素、一酸化炭素、メタン、二酸化炭素、タール状物質、および炭素残渣が得られた(表2を参照)。炭素残渣の収率は1.8%であった。炭素残渣は、反応後に反応器内に残った固体生成物を水で洗浄して炭酸カリウムを除去して回収された銅やガラス繊維に付着している重質な有機物である。本実験条件下では炭素残渣をほとんど含まないガラス繊維および銅箔をほぼ完全に回収することができた。回収されたガラス繊維を機械的に叩くと容易に銅箔が剥がれおちるので、全ての銅箔をガラス繊維から剥離させた後、ガラス繊維と銅箔を比重差で分離しそれぞれを回収した。回収した銅箔は表面が少し黒ずんでいるが、銅箔の全重量は反応器に投入した銅箔付きエポキシ強化基板の全重量の約15%に相当し(表1参照)、水蒸気ガス化反応による銅の消失あるいは酸化などはほとんど無視できることが確認された。また、反応器内部の温度が675℃のときには、臭化水素の発生をほぼ完全に抑制させることができた(表3を参照)。なお、表3の縦軸は前記反応器から流出する全ての生成物から分離した水に含まれる臭素量であり、イオンクロマトグラフィによる臭素イオンの定量分析値に基いた値である(以下、同様)。

【0021】
表1 ガラス繊維強化エポキシ基板の組成(%)
【表1】

【0022】
実施例2〜3
反応器に入れる炭酸カリウムを5g、及び20gとし、それ以外は実施例1と同様に操作した。
エポキシ基板の熱分解生成物として水素、一酸化炭素、メタン、二酸化炭素、タール状物質、および炭素残渣が得られた(表2を参照)。675℃および625℃のいずれの温度でも、炭酸カリウムの添加量を増加させるに従って炭素残渣の収率が減少し、二酸化炭素および水素の収率が増加した。反応温度が625℃あるいは675℃では、炭酸カリウムを20g以上添加すると炭素残渣の収率は2%以下となり、水で炭酸カリウムを洗浄除去すると炭素をほとんど含まないガラス繊維および銅箔をほぼ完全に回収することができた。
回収された水には難燃剤の分解によって発生した臭化水素が吸収されたが、炭酸カリウムの添加量を増加させるに従って臭素量は減少した(表3を参照)。
【0023】
比較例1
炭酸カリウムを反応器に入れず、それ以外は実施例1と同様に操作した。
エポキシ基板の熱分解生成物として水素、一酸化炭素、メタン、二酸化炭素、タール状物質、および炭素残渣が得られた(表2を参照)。675℃および625℃のいずれの温度でも、炭酸カリウムの添加量を増加させるに従って炭素残渣の収率が多く、二酸化炭素および水素の収率が減少した。炭素残渣の収率は2%以上となり、水で炭酸カリウムを洗浄除去しても炭素をほとんど含まないガラス繊維および銅箔をほぼ完全に回収することはできなかった。
回収された水には難燃剤の分解によって発生した臭化水素が多く吸収された(表3を参照)。
【0024】
表2 熱分解生成物の組成とそれらの収率(%)
【表2】

表3 熱分解生成ガス中の臭素量(g)
【表3】

【0025】
実施例4
実施例1で使用した試料10g、炭酸カリウム20gを1000 cm3の反応器に入れ、実施例1と同様に窒素および過熱水蒸気を流しながら525℃、575℃、625℃および675℃まで昇温し、反応器内部の温度が所定の温度に達してから60分間保持し、その後冷却して生成物を取りだした。反応中に反応器から流出した水とガス生成物に分離し、ガス生成物をガスバックに捕集した。
【0026】
比較例2
炭酸カリウムを反応器に入れず、それ以外は実施例4と同様に操作した。
実施例4と比較例2とから、次のことがいえる。
炭酸カリウムを添加しない場合(比較例2)、水素、一酸化炭素、およびメタンの収率は、反応温度が高くなるに従って増加した(表4を参照)。反応温度675℃で60分間水蒸気ガス化して6.6%もの炭素残渣が生成物に残り、エポキシ基板は黒色の炭素に全面覆われたガラス繊維および銅箔として回収された。これに対して炭酸カリウムを20g添加すると(実施例4)、反応温度が高くなるに従って水素、一酸化炭素、およびメタンの収率は増加し、炭素残渣の収率は減少した。反応温度625℃以上では炭素残渣の収率はおよそ2%程度であり、水で炭酸カリウムを洗浄すると炭素をほとんど含まないガラス繊維および銅箔をほぼ完全に回収することができた。
炭酸カリウムを添加しない場合、難燃剤の分解によって発生した臭化水素量は反応温度が高くなるに従って増加したが、炭酸カリウムを20g添加すると反応温度が高くなっても発生する臭化水素量の増加を完全に抑制することができた(表5を参照)。
【0027】
表4 熱分解生成物の組成とそれらの収率(%)
【表4】

表5 熱分解生成ガス中の臭素量(g)
【表5】

【0028】
実施例5
実施例1で使用した試料10g 、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および炭酸リチウムを各1.0 gずつ(合計3.0 g)1000 cm3の反応器に入れ、実施例1と同様に窒素ガスおよび水蒸気を流しながら625℃および675℃まで昇温し、60分間保持した。実施例1と同様に反応器から流出した水とガス生成物に分離し、ガス生成物をガスバックに捕集した。
【0029】
比較例3
炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および炭酸リチウムを反応器に入れず、それ以外は実施例5と同様に操作した。
実施例5と比較例3とから、次のことがいえる。
混合炭酸塩を添加しない場合では(比較例3)、水素、一酸化炭素、およびメタンの収率は、あまり増加せず、エポキシ基板は黒色の炭素に全面覆われたガラス繊維および銅箔として回収された。これに対して混合炭酸塩を3.0 g添加すると(実施例5)、反応温度625℃および675℃のいずれの場合でも、水素、一酸化炭素、メタン、および二酸化炭素の収率が増加した。一方、炭素残渣の収率が顕著に低下し、特に675℃では1%程度となり、水で混合炭酸塩を洗浄すると炭素をほとんど含まないガラス繊維および銅箔をほぼ完全に回収することができた。ガラス繊維を機械的に叩くと容易に銅箔が剥がれおちるので、全ての銅箔をガラス繊維から剥離させた後、ガラス繊維と銅箔を比重差で分離しそれぞれを回収した。
炭酸塩を添加しない場合、エポキシ基板に含まれる難燃剤の分解によって回収した水には多くの臭化水素が検出され、臭素の回収量は反応温度が高くなるに従って増加した。一方3.0gの混合炭酸塩を添加すると、回収水に含まれる臭素濃度は劇的に減少した。

【0030】
表6 熱分解生成物の組成とそれらの収率(%)
【表6】

表7 熱分解生成ガス中の臭素量(g)
【表7】

【0031】
本発明は,次のように記載することができる。
(1)嫌気性ガス雰囲気中にて、過熱水蒸気を導入させると共に反応器内に収容したプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩と接触させて前記プラスチックを水蒸気ガス化させるプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法であって、前記水蒸気ガス化反応後に繊維状のガラス繊維を回収することができることを特徴とするプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法。
(2)アルカリ塩が、融点が700℃以上の固体状のアルカリ塩であり、前記固体状のアルカリ塩の量はプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、0.001〜20質量倍である(1)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法。
(3)アルカリ塩が、融点が600℃以下の液体状のアルカリ塩であり、前記液体状のアルカリ塩の量はプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、20質量倍以下である(1)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法。
【0032】
(4)アルカリ塩が、液体状の炭酸リチウム、液体状の炭酸ナトリウム、及び液体状の炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である(3)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法。
(5)アルカリ塩が、固体の炭酸カリウムである(2)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法。
(6)反応器内に収容した液体状のアルカリ塩へ、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を投入する(3)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法。
(7)反応器がロータリーキルン又は流動層炉である(1)記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の処理方法。
(8)窒素ガス及び過熱水蒸気雰囲気中にて、反応器内に収容したプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を炭酸塩と接触させて前記プラスチックを熱分解ガス化し、次いで前記熱分解ガス化物から水素ガスを分離することを特徴とする水素ガスの製造方法。
(9)嫌気性ガス雰囲気中にて、過熱水蒸気を導入させると共に反応器内に収容したプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩と接触させて前記プラスチックを水蒸気ガス化させるプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物の水蒸気ガス化処理方法。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性ガス雰囲気中にて、過熱水蒸気を導入させると共に反応器内に収容したプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物をアルカリ塩と接触させて前記プラスチックを水蒸気ガス化させるプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維を回収する方法であって、前記アルカリ塩が、(1)融点が前記水蒸気ガス化反応温度以上の固体状のアルカリ塩、又は(2)融点が前記水蒸気ガス化反応温度以下のアルカリ塩の液体状物であることを特徴とするプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【請求項2】
融点が前記水蒸気ガス化反応温度以上の固体状のアルカリ塩の量は、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、0.001〜20質量倍である請求項1記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【請求項3】
融点が前記水蒸気ガス化反応温度以下のアルカリ塩の液体状物の量は、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を基準にして、10質量倍以下である請求項1記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【請求項4】
アルカリ塩が、液体状の炭酸リチウム、液体状の炭酸ナトリウム、及び液体状の炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は3記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【請求項5】
アルカリ塩が、固体状の炭酸リチウム、固体状の炭酸ナトリウム、及び固体状の炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【請求項6】
反応器内に収容した液体状のアルカリ塩へ、プラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物を投入する請求項1又は3記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【請求項7】
固体状の炭酸塩を、反応器内に収容したププラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物にふりかける請求項1又は2記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。
【請求項8】
反応器がロータリーキルン又は流動層炉である請求項1記載のプラスチック層を有し、回路基板を組み込んだ電気電子機器又は電子部品の廃棄物から金属及びガラス繊維の回収方法。





【公開番号】特開2012−86118(P2012−86118A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233146(P2010−233146)
【出願日】平成22年10月16日(2010.10.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】