説明

アルカリ増粘剤

【課題】 塗工紙を製造するために用いられるアルカリ増粘剤が、フィルターやポンプを通過する際、ポンプを破損させ、フィルターを詰まらせるという問題を緩和し、好ましくは実質的に解消する。
【解決手段】
単量体(A)と単量体(B)との共重合体のエマルジョンから成り、単量体(A)は(メタ)アクリル酸、単量体(B)は、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルであり、単量体(A)と単量体(B)の合計を基準として、単量体(A)は30〜70重量%であり、pH調整剤が配合されることで、上記共重合体エマルジョンのpHは3.5〜6.0に調整され、pH調整後の上記共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、50〜300nmであるアルカリ増粘剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙業界で使用される塗工液、水性塗料、及び化粧料等に配合されるアルカリ増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、印刷用紙には、平滑性、光沢性及び印刷適性等を改善するため、その表面に塗工液を塗工して形成される塗布層が設けられている。印刷用紙を製造するために、通常、印刷用紙の基材を走行させ、その表面に塗工液が連続的に塗布される。塗工液の膜厚を所望の膜厚にするために、過剰の塗工液がブレードと呼ばれるヘッドを用いて除去される。塗工液の層は乾燥され、塗工液に含まれる水が除去されて、基材上に目的とする塗布層が形成される。得られた印刷用紙は所定のサイズに裁断されて使用される。
【0003】
本明細書において、「塗工液」とは、塗工機と繋がったタンク(以下、「調整タンク」ともいう)内で調整されたものをいい、塗工液の種々の構成成分の各々をフィルターで濾過して、ポンプによって調整タンクに送り、調整タンク内で攪拌、混合等を行い調整することで塗工液が得られる。
【0004】
塗工液構成成分として、例えば、スチレンブタジエン系共重合体及び澱粉等のバインダー成分、クレー、重質炭酸カルシウム等の顔料を例示することができるが、基材に均一な塗布層を形成し易いように、一般的に増粘剤が配合され、塗工液の粘度が調整されている。
【0005】
増粘剤として、例えば、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合エマルジョンが既知である(例えば、特許文献1参照)。このようなエマルジョンは、調整タンクに供給された後、アルカリ領域にpHを調整すると増粘する。これは、pHをアルカリ領域に調整することで、共重合エマルジョンのミセルが壊れ、高粘度の水溶液が生成することで、塗工液全体の粘度も増大すると考えられている。通常、このように、pHをアルカリ領域に調整することで増粘するエマルジョンは、「アルカリ増粘剤」と呼ばれている。
【0006】
塗工液の構成成分として、かかるアルカリ増粘剤もフィルターやポンプを介して調整タンクへ供給されるが、フィルター内やポンプ内に凝集物が蓄積し得るという問題がある。これは、アルカリ増粘剤がフィルターやポンプを通過する際、アルカリ増粘剤のエマルジョン粒子にシェアがかかり、その結果、粒子が壊れ、凝集物が生ずると考えられる。従って、エマルジョン粒子の機械的安定性を向上させることによって、凝集物の発生を防止することができると考えられる。
【0007】
エマルジョン粒子の粒子径と機械安定性との関係について、いくつかの知見が知られている。例えば、ポリスチレンラテックスの場合には粒子径が小さいほど高い安定性が得られ、ポリ酢酸ビニルラテックスの場合には粒子径が大きいほど高い安定性が得られることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、(メタ)アクリル酸エマルジョン全般については、粒子径が安定性に及ぼす影響については知られていない。尚、後安定化について、カルボキシル化ラテックスの場合には、アルカリ添加で改良されることもあるが、例外的と考えるのが妥当ということも知られている(非特許文献2参照)。
【0008】
このように、カルボキシル基を含む樹脂エマルジョン、特に(メタ)アクリル酸の割合が高い樹脂エマルジョンを安定化させる方法については、知られていない。
特許文献1では、アルカリ増粘剤(特許文献1では流動性改質剤という)はpH7〜11のアルカリ領域で調整されている。アルカリ増粘剤のpHをアルカリ領域とすると、エマルジョン粒子のミセル破壊がより進行し、エマルジョンではなくなり、水溶液が生成してしまう。水溶液はエマルジョンよりも粘度が高いので、高粘度となったアルカリ増粘剤もフィルターやポンプを通過することが困難になる。粘度が高くなり過ぎないように、アルカリ増粘剤を低pH領域で調整すると、エマルジョン粒子がポンプ内のシェアで壊れやすくなり、凝集物が発生してしまうことがある。
このように、フィルターやポンプを容易に通過するアルカリ増粘剤を開発することが課題であり、現時点では、この課題を解決するアルカリ増粘剤は未だ見出されてはいない。
【0009】
【特許文献1】特開2002−180029号公報
【非特許文献1】室井宗一、森野郁夫著、「新高分子文庫26高分子ラテックス」、(株)高分子刊行会、1998年12月20日発行、第60頁
【非特許文献2】室井宗一、森野郁夫著、「新高分子文庫26高分子ラテックス」、(株)高分子刊行会、1998年12月20日発行、第68頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためなされたものであり、フィルターやポンプを通過する際、ポンプを破損させるという問題、フィルターを詰まらせるという問題を緩和し、好ましくは実質的に解消するアルカリ増粘剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、エマルジョン粒子を壊れにくくすることで凝集物の発生を防げる点に着目した。その結果、(メタ)アクリル酸を他の単量体と共重合させてエマルジョンを製造する際、単量体混合物中の(メタ)アクリル酸の割合を高くすること、エマルジョンのpHを特定の範囲に調整する事で粒子表面に電荷を付与すること、かつ、エマルジョン粒子の粒子径を特定の範囲に調整することで、エマルジョン粒子が壊れにくくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は一の要旨において、新たなアルカリ増粘剤を提供し、それは、
単量体(A)と単量体(B)との共重合体のエマルジョンから成るアルカリ増粘剤であって、
単量体(A)は(メタ)アクリル酸、
単量体(B)は、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルであり、
単量体(A)と単量体(B)の合計を基準として、単量体(A)は30〜70重量%であり、
pH調整剤が配合されることで、上記共重合体エマルジョンのpHは3.5〜6.0に調整され、
pH調整後の上記共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、50〜300nmである
アルカリ増粘剤である。
【0013】
本発明の他の態様において、上記pH調整剤が配合される前の、上記共重合体エマルジョンの粒子径は45〜280nmである上述のアルカリ増粘剤が提供される。
また、本発明の好ましい態様において、上記pH調整剤は、弱塩基である上述のアルカリ増粘剤が提供される。
【0014】
本発明のアルカリ増粘剤では、単量体(A)と単量体(B)を共重合してエマルジョンを得る際に、単量体(A)及び単量体(B)の合計(100重量%)を基準として、単量体(A)が30〜70重量%であるようにして重合する。(即ち、一般的な共重合体エマルジョンと比較して、単量体(A)及び(B)の合計を基準(100重量%)として、単量体(A)の量を、比較的高くして重合する。)その後、得られた共重合体エマルジョンのpHが3.5〜6.0と成るように調整される。重合工程及びpH調整工程によって、エマルジョン粒子の粒子径が上述の特定値であるよう調整される。
【0015】
共重合体エマルジョンは、一般的な共重合体エマルジョンと比較して、単量体(A)及び(B)の合計(100重量%)を基準として、単量体(A)の量が、比較的高い特定量に調整された共重合体エマルジョンであり、この共重合体エマルジョンのpHが、特定のpH領域に調整されることで粒子表面に適度の電荷が付与され、かつ、取り扱いに好適な粘度を保つ事ができることになると考えられる。さらに、特定のpH領域にpHが調整され、エマルジョン粒子の粒子径が特定の粒子径とされることで、解離したカルボキシル基が、適度の粒子径のエマルジョン粒子表面にある程度発生することとなるので、粒子同士に適度の反発力が生じ得る。エマルジョン粒子がポンプやフィルター内を通過する際にはシェアが発生するが、エマルジョン粒子は粒子間のそのような反発力によって破壊されにくくなる。従って、ポンプやフィルター内に凝集物が生成しにくくなると考えられる。
【0016】
本発明の他の要旨において、上記アルカリ増粘剤を含む塗工液を提供する。
尚、本明細書において「塗工液(又は塗工組成物)」とは、アルカリ増粘剤の他に、バインダー成分及び顔料等を含むことができ、必要に応じてその他添加剤も含有する。アルカリ増粘剤、顔料(例えば、カオリン及び炭酸カルシウム等)及びバインダー等との間に大きな相互作用が生じることにより、塗工液の保水性及び流動性等を更に向上させることができる。
【0017】
本発明の好ましい要旨において、上記塗工液が紙基材表面に塗工されて形成された塗布層を有する塗工紙を提供する。塗工紙には、保水性、流動性に優れた塗工液から形成された塗布層が設けられている。塗工液の保水性が優れているので紙内部に塗工液中の成分(例えば、水及びバインダー等)が浸透することもなく、塗工液の流動性が高いので均一な塗布層が紙基材表面に形成され得る。
【0018】
本発明の他の好ましい要旨において、
単量体(A)と単量体(B)との共重合体のエマルジョンから成るアルカリ増粘剤の製造方法であって、
単量体(A)は(メタ)アクリル酸、
単量体(B)は、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルであり、
単量体(A)と単量体(B)の合計を基準として、単量体(A)は30〜70重量%となるように、単量体(A)と単量体(B)を共重合して共重合体エマルジョンを得る工程、及び
上記共重合体エマルジョンにpH調整剤を配合することによって、上記エマルジョンのpHを3.5〜6.0に調整する工程
を有し、
pH調整剤の配合後の上記共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、50〜300nmとなるようにする
ことを特徴とするアルカリ増粘剤の製造方法を提供する。
【0019】
上述の製造方法を用いることで、機械的安定性の高いエマルジョンが得られ、アルカリ増粘剤として好適なものを得ることができる。
本発明の他の態様において、上記エマルジョンのpHを調整する工程の前の、上記共重合エマルジョンの粒子径は、45〜280nmとなるようにする上述のアルカリ増粘剤の製造方法を提供する。
また、本発明の他の好ましい態様において、上記pH調整剤は、弱塩基である上述のアルカリ増粘剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るアルカリ増粘剤は、(メタ)アクリル酸が30〜70重量%となるように単量体(A)及び(B)を共重合して得られたエマルジョンが、3.5〜6.0のpHに調整されることで電荷が適度に付与され、エマルジョン粒子の粒子径が50〜300nmであることで、エマルジョン粒子の機械的安定性が向上し、高くなる。従って、本発明に係るアルカリ増粘剤はフィルターやポンプを通過する際に、エマルジョン粒子が壊れ難く、凝集物の発生を減少させるので、ポンプを破損させるという問題、フィルターを詰まらせるという問題を緩和し、好ましくは実質的に解消することができる。
【0021】
更に、本発明に係るアルカリ増粘剤は、pH調整剤を配合して、pHを調整する前の上記共重合体エマルジョンの粒子径が45〜280nmである場合、機械的安定性がより向上し、更に粘度が低く取り扱いが容易になり得る。
【0022】
また、本発明に係るアルカリ増粘剤は、上記pH調整剤が、弱塩基である場合、pH調整剤をより高濃度で添加することができるので、得られるエマルジョンの濃度の著しい低下を抑制し得る。更に、得られるエマルジョンの粘度を著しく上昇させることなく、エマルジョンの機械的安定性がより向上し得る。
【0023】
本発明に係る塗工液は、上述のアルカリ増粘剤を含むので、塗工液を製造する際に、ポンプを破損させるという問題、フィルターを詰まらせるという問題を緩和し、好ましくは実質的に解消することができ、更に、バックフロー、ブリーディング、ストリーク等を減少させ、塗工性を向上することができる。
【0024】
本発明に係る塗工紙は、上述の塗工液が、紙基材表面に塗工されて形成された塗布層を有するので、白度、光沢、印刷適性等を向上することができる。また、塗工紙を製造する際に使用する塗工液を製造する際に、ポンプを破損させるという問題、フィルターを詰まらせるという問題を緩和し、好ましくは実質的に解消することができる。
【0025】
更に、本発明に係るアルカリ増粘剤の製造方法を用いることで、ポンプを破損させるという問題、フィルターを詰まらせるという問題を緩和し、好ましくは実質的に解消することができるアルカリ増粘剤を製造することができる。更に、pH調整剤として、弱塩基を用いることで、エマルジョン濃度を著しく低下させることなく、また、エマルジョンの粘度を著しく上昇させることなく、エマルジョンの機械安定性をより向上したアルカリ増粘剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、新規なアルカリ増粘剤を提供し、それは、
単量体(A)と単量体(B)との共重合体のエマルジョンから成るアルカリ増粘剤であって、
単量体(A)は(メタ)アクリル酸、
単量体(B)は、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルであり、
単量体(A)と単量体(B)の合計を基準として、単量体(A)は30〜70重量%であり、
pH調整剤が配合されることで、上記共重合体エマルジョンのpHは3.5〜6.0に調整され、
pH調整後の上記共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、50〜300nmである
ことを特徴とするアルカリ増粘剤である。
【0027】
本発明において「単量体(A)」とは(メタ)アクリル酸であり、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の双方を示す。単量体(A)には、アクリル酸、メタクリル酸及びアクリル酸とメタクリル酸の組み合わせが含まれる。
【0028】
本発明において「単量体(B)」とは、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルである。
「重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステル」として、例えば、クロトン酸等の一塩基酸及びそれらのエステル及び(メタ)アクリル酸エステルを例示することができる。また、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基酸及びそれらのエステルを例示することができる。
これらのカルボン酸及びそのエステルを単独で又は組み合わせて、単量体(B)として使用できる。
【0029】
ここで、エステルには、通常、上述の重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸のエステルとして知られる化合物が含まれ、カルボン酸が、二塩基酸の場合、モノエステル及びジエステルが含まれる。そのようなエステルには、例えば、アルキルエステル及びヒドロキシアルキルエステルが含まれ、更に、上述の重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸とポリアルキレンオキサイド及びそのモノアルキルエーテル等(例えば、下記化学式1参照)とのエステルが含まれる。
(化学式1):H−(OR−R
[但し、Rは、2以上の炭素原子を有するアルキレン基であり、
は、OH基、アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基であり、
xは、0以上の整数である。]
【0030】
単量体(B)として、例えば、下記化学式2に示す化合物を例示することができる。
(化学式2):RC=CRCO−(OR−R
[但し、Rは、2以上の炭素原子を有するアルキレン基であり、
は、OH基、アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基であり、
xは、0以上の整数であり、
は、H、CH又はCOOHであり、
は、H、CH又はCOOHであり、
は、H、CH又はCOOHである。]
【0031】
単量体(B)として、より具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを例示することができる。ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリレートとメタクリレートの双方を示す。
ここで、(メタ)アクリル酸エステルには、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが含まれ、更に(メタ)アクリル酸と、ポリアルキレンオキサイドのモノアルキル(又はアルキルフェニル)エーテル等とのエステル(例えば、化学式2において、R=R=H、R=H又はCHの化合物である。例えば、下記化学式3参照)が含まれる。
(化学式3):CH=C(H又はCH)CO−(OR−R
[但し、Rは、2以上の炭素原子を有するアルキレン基であり、
は、OH基、アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基であり、
xは、0以上の整数である。]
【0032】
「(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、化学式3において、R=アルコキシ基、x=0の化合物)」として、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ベヘニル及びドコシル(メタ)アクリレート等を例示することができる。
「(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(例えば、化学式3において、R=2以上の炭素原子を有するアルキレン基、R=OH基、x=1の化合物)」として、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等を例示できる。
単量体(B)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレート、エチルアクリレート及びブチルアクリレートが特に好ましい。
【0033】
更に、「(メタ)アクリル酸と、ポリアルキレンオキサイドのモノアルキル(又はアルキルフェニル)エーテルとのエステル(例えば、化学式3において、R=2以上の炭素原子を有するアルキレン基、R=アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基、x=2以上の化合物)」として、
ラウリルポリエトキシ(23)メタクリレート
[CH=C(CH)CO−(OCHCH23−OC1225]、
ベヘニルポリエトキシ(25)メタクリレート
[CH=C(CH)CO−(OCHCH25−OC2245]、
ベヘニルポリエトキシ(25)アクリレート
[CH=CH−CO−(OCHCH25−OC2245]。
ベヘニルポリエトキシ(25)メタクリレート
を例示することができ、これらの化合物がより好ましい。
【0034】
また、単量体(B)として、マレイン酸エステル(例えば、化学式2において、R=R=H、R=COOHの化合物、例えば、化学式4参照)を例示することができる。
(化学式4):HOOCCH=CHCO−(OR−R
[但し、Rは、2以上の炭素原子を有するアルキレン基であり、
は、OH基、アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基であり、
xは、0以上の整数である。]
マレイン酸エステルとして、例えば、マレイン酸アルキルエステル、マレイン酸ヒドロキシアルキルエステル、マレイン酸と、ポリアルキレンオキサイドのモノアルキル(又はアルキルフェニル)エーテルとのエステル等を例示することができる。具体的には、
ラウリルポリエトキシ(23)マレエート
[HOOC−CH=CH−CO−(OCHCH23−OC1225]、
等を例示することができる。
尚、化学式2〜4に示された化合物として、R=炭素原子数2〜4のアルキレン基、x=1〜150、R=OH基、アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基である化合物が好ましく、R=炭素原子数2〜4のアルキレン基、x=15〜30、R=炭素原子数8〜30のアルコキシ基又はアルキルフェノキシ基である化合物がより好ましい。
【0035】
また、単量体(B)として、下記化学式5に示す化合物(即ち、イタコン酸)と、上記化学式1に示した化合物とのエステル反応生成物も好ましい。
(化学式5):CH=C(COOH)CHCOOH
ここで、エステル反応生成物として、例えば、イタコン酸が二種類のカルボキシル基を有することに対応する二種類のモノエステルと、その二種類のカルボキシル基が共にエステル化されたジエステルを例示することができ、エステル反応生成物には、それらが含まれ得る。尚、未反応の化学式1に示した化合物及び化学式5に示した化合物も、本発明が目的とするアルカリ増粘剤を得られる限り、含まれていてもよい。エステル反応生成物に含まれる化合物の割合は、エステル反応条件によって種々変わるが、モノエステルが主に含まれることが好ましく、実質的にモノエステルのみが含まれることがより好ましい。
【0036】
化学式5に示す化合物と上記化学式1に示した化合物とのエステル反応生成物として、化学式1のxは15〜30、Rは炭素数が8〜30のアルコキシ基又はアルキルフェノキシ基であることが好ましく、そのような反応生成物として下記化合物を例示できる:
ヘプタデシルポリ(オキシエチレン)19エチルメチレンスクシネート、
オクタデシルポリ(オキシエチレン)19エチルメチレンスクシネート、
エイコシルポリ(オキシエチレン)24エチルメチレンスクシネート、
ペンタデシルポリ(オキシエチレン)14エチルメチレンスクシネート、
p−ヘキサフェノキシポリ(オキシエチレン)15エチルメチレンスクシネート、
オクタデシルポリ(オキシエチレン)19エチルメチレンスクシネート、
エイコシルポリ(オキシエチレン)24エチルメチレンスクシネート、
ペンタデシルポリ(オキシイソプロピレン)14エチルメチレンスクシネート。
これらの単量体(B)として例示した化合物は、単独で又は組み合わせて、単量体(B)として使用できる。
【0037】
単量体(B)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ポリアルキレンオキサイドのモノアルキル(又はアルキルフェニル)エーテルのエステル[例えば、化学式2において、R=2以上(好ましくは2〜4)の炭素原子を有するアルキレン基、R=アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基、x=2以上(好ましくは8〜30)である化合物、例えば、化学式5に示す化合物と化学式1に示す化合物とのエステル反応生成物において、化学式1のR=2以上(好ましくは2〜4)の炭素原子を有するアルキレン基、R=アルコキシ基又はアルキルフェノキシ基、x=2以上(好ましくは8〜30)である反応生成物]との組み合わせが好ましい。
【0038】
本発明に係るアルカリ増粘剤は、上述の単量体(A)と単量体(B)を共重合して得られる共重合体エマルジョンから成り、通常、例えば、水等の媒体に分散している。
【0039】
単量体(A)及び(B)の合計を基準(100重量%)として、単量体(A)を30〜70重量%共重合させることが好ましく、40〜60重量%共重合させることがより好ましい。単量体(A)及び(B)の合計を基準(100重量%)として、単量体(B)を30〜70重量%共重合させることが好ましく、40〜60重量%共重合させることがより好ましい。
【0040】
単量体(A)及び(B)の合計を基準とする、単量体(A)の割合が30重量%未満の場合、粒子の安定化に寄与するカルボキシル基の量が少なくなり、増粘性が低下するとともに塗工液の保水性が低下し、塗工時の流動性が低下するという問題を生ずる。
単量体(A)及び(B)の合計を基準とする、単量体(A)の割合が70重量%を超える場合、共重合体の鎖の水溶性が高くなりすぎるので、pH調整前の粒子が非常に不安定になる。たとえ、pHの調整を行ったとしても、粒子自身の安定化が不十分になり得るという問題を生ずる。
【0041】
上述の共重合体エマルジョンにおいて、更に、必要に応じて、単量体(C):エチレン性二重結合を有するその他の単量体から選択される少なくとも一種を共重合してもよい。「エチレン性二重結合を有するその他の単量体」とは、上述の単量体(A)及び(B)以外の単量体であって、上述のエチレン性二重結合を有する官能基を少なくとも一種含有する単量体であり、本発明のアルカリ増粘剤の特性に悪影響を与えないものであれば、特に制限されることなく、適宜使用することができる。
単量体(C)として、例えば、以下の化合物を例示できる。
(C1)スチレン及びビニルトルエン等のスチレン及びイソプロピルスチレン、p−クロロスチレン等のスチレンの誘導体;
(C2)エチレン等のアルケン類;
(C3)酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル等のビニル化合物;
(C4)塩化ビニル及び塩化ビニリデン等の塩素化されたビニル化合物;
(C5)アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアノ基を有するエチレン性炭素原子間二重結合を有する化合物;
(C6)エチレン性二重結合、親水基(例えば、炭素原子数2〜50のポリエチレンオキシド鎖、炭素原子数2〜50の多価アルコール鎖等)、並びに親油基(例えば、炭素原子数9〜24のアルキル基及び芳香族環等)を有する両親媒性のエチレン性二重結合を有する化合物(尚、エチレン性二重結合、親水基及び親油基は、各々直接又はいずれかの結合、例えば、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレア結合及びウレタン結合等を介して結合してもよい);
(C7)ブタジエン及びイソプレン等のジエン類、エチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン及び等のエチレン性二重結合を二つ以上有する化合物;
(C8)場合により0.5〜1重量%用いられるフタル酸ジアリル、クロトン酸ビニル、メタクリル酸アリル、ジビニルベンゼン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート等のポリエチレン性のエチレン性二重結合を二つ以上有する不飽和単量体
これら単量体(C1)〜(C8)は、市販品を用いることができ、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明に係る共重合体エマルジョンの製造方法は、目的とする共重合体エマルジョンを得ることができる限り特に制限されるものではない。本発明においては、上述の単量体(A)及び(B)を含んで成る単量体混合物を重合する工程を含む製造方法、又は単量体(A)及び(B)に加えて、更に単量体(C)を含んで成る単量体混合物を重合する工程を含む製造方法を用いて、上述のアルカリ増粘剤を製造することができる。尚、目的とする共重合体を得られる限り、単量体(A)及び(B)、必要に応じて重合される単量体(C)を全て混合して単量体混合物を得た後重合させる必要はなく、単量体(A)及び(B)、必要に応じて重合される単量体(C)を適宜反応器内に加えながら重合してもよい。単量体を加えて重合させる順序は、目的に応じて適宜選択され得、単量体は同時に重合されても、いずれの単量体が先に重合されてもよい。
【0043】
上述の単量体は、常套の重合方法を用いて重合されるが、重合は、水性媒体中で、乳化重合を用いて行うことが好ましい。
ここで「水性媒体」とは、一般的な水、例えば蒸留水、イオン交換水、及び純水等をいうが、上述の共重合体のエマルジョンの特性に悪影響を与えない範囲で水溶性又は水に分散可能な有機溶剤、単量体、及びオリゴマー等を含んでもよく、共重合体エマルジョンの製造の際に通常使用される乳化剤、重合反応開始剤、還元剤、連鎖移動剤、及びpH調整剤等の各種添加剤を含んでもよい。
重合の反応温度、反応時間、媒体、媒体中の各々の単量体の濃度、重合開始剤及び乳化剤の種類及び濃度、並びに攪拌速度等の重合反応条件は、目的とするアルカリ増粘剤の特性及び形態等によって当業者であれば容易に適宜選択できるものである。媒体中での重合は回分式でも連続式でも行うことができる。
【0044】
重合には、重合開始剤を用いるのが好ましい。ここで「重合開始剤」とは、少量の添加によって単量体の重合反応を起こさせることができる化合物をいい、水性媒体中で使用できるものが好ましい。そのような重合開始剤として、例えば、過酸化水素、水溶性無機過酸化物、並びに水溶性還元剤と水溶性無機過酸化物の組み合わせや水溶性還元剤と有機過酸化物の組み合わせを例示できる。「水溶性無機過酸化物」として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムを例示できる。
【0045】
「水溶性還元剤」として、例えば、通常、ラジカル酸化還元重合触媒として用いられる水に可溶性の還元剤を使用できる。そのような還元剤として、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、スルフィン酸、L−アスコルビン酸とそのナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩、エチレンジアミン四酢酸とそのナトリウム塩及びカリウム塩、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩と鉄、銅、もしくはクロム等の重金属との錯化合物、並びに還元糖等を例示できる。
【0046】
「水溶性有機過酸化物」として、例えば、クメンヒドロペルオキシド、p−サイメンヒドロペルオキシド、t−ブチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、デカリンヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、イソプロピルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類を例示できる。
【0047】
また、上述の単量体の重合に乳化重合を用いる場合、通常、乳化剤が使用される。「乳化剤」とは、水性溶媒と単量体とのエマルジョンを形成させるために使用する界面活性剤であって、好ましくは重合反応に悪影響を与えない界面活性剤であれば、特に制限されるものではない。乳化剤として、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤から選択される少なくとも一種を使用することができる。
【0048】
「アニオン性界面活性剤」として、例えば、以下の化合物を例示できる。
(AS−1)アルキル硫酸エステル、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、及び油脂・ロウの硫酸エステル等の硫酸エステルの塩(例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等);
(AS−2)ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルおよび高級アルコールリン酸エステル等のリン酸エステルの塩(例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等);
(AS−3)アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸、α−スルホン化脂肪酸、α−スルホン化脂肪酸エステル等のスルホン酸の塩(例えば、アルカリ金属塩、及びアンモニウム塩及びアミン塩等);
並びに(AS−4)脂肪酸の塩(例えば、アルカリ金属塩)。
【0049】
より具体的には、アニオン性界面活性剤として、例えば、以下の化合物を例示できる:(AS−1−1)ポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)オクチルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)ノニルフェニルエーテル硫酸エステル、及びポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)アルキル(炭素数6〜22)エーテル硫酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩;並びに(AS−2−1)ポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)オクチルフェニルエーテルリン酸モノエステル、ポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)オクチルフェニルエーテルリン酸ジエステル、ポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)ノニルフェニルエーテルリン酸モノエステル、ポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)ノニルフェニルエーテルリン酸ジエステル、ポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)アルキル(炭素数6〜22)エーテルリン酸モノエステル、及びポリオキシエチレン(エチレンオキシド付加モル数2〜100)アルキル(炭素数6〜22)エーテルリン酸ジエステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩。アニオン性界面活性剤は、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0050】
また、「ノニオン性界面活性剤」として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルグリセリンホウ酸エステル、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのエチレンオキシド付加物、及び脂肪酸アミドエチレンオキシド付加物等、ポリオキシエチレン鎖を分子内に有し、界面活性能を有するポリオキシエチレン鎖含有化合物を例示できる。
【0051】
更に、「ノニオン性界面活性剤」として、上述のポリオキシエチレン鎖含有化合物の有するポリオキシエチレン鎖が、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合によって得られるポリアルキレンオキシド鎖(エチレンオキシドとプロピレンオキシドは、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい)で置換されている化合物を例示できる。また、ノニオン性界面活性剤として、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトールの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテルおよびアルカノールアミン類の脂肪酸アミド等を例示できる。ノニオン性界面活性剤は、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0052】
乳化剤として、重合性乳化剤を使用することもできる。「重合性乳化剤」として、例えば、ビニルスルホン酸ナトリウム、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸のナトリウム塩及びアンモニウム塩、ポリエチレンオキシドノニルプロペニルエーテルサルフェートのナトリウム塩及びアンモニウム塩を例示できる。また、重合性乳化剤として、市販の重合性乳化剤を使用でき、例えば、三洋化成製のエレミノールJS−2(商品名)及びエレミノールRS30(商品名)、旭電化製のアデカリソープSE10(商品名)、並びに第一工業製薬製のアクアロンHS10(商品名)を例示できる。乳化剤は、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0053】
単量体の重合に乳化重合を用いる場合、重合開始剤及び乳化剤を含有する水性媒体に、所定の割合の単量体(A)及び(B)を加え、必要に応じて単量体(C)を加え、45〜95℃の温度で重合するのが好ましい。この場合、本発明のアルカリ増粘剤は、単量体(A)及び(B)が重合した共重合エマルジョン、もしくは必要応じて更に単量体(C)が重合した共重合エマルジョンの形態(懸濁液、もしくは乳濁液の形態等)として得ることができる。好ましくは共重合体が均一に分散した懸濁液、乳濁液、ラテックス、エマルジョン等の形態で得ることができる。
【0054】
本発明では、単量体(A)と単量体(B)を重合させ、場合により単量体(C)を重合し、得られた共重合エマルジョンにpH調整剤が配合されたものがアルカリ増粘剤として得られ、使用される。
【0055】
本発明に係るアルカリ増粘剤は、pH調整剤を用いてエマルジョンのpH調整を行い、エマルジョンのpHを特定の範囲にする事で、後述するように、共重合体エマルジョンが、水等の媒体中で、pH調整剤と反応して塩の形態となっている。より具体的には共重合体エマルジョン中のカルボキシル基の一部が、カルボン酸塩になっている。pH調整によって得られるアルカリ増粘剤のpHは3.5〜6.0であり、4.5〜5.5であることが好ましい。尚、「アルカリ増粘剤のpH」とは、アルカリ増粘剤がエマルジョン状態なので、媒体を含む流体そのもののpHを意味する。pH測定には、pHメーターが使用される。
【0056】
更に、単量体(C)を共重合させる場合、単量体(A及び(B)に加えて、単量体(C)を重合して得られる共重合体がpH調整剤を用いてpHが調整されているアルカリ増粘剤であってよい。pHの調整によって得られるアルカリ増粘剤のpHは、3.5〜6.0であることが好ましく、4.5〜5.5であることがより好ましい。
【0057】
エマルジョンのpHが3.5より低い場合、カルボキシル基の解離が十分ではないので、粒子の安定化も低くなるという問題を生ずる。pHが6.0を超える場合、エマルジョン粒子の破壊が進行し、エマルジョン状態を維持しにくくなり、粘度が著しく上昇するという問題を生ずる。
【0058】
本発明における「pH調整剤」とは、水中で6より大きいpHを示し、共重合体エマルジョンのpHを調整することができる物質をいう。pH調整剤として、例えば、一価の金属及び二価の金属の水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、アンモニア、並びに有機アミン等を例示することができる。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、アンモニア水、二リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ペンタ2スルホン酸ナトリウム、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノカルボン酸塩(例えば、蟻酸塩及び酢酸塩等)、ジカルボン酸塩が好ましい。これらは、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0059】
pH調整剤として、弱塩基が好ましく、弱酸の塩がより好ましい。弱塩基とは、一般に弱塩基とされるものであって、本発明が目的とするアルカリ増粘剤を得ることができるものであれば特に制限されるものではないが、通常、弱塩基とは、一般的な濃度の水溶液にしたとき、水酸化物イオンを生じる電離度が著しく小さい塩基をいう。弱塩基として、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア水、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、蟻酸塩、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウム等)、プロピオン酸塩、クエン酸塩等を例示できる。更に、弱酸の塩として、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、蟻酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩等を例示できる。
【0060】
本発明に係るアルカリ増粘剤は、pH調整された後の、エマルジョンの粒子径は50〜300nmに調整されており、80〜250nmに調整されていることがより好ましい。本発明において粒子径とは、動的光散乱法で測定した平均粒子径をいう。粒子径の測定は、大塚電子(株)製の Laser Particle Analyzer ParIII(商品名)を使用し、20℃の条件下で測定した。
【0061】
pH調整後のエマルジョン粒子の粒子径を、50〜300nmとなるようにするためには、pH調整前の粒子径は、45〜280nmであることが好ましい。
pH調整前の粒子径が45nm未満の場合、pH調整剤の添加によって崩壊するミセルが多くなり得、その結果高粘度水溶液となり、エマルジョン状態を維持することが困難になり得る。pH調整前の粒子径が280nmを超える場合、エマルジョン粒子を安定化することが困難であり得る。
【0062】
更に、本発明は、新規なアルカリ増粘剤の製造方法を提供し、それは、
単量体(A)と単量体(B)との共重合体のエマルジョンから成るアルカリ増粘剤の製造方法であって、
単量体(A)は(メタ)アクリル酸、
単量体(B)は、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルであり、
単量体(A)と単量体(B)の合計を基準として、単量体(A)は30〜70重量%となるように、単量体(A)と単量体(B)を共重合して共重合体エマルジョンを得る工程、及び
上記共重合体エマルジョンにpH調整剤を配合することによって、上記エマルジョンのpHを3.5〜6.0に調整する工程
を有し、
pH調整剤の配合後の上記共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、50〜300nmとなるようにする
ことを特徴とするアルカリ増粘剤の製造方法である。
尚、上述のアルカリ増粘剤は、目的とするアルカリ増粘剤を得ることができる限り、いずれの製造方法を用いて製造してもよいが、上記製造方法を用いて製造することが好ましい。
【0063】
本発明において「単量体(A)と単量体(B)を共重合して共重合体エマルジョンを得る工程(以下、「単量体(A)と単量体(B)を共重合する工程」ともいう)」とは、単量体(A)と単量体(B)を共重合することで、目的とする共重合体エマルジョンを得ることができる工程であれば、特に制限されるものではない。そのような工程として、上述した本発明に係る共重合体エマルジョンの製造方法を例示することができる。「単量体(A)と単量体(B)を共重合する工程」は、必要であれば単量体(C)を共重合する工程を有してもよい。
【0064】
本発明において「pHを3.5〜6.0に調整する工程」とは、上述の共重合体エマルジョンのpHを3.5〜6.0に調整することができる工程であれば、特に制限されるものではない。そのような工程として、共重合体エマルジョンのpHを、pHメーターを用いてモニターしつつ、pH調整剤(好ましくは弱塩基、より好ましくは弱酸の塩)を、攪拌しながら加える工程を例示することができる。加えられるpH調整剤は、共重合体エマルジョンに局所的な高いpHを与えないという観点から、水溶液の形態であることが好ましい。pH調整剤は、後述するように好ましくは弱塩基、より好ましくは弱酸の塩である。得られるアルカリ増粘剤の濃度をより高濃度とすることができることから、水溶液の形態のpH調整剤の濃度は、高濃度であることが好ましい。従って、pH調整剤は、高濃度の水溶液を形成することができる弱塩基であることがより好ましい。更に、上述の局所的な高いpHをより与えないという観点からも、pH調整剤は、弱塩基が好ましく、弱酸の塩がより好ましい。弱塩基及び弱酸の塩は、先に例示した。高濃度の水溶液を形成する弱塩基として、例えば、アンモニア、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを例示することができる。高濃度の水溶液を形成する弱酸の塩として、例えば、炭酸水素ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びクエン酸ナトリウムを例示することができる。
【0065】
本発明において、共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、単量体(A)と単量体(B)を共重合して共重合体エマルジョンを製造する際に調整することができる。粒子径の調整は、共重合する単量体の種類及び重合条件を適宜選択することによって行うことができる。
例えば、乳化剤の量を増減させることで、粒子径の調整を行うことができる。一般に、乳化剤の量を増やすと、粒子径は小さくなり、乳化剤の量を減らすと、粒子径は大きくなる。
更に、例えば、単量体の量と種類によって、粒子径の調整を行うことができる。共重合する単量体の種類及び組成に依存して粒子径は変化し得る。一般に、親水性の高い単量体を使用すると、粒子径はより大きくなり、疎水性の高い単量体を使用すると、粒子径はより小さくなる傾向にある。例えば、親水性がより高いアクリル酸及びメタクリル酸を単量体として用いると、粒子径は大きく成り得、疎水性がより高いブチルアクリレート及びヘキシルアクリレート等を用いると、粒子径は小さく成り得る。メチルアクリレート及びエチルアクリレートは、アクリル酸及びメタクリル酸の代わりに用いると、粒子径を小さくすることと成り得、ブチルアクリレート及びヘキシルアクリレートの代わりに用いると、粒子径を大きくすることと成り得る。このように、単量体の種類及び使用する単量体の量(又は比率)を適宜選択することによって、粒子径を変化させることができる。
【0066】
より具体的には、例えば、pH調整前に45〜280nmの範囲の粒子径のエマルジョンを製造後、そのエマルジョンのpHを調整することでエマルジョンの粒子径を50〜300nmの範囲に調整する場合、下記の製造例を例示することができる。
例えば、40〜60重量部の単量体A(より具体的にはメタクリル酸)、及び60〜40重量部の単量体B(より具体的にはエチルアクリレート)を、単量体100重量部当たり1.2重量部のドデシルベンゼン系乳化剤の存在下、攪拌速度等を適宜調節しながら共重合させてエマルジョンを製造することで、上述の範囲の粒子径を有する共重合体エマルジョンを得ることができる。
【0067】
本発明に係るアルカリ増粘剤は、製紙業界で使用される塗工液、水性塗料及び化粧料等に使用でき、本発明は、上述のアルカリ増粘剤を含んで成る塗工液、水性塗料及び化粧料を提供する。本発明に係るアルカリ増粘剤は、特に製紙業界用の塗工液に、好適に用いることができる。
本発明に係る「塗工液」は、通常、顔料及び高分子バインダーを含んで成る。「顔料」とは、通常、塗工液の顔料として使用されるものであれば、特に制限されるものではない。顔料として、例えば、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、白土、レーキ、及び合成プラスチック顔料を例示できる。顔料として、炭酸カルシウムが好ましく、重質炭酸カルシウムが特に好ましい。顔料は、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0068】
更に「高分子バインダー」とは、通常、塗工液の高分子バインダーとして、使用されるものであれば、特に制限されるものではない。高分子バインダーの形態は、塗工液を構成することができれば特に制限されるものではないが、例えば、合成高分子及び天然高分子そのものの形態(例えば、液状、ワックス状、粉状)、並びにそれらを含んで成る流体の形態(例えば、乳濁液、懸濁液)を例示できる。
【0069】
このような高分子バインダーとして使用できる高分子として、例えば、以下の高分子を例示できる:スチレン−ブタジエン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体、酢酸ビニル−アクリル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、ブタジエン−メチルメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル−ブチルアクリレート系共重合体、スチレン−無水マレイン酸系共重合体、イソブテン−無水マレイン酸系共重合体、及びアクリル酸−メチルメタクリレート系共重合体等の合成高分子;酸化デンプン、エステル化デンプン、及び酵素変性デンプン等の変性デンプン;並びにカゼイン及び大豆タンパク等の天然高分子。高分子バインダーは、単独で又は組み合わせて使用でき、エマルジョン状態になっている。
【0070】
本発明に係る塗工液は、塗工液が含有する顔料100重量部当たり、高分子バインダーを5〜20重量部含むことが好ましい。更に、塗工液は、顔料100重量部当たり、上述の本発明に係るアルカリ増粘剤を、0.01〜10重量部含むことが好ましく、0.03〜2重量部含むことがより好ましい。10重量部を超える場合、塗工液の粘度が高くなりすぎることが有り得、0.01重量部未満の場合、塗工液の粘度が高くならなかったり、保水性が不足し得ることもある。但し、上述の顔料、高分子バインダー、及び本発明のアルカリ増粘剤の重量部は、媒体を含まない部分(即ち、固形分)を基準としている。
【0071】
本発明に係る塗工液は、従来のアルカリ増粘剤を含んでもよく、必要に応じ、例えば、分散剤、増粘剤、消泡剤、耐水化剤、及び着色剤等の各種添加剤を適宜含有してもよい。分散剤として、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、及びアクリル酸−マレイン酸系共重合体のナトリウム塩を例示できる。
【0072】
上述の本発明に係る塗工液は、塗布層を有する紙を得るために使用することができる。従って、本発明は、上述の塗工液を用いて形成された塗布層を有する紙を提供する。この、塗布層を有する紙は、印刷用紙として好適に使用することができる。ここで、「塗布層を有する紙」とは、紙の基材の表面に塗布層が形成されている紙をいう。「紙の基材」とは、いわゆる紙であれば特に制限されるものではないが、印刷に使用されるものが好ましく、例えば、上質紙、中質紙、及び板紙を例示できる。
【0073】
本発明に係る塗布層を有する塗工紙は、紙の基材の表面に塗布層を形成するための常套の方法を用いて得ることができる。即ち、本発明に係る塗工液は、紙の片面又は両面に、例えば、ブレードコーター、ロールコーター、及びエアナイフコーター等の常套の塗工装置を用いて塗工される。塗工される塗工液の塗布量は、固形分(媒体を含まない部分)で3〜30g/mとなるように調節されることが好ましい。塗布された塗工液の層は乾燥され、目的とする塗布層が紙の基材の表面に形成される。尚、塗工液を塗工する際の温度は10〜60℃が好ましく、塗布された塗工液を乾燥する際の温度は90〜150℃が好ましい。
【0074】
本発明のアルカリ増粘剤は、塗工液の保水性及び流動性から選択される少なくとも一種を向上することができる。これは、以下の理由によると考えられる。単量体(A)、(B)、場合により(C)が重合して得られる共重合エマルジョンは、塗工液に含まれ得る炭酸カルシウム等の顔料等との間に、より大きな相互作用を有すると考えられる。このため、本発明のアルカリ増粘剤は、炭酸カルシウム等の顔料等を含む塗工液の流動性を向上することができ、特に、炭酸カルシウム等の顔料等の含有量が多い塗工液に、特に優れた保水性並びに流動性を付与することができると考えられるが、これらの理由により、本発明のアルカリ増粘剤が何ら制限を受けるものではない。
【実施例】
【0075】
アルキル増粘剤の製造に用いた単量体(A)及び(B)を以下に示す。
単量体(A)として、
単量体(a1):メタクリル酸(MAA)を用いた。
単量体(B)として、
単量体(b1):エチルアクリレート(EA)、
単量体(b2):ブチルアクリレート(BA)、
単量体(b3):メチルメタクリレート(MMA)、
単量体(b4):ヘプタデシルポリ(オキシエチレン)19エチルメチレンスクシネート及び
単量体(b5):ベヘニルポリエトキシ(25)メタクリレート(ICI社製)
(CH=C(CH3)−CO−(OCHCH25−OC2245)を用いた。
【0076】
pH調整剤として、
弱酸の塩(1):酢酸ナトリウム、
塩基(2):水酸化ナトリウム、
弱酸の塩(3):炭酸水素ナトリウム、
弱塩基(4):2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、
弱塩基(5):アンモニア水、
弱酸の塩(6):クエン酸ナトリウムを用いた。
【0077】
単量体(b4)(ヘプタデシルポリ(オキシエチレン)19エチルメチレンスクシネートの製造例
ヘプタデシルポリ(オキシエチレン)19エタノール[C1735O−(CHCHO)20−OH]8.9g(0.175モル)、トルエン150g、ヒドロキノンメチルエーテル(MEHQ)0.5gの混合物を、温度計、攪拌機、加熱用マントル及びディーン−スターク(Dean-Stark)分離器を備えた500mlの反応フラスコに入れた。混合物を還流加熱して表面活性剤中の残留水を全て除去した。混合物を70℃に冷却したメチレンコハク酸22.8g(0.175モル)を加え、溶解するまで攪拌した。次いでp−トルエンスルホン酸(TSA)1.0gを加え、混合物を再び還流加熱した。4時間後に理論量の95%の水を除去し、トルエンを真空中で除去した。生成物を冷却すると白色蝋が得られ、これを精製せずに使用した。該反応はエトキシル化脂肪族アルコールに一般的な反応である。
【0078】
実施例1〜4及び比較例1のアルカリ増粘剤の製造
90重量部の蒸留水に0.6重量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを加えて溶解後、更に、表1及び3に示す通り、50〜55重量部の単量体A(メタクリル酸:単量体(a1))及び45〜50重量部の単量体B(エチルアクリレート:単量体(b1)、メチルメタクリレート:単量体(b3)、単量体(b4)及び単量体(b5))を加え、十分に攪拌混合して乳化液を調整した。一方、反応器に110重量部の蒸留水を加え、0.6重量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを加えて溶解後、0.2重量部の過硫酸アンモニウムを加えた後、混合物を加熱した。液温を80℃に保ち、攪拌しながら上述した乳化液を反応器に3時間かけて加えた。更に、80℃で2時間、攪拌して、共重合体エマルジョンを得た。更に、表1及び3に示すpH調整剤を用いてpHを調整することによって、濃度が30重量%の実施例1〜4及び比較例1のアルカリ増粘剤をエマルションの形態で得た。結果は、まとめて表1及び3に示した。また評価の際には濃度調整を加水またはエバポレーターを用いて減水して行なった。
【0079】
実施例5〜12及び比較例2〜6のアルカリ増粘剤の製造
実施例5〜12及び比較例2〜6のアルカリ増粘剤は、表1〜3に示す通り、20〜75重量部の単量体A(メタクリル酸:単量体(a1))及び25〜80重量部の単量体B(エチルアクリレート:単量体(b1))を用いた以外は実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて製造した。実施例5〜12及び比較例2〜6のアルカリ増粘剤を、いずれもエマルションの形態として得た。実施例5〜12及び比較例2〜6のアルカリ増粘剤は、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて評価した。結果は、まとめて表1に示した。また評価の際には濃度調整を加水またはエバポレーターを用いて減水して行なった。
【0080】
実施例13〜14のアルカリ増粘剤の製造
実施例13〜14のアルカリ増粘剤は、表2に示す通り、40及び60重量部の単量体A(メタクリル酸:単量体(a1))、40及び60重量部の単量体B(ブチルアクリレート:単量体(b2))を用いた以外は実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて製造した。実施例13〜14のアルカリ増粘剤を、いずれもエマルションの形態として得た。実施例13〜14のアルカリ増粘剤は、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて評価した。結果は、まとめて表2に示した。また評価の際には濃度調整を加水またはエバポレーターを用いて減水して行なった。
【0081】
アルカリ増粘剤の評価方法
1.蒸発残分(濃度)
直径50mm程度のアルミニウム箔の皿に、試料約1gを塗り広げる。130±2℃に保持できる熱風循環式恒温槽を使用し、60±5分間乾燥した後、デシケーター中で放冷し、その質量を量った。乾燥前後の質量から濃度を求めた。
2.pH
カスタニーLAB pHメーターF−14(堀場製作所製)を使用して、30℃においてpHを測定した。
3.B型粘度(mPa・s)
B型粘度計(東京計器製・形式BM)を使用し、回転数60rpm、ローターNo.1又は2を用いて、30℃においてB型粘度を測定した。
4.粒子径
光散乱法にて評価を行なった。測定機器、LASER PATICLE ANALYZER PAR-III(大塚電子(株)製)を使用し、温度20℃の条件で、平均粒子径を測定した。
5.グリット
JIS K 6828の図2に示す形状にした#80、#200、#400メッシュの金網をガスバーナーで焼くことで不純物の除去と絶乾し、金網の質量を量った。試料25gを正確に量りとり、金網の中央に注ぎろ過した。ろ液が透明になるまで、蒸留水を流した。ろ過に使用した金網を130±2℃に保持できる熱風循環式恒温槽を使用し、60±5分間乾燥した後、デシケーター中で放冷し、質量を量った。
6.機械安定性
pH調整後のエマルジョンの濃度を、いずれも30重量%に調整後、200メッシュのフィルター(又は濾紙)を用いて濾過した。濾過後の試料の50gを正確に計量し、JIS K 6828に従い、マロン・メカニカル・スタビリティー・テスター(MARON MECHANICAL STABILITY TESTER、熊谷理機工業(株)製)を使用して、荷重10kgで10分間回転させた。回転させた後の試料をグリットの測定方法に従い、測定した。マロン・メカニカル・スタビリティー・テスターを用いた試験で発生した凝集物の量が、共重合体エマルジョンの重量を基準として、0.050重量%以下の場合、特に優れておりこれをAAAとし、0.050重量%を超え、0.50重量%以下の場合、より優れておりこれをAAとし、0.50重量%を超え、1.000重量%以下の場合、優れておりこれをAとし、1.000重量%を超えた場合、不十分でありBとした。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
実施例1〜14のアルカリ増粘剤は、比較例1〜6のアルカリ増粘剤と比べて、機械安定性に優れることが理解される。
更に、実施例5〜10と比較例2のアルカリ増粘剤について、加えたpH調整剤の溶液の濃度(重量%)、共重合体エマルジョン100g当たりにpH調整剤の溶液を加えた量及びその結果得られたアルカリ増粘剤の濃度(いわゆる固形分濃度)を表4に示した。強塩基の水酸化ナトリウムを用いた場合(実施例5)と比較して、弱塩基又は弱酸の塩を用いた場合(実施例6〜10)、より高い濃度を有する溶液として弱塩基又は弱酸の塩を加えることができる。その結果、得られたアルカリ増粘剤の濃度も高いものとなることが理解される。得られるアルカリ増粘剤の濃度がより高いことは、塗工液の固形分濃度を高くすることができ、バックフローの低減、プロファイルの安定化等の塗工性の改善、また乾燥工程の短縮等の点から好ましい。
【0086】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体(A)と単量体(B)との共重合体のエマルジョンから成るアルカリ増粘剤であって、
単量体(A)は(メタ)アクリル酸、
単量体(B)は、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルであり、
単量体(A)と単量体(B)の合計を基準として、単量体(A)は30〜70重量%であり、
pH調整剤が配合されることで、上記共重合体エマルジョンのpHは3.5〜6.0に調整され、
pH調整後の上記共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、50〜300nmである
ことを特徴とするアルカリ増粘剤。
【請求項2】
上記pH調整剤が配合される前の、上記共重合体エマルジョンの粒子径は、45〜280nmである請求項1に記載のアルカリ増粘剤。
【請求項3】
上記pH調整剤は、弱塩基である請求項1又は2に記載のアルカリ増粘剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ増粘剤を含む塗工液。
【請求項5】
請求項4に記載の塗工液が、紙基材表面に塗工され形成された塗布層を有する塗工紙。
【請求項6】
単量体(A)と単量体(B)との共重合体のエマルジョンから成るアルカリ増粘剤の製造方法であって、
単量体(A)は(メタ)アクリル酸、
単量体(B)は、単量体(A)を除く、重合可能な不飽和結合を有するカルボン酸若しくはそのエステルであり、
単量体(A)と単量体(B)の合計を基準として、単量体(A)は30〜70重量%となるように、単量体(A)と単量体(B)を共重合して共重合体エマルジョンを得る工程、及び
上記共重合体エマルジョンにpH調整剤を配合することによって、上記エマルジョンのpHを3.5〜6.0に調整する工程
を有し、
pH調整剤の配合後の上記共重合体エマルジョンの粒子の粒子径は、50〜300nmとなるようにする
ことを特徴とするアルカリ増粘剤の製造方法。
【請求項7】
上記エマルジョンのpHを調整する工程の前の、上記共重合エマルジョンの粒子径は、45〜280nmとなるようにする請求項6に記載のアルカリ増粘剤の製造方法。
【請求項8】
上記pH調整剤は、弱塩基である請求項6又は7のいずれかに記載のアルカリ増粘剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−348112(P2006−348112A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173904(P2005−173904)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(397020537)日本エヌエスシー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】