説明

アルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴

【課題】亜鉛金属の滑らかで光輝のあるめっきが得られかつ安定なアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴を提供すること。
【解決手段】1−エチル−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−プロピル−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−ブチル−ピリジニウム3−カルボキレート、1−エタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−プロパノール−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−ブタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート及び1−ジメチルエーテル−ピリジニウム3−カルボキシレートからなる群より選ばれた化合物、及びイミダゾールとエピハロヒドリンとの反応物、脂肪族アミンとエピヒドリンとの反応物、尿素とジアルキルアミノアルキルアミンとジクロルエチルエーテルまたはエピハロヒドリンとの反応物からなる群より選ばれた補助光沢成分を含有することを特徴とするアルカリ性ノーシアン亜鉛及び亜鉛合金めっき浴。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の素地上に光沢のある亜鉛又は亜鉛合金を電着するためのめっき浴、該めっき浴で用いるための光沢剤及び該めっき浴を用いるめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴には水溶性亜鉛化合物、苛性ソーダ単独、または青化ソーダを併用しているものなどがある。このようなめっき液をそのまま使用して亜鉛めっきした場合、光沢のある亜鉛めっきを得ることができない。そこで光沢亜鉛めっきを得るために多種多様の光沢剤が提案されている。光沢剤としてはベース成分と光沢成分に大きく分けられる。このうち代表的なものとしては、ベース成分として各種アミンポリマー化合物、チオ尿素またはその誘導体、光沢成分として、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒドおよびケトンが知られている。たとえば青化亜鉛めっきにおいては析出する亜鉛粒子を微細化して光沢性を与えるためにアニスアルデヒド、ヘリオトロピンなどの芳香族アルデヒド化合物、チオ尿素などの硫黄化合物およびポリビニルアルコール、デキストリン、ニカワなどの高分子コロイド性物質が使用されている。これらは、特公昭45−10205号公報や特公昭53−25294号公報に開示されている。
一方、ニコチン酸に塩化ベンジル等の環式有機化合物を反応させたものは光沢性に優れているため広く使用されている。しかしながらこれらの反応物は、アルカリ亜鉛めっき浴中での安定性が劣り、特に陽極上で酸化分解されやすく、その分解生成物がめっき液に浮遊し、被めっき物に付着するなど問題が多い。
またバニリンやベラトルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドは、添加した直後の光沢性には優れているが、アルカリ性亜鉛及び合金めっき浴中での安定性が悪く、ランニングにより光沢低下が速いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭45−10205号公報
【特許文献2】特公昭53−25294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、亜鉛金属の滑らかで光輝のあるめっきが得られかつ安定なアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴を提供することを目的とする。
本発明は、亜鉛金属の滑らかで光輝のあるめっきが得られかつ安定なアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記めっき浴を用いる効率的なめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ニコチン酸と特定の化合物との水溶性反応性生成物をアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤として用いると、上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたのである。
すなわち、本発明は、(a)ニコチン酸と、(b)ハロゲン化炭化水素、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン及びハロゲンエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との水溶性反応性生成物を含有することを特徴とするアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴を提供する。
本発明は、又、上記反応性生成物を含有することを特徴とするアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴用の光沢剤を提供する。
本発明は、又、上記アルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴を用いることを特徴とするアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来のアルカリ亜鉛及び亜鉛合金めっき浴で用いる光沢剤に比べて、光沢性及び平滑性にかつ浴安定性に優れためっき浴が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明で光沢剤として用いる(a)ニコチン酸と、(b)ハロゲン化炭化水素、アルキレンオキシド、エピハロヒドリン及びハロゲンエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を反応させて得られる反応性生成物は、例えば、次に示す方法により得ることができる。
(a)ニコチン酸 1モルに対して、(b)の化合物を0.5〜2モル、好ましくは1モルの割合で、水溶性反応生成物が得られるように温度70〜150℃で1〜10時間反応させる。
(b)のハロゲン化炭化水素としては、炭素数が1〜6の脂肪族ハロゲン化炭化水素が好ましく、より好ましくは、炭素数が1〜3の脂肪族ハロゲン化炭化水素である。具体的には、n-エチルブロマイド、n-プロピルブロマイド又はn-ブチルブロマイドが好ましい。
【0008】
(b)のアルキレンオキシドとしては、炭素数が2〜6のアルキレンオキシドが好ましく、より好ましく、炭素数が2〜4のアルキレンオキシドである。具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド又はブチレンオキシドが好ましい。
(b)のエピハロヒドリンとしては、炭素数が3〜6のエピハロヒドリンが好ましく、より好ましくは、炭素数が2〜5のエピハロヒドリンである。具体的には、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エチレンクロルヒドリン又はプロピレンクロルヒドリンが好ましい。
(b)のハロゲンエーテルとしては、アルキル基の炭素数が2〜10のジクロルアルキルエーテルが好ましく、より好ましくは、2〜6である。具体的には、ジクロルエチルエーテル、ジクロルプロピルエーテル、ジクロルブチルエーテルの1種又は2種以上の混合物が好ましく、より好ましくは、クロルジメチルエーテルである。
上記反応生成物としては、可溶性4級化ニコチン酸化合物が好ましく、特に好ましい化合物は、1−エチル−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−プロピル−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−ブチル−ピリジニウム3−カルボキレート、1−エタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−プロパノール−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−ブタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−ジメチルエーテル−ピリジニウム3−カルボキシレートである。これらの水溶性反応生成物は、1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0009】
本発明では、上記水溶性反応生成物をめっき浴中に0.001〜10g/L含有させるのが好ましく、より好ましくは0.05〜5g/Lである。
本発明のアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴は、亜鉛を溶解した形態で1〜50g/L含有するのが好ましく、より好ましくは5〜20g/Lである。アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムを40〜200g/L含有するのが好ましく、より好ましくは60〜150g/Lである。又、シアンを0〜100g/L添加したシアン浴でも使用できる。
本発明のアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴のPHは13以上が好ましく、より好ましくは、PH14以上である。
本発明のアルカリ性亜鉛及び亜鉛合金めっき浴には、種々の添加剤を含有させることができる。
例えば、珪酸塩として、コロイダルシリカ、3号珪素等のアルカリ珪酸塩を1〜100g/L含有させるのが好ましく、より好ましくは5〜50g/Lである。
【0010】
本発明において、亜鉛合金としては、亜鉛と鉄、ニッケル、コバルト、マンガン等の金属の1種以上との合金があげられる。これらの金属の量は0.1〜60質量%程度とするのがよい。これらの合金めっきを得る場合には、得ようとする合金の種類及びその合金比によって、めっき浴中の金属イオン濃度を変化させるのが好ましく、例えば、亜鉛5〜20g/Lに対して、鉄30〜1000mg/L、ニッケル0.02〜5g/L、コバルト0.02〜5g/L、マンガン0.02〜40g/L等の1種又は2種以上を添加するのがよい。また、金属イオンは、塩化物や硫酸塩の形で供給するのがよい。
金属塩を溶解させるためにキレート剤が使用するのが好ましい。キレート剤としては、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸及びその塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンのようなアミノアルコール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアミンやポリイミン、ポリアミンとエピハロヒドリン(エチレンクロルヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン)又はハロゲンエーテル(ジクロルエチルエーテル、ジクロルプロピルエーテル、ジクロルブチルエーテル)との反応物を用いるのが好ましい。これらは単独又は組み合わせて使用することができる。これらは、浴中に、0.1〜100g/L含有させるのが好ましく、より好ましくは1〜50g/Lである。
【0011】
本発明では、光沢剤として、上記水溶性反応物のみを用いることができるが、さらに、補助光沢成分を添加することもできる。例えばイミダゾールとエピハロヒドリンとの反応物、脂肪族アミンとエピヒドリンとの反応物、尿素とジアルキルアミノアルキルアミンとジクロルエチルエーテルまたはエピハロヒドリンとの反応物がある。これらは単独又は組み合わせて使用できる。
本発明では、被めっき基板(鉄、銅、しんちゅう等)を陰極に、亜鉛板あるいはニッケル等を陽極にし、上記めっき浴を用いて、例えば、電流密度0.01〜10A/dm2、温度15〜50℃で所定のめっき厚になるまで、通常は5〜80分間(例えば、めっき膜厚3〜20μm)めっきする工程を含むめっき方法も提供する。
次に本発明を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
実施例1
ZnO 25g/L、NaCN 45g/L、NaOH 70g/L、1−プロピル−ピリジニウム3−カルボキシレート 0.005g/L、ポリビニルアルコール0.1g/Lを含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流部から低電流部まで非常に緻密な光沢性、平滑性に優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。
また45℃で1週間放置後のめっき浴を同様にめっきしたところ、放置前と同等のめっき皮膜が得られた。
【0013】
実施例2
ZnO 12.5g/L、NaCN 15.0g/L、NaOH 70g/L、1−エタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート0.1g/L、ポリビニルアルコール0.2g/L含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流部から低電流部まで非常に緻密な光沢性、平滑性に優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。
また実施例1と同様に45℃で1週間放置後でも良好なめっき皮膜が得られた。
【0014】
実施例3
ZnO 13g/L、NaOH 120g/L、1−ブチル−ピリジニウム3−カルボキシレート1g/L、日東紡績(株)製PAS 120L 4g/Lを含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流部から低電流部まで非常に緻密な光沢性、平滑性に優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。
また45℃で1週間放置後のめっき浴を同様にめっきしたところ、放置前と同等の平滑性および光沢性のある緻密な亜鉛めっき皮膜が得られた。
【0015】
実施例4
ZnO 20g/L、NaOH 140g/L、1−(ジメチルエーテル)−ピリジニウム3−カルボキシレート1g/L、イミダゾールとエピクロロヒドリンとの反応物0.5g/L、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応物1g/Lを含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流部から低電流部まで非常に緻密な光沢性、平滑性に優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。
また45℃で1週間放置後のめっき浴を同様にめっきしたところ、放置前と同等の、光沢性、平滑性の優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。
【0016】
実施例5
Zn 10g/L、NaOH 150g/L、Ni1.5g/L、ジエチレントリアミンとエピクロロヒドリンの反応物20g/L、尿素、ジエチルアミノエチルアミン、ジクロルエチルエーテル反応物を4g/L、1−エタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート 0.5g/Lを含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流部から低電流部まで非常に緻密な光沢性、平滑性に優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。
また45℃で1週間放置後のめっき浴を同様にめっきしたところ、放置前と同等の光沢性、平滑性の優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。
【0017】
比較例1
ZnO 25g/L、NaCN 40g/L、NaOH 70g/L、ニコチン酸と塩化ベンジルとの反応物0.5g/L、ポリビニルアルコール0.1g/L、アニスアルデヒド0.2g/Lを含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流部から低電流部まで非常に緻密な光沢性、平滑性に優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。しかしながら、45℃で1週間放置後のめっき浴を同様にめっきしたところ、全く光沢の無いめっき皮膜が得られた。
【0018】
比較例2
ZnO 20g/L、NaOH 140g/L、アニスアルデヒド0.2g/L、イミダゾールとエピハロヒドリンとの反応物0.5g/L、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンとの反応物1g/Lを含有し、残部が水であるめっき浴(PH14以上)に、鉄板を陰極に、亜鉛板を陽極にし、総電流量2A、温度25℃で20分間ハルセルテストを行なった。その結果、高電流部から低電流部まで非常に緻密な光沢性、平滑性に優れた亜鉛めっき皮膜が得られた。しかしながら、45℃で1週間放置後のめっき浴を同様にめっきしたところ、放置前に比較して光沢性、平滑性のない亜鉛めっき皮膜が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−エチル−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−プロピル−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−ブチル−ピリジニウム3−カルボキレート、1−エタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−プロパノール−ピリジニウム3−カルボキシレート、1−ブタノール−ピリジニウム3−カルボキシレート及び1−ジメチルエーテル−ピリジニウム3−カルボキシレートからなる群より選ばれた化合物、及び
イミダゾールとエピハロヒドリンとの反応物、脂肪族アミンとエピヒドリンとの反応物、尿素とジアルキルアミノアルキルアミンとジクロルエチルエーテルまたはエピハロヒドリンとの反応物からなる群より選ばれた補助光沢成分を含有することを特徴とするアルカリ性ノーシアン亜鉛及び亜鉛合金めっき浴。
【請求項2】
前記化合物を0.001〜10g/L含有する請求項1記載のめっき浴。
【請求項3】
亜鉛1〜50g/L及び水酸化アルカリ60〜200g/Lを含有する請求項1又は2記載のめっき浴。
【請求項4】
コロイダルシリカ又はアルカリ珪酸塩を1〜100g/L含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のめっき浴。
【請求項5】
金属イオンとして、鉄30〜1000mg/L、ニッケル0.02〜5g/L、コバルト0.02〜5g/L、マンガン0.02〜40g/Lの一種以上を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載のめっき浴。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のめっき浴を用いることを特徴とする亜鉛又は亜鉛合金のめっき方法。

【公開番号】特開2011−84821(P2011−84821A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18529(P2011−18529)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【分割の表示】特願2000−22299(P2000−22299)の分割
【原出願日】平成12年1月31日(2000.1.31)
【出願人】(000109657)ディップソール株式会社 (25)
【Fターム(参考)】