説明

アルカリ水電解装置およびアルカリ水電解方法

【課題】電解液から気泡を除去しやすいアルカリ水電解装置およびアルカリ水電解方法を提供すること。
【解決手段】アルカリ水電解装置は、陽極25が配置された陽極室20と、陰極35が配置された陰極室30と、陽極室20と陰極室30とを区画する隔膜40とを有し、電解液80を電気分解して水素78を製造する電解槽10を備えたアルカリ水電解装置であって、電解槽10は、陽極室20の底部導入部26から導入された電解液80が頂部排出部28に向かって陽極室20内を上方に流れるとともに、陰極室30の底部導入部36から導入された電解液80が頂部排出部38に向かって陰極室30内を上方に流れる構造であり、電解液80は、27℃で測定したpHが14以上、27℃で測定した電気伝導率が0.25S/cm以上、かつ密度が1.25kg/m以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水を電気分解して水素ガスを製造するアルカリ水電解装置およびアルカリ水電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光、太陽熱、風力等の再生可能エネルギーを用いた発電が増加している。しかし、再生可能エネルギーは自然環境に左右されて変動するため、再生可能エネルギーを用いた発電の出力制御が困難である。このため、再生可能エネルギーを用いた発電の割合が増加すると、電力の需給バランスが崩れ、過剰電力や電力不足を生じる原因となりやすい。
【0003】
また、再生可能エネルギーを用いた発電の出力は、天候等の変化に伴い常に微少な変化を繰り返す。このため、再生可能エネルギーを用いた発電設備を、電力系統に直接接続することは困難である。
【0004】
これらの再生可能エネルギーを用いた発電の問題点を解決する方法として、再生可能エネルギーから得られた電力を、安定して取り出すことができる他のエネルギーに変換して貯蔵する方法、たとえば、電池による蓄電、揚水発電、水素電力貯蔵等の方法が検討されている。ここで、水素電力貯蔵とは、再生可能エネルギーから得られた電力を水の電気分解に用い、生成した水素として貯蔵する貯蔵方法である。
【0005】
これらのうち、水素電力貯蔵は、立地や熱源の制約を受けにくく、長期間の保管でもエネルギーの損失が実質的に起こらないため、電力の好ましい貯蔵方法として注目されている。また、水素電力貯蔵のうち、アルカリ水溶液を用いた水の電気分解であるアルカリ水電解は、歴史が古く、実績も豊富なため、今後の電力貯蔵方法として有力視されている。
【0006】
たとえば、特許文献1(特開平3−218901号公報)には、水素生成装置と水素貯蔵合金を組み合わせて効率的に水素の貯蔵を行う装置が記載されている。また、特許文献2(特開2010−150590号公報)、および特許文献3(特開2009−242922号公報)には、アルカリ水電解用の電極の構造が記載されている。さらに、特許文献4(特開2008−45205号公報)には、アルカリ水電解環境でも腐食しにくい電解槽および電極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−218901号公報
【特許文献2】特開2010−150590号公報
【特許文献3】特開2009−242922号公報
【特許文献4】特開2008−45205号公報
【特許文献5】特開2007−154217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水の電気分解では、水電解装置の効率的な運転のために、電解液と電極との接触、および電解液中に含まれる電子の移動、が十分に行われることが好ましい。しかし、水の電気分解では水素および酸素が発生するため、電極近傍および電解液中に水素、酸素等からなる気泡が存在する。この気泡によって電極と電解液との接触、および電解液中の電子の移動が妨げられると、水電解装置の効率的な運転が困難になる。
【0009】
また、水素電力貯蔵では、エネルギー効率を高くするために、再生可能エネルギーで発電した電力をそのまま用いて水の電気分解を行うことが好ましい。しかし、再生可能エネルギーで発電した電力の出力変動にともない電気分解に用いる電力の変動が起こると、水素および酸素の発生量が絶えず変化し、水電解装置の効率も絶えず変動する。このため、再生可能エネルギーの状況により水素製造が不可能となることもありうる。
【0010】
これに対し、特許文献5(特開2007−154217号公報)には、水素、酸素等からなる気泡を電解液から除去する技術として、電解槽内部に液体流路と気泡を逃がす気体流路とを設け、気体流路と液体流路との境界から100μm以下の領域にこの領域に全体が収まる程度の微小な電極を設け、さらに電極と気泡との表面張力を小さくし、気泡を気体流路に移動させることにより、電極近傍および電解槽内部から気泡を除去する方法が記載されている。
【0011】
この特許文献5に記載される電極は、液体流路方向の長さが100μm以下と非常に微小な構造であり、たとえば、厚さ10μmのプラチナ箔を折り曲げて作成した電極や厚さ100μmのプラチナ板を用いた電極が記載されている。
【0012】
しかし、特許文献5に記載された発明で用いられる電極は非常に微小であるため、アルカリ水電解の環境に好適な限られた電極材料で非常に微小な電極を作製することは、実質的に困難であるという課題があった。
【0013】
本発明は上記課題を解決するものであり、電解液から気泡を除去しやすいアルカリ水電解装置およびアルカリ水電解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、電解液の密度を所定値以上に高めて電解液と気泡を構成する気体との密度差を大きくすることにより気泡の上昇速度を高めると共に、気泡の上昇方向と電解液の流れ方向を合致させれば、電解槽に複雑な形状を持たせずに、電解槽内での気泡の滞留を防ぐことができることを見出してなされたものである。
【0015】
すなわち、本発明のアルカリ水電解装置は、上記課題を解決するためのものであり、陽極が配置された陽極室と、陰極が配置された陰極室と、この陽極室と陰極室とを区画する隔膜とを有し、塩基性水溶液からなる電解液を電気分解して水素を製造する電解槽を備えたアルカリ水電解装置であって、前記電解槽は、前記陽極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陽極室の頂部排出部に向かって前記陽極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陽極室液および酸素ガスを生成し、前記陽極室の頂部排出部から前記陽極室液および酸素ガスが排出されるとともに、前記陰極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陰極室の頂部排出部に向かって前記陰極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陰極室液および水素ガスを生成し、前記陰極室の頂部排出部から前記陰極室液および水素ガスが排出される構造であり、前記電解液は、27℃で測定したpHが14以上、27℃で測定した電気伝導率が0.25S/cm以上、かつ密度が1.25kg/m以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のアルカリ水電解方法は、上記課題を解決するためのものであり、陽極が配置された陽極室と、陰極が配置された陰極室と、この陽極室と陰極室とを区画する隔膜とを有し、塩基性水溶液からなる電解液を電気分解して水素を製造する電解槽、を備えたアルカリ水電解装置を用いるアルカリ水電解方法であって、前記電解槽は、前記陽極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陽極室の頂部排出部に向かって前記陽極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陽極室液と酸素ガスとを生成し、前記陽極室の頂部排出部から前記陽極室液と酸素ガスとが排出されるとともに、前記陰極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陰極室の頂部排出部に向かって前記陰極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陰極室液と水素ガスとを生成し、前記陰極室の頂部排出部から前記陰極室液と水素ガスとが排出される構造であり、前記電解液は、27℃で測定したpHが14以上、27℃で測定した電気伝導率が0.25S/cm以上、かつ密度が1.25kg/m以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアルカリ水電解装置およびアルカリ水電解方法によれば、電解槽内での気泡の滞留を防ぎ水の電気分解の電解効率を高めることができる。
【0018】
また、本発明のアルカリ水電解装置およびアルカリ水電解方法によれば、電解槽内での気泡の滞留を防ぎ水の電気分解の効率を高めることができるため、水の電気分解のために入力される電流が再生可能エネルギーを用いた発電等のために変動する場合でも、水の電気分解の効率的な運転が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のアルカリ水電解装置の実施形態を示す概略構成図。
【図2】図1に示したアルカリ水電解装置を構成する電解槽を示す概略構成図。
【図3】電解液密度と気泡上昇速度との関係を示すグラフ。
【図4】K濃度と電気伝導率との関係を示すグラフ。
【図5】KおよびCsの濃度の比率と、電気伝導率との関係を示すグラフ。
【図6】KOH濃度と電解液密度との関係を示すグラフ。
【図7】KおよびCsの濃度の比率と、電解液密度との関係を示すグラフ。
【図8】KおよびCsの濃度の比率と、電気伝導率との関係を示すグラフ。
【図9】電解液の流量と電解効率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[アルカリ水電解装置]
本発明のアルカリ水電解装置について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明のアルカリ水電解装置の実施形態を示す概略構成図である。
図1に示すように、アルカリ水電解装置1は、電解槽10に供給する電解液80を貯留する電解液タンク50と、電解液タンク50中の電解液80を、電解槽10の陽極室20と陰極室30とに移送する送液ポンプ64、74と、電解液80を電気分解して水素78を製造する電解槽10と、電解槽10の陽極室20から排出された陽極室液81と酸素ガス68とを分離する陽極室液気液分離器66と、電解槽10の陰極室30から排出された陰極室液82と水素ガス78とを分離する陰極室液気液分離器76とを備える。
【0022】
ここで、陽極室液81とは、電解液80が電気分解されて、陽極室20中に生成された液を意味する。また、陰極室液82とは、電解液80が電気分解されて、陰極室30中に生成された液を意味する。
【0023】
電解液80の電気分解では、電解液80中の水酸化物イオンOHから酸素ガス68が生成するとともに水素イオンHから水素ガス78が生成する。なお、陽極室20と陰極室30とを隔てる隔膜40としては、イオンの選択性のあるイオン交換膜ではなく、気泡が透過できないが電解質および水の透過が可能なテフロン(登録商標)隔膜等の隔膜が用いられている。
【0024】
このため、陽極室液81や陰極室液82の組成は、電気分解に伴うHおよびOHの減少分以外は、電解液80の組成と実質的に同じになっている。
【0025】
送液ポンプ64は、電解液80を、電解液タンク50から電解槽10の陽極室20に移送する陽極室電解液供給系統61の途中に設けられ、送液ポンプ64の下流には、電解液80の流量を測定する流量計65が設けられる。送液ポンプ64は、電解槽10での電気分解による電解液80の消費量以上の量の電解液を電解液タンク50から電解槽10に供給することができるようになっている。
【0026】
送液ポンプ74は、電解液80を、電解液タンク50から電解槽10の陰極室30に移送する陰極室電解液供給系統71の途中に設けられ、送液ポンプ74の下流には、電解液80の流量を測定する流量計75が設けられる。送液ポンプ74は、電解槽10での電気分解による電解液80の消費量以上の量の電解液を電解液タンク50から電解槽10に供給することができるようになっている。
【0027】
また、図1に示すアルカリ水電解装置1は、電解槽10の陽極室20から排出された陽極室液81を電解液タンク50に移送する陽極室液循環系統63と、電解槽10の陰極室30から排出された陰極室液82を電解液タンク50に移送する陰極室液循環系統73とを備える。なお、陽極室液循環系統63の途中には陽極室液気液分離器66が設けられ、陰極室液循環系統73の途中には陰極室液気液分離器76が設けられる。
【0028】
上記構成により、アルカリ水電解装置1では、電解液80の電気分解により電解槽10の陽極室20で生成され、陽極室20から排出された陽極室液81が、陽極室液循環系統63で酸素ガス68と分離された後、電解液タンク50に移送される循環系が形成されている。また、アルカリ水電解装置1では、電解液80の電気分解により電解槽10の陰極室30で生成され、陰極室30から排出された陰極室液82が、陰極室液循環系統73で水素ガス78と分離された後、電解液タンク50に移送される循環系とが形成されている。
【0029】
陽極室液循環系統63の陽極室液気液分離器66で分離された酸素ガス68は、酸素ガス系統67を流通して、図示しない酸素ガス貯蔵系に送られて貯蔵される。陰極室液循環系統73の陰極室液気液分離器76で分離された水素ガス78は、水素ガス系統77を流通して、図示しない水素ガス貯蔵系に送られて貯蔵される。
【0030】
(電解槽)
図2は、図1に示したアルカリ水電解装置1を構成する電解槽10を示す概略構成図である。電解槽10は、陽極25が配置された陽極室20と、陰極35が配置された陰極室30と、この陽極室20と陰極室30とを区画する隔膜40とを有し、塩基性水溶液からなる電解液80を電気分解して水素を製造するものである。
【0031】
図2に示す電解槽10は、具体的には、ステンレス等の金属で構成され、一部に開口部が形成された陽極室本体21と、ステンレス等の金属で構成され、一部に開口部が形成された陰極室本体31と、陽極室本体21の開口部と陰極室本体31の開口部とが重ね合わされた部分に介装された隔膜40とを備える。
【0032】
これにより、電解槽10では、陽極室本体21および隔膜40で区画された陽極室20と、陰極室本体31および隔膜40で区画された陰極室30とが、一枚の隔膜40を介して隣接するように形成されている。
【0033】
電解槽10に用いられる隔膜40は、電解液80、陽極室液81、および陰極室液82の透過が可能である一方、陽極室20内で発生した酸素ガス68、および陰極室30内で発生した水素ガス78の透過ができないようになっている。このため、電解槽10では、陽極室20内で発生した酸素ガス68と、陰極室30内で発生した水素ガス78との混合が隔膜40により防止されるようになっている。
【0034】
隔膜40は、電解液80、陽極室液81、および陰極室液82の透過が可能ものであるため、イオンの選択性のあるイオン交換膜ではなく、水溶液中の電解質および水の透過が可能なものになっている。隔膜40としては、たとえば、テフロン隔膜が用いられる。
【0035】
<陽極室>
電解槽10の陽極室20を構成する陽極室本体21には、陽極室本体21の底部に設けられ、電解液80を陽極室20内に導入する底部導入部26と、陽極室本体21の頂部に設けられ、電解液80が陽極室20内で電気分解されることにより生成した陽極室液81および酸素ガス68を陽極室20外に排出する頂部排出部28とが設けられる。
【0036】
また、電解槽10の陽極室20は、陽極25が設けられた陽極室中流部分23と、陽極室中流部分23よりも陽極室20の底部導入部26側に位置する陽極室上流部分22と、陽極室中流部分23よりも陽極室20の頂部排出部28側に位置する陽極室下流部分24とを有する。
【0037】
[陽極室上流部分]
陽極室上流部分22は、陽極室20のうち、電解槽10の陽極室20に導入された電解液80の流れを、陽極25が設けられた陽極室中流部分23に到達する前に実質的に鉛直上向きになるように整流する部分である。陽極室上流部分22は、陽極室中流部分23での電気分解前の電解液80の助走区間として機能する。
【0038】
陽極室上流部分22には、電解液80の流れを実質的に鉛直上向きに整流するため、電解液80の流れの方向を任意に制御する整流板27が配置される。
【0039】
整流板27は、電解液80の流れを、層流、または層流に類似する流れにするとともに、この流れが実質的に鉛直上向きになるように整流するものである。整流板27としては、公知の手段が用いられ、たとえば、平板状やコルゲート状の金属板を複数枚積層したものが用いられる。
【0040】
整流板27は、陽極室20に導入された電解液80の流れを実質的に鉛直上向きに整流するものであるが、電解液80の流れの方向を任意に制御することができるようになっていてもよい。電解液80の流れの方向を任意に制御する方法としては、整流板27を可動な状態で設置して、整流板27の流路の方向を制御する方法が挙げられる。
【0041】
[陽極室中流部分]
陽極室中流部分23は、陽極室20のうち、陽極25が設けられた部分である。陽極25は、陽極室本体21の内壁のうち、隔膜40と対向しつつ、隔膜40から離間した部分に設けられる。
【0042】
陽極25の材質としては、アルカリ水電解に用いる公知のものが用いられ、特に限定されない。陽極25の材質としては、たとえば、鉄、鉄系合金、ニッケル、またはニッケル系合金等が用いられる。なお、図2に示す電解槽10では、陽極25が1個の例を示したが、本発明のアルカリ水電解装置の電解槽は、陽極25が複数個設けられていてもよい。
【0043】
陽極25と、陰極室30に設けられた陰極35との間には、図示しない直流電源から電圧が印加されて、電解槽10の陽極室20および陰極室30内で電解液80の電気分解が行われる。
【0044】
直流電源としては、特に限定されないが、たとえば、太陽光、太陽熱、風力等の再生可能エネルギーを用いた発電装置であって、必要により整流等を行い直流の出力を可能としたものが用いられる。
【0045】
電気分解の際、陽極25の電流密度は、通常1A/cm以下、好ましくは0.1〜1A/cm、さらに好ましくは0.2〜0.5A/cmとすると、陰極室30内の陰極35で水素ガス78を効率よく製造することができるため望ましい。
【0046】
[陽極室下流部分]
陽極室下流部分24は、陽極室20のうち、陽極25が設けられた陽極室中流部分23での電気分解により生成した陽極室液81および酸素ガス68が上方に流れる形状に形成された部分である。
【0047】
陽極室下流部分24は、電気分解により生成した陽極室液81および酸素ガス68を、陽極室20の上方に設けられた頂部排出部28にスムーズに導くことにより、陽極室中流部分23の陽極25近傍の電解液80の流れを阻害しないようにするものである。
【0048】
具体的には、陽極室下流部分24は、陽極室中流部分23と頂部排出部28とを直線的に結ぶ形状に形成されるとともに、陽極室液81の流れ方向の断面積が陽極室中流部分23の中頃から頂部排出部28側に向けて徐々に小さくなるように形成されている。このような形状により、陽極室下流部分24では、陽極室液81および酸素ガス68が、滞留することなく陽極室中流部分23から頂部排出部28に向けて上方にスムーズに流れることが可能になっている。
【0049】
上記構成により、電解槽10の陽極室20では、陽極室20の底部導入部26から導入された電解液80が、陽極室20の頂部排出部28に向かって陽極室20内を上方に流れる途中で、陽極25と陰極35とで電気分解されて陽極室液81および酸素ガス68を生成し、陽極室20の頂部排出部28から陽極室液81および酸素ガス68がスムーズに排出されるようになっている。
【0050】
<陰極室>
電解槽10の陰極室30を構成する陰極室本体31には、陰極室本体31の底部に設けられ、電解液80を陰極室30内に導入する底部導入部36と、陰極室本体31の頂部に設けられ、電解液80が陰極室30内で電気分解されることにより生成した陰極室液82および水素ガス78を陰極室30外に排出する頂部排出部38とが設けられる。
【0051】
また、電解槽10の陰極室30は、陰極35が設けられた陰極室中流部分33と、陰極室中流部分33よりも陰極室30の底部導入部36側に位置する陰極室上流部分32と、陰極室中流部分33よりも陰極室30の頂部排出部38側に位置する陰極室下流部分34とを有する。
【0052】
[陰極室上流部分]
陰極室上流部分32は、陰極室30のうち、電解槽10の陰極室30に導入された電解液80の流れを、陰極35が設けられた陰極室中流部分33に到達する前に実質的に鉛直上向きになるように整流する部分である。陰極室上流部分32は、陰極室中流部分33での電気分解前の電解液80の助走区間として機能する。
【0053】
陰極室上流部分32には、電解液80の流れを実質的に鉛直上向きに整流するため、電解液80の流れの方向を任意に制御する整流板37が配置される。陰極室上流部分32に設けられる整流板37は、陽極室上流部分22に設けられる整流板27と同じ構造を有し、作用も同様であるため、説明を省略する。
【0054】
[陰極室中流部分]
陰極室中流部分33は、陰極室30のうち、陰極35が設けられた部分である。陰極35は、陰極室本体31の内壁のうち、隔膜40と対向しつつ、隔膜40から離間した部分に設けられる。陰極室中流部分33に設けられる陰極35は、陽極室中流部分23に設けられる陽極25と同じ構造を有し、作用も同様であるため、説明を省略する。なお、図2に示す電解槽10では、陰極35が1個の例を示したが、本発明のアルカリ水電解装置の電解槽は、陰極35が複数個設けられていてもよい。
【0055】
陰極35と、陽極室20に設けられた陽極25との間には、図示しない直流電源から電圧が印加されて、電解槽10の陽極室20および陰極室30内で電解液80の電気分解が行われる。用いられる直流電源は、陽極室20に設けられる陽極25を説明した部分で説明したものと同じであるため、説明を省略する。
【0056】
電気分解の際、陰極35の電流密度は、通常1A/cm以下、好ましくは0.1〜1A/cm、さらに好ましくは0.2〜0.5A/cmとすると、水素ガス78を効率よく製造することができるため望ましい。
【0057】
[陰極室下流部分]
陰極室下流部分34は、陰極室30のうち、陰極35が設けられた陰極室中流部分33での電気分解により生成した陰極室液82および水素ガス78が上方に流れる形状に形成された部分である。
【0058】
陰極室下流部分34は、電気分解により生成した陰極室液82および水素ガス78を、陰極室30の上方に設けられた頂部排出部38にスムーズに導くことにより、陰極室中流部分33の陰極35近傍の電解液80の流れを阻害しないようにするものである。
【0059】
具体的には、陰極室下流部分34は、陰極室中流部分33と頂部排出部38とを直線的に結ぶ形状に形成されるとともに、陰極室液82の流れ方向の断面積が陰極室中流部分33の中頃から頂部排出部38側に向けて徐々に小さくなるように形成されている。このような形状により、陰極室下流部分34では、陰極室液82および水素ガス78が、滞留することなく陰極室中流部分33から頂部排出部38に向けて上方にスムーズに流れることが可能になっている。
【0060】
上記構成により、電解槽10の陰極室30では、陰極室30の底部導入部36から導入された電解液80が、陰極室30の頂部排出部38に向かって陰極室30内を上方に流れる途中で、陽極25と陰極35とで電気分解されて陰極室液82および水素ガス78を生成し、陰極室30の頂部排出部38から陰極室液82および水素ガス78がスムーズに排出されるようになっている。
【0061】
(電解液)
アルカリ水電解装置1で電気分解に用いられる電解液80は、アルカリ性の水溶液である。電解液80の密度は、電解液80中のカチオンの種類または濃度を調整することにより制御される。
【0062】
電解液80は、電解質として水酸化カリウムKOHを含むと、水の電気分解の電解効率が高いため好ましい。また、電解液80は、KOHの濃度が4〜7mol/kg、好ましくは5〜7mol/kgであると、水の電気分解の電解効率が高いため望ましい。
【0063】
電解液80は、電解質として、KOHとKOH以外のアルカリ金属水酸化物とを含むと、電解液80の密度が大きくなる、電気伝導率が高くなる等の作用により、水の電気分解の電解効率が高くなるため好ましい。ここで、アルカリ金属とは、Li、Na、K、Rb、Cs、およびFrを意味する。
【0064】
KOH以外のアルカリ金属水酸化物としては、たとえば、RbOHおよびCsOHから選ばれる少なくとも1種が用いられる。電解液80が、KOHに加えてRbOHやCsOHを含むと、電解液80の密度がより大きくなる、電気伝導率がより高くなる等の作用により、水の電気分解の電解効率がより高くなるため好ましい。
【0065】
また、電解液80は、アルカリ金属の濃度が3〜8mol/kgであると、水の電気分解の電解効率が高いため好ましい。ここで、アルカリ金属の濃度とは、KOHを含む全てのアルカリ金属水酸化物を構成するアルカリ金属の濃度を意味する。
【0066】
電解液80は、アルカリ金属水酸化物の含有量に対するKOHの含有量の割合が、通常80〜100質量%、好ましくは80〜90質量%の範囲内にあると、水の電気分解の電解効率が高いため望ましい。
【0067】
電解液80は、27℃で測定したpHが14以上、好ましくは14〜15、さらに好ましくは14.5〜15である。
【0068】
電解液80の27℃で測定したpHが14以上であると、電解液80の電気伝導率が高いことから水の電気分解の電解効率が高くなるため好ましい。
【0069】
また、電解液80は、27℃で測定した電気伝導率が0.25S/cm以上、好ましくは0.25〜0.5S/cm、さらに好ましくは0.3〜0.5S/cmである。
【0070】
電解液80の27℃で測定した電気伝導率が0.25S/cm以上であると、電解液80の電気分解の電解効率が高くなるため好ましい。
【0071】
さらに、電解液80は、密度が1.25kg/m以上、好ましくは1.25〜1.5kg/m、さらに好ましくは1.35〜1.5kg/mである。ここで、密度とは、27℃で測定した密度を意味する。
【0072】
電解液80の密度が1.25kg/m以上であると、電解液80の電気分解により生成する酸素ガス68、水素ガス78等からなる気泡と、電解液80、陽極室液81、または陰極室液82等の液体との密度差が大きくなり、気泡の上昇速度が高くなることにより、電解槽10内での気泡の滞留を防ぎ水の電気分解の効率を高めることができるため好ましい。
【0073】
ここで、電解液80の密度が高くなると電解液80中の気泡の上昇速度が高くなることについて説明する。また、電解液80に流れがある場合において、気泡の上昇速度をさらに高くする方法についても検討する。
【0074】
はじめに、電解槽10内で電解液80の流れが存在しない場合の気泡の上昇速度、すなわち、気泡の浮力による気泡の上昇速度vを算出する。気泡の浮力による気泡の上昇速度vは下記式(1)で表される。なお、下記式(1)の浮力Fは、下記式(2)を用いて算出される。
【0075】
【数1】

【0076】
【数2】

【0077】
式(1)および(2)より、電解液80の密度ρを大きくして、電解液80の密度ρと気泡を構成する気体ρとの密度差を大きくすると、気泡の上昇速度vが大きくなることが分かる。
【0078】
図3は、電解液密度と気泡上昇速度との関係を示すグラフである。図3は、アルカリ性電解液の電気分解時に発生する気泡の上昇速度を示したものであり、具体的には、気体体積(気泡体積)V、気泡の質量m、および気体密度(気泡密度)ρが同一の気泡が、種々の液体密度ρの電解液中で上昇するときの気泡の上昇速度vを、式(1)および(2)より算出したものである。なお、図3において、気泡上昇速度は、電解液密度増加率が0%である基準電解液での気泡上昇速度を1としたときの、相対値として示した。図3より、電解液密度が上昇すると、気泡上昇速度も上昇することが分かる。
【0079】
次に、電解槽10内で電解液80の流れが存在する場合の気泡の上昇速度、すなわち、気泡の浮力と電解液80の流れの両方を考慮した電解液流動下の気泡の上昇速度vについて検討する。電解液流動下の気泡の上昇速度vは下記式(3)で表される。なお、電解液の流速vは、電解液が気泡の上昇方向に流れる場合に正の値を採るものとした。
【0080】
【数3】

【0081】
式(3)より、電解液80の流れ方向と気泡の上昇方向とが一致すると、気泡の上昇速度が高くなることが分かる。
【0082】
したがって、式(1)〜(3)より、電解液80の密度を高くして気泡の上昇速度を高くするとともに、電解液80の流れ方向と気泡の上昇方向とを一致させると、気泡の滞留を防ぐ特殊な形状の電解槽10を用いずに、電気伝導度の高い電解液80を用いて水の電気分解を行った場合でも、水の電気分解で生成する酸素ガス68、水素ガス78等からなる気泡が、電解槽10内に滞留することを防止できることが分かる。
【0083】
(作用)
アルカリ水電解装置1の作用について説明する。はじめに、電解液タンク50中の電解液80を、陽極室電解液供給系統61に設けられた送液ポンプ64を用いて電解槽10の陽極室20に導入するとともに、陰極室電解液供給系統71に設けられた送液ポンプ74を用いて電解槽10の陰極室30に導入する。
【0084】
陽極室20に導入される電解液80の流量は、陽極室電解液供給系統61に設けられた流量計65で測定され、陽極室電解液供給系統61に設けられた図示しないバルブ等を用いて調整される。陰極室30に導入される電解液80の流量は、陰極室電解液供給系統71に設けられた流量計75で測定され、陰極室電解液供給系統71に設けられた図示しないバルブ等を用いて調整される。
【0085】
<陽極室における作用>
次に、電解液80が電解槽10の陽極室20に導入される場合の作用について説明する。電解液80が電解槽10の陽極室20に導入される場合、電解液80は、電解槽10の陽極室20の底部に設けられた底部導入部26を介して、陽極室20の陽極室上流部分22に導入される。図2に示すように、電解液80は、底部導入部26の下方から上方に向かって陽極室上流部分22に導入される。
【0086】
陽極室上流部分22の鉛直上方には陽極室中流部分23が設けられ、陽極室中流部分23の鉛直上方には陽極室下流部分24が設けられ、陽極室下流部分24の鉛直上方には頂部排出部28が設けられる。このため、底部導入部26を介して陽極室20内に導入された電解液80は、陽極室20内を上方に流れ、途中で電気分解されて陽極室液81になった後、頂部排出部28の上方からから排出されるようになっている。
【0087】
また、陽極室上流部分22内には、電解液80の流れの方向を任意に制御する整流板27が配置されている。このため、陽極室20の陽極室上流部分22内の電解液80の流れは整流されるとともに流れの方向が任意の方向に制御されるようになっている。図2に示す電解槽10では、整流板27は、陽極室上流部分22内の電解液80の流れの方向が図2中の下方から上方に向かうように制御されている。陽極室上流部分22内の整流板27で整流された電解液80は、整流された状態で、陽極室中流部分23に送られる。
【0088】
陽極室中流部分23において、電解液80は、陽極室中流部分23に設けられた陽極25と、陰極室30の陰極室中流部分33に設けられた陰極35とにより電気分解され、陽極室液81および酸素ガス68を生成する。
【0089】
なお、陽極室20と陰極室30とは隔膜40で区画されており、酸素ガス68等からなる気泡は隔膜40を透過できないため、陽極室20内で生成した酸素ガス68は、陰極室30側には侵入せず、陽極室液81とともに陽極室20内を上昇して陽極室下流部分24に送られる。
【0090】
陽極室下流部分24は、陽極室液81および酸素ガス68がスムーズに上方に流れる形状に形成されることにより、陽極室中流部分23での電解液80の流れを阻害しないようになっている。陽極室下流部分24中の陽極室液81および酸素ガス68は、陽極室20の頂部排出部28から、頂部排出部28の上方にある陽極室液循環系統63にスムーズに排出される。
【0091】
電解槽10の陽極室20から、陽極室20の上方の陽極室液循環系統63に排出された陽極室液81および酸素ガス68は、陽極室液循環系統63の途中に設けられた陽極室液気液分離器66により、陽極室液81と酸素ガス68とに分離される。
【0092】
陽極室液気液分離器66により陽極室液81から分離された酸素ガス68は、酸素ガス系統67を流通して、図示しない酸素ガス貯蔵系に送られ、貯蔵される。このように、アルカリ水電解装置1によれば、陽極室20での電解により酸素ガス68を製造することができる。
【0093】
一方、陽極室液気液分離器66により酸素ガス68から分離された陽極室液81は、陽極室液循環系統63を流通して電解液タンク50に送られる。これにより、アルカリ水電解装置1において、電解液タンク50から電解槽10の陽極室20に送られた電解液80が、電気分解されて陽極室液81となった後、電解液タンク50に戻ってくる、陽極室20を経由した電解液80の循環サイクルが形成される。
【0094】
電解液タンク50では、陽極室液循環系統63を流通して戻ってきた陽極室液81と、陰極室液循環系統73を流通して戻ってきた陰極室液82とが混合された上、適宜、電解質の補給等が行われることにより電解槽10に導入可能な電解液80が調製される。
【0095】
送液ポンプ64は、電解槽10での電気分解による電解液80の消費量以上の量の電解液を電解液タンク50から電解槽10に供給することにより、陽極室20を経由する電解液80の循環サイクルが、一定流量の電解液80を流通できるようにする。
【0096】
<陰極室における作用>
次に、電解液80が電解槽10の陰極室30に導入される場合の作用について説明する。なお、陰極室30に導入される電解液80は、陽極室20に導入される電解液80と同様に、陰極室30内を上方に流れ、陰極室液82になった後、頂部排出部38から排出されるようになっている。また、陰極室30内の構成と陽極室20内の構成とは、陰極35と陽極25との相違点以外は同じである。このため、陰極室30に電解液80が導入される場合の作用と、陽極室20に電解液80が導入される場合の作用とは、電解液80が電気分解される際の作用以外は同様である。しかし、説明の省略による誤解を防ぐため、陰極室30に電解液80が導入される場合の作用についても、陽極室20に電解液80が導入される場合の作用と同様に説明する。
【0097】
電解液80が電解槽10の陰極室30に導入される場合、電解液80は、電解槽10の陰極室30の底部に設けられた底部導入部36を介して、陰極室30の陰極室上流部分32に導入される。図2に示すように、電解液80は、底部導入部36の下方から上方に向かって陰極室上流部分32に導入される。
【0098】
陰極室上流部分32の鉛直上方には陰極室中流部分33が設けられ、陰極室中流部分33の鉛直上方には陰極室下流部分34が設けられ、陰極室下流部分34の鉛直上方には頂部排出部38が設けられる。このため、底部導入部36を介して陰極室30内に導入された電解液80は、陰極室30内を上方に流れ、途中で電気分解されて陰極室液82になった後、頂部排出部38の上方からから排出されるようになっている。
【0099】
また、陰極室上流部分32内には、電解液80の流れの方向を任意に制御する整流板37が配置されている。このため、陰極室30の陰極室上流部分32内の電解液80の流れは整流されるとともに流れの方向が任意の方向に制御されるようになっている。図2に示す電解槽10では、整流板37は、陰極室上流部分32内の電解液80の流れの方向が図2中の下方から上方に向かうように制御されている。陰極室上流部分32内の整流板37で整流された電解液80は、整流された状態で、陰極室中流部分33に送られる。
【0100】
陰極室中流部分33において、電解液80は、陰極室中流部分33に設けられた陰極35と、陽極室20の陽極室中流部分23に設けられた陽極25とにより電気分解され、陰極室液82および水素ガス78を生成する。
【0101】
なお、陰極室30と陽極室20とは隔膜40で区画されており、水素ガス78等からなる気泡は隔膜40を透過できないため、陰極室30内で生成した水素ガス78は、陽極室20側には侵入せず、陰極室液82とともに陰極室30内を上昇して陰極室下流部分34に送られる。
【0102】
陰極室下流部分34は、陰極室液82および水素ガス78がスムーズに上方に流れる形状に形成されることにより、陰極室中流部分33での電解液80の流れを阻害しないようになっている。陰極室下流部分34中の陰極室液82および水素ガス78は、陰極室30の頂部排出部38から、頂部排出部38の上方にある陰極室液循環系統73にスムーズに排出される。
【0103】
電解槽10の陰極室30から、陰極室30の上方の陰極室液循環系統73に排出された陰極室液82および水素ガス78は、陰極室液循環系統73の途中に設けられた陰極室液気液分離器76により、陰極室液82と水素ガス78とに分離される。
【0104】
陰極室液気液分離器76により陰極室液82から分離された水素ガス78は、水素ガス系統77を流通して、図示しない水素ガス貯蔵系に送られ、貯蔵される。このように、アルカリ水電解装置1によれば、陰極室30での電解により水素ガス78を製造することができる。
【0105】
一方、陰極室液気液分離器76により水素ガス78から分離された陰極室液82は、陰極室液循環系統73を流通して電解液タンク50に送られる。これにより、アルカリ水電解装置1において、電解液タンク50から電解槽10の陰極室30に送られた電解液80が、電気分解されて陰極室液82となった後、電解液タンク50に戻ってくる、陰極室30を経由した電解液80の循環サイクルが形成される。
【0106】
電解液タンク50では、陰極室液循環系統73を流通して戻ってきた陰極室液82と、陽極室液循環系統63を流通して戻ってきた陽極室液81とが混合された上、適宜、電解質の補給等が行われることにより電解槽10に導入可能な電解液80が調製される。
【0107】
送液ポンプ74は、電解槽10での電気分解による電解液80の消費量以上の量の電解液を電解液タンク50から電解槽10に供給することにより、陰極室30を経由する電解液80の循環サイクルが、一定流量の電解液80を流通できるようにする。
【0108】
(効果)
アルカリ水電解装置1によれば、電解槽10内での気泡の滞留を防ぎ水の電気分解の電解効率を高めることができる。
【0109】
アルカリ水電解装置1によれば、電解槽10内での気泡の滞留を防ぎ水の電気分解の効率を高めることができるため、水の電気分解のために入力される電流が再生可能エネルギーを用いた発電等のために変動する場合でも、水の電気分解の効率的な運転が可能になる。
【0110】
なお、図1には、アルカリ水電解装置1として、電解槽10を1個備える例を示した。しかし、本発明のアルカリ水電解装置では、電解槽10を複数個備えてもよい。アルカリ水電解装置が電解槽10を複数個備える場合、複数個の電解槽10は、直列、並列、または直列と並列を組み合わせた配置とすることができる。
【0111】
ここで、複数個の電解槽10の直列な配置とは、n個目の電解槽10の陽極室20から排出された陽極室液81がn+1個目の電解槽10の陽極室20に導入されるとともに、n個目の電解槽10の陰極室30から排出された陰極室液82がn+1個目の電解槽10の陰極室30に導入される配置を意味する。
【0112】
また、複数個の電解槽10の並列な配置とは、複数個の電解槽10の陽極室20のそれぞれについて、電解液80が導入され陽極室液81が排出されるとともに、複数個の電解槽10の陰極室30のそれぞれについて、電解液80が導入され陰極室液82が排出される配置を意味する。
【0113】
本発明のアルカリ水電解装置において、電解槽10を複数個備え、かつ電解槽10を直列、並列、または直列と並列を組み合わせた配置とすることにより、電気分解のための電流または電圧の設定の自由度が高くなるため好ましい。
【0114】
また、本発明のアルカリ水電解装置では、電解槽10の陽極25と陰極35との間に供給される電力、電流、電圧を適宜設定することができる。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0116】
[実施例1]
(電解液のK濃度と電気伝導率との関係の測定)
純水に関東化学株式会社製48%水酸化カリウム水溶液(鹿特級)を溶解し、Kのモル重量濃度が3.0〜8.6mol/kgの電解液を4種類調製した。なお、Kのモル重量濃度は、KOHとのモル重量濃度と同じ数値である。
4種類の電解液について、電気伝導率を測定した。測定結果を図4に示す。
図4より、Kが3〜8mol/kg程度、特に4〜7mol/kg程度の範囲内で、電解液の電気伝導率が高いことが分かる。
【0117】
[実施例2]
(電解液におけるKおよびCsの濃度の比率と、電気伝導率との関係の測定)
純水に、関東化学株式会社製48%水酸化カリウム水溶液(鹿特級)と、Alfa Aeaser製50%水酸化セシウム(CsOH)水溶液とを溶解し、KおよびCsの合計モル量のモル重量濃度が6mol/kg、かつKおよびCsの濃度の比率{K/(K+Cs)}が0.80〜0.91の電解液を3種類調製した。
3種類の電解液について、電気伝導率を測定した。測定結果を図5に示す。
図5より、KおよびCsの合計モル量のモル重量濃度が6mol/kgの場合は、K/(K+Cs)が0.85を超える範囲で、電解液の電気伝導率が高くなることが分かる。
【0118】
[実施例3]
(電解液のKOH濃度と電解液密度との関係の測定)
純水に、関東化学株式会社製48%水酸化カリウム水溶液(鹿特級)を溶解し、KOHのモル重量濃度が0〜7mol/kgの電解液を5種類調製した。
5種類の電解液について、密度を測定した。測定結果を図6に示す。
図6より、KOH濃度が大きくなるほど電解液の密度が大きくなることが分かる。
【0119】
[実施例4]
(電解液におけるKおよびCsの濃度の比率と、電解液密度との関係の測定)
純水に、関東化学株式会社製48%水酸化カリウム水溶液(鹿特級)と、Alfa Aeaser製50%水酸化セシウム(CsOH)水溶液とを溶解し、KおよびCsの合計モル量のモル重量濃度が6mol/kg、かつKおよびCsの濃度の比率{K/(K+Cs)}が0.80〜0.91の電解液を3種類調製した。
3種類の電解液について、密度を測定した。測定結果を図7に示す。
図7より、KおよびCsの合計モル量のモル重量濃度が6mol/kgの場合は、K/(K+Cs)が小さくなるほど、電解液の密度が大きくなることが分かる。
【0120】
[実施例5]
(電解液におけるKおよびCsの濃度の比率と、電気伝導率との関係の測定)
純水に、関東化学株式会社製48%水酸化カリウム水溶液(鹿特級)と、Alfa Aeaser製50%水酸化セシウム(CsOH)水溶液とを溶解し、KおよびCsの合計モル量のモル重量濃度が6mol/kg、かつKおよびCsの濃度の比率K/(K+Cs)が0.8〜1の電解液を3種類調製した。
3種類の電解液について、電気伝導率を測定した。測定結果を図8に示す。なお、図8の電気伝導率は、K/(K+Cs)が1である基準電解液での電気伝導率を1としたときの、相対値として示した。
図8より、KおよびCsの合計モル量のモル重量濃度が6mol/kgの場合は、K/(K+Cs)が1から0.8に近づくほど、すなわち、電解液がKOHのみでなく、KOHおよびCsOHを含むようになると、電解液の電気伝導率が高くなることが分かる。
【0121】
実施例1〜5の結果より、電解液が、電解質としてKOHのみを含む場合に比べて、KOHおよびCsOHを含む場合は、電解効率が改善されることが分かった。
また、電解質がKOHおよびCsOHを含む場合でも、KOHとCsOHとの混合割合によって電解効率の改善の効果が異なり、K/(K+Cs)が0.8のときに、電解効率の改善の効果が最も高いことが分かった。
【0122】
[実施例6]
(電解液の流量と電解効率との関係の測定)
純水に、関東化学株式会社製48%水酸化カリウム水溶液(鹿特級)を溶解し、KOHのモル重量濃度が6mol/kgの電解液を調製した。
この電解液を、図1に示すアルカリ水電解装置1の電解槽10に導入し、電解槽10の陽極室20および陰極室30に導入される電解液の合計の流量が0ml/min、210ml/min、および830ml/minになる場合の電解液の電気伝導率を測定した。陽極室20および陰極室30のそれぞれに導入される電解液の流量は、上記流量の半分の0ml/min、105ml/min、および415ml/minである。
ここで、電解液の流量(ml/min)は、流量計65、75で測定される値ではなく、電解槽10内の電解液を適宜、断続的に置換する場合の全置換量を時間で除して算出したものである。具体的には、電解液の流量(ml/min)は、電解液の電気分解に適した組成の好適な範囲を予め設定しておき、電解液の組成がこの好適な範囲を逸脱しないように、電解槽10内の電解液を断続的に置換した場合の電解液の全置換量を時間で除して算出した。
測定結果を図9に示す。なお、図9では、縦軸として電解効率を用いた。この電解効率は、電解液流量が0ml/min、210ml/min、および830ml/minのときの電気伝導率の値のそれぞれを、電解液流量が0ml/minのときの電気伝導率の値で除したものである。このため、電解液流量が0ml/minでは、電解効率の値が1になっている。
図9より、電解液の電解効率は、電解液流量が大きくなるほど高くなることが分かる。また、陽極25および陰極35に供給する電力を変えて同様の実験を行ったところ、供給する電力の大小に関わらず、同様に、電解液流量が大きくなるほど電解効率が高くなることが分かった。
【0123】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0124】
1 アルカリ水電解装置
10 電解槽
20 陽極室
21 陽極室本体
22 陽極室上流部分
23 陽極室中流部分
24 陽極室下流部分
25 陽極
26 底部導入部
27 整流板
28 頂部排出部
30 陰極室
31 陰極室本体
32 陰極室上流部分
33 陰極室中流部分
34 陰極室下流部分
35 陰極
36 底部導入部
37 整流板
38 頂部排出部
40 隔膜
50 電解液タンク
61 陽極室電解液供給系統
62 陽極室液排出系統
63 陽極室液循環系統
64 送液ポンプ
65 流量計
66 陽極室液気液分離器
67 酸素ガス系統
68 酸素ガス(酸素)
71 陰極室電解液供給系統
72 陰極室液排出系統
73 陰極室液循環系統
74 送液ポンプ
75 流量計
76 陰極室液気液分離器
77 水素ガス系統
78 水素ガス(水素)
80 電解液
81 陽極室液
82 陰極室液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極が配置された陽極室と、陰極が配置された陰極室と、この陽極室と陰極室とを区画する隔膜とを有し、塩基性水溶液からなる電解液を電気分解して水素を製造する電解槽を備えたアルカリ水電解装置であって、
前記電解槽は、前記陽極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陽極室の頂部排出部に向かって前記陽極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陽極室液および酸素ガスを生成し、前記陽極室の頂部排出部から前記陽極室液および酸素ガスが排出されるとともに、前記陰極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陰極室の頂部排出部に向かって前記陰極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陰極室液および水素ガスを生成し、前記陰極室の頂部排出部から前記陰極室液および水素ガスが排出される構造であり、
前記電解液は、27℃で測定したpHが14以上、27℃で測定した電気伝導率が0.25S/cm以上、かつ密度が1.25kg/m以上であることを特徴とするアルカリ水電解装置。
【請求項2】
前記電解槽の陽極室は、前記陽極が設けられた陽極室中流部分と、この陽極室中流部分よりも陽極室の底部導入部側に位置する陽極室上流部分と、前記陽極室中流部分よりも陽極室の頂部排出部側に位置する陽極室下流部分とを有し、
記電解槽の陰極室は、前記陰極が設けられた陰極室中流部分と、この陰極室中流部分よりも陰極室の底部導入部側に位置する陰極室上流部分と、前記陰極室中流部分よりも陰極室の頂部排出部側に位置する陰極室下流部分とを有し、
前記陽極室の陽極室上流部分および陰極室の陰極室上流部分には、前記電解液の流れの方向を任意に制御する整流板が配置され、
前記陽極室の陽極室下流部分は、前記陽極室液および酸素ガスが上方に流れる形状に形成され、
前記陰極室の陰極室下流部分は、前記陰極室液および水素ガスが上方に流れる形状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項3】
前記電解槽の陽極室から排出された前記陽極室液と酸素ガスとを分離する陽極室液気液分離器と、
前記電解槽の陰極室から排出された前記陰極室液と水素ガスとを分離する陰極室液気液分離器とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項4】
前記電解槽に供給する電解液を貯留する電解液タンクと、
前記電解液タンク中の前記電解液を前記電解槽の陽極室と陰極室とに移送する送液ポンプと、
前記電解槽の陽極室から排出された陽極室液を前記電解液タンクに移送する陽極室液循環系統と、
前記電解槽の陰極室から排出された陰極室液を前記電解液タンクに移送する陰極室液循環系統とを備え、
前記陽極室液気液分離器は、前記陽極室液循環系統の途中に設けられ、
前記陰極室液気液分離器は、前記陰極室液循環系統の途中に設けられることを特徴とする請求項3に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項5】
前記電解液の密度は、電解液中のカチオンの種類または濃度を調整することにより制御されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項6】
前記電解液は、KOHを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項7】
前記電解液は、KOHとKOH以外のアルカリ金属水酸化物とを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項8】
前記KOH以外のアルカリ金属水酸化物は、RbOHおよびCsOHから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項9】
前記電解液は、KOHの濃度が4〜7mol/kgであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項10】
前記電解液は、アルカリ金属水酸化物の含有量に対するKOHの含有量の割合が、80〜100質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項11】
前記電解液は、前記アルカリ金属の濃度が3〜8mol/kgであることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項12】
前記送液ポンプは、前記電気分解による前記電解液の消費量以上の量の電解液を前記電解液タンクから前記電解槽に供給することができることを特徴とする請求項6〜11のいずれか1項に記載のアルカリ水電解装置。
【請求項13】
陽極が配置された陽極室と、陰極が配置された陰極室と、この陽極室と陰極室とを区画する隔膜とを有し、塩基性水溶液からなる電解液を電気分解して水素を製造する電解槽、を備えたアルカリ水電解装置を用いるアルカリ水電解方法であって、
前記電解槽は、前記陽極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陽極室の頂部排出部に向かって前記陽極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陽極室液と酸素ガスとを生成し、前記陽極室の頂部排出部から前記陽極室液と酸素ガスとが排出されるとともに、前記陰極室の底部導入部から導入された前記電解液が、前記陰極室の頂部排出部に向かって前記陰極室内を上方に流れる途中で前記陽極と前記陰極とで電気分解されて陰極室液と水素ガスとを生成し、前記陰極室の頂部排出部から前記陰極室液と水素ガスとが排出される構造であり、
前記電解液は、27℃で測定したpHが14以上、27℃で測定した電気伝導率が0.25S/cm以上、かつ密度が1.25kg/m以上であることを特徴とするアルカリ水電解方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−28822(P2013−28822A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163489(P2011−163489)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】