説明

アルカリ蓄電池およびアルカリ蓄電池の放電リザーブ低減方法

【課題】負極の放電リザーブを低減させることのできる追加電極を備えることにより、寿命性能に優れ、かつ高エネルギー密度を有するアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】セパレータを介して対向する正極および負極を含む電極体と、前記正極および負極にそれぞれ電気的に接続された正極集電体および負極集電体とを備えるアルカリ蓄電池に、前記負極と前記セパレータを介して放電反応を行うことが可能な材料からなる、前記正極集電体および前記負極集電体から電気的に絶縁されている追加電極を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の充放電に直接関与しない電極を備える、負極の放電リザーブを低減することが可能なアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主として携帯機器用の電源として使用する充放電可能な種々の二次電池が提案されてきた。さらに、近年、地球温暖化防止や分散型エネルギーシステムとしてのメリットが期待できる風力発電や太陽光発電のような新エネルギーの導入に伴い、大容量二次電池が開発されている。新エネルギーは、自然の影響を受けやすく出力が不安定な電源であり、大量に導入される際には蓄電技術による出力の平滑化や、夜間のような軽負荷時における新エネルギー発電電力の蓄電などが必要になるからである。
【0003】
さらには、近年、環境への配慮から、自動車や電車などの車両に充放電可能な二次電池を搭載したものが開発されている。車両に二次電池を搭載した場合には、ブレーキ時に生じる回生電力をこの搭載電池に蓄えておき、車両の動力源として使用することができるので、車両の運行エネルギー効率を高めることができる。このように車両に搭載する二次電池としては、エネルギー密度、負荷変動追従性、耐久性、製造コストなどの諸条件から、例えばニッケル水素二次電池が適しているとされる(特許文献1)。
【0004】
ニッケル水素二次電池の電極反応は、下記の式(1)および(2)で表される。それぞれ右向きの反応が充電反応、左向きの反応が放電反応であり、Mは水素吸蔵合金を表す。
正極:Ni(OH) + OH ⇔ NiOOH + HO + e (1)
負極:M + HO +e ⇔ MH + OH (2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
満充電の状態からさらに充電が行われる過充電時には、正極において下記(3)の反応により酸素ガスが発生する。
OH → 1/4O + 1/2HO + e (3)
このようにして正極で発生した酸素ガスは、下記(4)の反応により、負極に過剰に充填した水素吸蔵合金(M)中の水素と反応してHOとなるので、電池内部の圧力上昇が抑えられ、電池を密閉構造とすることができる。
MH + 1/4O → M + 1/2HO (4)
このように、従来のニッケル水素二次電池においては、一般的に、図1(a)に示すように、あらかじめ負極の充電容量を正極の充電容量よりも大きく設定しておくことで、密閉化を可能にしている。この、負極における正極の充電容量を上回る分を、充電リザーブと呼ぶ。
【0006】
一方、放電側においても正極規制となるように、負極に予め多目の放電容量(つまり水素)を設けておく。これを放電リザーブと呼ぶ。通常、ニッケル水素二次電池は、組み立てられた直後は電池として十分に機能しないので、予備的な充放電(初期活性化)を行った後に出荷される。この初期活性化の過程で、正極に含まれる、活物質以外の導電材やバインダーなどの物質が酸化し、これによって発生する水素が放電リザーブとして負極に蓄えられる。
【0007】
しかし、放電リザーブは、上述の初期活性化の後も、通常の充放電サイクルが進むにつれて、セパレータやバインダーの酸化、負極合金の腐食等によりさらに増加していく。このように放電リザーブが増加することにより、負極の充電容量が正極の充電容量よりも小さくなった場合には、充電末期に負極から水素ガスが発生し、内部圧力が急上昇してガス排出弁が作動する。これにより、電解液のドライアウトによる電池寿命の低下を招く。このような放電リザーブの増加による弊害は、充電リザーブをより大きく設定することによる防止も可能であるが、その場合、実質的に電池容量に寄与しない余分な負極材料を充填しなければならないので、電池全体の体積エネルギー密度の低減を余儀なくされる。さらには、高価な負極活物質材料(水素吸蔵合金)の充填量を増やすことで、電池のコストが増大する。
【0008】
【特許文献1】特開2001−110381号公報
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を解決するために、通常の充放電には関与しないが、負極との間で放電反応を行って負極の放電リザーブを低減させることのできる追加電極を設けることにより、寿命性能に優れ、かつ高エネルギー密度を有するアルカリ蓄電池を提供すること、および、このようなアルカリ蓄電池の負極リザーブ低減方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した目的を達成するために、本発明に係るアルカリ蓄電池は、セパレータを介して対向する正極および負極を含む電極体と、前記正極および負極にそれぞれ電気的に接続された正極集電体および負極集電体と、前記負極と前記セパレータを介して放電反応を行うことが可能な材料からなる、前記正極集電体および前記負極集電体から電気的に絶縁して設けられた追加電極とを備えている。
【0011】
すなわち、図1(b)に模式的に示すように、本発明のアルカリ蓄電池においては、負極との間で通常の充放電を行う正極とは別に、負極の放電反応を行うことができる追加電極が設けられている。この追加電極は、正極集電体からは絶縁されていることにより、通常の、つまり電池から電力を取り出すための充放電反応には関与しないが、必要に応じて負極−追加電極間で放電させることにより、負極の放電リザーブを除去することができる。負極−追加電極間で放電させる際の代表的な反応は以下の通りである。
負極 :M + OH → M + HO + e
追加電極 :HO +e→ 1/2H + OH
【0012】
この構成によれば、追加電極を利用して、随時負極の放電リザーブを除去することができるので、充放電を繰り返すうちに正極の充電容量が負極の充電容量を上回って水素ガスが発生するのを防止できる。しかも、追加電極は通常の充放電に関与しないので、追加電極が劣化しても、電池自体の充放電性能を低下させることがない。したがって、電池の寿命性能を大幅に向上させることが可能になる。また、予め負極に充填しておくべき充電リザーブの量を大幅に削減して、電池のエネルギー密度を高めることができる。さらには、高価な負極活物質の充填量を削減できることにより、このような高エネルギー密度を有し寿命性能に優れる電池を、安価に提供することが可能になる。
【0013】
上記のアルカリ蓄電池において、前記追加電極は、例えば、前記正極および負極を電解液とともに収容する本体ケーシング内に固定的に設けられている。このように構成することにより、電池全体を簡単な構造としながら、負極の放電リザーブを低減することができる。
【0014】
上記のように、追加電極を本体ケーシング内に固定的に設ける構造として、例えば、前記本体ケーシングが、対向配置された平板状の前記正極集電体および負極集電体と、これら集電体間に介在する絶縁素材からなる枠形部材によって形成し、平板状に形成された前記追加電極を、前記枠形部材の内壁に沿って配置することができる。このように構成することにより、本体ケーシング内のスペースを有効に利用して追加電極を設けることができる。
【0015】
上記のように、追加電極を本体ケーシング内に固定的に設ける構造として、例えば、前記正極、前記負極、および前記追加電極のそれぞれが平板状に形成されており、前記追加電極を、前記正極および前記負極とともにセパレータを介して積層して前記電極体を形成することができる。このように構成することにより、追加電極が負極に近接して配置されるので、放電リザーブを除去するための負極−追加電極間の放電反応を高効率に行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る上記のアルカリ蓄電池において、前記追加電極が、前記電極体を電解液とともに収容する本体ケーシングに着脱可能に設けられていてもよい。このように構成することにより、例えば、メンテナンス時のような必要な場合にのみ追加電極を取り付けて放電リザーブ除去を行うことができるので、通常の充放電時の電池重量を低減することができる。あるいは、複数の電池について1つの追加電極によって順次放電リザーブ除去を行うことができるので、電池のエネルギー密度および寿命性能を安価に向上させることができる。
【0017】
上記のように、前記追加電極を前記本体ケーシングに着脱可能に設ける構造として、例えば、電池が、前記本体ケーシングとは別体に設けられた、前記追加電極を電解液とともに収容する補助ケーシングと、前記本体ケーシング内の電解液と前記補助ケーシング内の電解液とをイオン連通させるイオン伝導性材料からなる接続部材とを備えていてもよい。このように構成することにより、通常の電池使用時における電池の体積を削減してエネルギー密度を大幅に増大させながら、寿命性能を向上させることが可能になる。
【0018】
上記のように、前記追加電極を、前記本体ケーシングに着脱可能に設ける場合、前記追加電極が棒状に形成されていてもよい。このように構成することにより、追加電極の着脱が容易になる。
【0019】
本発明に係るアルカリ蓄電池は、例えば、前記正極の活物質として水酸化ニッケルを含み、前記負極の活物質として水素吸蔵合金を含むニッケル水素二次電池として構成された電池において、前記追加電極を、ニッケル金属、ニッケルを含む合金、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、コバルト、銀、タングステン、鉄、銅、またはチタンのいずれかを含む材料から形成することができる。ここで、「ニッケル金属を含む材料」には、例えば、ニッケルめっきを施した鋼板なども含む。このような水素過電圧の低い材料を追加電極に使用することにより、効率よく放電反応を起こすことができる。
【0020】
本発明に係る負極放電リザーブ低減方法は、上記のアルカリ蓄電池において、前記負極集電体と前記追加電極とを電気的に接続して負極を放電させることを含む。この方法によれば、通常は充放電に関与しない追加電極を用いて負極を放電させることにより、負極の放電リザーブを除去することができるので、負極の充填量を削減して電池のエネルギー密度を増大させるとともに、正極の劣化を招くことなく、寿命性能を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係るアルカリ蓄電池によれば、通常の充放電に関与しない追加電極を設けたことにより、負極の放電リザーブを効果的に除去することができるので、寿命性能が大幅に向上するとともに、予め負極に充填しておくべき充電リザーブの量を大幅に削減してエネルギー密度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図2は、本発明の第1実施形態に係るアルカリ蓄電池(以下単に「電池」という)Cの構造を示す斜視図である。本実施形態に係る電池Cは、水酸化ニッケルを主要な正極活物質とし、水素吸蔵合金を主要な負極活物質とし、アルカリ系水溶液を電解液とするニッケル水素二次電池として構成されており、正極および負極の集電板を兼ねる矩形の第1蓋部材3および第2蓋部材5と、これら第1および第2蓋部材3,5間に介在する絶縁素材からなる枠形部材7によって、電池Cの角形のケーシング9が構成されている。
【0024】
図2のIIIa−IIIa線に沿った断面図である図3(a)に示すように、ケーシング9の内方には、セパレータ11を介して互いに対向して交互に積層された複数の正極13および負極15からなる電極体17が収容されている。さらに、ケーシング9の内方には、追加電極19が収容されている。
【0025】
電極体17の構造は、特に限定されないが、例えば、複数の正極13と複数の負極15とが、プリーツ状に折り曲げられたセパレータ11を介して所定の方向Xに交互に積層されて対向する積層構造を有している。本実施形態では、第1および第2蓋部材3,5の対向方向Yに直交するように、積層方向Xが設定されている。本体ケーシング9の第1蓋部材3および第2蓋部材5は、ニッケルめっきを施した鋼板で形成されており、正極13は第1蓋部材3に、負極15は第2蓋部材5に、それぞれ電気的に接続されている。つまり、第1および第2蓋部材3,5は、それぞれ、電池Cの正極集電体および負極集電体を兼ねている。なお、セパレータ11は、図3(a)に示したプリーツ状のものに限らず、例えば、袋状のものを使用してもよい。
【0026】
追加電極19は、負極15と放電反応を行うことが可能な材料から形成されるが、通常の、つまり電池Cから電力を取り出すための充放電反応には関与しない部材として設けられている。追加電極19を形成する材料としては、水素過電圧の低い材料が好ましく、例えばニッケル金属、ニッケルを含む合金(例えばニッケル−イオウ合金、ニッケル−スズ合金、ラネーニッケルなど)、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、コバルト、銀、タングステン、鉄、銅、またはチタンなどを含むものを使用することが可能である。本実施形態においては、ニッケル金属を含む材料としてニッケルめっきを施した鋼板を使用している。追加電極19の水素過電圧を下げるためには、反応表面積を大きくすることが有効であり、例えば、ニッケルめっきを施した鋼板の表面に、水素過電圧が極めて低い白金の微粒子を触媒として塗布したものを使用してもよい。
【0027】
また、追加電極19は、本体ケーシング9内において、正極13および負極15からセパレータを介して隔離されるとともに、正極集電体である第1蓋部材3および負極集電体である第2蓋部材5から電気的に絶縁された状態で配置されている。本実施形態において、追加電極19は、図3(a)のIIIb−IIIb線に沿った断面図である図3(b)に示すように、箔状または平板状に形成されたものを折り曲げたL字形状を有しており、矩形の枠形部材7の内壁7aの直交する2つの部分に沿って配置されている。
【0028】
追加電極19は、電池Cの使用環境下では、枠形部材7と、電極体17との接触圧により、内壁7a上に十分に固定されるので、図3(a)に示すように、枠形部材7よりも小幅の追加電極19を、両蓋部材3,5の対向方向Yの中央寄りに配置することにより、両蓋部材3,5と追加電極19との絶縁が図られる。もっとも、より確実に両蓋部材3,5と追加電極19との絶縁を確保するために、例えば、追加電極19を袋状のセパレータで覆ってもよい。
【0029】
L字形状を有する追加電極19の一辺は、例えば、電極体17の積層された複数の正極13および負極15のうち、最端部に位置する負極15に対向するように配置されている。また、図3(b)に示すように、追加電極19の一辺は、枠形部材7に設けた追加電極端子孔21を介して本体ケーシング9の外方まで延設されており、この外方に突出する一端部が追加電極19の端子19aを形成している。追加電極19と追加電極端子孔21との間は、図示しないシール部材によりシールされている。
【0030】
このように構成することにより、本体ケーシング9内のスペースを有効に利用して追加電極19を設けることができる。なお、図3の実施形態のように追加電極19をL字形状に形成する代わりに、例えば、折り曲げ部のない平板状に形成し、枠形部材7の4辺のうち、いずれか一辺の内壁7aのみに沿うように配置してもよい。
【0031】
図4(a)は、本発明の第2実施形態に係る電池Cの構造を示す、図3(a)と同方向の断面図である。この第2実施形態は、図2および図3とともに説明した第1実施形態において、追加電極19の形状および本体ケーシング9内における設置形態を変更したものであり、そのほかの構成については第1実施形態と同様である。
【0032】
本実施形態における追加電極19は、平板状または箔状の部材として形成されており、電極体17に、正極13、負極15とともに追加電極19を積層することにより、本体ケーシング19内に固定的に配置している。より具体的には、追加電極19は、袋状のセパレータ23に覆われた状態で、正極13と負極15とを隔離するセパレータ11の負極側に、負極15と対向するように配置されている。
【0033】
図4(a)のIVb−IVb線に沿った断面図である図4(b)に示すように、追加電極19の一端は、枠形部材7に設けた追加電極端子孔21を介して本体ケーシング9の外方まで延設されており、この外方に突出する一端部が追加電極の端子19aを形成している。
【0034】
このように、第2実施形態に係る電池Cでは、本体ケーシング9内のスペースを有効に利用して追加電極19を設けることができるとともに、追加電極19が負極15に近接して配置されるので、放電リザーブを除去するための負極−追加電極間の放電反応を高効率に行うことができる。なお、本実施形態において、積層する追加電極19の数および位置は適宜設定可能である。
【0035】
図5(a)は、本発明の第3実施形態に係る電池Cを示す断面図である。上記で説明した第1および第2実施形態では、追加電極19が本体ケーシング9内で固定的に、つまり着脱することができないように設けられているが、この第3実施形態では、追加電極19が、本体ケーシング9に着脱可能に設けられている。
【0036】
具体的には、本実施形態において使用される追加電極19は、棒状に形成されており、図5(a)に示すように、本体ケーシング9内の、電極体17の積層方向Xの一端部に、積層方向Xおよび第1、第2蓋部材3,5の対向方向Yに直交する向きに平行に配置されている。この追加電極19の対向方向Yの両側方には、耐電解液性を有する、例えばポリプロピレンのような絶縁素材で形成された平板状のスペーサ25,25が配置されている。スペーサ25によって、追加電極19の、本体ケーシング9内での位置が規制されるとともに、第1および第2蓋部材3,5との絶縁が確保されている。
【0037】
図5(a)のVb−Vb線に沿った断面図である図5(b)に示すように、棒状の追加電極19の一端は、枠形部材7に設けた追加電極端子孔21を介して本体ケーシング9の外方まで延設されており、この外方に突出する一端部が追加電極の端子19aを形成している。この追加電極端子孔21を介して、追加電極19を本体ケーシング9に挿抜すなわち着脱することができる。本実施形態においては、特に、追加電極19を棒状に形成しているので、本体ケーシング9への着脱が容易である。
【0038】
あるいは、図6に示す変形例のように、本体ケーシング9内の、電極体17の積層方向Xの端部に、多数の孔を有する仕切板29と枠形部材7とによって追加電極収納室31を設けて、この収納室31に、平板状に形成した追加電極19を挿抜するようにしてもよい。
【0039】
図7は、本発明の第4実施形態に係る電池Cの概略構成を示す断面図である。本実施形態では、追加電極19は、棒状に形成されて、本体ケーシング9とは別体に設けた補助ケーシング33に電解液とともに収容されている。本体ケーシング9内の電解液と、補助ケーシング33内電解液とは、後述する構造の、イオン導電性物質によって形成された接続部材35によってイオン連通されており、この接続部材35を介して、追加電極19が本体ケーシング9に着脱可能に設けられている。
【0040】
より具体的には、直方体形状の補助ケーシング33の上面33aと、枠形部材7の、補助ケーシング33上面33aと同じ方向を向く一辺7bには、それぞれ、接続部材35を挿通するための挿通孔41,43が設けられており、これら挿通孔41,43を介して、コの字形に形成された接続部材35の両端が、それぞれ、補助ケーシング33内および本体ケーシング9内の電解液に浸漬されている。
【0041】
接続部材35は、本体ケーシング9および補助ケーシング33内の電解液間を液絡させてイオン伝導を確保することを目的として設置されている。具体的には、中間部に注射器のようなものを接続したU字管を用いて、接続部材35内部に電解液を充填してもよい。
【0042】
このように、追加電極19を、本体ケーシング9とは別体の補助ケーシング33に収容することにより、本体ケーシング9に追加電極19を収容する場合に比べて、本体ケーシング9の重量および体積を低減することができる。すなわち、通常の充放電を行う際には補助ケーシング33を分離して、本体ケーシング9のみを使用することにより、電池Cを使用する機器の小型化、軽量化が可能となる。
【0043】
なお、例えば、本体ケーシング9の枠形部材7の外側面の一辺に、この一辺に沿って延びる一対の係合レールを設け、補助ケーシング33に、係合レールに対応する係合溝を設けることにより、補助ケーシング33が本体ケーシング9に着脱可能に固定されるようにしてもよい。
【0044】
なお、上述した本発明に係る各実施形態は、図2に示した電池Cのみならず、例えば、図8に示すように構成した電池モジュールBに使用される角形電池にも適用することができる。この電池モジュールBは、角形のニッケル水素二次電池として構成された電池Cを、直列接続となるように複数積層したものである。電池Cは、対向配置した折り曲げ部を有しない平板状の正極集電体53と負極集電体55との間に、両集電体よりも若干寸法の小さい絶縁素材からなる枠形部材57を介在させて角形のケーシング59を形成し、このケーシング59の内部に、上記で説明したのと同様の構造を有する電極体(図示せず)を電解液とともに収容して構成されている。電池Cの積層体の両端面には、この端面全面を覆う圧縮板61,61が配置されている。各電池Cの集電体53,55および圧縮板61,61の両側部に形成された複数のボルト孔に、絶縁部材からなる長尺のボルト63を挿通し、その先端にナット65を螺合することにより、電池モジュールBが組み立てられている。積層体の両端に位置する電池C,Cの一方の正極集電体53と他方の負極集電体55には、それぞれ、電池モジュールBの正極端子67と負極端子69が突設されている。
【0045】
次に、本発明の一実施形態に係る、上記で説明した電池Cの負極放電リザーブを低減する方法について説明する。この負極放電リザーブ低減方法は、電池Cの負極集電体である第2蓋部材5と追加電極19とを電気的に接続することにより、負極15を放電させるステップ(強制放電ステップ)を主要な構成要素として含むが、より詳細には以下のとおりである。
【0046】
(大気開放ステップ)
負極15−追加電極19間に通電して放電させると、ガスが発生するので、電池Cの内部をあらかじめ大気開放する。例えば、枠形部材7の一辺7aに、大気開放用の弁(図示せず)を設けておき、この弁を開放することにより、電池Cの内部を大気開放する。
【0047】
(通電切替ステップ)
負極集電体である第2蓋部材と、追加電極19の端子19aとの間に、直流電源のような強制的に放電させる装置を接続し、負極15−追加電極19間で通電可能な状態にする。この場合、正極13と追加電極19とで共通の端子を使用したい場合には、例えば、この端子と、正極13および追加電極19との接続を切り替えるスイッチを設けてもよい。
【0048】
(強制放電ステップ)
負極15−追加電極19間で、所定の条件で強制的に放電を行う。好ましくは、負極の放電量が正極容量の5〜100%に達するまで、負極を強制的に放電させる。このような制御を行うことが好ましい理由は、負極の放電リザーブの余剰な蓄積が負極容量よりもむしろ正極容量に依存して増加する傾向があることによるものである。なお、正極容量5%よりも負極の強制的放電が少ない場合には、放電リザーブの解消が十分に行われず、また100%より強制的放電が多い場合には、負極の劣化を招く。より好ましくは、正極設計容量の10〜50%まで放電させることで、十分な放電リザーブの解消と負極の劣化抑制が可能となる。また、正極と負極の間の電圧をモニタリングして、負極の強制的放電を1.2V〜1.0Vで終了する制御を行うことによっても同様の効果が得られる。
【0049】
このように、上記の各実施形態に係る電池Cによれば、負極15との間で通常の充放電を行う正極13とは別に、負極15と放電反応を行うことができる追加電極19を設けて、必要に応じて負極15−追加電極19間で放電させることにより、負極の放電リザーブを随時除去することができる。これにより、充放電を繰り返すうちに正極13の充電容量が負極15の充電容量を上回って、正極13からの水素ガス発生を防止することが可能になる。
【0050】
しかも、追加電極19は、通常の充放電に関与しないように、正極集電体である第1蓋部材と絶縁されて設けられているので、追加電極19が過放電反応により劣化しても電池C自体の性能を低下させることがない。したがって、電池Cの寿命性能を大幅に向上させることが可能になる。また、予め負極15に充填しておくべき充電リザーブの量を大幅に削減して、電池Cのエネルギー密度を高めることができる。さらには、高価な負極活物質の充填量を削減できることにより、このような高エネルギー密度を有し寿命性能に優れる電池Cを安価に提供することが可能になる。
【0051】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【0052】
なお、本発明には含まれないが、追加電極を設けずに、特定の条件によって正極と負極の間で過放電させることも負極放電リザーブを低減させるために有効である。以下この方法について説明する。
【0053】
過放電させる電池を大気開放した後、電池電圧が−0.1V〜−0.8V程度に下がるまで強制的に過放電させる。放電終止電圧を−0.1Vより高く設定した場合には放電リザーブの解消が十分に行われず、また−0.8Vより低く設定した場合には、正極の劣化を招く。より好ましい放電終止電圧の範囲は−0.3V〜−0.6Vである。
【0054】
なお、この強制過放電を行う際、電池に参照極を設けて、参照極に対する負極電位を測定しながら放電させれば、電池電圧を測定する場合に比べて、より正確に負極リザーブの解消量を把握・制御することが可能になる。この場合は、負極の電位が大幅にプラス側に上昇し、正極の電位を逆転するまで放電させる。
【0055】
いずれの場合も、強制過放電を行う際の放電率は、0.1〜0.5Cの低率であることが望ましい。過放電に要する時間を短縮する観点からは、放電率を高く設定することが好ましいが、0.5Cを超えると負極における水素の酸化反応が追従できず、放電リザーブを効果的に解消することができないからである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】従来の例による電池と本発明に係る電池の相違を説明する模式図であり、(a)は従来の電池構造を、(b)は本発明の電池構造を示している。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電池を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る電池の構造を示す断面図であり、(a)は図2のIIIa−IIIa線に沿った断面図、(b)は(a)のIIIb−IIIb線に沿った断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る電池の構造を示す断面図であり、(a)は図3(a)と同方向の断面図、(b)は(a)のIVb−IVb線に沿った断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る電池Cの構造を示す断面図であり、(a)は図3(a)と同方向の断面図、(b)は(a)のVb−Vb線に沿った断面図である。
【図6】第3実施形態の変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る電池の概略構成を示す断面図である。
【図8】本発明の各実施形態に係る電池の他の構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
3 第1蓋部材(正極集電体)
5 第2蓋部材(負極集電体)
11 セパレータ
13 正極
15 負極
17 電極体
19 追加電極
C 電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して対向する正極および負極を含む電極体と、
前記正極および負極にそれぞれ電気的に接続された正極集電体および負極集電体と、
前記負極と前記セパレータを介して放電反応を行うことが可能な材料からなる、前記正極集電体および前記負極集電体から電気的に絶縁して設けられた追加電極と、
を備えるアルカリ蓄電池。
【請求項2】
請求項1において、前記追加電極が、前記正極および負極を電解液とともに収容する本体ケーシング内に固定的に設けられているアルカリ蓄電池。
【請求項3】
請求項2において、前記本体ケーシングが、対向配置された平板状の前記正極集電体および負極集電体と、これら集電体間に介在する絶縁素材からなる枠形部材によって形成されており、平板状に形成された前記追加電極が、前記枠形部材の内壁に沿って配置されているアルカリ蓄電池。
【請求項4】
請求項2において、前記正極、前記負極、および前記追加電極のそれぞれが平板状に形成されており、前記追加電極を、前記正極および前記負極とともにセパレータを介して積層して前記電極体が形成されているアルカリ蓄電池。
【請求項5】
請求項1において、前記追加電極が、前記電極体を電解液とともに収容する本体ケーシングに着脱可能に設けられているアルカリ蓄電池。
【請求項6】
請求項5において、前記本体ケーシングとは別体に設けられた、前記追加電極を電解液とともに収容する補助ケーシングと、前記本体ケーシング内の電解液と前記補助ケーシング内の電解液とをイオン連通させるイオン伝導性材料からなる接続部材とを備えるアルカリ蓄電池。
【請求項7】
請求項5または6において、前記追加電極が棒状に形成されているアルカリ蓄電池。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、前記正極の活物質として水酸化ニッケルを含み、前記負極の活物質として水素吸蔵合金を含むニッケル水素二次電池として構成されており、前記追加電極が、ニッケル金属、ニッケルを含む合金、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、コバルト、銀、タングステン、鉄、銅、またはチタンのいずれかを含む材料からなるアルカリ蓄電池。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載されたアルカリ蓄電池の負極放電リザーブを低減する方法であって、前記負極集電体と前記追加電極とを電気的に接続して負極を放電させることを含む負極放電リザーブ低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−108822(P2010−108822A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281116(P2008−281116)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構系統連系円滑化蓄電システム技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】