説明

アルカリ蓄電池及びアルカリ蓄電池の製造方法

【課題】アルカリ蓄電池としての電池特性のさらなる適正化を促進可能な電極含有金属の比率を有するアルカリ蓄電池、及び該アルカリ蓄電池の製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ蓄電池は、コバルト化合物被膜層により被覆されている水酸化ニッケル粒子を含む正極と、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を含む負極とを備える。アルカリ蓄電池は、正極には、金属コバルト又はコバルト化合物が添加されているとともに、負極の水素吸蔵合金には、コバルトが含有されており、正極に添加された金属コバルト又はコバルト化合物に含まれるコバルトの当該正極に占める質量をXとし、負極に含有されたコバルトの当該負極の水素吸蔵合金に占める質量をYとし、正極の容量をVとし、負極の容量をWとするとき、「(X/Y)×(W/V)」により求められる値が、「1.1」以上、かつ、「1.91」以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化ニッケルを含む正極と水素吸蔵合金を含む負極とを備えるアルカリ蓄電池、及び該アルカリ蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、携帯用の電子機器の電源のひとつとして、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源のひとつとして、様々なアルカリ蓄電池(二次電池)が用いられている。そして、こうしたアルカリ蓄電池のうち、エネルギー密度が高く、信頼性に優れた蓄電池としてニッケル水素蓄電池がある。このニッケル水素蓄電池は、水酸化ニッケルを主成分とした正極と、水素吸蔵合金を主成分とした負極と、水酸化カリウムなどを含むアルカリ電解液とから構成されている蓄電池である。
【0003】
ここで、車両に搭載されるニッケル水素蓄電池としては、所要の電力容量を得るべく、複数の単電池を電気的に直列接続して構成された角形密閉式の蓄電池が知られている。図3に、こうした角形密閉式の蓄電池も含め、従来一般に用いられている角形密閉式の蓄電池について、その部分断面構造の一例を示す。
【0004】
図3に示すように、この角形密閉式の蓄電池は、例えばニッケル水素蓄電池からなる単電池110を構成する電槽130の短側面同士が隔壁120を介して複数連結され、同じく角形の一体電槽100に収容された状態で、各電槽130の上面開口が蓋体200により封止されている。これら各電槽130内には、正極板と負極板とがセパレータを介して積層された極板群140と、その両側に接合された集電板150、160とからなる発電要素が電解液とともに収容されている。そして、極板群140の正極板の側部に突出されるリード部141aが集電板150に接合されるとともに、極板群140の負極板の側部に突出されるリード部141bが集電板160に接合されている。また、隔壁120の貫通孔170を介して集電板150、160に突設されている接続突部151、161同士が電気的に接続されることによって、各々隣接する電槽130が電気的に直列に接続される。こうして直列接続された電槽130、すなわち複数の単電池110の総出力が一体電槽100の端側壁の貫通孔170に設けられた正極又は負極の接続端子TMから取り出される。その他、この角形密閉式の蓄電池において、上記蓋体200には一体電槽100の内部圧力が一定値以上となったときに圧力を開放するための安全弁210や当該電池の内部温度を検出するためのセンサを装着するセンサ装着穴220などが設けられている。
【0005】
ところで、ニッケル水素蓄電池は、充電時に水素が発生するため、水素吸蔵合金による水素吸収により水素ガスの発生を抑制するようにしている。このとき、水素吸蔵合金が吸収できなかった水素ガスが蓄電池の内圧を上昇させることを防止するため、負極の容量を正極の容量の1.5倍以上にして水素吸蔵合金による水素吸収速度を高めることが多い。ただしこの場合、負極の容量のうち正極の容量を超える分の容量は蓄電池として使用されない無駄な容量となる。そこで、このような負極の容量の無駄を少なくすることのできるニッケル水素蓄電池の一例が特許文献1に記載されている。
【0006】
特許文献1に記載のニッケル水素蓄電池には、水酸化ニッケルを主成分とする活物質を含む正極と、水素吸蔵合金を含む負極とが設けられている。そして、負極の水素吸蔵合金を構成する5つの金属の構成比を所定の比率にすることによって、同水素吸蔵合金の水素吸収速度を高めるようにしている。すなわち、負極の水素吸蔵合金による水素吸収速度を高めて充電時に発生した水素が水素吸蔵合金に迅速に吸蔵されるようにするとともに、負極からの水素ガスの発生を抑制するようにしている。これにより、ニッケル水素蓄電池は、その負極の容量が正極の容量に対して1.1〜1.5倍程度に抑えられるとともに、蓄電池の内圧上昇も併せて抑制されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−105356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のニッケル水素蓄電池では上述のように、正極の容量に対する負極の容量の増加量が抑えられることを通じて負極の合金使用量が抑えられる。しかしながら、負極や正極を構成する複数の金属の構成比率は無数に選択可能であり、負極の容量の無駄の抑制も含めて電池特性の最適化を促進しようとすると、それら金属の構成比率の特定にもいまだ改善の余地がある。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルカリ蓄電池としての電池特性のさらなる適正化を促進可能な電極含有金属の比率を有するアルカリ蓄電池、及び該アルカリ蓄電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、コバルト化合物被膜層により被覆されている水酸化ニッケル粒子を含む正極と、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を含む負極とを備えるアルカリ蓄電池であって、前記正極には、金属コバルト又はコバルト化合物が添加されているとともに、前記負極の水素吸蔵合金には、コバルトが含有されており、前記正極に添加された前記金属コバルト又はコバルト化合物に含まれるコバルトの当該正極に占める質量をXとし、前記負極に含有された前記コバルトの当該負極の水素吸蔵合金に占める質量をYとし、前記正極の容量をVとし、前記負極の容量をWとするとき、「(X/Y)×(W/V)」により求められる値が、「1.1」以上、かつ、「1.91」以下であることを要旨とする。
【0011】
上記課題を解決するため、請求項5に記載の発明は、コバルト化合物被膜層により被覆されている水酸化ニッケル粒子を含む正極と、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を含む負極とを備えるアルカリ蓄電池の製造方法であって、前記コバルト化合物被膜層により被覆されている前記水酸化ニッケル粒子に金属コバルト又はコバルト化合物を添加して前記正極を作成する工程と、コバルトを含有させた前記水素吸蔵合金から前記負極を作成する工程と、前記正極を作成する工程、及び前記負極を作成する工程に先立ち、前記正極に添加する前記金属コバルト又はコバルト化合物に含まれるコバルトの当該正極に占める質量をXとし、前記負極に含有させる前記コバルトの当該負極の水素吸蔵合金に占める質量をYとし、前記正極の容量をVとし、前記負極の容量をWとするとき、「(X/Y)×(W/V)」により求められる値が「1.1」以上、かつ、「1.91」以下となるよう前記X,Y,V,Wをそれぞれ定める前処理工程とを備えることを要旨とする。
【0012】
正極のコバルトの量、及び負極のコバルトの量は、最小限の量であっても、それらの効果が発揮されることが好ましいが、正極のコバルトの量を減らすと蓄電池としての寿命が短くなる。また、負極のコバルトの量を減らすと水素ガスが発生しやすくなり内圧上昇を招くなど、正極のコバルトの量と負極のコバルトの量を適正化することが難しい。
【0013】
しかし、このような構成もしくは方法によれば、正極に含まれる金属コバルトなどのコバルトの質量Xと負極に含まれるコバルトの質量Yとの比、すなわちコバルトの含有比と、正極の容量Vと負極の容量Wとの比、すなわち容量比とに基づいて、正極に含まれるコバルトの量、及び負極に含まれるコバルトの量が適正に設定されるようになる。すなわち、アルカリ蓄電池としての特性の適正化が促進されるように、正極や負極を構成する金属のうちの1つであるコバルトの正極や負極の含有量が調整されるようになる。なお、正極に含まれる金属コバルトは、水酸化ニッケル粒子などに混合される金属コバルト粉末であり、コバルト化合物は、コバルト化合物粉末からなり、負極に含まれるコバルトは、負極に含まれる水素吸蔵合金に同合金の構成要素として含まれるコバルトからなる。
【0014】
また、コバルトは価格が高価であるため、その使用量を適正化することで、アルカリ蓄電池のコストを抑制することもできるようになる。
さらに、金属コバルトやコバルト化合物として正極に添加されるコバルトの質量Xや、負極の水素吸蔵合金に含有されるコバルトの質量Yを所定の範囲に特定することができるため、アルカリ蓄電池におけるコバルトの使用量の調整が容易になる。
【0015】
また、従来は正極の容量の「1.5倍」以上であった負極の容量を、「1.5倍」よりも少なく抑えることができるようになるため、アルカリ蓄電池の負極の無駄な容量を少なくすることができるようになる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアルカリ蓄電池において、前記「(X/Y)×(W/V)」により求められる値は、前記「(X/Y)×(W/V)」に対するアルカリ蓄電池の活性化速度の変化率が「2mΩ」以下である範囲、かつ、前記「(X/Y)×(W/V)」に対するアルカリ蓄電池の電池内圧の変化率が「0.5MPa」以下である範囲から選択されていることを要旨とする。
【0017】
このような構成によれば、アルカリ蓄電池の活性化速度[mΩ]の変化率と、アルカリ蓄電池の電池内圧[MPa]の変化率とに基づいて、「(X/Y)×(W/V)」の値が選択される。すなわち、減らすと蓄電池としての寿命が短くなる正極のコバルトの当該正極に含まれる質量Xと、減らすと水素ガスが発生しやすくなり内圧上昇を招く負極のコバルトの当該負極の水素吸蔵合金に含まれる質量Yとを、適正な指標に基づいて適正化することができる。これにより、上記選択された値に基づいて構成されたアルカリ蓄電池であれ、同蓄電池を好適な活性化速度を有するとともに、好適な電池内圧を有する蓄電池とすることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のアルカリ蓄電池において、前記アルカリ蓄電池の活性化速度は、製造直後のアルカリ蓄電池の摂氏「−30度」における直流の内部抵抗と、そのアルカリ蓄電池を所定の条件下で使用した後の同アルカリ蓄電池の摂氏「−30度」における直流の内部抵抗との差から算出されることを要旨とする。
【0019】
アルカリ蓄電池は、周囲温度が低くなると内部抵抗が上昇するようになることから、摂氏「−30度」における内部抵抗が小さいほど、アルカリ蓄電池としての電池性能が高いこととなる。このような構成によれば、アルカリ蓄電池の製造直後の摂氏「−30度」の内部抵抗と、所定の条件下、いわゆる市場走行後の摂氏「−30度」の内部抵抗とに基づいて算出される摂氏「−30度」における活性化速度を評価指標として用いることで、周囲温度が低い場合においてもアルカリ蓄電池の性能を高く維持することができるようになる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルカリ蓄電池において、前記コバルト化合物被膜層は、オキシ水酸化コバルトからなることを要旨とする。
このような構成によれば、オキシ水酸化コバルトで被覆することによってアルカリ蓄電池の容量特性、特に、高温時の容量特性を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるアルカリ蓄電池、及び該アルカリ蓄電池の製造方法によれば、アルカリ蓄電池を、電池特性のさらなる適正化を促進可能な電極含有金属の比率にすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池の各電極に含まれるコバルトの量を評価するためのコバルト量の評価式と、アルカリ蓄電池の活性化速度、及び、同蓄電池の電池内圧との関係を示すグラフ。
【図2】同実施形態において、正極の容量、及び負極の容量を示すグラフ。なお、右側は従来のアルカリ蓄電池における正極の容量、及び負極の容量の一例を示すグラフ。
【図3】従来の角形密閉式のアルカリ蓄電池の部分断面構造の一例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかるアルカリ蓄電池について説明する。
アルカリ蓄電池としてのニッケル水素蓄電池は、密閉型電池であり、電気自動車やハイブリッド自動車の電源として用いられる電池である。このニッケル水素蓄電池は、例えば、上述の図3に示すニッケル水素蓄電池と同様の構造を有している。詳述すると、ニッケル水素蓄電池は、水素吸蔵合金を含む所定枚数の負極板と、水酸化ニッケル(Ni(OH))を含む所定枚数の正極板とを、耐アルカリ性樹脂の不織布から構成されるセパレータを介して積層した電極群を集電板に接続し、電解液とともに樹脂製の電槽内に収容して構成される。
【0024】
次に、このニッケル水素蓄電池の作製について説明する。
[正極活物質の製作]
水酸化ニッケル粒子の表面に、コバルト化合物被膜層としてのオキシ水酸化コバルトの被覆層を形成する。これにより、コバルト化合物の被膜層により被覆されている水酸化ニッケル粒子から構成される正極活物質を製作した。
【0025】
[ニッケル正極の製作]
次に、正極板を構成するニッケル正極を作製した。具体的には、まず、上述のようにして得られた正極活物質粉末に、所定量の金属コバルト(Co)粉末と水を加え、混練することにより、ペースト状にした。
【0026】
本実施形態では、正極活物質粉末及び金属コバルトの合計質量に対して、金属コバルト粉末の所定量を2.8質量%とした。すなわち正極に添加された金属コバルトに含まれるコバルトの量(正極中の金属コバルトの量)Xは2.8質量%になっている。
【0027】
そして、このペーストを発泡ニッケル基板に充填し、乾燥した後、加圧成形することにより、ニッケル正極板を製作した。次いで、このニッケル正極板を所定の大きさに切断し、正極板を得ることができた。なお、ニッケル電極(正極板)の理論容量は、活物質中のニッケルが一電子反応をするものとして計算している。
【0028】
[負極の製作]
次に、公知の手法により、水素吸蔵合金を含む負極を製作した。水素吸蔵合金としては、La,Ce,Pr,Nd,Smなどの希土類元素、詳しくはランタン系元素の混合物であるミッシュメタル(以下、Mmという)とNiとの合金に種々の置換を行ったMmNi5系合金を用いた。具体的には、Niの一部がCo(コバルト)に置換された水素吸蔵合金を用いた。例えば、MmNiCoAlMn(但し、a=4.18、b=0.2、c=0.42、d=0.45)となる。つまり、水素吸蔵合金は、いわゆるAB5系であり、A元素がMmで、B元素がNiを主元素とし少なくとも構成元素にCo(コバルト)を含有する。そして、所定粒径に調整した上記水素吸蔵合金粉末MmNiCoAlMnを電極支持体に所定量塗工することにより、負極板を得ることができた。なお、Mmの原子量を「139.70g/mol」、Niの原子量を「58.69g/mol」、Coの原子量を「58.93g/mol」、Alの原子量を「26.98g/mol」、Mnの原子量を「54.94g/mol」とする。これにより、MmNi4.18Co0.2Al0.42Mn0.45の質量は、「139.70×1+58.69×4.18+58.93×0.2+26.98×0.42+54.94×0.45」から「432.86g」と算出される。Co(コバルト)の0.2モルは、質量が11.79gとなることから、この水素吸蔵合金に含有される金属の2.7質量%に相当する。すなわち負極に含有されているコバルトの量(負極の水素吸蔵合金中のコバルトの量)Yは2.7質量%になる。
【0029】
[アルカリ蓄電池の製作]
次いで、上記所定枚数の正極板及び負極板を、耐アルカリ性樹脂の不織布から構成されるセパレータを介して積層し、集電板と接続して、水酸化カリウム(KOH)を主成分とした電解液とともに樹脂製の電槽内に収容することで、角形の密閉型ニッケル水素蓄電池を作製した。例えば、正極の容量Vが「10000mAh」、負極の容量Wが「13000mAh」であるアルカリ蓄電池が製作された。すなわち、アルカリ蓄電池の「負極の容量W/正極の容量V」、つまり容量比は、「13000/10000=1.30」となるため、このアルカリ蓄電池は、負極の容量Wが正極の容量Vの「1.3」倍である。
【0030】
なお、本実施形態では、「負極の容量W/正極の容量V」を、図2に示すように、例えば、従来、「容量M2/容量P」より求められる容量比「1.5」よりも小さい値とした。すなわち、本実施形態では、容量M1を容量M2よりも小さい値とすることにより、「容量M1/容量P」として求められる「負極の容量W/正極の容量V」の値、つまり容量比を「1.20」から「1.48」までの範囲の値に定めた。容量比として定めた「1.20」から「1.48」までの範囲の値は、発明者らが、実験や経験に基づき、妥当と考え定めた範囲である。これにより、例えば、正極の容量Vが一定であるとすると、負極の容量Wが、従来の容量M2から、同容量M2よりも容量差Dだけ少ない容量M1になるようになる。
【0031】
[アルカリ蓄電池の評価]
続いて、本実施形態において、作製されたニッケル水素蓄電池の活性化速度の測定と、蓄電池の内圧(電池内圧)の測定とについて詳述する。なお、本実施形態におけるニッケル水素蓄電池の活性化とは、負極に含まれている水素吸蔵合金が充放電に伴って生じる膨張・収縮により同合金自身にひびを形成し、すなわち同合金が割れて表面積が増加することなどである。
【0032】
図1に示される、ニッケル水素蓄電池の活性化速度は、製造直後のニッケル水素蓄電池の直流の内部抵抗(DC−IR)[mΩ]と、そのニッケル水素蓄電池を所定の条件下で使用した後の同ニッケル水素蓄電池の直流の内部抵抗[mΩ]との差、つまり変化量として示している。本実施形態では、製造直後のニッケル水素蓄電池と、所定の条件下で使用した後の同ニッケル水素蓄電池とについて、それぞれ−30℃におけるDC−IR[mΩ]を測定し、その差を変化量として求めた。なお、−30℃は、電気自動車やハイブリッド自動車の利用温度を基準として設定した。また、便宜上、−30℃におけるニッケル水素蓄電池の直流の内部抵抗を「−30℃ DC−IR」と示す。
【0033】
詳述すると、「−30℃ DC−IR」は、環境温度−30℃の下、蓄電池(ニッケル水素蓄電池)に所定の容量分(SOC50%)だけ充電した後、該蓄電池に対して短時間の充放電を繰り返し、充放電の際に印加した電流と測定された電圧の関係から算出されるものである。なお一般に、蓄電池は内部抵抗(IR)が小さいほど優れていると判断される。
【0034】
具体的には、以下のように、−30℃におけるニッケル水素蓄電池の直流の内部抵抗(DC−IR)を測定する。すなわち、常温の下で蓄電池に、その蓄電量(SOC)が50%になるまで充電を実施する。それから、蓄電池を−30℃まで冷却した後、10Aで10秒間放電した際の電圧降下(ΔV)から、ニッケル水素蓄電池の直流の内部抵抗(DC−IR)を、ΔV/10Aにて算出する。
【0035】
なお一般に、負極に含まれるコバルトの量が多くなるに応じて水素吸蔵合金が割れにくくなる、つまり面積の増加が少なくなるために活性化速度が低下して活性化されにくくなることが知られている。
【0036】
一方、図1に示される、ニッケル水素蓄電池の電池内圧は、常温の下での同ニッケル水素蓄電池の電池内圧[MPa]であり、製造直後のニッケル水素蓄電池の電池内圧を「0」としたとき、所定の条件下で使用した後の同ニッケル水素蓄電池の電池内圧として測定される。
【0037】
ところで、−30℃ DC−IRの測定及び電池内圧の測定に採用しているニッケル水素蓄電池を使用する所定の条件は、いわゆる車両の市場走行時の蓄電池の使用条件として定めた条件である。そして同条件は、ニッケル水素蓄電池を搭載した車両を走行させることで再現されたり、又はニッケル水素蓄電池の充放電等を市場走行時に合わせることで再現されたりする。なお、本実施形態における所定の条件は、具体的には、製造直後のニッケル水素蓄電池を、SOCが10%〜70%の範囲で変化するように10Aにて2000サイクルの充放電を実施するという条件である。すなわち、このような条件で充放電されたニッケル水素蓄電池がDC−IRや電池内圧を測定される。
【0038】
[コバルトの含有比及び容量比の選択]
上述のように、一般に、ニッケル水素蓄電池は、負極の容量Wを正極の容量Vの1.5倍以上にして水素吸蔵合金による水素吸収速度を高めることが多い。しかしながら、負極の容量Wのうち正極の容量Vを超える分(W−V)の容量は蓄電池として使用されない無駄な容量となる。また、負極の容量Wの大きい負極は、合金の使用量が多くなったり、体積が大きくなったり、コスト上昇を招いたりもする。このようなことから、負極の容量Wは小さい方が好ましい。
【0039】
ところが、一般に、ニッケル水素蓄電池の電池特性を適正にしつつ、ニッケル水素蓄電池に用いられている電極の合金を増減させることは容易ではない。つまり、本実施形態において負極や正極などに含有されている金属であるコバルトは、その量が容易に適正化されない。
【0040】
例えば、負極は、コバルトの含有量が増えると活性化速度が遅くなるため寿命が延びるとともに、水素の発生量も抑制されるためニッケル水素蓄電池の電池内圧の上昇を少なくさせる一方、水素吸蔵合金が活性化されにくくなることから出力が出にくくなる。逆に、負極は、コバルトの含有量が減ると、活性化速度が速くなるため出力が出やすくなる一方、水素を発生させやすくなる。
【0041】
また例えば、負極は、コバルトの使用量を減らすためなどを理由として、水素吸蔵合金の量が減らされると単位合金当たりの電流量が増加して、水素吸蔵合金の劣化の進行が早くなる。逆に、負極は、コバルトの使用量が増えてしまうものの、水素吸蔵合金の量が増加すると、水素吸蔵合金の劣化が遅くなる一方、体積やコストが増加する。
【0042】
そこで本発明の発明者らは、本実施形態のニッケル水素蓄電池の性能評価にあたり、新たに定めた評価式より算出される値と、ニッケル水素蓄電池の評価に従来から用いられている「活性化速度」及び「電池内圧」とを組み合わせて性能評価を行うこととした。そして、その新たに定めた評価式より算出される値と、「活性化速度」及び「電池内圧」との関係から、ニッケル水素蓄電池の正極に含有させる金属コバルトの量と、ニッケル水素蓄電池の負極に含有させるコバルトの量とを適正化できることを見出した。
【0043】
一般に、ニッケル水素蓄電池の性能は、「活性化速度」によれば、「活性化速度」の値が速いほど高く評価されるとともに、「電池内圧」によれば、所定の条件下での使用後のニッケル水素蓄電池の「電池内圧」の値が低いほど高く評価される。例えば、「活性化速度」が遅い場合、負極の活性化が不十分な部分が有効に利用されないため、負極の活性化された部分に電流が集中して充放電のサイクル寿命が低下して、ニッケル水素蓄電池としての寿命が短くなる。そのため、「活性化速度」が高いほどニッケル水素蓄電池は性能が高く評価される。また例えば、ガスの発生量が多く「電池内圧」が高い場合、充電により発生したガスが内圧上昇に応じてニッケル水素蓄電池から外部に放出されるため、ニッケル水素蓄電池の放電リザーブ量が減少する。そのため、所定の条件下での使用後のニッケル水素蓄電池は、充電に伴うガスの発生量が少ないほど、つまり電池内圧が低いほど性能が高く評価される。
【0044】
そこで発明者らは、ニッケル水素蓄電池から測定される「活性化速度」や「電池内圧」と、コバルトの量との相関関係について鋭意研究などを行った。そして、発明者らは、蓄電池の電極に含まれるコバルトの量を評価する評価式として、「(正極に含まれるコバルトの量/負極に含まれるコバルトの量)×(負極の容量/正極の容量)」なるコバルト量の評価式を新たな評価式として定めた。なお、説明の便宜上、「正極に含まれるコバルトの量/負極に含まれるコバルトの量」を「コバルトの含有比」とも示し、「負極の容量/正極の容量」を「容量比」とも示す。
【0045】
ちなみに、本実施形態のニッケル水素蓄電池は、図1に示すコバルト量の評価式の値が以下の様に算出される。
(正極に含まれるコバルトの量/負極に含まれるコバルトの量)×(負極の容量/正極の容量)
=(正極中の金属コバルトの当該正極に占める質量X/負極の水素吸蔵合金中のコバルトの当該水素吸蔵合金に占める質量Y)×(負極の容量W/正極の容量V)
=(2.8質量%/2.7質量%)×(13000mAh/10000mAh)
≒1.35
となる。
【0046】
これより、コバルト量の評価式の値(評価値)が特定されると、例えば、評価値が「1.35」のとき、容量比「W/V」を「1.3」とすれば、コバルトの含有比「X/Y」は約「1.04(=2.8質量%/2.7質量%)」となることが算出できる。また、逆に、評価値が「1.35」のとき、コバルトの含有比「X/Y」を約「1.04(=2.8質量%/2.7質量%)」とすれば、容量比「W/V」が約「1.3」となることが算出できる。
【0047】
ところで、図1のグラフ20及びグラフ21は、以下のように作成した。すなわち、コバルト量の評価式の値がそれぞれ、「0.85」、「0.92」、「1.10」、「1.30」、「1.50」、「1.55」、「1.62」、「1.91」、「2.43」となるニッケル水素蓄電池をそれぞれ、本実施形態と同様に製作した。つまり、各ニッケル水素蓄電池を、コバルト量の評価式の上記それぞれの値に対して、容量比「W/V」を「1.3」とし、コバルトの含有比「X/Y」をそれぞれ「0.65」、「0.71」、「0.85」、「1.00」、「1.15」、「1.19」、「1.25」、「1.47」、「1.87」として製作した。
【0048】
そして、こうして作成されたニッケル水素蓄電池の特性について、横軸をコバルト量の評価式の値とし、縦軸を「活性化速度」の値としてグラフ20を描くとともに、横軸をコバルト量の評価式の値とし、縦軸を「電池内圧」の値としたグラフ21を描いた。すなわちグラフ20は、「活性化速度」と、コバルト量の評価式から得られる値との相関関係を示し、グラフ21は、「電池内圧」と、コバルト量の評価式から得られる値との相関関係を示している。そして、これらグラフ20,21により示されるニッケル水素蓄電池の特性から、このコバルト量の評価式の値と、「活性化速度」の値及び「電池内圧」の値との間に相関関係があることが見いだされた。つまり、グラフ20に基づいて「活性化速度」として好適な値の範囲に対応するコバルト量の評価式の値の範囲が定められるとともに、グラフ21に基づいて「電池内圧」として好適な値の範囲に対応するコバルト量の評価式の値の範囲が定められる。
【0049】
上述したように、一般に、ニッケル水素蓄電池の性能は、「活性化速度」の値が大きいほど高く評価される。このことから、グラフ20における「活性化速度」として好適な値は、活性化速度が値K1以上であり、より好ましくは活性化速度が値K2以上である。すなわち、グラフ20によれば、「活性化速度」としての好適な値の範囲に対応するコバルト量の評価式の値の範囲は、値K1に対応する「1.10mΩ」以上の範囲であり、より好ましくは、値K2に対応する「1.20mΩ」以上の範囲である。また、本実施形態のニッケル水素蓄電池は、コバルト量の評価式の値が「1.20mΩ」のとき、「活性化速度」の変化率(グラフ20の傾き)がおよそ「2mΩ」である。すなわち、「活性化速度」の変化率が「2mΩ」以下のとき、「活性化速度」としてより好適な範囲にあるといえる。
【0050】
また、上述したように、一般に、ニッケル水素蓄電池の性能は、所定の条件下での使用後のニッケル水素蓄電池の「電池内圧」の値が低いほど高く評価される。このことから、グラフ21における「電池内圧」として好適な値は、電池内圧が値P1以下であり、より好ましくは電池内圧が値P2以下である。すなわち、グラフ21によれば、「電池内圧」としての好適な値の範囲に対応するコバルト量の評価式の値の範囲は、値P1に対応する「1.91MPa」以下の範囲であり、より好ましくは、値P2に対応する「1.80MPa」以下の範囲である。また、本実施形態のニッケル水素蓄電池は、コバルト量の評価式の値が「1.91MPa」のとき、「電池内圧」の変化率(グラフ21の傾き)がおよそ「0.5MPa」である。すなわち、「電池内圧」の変化率が「0.5MPa」以下のとき、「電池内圧」として好適な範囲にあるといえる。
【0051】
これらのことから、ニッケル水素蓄電池の特性は、「活性化速度」として好適な範囲であり、かつ、「電池内圧」として好適な範囲である場合に適正となることがわかる。つまりニッケル水素蓄電池として適正な特性の範囲にある場合に対応するコバルト量の評価式の値は、1.10以上、かつ、1.91以下の範囲と求められ、より好ましくは、1.20以上、かつ、1.80以下の範囲と求められる。
【0052】
ちなみに、本実施形態のニッケル水素蓄電池(コバルトの含有比が「2.8質量%/2.7質量%」であり、容量比が「13000mAh/10000mAh」であるもの)は、そのコバルト量の評価式の値が「1.35」であることから、ニッケル水素蓄電池の特性が適正な特性であることを示す値の範囲内にある。
【0053】
このようなことから、各グラフ20,21が示すように、ニッケル水素蓄電池の特性を適正にする「活性化速度」及び「電池内圧」と、好ましい「容量比」とに基づいて、「コバルト含有比」を選択することが可能となる。もしくは、ニッケル水素蓄電池の特性を適正にする「活性化速度」及び「電池内圧」と、好ましい「コバルト含有比」とに基づいて、「容量比」を選択することも可能となる。これにより、正極中の金属コバルトの質量X及び負極の水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量Yの適正化が図られるようになる。
【0054】
ところで、本実施形態では、正極に含まれるコバルトの質量Xを、「2.0質量%」以上、「4.0質量%」以下とし、負極に含まれるコバルトの質量Yを、「2.5質量%」以上、「4.0質量%」以下とした。なお、正極に含まれるコバルトの質量Xとして「2.0質量%」から「4.0質量%」までの値、及び負極に含まれるコバルトの質量Yとして「2.5質量%」から「4.0質量%」までの値は、発明者らが、実験や経験に基づき定めた範囲である。
【0055】
すなわち、本実施形態における、正極中の金属コバルトの質量X「2.8質量%」は、上述の「2.0質量%」〜「4.0質量%」の範囲に含まれているとともに、負極の水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量Y「2.7質量%」は、上述した「2.5質量%」〜「4.0質量%」の範囲に含まれている。
【0056】
なお、本実施形態のコバルト量の評価式によれば、正極中の金属コバルトの質量Xと、負極の水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量Yを様々な値に設定することができる。例えば、コバルト量の評価式に基づき評価値の範囲と容量比の範囲から取り得る値である、コバルト含有比(X/Y)が「0.8」のとき、正極に含まれるコバルトの質量Xを「2.0質量%」にすると、負極に含まれるコバルトの質量Yは「2.5質量%」になる。一方、負極に含まれるコバルトの質量Yを「4.0質量%」にすると、正極に含まれるコバルトの質量Xは「3.2質量%」になる。
【0057】
また、例えば、コバルト含有比(X/Y)が「1.6」のとき、正極に含まれるコバルトの質量Xを「4.0質量%」にすると、負極に含まれるコバルトの質量Yは「2.5質量%」になる。すなわち、負極に含まれるコバルトの質量Yを「2.5質量%」にすると、正極に含まれるコバルトの質量Xは「4.0質量%」になる。
【0058】
さらに、例えば、コバルト含有比(X/Y)が「0.5」のとき、正極に含まれるコバルトの質量Xを「2.0質量%」にすると、負極に含まれるコバルトの質量Yは「4.0質量%」になる。すなわち、負極に含まれるコバルトの質量Yを「4.0質量%」にすると、正極に含まれるコバルトの質量Xは「2.0質量%」になる。
【0059】
また、例えば、コバルト含有比(X/Y)が「1.0」のとき、正極に含まれるコバルトの質量Xを「2.5質量%」にすると、負極に含まれるコバルトの質量Yは約「2.5質量%」になる一方、負極に含まれるコバルトの質量Yを「4.0質量%」にすると、正極に含まれるコバルトの質量Xは約「4.0質量%」になる。
【0060】
以下に、本実施形態の作用について述べる。
図1に示す、グラフ20によれば、コバルト量の評価式の値が「1.10」以上でニッケル水素蓄電池の「活性化速度」が値K1以上になりニッケル水素蓄電池の特性として良好であることが示される。また、グラフ21によれば、コバルト量の評価式の値が「1.91」以下でニッケル水素蓄電池の「電池内圧」が値P1以下になりニッケル水素蓄電池の特性として良好であることが示される。このことから、ニッケル水素蓄電池の特性を適正にするには、コバルト量の評価式の値が「1.10」から「1.91」の範囲となるように、コバルト量の評価式に含まれる数値が設定されればよい(前処理工程)。つまり、コバルト量の評価式の値が「1.10」〜「1.91」の範囲になるように、正極に含まれるコバルトの質量X、負極に含まれるコバルトの質量Y、正極の容量V、負極の容量Wがそれぞれ設定されればよいことが分かる。
【0061】
例えば、評価値として「1.10」が選択されたとき、容量比(W/V)が「1.20」であれば、コバルト含有比(X/Y)は約「0.92」に定まる。このことから、正極に含まれるコバルトの質量Xが「2.3質量%」〜「3.7質量%」であれば、負極に含まれるコバルトの質量Yが約「2.5質量%」〜「4.0質量%」になることが定まる。
【0062】
また、例えば、評価値として「1.10」が選択されたとき、容量比(W/V)が「1.48」であれば、コバルト含有比(X/Y)は約「0.74」に定まる。このことから、正極に含まれるコバルトの質量Xが「2.0質量%」〜「3.0質量%」であれば、負極に含まれるコバルトの質量Yが約「2.7質量%」〜「4.0質量%」になることが定まる。
【0063】
さらに、例えば、評価値として「1.91」が選択されたとき、容量比(W/V)が「1.20」であれば、コバルト含有比(X/Y)は約「1.6」に定まる。このことから、正極に含まれるコバルトの質量Xが「4.0質量%」であれば、負極に含まれるコバルトの質量Yが約「2.5質量%」に定まる。
【0064】
また、例えば、評価値として「1.91」が選択されたとき、容量比(W/V)が「1.48」であれば、コバルト含有比(X/Y)は約「1.29」に定まる。このことから、正極に含まれるコバルトの質量Xが「3.2質量%」〜「4.0質量%」であれば、負極に含まれるコバルトの質量Yが約「2.5質量%」〜「3.1質量%」に定まる。
【0065】
このように、コバルト量の評価式に含まれる数値である、正極に含まれるコバルトの質量X、負極に含まれるコバルトの質量Y、正極の容量V、負極の容量Wをそれぞれ設定することができるようになる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態のアルカリ蓄電池によれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
(1)正極のコバルトの質量X、及び負極のコバルトの質量Yは、最小限の量であっても、それらの効果が発揮されることが好ましいが、正極のコバルトの質量Xを減らすと蓄電池としての寿命が短くなる。また、負極のコバルトの質量Yを減らすと水素ガスが発生しやすくなり内圧上昇を招くなど、正極のコバルトの質量Xと負極のコバルトの質量Yを適正化することが難しい。
【0067】
そこで本実施形態では、正極に含まれる金属コバルトなどのコバルトの質量Xと負極に含まれるコバルトの質量Yとの比、すなわちコバルトの含有比と、正極の容量Vと負極の容量Wとの比、すなわち容量比とに基づいて、正極に含まれるコバルトの質量X、及び負極に含まれるコバルトの質量Yを適正に設定するようにした。すなわち、ニッケル水素蓄電池としての特性の適正化が促進されるように、正極や負極を構成する金属のうちの1つであるコバルトの正極や負極の含有量が調整されるようになる。
【0068】
また、コバルトは価格が高価であるため、その使用量を適正化することで、アルカリ蓄電池のコストを抑制することもできるようになる。
(2)正極に混合される金属コバルトにより正極に添加されるコバルトの質量Xや、負極の水素吸蔵合金に含有されるコバルトの質量Yが所定の範囲に特定されるため、アルカリ蓄電池における、金属コバルトや水素吸蔵合金中のコバルトなどからなるコバルトの使用量の調整が容易になる。
【0069】
(3)正極の容量Vに対する負極の容量Wを「1.20」以上、かつ、「1.48」以下とした。このため、従来は正極の容量の「1.5倍」以上であった負極の容量を少なく抑えられるようになり、ニッケル水素蓄電池の負極の無駄な容量を少なくすることができるようになる。
【0070】
(4)ニッケル水素蓄電池の活性化速度[mΩ]の変化率と、ニッケル水素蓄電池の電池内圧[MPa]の変化率とに基づいて、「(X/Y)×(W/V)」の値が選択される。すなわち、減らすと蓄電池としての活性化速度が低下してしまう正極のコバルトの質量Xと、減らすと水素ガスが発生しやすくなり内圧上昇を招く負極のコバルトの質量Yとを、適正な指標に基づいて適正化することができる。これにより、上記選択された値に基づいて構成されたニッケル水素蓄電池であれ、同蓄電池を好適な活性化速度を有するとともに、好適な電池内圧を有する蓄電池とすることができる。
【0071】
(5)ニッケル水素蓄電池は、周囲温度が低くなると内部抵抗が上昇するようになることから、摂氏「−30度」における内部抵抗が小さいほど、アルカリ蓄電池としての電池性能が高いこととなる。そこで、ニッケル水素蓄電池の製造直後の摂氏「−30℃DC−IR」と、所定の条件下、いわゆる市場走行後の「−30℃DC−IR」とに基づいて算出される−30℃における「活性化速度」を評価指標として用いることで、周囲温度が低い場合においてもニッケル水素蓄電池の性能を高く維持することができるようになる。
【0072】
(6)オキシ水酸化コバルトで被覆することによってニッケル水素蓄電池の容量特性、特に、高温時の容量特性を良好にすることができる。
(その他の実施形態)
なお上記実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
【0073】
・上記実施形態では、ニッケル水素蓄電池の電槽が樹脂製である場合について例示したが、これに限らず、発電要素が好適に収容できるのであれば、ニッケル水素蓄電池の電槽を、樹脂以外の材料である金属などにより形成してもよい。これにより、ニッケル水素蓄電池の設計自由度を拡大させることができるようになる。
【0074】
・上記実施形態では、水酸化ニッケル粉末の平均粒径が10μmである場合について例示したが、これに限らず、水酸化ニッケル粉末の平均粒径は5μm以上、20μm以下でもよい。これにより、水酸化ニッケル粒子の作成にかかる自由度が向上する。
【0075】
・上記実施形態では、正極に添加剤を含まない場合について例示したが、これに限らず、必要に応じて添加剤(例えば、酸化亜鉛など)を正極に添加してもよい。この場合、Xを求めるために用いる正極の質量には、添加剤の質量も含まれる。これにより、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0076】
・上記実施形態では、「活性化速度」の変化率(グラフ20の傾き)が「2」以下のとき、「活性化速度」として好適な範囲とする場合について例示した。しかしこれに限らず、「活性化速度」の変化率は、その値が一定の範囲内で推移するなど、「活性化速度」として安定的であると評価できる範囲を規定できる値であれば、「2」より大きくても、「2」より小さくてもよい。これにより、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0077】
・上記実施形態では、「電池内圧」の変化率(グラフ21の傾き)が「0.5」以下のとき、「電池内圧」として好適な範囲とする場合について例示した。しかしこれに限らず、「電池内圧」の変化率は、その値が一定の範囲内で推移するなど、「電池内圧」として安定的であると評価できる範囲を規定できる値であれば、「0.5」より大きくても、「0.5」より小さくてもよい。これにより、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0078】
・上記実施形態では、容量比、つまり「負極の容量W/正極の容量V」を「1.3」とした場合について例示した。しかしこれに限らず、容量比を、「1.20」〜「1.48」の範囲の間のいずれかの値としてもよい。それであっても、従来の容量比「1.5」よりも負極の容量を小さくすることができる。これにより、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0079】
さらに、コバルト量の評価式の値を「1.10」〜「1.91」の範囲にすることができるのであれば、容量比の値を「1.20」未満の値にしても、「1.48」より大きな値にしてもよい。これによっても、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0080】
・上記実施形態では、正極に添加される金属コバルトの質量Xを2.8質量%とした場合について例示した。しかしこれに限らず、金属コバルトの量は、2.0質量%〜4.0質量%から選択した任意の値であってもよい。これにより、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0081】
さらに、コバルト量の評価式の値を「1.10」〜「1.91」の範囲にすることができるのであれば、金属コバルトの量を「2.0質量%」未満の値にしても、「4.0質量%」より大きな値にしてもよい。これによっても、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0082】
・上記実施形態では、負極の水素吸蔵合金に含有されるコバルトの質量Yを0.2モルとし、水素吸蔵合金に含まれる金属の2.7質量%に相当するようにした場合について例示した。しかしこれに限らず、水素吸蔵合金に含有されるコバルトの量は0.18モル〜0.3モルから選択した任意の値、すなわち水素吸蔵合金に含まれる金属の2.5質量%〜4.0質量%から選択した任意の値であってもよい。これにより、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0083】
さらに、コバルト量の評価式の値を「1.10」〜「1.91」の範囲にすることができるのであれば、水素吸蔵合金に含有されるコバルトの量を「0.2モル」(「2.7質量%」)未満の値にしても、「0.3モル」(「4.0質量%」)より大きな値にしてもよい。これによっても、ニッケル水素蓄電池の設計自由度の向上が図られるようになる。
【0084】
・上記実施形態では、正極に金属コバルト粉末を混合させる場合について例示した。しかしこれに限らず、正極にコバルト化合物を混合させるようにしてもよい。例えば、金属コバルトや、水酸化コバルト,三酸化コバルト,四酸化コバルト,一酸化コバルトのようなコバルト化合物、又はそれらの混合物の粒子を混合させるようにしてもよい。これにより、ニッケル水素蓄電池の正極の設計自由度の向上を図ることができる。
【0085】
・上記実施形態では、コバルト量の評価式を「(正極に含まれるコバルトの質量X/負極に含まれるコバルトの質量Y)×(負極の容量W/正極の容量V)」と示す場合について例示した。しかしこれに限らず、コバルト量の評価式を「(負極に含まれるコバルトの量/正極に含まれるコバルトの量)×(正極の容量/負極の容量)」と変形させてもよい。この場合、上記実施形態で示したコバルト量の評価式の値の逆数を、その変形させた評価式の値とすればよい。これにより、評価式の表記の自由度が高められ、設計などにおける利便性が向上するようになる。
【0086】
・上記実施形態では、−30℃におけるDC―IRを測定する場合について例示した。しかしこれに限らず、DC―IRを測定する温度を−20℃や−40℃などにしてもよい。これにより、ニッケル水素蓄電池の特性評価を使用環境に応じて適切に行うことができるようになる。
【0087】
・上記実施形態では、電池が二次電池である場合について例示したが、これに限らず、電池は一次電池でもよい。
【符号の説明】
【0088】
20,21…グラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト化合物被膜層により被覆されている水酸化ニッケル粒子を含む正極と、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を含む負極とを備えるアルカリ蓄電池であって、
前記正極には、金属コバルト又はコバルト化合物が添加されているとともに、前記負極の水素吸蔵合金には、コバルトが含有されており、
前記正極に添加された前記金属コバルト又はコバルト化合物に含まれるコバルトの当該正極に占める質量をXとし、前記負極に含有された前記コバルトの当該負極の水素吸蔵合金に占める質量をYとし、前記正極の容量をVとし、前記負極の容量をWとするとき、「(X/Y)×(W/V)」により求められる値が、「1.1」以上、かつ、「1.91」以下である
ことを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記「(X/Y)×(W/V)」により求められる値は、前記「(X/Y)×(W/V)」に対するアルカリ蓄電池の活性化速度の変化率が「2mΩ」以下である範囲、かつ、前記「(X/Y)×(W/V)」に対するアルカリ蓄電池の電池内圧の変化率が「0.5MPa」以下である範囲から選択されている
請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記アルカリ蓄電池の活性化速度は、製造直後のアルカリ蓄電池の摂氏「−30度」における直流の内部抵抗と、そのアルカリ蓄電池を所定の条件下で使用した後の同アルカリ蓄電池の摂氏「−30度」における直流の内部抵抗との差から算出される
請求項2に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
前記コバルト化合物被膜層は、オキシ水酸化コバルトからなる
請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項5】
コバルト化合物被膜層により被覆されている水酸化ニッケル粒子を含む正極と、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を含む負極とを備えるアルカリ蓄電池の製造方法であって、
前記コバルト化合物被膜層により被覆されている前記水酸化ニッケル粒子に金属コバルト又はコバルト化合物を添加して前記正極を作成する工程と、
コバルトを含有させた前記水素吸蔵合金から前記負極を作成する工程と、
前記正極を作成する工程、及び前記負極を作成する工程に先立ち、前記正極に添加する前記金属コバルト又はコバルト化合物に含まれるコバルトの当該正極に占める質量をXとし、前記負極に含有させる前記コバルトの当該負極の水素吸蔵合金に占める質量をYとし、前記正極の容量をVとし、前記負極の容量をWとするとき、「(X/Y)×(W/V)」により求められる値が「1.1」以上、かつ、「1.91」以下となるよう前記X,Y,V,Wをそれぞれ定める前処理工程とを備える
ことを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−256576(P2012−256576A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130363(P2011−130363)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(399107063)プライムアースEVエナジー株式会社 (193)
【Fターム(参考)】