説明

アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびその製造方法ならびにアルカリ蓄電池

【課題】A27構造とA519構造の構成比率を検討して、従来の範囲を遥かに越えた高出力特性を有することが可能なアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびその製造方法ならびにアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、Laを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素Rと、Co,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素Mとを含有して一般式がLaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(α,β,γ,η,εは、0≦α≦0.5、0.1≦β≦0.2、3.7≦γ≦3.9、0.1≦η≦0.3、0≦ε≦0.2)と表され、かつ結晶構造においてA519型構造が40%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(PEV:Pure Electric Vehicle)等の大電流放電を要する用途に適したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびその製造方法ならびにアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(PEV)などの高出力が求められる機器の電源用としてアルカリ蓄電池、特に、ニッケル−水素蓄電池が用いられるようになった。一般的に、ニッケル−水素蓄電池の負極に用いられる水素吸蔵合金は、LaNi5等のAB5型希土類水素吸蔵合金の一部をアルミニウム(Al)やマンガン(Mn)等の元素で置換したものが用いられている。これらのAB5型希土類水素吸蔵合金は、融点の低いアルミニウム(Al)やマンガン(Mn)等を含有しているため、結晶粒界や表面にアルミニウムリッチ相やマンガンリッチ相などの偏析相が生成し易いということが知られている。
【0003】
そして、充放電サイクルを繰り返すと、水素吸蔵合金の結晶格子の膨張や収縮により、水素吸蔵合金の結晶内に大きな内部応力が発生するようになる。このような大きな内部応力により、水素吸蔵合金が微粉化したり、あるいは生成された偏析相からのアルミニウム(Al)やマンガン(Mn)等の溶出による水素吸蔵合金の腐食が生じたりして、耐食性に問題があった。そこで、このような水素吸蔵合金を熱処理することによって、偏析相を生じなくして単一相化する方法が、例えば、特許文献1(特開昭62−31947号公報)等で種々検討されるようになった。
【0004】
ところが、特許文献1等にて提案された手法においては以下のような欠点があった。即ち、水素吸蔵合金を熱処理することによって単一相化した場合、偏析界面がないため、アルカリ電解液との接触面積が減少して、初期の活性化性能が低下するという問題があった。このため、従来の範囲を遥かに越えた高出力が求められているハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(PEV)の用途としては満足する充放電特性やサイクル寿命特性が得られないという問題が生じた。
【0005】
通常、一般的な水素吸蔵合金は、上述したようなAB5型構造あるいはAB2型構造であるが、AB2型構造とAB5型構造とを組み合わせることで種々の結晶構造をとることが知られている。これらのうち、AB2型構造とAB5型構造とが2層を周期として重なり合ったCe2Ni7型構造の水素吸蔵合金が、例えば特許文献2(特開2002−164045号公報)等で種々検討されるようになった。このCe2Ni7型構造の水素吸蔵合金は六方晶系の結晶構造(2H)を有しており、水素の吸蔵・放出のサイクル寿命特性を向上させることが可能である。
【特許文献1】特開昭62−31947号公報
【特許文献2】特開2002−164045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した特許文献2等で提案されたCe2Ni7型構造の水素吸蔵合金は、放電特性(アシスト出力)が不十分で、従来の範囲を遥かに越えた高出力用途としては満足いく性能を有していないという問題があった。ここで、希土類元素、ニッケル、マグネシウムからなる水素吸蔵合金は、AB2型構造とAB5型構造との組合せで種々の結晶構造をとり、AB2型構造、AB5型構造の他、準安定相であるA27構造、A519構造などの構造によって成り立っている。
【0007】
これらの構成比率は、水素吸蔵合金の量論比によって大きく変化し、例えば、従来よりも高い量論比領域では、ニッケル比率が高いため、金属溶解時に融点較差が大きいこととなる。このため、アルミニウムやマグネシウムが偏析を生じ、アルミニウムはAB5型構造、マグネシウムはAB2型構造の偏析相を生じ、合金耐食性の低下などの問題が生じることが分かっている。しかしながら、準安定相であるA27構造、A519構造の構成比率による電池特性については明確ではなかった。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、A27構造とA519構造の構成比率を検討して、従来の範囲を遥かに越えた高出力特性を有することが可能なアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびその製造方法ならびにアルカリ蓄電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のアルカリ蓄電池の負極活物質として用いられるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、Laを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素Rと、Co,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素Mとを含有して一般式がLaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(α,β,γ,η,εは、0≦α≦0.5、0.1≦β≦0.2、3.7≦γ≦3.9、0.1≦η≦0.3、0≦ε≦0.2)と表され、かつ結晶構造においてA519型構造が40%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明者等が種々検討した結果、従来よりも高い量論比領域(3.7≦γ≦3.9の領域)の水素吸蔵合金の結晶構造において、A519構造の構成比率が40%以上存在した際に、特異的な出力特性が得られるという知見を得るとともに、放電特性(アシスト出力)の向上が可能となることを見出した。ここで、A519構造はA27構造と比較して格子体積が小さい。このため、A519構造はニッケル比率が高い構造をとることが可能となり、反応活性点が増大して、放電特性(アシスト出力)の向上が可能になると考えられる。この場合、A519型構造は、Ce5Co19結晶相、Pr5Co19結晶相の少なくとも1つ以上から構成されている必要がある。
【0011】
このとき、水素吸蔵合金の40℃での水素吸蔵量H/M(原子比)が0.5のときの吸蔵水素平衡圧(Pa)が0.04MPa〜0.18MPaであることが望ましい。これは、平衡圧が0.18MPaより大きい場合、水素吸蔵合金表面の水素濃度が高くなって、これが正極の還元反応に寄与するため、ハイブリッド自動車、電気自動車用など高温環境下に長期放置される用途では自己放電による容量の低下が顕著となるためである。一方、吸蔵水素平衡圧(Pa)が0.04MPa未満であると、作動電圧が低下することにより高出力特性が低下するためである。
【0012】
上記のような構成となる水素吸蔵合金を製造するに際しては、Laを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素Rと、Co,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素Mとを含有して一般式がLaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(α,β,γ,η,εは、0≦α≦0.5、0.1≦β≦0.2、3.7≦γ≦3.9、0.1≦η≦0.3、0≦ε≦0.2)と表される組成となる原材料を加熱溶解して溶湯とし、厚さが0.5mm以下の合金鋳塊を作製した後、所望の温度で熱処理して製造することが望ましい。
【0013】
ここで、上記一般式で表される水素吸蔵合金は厚さが0.5mm以下の合金鋳塊(薄片)においては、A519構造の構成比率が40%以上と多くなって、出力特性(アシスト出力)が向上することが明らかになった。これは、水素吸蔵合金の合金鋳塊の厚みを小さく(薄く)すると、合金鋳塊内部への冷却速度を加速させることが可能となり、準安定相であるA519構造が均一に生成しやすくなったためと考えられる。このようにA519構造の構成比率が40%以上と多くするには、γが3.5程度の従来の量論比領域では認められず、本発明の量論比領域(3.7≦γ≦3.9の領域)においてのみ可能となる。
【0014】
なお、合金鋳塊を作製した後に行う熱処理における熱処理温度は、合金鋳塊の融点よりも60℃〜30℃低い温度であるのが望ましい。これは、水素吸蔵合金を融点温度より60℃低い温度よりも低い温度で熱処理をすると、AlやMgの不均一分散による偏析相を発生し、組織の均質化が妨げられ、耐食性の低下をもたらす原因となるからである。一方、融点温度より30℃低い温度よりも高い温度で熱処理をすると、Mgは沸点が低いため、Mgヒュームが発生し、合金製造時の安全性に問題が生じるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては従来よりも高い量論比領域(3.7≦γ≦3.9の領域)の水素吸蔵合金において、結晶構造においてA519構造の構成比率が40%以上存在するようにしているので、従来の範囲を遥かに超えた高出力特性(アシスト出力)を有することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ついで、本発明の実施の形態を以下の図1〜図3に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。なお、図1は本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。図2はA519構造の構成比率(%)に対する−10℃出力比(対電池B)(%)との関係を示すグラフである。図3はA519構造の構成比率(%)に対する−10℃出力比/放電リザーブ蓄積比の関係を示すグラフである。
【0017】
1.水素吸蔵合金
La,Ce,Pr,Nd,Pr,Ce,Mg,Ni,Al,Co,Mn,Znなどの金属元素を下記の表1に示すような所定のモル比となるように混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた。この後、厚みが0.5mm以下の合金鋳塊になるように溶湯急冷して、薄板状の水素吸蔵合金a〜kを作製した。この場合、組成式がLa0.8Ce0.1Pr0.05Nd0.05Ni4.2Al0.3(Co,Mn)0.7で表されるものを水素吸蔵合金aとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.2Al0.2Co0.1で表されるものを水素吸蔵合金bとし、La0.2Pr0.2Nd0.5Mg0.1Ni3.4Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金cとした。
【0018】
また、Nd0.9Mg0.1Ni3.4Al0.2(Co,Mn)0.1で表されるものを水素吸蔵合金dとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.5Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金eとし、La0.2Pr0.1Nd0.5Mg0.2Ni3.5Al0.3で表されるものを水素吸蔵合金fとした。また、La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.6Al0.1Zn0.2で表されるものを水素吸蔵合金gとし、La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.7Al0.1で表されるものを水素吸蔵合金hとし、La0.5Pr0.1Nd0.3Mg0.1Ni3.7Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金iとし、La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.7Al0.1で表されるものを水素吸蔵合金jとした。さらに、La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.8Al0.1Co0.1で表されるものを水素吸蔵合金kとした。以上の結果を表にまとめると、下記の表1に示すような結果となった。
【0019】
なお、下記の表1には、各水素吸蔵合金a〜kを一般式LaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(ただし、RはLaを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素、MはCo,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素)で表した場合のα,β,η,εおよびγの値も示している。なお、γは後述するように、LaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMεをA成分(La,R,Mg)とB成分(Ni,Al,M)で表した場合のB成分の全量を表し、A成分は1となるのでAB比を表すこととなる。
【表1】

【0020】
ついで、得られた各水素吸蔵合金a〜kについて、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(Tm)を測定した。その後、これらの水素吸蔵合金a〜kの融点(Tm)よりも30℃だけ低い温度(Ta=Tm−30℃)で所定時間(この場合は12時間)の熱処理を行った。そして、熱処理後の各水素吸蔵合金a〜kの吸蔵水素平衡圧Pa(MPa)を求めると表2に示す結果となった。この場合、40℃の雰囲気下で、水素吸蔵量(H/M)が0.5のときの解離圧を吸蔵水素平衡圧Pa(MPa)として、JIS H7201(1991)「水素吸蔵合金の圧力−組成等温線(PCT曲線)の測定方法」に基づいて測定した。
【0021】
この後、これらの各水素吸蔵合金a〜kの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末a〜kを作製した。ついで、Cu−Kα管をX線源とするX線回折測定装置を用いる粉末X線回折法で水素吸蔵合金粉末a〜kの結晶構造の同定を行った。この場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度(2θ)20〜50°でX線回折測定を行った。得られたXRDプロファイルよりJCPDSカードチャートを用いて、各水素吸蔵合金a〜kの結晶構造を同定した。
【0022】
ここで、各結晶構造の構成比において、A519型構造はCe5Co19型構造とPr5Co19型構造とし、A27型構造はNd2Ni7型構造とCe2Ni7型構造とし、AB5型構造はLaNi5型構造として、JCPDSによる各構造の回折角の強度値と42〜44°の最強強度値との比各強度比を、得られたXRDプロファイルにあてはめて、各構造の構成比率を算出すると、下記の表2に示すような結果が得られた。
【表2】

【0023】
上記表2の結果から以下のことが明らかとなった。即ち、希土類元素、ニッケル、マグネシウムからなる水素吸蔵合金b〜jは、A519型構造およびA27型構造から成り立っている。また、Laを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素Rと、Co,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素Mとを含有して一般式がaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(α,β,γ,η,εは、0≦α≦0.5、0.1≦β≦0.2、3.7≦γ≦3.9、0.1≦η≦0.3、0≦ε≦0.2)と表される組成の水素吸蔵合金d〜iは、A519型構造(Ce5Co19型構造+Pr5Co19型構造)の構成比率が40%以上であった。さらに、水素吸蔵合金jのようにAB比(量論比)(γ)が4.0以上であり、A519型構造(Ce5Co19型構造+Pr5Co19型構造)の構成比率が低下して、逆にAB5型構造の構成比率が顕著に増加した。
【0024】
2.水素吸蔵合金電極
この後、CMC(カルボキシメチルセルロース)を水(あるいは純水)に溶解させた水溶性結着剤に見掛け密度が1.5g/cm3のニッケルフレークを0.5質量%添加した後、得られた各水素吸蔵合金粉末(a〜k)をそれぞれ混合して混練した。ついで、非水溶性結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)と水(あるいは純水)を加えて混合して、スラリー密度が3.1g/cm3となるように粘度調整して水素吸蔵合金スラリーをそれぞれ作製した。この場合、CMC(カルボキシメチルセルロース)は水素吸蔵合金粉末100質量部に対して0.1質量%、SBR(スチレンブタジエンラテックス)は水素吸蔵合金粉末100質量部に対して1.0質量%となるように調整した。
【0025】
この後、Niメッキ軟鋼材製の多孔性基板(パンチングメタル)からなる負極芯体を用意し、この負極芯体に、充填密度が5.0g/cm3となるように水素吸蔵合金スラリーをそれぞれ塗着し、乾燥させた後、所定の厚みになるように圧延した。この後、所定の寸法(この場合は、負極表面積(短軸長×長軸長×2)が800cm2)になるように切断して、水素吸蔵合金電極11(a1〜k1)をそれぞれ作製した。
【0026】
ここで、水素吸蔵合金aを用いたものを水素吸蔵合金電極a1とし、水素吸蔵合金bを用いたものを水素吸蔵合金電極b1とした。また、水素吸蔵合金cを用いたものを水素吸蔵合金電極c1とし、水素吸蔵合金dを用いたものを水素吸蔵合金電極d1とし、水素吸蔵合金eを用いたものを水素吸蔵合金電極e1とし、水素吸蔵合金fを用いたものを水素吸蔵合金電極f1とし、水素吸蔵合金gを用いたものを水素吸蔵合金電極g1とし、水素吸蔵合金hを用いたものを水素吸蔵合金電極h1とした。さらに、水素吸蔵合金iを用いたものを水素吸蔵合金電極i1とし、水素吸蔵合金jを用いたものを水素吸蔵合金電極j1とし、水素吸蔵合金kを用いたものを水素吸蔵合金電極k1とした。
【0027】
3.ニッケル電極
多孔度が約85%の多孔性ニッケル焼結基板を比重が1.75の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの混合水溶液に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内にニッケル塩およびコバルト塩を保持させた。この後、この多孔性ニッケル焼結基板を25質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬して、ニッケル塩およびコバルト塩をそれぞれ水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトに転換させた。
【0028】
ついで、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥を行って、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填した。このような活物質充填操作を所定回数(例えば6回)繰り返して、多孔性焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主体とする活物質の充填密度が2.5g/cm3になるように充填した。この後、室温で乾燥させた後、所定の寸法に切断してニッケル電極12を作製した。
【0029】
4.ニッケル−水素蓄電池
この後、上述のようにして作製した水素吸蔵合金電極11とニッケル電極12とを用い、これらの間に、ポリプロピレン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金電極11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル電極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル電極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0030】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット19が装着された封口体18の底部に溶接する。なお、封口体18には正極キャップ18aが設けられていて、この正極キャップ18a内に所定の圧力になると変形する弁体18bとスプリング18cよりなる圧力弁(図示せず)が配置されている。
【0031】
ついで、外装缶17の上部外周部に環状溝部17aを形成した後、電解液を注液し、外装缶17の上部に形成された環状溝部17aの上に封口体18の外周部に装着された絶縁ガスケット19を載置する。この後、外装缶17の開口端縁17bをかしめることにより、ニッケル−水素蓄電池10(A〜H)が作製される。この場合、外装缶17内に30質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるアルカリ電解液を電池容量(Ah)当り2.5g(2.5g/Ah)となるように注入した。
【0032】
ここで、水素吸蔵合金電極a1を用いたものを電池Aとし、水素吸蔵合金電極b1を用いたものを電池Bとし、水素吸蔵合金電極c1を用いたものを電池Cとし、水素吸蔵合金電極d1を用いたものを電池Dとし、水素吸蔵合金電極e1を用いたものを電池Eとし、水素吸蔵合金電極f1を用いたものを電池Fとし、水素吸蔵合金電極g1を用いたものを電池Gとし、水素吸蔵合金電極h1を用いたものを電池Hとし、水素吸蔵合金電極i1を用いたものを電池Iとし、水素吸蔵合金電極j1を用いたものを電池Jとし、水素吸蔵合金電極k1を用いたものを電池Kとした。
【0033】
5.電池試験
(1)出力特性評価
まず、上述のようにして作製した電池A〜Kを用いて、25℃の温度雰囲で、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の120%まで充電し、1時間休止した。ついで、70℃の温度雰囲で24時間放置した後、45℃の温度雰囲で、1Itの放電々流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させるサイクルを2サイクル繰り返して、これらの各電池A〜Kを活性化した。
【0034】
活性化終了後、25℃の温度雰囲で、1Itの充電電流でSOC(State Of Charge :充電深度)の50%まで充電した後、1時間休止した。ついで、−10℃の温度雰囲で、任意の充電レートで20秒間充電させた後、30分間休止させた。この後、−10℃の温度雰囲で、任意の放電レートで10秒間放電させた後、25℃の温度雰囲で30分間休止させた。このような−10℃の温度雰囲で、任意の充電レートでの20秒間充電、30分の休止、任意の放電レートで10秒間放電、25℃の温度雰囲での30分の休止を繰り返した。
【0035】
この場合、任意の充電レートは、0.8It→1.7It→2.5It→3.3It→4.2Itの順で充電電流を増加させ、任意の放電レートは、1.7It→3.3It→5.0It→6.7It→8.3Itの順で放電電流を増加させ、各放電レートで10秒間経過時点での各電池A〜Kの電池電圧(V)を各電流毎にそれぞれ測定して、放電V−Iプロット近似曲線を求めた。
【0036】
ここで、求めたV−Iプロット近似曲線上の電池電圧が0.9V時の電流を放電特性指標としての放電出力(−10℃アシスト出力)として求め、希土類元素、ニッケル、マグネシウムからなる水素吸蔵合金bを用いた電池Bの−10℃アシスト出力を基準とし、これとの相対比を−10℃アシスト出力比(対電池B)を求めると下記の表3に示すような結果となった。また、A519型構造の構成比率と−10℃アシスト出力比との関係をグラフに示すと図2に示すような結果となった。
【0037】
(2)耐食性評価(放電リザーブ評価)
ついで、水素吸蔵合金の耐食性指標として放電リザーブを評価した。この場合、25℃の温度雰囲で、1Itの放電電流で放電終始電圧が0.3Vになるまで放電させて、放電時間から1Itの放電時の負極放電容量(U1)を求めた。ついで、25℃の温度雰囲で、10分間休止させた後、0.1Itの放電電流で放電終始電圧が0.3Vになるまで放電させて、放電時間から0.1Itの放電時の負極放電容量(U2)を求めた。
【0038】
そして、求めた1Itの放電時の負極放電容量(U1)と0.1Itの放電時の負極放電容量(U2)との和(U1+U2)を放電リザーブ蓄積量として求めた後、電池容量(P)とのに対する割合を放電リザーブ蓄積率(((U1+U2)/P)×100%)として求めると、下記の表3に示すような結果となった。さらに、求めた放電リザーブ蓄積率に対する−10℃アシスト出力比(−10℃アシスト出力比/放電リザーブ蓄積率)を求めると下記の表3に示すような結果となった。また、A519型構造の構成比率と−10℃アシスト出力比/放電リザーブ蓄積率との関係をグラフに示すと図3に示すような結果となった。
【0039】
(3)自己放電特性評価
ついで、水素吸蔵合金の耐食性指標として45℃自己放電特性を評価した。この場合、25℃の温度雰囲で、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の80%まで充電し、1時間休止した。ついで、25℃の温度雰囲で、1Itの放電々流で電池電圧が0.9Vになるまで放電させて、放電時間から放置前の放電容量(W1)を求めた。この後、25℃の温度雰囲で、30分間休止した後、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の80%まで充電した。
【0040】
ついで、45℃の温度雰囲で7日間放置した。この後、25℃の温度雰囲で、1Itの放電々流で電池電圧が0.9Vになるまで放電させて、放電時間から放置後の放電容量(W2)を求めた。そして、放置前の放電容量(W1)に対する放置後の放電容量(W2)の比率を自己放電残存率(W2/W1×100%)として求めると、下記の表3に示すような結果となった。
【表3】

【0041】
上記表3および図2の結果から明らかなように、A519型構造の構成比率が増加するに伴い、−10℃アシスト出力(低温出力)が向上することが分かる。また、上記表3および図3の結果から明らかなように、放電リザーブ蓄積率当たり出力は、A519型構造の構成比率が40%以上で顕著に向上していることが分かる。
【0042】
一方、電池Kにおいては、A519型構造の構成比率が34%である水素吸蔵合金kを用いているため、−10℃アシスト出力(低温出力)の向上が認められるも、放電リザーブ蓄積率の上昇が大きい結果となった。これは、AB5型構造の構成比率が増加したためと考えられる。つまり、偏析相が溶出酸化し、放電リザーブ蓄積率が上昇したものと考えられる。また、電池Kは、40℃吸蔵水素平衡圧が0.220MPaと高く、自己放電残存率が低下していることが分かる。これは、水素吸蔵合金表面の水素濃度が高く、これが正極の還元反応に寄与しているためと考えられる。このことから、40℃吸蔵水素平衡圧は0.18MPa以内であることが望ましいということができる。
【0043】
以上の結果を総合勘案すると以下のことが分かる。即ち、Laを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素Rと、Co,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素Mとを含有して一般式がLaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(α,β,γ,η,εは、0≦α≦0.5、0.1≦β≦0.2、3.7≦γ≦3.9、0.1≦η≦0.3、0≦ε≦0.2)と表される組成で、A519型構造の構成比率が40%以上の水素吸蔵合金を用いると、−10℃アシスト出力(低温出力)を向上させることが可能となる。この場合、A519型構造はCe5Co19結晶相およびPr5Co19結晶相の少なくとも1つ以上からなるのが好ましい。また、40℃での水素吸蔵量H/M(原子比)が0.5のときの吸蔵水素平衡圧(MPa)が0.04〜0.18MPaであるのが望ましい。
【0044】
6.水素吸蔵合金鋳塊の厚みの検討
ついで、水素吸蔵合金鋳塊の厚みについて以下に検討した。そこで、水素吸蔵合金c(La0.2Pr0.2Nd0.5Mg0.1Ni3.4Al0.2)および水素吸蔵合金h(La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.7Al0.1)の組成となるように各金属元素を秤量して混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた。この後、厚みが10mmの合金鋳塊になるように溶湯急冷して、薄板状の水素吸蔵合金m(La0.2Pr0.2Nd0.5Mg0.1Ni3.4Al0.2)および水素吸蔵合金n(La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.7Al0.1)を作製した。
【0045】
ついで、得られた各水素吸蔵合金m,nについて、DSC(示差走査熱量計)を用いて上述と同様にして融点(Tm)を測定し、これらの水素吸蔵合金m,nの融点(Tm)よりも30℃だけ低い温度(Ta=Tm−30℃)で所定時間(この場合は12時間)の熱処理を行った。この後、これらの水素吸蔵合金m,nの塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末m,nを作製した。ついで、上述と同様に各水素吸蔵合金m,nの結晶構造を同定した。ついで、上述と同様に各結晶構造の構成比率を算出すると、下記の表4に示すような結果が得られた。
【0046】
ついで、これらの水素吸蔵合金m,nを用いて、上述と同様に水素吸蔵合金電極m1,n1を作製するとともに、ニッケル−水素蓄電池M,Nを作製し、上述と同様に活性化した後、上述と同様の充放電試験を行って放電特性指標としての放電出力(−10℃アシスト出力)として求めると、下記の表4に示すような結果となった。なお、表4には上述した電池C(水素吸蔵合金cを負極に用いた電池)および電池H(水素吸蔵合金hを負極に用いた電池)の結果も併せて示している。
【表4】

【0047】
上記表4の結果から明らかなように、La0.2Pr0.2Nd0.5Mg0.1Ni3.4Al0.2(γは3.6となる)と表される組成となる水素吸蔵合金を用いた電池Cと電池Mとを比較すると、A519構造の構成比率および出力特性に差異が認められないことが分かる。一方、La0.2Nd0.7Mg0.1Ni3.7Al0.1(γは3.8となる)と表される組成となる水素吸蔵合金を用いた電池Hと電池Nとを比較すると、合金鋳塊の厚みが0.5mmになるようにして作製された水素吸蔵合金を用いた電池Hは、合金鋳塊の厚みが10mmになるようにして作製された水素吸蔵合金を用いた電池NよりもA519構造の構成比率が向上し、−10℃出力比が向上していることが分かる。
【0048】
このことから、Laを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素R、Co,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素Mからなる一般式LaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(α,β,γ,η,εは、0≦α≦0.5、0.1≦β≦0.2、3.7≦γ≦3.9、0.1≦η≦0.3、0≦ε≦0.2)で表される組成の水素吸蔵合金を製造する場合は、原材料となる金属元素を加熱溶解した後、厚さが0.5mm以下の合金鋳塊を作製する合金鋳塊作製工程を備える必要がある。
【0049】
なお、合金鋳塊を作製した後、合金鋳塊の融点よりも60℃〜30℃低い温度で熱処理温度するのが望ましい。これは、水素吸蔵合金を融点温度より60℃低い温度よりも低い温度で熱処理をすると、AlやMgの不均一分散による偏析相を発生し、組織の均質化が妨げられ、耐食性の低下をもたらす原因となるからである。一方、融点温度より30℃低い温度よりも高い温度で熱処理をすると、Mgは沸点が低いため、Mgヒュームが発生し、合金製造時の安全性に問題が生じるからである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
なお、原材料となる金属元素を加熱溶解した溶湯を急冷して厚みが0.5mm以下の薄板状の水素吸蔵合金鋳塊(薄片)を作製するには、双ロール法や単ロール法などの公知の冷却固化方法を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】A519構造の構成比率(%)に対する−10℃出力比(対電池B)(%)との関係を示すグラフである。
【図3】A519構造の構成比率(%)に対する−10℃出力比/放電リザーブ蓄積比の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
11…水素吸蔵合金電極、11c…芯体露出部、12…ニッケル電極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、16…正極用リード、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…封口板、18b…正極キャップ、18c…弁板、18d…スプリング、19a…絶縁ガスケット、19b…防振リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池の負極活物質として用いられるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金であって、
前記水素吸蔵合金は、Laを除き、Yを含む希土類元素および4族から選ばれた元素Rと、Co,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素Mとを含有して一般式がLaαR1-α-βMgβNiγ-η-εAlηMε(α,β,γ,η,εは、0≦α≦0.5、0.1≦β≦0.2、3.7≦γ≦3.9、0.1≦η≦0.3、0≦ε≦0.2)と表され、
かつ結晶構造においてA519型構造が40%以上であることを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記A519型構造は、Ce5Co19結晶相およびPr5Co19結晶相の少なくとも1つ以上からなることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金の40℃での水素吸蔵量H/M(原子比)が0.5のときの吸蔵水素平衡圧(Pa)が0.04〜0.18MPaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項4】
アルカリ蓄電池の負極活物質として用いられるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造であって、
原材料となる金属元素を加熱溶解した後、厚さが0.5mm以下の合金鋳塊を作製する合金鋳塊作製工程と、
前記合金鋳塊を熱処理する熱処理工程とを備えることを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程における熱処理温度は熱処理する合金鋳塊の融点よりも60℃〜30℃低い温度であることを特徴とする請求項4に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金電極と、正極と、これらの両極を隔離するセパレータと、アルカリ電解液とを外装缶内に備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−300108(P2008−300108A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143059(P2007−143059)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】