説明

アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金及びアルカリ蓄電池

【課題】 アルカリ蓄電池の負極に使用するアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を改善して、高い電池容量が得られると共に充放電サイクル特性にも優れたアルカリ蓄電池が得られるようにする。
【解決手段】 アルカリ蓄電池の負極に使用するアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造するにあたり、少なくとも希土類元素とMgとNiとAlとを含有し、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlaMb(式中、LnはZr,Ti,Y及び希土類元素から選択される少なくとも1種の元素、MはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,B,Zrから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x≦0.35、0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.5、2.8≦y≦3.9の条件を満たす。)で表される水素吸蔵合金を溶融及び鋳造させて製造する際の雰囲気ガスに、Heガスを含むガスを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルカリ蓄電池の負極に使用するアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法及びアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金、またこのようなアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を負極に使用したアルカリ蓄電池に係り、特に、アルカリ蓄電池の負極に使用するアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を改善して、高い電池容量が得られると共に充放電サイクル特性にも優れたアルカリ蓄電池が得られるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ蓄電池としては、ニッケル・カドミウム蓄電池が広く使用されていたが、近年においては、ニッケル・カドミウム蓄電池に比べて高容量で、またカドミウムを使用しないため環境安全性にも優れているという点から、負極に水素吸蔵合金を用いたニッケル・水素蓄電池が注目されるようになった。
【0003】
そして、このようなニッケル・水素蓄電池からなるアルカリ蓄電池が各種のポータブル機器に使用されるようになり、このアルカリ蓄電池をさらに高性能化させることが期待されている。
【0004】
ここで、このようなアルカリ蓄電池においては、その負極に使用する水素吸蔵合金として、一般にCaCu5型の結晶を主相とする希土類−ニッケル系水素吸蔵合金や、Ti,Zr,V及びNiを含むラーベス相系の水素吸蔵合金等が一般に使用されている。
【0005】
しかし、上記の水素吸蔵合金は、水素吸蔵能力が必ずしも十分であるとはいえず、アルカリ蓄電池をさらに高容量化させることが困難であった。
【0006】
そして、近年においては、上記の希土類−ニッケル系水素吸蔵合金における水素吸蔵能力を向上させるために、上記の希土類−ニッケル系水素吸蔵合金にMg等を含有させて、CaCu5型以外のCe2Ni7型やCeNi3型等の結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかし、上記のような水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池を繰り返して充放電させた場合に、上記の水素吸蔵合金が劣化し、アルカリ蓄電池におけるサイクル寿命が大きく低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平11−323469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、希土類−ニッケル系水素吸蔵合金にMg等を含有させて、CaCu5型以外の結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、上記のような水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池を繰り返して充放電させた場合に、上記の水素吸蔵合金が劣化するのを抑制し、高い電池容量が得られると共に充放電サイクル特性にも優れたアルカリ蓄電池が得られるようにすることを課題とするものである。
【0009】
ここで、本発明者等が、上記のように希土類−ニッケル系水素吸蔵合金にMg等が含有されてCaCu5型以外の結晶構造を有する水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池を充放電させた場合に、上記の水素吸蔵合金が劣化してサイクル寿命が低下する原因を検討した結果、上記の水素吸蔵合金に含まれているMgが偏析しやすく、この水素吸蔵合金における金属−水素系の平衡状態図の圧力−組成等温線を測定した場合、そのプラトー性が低くなっており、充放電によってさらにそのプラトー性が低下し、水素吸蔵合金の結晶構造が崩壊したためであると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明においては、上記のような課題を解決するため、アルカリ蓄電池の負極に使用するアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造するにあたり、少なくとも希土類元素とマグネシウムとニッケルとアルミニウムとを含有し、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはZr,Ti,Y及び希土類元素から選択される少なくとも1種の元素、MはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,B,Zrから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x≦0.35、0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.5、2.8≦y≦3.9の条件を満たす。)で表される水素吸蔵合金を溶融及び鋳造させて製造する際の雰囲気ガスに、ヘリウムガスを含むガスを用いるようにした。
【0011】
ここで、上記の一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlabで表される水素吸蔵合金としては、上記のxの値が0.20≦x≦0.35の条件を満たすものが好ましく、また上記の雰囲気ガスとしてはヘリウムガスだけを用いることが好ましい。
【0012】
ここで、上記のようにしてアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造すると、40℃で測定した金属−水素系の平衡状態図において、固相中の水素原子Hと金属原子Meとの組成(H/Me)が0.2〜0.6の範囲における水素吸蔵時の圧力−組成等温線の傾きpf[=ln(H/Meが0.6の水素圧力)/(H/Meが0.2の水素圧力)]が1.0以下であるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金が得られるようになる。なお、このアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、その結晶構造がCeNi構造又はCeNi構造に類似した構造になっている。
【0013】
そして、この発明におけるアルカリ蓄電池においては、その負極における水素吸蔵合金に、上記のようなアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を用いるようにした。
【発明の効果】
【0014】
この発明におけるアルカリ蓄電池においては、上記のように負極に用いるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造するにあたり、少なくとも希土類元素とマグネシウムとニッケルとアルミニウムとを含有し、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはZr,Ti,Y及び希土類元素から選択される少なくとも1種の元素、MはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,B,Zrから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x≦0.35、0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.5、2.8≦y≦3.9の条件を満たす。)で表される水素吸蔵合金を用いるようにしたため、高い電池容量が得られるようになる。
【0015】
また、上記の水素吸蔵合金を溶融及び鋳造させて製造する際の雰囲気ガスに、前記のようにヘリウムガスを含むガスを用いると、一般に使用されているアルゴンガスに比べて雰囲気ガスの熱伝導性が高くなり、鋳造時に上記の水素吸蔵合金が急激に冷却されてMgの蒸発が抑制され、均質な組織構造を有する水素吸蔵合金が得られるようになり、特に、雰囲気ガスにヘリウムガスだけを用いると、より一層均質な組織構造を有する水素吸蔵合金が得られるようになる。なお、上記の一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlabで表される水素吸蔵合金中におけるMgの量が多くなると、水素吸蔵能力が向上する一方、Mgが多くなり過ぎると、Mgが偏析しやすくなって均質な組織構造が得られにくくなるため、上記の一般式におけるxの値が0.20≦x≦0.35の範囲でより効果的である。
【0016】
そして、上記のようにしてアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造すると、40℃で測定した金属−水素系の平衡状態図において、固相中の水素原子Hと金属原子Meとの組成(H/Me)が0.2〜0.6の範囲における水素吸蔵時の圧力−組成等温線の傾きpf[=ln(H/Meが0.6の水素圧力)/(H/Meが0.2の水素圧力)]が1.0以下になったプラトー性に優れた均質な組織構造を有するアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金が得られるようになる。
【0017】
そして、この発明におけるアルカリ蓄電池においては、上記のようにして製造したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金をその負極に使用した結果、その負極における水素の吸蔵・放出がスムーズに行われるようになり、充放電を繰り返した場合においても、その負極に用いたアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の結晶構造が崩壊するのが抑制され、高い電池容量を有すると共に充放電サイクル特性にも優れたアルカリ蓄電池が得られるようになる。
【実施例】
【0018】
以下、この発明の実施例に係るアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法及びこのような方法で製造されたアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を用いたアルカリ蓄電池について具体的に説明すると共に、比較例を挙げ、この発明の実施例に係る方法で製造されたアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、前記のプラトー性に優れた均質な組織構造を有し、充放電サイクル特性に優れたアルカリ蓄電池が得られることを明らかにする。なお、この発明におけるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金及びアルカリ蓄電池は、下記の実施例に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0019】
(実施例1)
実施例1においては、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造するにあたり、LaとZrとMgとNiとAlとCoとを所定の合金組成になるように混合し、これをHeガス雰囲気中において、誘導溶解炉により1500℃で溶融させた後、これを冷却させて、La0.74Zr0.01Mg0.25Ni3.20Al0.10Co0.10の組成になった水素吸蔵合金のインゴットを製造した。なお、上記の水素吸蔵合金の組成は、誘導結合プラズマ分光分析(ICP)により測定した。
【0020】
そして、上記の水素吸蔵合金のインゴットを、Arガス雰囲気中において950℃の温度で10時間熱処理して、実施例1において用いる水素吸蔵合金Aのインゴットを得た。
【0021】
次いで、上記の水素吸蔵合金Aのインゴットを不活性雰囲気中で機械的に粉砕して、上記の水素吸蔵合金の粉末を得た。ここで、この水素吸蔵合金の粉末における粒度分布をレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した結果、重量積分が50%にあたる平均粒径は65μmになっていた
【0022】
そして、上記の水素吸蔵合金の粉末100重量部に対して、ポリアクリル酸ナトリウムを0.4重量部、カルポキシメチルセルロースを0.1重量部、ポリテトラフルオロエチレン分散液(分散媒:水、固形分60重量%)を2.5重量部の割合で混合させてペーストを調製した。そして、このペーストを厚みが60μmのニッケル鍍金を施した鉄製のパンチングメタルからなる導電性芯体の両面に均一に塗布し、これを乾燥させてプレスした後、所定の寸法に切断して、負極に用いる水素吸蔵合金電極を作製した。
【0023】
一方、正極を製造するにあたっては、亜鉛を2.5重量%,コバルトを1.0重量%含有する水酸化ニッケル粉末を硫酸コバルト水溶液中に投入し、これを攪拌しながら、1モルの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下してpHが11になるまで反応させ、その後、沈殿物を濾過し、これを水洗し、真空乾燥させて、表面に水酸化コバルトが被覆された水酸化ニッケルを得た。そして、このように水酸化コバルトが被覆された水酸化ニッケルに25重量%の水酸化ナトリウム水溶液を1:10の重量比になるように加えて含浸させ、これを8時間攪拌しながら85℃で加熱処理した後、これを水洗し、65℃で乾燥させて、上記の水酸化ニッケルの表面がナトリウム含有コバルト酸化物で被覆された正極材料を得た。
【0024】
次いで、この正極材料を95重量部、酸化亜鉛を3重量部、水酸化コバルトを2重量部の割合で混合させたものに、0.2重量%のヒドロキシプロピルセルロース水溶液を50重量部加え、これらを混合させてスラリーを調製した。そして、このスラリーをニッケル発泡体(面密度約600g/m2)に充填し、これを乾燥させてプレスした後、所定の寸法に切断して非焼結式ニッケル極からなる正極を作製した。
【0025】
そして、この実施例1のアルカリ蓄電池においては、セパレータにポリプロピレン製の不織布を使用し、またアルカリ電解液としては、KOHとNaOHとLiOH・H2Oとが8:0.5:1の重量比で含まれ、これらの総和が30重量%になったアルカリ水溶液を使用し、図1に示すような円筒型で設計容量が1500mAhになったアルカリ蓄電池を作製した。
【0026】
ここで、上記のアルカリ蓄電池を作製するにあたっては、図1に示すように、正極1と負極2との間にセパレータ3を介在させ、これらをスパイラル状に巻いて電池缶4内に収容させると共に、この電池缶4内にアルカリ電解液を注液した後、電池缶4と正極蓋6との間に絶縁パッキン8を介して封口し、正極1を正極リード5を介して正極蓋6に接続させると共に、負極2を負極リード7を介して電池缶4に接続させ、上記の絶縁パッキン8により電池缶4と正極蓋6とを電気的に分離させた。また、上記の正極蓋6と正極外部端子9との間にコイルスプリング10を設け、電池の内圧が異常に上昇した場合には、このコイルスプリング10が圧縮されて、電池内部のガスが大気中に放出されるようにした。
【0027】
(実施例2)
実施例2においては、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造するにあたり、LaとPrとZrとMgとNiとAlとCoとを所定の合金組成になるように混合し、これをHeガス雰囲気中において、誘導溶解炉により1500℃で溶融させた後、これを冷却させて、La0.49Pr0.30Zr0.01Mg0.20Ni3.20Al0.10Co0.10の組成になった水素吸蔵合金のインゴットを製造した。なお、上記の水素吸蔵合金の組成は、誘導結合プラズマ分光分析(ICP)により測定した。
【0028】
次いで、上記の水素吸蔵合金のインゴットを、Arガス雰囲気中において950℃の温度で10時間熱処理して、実施例2において用いる水素吸蔵合金Bのインゴットを得た。
【0029】
そして、この実施例2においては、上記の水素吸蔵合金Bのインゴットを用いる以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、負極に用いる水素吸蔵合金電極を作製すると共に、図1に示すような円筒型で設計容量が1500mAhになったアルカリ蓄電池を作製した。
【0030】
(比較例1)
比較例1においては、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造するにあたり、上記の実施例1と同様に、LaとZrとMgとNiとAlとCoとを所定の合金組成になるように混合し、この比較例1では、これをArガス雰囲気中において、誘導溶解炉により1500℃で溶融させた後、これを冷却させて、La0.74Zr0.01Mg0.25Ni3.20Al0.10Co0.10の組成になった水素吸蔵合金のインゴットを製造した。
【0031】
次いで、上記の水素吸蔵合金のインゴットを、Arガス雰囲気中において950℃の温度で10時間熱処理して、比較例1において用いる水素吸蔵合金aのインゴットを得た。
【0032】
そして、この比較例1においても、上記の水素吸蔵合金aのインゴットを用いる以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、負極に用いる水素吸蔵合金電極を作製すると共に、図1に示すような円筒型で設計容量が1500mAhになったアルカリ蓄電池を作製した。
【0033】
(比較例2)
比較例2においては、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を製造するにあたり、上記の実施例2と同様に、LaとPrとZrとMgとNiとAlとCoとを所定の合金組成になるように混合し、この比較例2では、これをArガス雰囲気中において、誘導溶解炉により1500℃で溶融させた後、これを冷却させて、La0.49Pr0.30Zr0.01Mg0.20Ni3.20Al0.10Co0.10の組成になった水素吸蔵合金のインゴットを製造した。
【0034】
次いで、上記の水素吸蔵合金のインゴットを、Arガス雰囲気中において950℃の温度で10時間熱処理して、比較例2において用いる水素吸蔵合金bのインゴットを得た。
【0035】
そして、この比較例2においても、上記の水素吸蔵合金bのインゴットを用いる以外は、上記の実施例1の場合と同様にして、負極に用いる水素吸蔵合金電極を作製すると共に、図1に示すような円筒型で設計容量が1500mAhになったアルカリ蓄電池を作製した。
【0036】
ここで、上記の実施例1,2及び比較例1,2において製造した上記の各水素吸蔵合金A,B,a,bのインゴットを、80℃で真空排気及び水素化処理をそれぞれ2回行った後、40℃の温度条件下において、それぞれ水素圧力を変化させて水素の吸蔵・放出を行い、金属−水素系の平衡状態図における圧力−組成等温線を、各水素吸蔵合金A,B,a,bのインゴットについて求めた。ここで、上記の実施例2において製造した水素吸蔵合金Bのインゴットを用いて求めた金属−水素系の平衡状態図における圧力−組成等温線の結果を図2に、上記の比較例2において製造した水素吸蔵合金bのインゴットを用いて求めた金属−水素系の平衡状態図における圧力−組成等温線の結果を図3に示した。
【0037】
そして、上記のように各水素吸蔵合金A,B,a,bのインゴットを用いて求めた金属−水素系の平衡状態図における圧力−組成等温線において、それぞれ固相中の水素原子Hと金属原子Meとの組成(H/Me)が0.2〜0.6の範囲における水素吸蔵時の圧力−組成等温線の傾きpf[=ln(H/Meが0.6の水素圧力)/(H/Meが0.2の水素圧力)]を求め、その結果を下記の表1に示した。
【0038】
【表1】

【0039】
この結果、水素吸蔵合金のインゴットを製造するにあたり、水素吸蔵合金の各原料を溶融及び鋳造させる際の雰囲気ガスにHeガスを用いて製造した実施例1,2の各水素吸蔵合金A,Bのインゴットにおいては、上記の水素吸蔵時における圧力−組成等温線の傾きpfが1.0以下になっており、プラトー性に優れた均質な組織構造を有する水素吸蔵合金が得られた。これに対して、水素吸蔵合金の各原料を溶融及び鋳造させる際の雰囲気ガスにArガスを用いて製造した比較例1,2の各水素吸蔵合金a,bのインゴットにおいては、上記の水素吸蔵時における圧力−組成等温線の傾きpfが1.0を超えた値になっていた。
【0040】
次に、上記のようにして作製した実施例1,2及び比較例1,2の各アルカリ蓄電池を、それぞれ150mAの電流で16時間充電させた後、1500mAの電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電させ、これを1サイクルとして、3サイクルの充放電を行い、実施例1,2及び比較例1,2の各アルカリ蓄電池を活性化させた。
【0041】
そして、上記のように活性化させた実施例1,2及び比較例1,2の各アルカリ蓄電池を、それぞれ1500mAの電流で充電させ、電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電させた後、1500mAの電流で電池電圧が1.0Vになるまで放電させ、これを1サイクルとして、充放電を繰り返して行い、それぞれ放電容量が1サイクル目の放電容量の60%に低下するまでのサイクル数をサイクル寿命として求め、その結果を下記の表2に示した。
【0042】
【表2】

【0043】
この結果、負極における水素吸蔵合金に、上記の水素吸蔵時における圧力−組成等温線の傾きpfが1.0以下になった水素吸蔵合金A,Bを使用した実施例1,2の各アルカリ蓄電池は、上記の水素吸蔵時における圧力−組成等温線の傾きpfが1.0を超えた水素吸蔵合金a,bを使用した比較例1,2のアルカリ蓄電池に比べて、サイクル寿命が大幅に向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施例1,2及び比較例1,2において作製したアルカリ蓄電池の概略断面図である。
【図2】この発明の実施例2において製造した水素吸蔵合金Bのインゴットを用いて求めた金属−水素系の平衡状態図である。
【図3】比較例2において製造した水素吸蔵合金bのインゴットを用いて求めた金属−水素系の平衡状態図である。
【符号の説明】
【0045】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電池缶
5 正極リード
6 正極蓋
7 負極リード
8 絶縁パッキン
9 正極外部端子
10 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも希土類元素とマグネシウムとニッケルとアルミニウムとを含有し、一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlab(式中、LnはZr,Ti,Y及び希土類元素から選択される少なくとも1種の元素、MはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ga,Zn,Sn,In,Cu,Si,P,B,Zrから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦x≦0.35、0.05≦a≦0.30、0≦b≦0.5、2.8≦y≦3.9の条件を満たす。)で表される水素吸蔵合金を溶融及び鋳造させて製造する際の雰囲気ガスに、ヘリウムガスを含むガスを用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した一般式Ln1-xMgxNiy-a-bAlabにおけるxの値が、0.20≦x≦0.35の条件を満たすことを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法において、上記の雰囲気ガスとして、ヘリウムガスだけを用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項4】
40℃で測定した金属−水素系の平衡状態図において、固相中の水素原子Hと金属原子Meとの組成(H/Me)が0.2〜0.6の範囲における水素吸蔵時の圧力−組成等温線の傾きpf[=ln(H/Meが0.6の水素圧力)/(H/Meが0.2の水素圧力)]が1.0以下であることを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項5】
請求項4に記載したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金であって、前記の請求項1〜請求項3の何れか1項に記載したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金の製造方法によって製造されたことを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金であって、その結晶構造がCeNi構造又はCeNi構造に類似した構造であることを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項7】
正極と、水素吸蔵合金を用いた負極と、アルカリ電解液とを備えたアルカリ蓄電池において、負極の水素吸蔵合金に、前記の請求項4〜請求項6の何れか1項に記載したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−66675(P2007−66675A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250559(P2005−250559)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】