説明

アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極及びそれを用いたアルカリ蓄電池

【課題】 ニッケル水素蓄電池の出力安定性等を確保する。
【解決手段】アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極であって、R11−v−wNdMgNia−b−cAlM1(式中R1は、Zr、Y及び希土類元素(Ndを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、M1はCo、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素であり、v≧0.7、0.09≦w≦0.13、3.40≦a≦3.60、0.15≦b≦0.20、0≦c≦0.10)で表される水素吸蔵合金と、R21−x−yLaMgNid−e−fAlM2(式中R2は、Zr、Y及び希土類元素(Laを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、M2はCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、x≧0.5、0.09≦y≦0.13、3.50≦d≦3.70、0.05≦e≦0.15、0≦f≦0.10)で表される水素吸蔵合金を混合して含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(PEV:Pure Electric Vehicle)等の大電流放電を要する用途に適したアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極およびこの水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車や電気自動車などの出力が求められる機器の電源用としてアルカリ蓄電池、特に、ニッケル水素蓄電池が用いられるようになった。ところで、ニッケル水素蓄電池の出力特性は、主に、ニッケル水素蓄電池の負極に使用される水素吸蔵合金の影響を受けるので、ハイブリッド車等の電源用として使用するニッケル水素蓄電池の負極に使用する水素吸蔵合金は、出力特性に優れるものが望ましい。
これまで、出力特性に優れる水素吸蔵合金として、A2B7型の結晶構造やA5B19型の結晶構造といったいわゆる超格子構造を有する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が提案されている。
【0003】
A2B7型構造は、AB2型構造とAB5型構造とからなる構造を有しており、A5B19型構造は、AB2型構造が1層とAB5型構造が3層を周期として積み重なり合った構造を有する。特に、超格子構造を有する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の内、希土類元素がNdを主体に構成される希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金は、充電深度(SOC:State of Charge)の変動に伴う出力の変動が小さいこと、即ち出力安定性に優れるので、ハイブリッド車等の電源用として使用するニッケル水素蓄電池の負極用の水素吸蔵合金として広く使用されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表特許公報WO2007/034760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、最近のハイブリッド車等のコストダウンの要請に伴い、ハイブリッド車等の電源用ニッケル水素蓄電池についても、出力特性や出力安定性だけでなく、コストダウンが重視されるようになってきている。特に、ニッケル水素蓄電池の中でコストウエイトの高い水素吸蔵合金については、より一層のコストダウンが求められている。
ニッケル水素蓄電池のコストダウンを図りつつ出力安定性を高めるためには、使用する水素吸蔵合金が希土類-Mg-Ni系合金の場合、希土類元素の一部をMgで所定量置換し、水素吸蔵合金の結晶構造を安定化させて出力安定性を向上させる方法が挙げられる。しかしながら、多量のMgを水素吸蔵合金に添加すると、水素吸蔵合金の微粉化が加速し、水素吸蔵合金の劣化が進行しやすくなるという課題があった。
また、ニッケル水素蓄電池のコストダウンを図りつつ出力安定性を高める別の方法として、使用する水素吸蔵合金が希土類-Mg-Ni系合金の場合、Niの一部をAlで所定量置換し、水素吸蔵合金の結晶構造を安定化させることが挙げられる。しかしながら、多量のAlを水素吸蔵合金に添加すると、Alが充放電過程で電解液中に溶出して正極へ移行し、出力特性が低下する課題があった。
【0006】
Alの電解液中への溶出を抑制するためには、水素吸蔵合金に含まれるAl量を低下させることが有効であるが、Laを所定量含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金においてAl量を低下させると水素吸蔵合金の結晶構造が変化し、図2(a)に示すように、PCT曲線における平衡水素圧の平坦性(プラトー性)の低下が顕著に現れて出力安定性が低下するという課題があった。
【0007】
また、La含有量を増大させAl量を低下させた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の平衡水素圧の平坦性を改善するには、水素吸蔵合金の組成の適正化が必要であるが、高い出力特性を維持したまま平衡水素圧の平坦性が確保できるように組成の適正化を行うことは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記解題を解決するために、本発明のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極は、一般式R11−v−wNdMgNia−b−cAlM1(ただし、式中R1は、Zr、Y及び希土類元素(Ndを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、M1はCo、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素であり、v≧0.7、0.09≦w≦0.13、3.40≦a≦3.60、0.15≦b≦0.20、0≦c≦0.10)で表される第一の水素吸蔵合金と、
一般式R21−x−yLaMgNid−e−fAlM2(ただし、式中R2は、Zr、Y及び希土類元素(Laを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、M2はCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、x≧0.5、0.09≦y≦0.13、3.50≦d≦3.70、0.05≦e≦0.15、0≦f≦0.10)で表される第二の水素吸蔵合金を混合して含んでいる。
好ましくは、第二の水素吸蔵合金の一般式中のR2は、Sm及び/又はPrを必須として含んでいる。
【0009】
さらに好ましくは、第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金の質量の総和に占める第二の水素吸蔵合金の質量の割合が、30質量%以下である。
また、上記水素吸蔵合金の出力安定性は、第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.5の時の平衡水素圧P0.5が、0.030MPa≦P0.5≦0.055MPaであり、第一の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pa0.2が、0.020MPa≦Pa0.2≦0.035MPaであり、第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pb0.2が、0.010MPa≦Pb0.2≦0.025MPaであることが好ましい。
さらに上記アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池は、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極の極板容量Rに対する極板面積Sの比S/Rが60cm2/Ah以上であるとともに、アルカリ蓄電池の電池容量が4.5Ah以下である時においても、高い出力安定性を維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
上記アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極は、希土類元素としてNdを多く添加している第一の水素吸蔵合金を含んでいるので、出力安定性に優れる。
また、上記アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極は、比較的安価なLaを多く添加した、
第二の水素吸蔵合金を含んでいるので、コストダウンが図られる。
比較的安価なLaは、第一の水素吸蔵合金とは別の第二の水素吸蔵合金に多く添加されているので、第一の合金の出力安定性を低下させることがない。また、第一の水素吸蔵合金とは別の第二の水素吸蔵合金において、Laを多く添加したことによる平衡水素圧の平坦性(プラトー性)の低下を抑制するための組成制御を行えるので、第一の水素吸蔵合金の特性を損なうことがない。これにより、上記第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金を含むアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池は、図2(b)に示すように、PCT曲線における平衡水素圧の平坦性(プラトー性)が高く、出力安定性に優れ、低コストである。
【0011】
好ましくは、第二の水素吸蔵合金の一般式中のR2が、Sm及び/又はPrを必須として含んでいると、第二の水素吸蔵合金の平衡水素圧の平坦性(プラトー性)が向上する。また、Sm及びPrは比較的安価であるので、更にコストダウンを図ることができる。
ただし、水素吸蔵合金電極に第二の水素吸蔵合金を多く使用すると、第一の水素吸蔵合金による出力安定性の効果が失われることになる。このため、水素吸蔵合金電極に使用する第二の水素吸蔵合金は、第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金の質量の総和に占める第二の水素吸蔵合金の質量の割合が30質量%以下となるように使用量を制限するのが好ましい。
【0012】
また、第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.5の時の平衡水素圧P0.5が、0.030MPa≦P0.5≦0.055MPaであり、第一の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pa0.2が、0.020MPa≦Pa0.2≦0.035MPaであり、第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pb0.2が、0.010MPa≦Pb0.2≦0.025MPaであると、第一の水素吸蔵合金を単独で使用したときと同等の出力安定性を確保できる。
【0013】
さらに、上記アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池は、出力安定性が比較的低下しやすい構成である、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極の極板容量Rに対する極板面積Sの比S/Rが60cm2/Ah以上であるとともに、アルカリ蓄電池の電池容量が4.5Ah以下の構成を有していても、出力安定性の低下が抑制される。また当該構成を有するアルカリ蓄電池は、従来のアルカリ蓄電池に比べてダウンサイジングされており、更なるコストダウンが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】水素吸蔵合金のPCT曲線を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.水素吸蔵合金粉末の作製
第一の水素吸蔵合金粉末は以下のようにして作製した。まず、Nd、Mg、Ni及びAlの各金属を下記の表1に示すような所定のモル比となるように混合した。次いで、各金属の混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解し、溶湯を冷却して水素吸蔵合金のインゴットを作製した。次いで水素吸蔵合金のインゴットを不活性雰囲気中で機械的粉砕し平均粒度が25μmの第一の水素吸蔵合金粉末とした。
第二の水素吸蔵合金粉末は、La、Sm、Mg、Ni及びAlの各金属を下記の表1に示すような所定のモル比となるように混合したこと以外、第一の水素吸蔵合金粉末と同様にして作製した。
【0016】
また、第一の水素吸蔵合金粉末及び第二の水素吸蔵合金粉末について、40℃雰囲気下で、水素吸蔵量(H/M)が0.2および0.5のときの平衡水素圧を測定し、この結果を表1に示した。各水素吸蔵合金粉末の平衡水素圧は、JIS H7201(1991)「水素吸蔵合金の圧力−組成等温線(PCT線)の測定方法」に基づき吸蔵側を測定した。尚、測定温度は一般的な使用環境において電池が示す実使用温度の平均値である40℃とした。
【表1】

【0017】
2.水素吸蔵合金電極
ついで、第一の水素吸蔵合金粉末と第二の水素吸蔵合金粉末のトータルに対する第二の水素吸蔵合金粉末の質量割合が30質量%となるように第一と第二の水素吸蔵合金を混合し、これら混合水素吸蔵合金粉末100質量部に対して、非水溶性結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と水(あるいは純水)を加えた後、混練して水素吸蔵合金スラリーを作製した。この後、Niメッキ軟鋼材製の多孔性基板(パンチングメタル)からなる負極芯体を用意し、この負極芯体に、充填密度が5.0g/cm3となるように水素吸蔵合金スラリーをそれぞれ塗着し、乾燥させた後、所定の厚みになるように圧延した。この後、所定の寸法(この場合は、電極容量(Ah)に対する負極表面積(cm2)が60cm2/Ah)になるように切断して、実施例1の水素吸蔵合金電極11を作製した。
また、第一の水素吸蔵合金粉末と第二の水素吸蔵合金粉末の混合割合を表2に示すようにした以外、実施例1の水素吸蔵合金電極11と同様にして、比較例1〜4の水素吸蔵合金電極11を作製した。
尚、表2においては、第一の水素吸蔵合金粉末と第二の水素吸蔵合金粉末の混合割合は、第一の水素吸蔵合金の質量(X)及び第二の水素吸蔵合金の質量(Y)の総和(X+Y)に占める第一の水素吸蔵合金の質量の割合(X/(X+Y)×100)及び第二の水素吸蔵合金の質量の割合(Y/(X+Y)×100)で示している。
【表2】

【0018】
3.ニッケル電極
多孔度が約85%の多孔性ニッケル焼結基板を比重が1.75の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの混合水溶液に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内にニッケル塩およびコバルト塩を保持させた。この後、この多孔性ニッケル焼結基板を25質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬して、ニッケル塩およびコバルト塩をそれぞれ水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトに転換させた。
ついで、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥を行って、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填した。このような活物質充填操作を所定回数(例えば6回)繰り返して、多孔性焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主体とする活物質の充填密度が2.5g/cm3になるように充填した。この後、室温で乾燥させた後、所定の寸法に切断してニッケル電極12を作製した。
【0019】
4.ニッケル−水素蓄電池
この後、上述のように作製された実施例1の水素吸蔵合金電極11とニッケル電極12とを用い、これらの間に、ポリプロピレン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金電極11の芯体露出部11aが露出しており、その上部にはニッケル電極12の芯体露出部12aが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11aに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル電極12の芯体露出部12aの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)16内に収納した後、負極集電体14を外装缶16の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを外周部に絶縁ガスケット18が装着された封口体17の底部に溶接した。なお、封口体17には正極キャップ17aが設けられていて、この正極キャップ17a内に所定の圧力になると変形する弁体17bとスプリング17cよりなる圧力弁が配置されている。
ついで、外装缶16の上部外周部に環状溝部16aを形成した後、電解液を注液し、外装缶16の上部に形成された環状溝部16aの上に封口体17の外周部に装着された絶縁ガスケット18を載置した。この後、外装缶16の開口端縁16bをかしめることにより、実施例1のニッケル−水素蓄電池10を作製した。尚、実施例1のニッケル−水素蓄電池10の電池容量は4.5Ahであり、外装缶16内に30質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるアルカリ電解液が電池容量(Ah)当り2.5g(2.5g/Ah)となるように注入されている。
また、水素吸蔵合金電極として比較例1〜4の水素吸蔵合金電極を用いた以外、実施例1のニッケル水素蓄電池10と同様にして、比較例1〜4のニッケル水素蓄電池10を作製した。
【0020】
5.電池試験
(1)出力特性評価
まず、上述のようにして作製された実施例及び比較例の電池を用いて、25℃の温度雰囲気で、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の120%まで充電し、1時間休止した。ついで、70℃の温度雰囲気で24時間放置した後、45℃の温度雰囲気で、1Itの放電々流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させるサイクルを2サイクル繰り返して、各電池を活性化した。
活性化終了後、25℃の温度雰囲気で、1Itの充電電流でSOCの50%まで充電した後、1時間休止した。ついで、25℃の温度雰囲気で、任意の充電レートで20秒間充電させた後、30分間休止させた。この後、25℃の温度雰囲気で、任意の放電レートで10秒間放電させた後、25℃の温度雰囲気で30分間休止させた。このような25℃の温度雰囲気で、任意の充電レートでの20秒間充電、30分の休止、任意の放電レートで10秒間放電、25℃の温度雰囲気での30分の休止を繰り返した。
この場合、任意の充電レートは3.3It→6.7It→10.0It→13.3It→16.7Itの順で充電電流を増加させ、任意の放電レートは、6.7It→13.3It→20.0It→26.7It→33.3Itの順で放電電流を増加させ、各放電レートで10秒間経過時点での各電池の電池電圧(V)を各電流毎にそれぞれ測定して、放電V−Iプロット近似直線を求めた。ここで、前記のようにして求めたV−Iプロット近似直線上において、電池電圧が0.9Vとなる時の電流値を求め、これを放電特性指標としてのSOC50%時放電出力(25℃アシスト出力(SOC50%時))として求めた。
また、活性化終了後、初回に行う1Itの充電をSOC20%まで行った以外、SOC50%時放電出力と同様にして、SOC20%時放電出力(25℃アシスト出力(SOC20%時))を求めた。結果を表3に示す。

尚、下記の表3においては、比較例1のニッケル−水素蓄電池の出力特性を100とし、それとの相対比で示している。
【0021】
(2)耐食性の評価

ついで、上述した実施例及び比較例のニッケル−水素蓄電池10を用い、以下のようにして負極放電リザーブ(耐食性特性)を求めた。この場合、まず、各ニッケル−水素蓄電池10を開放して電解液リッチな状態にするとともに、開放した各電池に参照極(Hg/HgO)を配置する。ついで、正極活物質が完全に放電状態となった後、25℃の温度雰囲気において、1.0Itの放電々流で負極電位が参照極(Hg/HgO)に対して0.3V(絶対値)になるまで放電させ、このときの放電時間から負極の1It放電時の容量を求めた。
この後、25℃の温度雰囲気において、10分間放電を休止させた後、0.1Itの放電々流で負極電位が参照極(Hg/HgO)に対して0.3V(絶対値)になるまで放電させ、このときの放電時間から負極の0.1It放電時の容量を求めた。そして、求めた1It放電時の負極放電容量と0.1It放電時の負極放電容量の和(負極放電リザーブ)を求め、水素吸蔵合金負極の理論容量に対するこれらの負極放電容量の和(負極放電リザーブ)の比率(負極放電リザーブ/負極の理論容量)を負極酸化量として求めると、下記の表3に示すような結果となった。(負極酸化量;値が小さい方が高耐食性)
尚、下記の表3においては、比較例1のニッケル−水素蓄電池の電気化学的酸化量を100とし、それとの相対比で示している。
【表3】

【0022】
(3)検討
表3から明らかなように、第二の水素吸蔵合金の混合割合が50質量%を超えると出力特性の低下及び出力安定性の低下が起こることが分かる(比較例2、3、4)。これは、水素吸蔵合金電極に含まれるLaが過多となり、平衡水素圧が低下するからである。
一方、第一の水素吸蔵合金しか含まない(第一の水素吸蔵合金の混合割合が100質量%)場合、出力特性と出力安定性の双方が優れることが分かる(比較例1)。しかし、第一の水素吸蔵合金しか含まずに、安価なLa等を含まない場合、表3に示すように高コストという問題が生じる。
【0023】
これに対し、第二の水素吸蔵合金の混合割合が30質量%であると、出力特性及び出力安定性に優れることがわかる。また、第二の水素吸蔵合金の添加による負極の耐食性の向上、コストについても低減できることが分かる。尚、上記実施例では、第二の水素吸蔵合金の混合割合が30質量%の場合のみ示しているが、第二の水素吸蔵合金の混合割合が30質量%以下であれば、出力特性及び出力安定性に優れ、コスト低減も可能となる。
また、上記例においては、第一の水素吸蔵合金としてNd0.89Mg0.11Ni3.32Al0.16の組成、第二の水素吸蔵合金としてLa0.54Sm0.35Mg0.11Ni3.51Al0.09の組成を有するもののみ示したが、第一の水素吸蔵合金として、一般式R11−v−wNdMgNia−b−cAlM1(ただし、式中R1は、Zr、Y及び希土類元素(Ndを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、M1はCo、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素であり、v≧0.7、0.09≦w≦0.13、3.40≦a≦3.60、0.15≦b≦0.20、0≦c≦0.10)で表されるものを、第二の水素吸蔵合金として、一般式R21−x−yLaMgNid−e−fAlM2(ただし、式中R2は、Zr、Y及び希土類元素(Laを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、M2はCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素であり、x≧0.5、0.09≦y≦0.13、3.50≦d≦3.70、0.05≦e≦0.15、0≦f≦0.10)で表されるものを使用すれば、出力特性、出力安定性及びコストに優れるニッケル水素蓄電池が得られる。
【0024】
さらに、上記例においては、上記第二の水素吸蔵合金の一般式中のR2に対応する元素としてSmを含むもののみ示したが、Smに代えてPrを含む場合、又はSmとPrの双方を含む場合においても、上記本発明の効果が得られる。Sm及びPrは比較的安価であるので、更にコストダウンを図ることができる。
さらに、上記例においては、第一の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.5の時の平衡水素圧P0.5が0.045MPaであり、40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pa0.2が0.028MPaであり、第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.5の時の平衡水素圧P0.5が0.036MPaであり、40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pa0.2が0.014MPaであるもののみ示したが、第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.5の時の平衡水素圧P0.5が、0.030MPa≦P0.5≦0.055MPaであり、第一の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時平衡水素圧Pa0.2が、0.020MPa≦Pa0.2≦0.035MPaであり、第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pb0.2が、0.010MPa≦Pb0.2≦0.025MPaであれば、第一の水素吸蔵合金を単独で使用したときと同等の出力安定性を確保できる。
【0025】
さらに、上記例においては、負極電極容量(Ah)に対する負極表面積(cm2)が60cm2/Ahであるとともに、アルカリ蓄電池の電池容量が4.5Ahのニッケル水素電池のみを示したが、アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極の極板容量Rに対する極板面積Sの比S/Rが60cm2/Ahを超えるとともに、アルカリ蓄電池の電池容量が4.5Ah以下の構成を有していても、出力安定性の低下が抑制される。また当該構成を有するアルカリ蓄電池は、従来のアルカリ蓄電池に比べてダウンサイジングされており、更なるコストダウンが可能となる。
【符号の説明】
【0026】
11…水素吸蔵合金電極、11a…芯体露出部、12…ニッケル電極、12a…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、15a…正極用リード、16…外装缶、16a…環状溝部、16b…開口端縁、17…封口体、17a…正極キャップ、17b…弁板、17c…スプリング、18…絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極であって、
一般式R11−v−wNdMgNia−b−cAlMl(ただし、式中R1は、Zr、Y及び希土類元素(Ndを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、MlはCo、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素であり、v≧0.7、0.09≦w≦0.13、3.40≦a≦3.60、0.15≦b≦0.20、0≦c≦0.10)で表される第一の水素吸蔵合金と、
一般式R21−x−yLaMgNid−e−fAlM2(ただし、式中R2は、Zr、Y及び希土類元素(Laを除く)から選択される少なくとも1種の元素であり、M2はCo、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素であり、x≧0.5、0.09≦y≦0.13、3.50≦d≦3.70、0.05≦e≦0.15、0≦f≦0.10)で表される第二の水素吸蔵合金を
混合して含むことを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極。
【請求項2】
前記第二の水素吸蔵合金の一般式中のR2は、Sm及び/又はPrを必須として含むことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極。
【請求項3】
前記第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金の質量の総和に占める第二の水素吸蔵合金の質量の割合が、30質量%以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極。
【請求項4】
前記第一の水素吸蔵合金及び第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.5の時の平衡水素圧P0.5が、0.030MPa≦P0.5≦0.055MPaであり、
第一の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pa0.2が、0.020MPa≦Pa0.2≦0.035MPaであり、
第二の水素吸蔵合金の40℃雰囲気下におけるH/M=0.2の時の平衡水素圧Pb0.2が、0.010MPa≦Pb0.2≦0.025MPaである
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極を用いたアルカリ蓄電池であって、
前記アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金電極の極板容量Rに対する極板面積Sの比S/Rが60cm2/Ah以上であるとともに、前記アルカリ蓄電池の電池容量が4.5Ah以下であることを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−156101(P2012−156101A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16489(P2011−16489)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】