説明

アルカリ蓄電池

【課題】希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造が安定であり、サイクル特性及び放電特性が改善されたアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】アルカリ蓄電池の負極(4)は、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を含む。希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金は、一般式:(AαLn1―α)1−βMgβNiγ−δ―εAlδTε(式中、Aは、Pr,Nd,Sm及びGdよりなる群から選ばれた少なくともSmを含む1種以上の元素を表し、Lnは、La及びCe等よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、TはV及びNb等よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.4≦α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す)で示される組成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池には、負極に希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いたものがある。この種の水素吸蔵合金は水素の吸蔵量が多いものの、吸蔵した水素を放出し難く、アルカリ電解液に対する耐食性が低いという問題がある。これらの問題のため、希土類-Mg-Ni系の水素吸蔵合金を負極に適用したアルカリ蓄電池にあっては、放電特性が不良であり、サイクル寿命が短いという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1は、次の一般式及び条件式で表される組成を有した希土類-Mg-Ni系の水素吸蔵合金を開示している。
(R1−a―bLaCe1−cMgNiZ−X−Y−d−eMnAlCoM
c=(-0.025/a)+f
ただし、これらの式中、Rは、Yを含む希土類元素及びCaよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素(但し、LaとCeを除く)で、Mは、Fe,Ga,Zn,Sn,Cu,Si,B,Ti,Zr,Nb,W,Mo,V,Cr,Ta,Li,PおよびSからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、原子比a,b,c,d,e,f,X,Y及びZは、0<a≦0.45,0≦b≦0.2,0.1≦c≦0.24,0≦X≦0.1,0.02≦Y≦0.2,0≦d≦0.5,0≦e≦0.1,3.2≦Z≦3.8,0.2≦f≦0.29としてそれぞれ規定される。
【0004】
この水素吸蔵合金では、一般式中、c=(-0.025/a)+fの関係が満たされることで、水素が放出され易くなり、アルカリ蓄電池の放電特性が改善されるものと考えられている。また、この関係により、CeNi構造、CeNi構造及びこれらの類似構造以外の不所望の結晶相の析出が抑制されて水素吸蔵量の低下が防止され、この結果として、アルカリ蓄電池のサイクル寿命特性が改善されるものと考えられている。
【0005】
一方、この水素吸蔵合金では、一般式中、Alの割合を示すYが0.02以上に設定されることにより、その酸化が抑制されるが、不所望の結晶相の析出を抑制すべく、Yは0.2以下に設定される。
【特許文献1】特開2002-164045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1は、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成を条件式の関係が満たされる範囲に限定することにより、アルカリ蓄電池のサイクル寿命及び放電特性を向上させることを開示している。しかしながら、特許文献1が開示する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いても、アルカリ蓄電池の特性が十分に改善されていない。
本発明は、上述した事情に基づいてなされたものであって、その目的とするところは、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造が安定であり、サイクル特性及び放電特性が改善されたアルカリ蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するため、本発明者らは種々の検討を重ね、本発明に想到した。本発明によれば、正極、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を含む負極、セパレータ及び電解液を備えるアルカリ蓄電池において、
前記希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金は、一般式:
(AαLn1―α)1−βMgβNiγ−δ―εAlδTε
(式中、Aは、Pr,Nd,Sm及びGdよりなる群から選ばれた少なくともSmを含む1種以上の元素を表し、Lnは、La,Ce,Pm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、TはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.4≦α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す)で示される組成を有することを特徴とするアルカリ蓄電池が提供される(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1のアルカリ蓄電池にあっては、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の母相に多量のAlが固溶する。これは希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が、Smを必須元素として含み、且つ、Aで表される元素の含有量の割合を示す添字αが0.40以上であるためである。多量のAlが母相に固溶することによって、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造が安定になり、耐腐食性及び耐酸化性が向上する。この結果として、アルカリ蓄電池のサイクル特性が向上する。
【0009】
また、添字αが0.40以上であることによって、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の水素平衡圧が上昇する。これによりアルカリ蓄電池の作動電圧が上昇し、放電特性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態のアルカリ蓄電池として、ニッケル水素蓄電池を示す。
このニッケル水素蓄電池は、有底円筒形状の導電性を有する外装缶1を備え、外装缶1の中に電極群2が収容されている。電極群2は、正極3及び負極4を、セパレータ5を介して渦巻状に巻回してなる積層体であり、電極群2の最外周には、その渦巻き方向でみて負極4の外端側の部位が配置され、負極4が外装缶1の内周壁と電気的に接続されている。また、外装缶1の中には、図示しないアルカリ電解液が収容されている。
【0011】
なお、アルカリ電解液としては、例えば水酸化カリウム水溶液と、これに水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などを混合したものが使用される。
外装缶1の開口端には、中央にガス抜き孔6を有する円形の封ロ板7が配置されている。具体的には、封ロ板7の外周縁と外装缶1の開口端縁との間にはリング状の絶縁性ガスケット8が配置されている。そして、外装缶1の開口端縁を径方向内側に縮径するかしめ加工を行うことにより、外装缶1の開口端にガスケット8を介して封ロ板7が気密に固定されている。
【0012】
電極群2と封口板7との間には正極リード9が配置されている。正極リード9の一端は、電極群2中の正極3に接続され、正極リード9の他端は封ロ板7の内面に接続されている。封口板7の外面上には、ガス抜き孔6を閉塞するようにゴム製の弁体10が配置され、更に、弁体10を囲むようにフランジ付きの円筒形状の正極端子11が取り付けられている。
また、外装缶1の開口端縁上には環状の押さえ板12が配置され、正極端子11の円筒部は押さえ板12の中央孔を貫通して突出している。符号13は、外装チューブに付されており、外装チューブ13は押さえ板12の外周縁、外装缶1の外周面及び底壁外周縁を被覆している。
【0013】
正極3は、導電性の正極基板と、正極基板に保持された正極合剤とから構成されている。正極基板としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状、繊維状、フエルト状の金属多孔体を用いることができる。
正極合剤は、正極活物質としての水酸化ニッケルを主成分とする粉末(水酸化ニッケル粉末)、導電剤及び結着剤を含むが、水酸化ニッケル粉末としては、ニッケルの平均価数が2価よりも大きく且つ各粒子の表面の少なくとも一部若しくは全部がコバルト化合物で被覆されている粉末を用いるのが好ましい。また、水酸化ニッケル粉末は、コバルト及び亜鉛が固溶していてもよい。
【0014】
導電剤としては、例えば、コバルト酸化物、コバルト水酸化物、金属コバルトなどの粉末を用いることができる。また結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFEディスパージョン、HPCディスパージョンなどを用いることができる。
上記した正極3は、例えば、水酸化ニッケル粉末、導電剤、結着剤、及び水を混練して正極用スラリを調製し、この正極用スラリが塗着・充填された正極基板を、正極用スラリの乾燥を経てから圧延・裁断して作製することができる。
【0015】
負極4は、導電性の負極基板と負極基板に保持された負極合剤とから構成される。負極基板としては例えば、ニッケルめっきされたパンチングメタルを用いることができる。
負極合剤は、図1の円内に概略的に示したように、複数の水素吸蔵合金粒子14、結着剤16、及び必要に応じて導電剤から構成される。結着剤16としては、正極合剤と同じ結着剤の外に、更に例えばポリアクリル酸ナトリウムなどを併用してもよい。また、導電剤としては、例えばカーボン粉末などを用いることができる。なお図1の円内には、水素吸蔵合金粒子14及び結着剤16のみを概略的に示し、負極基板と導電剤を省略した。
【0016】
水素吸蔵合金粒子14は、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金(希土類-Mg-Ni系合金)からなり、結晶構造がCaCu(AB)型ではなく、CeNi型若しくはCeNi型に類似した結晶構造を有する。CeNi型は、AB型とAB型とをあわせたような超格子構造である。
AB3.5型(CeNi型)に類似する結晶構造の希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金としては、AB3.8型(CeCo19型)、AB3.8型(PrCo19型)又はAB3.0型(PuNi型)のものを用いることができる。
【0017】
水素吸蔵合金粒子14を構成する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は、一般式(I):
(AαLn1―α)1−βMgβNiγ−δ―εAlδTε
で示される。
ただし、式(I)中、Aは、Pr,Nd,Sm及びGdよりなる群から選ばれた少なくともSmを含む1種以上の元素を表し、Lnは、La,Ce,Pm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、TはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.4≦α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す。
【0018】
負極4は、水素吸蔵合金粒子14、結着剤16及び必要に応じて導電剤を混練して負極用スラリを調製し、調製した負極用スラリを塗着した負極基板を、負極用スラリの乾燥を経てから圧延・裁断して作製することができる
水素吸蔵合金粒子14は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるよう金属原材料を秤量して混合し、この混合物を例えば高周波溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の温度の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施し、インゴットの金属組織をCeNi型若しくはこれに類似した結晶構造にする。この後、インゴットを粉砕し、篩分けにより所望粒径に分級して、水素吸蔵合金粒子14が得られる。
【0019】
上述したニッケル水素蓄電池にあっては、水素吸蔵合金粒子14を構成する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の母相に多量のAlが固溶する。これは希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が、Smを必須元素として含み、且つ、Aで表される元素の含有量の割合を示す添字αが0.40以上であるためである。多量のAlが母相に固溶することによって、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造が安定になり、耐腐食性及び耐酸化性が向上する。この結果として、ニッケル水素蓄電池のサイクル特性が向上する。
【0020】
また、添字αが0.40以上であることによって、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の水素平衡圧が上昇する。これによりニッケル水素蓄電池の作動電圧が上昇して、放電特性が向上する。
なお、例えばLnとしてのLaを多量に含み、添字αが0.40未満の場合、水素平衡圧が低下するとともに、充放電サイクルの進行に伴い希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造が変化し、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が吸蔵又は放出する水素量、即ち電気化学容量が低下する。これにより、正極の容量に対する負極の容量の比(容量比)が減少し、ニッケル水素蓄電池の内圧が上昇し易くなり、サイクル特性が低下する。
【0021】
また、添字αが0.40未満の場合、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の母相に多量のAlを固溶させることができず、Alを主体とする偏析層が生じ、結果的にサイクル特性の低下や放電特性の低下を招く。
なお、上述したニッケル水素蓄電池において、一般式(I)中、添字βが0.15以下に設定されることにより、Mgを主成分とする不所望の相の析出が防止され、この点からも、電池のサイクル特性が向上する。すなわち、添字βが0.15以下であることにより、充放電サイクルに伴う水素吸蔵合金粉末の微粒子化が抑制され、もって、サイクル特性が向上する。一方、添字βが0.05以上に設定されることにより、水素吸蔵合金は多量の水素を吸蔵可能である。
【0022】
そして、一般式(I)において、添字γが小さくなりすぎると、水素吸蔵合金内における水素の吸蔵安定性が高くなるため、水素放出能が劣化し、また添字γが大きくなりすぎると、今度は、水素吸蔵合金における水素の吸蔵サイトが減少して、水素吸蔵能の劣化が起こりはじめる。それ故、添字γは、3.0≦γ≦4.2を満たすように設定され、好ましくは、3.2≦γ≦3.8を満たすように設定される。
【0023】
また、一般式(I)において、AlによるNiの置換量を示す添字δは、0.15≦δ≦0.30を満たすように設定されるのは、以下の理由による。添字δが0.15未満であると、上述したサイクル特性及び放電特性の向上効果が十分に得られなくなる一方、添字δが0.30を超えると、Alを主体とする析出物が生じて希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の耐腐食性及び耐酸化性が低下し、ニッケル水素蓄電池のサイクル特性が低下するからである。
【0024】
また更に、一般式(I)において、添字εは置換元素TによるNiの置換元素Tによる置換量を示すが、添字εが大きくなりすぎると、水素吸蔵合金はその結晶構造が変化して水素の吸蔵・放出能を喪失しはじめる。また合金の微粉化が進行することにより、耐食性が低下する。それ故、添字εは、0≦ε≦0.20を満たすように設定される。
【実施例】
【0025】
1.負極の作製
表1に示した実施例1〜7及び比較例1〜6の各組成になるように金属原料を秤量して混合し、混合物を高周波溶解炉で溶解して複数のインゴットを得た。これらのインゴットを、温度1000℃のアルゴン雰囲気下にて10時間加熱し、各インゴットにおける結晶構造をCeNi型構造若しくはその類似構造にした。この後、各インゴットを不活性雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、表1の組成を有する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粒子の粉末を得た。なお、得られた粉末は、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した重量積分50%にあたる平均粒径が50μmであった。
【0026】
得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粒子の各粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.5質量部、カルボキシメチルセルロース0.12質量部、PTFEディスパージョン(分散媒:水,比重1.5,固形分60質量%)1.0質量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0質量部及び水30質量部を加えて混練し、負極用スラリを調製した。そして、この負極用スラリが塗着されたニッケル製のパンチングシートを、乾燥を経てから圧延・裁断し、AAサイズ用の負極を作製した。
【0027】
2.正極の作製
各粒子の全部若しくは一部がコバルト化合物で被覆された水酸化ニッケル粉末を用意し、この水酸化ニッケル粉末100質量部に対し、40質量%のHPCディスパージョンを混合して正極用スラリを調製し、この正極用スラリが塗着・充填されたシート状のニッケル多孔体を、乾燥を経てから、圧延・裁断して正極を作製した。
【0028】
3.ニッケル水素蓄電池の組立て
得られた負極と正極とを、ポリプロピレン繊維製不織布からなり、厚さが0.1mmで目付量が40g/mのセパレータを介して渦巻状に巻回し、電極群を作製した。得られた電極群を外装缶内に収納して所定の取付工程を行った後、外装缶内に、7Nの水酸化カリウム水溶液と1Nの水酸化リチウム水溶液とからなるアルカリ電解液を注液した。そして、外装缶の開口端を蓋板等を用いて封口し、定格容量が2500mAhでAAサイズの密閉円筒形ニッケル水素蓄電池を組立てた。
そして、組立てた各電池に、温度25℃の環境において、0.1Itの充電電流で15時間充電した後、0.2Itの放電電流で終止電圧1.0Vまで放電させる初期活性化処理を施した。
【0029】
4.電池の評価
初期活性化処理を施した実施例1〜7及び比較例1〜6の各ニッケル水素蓄電池について以下の試験を行った。ただし、比較例3の電池については、初期活性化処理時にアルカリ電解液が漏出したため、サイクル特性及び放電特性の測定ができなかった。
(1)サイクル特性
各電池について、温度25℃の環境において、1.0Itの充電電流でのdV制御による充電、60分間の休止、及び、1.0Itの放電電流での1.0Vの終止電圧までの放電からなる充放電サイクルを300サイクル繰り返した。この際、1サイクル目及び300サイクル目での放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量(P)に対する300サイクル目の放電容量(Q)の百分率(Q/P×100)を求めた。この結果を表1に示す。
【0030】
(2)放電特性
各電池について、温度25℃の環境において、1.0Itの充電電流でdV制御により充電してから、60分間の休止時間をとった後、1.0Itの放電電流で0.5Vの終止電圧まで放電させた。また、各電池について同様に充電及び休止した後、3.0Itの放電電流で1.0Vの終止電圧まで放電させた。これらの放電時放電容量を測定し、1.0Itの放電電流での放電容量(R)に対する3.0Itの放電電流での放電容量(S)の百分率(S/Rx100)を求めた。この結果を放電特性として表1に示すが、この値が大きいほど放電特性が優れている。
【0031】
(3)結晶構造
初期活性化直後のニッケル水素蓄電池、及び、上記サイクル特性試験にて300サイクル充放電後のニッケル水素蓄電池より水素吸蔵合金粒子を取り出して、XRD(X線回折)測定を行った。測定条件は以下の通りである。
<測定条件>
装置:平行ビームX線回折装置(Rigaku製,Rint2200システム),X線源:CuKα線,管電圧:50kV,管電流:300mA,スキャンスピード:1°/min,試料の回転速度60rpm
取り出した水素吸蔵合金粒子毎に粉末X線回折パターンを測定し、サイクル評価試験による変化が大きかった2θが33°付近の回折点についてθ-2θ測定を行った。当該回折点の測定の結果を、初期活性化直後のニッケル水素蓄電池から取り出した水素吸蔵合金粒子の回折点の半値幅に対する、300サイクル充放電後のニッケル水素蓄電池より取り出した水素吸蔵合金粒子の回折点の半値幅の比(300サイクル後/初期活性化直後)として表1に示す。
【0032】
【表1】

(4)評価結果
表1から次のことが明らかである。
(i)一般式(I)で示される組成を有する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いた実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例2に比べて、サイクル特性及び放電特性ともに優れている。また、実施例1及び実施例2では、比較例1及び比較例2に比べて、表1に示した半値幅の比が小さく、サイクル特性試験の前後での希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造の変化も抑制されている。
【0033】
(ii)同様に、一般式(I)中のAで表される元素としてSm、Pr及びNdを含む希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いた実施例3も、サイクル特性及び放電特性ともに優れている。また、実施例3でも、表1に示した半値幅の比が小さく、サイクル特性試験の前後での希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造の変化が抑制されている。
(iii)同様に、実施例1に比べてLaの含有量が多い実施例4及び5も、サイクル特性及び放電特性ともに優れている。また、実施例4及び5も、表1に示した半値幅の比が小さく、サイクル特性試験の前後で希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造の変化が抑制されている。
【0034】
(iv)同様に、実施例1に比べてMgの添字βが小さい実施例6も、サイクル特性及び放電特性ともに優れている。また、実施例6も、表1に示した半値幅の比が小さく、サイクル特性試験の前後での希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造の変化が抑制されている。
(v)実施例1に比べてAlの添字δが大きい実施例7も、サイクル特性及び放電特性ともに優れている。また、実施例7では、表1に示した半値幅の比が特に小さく、サイクル特性試験の前後での希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造の変化が特に抑制されている。
【0035】
(vi)比較例1及び比較例2において、実施例1〜7に比べてサイクル特性が低いのは、半値幅の比が大きいことに関連している。半値幅の比が大きいということは、充放電サイクルの進行に伴う希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の構造変化(結晶性の低下)が大きいことを示しており、サイクル特性の低下は、結晶性の低下により希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の水素吸蔵能力が低下していることに起因している。
【0036】
なお、比較例1及び比較例2における、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の水素吸蔵能力の低下は、サイクル特性試験後にこれらのニッケル水素蓄電池から希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の粒子を取り出し、当該粒子についてPCT(圧力組成等温線)測定を行うことにより確認されている。
また、比較例1及び比較例2において、実施例1〜7に比べて放電特性が低いのは、比較例1及び2で用いた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の水素平衡圧が低いことに起因している。
【0037】
かくして、実施例1〜7と比較例1,2との比較より、一般式(I)中の添字αは0.4以上に設定される。
(vii)Mgの添字βが0.03と小さい比較例3は、電池として成り立たなくなっている。これは、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の水素吸蔵能力が不足しているためと考えられる。
一方、Mgの添字βが0.25である比較例4では、放電特性は良好であるものの、サイクル特性が著しく低下している。これは比較例4では希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の微粉化が進行し、微粉化により現れた新鮮な面がアルカリ電解液との接触により腐食し、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が劣化したためと考えられる。
【0038】
これよりMgの添字βは、0.05<β<0.25で示される範囲に設定され、好ましくは、0.07<β<0.14で示される範囲に設定される。
(viii)Alの添字δが0.35の比較例5では、サイクル特性が低下している。これは、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の母相に固溶しきれないAlが析出することにより耐食性が低下するとともに、微粉化が進行したためと考えられる。
【0039】
一方、Alの添字δが0.05の比較例6では、サイクル特性が顕著に低下している。これは、Alの含有量が少ない場合、充放電サイクルの進行に伴い、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造の安定性が損なわれ、水素吸蔵能力が低下したためと考えられる。これよりAlの添字δは0.15≦δ≦0.30で示される範囲に設定される。
本発明は上記した一実施形態及び実施例に限定されることはなく、種々変形が可能である。例えば、一実施形態のアルカリ蓄電池は円筒形であったけれども、角形であってもよいのは勿論である。また、電池の形状及び寸法、安全弁の仕組み、及び、電極と電極端子との間の接続方法等も上述の記載に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】一実施形態のアルカリ蓄電池の1例を示す部分切欠斜視図であり、円内に負極の一部を拡大して概略的に示した。
【符号の説明】
【0041】
1 外装缶
2 電極群
3 正極
4 負極板
5 セパレータ
14 水素吸蔵合金粒子
16 結着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を含む負極、セパレータ及び電解液を備えるアルカリ蓄電池において、
前記希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金は、一般式:
(AαLn1―α)1−βMgβNiγ−δ―εAlδTε
(式中、Aは、Pr,Nd,Sm及びGdよりなる群から選ばれた少なくともSmを含む1種以上の元素を表し、Lnは、La,Ce,Pm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ca,Sr,Sc,Y,Ti,Zr及びHfよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、TはV,Nb,Ta,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Zn,Ga,Sn,In,Cu,Si,P及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、添字α,β,γ,δ,εは、それぞれ、0.4≦α,0.05<β<0.15,3.0≦γ≦4.2,0.15≦δ≦0.30,0≦ε≦0.20を満たす数を表す)で示される組成を有する
ことを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−138220(P2009−138220A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314594(P2007−314594)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】