説明

アルカリ蓄電池

【課題】本発明は、端子と極板との間のケース空間にPTCサーミスタを配置する構造を用い、PTCサーミスタの膨張変化を妨げずに、ケース空間内のガス雰囲気(酸素成分、アルカリ成分を含む)によるPTCサーミスタの劣化を防げるアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも一方の端子5と同端子5と対応する極板6とを導通する導電部材5aのうちケース空間2aに露出する部分にPTCサーミスタ20を介在し、PTCサーミスタを、ケース空間内のガス雰囲気に含まれる酸素成分とアルカリ成分から保護する柔軟性の有る保護層25で被膜した。これで、PTCサーミスタ自身やPTCサーミスタと導電部材とを接着している接着部は、周囲の柔軟性の有る保護層により、ガス雰囲気に含まれる酸素成分、アルカリ成分から防御される。しかも、PTCサーミスタの膨張変化は妨げられずにすむ。そのうえ、PTC物性や作動に影響を与えることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース外面の端子とケース内部の極板とを導通する導通部材にPTCサーミスタが介在されたアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電化製品や玩具等の市場において、アルカリ蓄電池で代表される単三型電池や単三型互換形状等の小型電池が極めて広く使用されている。このような小型電池としては、例えばマンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、ニッケル乾電池、ニッケル水素電池等の円筒型蓄電池が有る。
こうした円筒型蓄電池は、ケースの外面部に正極端子、負極端子を備え、ケースの内部に、電極群をなす各部材、すなわち正極板、負極板、セパレータを収容した構造が用いられる。
【0003】
ところで、このようなアルカリ電池では、電池が外部短絡するようなことがあると、電池内部において過剰電流が流れ、発熱することが知られている。
そのため、組電池の多くは電池パックの導電経路に、PTC(positive temperature coefficient)サーミスタを介在させて安全性を確保している。これは、電池の内部温度が上昇すると、電気抵抗が増加するというPTCサーミスタの特性を用いて、電池内の電流の流れを抑制することによって急激な温度上昇を防ぎ、安全性を確保する目的のために用いられている。しかし、電池単体ではこのような構造を備えているものは少ない。
【0004】
ところで、PTCサーミスタは、例えば導電性粒子を分散させた絶縁性ポリマーを用いて、外部短絡などで大電流が流れる際に生ずる発熱により、絶縁性ポリマー全体が膨張し、同膨張により導電性粒子の接触が減少して急激に抵抗値が増大するという特性を利用して、電流の流れを抑制している。むろん、絶縁性ポリマーは、発熱が解消され冷めると、収縮し、再び抵抗が低い状態に戻る。
【0005】
そこで、サーミスタ特性が発揮されるよう、ケース外部の端子とケース内部の極板とをケース内部で導通させる導通部材、具体的には特許文献1に示されるように正極端子と正極板とを導通させる正極タブのうちのケース空間に露出する部分にPTCサーミスタを介在させることが検討されている。
【0006】
ところで、PTCサーミスタが配置される正極端子と正極板間のケース空間は、充放電時の化学反応で生ずる酸素成分(高圧酸素雰囲気)と、電池内部の電解液がもたらすアルカリ成分(アルカリ雰囲気)との両方が混合したガス雰囲気で満たされる。
【0007】
ところが、PTCサーミスタは、酸素雰囲気とアルカリ雰囲気に晒されると、酸素成分、アルカリ成分の影響を受けて、電流を抑制する機能が発揮できなくなる。具体的には雰囲気中の酸素成分は、PTCサーミスタの樹脂を侵食させ、アルカリ成分は、PTCサーミスタと正極タブとを接着している半田付け部(接着部)を侵食させ、PTCサーミスタを劣化、あるいは機能を損なってしまう。
【0008】
そこで、電池内部に組み込む形式のPTCサーミスタは、特許文献2のように円筒型蓄電池のケースの一部をなす封口モジュールの内部に挟み込んだり、特許文献3のように円筒型蓄電池の電極群の極板部に設けたりするなど、ケース空間以外の地点の部品内部に密閉状に組み込んで、劣化から保護する工夫が講じられた。またこのPTCサーミスタの保護を助けるために、封口モジュール全体や電極群のPTCサーミスタを合成樹脂部材でシールすることも行われた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−188066号公報
【特許文献2】特開平10−275612号公報
【特許文献3】特開2002−110137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献2,3に示されるような封口モジュールや電極群の極板部にPTCサーミスタを組み込む構造は、いずれも限られた領域に組み込むため、PTCサーミスタを他の硬質な部材に沿わせて組み込むことが余儀なくされる。つまり、PTCサーミスタの周囲は、硬質の封口モジュールの部品や、電極群の硬質な部材などで覆われる傾向にある。このため、PTCサーミスタは、これら部品や部材と干渉して、膨張変化が妨げられ、電流の流れを抑制する機能が十分に発揮できなくなるおそれがある。
【0011】
特に特許文献3のように電池の電極群にPTCサーミスタが配置される構造は、電池の充放電による発熱がPTC物性に影響を与える懸念がある。すなわち、電極部にPTCサーミスタが配置されることで、PTCサーミスタは逆に発熱体に近くなり、電池の充放電による温度影響を受ける。このため、PTCサーミスタは、通常の充放電で、Trip(抵抗上昇反応)温度に近くなる。こうなると、PTCサーミスタは、初期時の抵抗が使用中に緩やかに上昇する傾向を受け、Trip後の抵抗回復が悪化することが懸念される。
【0012】
しかも、電極部にPTCサーミスタを配置する構造だと、短絡時に正極タブが発熱しても、正極タブからPTCサーミスタが配置されている電極群内部までは距離があるために、PTCサーミスタの作動までには時間がかかり、正極タブがTrip温度になりPTCサーミスタがTripしたとしても、その前に経路上にあるセパレータが熱溶融し極板が接触したりする懸念もあり、PTCサーミスタで安全性を確保する機能が発揮できないおそれがある。
このため、PTCサーミスタの信頼性保持、およびPTCサーミスタによる電池の安全性を確保が難しい。
【0013】
そこで、本発明の目的は、PTCサーミスタの膨張変化がしやすい、さらにはPTC物性や作動に影響を与えない構造でPTCサーミスタの信頼性を確保するべく、端子と極板との間のケース空間にPTCサーミスタを配置する構造を用い、同PTCサーミスタの膨張変化を妨げずに、ケース空間内のガス雰囲気(酸素成分、アルカリ成分を含む)によるPTCサーミスタの劣化を防げるようにしたアルカリ蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するために請求項1の発明は、少なくとも一方の端子と対応する極板とを導通する導電部材のうちケース空間に露出する部分にPTCサーミスタを介在させ、同PTCサーミスタを、ケース空間内のガス雰囲気に含まれる酸素成分とアルカリ成分から保護する柔軟性の有る保護層で被膜したことにある。
同構成により、PTCサーミスタは、膨張がしやすく、PTC物性に影響を与えたり抵抗回復に影響を与えたりせずにすむよう、ケース空間内の導電部材に配置されたまま、保護層により、PTCサーミスタ自身やPTCサーミスタと導電部材とを接着している接着部などが、ガス雰囲気に含まれる酸素成分、アルカリ成分から防御される。しかも、柔軟性を有する保護層により、PTCサーミスタは、膨張変化が妨げられずにすむので、十分に性能が発揮される。
【0015】
請求項2の発明は、最もアルカリ蓄電池で利用されやすいよう、導電部材には、正極端子と正極板との間を導通する正極タブを用いることとした。
請求項3の発明は、さらに上記目的に加え、簡単な構造で十分にPTCサーミスタの保護が行えるよう、保護層は、PTCサーミスタの周囲を覆う、柔軟性を有する耐酸素保護層と、さらに耐酸素保護層の周りを覆う、柔軟性を有する耐アルカリ保護層とを有した複層構造を用いた。
【0016】
請求項4の発明は、さらに上記目的に加え、容易に柔軟性の有る耐酸素保護層、耐アルカリ保護層が得られるよう、耐酸素保護層は、PTCサーミスタの周りにエポキシ樹脂部材をコートすることによって形成し、耐アルカリ保護層は、エポキシ樹脂部材のコート層の周囲で、ポリプロプロピレン製の複数のテープを張り合わせて覆うことにより形成することとした。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、膨張変化がしやすくPTC物性や作動に影響を与えずにすむケース空間内にPTCサーミスタを配置する構造と、柔軟性の保護層で被膜させる構造との組み合わせにより、抵抗値の増大をもたらすPTCサーミスタの膨張変化を妨げず、さらにはPTCサーミスタに支障を与えずに、ガス雰囲気に含まれる酸素成分、アルカリ成分を要因としたPTCサーミスタの劣化を防ぐことができる。
それ故、PTCサーミスタを用いて、十分にアルカリ蓄電池における安全性を確保することができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、最も多く使用されるアルカリ蓄電池で、PTCサーミスタの劣化を防ぐ構造が利用できる。特にPTCサーミスタは、空いている正極端子と正極板との間のケース空間に配置されるので、使用されていないケース空間を利用する分、電池の高容量化、さらには高性能化が期待できる。
請求項3の発明によれば、柔軟性の有る耐酸素保護層、柔軟性の有る耐アルカリ保護層を用いるという簡単な複層構造で、十分にPTCサーミスタの保護を行うことができる。
請求項4の発明によれば、簡単な作業で、容易に耐酸素保護層、耐アルカリ保護層を形成することができ、容易にPTCサーミスタの劣化防止ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る円筒型蓄電池を説明するための図。
【図2】同円筒型蓄電池の正極タブに介在させたPTCサーミスタを示す断面図。
【図3】同PTCサーミスタの保護構造を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図1ないし図3に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1は本発明が適用されたアルカリ蓄電池、例えば部分的に切欠いた円筒型のニッケル水素電池の斜視図を示し、図2は同ニッケル水素電池の正極側の構造を拡大した断面図を示している。同図中1は同ニッケル水素電池の円筒型のケースである。
図1,2に示されるようにケース1は、導電性の円筒形の外装缶2と、外装缶2の開口部を塞ぐように設けた導電性を有する円盤形の封口モジュール4(各種部材4を組合わせたもの)と、外装缶2の開口縁と封口モジュール4の外周部間を絶縁する環状の絶縁部材3で形成される。ケース1は密閉化してある。
【0021】
ケース1を構成する外装缶2の内部には、電極群が収められている。図1,2に示されるように電極群は、例えば水酸化ニッケル粒子(正極活物質)が充填された帯形の正極板6、例えば水素吸蔵合金(負極活物質)が充填された帯形の負極板7との間に、アルカリ電解液を保持した絶縁性のセパレータ8を介在させて渦巻き状に巻回した積層板9から構成される。巻回した各部は、短絡しないよう絶縁部材9aで絶縁してある。そして、負極板7の側縁部、ここでは負極板7の下側の縁部に形成される集電端子7aは、プレート状の負極集電部材10を介して外装缶2と導通している。これで、外装缶2の底面部に負極端子12を形成している。
【0022】
また図1,2に示されるように正極板6の側縁部、ここでは正極板6の上側の縁部に形成される集電端子6aは、通孔13aを有するプレート状の正極集電部材13と導通している。正極集電部材13は、電極群の直上の地点に組み付けられる部品である。この正極集電部材13が、電池要素と封口モジュール4との間に形成されるケース空間2a内に配置された導電部材、ここでは正極タブ15を介して、封口モジュール4と接続されている。これで、封口モジュール4の外面中央に形成してある凸部4aを正極端子5としている。この正極端子5をなす凸部4内には、電池の内圧が発生するガスで所定の圧力以上に上昇したとき、当該ガスを逃がす安全弁16が組み込んである。図中16aは同安全弁16の弁体、16bは同じくばねを示している。この安全弁16は、ばね弁式でなく、ゴム弁式などそれ以外の弁構造でもよく、ガスを逃がせる安全弁構造であればよい。
【0023】
正極タブ15のうち、ケース空間2aに配置されるタブ部分には、図1,2に示されるように薄板状のPTCサーミスタ20が介在されている。具体的には正極タブ15は、例えば中央部分から分かれている。すなわち、正極タブ15は、正極集電部材13から延びる逆L形状のタブ部分15aと、封口モジュール4から延びるU形状のタブ部分15bとに分かれている。この分かれた各タブ部分15a,15bの離間対向している先端部間にPTCサーミスタ20が配置されている。そして、重なり合うPTCサーミスタ20の上・下面部(側部)と各タブ部分15a,15bの先端部とが、接着、例えば半田付けで接続され、正極タブ15中にPTCサーミスタ20を直列に介装している。特にPTCサーミスタ20の固定は、接着性を高めるために、図3(b)に示されるように各タブ部分15a,15bの先端部とPTCサーミスタ20の端子を形成する一対の金属板(図示しない)とを、ニッケル薄膜21を介して半田22で半田付けさせる固定構造が用いてある。
【0024】
PTCサーミスタは、例えば導電性粒子を分散させた絶縁性ポリマーを用いている。これで、外部短絡など大電流が流れる際に生ずる発熱により、絶縁性ポリマー全体が膨張し、同膨張により導電性粒子の接触が減少して急激に抵抗値が増大するという特性を利用して、電流の流れを抑制する。なお、絶縁性ポリマーは、発熱が解消され冷めると、収縮し、再び抵抗が低い状態に戻る。
【0025】
ケース空間2a内に配置されたPTCサーミスタ20は、直近に干渉をもたらすような硬質の部品や部材が無いため、膨張変化がしやすい環境となっている。さらに同PTCサーミスタ20は、PTC物性に影響を与えたり作動に影響を与えたりしにくい環境ともなっている。反面、PTCサーミスタ20は、ケース空間2aに満たされるガス雰囲気、詳しくは充放電時の化学反応で生ずる酸素成分(高圧酸素雰囲気)と、電池内部の電解液(図示しない)がもたらすアルカリ成分(アルカリ雰囲気)との両方が混合したガス雰囲気に晒されるため、劣化を招くおそれがある。
【0026】
そこで、PTCサーミスタ20には、同サーミスタ20の機能を損なったり影響を与えたりせずに、PTCサーミスタ20の劣化を防ぐ手段が講じてある。この手段には、図1,2に示されるようにPTCサーミスタ20の周囲を柔軟性の有る保護層25で被膜し、PTCサーミスタ20をガス雰囲気中の酸素成分とアルカリ成分から保護する構造が用いられている。このPTCサーミスタ20の詳しい保護構造が図2および図3(a),(b)に示されている。被膜構造をわかりやすくするため、同図では、保護層25の各部は、若干、大きくして記載してある。
【0027】
保護構造を説明すると、図2および図3(a)に示されるように保護層25は、PTCサーミスタ20の周囲を覆うように設けた、ガス雰囲気中の酸素成分に耐える耐酸素保護層27と、同耐酸素保護層27の周りを覆うように設けた、ガス雰囲気中のアルカリ成分に耐える耐アルカリ保護層29との複層構造で形成されている。さらに述べれば、耐酸素保護層27は、重なるタブ部分を含むPTCサーミスタ20の周りに、例えば柔軟性の有るエポキシ樹脂部材27a[図3(b)のみ図示]を塗布した構造が用いられる。つまり、耐酸素保護層27は、タブ部分を含んだPTCサーミスタ20の全体を覆ったエポキシ樹脂部材27aのコートで形成してある。むろん、柔軟性をもち酸素成分に耐える特性をもつ合成樹脂部材であれば、エポキシ樹脂部材27a以外の他の合成樹脂部材でも構わない。
【0028】
耐アルカリ保護層29は、例えば柔軟なポリプロピレン製の薄膜のテープ30、ここでは2枚のポリプロピレン製のテープ30[図3(b)に図示]を用い、エポキシ樹脂部材27aのコート層を上下から挟み込むように張り合わせて、エポキシ樹脂部材27aのコート層の周囲全体を覆う構造が用いられている。つまり、耐アルカリ保護層29は、ポリプロピレンのテープ層で形成してある。むろん、テープ30でなくポリプロピレンのコートでも、他の、柔軟性をもちアルカリ成分に耐える部材、例えばナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T,ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612などナイロン系部材や、ポリアミド系樹脂、耐アルカリ性ゴム、鉱物合成樹脂(アスファルト)などで形成しても構わない。
【0029】
このように構成されたニッケル水素電池(アルカリ蓄電池)は、例えば外部短絡(または過度の大電流充放電)が生じたとする。すると、PTCサーミスタ20は、その短絡時の大電流が流れる際に生ずる発熱により、絶縁性ポリマー全体が膨張し、導電性粒子の接触を減少させ、急激に抵抗値を増大させる。ここで、絶縁性ポリマーの膨張は、周囲に干渉する硬質の部材の無いケース空間2aで行われるから、速やかに、要求される抵抗値まで上昇する。これにより、電流の流れは抑制され、電池の発熱が防止される。なお、電流が正常に回復(または電池の放電が終了)すれば、PTCサーミスタ20の抵抗値は再び低い状態に戻る。
【0030】
このとき、ケース空間2a内は、充放電時の化学反応で生ずる酸素成分(高圧酸素雰囲気)と、電池内の電解液がもたらすアルカリ成分(アルカリ雰囲気)との両方が混合したガス雰囲気で満たされるため、PTCサーミスタ20自身(樹脂)やPTCサーミスタ20の接着部(半田付け部)が当該成分により侵食されることが懸念される。
【0031】
ここで、PTCサーミスタ20全体は、図2および図3(a),(b)に示されるように耐酸素保護層27で覆われているから、PTCサーミスタ自身(樹脂)の酸素成分による侵食は防御される。また耐酸素保護層27の周囲は、耐アルカリ保護層29で覆われているから、耐酸素保護層27はアルカリ成分による侵食から保護され、PTCサーミスタ20とタブ部分とを接着している半田付け部(接着部)の侵食を防御する。
【0032】
このことは、保護層25により、PTCサーミスタ20自身(樹脂)やPTCサーミスタ20の半田付け部(接着部)は、ガス雰囲気に含まれる酸素成分、アルカリ成分から保護(防御)される。しかも、保護層25は、柔軟性を有しているから、PTCサーミスタ20の膨張変化を妨げずにすむ。
それ故、PTCサーミスタ20は、膨張変化がしやすく、PTC物性に影響を与えたり抵抗回復に影響を与えたりせずにすむケース空間2aでの配置と、柔軟性の保護層25による被膜との組み合わせより、ケース空間2aを満たすガス雰囲気に含まれる酸素成分、アルカリ成分に影響されずに、さらにはPTC物性や作動に支障を与えずに、大電流を抑制する性能を十分に発揮させることができる。
【0033】
したがって、PTCサーミスタ20の劣化は防止され、PTCサーミスタ20でニッケル水素電池(アルカリ蓄電池)の安全性を十分に確保することができる。こうした保護層25で覆ったPTCサーミスタ20は、ケース空間2aに正極タブ15を配置した構造が多いアルカリ蓄電池(特にニッケル水素電池)には好適である。しかも、PTCサーミスタ20は、空いている正極端子5と正極板6との間のケース空間2aに配置されるので、使用されていないケース空間2aを利用する分、電池の高容量化、さらには高性能化に貢献できる。
【0034】
そのうえ、保護層25には、PTCサーミスタ20を覆う耐酸素保護層27と、耐酸素保護層27の周りを覆う耐アルカリ保護層29とで形成される複層構造を用いたので、簡単な構造ですむ。特に耐酸素保護層27は、エポキシ樹脂部材27aのコートで形成し、耐アルカリ保護層29は、ポリプロプロピレン製の複数のテープ30を張り合わせで形成すると、簡単な作業で各層が形成でき、容易にPTCサーミスタ20の劣化を防ぐことができる。
【0035】
なお、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば一実施形態では、二層構造の保護層を用いたが、これに限らず、多層の保護層や、各種防御成分が添加された一層の保護層を用いてもよい。また一実施形態では、正極タブにPTCサーミスタを介在させた例を挙げたが、これに限らず、負極タブを備えるアルカリ蓄電池の場合、負極タブにPTCサーミスタ、保護層の構造を適用しても構わない。また一実施形態では、正極集電部材を有する電池構造を挙げたが、同正極集電部材を用いず、正極板に直接、正極タブが着けられた電池構造でも構わない。また本発明は、ニッケル水素電池に適用したが、これに限らず、他のアルカリ蓄電池に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 ケース
2a ケース空間
5 正極端子
6 正極板
7 負極板
8 セパレータ
12 負極端子
15 正極タブ(導電部材)
20 PTCサーミスタ
25 保護層
27 耐酸素保護層
29 耐アルカリ保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面部に正極端子、負極端子を備えたケースを有し、同ケースの内部に正極板、負極板およびセパレータが収容され、少なくとも一方の端子と当該端子に対応する極板との間が前記ケース内に配置された導電部材で導通されるアルカリ蓄電池であって、
前記導電部材は、ケース空間に露出する部分にPTCサーミスタが介在され、
前記PTCサーミスタは、前記ケース空間を満たすガス雰囲気に含まれる酸素成分とアルカリ成分から保護する柔軟性をもつ保護層で被膜される
ことを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記導電部材は、前記正極端子と前記正極板との間を導通する正極タブであることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記保護層は、前記PTCサーミスタの周囲を覆う、柔軟性を有する耐酸素保護層と、当該耐酸素保護層の周りを覆う、柔軟性を有する耐アルカリ保護層とを有した複層構造から構成されることを特徴とする請求項1また請求項2に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
前記耐酸素保護層は、前記PTCサーミスタの周りにエポキシ樹脂部材をコートすることによって形成され、
前記耐アルカリ保護層は、前記エポキシ樹脂部材のコート層の周囲で、ポリプロプロピレン製の複数のテープを張り合わせて覆うことによって形成される
ことを特徴とする請求項3に記載のアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−54098(P2012−54098A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195821(P2010−195821)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(510206213)FDKトワイセル株式会社 (36)
【Fターム(参考)】