説明

アルカリ金属塩の風化防止方法

【課題】 セメントペースト、モルタル又はコンクリート等に配合使用する潮解性の高いアルカリ金属塩を、手間のかかる処理や特別の設備・容器等を使用しなくとも、潮解等の風化を起こさせずに、その凝結調整能力を維持したまま長期間安定に保存させるための風化防止方法を提供する。
【解決手段】 セメントペースト、モルタル又はコンクリートに使用するアルカリ金属塩の風化防止方法であって、該セメントペースト、モルタル又はコンクリートに使用される非潮解質無機粉末の何れか1種又は2種以上を平均粒径20μm未満であって20μmを超える粒子含有率を25質量%未満にし、この非潮解質無機粉末中にアルカリ金属塩を分散させて充填体にせしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントペースト、モルタル又はコンクリートに例えば凝結調整剤などとして使用されるアルカリ金属塩の風化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントペースト、モルタル又はコンクリート等のセメントを含有する水硬性組成物では、水和反応による凝結を調整すめために、アルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩(以上、凝結促進作用)、オキシカルボン酸塩(凝結遅延作用)等のアルカリ金属塩を配合使用することが知られている。(例えば、特許文献1〜2参照。)一方で、アルカリ金属塩は非常に吸湿性が高く、大気中の水分等を吸収すると潮解が起こる。潮解が進んだアルカリ金属塩は概して高アルカリ質の高粘性流体となるので取扱に特段の配慮が必要となる他、凝結調整作用が著しく低下し、セメントペースト、モルタル又はコンクリート等で所望の強度発現性が得られなくなる。このため、アルカリ金属塩の長期間の保存は容易でなく、密封性の高い容器に入れて脱気するか又は不活性ガスを充填する方法か、外部水分との接触を遮断することができる樹脂等でアルカリ金属塩の粒子表面を被覆する(例えば、特許文献3参照。)といった何れも非常に手間のかかる方法で対応されてきた。
【特許文献1】特開平1−289890号公報
【特許文献2】特開平9−169557号公報
【特許文献3】特開平11−29773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、セメントペースト、モルタル又はコンクリート等に配合使用する潮解性の高いアルカリ金属塩を、手間のかかる処理や特別の設備・容器等を使用しなくとも、潮解等の風化を起こさせずに、その凝結調整能力を維持したまま長期間安定に保存させるための風化防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、アルカリ金属塩と共にセメントペースト、モルタル又はコンクリート等に配合使用される材料のうち、非潮解質の無機粉末の中から何れか1種又は2種以上を選定し、この選定した無機粉末の粒度を微粒にし、これにアルカリ金属塩を分散させたものを充填体にすることにより、当該無機粉末の保存に準じた通常の保存方法で、例えば100日以上の長期間保存しても、アルカリ金属塩の潮解は著しく進み難く、またこの長期保存物を用いたセメントペースト、モルタル又はコンクリートは、潮解等の風化が起こっていないアルカリ金属塩を配合使用した時と概ね遜色のない凝結性や強度発現性を呈したことから本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は次の(1)〜(3)で表されるアルカリ金属塩の風化防止方法である。(1)セメントペースト、モルタル又はコンクリートに使用するアルカリ金属塩の風化防止方法であって、該セメントペースト、モルタル又はコンクリートに使用される非潮解質無機粉末の何れか1種又は2種以上を平均粒径20μm未満であって20μmを超える粒子含有率を25質量%未満にし、この非潮解質無機粉末中にアルカリ金属塩を分散させて充填体にせしめることを特徴とするアルカリ金属塩の風化防止方法。(2)アルカリ金属塩を分散させる非潮解質無機粉末が、分散させるアルカリ金属塩100体積部に対し、500体積部以上の体積であることを特徴とする前記(1)のアルカリ金属塩の風化防止方法。(3)充填体の空隙率が65体積%未満であることを特徴とする前記(1)又は(2)のアルカリ金属塩の風化防止方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い潮解性の故、変質し易いアルカリ金属塩を、長期間保存しても安定した凝結調整能力を発現させることができ、しかも本発明の風化防止方法は特別な容器や手間のかかる処理を必要としないため容易に遂行でき、従来法に比べ製造コストの上昇も抑えることが出来る。また、本法は特に、プレミックス(予混合)タイプのセメントペースト、モルタル又はコンクリート粉体組成物を製造する上では最適な手法として活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のアルカリ金属塩の風化防止方法で対象とするアルカリ金属塩は、何れもセメントペースト、モルタル又はコンクリートで使用できものであって、多少とも潮解性を有するものであれば何れのものでも良い。具体的には、リチウム、カリウム、ナトリウムの、炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩の無機化合物の他、リチウム、カリウム、ナトリウムの、蟻酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、ヘプトン酸塩、グルコン酸塩、リン酸塩、硼酸塩等の有機化合物を例示することができる。
【0008】
本発明では、前記のアルカリ金属塩を配合使用するセメントペースト、モルタル又はコンクリートで使用される他の成分のうち、非潮解質無機粉末にアルカリ金属塩を分散させるが、この無機粉末は潮解性が実質無い限り成分的には特に限定されず、その中の任意の1種又は2種以上を選定することができる。具体的には、例えばセメントを挙げることができ、セメントは何れの種類のものでも良い。セメント以外にも、例えば石英、コランダム(α−アルミナ)、カルサイト、石炭灰、スラグ、シリカフューム等の何れか1種を含むものでは、これをアルカリ金属塩を分散可能な非潮解質無機粉末として例示できる。好ましくは、水和反応活性ができるだけ低い無機粉末が良い。また、このような非潮解質無機粉末は、平均粒径20μm未満であって20μmを超える粒子含有率を25質量%未満(0質量%を含む。)の粒子を使用する。平均粒径20μmを超える粒子の使用では、アルカリ金属塩を分散させた混合粒子を充填しても、粒子間隙が大きくなり過ぎる可能性があり、該間隙が表面と連通することで外部の湿分が容易に混合粒子充填体の内部まで達し、アルカリ金属塩粒子の潮解化の進行を抑制し難くなるので好ましくない。また、20μmを超える粒子含有率が25質量%を超える非潮解質無機粉末でも、粒子間隙が大きくなり過ぎて前記と同様の結果をもたらすことがあるので好ましくない。
【0009】
本発明では、アルカリ金属塩を前記の非潮解質無機粉末中に分散させ、この分散させてなる混合粒子を充填体にして保存に供する。分散方法は何等限定されず、例えば通常の乾式混合方法で行うことができる。また、アルカリ金属塩を分散させるために必要な非潮解質無機粉末の量は、アルカリ金属塩100体積部に対し、非潮解質無機粉末500体積部以上とする。非潮解質無機粉末500体積部未満では充填体外表面に露呈するアルカリ金属塩の割合が多くなり、風化抑制を行い難くなることがあるので適当ではない。また、非潮解質無機粉末の上限量は制限されない。
【0010】
また、充填体は、所定の容器や袋に混合粒子を充填させた状態のものでも混合粒子を所望の形状に成形した成形物の何れでも良い。ここで容器や袋は非透水性材質からなるものが望ましいが、これに限定されず、例えば市販のセメントの梱包に使用されている紙製袋でも可能である。混合粒子から充填体を得る方法は、特に限定されず、例えば金型に混合粒子を投入し、これを加圧して成形物にする方法、保存用の容器や袋に振動をかけながら混合粒子を投入充填する方法、混合粒子の粒度を更に調整し、細密構造を得やすいような粒度分布、例えば2μm未満、2〜5μm、5〜10μm、10〜20μm、20〜30μm、30μm超に区分の上、これらの粒子群が概ね均等質量となるような分布に調整し、これを容器や袋に投入する方法等を挙げることができる。充填体は、空隙率が65体積%未満のものとするのが好ましい。65体積%を超えると、粒子間隙が大きくなり充填体内部まで外気が入り易く、風化抑制が困難となることがあるので適当ではない。
【0011】
このようにして得た充填体は、成形物なら例えばそのまま又はビニール等に入れて保存でき、また容器や袋に入れて充填体としたものは脱気等の処理を行わなくてもそのまま保存できる。保存場所は特に制限されず、例えば、恒温環境に保たれた屋内でも外気が通気する倉庫等でも良い。
【実施例】
【0012】
以下に記すアルカリ金属塩(A1〜A4)の何れか1種2質量部、以下に記すカルサイト、コランダム、アルミナセメント又は早強ポルトランドセメントの無機粉末(B1〜B6)の何れか1種48質量部、普通ポルトランドセメント400質量部、細骨材(JIS R5201「セメントの強さ試験用標準砂」で規定された砂)1350質量部及び水225質量部からなるモルタル組成物を製造する前作業として、表1に表す配合となるようカルサイト、コランダム又はアルミナセメントの無機粉末の何れか1種とアルカリ金属塩をレーディゲミキサに投入し、約3分間乾式混合して混合粒子を作製した。
【0013】
A1;炭酸ナトリウム(凝結促進用、平均粒径50μm)
A2;硫酸カリウム(凝結促進用、平均粒径50μm)
A3;クエン酸ナトリウム(凝結遅延用、平均粒径50μm)
A4;ロッシェル塩(凝結遅延用、平均粒径50μm)
B1;カルサイト(平均粒径6μm、20μm超の粒子含有率14質量%)
B2;カルサイト(平均粒径15μm、20μm超の粒子含有率41質量%)
B3;カルサイト(平均粒径5μm、20μm超の粒子含有率0質量%)
B4;コランダム(平均粒径45μm、20μm超の粒子含有率80質量%)
B5;アルミナセメント(平均粒径7μm、20μm超の粒子含有率18質量%)
B6;早強ポルトランドセメント(平均粒径8μm、20μm超の粒子含有率15質量%)
【0014】
【表1】

【0015】
得られた混合粒子を用い、JIS A1104に準じたジッギング法によって充填し、充填体を作製した。その際、充填物の充填率はジッギング回数により調整した。表1にはその結果も表す。
【0016】
作製した充填体はジッギング処理直後の未梱包の状態で、温度20℃、湿度60%の恒温恒湿の屋内に半年間保存した。保存後の充填体は、潮解による変質が発生しているか否かを目視による表面状態の変化によって調べ、充填体作製直後の表面と比較して表面の一部でも液状化が見られたものを変質「有り」と判断し、概ね充填体作製直後の表面状態を保っていたものを変質「無し」と判断した。この結果を表1に表す。
【0017】
次いで、保存期間を設けないジッギング処理直後の充填体及び半年間保存した充填体を用い、前記配合のモルタル組成物をホバートミキサで製造した。混練直後のモルタル組成物を使用し、4×4×16cmの成形体を型枠成形により作製した。成形体は気中養生24時間後に脱型したものを、さらに材齢28日まで20℃の水中で養生した。所望される凝結特性に応じて脱型直後の成形体(材齢1日)又は水中養生後の成形体(材齢28日)の圧縮強度を、JIS R2521に準じた方法により測定した。その結果を表2に表す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2から、本発明による方法で得た充填体は、通常の保管方法で半年間保管しても、潮解は実質起こらず、またこの充填体を配合使用したモルタル組成物は、保存期間のない作製直後の充填体を配合使用したモルタル組成物と比べ、何れも遜色ない早期強度発現性(実施例1〜3及び6)又は長期強度発現性(実施例4〜5)を呈し、凝結性に作用するアルカリ金属塩の本来の性質が変化無く維持できていることがわかる。これに対し本発明によらないアルカリ金属塩の保存方法で得た充填体を配合使用したモルタル組成物は、保存期間のない作製直後の充填体を配合使用したモルタル組成物と比べて、所望の早期強度強度発現性(比較例8)又は長期強度発現性(比較例7)が得られず、風化によって金属アルカリ塩の凝結性に及ぼす作用能力の低下が生じたことが窺える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントペースト、モルタル又はコンクリートに使用するアルカリ金属塩の風化防止方法であって、該セメントペースト、モルタル又はコンクリートに使用される非潮解質無機粉末の何れか1種又は2種以上を平均粒径20μm未満であって20μmを超える粒子含有率を25質量%未満にし、この非潮解質無機粉末中にアルカリ金属塩を分散させて充填体にせしめることを特徴とするアルカリ金属塩の風化防止方法。
【請求項2】
アルカリ金属塩を分散させる非潮解質無機粉末が、分散させるアルカリ金属塩100体積部に対し、500体積部以上の体積であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ金属塩の風化防止方法。
【請求項3】
充填体の空隙率が65体積%未満であることを特徴とする請求項1又は2記載のアルカリ金属塩の風化防止方法。

【公開番号】特開2008−162835(P2008−162835A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353381(P2006−353381)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】