説明

アルカリ電池

【課題】未放電状態や過放電後における水素ガス発生を抑制し、耐漏液特性に優れたアルカリ電池を提供する。
【解決手段】有底円筒状の電池ケース1内に中空円筒状の正極2と、亜鉛を活物質とする負極3と、前記正極2と前記負極3との間に配置されたセパレータ4と、アルカリ電解液とを収容したアルカリ電池において、前記負極3の前記正極2に対する理論放電容量比が0.9以上1.1以下であり、前記負極3はカーボンブラック粉末を前記亜鉛に対して0.1重量%以上1.5重量%以下含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池の耐漏液性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
負極活物質に亜鉛を用いたアルカリ電池では、亜鉛が腐食すると水素ガスが発生する。亜鉛の合金化や、負極への防食剤の添加によって水素ガスの発生を抑制しているが、電池が過放電された後はこれらの防食効果が失われ、多量の水素ガスが発生し、漏液に至る可能性がある。
【0003】
一般的なアルカリ電池は、負極の正極に対する理論放電容量比を1.15以上1.20以下程度としている。これは、負極亜鉛の利用率が低く、正極に対して多めに充填する必要があるためである。負極は、セパレータ側から優先的に反応が進み、中心部の亜鉛が未反応の状態のまま、分極増大により放電が終了する。放電後の電池内に未反応の亜鉛が残っていると、亜鉛の腐食に起因して、過放電後には特に多量の水素ガスが発生する。
【0004】
これに対し、微細な亜鉛粒子を用いることによって、亜鉛の利用率を向上させ、電池の放電終了後において未反応の亜鉛を電池内に残さず、過放電後における電池内での水素ガス発生量を低減する技術が検討されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−151958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、微細な亜鉛粒子を多く用いると、亜鉛の比表面積が増加し、未放電保存状態でのガス発生量が増す課題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、未放電状態や過放電後における水素ガス発生を抑制し、耐漏液特性に優れたアルカリ電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルカリ電池は、有底円筒状の電池ケース内に中空円筒状の正極と、亜鉛を活物質とする負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、アルカリ電解液とを収容したアルカリ電池であって、前記負極の前記正極に対する理論放電容量比が0.9以上1.1以下であり、前記負極はカーボンブラック粉末を前記亜鉛に対して0.1重量%以上1.5重量%以下含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルカリ電池は、未放電状態や過放電後におけるガスの発生を抑制し、電池の漏液を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るアルカリ電池の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態のアルカリ電池を示した一部断面図である。正極端子1aを兼ねた電池ケース1には、中空円筒状の正極2が、内接するように収納されている。正極2の中空部には、セパレータ4を介して、活物質として亜鉛を含む負極3が配置されている。活物質として亜鉛は、亜鉛合金の形態であってもよい。負極3の正極2に対する理論放電容量比は0.9以上1.1以下であり、負極3は、亜鉛に対して0.1重量%以上1.5重量%以下のカーボンブラック粉末を含んでいる。電池ケース1の開口部は、正極2、負極3等の発電要素を収納した後、釘型の負極集電ピン6と、電気的に接続された負極端子7と、安全弁5aを有する樹脂製のガスケット5とを一体化した封口ユニット9により封口される。電池ケース1の外表面は、外装ラベル8により被覆されている。
【0013】
本発明の一実施形態における亜鉛または亜鉛合金のアルカリ電解液に対する重量比は1.7以上2.0以下であることが好ましい。
【0014】
また、カーボンブラック粉末は、アセチレンブラックまたはケッチェンブラックまたはファーネスブラックの粉末であることが好ましい。
【0015】
また、負極集電ピン6の長さは、負極3の高さに対して0.75以上0.95以下であることが好ましい。
【0016】
以下に本発明の作用機構を述べる。アルカリ電池の正極および負極の放電反応を示す。
MnO+HO+e→MnOOH+OH・・・<正極の反応>
Zn+4OH→[Zn(OH)2−+2e・・・<負極の反応>
負極の正極に対する理論放電容量比が1.15〜1.20であるような、一般的な構成のアルカリ電池は、放電後、負極の中心部には未反応の亜鉛が残存している。これは、以下の二つの要因により、負極の亜鉛が全て反応するより先に、分極が増大するためであると考えられる。
【0017】
一つ目の要因は、反応の進行に伴って電池内の水が消費されるため、負極の放電反応に必要なOHイオンの亜鉛への供給が不十分あるいは遅くなり、分極が増大することである。
【0018】
二つ目の要因は、亜鉛の放電生成物である酸化亜鉛の生成によって、負極の電子伝導性が低下し、分極が増大することである。
【0019】
負極へカーボンブラック粉末を添加することによって、アルカリ電解液がカーボンブラックに保持されるため、放電末期でもこのアルカリ電解液を介して、中心部の未反応の亜鉛へOHイオンが円滑に供給される。この作用によって、一点目に挙げた要因が緩和され、負極の亜鉛が中心部まで反応する。
【0020】
カーボンブラックは一般的に導電性が高く、また、放電に伴って反応しないため、放電末期でも負極の電子伝導性を維持できる。この作用によって、二点目に挙げた要因による分極の増大も改善され、亜鉛を中心部まで反応させることができる。
【0021】
このように、亜鉛の利用率を向上させ、負極の正極に対する理論放電容量比を下げることによって、過放電後でも負極に未反応の亜鉛が残らない構成とすることができる。
【0022】
負極における亜鉛または亜鉛合金のアルカリ電解液に対する重量比は1.6以上2.0以下であることが好ましい。亜鉛の腐食反応を以下に示す。
Zn+2HO→Zn(OH)+H
アルカリ電解液中の水が還元されることによって水素ガスが発生するため、未放電状態での水素ガス発生や、放電後に僅かに未放電の亜鉛が残存した場合を考慮すると、亜鉛または亜鉛合金のアルカリ電解液に対する重量比は、1.6以上であることが好ましい。また、カーボンブラック粉末が十分にアルカリ電解液を保持するために、亜鉛または亜鉛合金のアルカリ電解液に対する重量比は、2.0以下であることが好ましい。
【0023】
また、負極集電ピンの長さが負極高さに対して0.75以上0.95以下だと、十分な集電性が確保でき、分極が低減できて好ましい。
【0024】
また、導電性の高いアセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックをカーボンブラックとして用いることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。以下の手順で図1に示したものと同様の単3形のアルカリ電池を作製した。
【0026】
まず正極2を作製した。電解二酸化マンガンの粉末及び黒鉛の粉末を重量比94:6の割合で混合した。この混合粉100重量部に対してアルカリ電解液2重量部を加えた後、ミキサーで攪拌して混合粉とアルカリ電解液とを均一に混合し、一定粒度に整粒した。電解二酸化マンガンとしては東ソー株式会社製のHH−TFを用い、黒鉛としては日本黒鉛工業株式会社製のSP−20を用いた。アルカリ電解液は、酸化亜鉛を2重量%含む34重量%の水酸化カリウム水溶液とした。
【0027】
上記の整粒した混合粉を中空円筒状に加圧成形して正極ペレットを得た。電池ケース1に正極ペレットを2個挿入して加圧し、正極ペレットを電池ケース内面に密着させて正極とした後、セパレータ4を挿入した。セパレータは株式会社クラレ製のビニロン−リヨセル複合不織布を用いた。その後、セパレータの内側に電解液を注液した。
【0028】
続いて、負極3を作製した。負極は、ゲル状電解液に分散させた亜鉛と、電解液に分散させたカーボンブラックとをそれぞれ作製した後、これらを混合して作製した。まず、ゲル状電解液分散亜鉛を作製した。Al:0.003重量%、Bi:0.010重量%、In:0.020重量%を含有する亜鉛合金粉末を、ガスアトマイズ法によって作製し、この亜鉛合金粉末を、篩を用いて分級した。このとき、200メッシュの篩い目を通過し得るものの割合は30重量%とした。次に、分散媒であるゲル状アルカリ電解液を作製した。上記の亜鉛合金粉末100重量部に対して、アルカリ電解液44.5重量部、架橋型ポリアクリル酸0.4重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム0.8重量部を混合した。このゲル状電解液に亜鉛合金粉末を混合し、ゲル状電解液分散亜鉛を作製した。一方で、カーボンブラックとアルカリ電解液を、1:9の重量比になるよう量り取って混合し、電解液分散カーボンブラックを作製した。
【0029】
亜鉛合金粉末100重量部を含むゲル状電解液分散亜鉛に対して、電解液分散カーボンブラックを、0、1、10、15、20重量部混合した5種類の負極を作製した。その後、アルカリ電解液の量が、全種類等しくなるように、アルカリ電解液を加えることによって調整した。
【0030】
この負極を、セパレータの内側に充填した。充填量は、亜鉛の理論放電容量を820mAh/g、二酸化マンガンの理論放電容量を308mAh/gとして、負極の正極に対する理論放電容量比が0.8、0.9、1.1、1.2となるように調整した。
【0031】
また、比較例として、200メッシュの篩い目を通過し得るものの割合が80重量%である亜鉛合金粉末100重量部に対し、アルカリ電解液62.5重量部、架橋型ポリアクリル酸0.4重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム0.8重量部を混合したゲル状電解液分散亜鉛を負極として、負極の正極に対する理論放電容量比が1.1となるような電池A0を作製した。
【0032】
電池ケース1の開口部は、釘型の負極集電ピン6と電気的に接続された負極端子7と、安全弁5aを有する樹脂製のガスケット5とを一体化した封口ユニット9により封口し、電池ケース1の外表面を外装ラベル8により被覆した。
【0033】
次に、評価方法について説明する。過放電漏液試験として、作製した電池を2本直列で8Ωの抵抗につなぎ、30時間放電させ続けることによって過放電させた後、45℃環境下に保存し、漏液の有無を確認した。評価は各々の電池で5セット行った。
【0034】
また、未放電保存漏液試験として、作製した電池50個ずつを60℃環境下で20日間保存し、漏液の有無を確認した。
【0035】
未放電および過放電の試験において、それぞれ全ての電池が漏液しなかった場合は○、1つでも漏液した電池があったものは×とした。その結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

カーボンブラックを添加していない電池A1〜A4をみると、理論放電容量比が0.8である電池A1は漏液が無いが、理論放電容量比が0.9以上の電池A2〜A4は漏液が発生している。これは、理論放電容量比が0.8以下、すなわち、正極容量に対して負極容量が十分に少なければ、過放電時に負極亜鉛が反応し切って、未放電の亜鉛が残らず、過放電後にガスが多量に発生しないためであると考えられる。
【0037】
カーボンブラックを亜鉛に対して0.1重量%以上添加した電池B1〜E4をみると、理論放電容量比が1.1以下の電池B1、B2、B3、C1、C2、C3、D1、D2、D3、E1、E2、E3で漏液を防ぐことができている。これは、カーボンブラックを添加したことによって、先述の作用により、亜鉛がほぼ完全に反応し切ったため、過放電後の多量の水素ガス発生を抑制しているためであると考えられる。
【0038】
理論放電容量比が1.2を超える場合、すなわち、正極に対して負極が過剰に充填されている場合、未反応亜鉛の残存が原理的に避けられないため、過放電後にガスが多量に発生し、漏液を生じる。
【0039】
亜鉛に対するカーボンブラック濃度が1.5重量%を超えると、負極密度が小さくなる。所定量の亜鉛を充填しようとすると、電池内の残空間を狭め、電池内圧が上昇しやすくなる懸念が生じるため、カーボンブラック濃度は1.5重量%以下であることが望ましい。
【0040】
次に、負極における亜鉛または亜鉛合金と、アルカリ電解液との重量比について検討した。亜鉛合金粉末100重量部に対して、アルカリ電解液38.6重量部、架橋型ポリアクリル酸0.4重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム0.8重量部を混合し、ゲル状電解液分散亜鉛とした。一方で、カーボンブラックとアルカリ電解液を、1:9の重量比になるよう混合し、電解液分散カーボンブラックを作製した。このゲル状電解液分散亜鉛と、亜鉛合金粉末100重量部に対して10重量部の電解液分散カーボンブラックを混合し、亜鉛合金粉末のアルカリ電解液に対する重量比が2.1である負極を作製した。この負極をベースに、アルカリ電解液を加えることによって、亜鉛合金粉末のアルカリ電解液に対する重量比が2.0、1.6、1.5である負極を作製した。負極作製以外の手順は、先の実施例と同じ容量で、電池C5〜C8を作製した。
【0041】
評価として、作製した電池を2本直列で8Ωの抵抗につなぎ、30時間放電させ続けることによって過放電させた後、45℃環境下に20日間保存した。保存後の電池を水中で切開し、電池内に蓄積していたガスを捕集し、その体積を測定した。その結果を表2に示した。
【0042】
【表2】

ガス捕集量、すなわち、電池内に蓄積していたガス量が、10ml未満の場合、一般的に、防爆弁が破断に至る電池内圧に対して十分に余裕があり、水素ガス発生の低減効果が特に優れている。亜鉛合金のアルカリ電解液に対する重量比が1.7以上2.0以下である電池C6、C7で、ガス捕集量は10ml未満であり、優れた効果が認められる。
【0043】
また、カーボンブラックの種類については、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックを用いたときに、特に優れた効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明に係るアルカリ電池は、未放電状態や過放電後における水素ガス発生を抑制するので、耐漏液性が高いアルカリ電池として有用である。
【符号の説明】
【0045】
1 電池ケース
1a 正極端子
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 ガスケット
5a 安全弁
6 負極集電ピン
7 負極端子
8 外装ラベル
9 封口ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の電池ケース内に中空円筒状の正極と、亜鉛を活物質とする負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、アルカリ電解液とを収容したアルカリ電池において、
前記負極の前記正極に対する理論放電容量比が0.9以上1.1以下であり、前記負極はカーボンブラック粉末を前記亜鉛に対して0.1重量%以上1.5重量%以下含んでいることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
前記亜鉛の前記アルカリ電解液に対する重量比が1.6以上2.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記カーボンブラック粉末は、アセチレンブラックまたはケッチェンブラックまたはファーネスブラックの粉末であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−97880(P2013−97880A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236887(P2011−236887)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】