説明

アルカリ鹸化ポリマーフィルム及びその製造方法

【課題】光学フィルムの微小欠陥(輝点)の原因を解消することができるアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】アルコールと水とを少なくとも含む溶媒にアルカリ剤を溶解したアルカリ溶液を、アルカリ溶液タンク32から供給配管44を介し塗布機22に供給し、ポリマーフィルムの表面に塗布して該表面を鹸化するとともに、該塗布での余剰分のアルカリ溶液を戻り配管46によりアルカリ溶液タンク32に戻して循環使用するアルカリ溶液循環ラインを備えたアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法であって、アルカリ溶液循環ラインには、アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収した際に析出する炭酸塩を溶解するための炭酸塩溶解工程が備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ鹸化ポリマーフィルム及びその製造方法に係り、特に、ポリマーフィルムの表面に塗布して表面を鹸化処理するためのアルカリ溶液を循環使用する際の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶セルに位相差板として使用される光学補償フィルムの需要が増加しつつある。液晶表示装置は、液晶セル、偏光素子および光学補償フィルム(位相差板)で構成されており、光学補償フィルムは、画像着色を解消したり、視野角を拡大したりするために用いられている。
【0003】
光学補償フィルムとしては、従来から延伸ポリマーフィルムが使用されていた。しかし、近年では、延伸ポリマーフィルムに代えて、透明支持体上に液晶性分子から形成された光学異方性層を有する光学補償フィルムを使用することが提案されている。
【0004】
このような光学補償フィルムは、長尺状のポリマーフィルムを連続的に搬送しながら表面に配向膜層を塗布・乾燥させた後、配向膜層表面にラビング処理を施し、その上に液晶化合物溶液を塗布することによって製造される。塗布された液晶化合物溶液は乾燥工程で乾燥され、紫外線照射工程で液晶化合物を紫外線照射によって重合させることで光学異方性層となる。
【0005】
また、光学補償フィルムは、上述の通りポリマーフィルム上に配向膜層および液晶性分子を固定化した光学異方性層を設けることにより形成されるが、この形成においてポリマーフィルム(通常は、ポリマーフィルムに代表されるセルロースエステルフィルム)と配向膜(通常はポリビニルアルコール)との間の良好な密着が必要となる。セルロースエステルフィルムとポリビニルアルコールとの親和性は弱く、この界面での剥がれや割れが発生してしまうため、セルロースエステルフィルムと配向膜との密着性を改良する必要がある。密着性を持たせるための方法として、セルロースエステルフィルムをアルカリ水溶液に浸漬させてその表面を鹸化し親水化する方法(例えば、特許文献1〜4参照。)、ポリマーフィルムを溶解したり膨潤させたりしない有機溶媒と水とを溶媒として併用したアルカリ溶液にポリマーフィルムを浸漬させて鹸化する方法(特許文献5参照。)、及び、前記アルカリ溶液をポリマーフィルム上に塗布して鹸化する方法(特許文献6参照。)が提案されている。
【0006】
これらの方法において、鹸化処理を連続的に行った場合、アルカリ溶液中のアルカリ剤が鹸化反応により消費されていくため、処理条件(例えば、処理温度、処理時間)を一定とすると、鹸化の程度が経時的に変化してしまったり、鹸化の程度にムラが生じてしまったりするなどの問題が生じる。また、アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収することによっても、アルカリ剤が中和反応により消費されてしまうため、上記と同様の問題が生じる。これらのアルカリ溶液のアルカリ濃度が変化する問題に対して、連続製造を実現すべく、アルカリ溶液に補充液を間欠的、逐次的、連続的に追加供給してアルカリ濃度を均一化することが提案されている(特許文献7)。
【特許文献1】特開平7−151914号公報(段落番号[0008])
【特許文献2】特開平8−94838号公報(段落番号[0033])
【特許文献3】特開2001−166146号公報(段落番号[0083])
【特許文献4】特開2001−188130号公報(段落番号[0042])
【特許文献5】特開2002−82226号公報(段落番号[0034])
【特許文献6】国際公開第02/046809号パンフレット
【特許文献7】特開2004−269830号公報(段落番号[0010])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献7の鹸化処理方法では、塗布するためのアルカリ濃度を均一化することはできるが、アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収して炭酸塩を析出し、この炭酸塩が光学補償フィルムを製造した際の微小欠陥(輝点)の原因になるという問題は解決できない。即ち、アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収することによって炭酸塩を析出し、アルカリ溶液が白濁する。そして、この炭酸塩が鹸化処理後のポリマーフィルムの処理面に残存し、光学補償フィルムの微小欠陥(輝点)の原因となって、光学補償フィルムの品質低下を招くという問題がある。
【0008】
更には、本願のようにアルカリ溶液を循環使用する場合には、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積すると、アルカリ溶液循環ラインの配管内側に炭酸塩が付着堆積して配管を閉塞させたり、アルカリ溶液循環ラインに濾過装置がある場合にはフィルタを目詰まりさせたりする原因になる。これにより、生産効率が低下する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、アルカリ溶液タンクと塗布機との間でアルカリ液を循環使用するためにアルカリ溶液が空気に触れ易い条件下であっても、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積されにくいので、光学補償フィルムを製造するのに好適な高品質なアルカリ鹸化ポリマーフィルムを製造できるアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の製造方法によって製造されたアルカリ鹸化ポリマーフィルム及びそのフィルムを用いて製造した光学補償フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、アルコールと水とを少なくとも含む溶媒にアルカリ剤を溶解したアルカリ溶液を、アルカリ溶液タンクから供給配管を介し塗布機に供給し、ポリマーフィルムの表面に塗布して該表面を鹸化するとともに、該塗布での余剰分のアルカリ溶液を戻り配管により前記アルカリ溶液タンクに戻して循環使用するアルカリ溶液循環ラインを備えたアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法であって、前記アルカリ溶液循環ラインには、前記アルカリ溶液が空気を吸収した際に析出する炭酸塩を溶解するための炭酸塩溶解工程が備えられていることを特徴とするアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、アルカリ溶液タンクと塗布機との間でアルカリ溶液が循環するアルカリ溶液循環ラインに、アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収した際に析出する炭酸塩を溶解するための炭酸塩溶解工程を設けたので、アルカリ溶液中に炭酸塩が析出したとしても、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積されることがない。これにより、炭酸塩によりアルカリ溶液が白濁してしまうことがない。従って、鹸化処理後のポリマーフィルムの処理面に炭酸塩が残存しないので、本発明のアルカリ鹸化ポリマーフィルムを用いて製造した光学補償フィルムは炭酸塩に起因する微小欠陥(輝点)を防止できる。
【0013】
また、本発明によれば、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積しないので、アルカリ溶液循環ラインの配管内側に炭酸塩が付着堆積して配管を閉塞させたり、アルカリ溶液循環ラインに濾過装置があってもフィルタを目詰まりさせたりすることがない。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、前記炭酸塩溶解工程は、前記アルカリ溶液の組成成分のうち水とアルコール以外の成分比率を一定にし、水に対するアルコールの比率(アルコール/水)を5.7〜9.0質量%の範囲に調整した添加液を、前記炭酸塩が析出したアルカリ溶液に添加する工程であることを特徴とする。
【0015】
本発明者は、アルカリ溶液から析出する炭酸塩を溶解するための方法を鋭意研究したところ、ポリマーフィルムを鹸化するためのアルカリ溶液に含まれるアルコールと水との比率がどうであろうとも、アルコールと水との比率(アルコール/水)を5.7〜9.0質量%の範囲に調整した添加液を、炭酸塩が析出したアルカリ溶液に添加することにより、析出した炭酸塩が溶解して消滅することを見出した。
【0016】
請求項2によれば、炭酸塩溶解工程において、上記比率の添加液を炭酸塩が析出したアルカリ溶液に添加するようにしたので、析出した炭酸塩がアルカリ溶液中に溶解する。これにより、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積することがない。なお、添加液を添加する箇所は、アルカリ溶液タンクから塗布機にアルカリ液を供給する供給配管の途中であることが好ましい。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2の発明において、前記アルコールは、イソプロピルアルコール(IPA)であることを特徴とする。
【0018】
工業的に頻繁に使われているイソプロピルアルコール(IPA)は価格が安価であり、経済的な理由から好ましいからである。
【0019】
請求項4は請求項1〜3のいずれかにおいて、前記アルカリ溶液循環ラインには、前記アルカリ溶液が空気に接触するのを抑制するための空気接触抑制工程が備えられていることを特徴とする。
【0020】
アルカリ溶液中への炭酸塩の蓄積を効果的に防止するには、前述のように析出した炭酸塩をアルカリ溶液中に再び溶解することに加えて、炭酸塩の析出を抑制することが一層好ましいからである。
【0021】
請求項4によれば、アルカリ溶液循環ラインには、アルカリ溶液が空気に接触するのを抑制するための空気接触抑制工程を設けたので、アルカリ溶液中への炭酸塩の蓄積を一層抑制できる。
【0022】
請求項5は請求項4において、前記空気接触抑制工程は、前記アルカリ溶液タンク及び前記アルカリ溶液循環ラインに配設された他のタンクの液面を落し蓋で覆うことにより、前記アルカリ溶液と空気とが接触することを抑制する工程であることを特徴とする。
【0023】
請求項5は、空気接触抑制工程の好ましい方法を示したもので、アルカリ溶液タンク及びアルカリ溶液循環ラインに配設された他のタンクの液面を落し蓋で覆うことにより、アルカリ溶液と空気とが接触することを抑制する方法である。これにより、タンク内のアルカリ溶液の液面高さが変化しても、液面が空気に接触しないので炭酸塩が析出しにくくなる。
【0024】
請求項6は請求項4において、前記空気接触抑制工程は、前記塗布機の周囲に窒素雰囲気を形成する工程であることを特徴とする。
【0025】
請求項6は、空気接触抑制工程の好ましい別の方法を示したもので、塗布機の周囲に窒素雰囲気を形成する方法である。これにより、塗布時に空気の炭酸ガスを吸収する機会が多いが、塗布での余剰分として循環使用されるアルカリ溶液が塗布時に空気に接触しなくなるので、循環使用するアルカリ溶液に炭酸塩が析出しにくくなる。
【0026】
請求項7は請求項4において、前記空気接触抑制工程は、前記アルカリ溶液に溶存する空気を脱気する工程であることを特徴とする。
【0027】
請求項7は、空気接触抑制工程の好ましい更に別の方法を示したもので、アルカリ溶液に溶存する空気を脱気する方法である。これにより、アルカリ溶液に空気が溶存しなくなるので、アルカリ溶液からの炭酸塩の析出を効果的に抑制できる。
【0028】
なお、本発明では、空気接触抑制工程として、請求項5、6、7の全てを実施することが好ましい。
【0029】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7の何れか1に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするアルカリ鹸化ポリマーフィルムを提供する。
【0030】
請求項8によれば、製造されたアルカリ鹸化ポリマーフィルムの表面に、炭酸塩の析出粒子が付着することのない、高品質のアルカリ鹸化ポリマーフィルムを得ることができる。
【0031】
請求項9に記載の発明は、請求項8のアルカリ鹸化ポリマーフィルムを用いて製造されることを特徴とする光学補償フィルムを提供する。
【0032】
本発明によれば、アルカリ溶液中の炭酸塩による微小欠陥(輝点)を解消したアルカリ鹸化ポリマーフィルムを用いることができるので、良好な光学補償フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、ポリマーフィルムの表面に塗布して表面を鹸化するアルカリ溶液を循環使用するためにアルカリ溶液が空気に触れ易い条件下であっても、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積されにくくできる。
【0034】
これにより、本発明のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法によって製造されたアルカリ鹸化ポリマーフィルムは、アルカリ溶液中の炭酸塩による微小欠陥(輝点)を解消することができるので、そのアルカリ鹸化ポリマーフィルムを用いた光学補償フィルムは好ましい光学特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、添付図面に従って本発明のアルカリ鹸化ポリマーフィルム及びその製造方法並びに光学補償フィルムの好ましい実施の形態を説明する。
【0036】
図1は、本発明のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法を、光学補償フィルムの製造ラインに組み込んだ図であり、光学補償フィルムが製造するまでの各工程を順番に説明する。
【0037】
[アルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造]
図1に示すように、アルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法は、主として、送り出し機66から送り出されたポリマーフィルム16にアルカリ溶液を塗布してフィルム面を鹸化する塗布工程20、アルカリ鹸化されたポリマーフィルム16からアルカリ溶液を洗い落として乾燥する洗浄工程24とで構成される。そして、本発明では、塗布工程20において、ポリマーフィルムの表面に塗布するアルカリ溶液を循環使用するが、循環使用するためのアルカリ溶液循環ラインについては、後で説明する。
【0038】
塗布工程20では、塗布機22でポリマーフィルム16にアルカリ溶液を塗布する。塗布方式に関しては、各種態様が採りうるが、アルカリ溶液の塗布量は、その後、水洗除去するため廃液処理を考慮して、極力抑制することが望ましく、1〜100cc/m2 が好ましく、1〜50cc/m2 がより好ましい。このことから、少ない塗布量域でも安定に塗布できるロッドコーター、グラビアコーター、ブレードコーター、ダイコーターが特に好ましい。また、アルカリ溶液を塗布し、ポリマーフィルムを鹸化処理したのち、アルカリ溶液をポリマーフィルムから容易に洗い落とすために、アルカリ溶液はポリマーフィルムの下面に塗布することが好ましい。
【0039】
鹸化反応に必要なアルカリ塗布量は、ポリマーフィルムの単位面積当りの鹸化反応サイト数に配向膜との密着を発現させるために必要な鹸化深さを乗じた総鹸化サイト数(=理論アルカリ塗布量)が目安となる。鹸化反応の進行にともなってアルカリが消費され反応速度が低下するため、実際には上述の理論アルカリ塗布量の数倍を塗布することが好ましい。具体的には、理論アルカリ塗布量の2〜20倍であることが好ましく、2〜5倍であることがさらに好ましい。
【0040】
アルカリ溶液の温度は、反応温度(=ポリマーフィルムの温度)に等しいことが望ましい。使用する有機溶媒の種類によっては、反応温度がアルカリ溶液の沸点を越える場合もある。安定な塗布を行うためには、アルカリ溶液の沸点よりも低い温度であることが好ましく、沸点よりも5℃低い温度であることがさらに好ましく、沸点よりも10℃低い温度であることが最も好ましい。
【0041】
アルカリ溶液を塗布した後、鹸化反応が終了するまで、ポリマーフィルムの温度を室温以上に保つことが好ましい。ポリマーフィルムの温度は、アルカリ溶液塗布前に加熱した温度と同じでも異なっていてもよい。また、鹸化反応中に温度を連続的、または段階的に変更してもよい。フィルム温度は、15〜150℃、好ましくは25〜100℃、さらに好ましくは30〜80℃である。
【0042】
アルカリ溶液を塗布して、洗い落とすまでに上記温度範囲に保持する時間は、搬送速度にもよるが、1秒〜300秒間に保つことが好ましく、2〜100秒間に保つことがより好ましく、3〜50秒間に保つことが特に好ましい。
【0043】
ここで、塗布機22での余剰の塗布液(アルカリ溶液)は以下に説明するアルカリ溶液循環ラインの戻り配管36で回収される。
【0044】
図2は、本発明の特徴部分であり、アルカリ溶液循環ラインを示す概略図である。
【0045】
図2に示すように、アルカリ溶液は、調液タンク30で調液され、アルカリ溶液タンク32でストックされる。そして、アルカリ溶液タンク32にストックされたアルカリ溶液は、供給配管44によりポンプ34で塗布機22に送液され、塗布機22でポリマーフィルム16に塗布される。そして、ポリマーフィルム16に塗布されなかった余剰のアルカリ溶液は、戻り配管46の途中に設けられた回収タンク38に集められる。回収タンク38に集められたアルカリ溶液は、脱気タンク40に吸い上げられる。尚、アルカリ溶液は脱気タンク40に真空引きにより吸い上げているので、ここで脱気される。脱気タンク40で脱気されたアルカリ溶液は、戻り配管46を介してアルカリ溶液タンク32に戻され、再度塗布液として塗布機22に供給される。
【0046】
しかしながら、塗布機22での余剰のアルカリ溶液は、アルカリ溶液タンク32に戻されるまでの過程で、空気中の炭酸ガスを吸収してしまい、炭酸塩を生成してしまう。従って、炭酸塩によりアルカリ溶液が白濁してしまうとともに、その炭酸塩がアルカリ鹸化処理に使われた際のポリマーフィルムの処理面に残存してしまうため、光学補償フィルムの微小欠陥(輝点)の原因となって光学補償フィルムの品質低下を招く。
【0047】
そこで、本発明は、アルカリ溶液循環ラインに、アルカリ溶液から析出する炭酸塩を溶解するための炭酸塩溶解工程を設けることにした。そうすることで、上記のようにアルカリ鹸化されたアルカリ鹸化フィルムを用いた光学補償フィルムの微小欠陥(輝点)の原因を解消することができる。
【0048】
炭酸塩溶解工程としては、アルカリ溶液の溶媒のアルコールと水との比(アルコール/水)を5.7〜9.0の範囲に調整した添加液を追添タンク42に貯留し、供給配管44に添加する方法が好ましい。この場合、添加液のアルコール及び水以外の成分比率は、アルカリ溶液と同じである。
【0049】
これは、アルカリ溶液に含まれる溶媒のアルコールと水との比率がどうであろうとも、アルコールと水との比(アルコール/水)を5.7〜9.0の範囲に調整した添加液を
炭酸塩が析出しているアルカリ溶液に添加することで、炭酸塩がアルカリ溶液に溶解し、白濁を解消できることを意味する。
【0050】
また、本発明では、上述した炭酸塩溶解工程に加えて、アルカリ溶液循環ラインに、アルカリ溶液が空気に接触するのを抑制するための空気接触抑制工程を設けることにした。
空気接触抑制工程としては、タンクの液面を覆う落し蓋の方法、塗布機の周囲に窒素雰囲気を形成する方法、アルカリ溶液に溶存する空気を暖気する方法を好適に使用できる。
【0051】
図3は落し蓋を用いた方法であり、回収タンク38のアルカリ溶液17の液面全面には、落し蓋50が浮いた状態に設けられている。このように、余剰分のアルカリ溶液を一旦回収する回収タンク38のアルカリ溶液の液面全面を覆うように落し蓋を設けることで、アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収することによって生成される炭酸塩の発現を抑制することができる。なお、本実施の形態では、回収タンク38に落し蓋50を設ける例で説明したが、他のタンク、例えば調製タンク30、アルカリ溶液タンク32、追添タンク42にも落し蓋50を設けることが好ましい。
【0052】
また、図示しないが、塗布機22をケーシング内に収納して、ケーシング内の空気を窒素ガスで置換することにより、塗布機周囲に窒素雰囲気を形成することができる。アルカリ溶液は空気中の炭酸ガスを吸収することで炭酸塩を生成するが、塗布時に炭酸ガスを吸収する機会が多い。そこで、塗布機22の周囲に窒素環境を形成することで、アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収することによって生成される炭酸塩の発現を抑制することにしたものである。
【0053】
また、アルカリ溶液中の空気を脱気する方法は、上述したように、回収タンク38に集められたアルカリ溶液を脱気タンク40に真空引きにより吸い上げる方法や、回収タンク38から脱気タンク40にアルカリ溶液をポンプ送液して、脱気タンク40内でアルカリ溶液中の空気を脱気する方法を好適に使用できる。
【0054】
このように、本発明のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法では、アルカリ溶液循環ラインに炭酸塩溶解工程及び空気接触抑制工程を設けたので、アルカリ溶液中に炭酸塩が析出しずらく、仮に析出したとしても、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積されることがない。また、アルカリ溶液に炭酸塩が蓄積しないので、アルカリ溶液循環ラインの配管内側に炭酸塩が付着堆積して配管を閉塞させたり、アルカリ溶液循環ラインに濾過装置があってもフィルタを目詰まりさせたりすることがない。
【0055】
塗布工程20でフィルム表面にアルカリ溶液が塗布されて鹸化されたポリマーフィルムは、次に洗浄工程24で洗浄される。
【0056】
洗浄工程24での洗浄は、洗浄水を塗布する方法、洗浄水を吹き付ける方法、あるいは、洗浄水の入った容器にポリマーフィルムごと浸漬する方法で実施できる。
【0057】
水の吹き付け方法は、塗布ヘッド(例、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター)を用いる方法、あるいは、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄に利用されるスプレーノズルを用いる方法で実施できる。
【0058】
水の吹き付け速度は、大きいほうが高い乱流混合が得られる。ただし、速度が大きいと、連続搬送するポリマーフィルムの搬送安定性を損なう場合もある。吹き付けの衝突速度は、50〜1000cm/秒が好ましく、100〜700cm/秒がさらに好ましく、100〜500cm/秒が最も好ましい。
【0059】
水洗に使用する水の量は、下記に定義される理論希釈率を上回る量である。
理論希釈倍率=水洗水の使用量[cc/m2 ]÷アルカリ鹸化溶液の塗布量[cc/m2
すなわち、水洗に使用される水の全てがアルカリ性塗布液の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る水洗水量を使用することとなる。用いたアルカリ性塗布液のアルカリ濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の理論希釈が得られる水洗水を使用する。
【0060】
洗浄水には、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも0.1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満であることが好ましい。
【0061】
洗浄水の温度は、高い方が洗浄能力が上がる。しかし、搬送されるポリマーフィルム上に水を吹き付ける方法においては、空気と接触する水の面積が大きく、高温ほど蒸発が著しくなるため、周囲の湿度が増し、結露する危険性が高くなる。このため、洗浄水の温度は、通常は5〜90℃、好ましくは25〜80℃、さらに好ましくは25〜60℃の範囲で設定する。
【0062】
アルカリ溶液の成分、または鹸化反応の生成物が水に容易に溶けない場合、洗浄工程の前または後に水に不溶な成分を除去するための溶剤洗浄工程を付加しても良い。溶剤洗浄工程は、上に述べた水洗方法、水切り手段を利用することができる。
【0063】
洗浄工程24の次に乾燥工程(不図示)を設けることもできる。通常は、エアナイフなどの水切り手段で充分に水膜を除去できることが多く、乾燥工程は必要でないことがあるが、ポリマーフィルムをロール状に巻き取る前に、好ましい含水率に調整するために加熱乾燥してもよい。逆に、設定された湿度を有する風で調湿することもできる。乾燥風の温度は30〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましく、50〜120℃が特に好ましい。
【0064】
(アルカリ溶液)
本発明においてアルカリ鹸化に用いられるアルカリ溶液は、pH11以上のアルカリ溶液が好ましい。より好ましくはpH12〜14である。
【0065】
アルカリ溶液に用いられるアルカリ剤の例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の無機アルカリ剤、また、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルブチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ剤も用いられる。これらのアルカリ剤は単独又は2種以上を組み合わせて使用することもでき、一部を例えばハロゲン化したような塩の形で添加してもよい。
【0066】
これらのアルカリ剤の中でも、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの使用が、これらの量の調整により広い領域でのpH調整が可能となるため好ましい。
【0067】
アルカリ溶液におけるアルカリ剤の濃度は、使用するアルカリ剤の種類、反応温度及び反応時間に応じて決定されるが、アルカリ剤の含有量は、アルカリ溶液中の水酸化イオン濃度が0.1〜5mol/kgが好ましく、0.3〜3mol/kgがより好ましい。
【0068】
本発明に係るアルカリ溶液の溶媒は、水及び水溶性有機溶媒であるアルコールの混合溶液が好ましい。有機溶媒としては、沸点が120℃以下、更には60〜120℃、特には60〜100℃以下のものが好ましい。
【0069】
溶媒は、無機性/有機性値(I/O値)が0.5以上で、且つ溶解度パラメーターが16〜40[mJ/m31/2の範囲のものが好ましい。より好ましくは、I/O値が0.6〜10で、且つ溶解度パラメーターが18〜31[mJ/m31/2の範囲のものである。
【0070】
I/O値がその上限値以下で(無機性が強すぎず)、且つ溶解度パラメーターがその下限値以上であれば、アルカリ鹸化速度が低下したり、また鹸化度の全面均一性が不満足となったりするなどの不都合が生じないので好ましい。一方、I/O値がその下限値以上で(有機性側に偏りすぎず)、且つ溶解度パラメーターがその上限値以下であれば、鹸化速度が速く、ヘイズを生じ易くなるなどの不都合を生じることがないので、全面均一性の点で優れたものとなるので好ましい。
【0071】
好ましい特性値を有する有機溶媒は、例えば、有機合成化学協会編、「新版溶剤ポケットブック」{(株)オーム社、1994年刊}等に記載のものが挙げられる。また、有機溶媒の無機性/有機性値(I/O値)については、例えば、田中善生著「有機概念図」(三共出版社1983年刊)p.1−31に解説されている。
【0072】
具体的には、一価脂肪族アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等)、脂環式アルカノール(例えば、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、メトキシシクロヘキサノール、シクロヘキシルメタノール、シクロヘキシルエタノール、シクロヘキシルプロパノール等)、フェニルアルカノール(例えば、べンジルアルコール、フェニルエタノール、フェニルプロパノール、フェノキシエタノール、メトキシベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール等)、複素環式アルカノール類(例えば、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等)等が挙げられる。用いる有機溶媒は、単独もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
有機溶媒の溶媒中の使用割合は、溶媒の種類、水との混和性(溶解性)、反応温度及び反応時間に応じて決定する。
【0074】
水と有機溶媒の混合比は、3/97〜85/15質量比が好ましい。より好ましくは5/95〜60/40質量比であり、更に好ましくは15/85〜40/60質量比である。この範囲において、アシレートフィルムの光学特性を損なうことなく容易にフィルム全面が均一に鹸化される。
【0075】
本発明において用いられるアルカリ溶液としては、そのアルカリ剤がアルカリ金属の水酸化物であり、アルカリ溶液の溶媒が、炭素原子数8以下のアルコール、炭素原子数が6以下のケトン、炭素原子数が6以下のエステル、炭素原子数が6以下の多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の有機溶媒および水を含むことが特に好ましい。金属の水酸化物はポリマーフィルムに対する反応性が高く、アルカリ剤の使用量を少なくすることが出来るため、好ましい。また上記有機溶媒と水の組み合わせは、金属の水酸化物の溶解性が高いため、好ましい。
【0076】
本発明において用いられるアルカリ溶液は、以下に記載の液体物性の範囲になるように調整されることが好ましい。アルカリ溶液は、その表面張力が35℃において45mN/m以下であり、且つ粘度が35℃において0.8〜20mPa・sであることが好ましい。より好ましくは、表面張力が20〜40mN/mであり、且つ粘度が1〜15mPa・sである。この範囲で、アルカリ溶液の塗布が搬送速度に応じて安定な塗布操作が容易に行える様になり、且つフィルム表面への液の濡れ性、フィルム表面に塗布した溶液の保持性、鹸化後のフィルム表面からのアルカリ液の除去性が充分なものとなる。
【0077】
本発明に用いるアルカリ溶液が含有する有機溶媒として、上記した好ましいI/O値を有する有機溶媒とは異なる有機溶媒(例えばフッ化アルコール等)を、後述の界面活性剤、相溶化剤の溶解助剤として併用してもよい。その含有量はアルカリ溶液に含有される液の総質量に対して0.1〜5%が好ましい。
【0078】
また、有機溶媒、とりわけ上記有機性と溶解性の各範囲の有機溶媒を、水、後述する界面活性剤、相溶化剤等と組み合わせて用いると、高い鹸化速度が維持されて、且つ全面に亘る鹸化度の均一性が向上する。すなわち、上記のアルカリ溶液が、沸点が60〜120℃以下の水溶性有機溶媒、並びに界面活性剤及び相溶化剤を含有するアルカリ溶液であるのが好ましい。
【0079】
(界面活性剤)
本発明に用いるアルカリ溶液は、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤を添加することによって、表面張力を下げて塗布を容易にしたり、塗膜の均一性を上げてハジキ故障を防止したり、且つ有機溶媒が存在すると起こり易いヘイズを抑止したり、さらには鹸化反応が均一に進行するなどの利点がある。その効果は、後述する相溶化剤の共存によって特に顕著となる。用いられる界面活性剤には特に制限はなく、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、フッ素系界面活性剤等のいずれであってもよい。すなわち、アルカリ溶液が、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤および両性界面活性剤から選ばれる少なくとも1つを含有するのが好ましい。特に、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0080】
具体的には、例えば、吉田時行著「界面活性剤ハンドブック(新版)」(工学図書、1987年刊行)、「界面活性剤の機能創製・素材開発・応用技術」第1編(技術教育出版、2000年刊行)等記載の公知の化合物が挙げられる。
【0081】
カチオン界面活性剤としては4級アンモニウム塩類が好ましい。両性界面活性剤としてはベタイン型化合物類が好ましい。以下、ノニオン界面活性剤について説明する。
【0082】
(ノニオン性界面活性剤)
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、しょ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0083】
これらの具体例を示すと、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレンエチレンアビエチルエーテル、ポリオキシエチレンノニンエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレングリセリルモノオレート、ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート、ポリオキシエチレンプロピレングリコールモノステアレート、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ジスチレン化フェノールポリエチレンオキシド付加物、トリベンジルフェノールポリエチレンオキシド付加物、オクチルフェノールポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤の質量平均分子量は、300〜50,000が好ましく、500〜5,000が特に好ましい。
【0084】
これらの中でも、各種のポリアルキレンレングリコール誘導体類、各種のポリエチレンオキサイド付加物類等のポリエチレンオキサイド誘導体類が好ましい。
本発明においては、特に、該界面活性剤が下記一般式(1)で表されるノニオン界面活性剤であるのが好ましい。
【0085】
一般式(1) :R1−L1−Q1
式中、R1は炭素数8以上の(単独または修飾された)アルキル基を表し、L1はR1とQ1を連結する基を表し、直接結合または2価の連結基を表し、Q1は、ポリオキシエチレンユニット(重合度5〜150)、ポリグリセリンユニット(重合度3〜30)、親水性糖鎖ユニットから選ばれるノニオン親水性基を表す。
【0086】
このようなノニオン界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤の質量平均分子量は、300〜50,000が好ましく、500〜5,000が特に好ましい。
【0087】
また、本発明においては、前記ノニオン性界面活性剤として、下記一般式(2)で表される化合物を用いることも好ましい態様である。
【0088】
一般式(2):R11−O(CH2CHR12O)l−(CH2CHR13O)m−(CH2CHR14O)n−R15
一般式(2)中、R11〜R15は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、カルボニル基、カルボキシレート基、スルホニル基、スルホネート基を表す。
【0089】
前記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、ヘキシル基等が挙げられ、前記アルケニル基の具体例としては、ビニル基、プロペニル基等が挙げられ、前記アルキニル基の具体例としては、アセチル基、プロピニル基等が挙げられ、前記アリール基の具体例としては、フェニル基、4−ヒドロキシフェニル基等が挙げられる。
l,m,nは0以上の整数を表す。但し、l,m,nの総てが0であることはない。
【0090】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のホモポリマー、エチレングリコール、プロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。前記共重合体の比率は、10/90〜90/10がアルカリ水溶液への溶解性の点から好ましい。また、共重合体の中でもグラフトポリマー、ブロックポリマーが、アルカリ鹸化溶液に対する溶解性とアルカリ鹸化処理の容易性の点から好ましい。
【0091】
アルカリ溶液には、ノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤を共存させて用いることも本発明の効果が高められて好ましい。これらの界面活性剤のアルカリ溶液に対する添加量は、溶液全体中好ましくは、0.001〜10質量%であり、より好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%、最も好ましくは0.1〜5質量%の範囲が挙げられる。
【0092】
(相溶化剤)
本発明に用いられるアルカリ溶液には、相溶化剤を含有させることも好ましい。本発明において、「相溶化剤」とは、温度25℃において、相溶化剤100gに対して水の溶解度が50g以上となるような親水性化合物をいう。相溶化剤への水の溶解度は、相溶化剤100gに対して、水80g以上であるのが好ましく、100g以上であるのがより好ましい。また、相溶化剤が液状化合物である場合は、沸点が100℃以上であるのが好ましく、120℃以上であるのがより好ましい。
【0093】
相溶化剤は、アルカリ溶液を貯留する浴等で壁面に付着したアルカリ溶液の乾燥を防止し、固着を抑制し、アルカリ溶液を安定に保持させる作用を有する。また、光学フィルムの表面にアルカリ溶液を塗布して一定時間保持した後、鹸化を停止するまでの間に、塗布されたアルカリ溶液の薄膜が乾燥し、固形物の析出を生じ、水洗工程での固形物の洗い出しを困難にするなどの問題の発生を防止する作用を有する。さらには、溶媒となる水と有機溶媒との相分離を防止する。特に、界面活性剤と有機溶媒と上述した相溶化剤との共存によって、処理された光学フィルムは、ヘイズが少なく、且つ、長尺の連続鹸化を実施する場合であっても安定して全面均一な鹸化度となり、好ましい。
【0094】
相溶化剤は、上記の条件を満たす材料であれば、特に限定されないが、例えば、ポリオール化合物、糖類等のヒドロキシル基及び/又はアミド基を有する繰り返し単位を含む水溶性重合体が好適に挙げられる。
【0095】
ポリオール化合物は、低分子化合物、オリゴマー化合物及び高分子化合物のいずれも用いることができる。
【0096】
脂肪族ポリオール類としては、例えば、炭素数2〜8のアルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンモノメチルエーテル、グリセリンモノエチルエーテル、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、ヒドロキシル基を3個以上含有する炭素数3〜18のアルカン類(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、イノシトール等)が挙げられる。
【0097】
ポリアルキレンオキシポリオール類としては、上記のような同じアルキレンジオール同士が結合していてもよく、異なるアルキレンジオールが互いに結合していてもよいが、同じアルキレンジオール同士が結合したポリアルキレンポリオールがより好ましい。いずれの場合も結合数は3〜100であるのが好ましく、3〜50であるのがより好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)が挙げられる。
【0098】
糖類としては、例えば、高分子学会高分子実験学編集委員会編「天然高分子」第二章{共立出版(株)、1984年刊}、小田良平等編「近代工業化学22、天然物工業化学II」{(株)朝倉書店、1967年刊}等に記載されている水溶性化合物が挙げられる。中でも、遊離のアルデヒド基及びケトン基を持たない、還元性を示さない糖類が好ましい。
【0099】
糖類は、一般に、グルコース、スクロース、還元基同士の結合したトレハロース型少糖類、糖類の還元基と非糖類が結合した配糖体及び糖類に水素添加して還元した糖アルコールに分類されるが、いずれも本発明に好適に用いられる。
【0100】
例えば、サッカロース、トレハロース、アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体、D,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズリシット、アロズルシット、還元水あめが挙げられる。これらの糖類は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
ヒドロキシル基及び/又はアミド基を有する繰り返し単位を有する水溶性重合体としては、例えば、天然ガム類(例えば、アラビアガム、グアーガム、トラガンドガム等)、ポリビニルピロリドン、ジヒドロキシプロピルアクリレート重合体、セルロース類又はキトサン類とエポキシ化合物(エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド)との付加反応体が挙げられる。中でも、アルキレンポリオール、ポリアルキレンオキシポリオール、糖アルコール等のポリオール化合物が好ましい。
【0102】
相溶化剤の含有量は、アルカリ溶液全体中0.5〜25質量%であるのが好ましく、1〜20質量%であるのがより好ましい。
【0103】
本発明に用いられるアルカリ溶液は、その他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、消泡剤、アルカリ溶液安定化剤、pH緩衝剤、防腐剤、防菌剤等の公知のものが挙げられる。その他の添加剤の含有量は、アルカリ溶液全体中0.001〜30質量%であるのが好ましく、0.005〜25質量%であるのがより好ましい。
【0104】
[配向膜の形成]
上記のように鹸化処理されたポリマーフィルムは、図1に示すように、塗布装置26により配向膜形成用樹脂を含む塗布液が塗布され、乾燥装置28により塗布液を乾燥することで透明樹脂層が形成される。
【0105】
配向膜は、架橋された2種のポリマーからなることがさらに好ましい。2種のポリマーの一方は、それ自体架橋可能なポリマーまたは、架橋剤により架橋されるポリマーである。配向膜は、官能基を有するポリマーあるいはポリマーに官能基を導入したものを、光、熱又はpH変化により、ポリマー間で反応させて形成するか、あるいは、反応活性の高い化合物である架橋剤を用いてポリマー間に架橋剤に由来する結合基を導入して、ポリマー間を架橋することにより形成することができる。
【0106】
ポリマーの架橋は、ポリマーまたはポリマーと架橋剤の混合物を含む塗布液をポリマーフィルム上に塗布した後、加熱することにより実施できる。配向膜をポリマーフィルム上に塗設した後から、光学フィルムを得るまでのいずれかの段階で架橋させる処理を行なってもよい。配向膜上に形成される円盤状構造を有する化合物(光学異方層)の配向を考慮すると、円盤状構造を有する化合物を配向させた後に最終の架橋を行なうことも好ましい。すなわち、ポリマーフィルム上にポリマーおよびポリマーを架橋することができる架橋剤を含む塗布液を塗布した場合、加熱乾燥した後、ラビング処理を行なって配向膜を形成し、次いでこの配向膜上に円盤状構造単位を有する化合物を含む塗布液を塗布し、ディスコティックネマティック相形成温度以上に加熱した後、冷却して光学異方層を形成する。
【0107】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリカーボネート等のポリマーおよびシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーであり、さらにゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが好ましく、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが特に好ましく、重合度の異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
【0108】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましく、85〜95%が最も好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜3000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールの変性基は、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。共重合変性の場合の導入基の例には、COONa、Si(OX)3 、N(CH3 3 ・Cl、C9 19COO、SO3 、Na、C1225が含まれる。(Xは、プロトンまたはカチオンである)。連鎖移動変性基の場合の導入基の例には、COONa、SH、C1225が含まれる。ブロック重合変性の場合の導入基の例には、COOH、CONH2 、COOR、C6 5 が含まれる(Rは、アルキル基である)。
【0109】
これらの中でも鹸化度が85〜95%である未変性ポリビニルアルコールまたはアルキルチオ変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0110】
ポリマー(好ましくは水溶性ポリマー、さらに好ましくはポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコール)の架橋剤の例には、アルデヒド(例、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド)、N−メチロール化合物(例、ジメチロール尿素、メチロールジメチルヒダントイン)、ジオキサン誘導体(例、2,3−ジヒドロキシジオキサン)、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物(例、カルベニウム、2−ナフタレンスルホナート、1,1−ビスピロリジノ−1−クロロピリジニウム、1−モルホリノカルボニル−3−(スルホナトアミノメチル))、活性ビニル化合物(例、1、3、5−トリアクロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビス(ビニルスルホン)メタン、N’−メチレンビス−[β−(ビニルスルホニル)プロピオンアミド])、活性ハロゲン化合物(例、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−S−トリアジン)、イソオキサゾール類およびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0111】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%が好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。配向膜中に1.0質量%を超える量で架橋剤が残存していると、充分な耐久性が得られない。そのような配向膜を液晶表示装置に使用すると、長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置した場合にレチキュレーションが発生することがある。
【0112】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である架橋剤を含む上記ポリマーをポリマーフィルム上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、ポリマーフィルム上に塗布した後、任意の時期に行なって良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方層の表面の欠陥が著しく減少する。
【0113】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0114】
配向膜は、ポリマーフィルム上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理装置70でラビング処理することにより得ることができる。これにより、透明樹脂層に配向膜を形成させる。配向膜は、その上に設けられる液晶性ディスコティック化合物の配向方向を規定するために設けられる。
【0115】
ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0116】
ラビング処理装置70では、ラビングロール72、72をポリマーフィルム16の連続搬送工程内にある2つの搬送用ロール間に配置し、回転する該ラビングロール72、72にポリマーフィルム16をラップさせながら該ポリマーフィルム16を搬送することによって、連続してポリマーフィルム16表面にラビング処理を施すことが好ましい。この場合、ポリマーフィルム16の搬送方向に対し、回転軸を傾けてラビングロール72、72を配置することも可能である。ラビングロール72自身の真円度、円筒度、振れがいずれも30μm以下であることが好ましい。上記記載のラビング方法を用いた装置において、装置内に1セット以上の予備のラビングロールを備えていることが好ましい。除塵機74により、ポリマーフィルム16の表面に付着した塵が取り除かれる。
【0117】
このように設けられた配向膜は、ポリマーフィルムの表面を、波長が200nm以下のエキシマ紫外線を照射することで水の接触角が50°以下になるように処理されていることで、フィルムとの密着性を十分に得ることができ、また、従来のアルカリ鹸化処理を施したフィルムの場合のようにフィルム面状が損なわれることがない。
【0118】
[光学異方性層の形成]
光学フィルムの光学異方性層は、配向膜上に形成される。
【0119】
グラビア塗布装置75により液晶性ディスコネマティック化合物を含む塗布液(液晶化合物溶液)を、ポリマーフィルム16の配向膜層上に塗布する。液晶性ディスコティック化合物として架橋性官能基を有する液晶性ディスコティック化合物が用いられる。
【0120】
グラビア塗布装置75は、グラビアローラ12の下方に、液受けパン14が設けられており、この液受けパン14には塗布液が満たされている。そして、グラビアローラ12の約下半分は塗布液に浸漬されている。この構成により、グラビアローラ12表面のセルに塗布液が供給されることとなる。上流ガイドローラ17及び下流ガイドローラ18は、グラビアローラ12と平行な状態で支持されている。そして、上流ガイドローラ17及び下流ガイドローラ18は、両端部分を軸受部材(ボール軸受等)により回動自在に支持され、駆動機構を付されない構成のものが好ましい。グラビア塗布装置75は、クリーンルーム等の清浄な雰囲気に設置するとよい。その際、清浄度はクラス1000以下が好ましく、クラス100以下がより好ましく、クラス10以下が更に好ましい。
【0121】
尚、図1では、塗布装置として、グラビア塗布装置75の例で示したが、これに限定されない。例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法等の方法を適宜使用することができる。
【0122】
次に、塗布液の塗布により塗布膜が形成されたポリマーフィルム16は、乾燥装置76により乾燥される。この場合、ポリマーフィルム16がグラビア塗布装置75(より正確には、グラビアローラ12)を通過してから3秒以内、又は、ポリマーフィルム16がグラビア塗布装置75を通過してから塗布液の塗布時に含有される有機溶媒に対する該有機溶媒の含有率が50%未満(より好ましくは70%未満)となるまでの何れか短い時間以内に乾燥装置76内に導入することが好ましい。
【0123】
そして、乾燥装置76では、塗布膜中の有機溶媒成分の濃度が塗布時の有機溶媒成分の濃度の50%以下(半分以下)に減少するまで、あるいは塗布膜の粘度が10mPa・s以上になるまでのうちの何れか早い方まで乾燥することが好ましい。
【0124】
塗布液の塗布時に含有される有機溶媒に対する有機溶媒の含有率(残存率)は次のように測定することができる。すなわち、乾燥装置76に導入される直前の塗布膜を「へら」を使用して速やかに掻き取り、掻き取った塗布膜を速やかにガラス製の密閉容器に入れ、蓋をして密閉する。ガラス製の密閉容器の重量を測定し、予め測定済みの風体重量を差し引いて、掻き取った塗布膜の重量を得る(塗布膜重量1)。ガラス製の密閉容器の蓋を開け、105°Cにセットしたオーブンに入れて1時間乾燥させる。ガラス製の密閉容器の重量を測定し、風体重量を差し引いて、乾燥後の塗布膜の重量を得る(塗布膜重量2)。そして、上記の塗布膜重量1と塗布膜重量2より、有機溶媒の含有率(残存率)を算出する。
【0125】
次に、乾燥装置76での乾燥が終了したポリマーフィルム16は、図1の後段乾燥ゾーン77、加熱ゾーン78、及び紫外線ランプ80を通過させる。これにより、乾燥されたポリマーフィルム16の塗布層は、加熱されてディスコティックネマティック相の液晶層が形成され、連続的に該液晶層に光照射されることにより、ディスコティック液晶を硬化する。この場合、加熱ゾーン78の加熱を、ポリマーフィルム16の液晶層を持たない側に、熱風または遠赤外線を付与することにより、あるいは加熱ローラを接触させることにより行なうことが好ましい。又は、ポリマーフィルム16の両面に、熱風または遠赤外線を付与することにより行なうことが好ましい。そして、配向膜及び液晶層が形成されたポリマーフィルムは、巻取り機82に巻き取られる。
【0126】
以下にポリマーフィルム16上にディスコティック化合物からなる光学異方性層を塗設した光学フィルム(光学補償フィルム)を直接偏光板の保護フィルムとして用いる液晶表示装置について記載するが、これに限定されるものではない。
【0127】
これらに用いられるディスコティック化合物については特開平7−267902号、特開平7−281028号、特開平7−306317号の各公報に詳細に記載されている。それらによると、光学異方性層はディスクティック構造単位を有する化合物から形成される層である。即ち、光学異方性層は、モノマー等の低分子量の液晶性ディスコティック化合物層、または重合性の液晶性ディスコティック化合物の重合(硬化)により得られるポリマー層である。それらのディスクティック(円盤状)化合物の例としては、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルなどを挙げることができる。上記ディスクティック(円盤状)化合物は、一般的にこれらを分子中心の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等がその直鎖として放射線状に置換された構造であり、液晶性を示し、一般的にディスコティック液晶とよばれるものが含まれる。ただし、分子自身が負の一軸性を有し、一定の配向を付与できるものであれば上記記載に限定されるものではない。また、前記公報において円盤状化合物から形成したとは、最終的にできた物が前記化合物である必要はなく、例えば前記低分子ディスコティック液晶が熱、光等で反応する基を有しており、結果的に熱、光等で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失ったものも含まれる。さらに、ディスコティックネマティック相または一軸性の柱状相を形成し得る、円盤状化合物の少なくとも一種を含有し、かつ光学異方性を有することを特徴とする化合物を用いることが好ましい。また円盤状化合物がトリフェニレン誘導体であることが好ましい。ここで、トリフェニレン誘導体が、特開平7−306317号公報に記載の(化2)で表される化合物であることが好ましい。
【0128】
セルロースアシレートフィルムは、特開平8−5837号、特開平7−191217号、特開平8−50206号、特開平7−281028号の各公報に詳細に記載されている下記の基本構成を有する光学補償フィルムに用いることができる。セルロースアシレートフィルム及びその上に設けられた光学異方性層からなる光学補償フィルムが適用例であり、該光学異方性層がディスコティック構造単位を有する化合物から形成される層である。LCDへの適用例としては、偏光板の片側に上記光学補償フィルムを粘着剤を介して貼り合わせる、もしくは、偏光素子の片側に保護フィルムとして、上記光学補償フィルムを接着剤を介して貼り合わせることが好ましい。光学異方素子は少なくともディスコティック構造単位(ディスコティック液晶が好ましい)を有することが好ましい。
【0129】
該ディスコティック構造単位の円盤面(以下、単に「面」とも言う)が、セルロースアシレートフィルム面に対して傾いており、且つ該ディスコティック構造単位の円盤面とセルロースアシレートフィルムとのなす角度が、光学異方性層の深さ方向において変化していることが好ましい。
【0130】
上記光学補償フィルムの好ましい態様は下記のとおりである。
(a1)角度の平均値が、光学異方性層の深さ方向において光学異方性層の底面からの距離の増加と共に増加している。
(a2)該角度が、5〜85°の範囲で変化する。
(a3)該角度の最小値が、0〜85°の範囲(好ましくは0〜40°)にあり、その最大値が5〜90°の範囲(好ましくは50〜85°)にある。
(a4)該角度の最小値と最大値との差が、5〜70度の範囲(好ましくは10〜60°)にある。
(a5)該角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ光学異方性層の底面からの距離の増加と共に連続的に変化(好ましくは増加)している。
(a6)光学異方性層が、さらにセルロースアシレートを含んでいる。
(a7)光学異方性層が、さらにセルロースアセテートブチレートを含んでいる。
(a8)光学異方性層とポリマーフィルムとの間に、配向膜(好ましくはポリマーの硬化膜)が形成されている。
(a9)光学異方性層と配向膜との間に、下塗層(200[nm]以下の紫外線、又は電子線の照射した場合を含む)が形成されている。
(a10)光学異方性層が、光学補償フィルムの法線方向から傾いた方向に、0以外のレターデーションの絶対値の最小値を有する。
(a11)該配向膜が、ラビング処理されたポリマー層である上記(a8)記載の光学補償フィルムである。
【0131】
該光学異方性層へ添加することで、該光学異方性層の配向温度を変えることのできる有機化合物を含むことが好ましい。該有機化合物が、重合性基を有するモノマーであることが好ましい。
【0132】
また、製造された光学補償フィルムは、液晶表示装置、特に透過型液晶表示装置に有利に用いられる。透過型液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。光学補償フィルムは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。液晶セルのモードは、VAモード、TNモード、またはOCBモードであることが好ましい。
【0133】
尚、本実施形態においては、アルカリ鹸化処理工程、配向膜層を形成する工程、光学異方性層を形成する工程を1つのラインで製造することが出来る図1の製造ライン10で説明したが、例えば、配向膜の乾燥装置28の後に巻取り機を設けて1度ポリマーフィルム16を巻き取り、更にラビング処理装置70の前に送り出し機を設けてポリマーフィルム16をラビング処理装置70に送り出すというように、製造ラインを2つに分けて製造することも考えられる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0135】
ポリマーフィルムとしてセルローストリアセテートフィルム(商品名;フジタック、富士フイルム社製)を用い、以下のアルカリ溶液で片面に以下のアルカリ鹸化処理を行った。即ち、ポリマーフィルムを、温度60℃の誘電式加熱ロール上を通過させ、フィルム表面温度40℃に昇温した後に、図2に示すアルカリ溶液の循環系によって下記に示す処方のアルカリ溶液:1又は2を、ロッドコーターを用いて塗布量17mL/m2で塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外ヒーターの下に10秒滞留させた。続けて、洗浄水で洗浄を行った。次いで、70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥することにより、アルカリ鹸化ポリマーフィルムを作製した。
【0136】
(アルカリ溶液の処方:1)
・イソプロピルアルコール 85.0質量部
・水(純水) 6.4質量部
・プロピレングリコール 6.5質量部
・界面活性剤(W−184:日本エマルジョン社製) 0.1質量部
・水酸化カリウム 2.0質量部
(アルカリ溶液の処方:2)
・イソプロピルアルコール 88.3質量部
・水(純水) 5.0質量部
・プロピレングリコール 5.0質量部
・界面活性剤(W−184:日本エマルジョン社製) 0.1質量部
・水酸化カリウム 1.6質量部
そして、ポリマーフィルム16に塗布されなかった余剰のアルカリ溶液は、図2に示す循環系で示した戻り配管46の途中に設けられた回収タンク38に集められ、脱気タンク40に吸い上げた。そして、脱気タンク40で脱気されたアルカリ溶液は、戻り配管46を介してアルカリ溶液タンク32に戻した。この際のアルカリ溶液タンク32でのアルカリ溶液は、目視で白濁しているのが明らかであった。回収されたアルカリ溶液は、塗布液として再度塗布機22に供給した。
【0137】
ここで、処方1のアルカリ溶液の溶媒のアルコールと水との比(アルコール/水)を表1に示す比較例1〜4、及び実施例1〜6のように変更したアルカリ溶液をそれぞれ添加液として追添タンク42より供給配管44に追加供給し、塗布機22におけるアルカリ溶液の濁度の評価を行った。また、処方2のアルカリ溶液の溶媒のアルコールと水との比(アルコール/水)を表2に示す比較例1〜4、及び実施例1〜6のように変更したアルカリ溶液を添加液として同様の評価を行った。ここで、濁度の評価は、目視で透明であるものを○、目視でやや白濁しているものを△、目視で白濁しているのが明らかなものを×とした。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【0140】
表1及び表2から分かるように、アルカリ溶液の処方1又は2を、アルカリ溶液の溶媒のイソプロピルアルコール(IPA)と水との比(IPA/水)を5.7〜9.0の範囲に変更したアルカリ溶液を添加液として追加供給することで、良い結果が得られていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明に係る光学補償フィルムの製造ラインを説明する説明図
【図2】アルカリ溶液の循環系を示す概略図
【図3】アルカリ溶液の循環系の回収タンクを示す断面図
【符号の説明】
【0142】
10…製造ライン、12…グラビアローラ、13…バックアップローラ、14…液受けパン、16…ポリマーフィルム、20…塗布工程、22…塗布機、24…洗浄工程、26…塗布装置、28…乾燥装置、30…調液タンク、32…アルカリ溶液タンク、34…ポンプ、38…回収タンク、40…脱気タンク、42…追添タンク、44…供給配管、46…戻り配管、50…落し蓋、66…送り出し機、68…ガイドローラ、70…ラビング処理装置、72…ラビングローラ、74…除塵機、75…塗布装置、76…乾燥装置、77…後段乾燥装置、78…加熱装置、80…紫外線ランプ、82…巻取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールと水とを少なくとも含む溶媒にアルカリ剤を溶解したアルカリ溶液を、アルカリ溶液タンクから供給配管を介し塗布機に供給し、ポリマーフィルムの表面に塗布して該表面を鹸化するとともに、該塗布での余剰分のアルカリ溶液を戻り配管により前記アルカリ溶液タンクに戻して循環使用するアルカリ溶液循環ラインを備えたアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法であって、
前記アルカリ溶液循環ラインには、前記アルカリ溶液が空気中の炭酸ガスを吸収した際に析出する炭酸塩を溶解するための炭酸塩溶解工程が備えられていることを特徴とするアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記炭酸塩溶解工程は、前記アルカリ溶液の組成成分のうち水とアルコール以外の成分比率を一定にし、水に対するアルコールの比率(アルコール/水)を5.7〜9.0質量%の範囲に調整した添加液を、前記炭酸塩が析出したアルカリ溶液に添加する工程であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アルコールは、イソプロピルアルコール(IPA)であることを特徴とする請求項2に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ溶液循環ラインには、前記アルカリ溶液が空気に接触するのを抑制するための空気接触抑制工程が備えられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記空気接触抑制工程は、前記アルカリ溶液タンク及び前記アルカリ溶液循環ラインに配設された他のタンクの液面を落し蓋で覆うことにより、前記アルカリ溶液と空気とが接触することを抑制する工程であることを特徴とする請求項4に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記空気接触抑制工程は、前記塗布機の周囲に窒素雰囲気を形成する工程であることを特徴とする請求項4に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記空気接触抑制工程は、前記アルカリ溶液に溶存する空気を脱気する工程であることを特徴とする請求項4に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1に記載のアルカリ鹸化ポリマーフィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするアルカリ鹸化ポリマーフィルム。
【請求項9】
請求項8のアルカリ鹸化ポリマーフィルムを用いて製造されることを特徴とする光学補償フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−40970(P2009−40970A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210134(P2007−210134)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】