説明

アルキド樹脂系赤色塗料およびその塗装方法

【課題】塗装物となる鋳造品の表面に油脂分が残存していても、容易に塗装することができ、優れた塗膜性能を発揮する塗料を得る。
【解決手段】油脂分が残存する鋳造品のような金属材1表面に、短油アルキド樹脂ワニスと、着色顔料のべんがらと、りん酸亜鉛とりん酸アルミニウムからなる防錆顔料と、タルクと硫酸バリウムからなる体質顔料と、シランカップリング剤の添加剤とを含有したアルキド樹脂系赤色塗料を塗布して常温で乾燥させ、第1の塗膜2を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂分などが残存する鋳造品表面に塗装するアルキド樹脂系赤色塗料およびその塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機のフレームのような鋳造品表面への塗装は、機械的前処理や化学的前処理を施し、表面の錆や油脂分を除去後、エポキシ樹脂系塗料などが塗布されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、錆などが形成された鋼材への塗装において、前処理を不要とするものが知られている。これは、錆層をマグネタイトに変換するエポキシ樹脂系塗料を塗布して塗膜を設けるものである(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−69405号公報 (第5〜6ページ、図2)
【特許文献2】特開2006−103229号公報 (第4〜5ページ、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の鋳造品への塗装においては、機械的または化学的前処理を行うので、前処理を施す設備の維持、管理に多大のコストを要する問題があった。また、回転機などの鋳造品は大型で重量物が多く、クレーンなどの移動手段、保管スペースの確保などが必要であり、生産効率が低下する傾向にあった。
【0006】
更に、回転機のフレームの塗装においては、防錆性能はもとより、回転機内部が温度150〜200℃に達するので、このような高温になっても塗膜の割れ、剥離が生じ難いものにしなくてはならなかった。一般的には、高温に晒されても剥離などを生じない下塗り塗料と、防錆と美観とを兼ねた上塗り塗料とが用いられる。
【0007】
このようなことから、鋳造品においても、鋼材に用いられているように、油脂分などが残存していても機械的または化学的前処理を不要とし、優れた防錆性能を有するとともに、耐熱性を備えた塗料が望まれていた。
【0008】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、鋳造品の塗装において、前処理を不要としても、優れた塗膜性能を発揮するアルキド樹脂系赤色塗料およびその塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のアルキド樹脂系赤色塗料は、短油アルキド樹脂ワニスと、着色顔料のべんがらと、りん酸亜鉛とりん酸アルミニウムからなる防錆顔料と、タルクと硫酸バリウムからなる体質顔料と、シランカップリング剤の添加剤とを含有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鋳造品表面に油脂分が残存していても、油脂分となじみ性のある脂肪酸を有する油長が短い短油アルキド樹脂ワニスを含有しているので、前処理が不要であり、優れた付着力、防錆力、耐熱性を有する塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る鋳造品への塗装系を示す断面図。
【図2】本発明の実施例2に係る鋳造品への塗装系を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0013】
先ず、本発明の実施例1に係るアルキド樹脂系赤色塗料を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る鋳造品への塗装系を示す断面図である。
【0014】
図1に示すように、鉄系の鋳造品からなる金属材1の表面には、アルキド樹脂系赤色塗料をスプレーや刷毛塗りして形成した第1の塗膜2が設けられている。膜厚は、10〜60μm(標準20〜40μm)である。アルキド樹脂系赤色塗料(関西ペイント(株)製TFラスタイト(改)相当)の成分を表1に示す。
【表1】

【0015】
この塗料は、グレー色やマンセル表色記号5Y7/1と比較して、顔料と樹脂量が多いものとなっている。グレー色やマンセル表色記号5Y7/1ではアルキド樹脂100重量に対して顔料が200重量であるのに対し、本赤色塗料ではアルキド樹脂100重量に対して顔料が300重量となっている。
【0016】
塗布においては、金属材1の表面の清掃は行うものの、油脂分の除去は特に行わないものとする。これは、アルキド樹脂の脂肪酸が鋳造品表面の油脂分となじみ性があるだけでなく、アルキド樹脂が油脂中を浸透して鋳造品と接触するためである。更には、添加剤として、シランカップリング剤が含有されているので、強固な付着力を発揮する。ここで、油脂分が残存するとは、鋳造品表面を手で触れると、べたついて油脂を確認できるレベルを指す。
【0017】
また、アルキド樹脂として油長が短い短油アルキド樹脂を使用し、油脂分を金属塩(ナフテン酸コバルト、ナフテン酸カルシウム、オクチル酸ジルコニウムなど)で酸化重合させているので、塗装後の乾燥時間が短くなる。即ち、金属塩によるレドックス反応で酸化重合を促進する。本赤色塗料は、常温において数時間で乾燥する。
【0018】
また、前述のように付着力に優れているとともに、短油アルキド樹脂は長油性のものに比べて水分が介在する場合の樹脂劣化が少なく、防錆顔料としてりん酸亜鉛とりん酸アルミニウム(混合比1:1)を多量に含有させているので、優れた防食性能を発揮する。また、アルキド樹脂系塗料に係らず、耐熱性を有するのは、体質顔料にタルクと硫酸バリウム(混合比1:1)を用い、着色顔料と防錆顔料との配合比を所定比率としたためである。
【0019】
膜厚20〜40μmに形成した第1の塗膜2に対し、下記の評価試験を実施した。スプレー塗装後、常温で1週間放置後に実施した。
【0020】
先ず、初期物性試験として、硬度を、JIS K5600に準拠した鉛筆引っかき試験で調べた。また、付着力を、ASTM3359に準拠した碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験の125μm以下のB法で調べた。
【0021】
次に、耐久性試験として、塩水噴霧試験、耐湿試験、耐熱試験を行った。塩水噴霧試験は、JIS Z2371に準拠し、500時間実施後の外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。耐湿試験は、JIS K5600に準拠し、温度40℃−湿度95%RH以上の条件で500時間実施後の外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。耐熱試験は、温度240℃−720時間実施後の外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。
【0022】
試験結果を表2に示すが、初期物性試験、耐久性試験において、優れた付着力、防錆力、耐熱性を有することが分かる。
【0023】
上記実施例1のアルキド樹脂系赤色塗料によれば、金属材1の表面に油脂分などが残存していても、容易に塗装することができ、優れた付着力、防錆力、耐熱性を有する第1の塗膜2を形成することができる。このため、前処理を施す設備が不要であり、またクレーンなどの移動手段、保管スペースの確保なども不要となり、生産効率を向上させることができる。また、防錆性能はもとより、耐熱性を有しているので、温度上昇を伴うものへの適用が可能である。更に、この塗料は、6価クロムや鉛などの有害物質を含まず、環境配慮型の塗装系とすることができる。
【実施例2】
【0024】
次に、本発明の実施例2に係るアルキド樹脂系赤色塗料を図2を参照して説明する。図2は、本発明の実施例2に係る鋳造品への塗装系を示す断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、第1の塗膜に第2の塗膜を形成することである。図2において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0025】
図2に示すように、第1の塗膜2の表面には、上塗り塗料の常温硬化型アルキド樹脂系塗料、または常温硬化型ウレタン樹脂系塗料を塗布して形成した第2の塗膜3を設けている。第1の塗膜2を形成後、常温で5〜30分放置後、スプレー塗布により、膜厚10〜60μm(標準20〜40μm)の第2の塗膜3を設けている。
【0026】
上塗り塗料として、常温硬化型アルキド樹脂系塗料、または常温硬化型ウレタン樹脂系塗料を用いることができるのは、第1の塗膜2が耐溶剤性に優れており、第2の塗膜3を形成しても、縮み(リフティング現象)や割れ現象を生じないためである。また、顔料と樹脂の固形分が表面を適度の粗面とし、接触面積を増加させ、投錨効果を持たせるためである。
【0027】
常温硬化型アルキド樹脂系塗料による第2の塗膜3を実施例2−1とし、また常温硬化型ウレタン樹脂系塗料による第2の塗膜3を実施例2−2として、下記の評価試験を実施した。スプレー塗装後、常温で1週間放置後に実施した。
【0028】
先ず、初期物性試験として、硬度を、JIS K5600に準拠した鉛筆引っかき試験で調べた。また、付着力を、ASTM3359に準拠した碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験の125μm以下のB法で調べた。
【0029】
次に、耐久性試験として、塩水噴霧試験、耐湿試験、亜硫酸ガス試験、塩素ガス試験、耐候性試験を行った。塩水噴霧試験は、JIS Z2371に準拠し、実施例2−1では500時間、実施例2−2では1000時間実施後の外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。耐湿試験は、JIS K5600に準拠し、温度40℃−湿度95%RH以上の条件で実施例2−1では500時間、実施例2−2では実施後の外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。
【0030】
亜硫酸ガス試験は、濃度20ppm、温度40℃、湿度90%RHの条件で実施例2−1では500時間、実施例2−2では1000時間実施後の外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。塩素ガス試験は、濃度1ppm、温度40℃、湿度90%RHの条件で実施例2−1では500時間、実施例2−2では1000時間実施後の外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。耐候性試験は、JIS K5600に準拠した促進耐候性(サンシャインカーボンアーク灯式)を、実施例2−1では500時間、実施例2−2では1000時間実施し、外観判定と2次物性試験(硬度、付着力)を行った。
【0031】
試験結果を表3に示すが、初期物性試験、耐久性試験において、優れた付着力、防錆力を有し、亜硫酸ガス、塩素ガスなどの厳しい環境下においても良好な諸特性を示すことが分かる。
【0032】
ここで、常温硬化型アルキド樹脂系塗料または常温硬化型ウレタン樹脂系塗料も、6価クロムや鉛などの有害物質を含まず、環境配慮型塗装系であるので、これらを環境配慮型上塗り塗料と称す。
【0033】
上記実施例2のアルキド樹脂系赤色塗料によれば、実施例1による効果のほかに、第1の塗膜2が耐溶剤性と適度な粗面を有するので、環境配慮型上塗り塗料で形成する第2の塗膜3を良好に設けることができる。
【表2】

【表3】

【符号の説明】
【0034】
1 金属材
2 第1の塗膜
3 第2の塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短油アルキド樹脂ワニスと、着色顔料のべんがらと、りん酸亜鉛とりん酸アルミニウムからなる防錆顔料と、タルクと硫酸バリウムからなる体質顔料と、シランカップリング剤の添加剤とを含有したことを特徴とするアルキド樹脂系赤色塗料。
【請求項2】
短油アルキド樹脂ワニス30〜45重量%と、着色顔料のべんがら7〜23重量%と、りん酸亜鉛とりん酸アルミニウムからなる防錆顔料7〜23重量%と、タルクと硫酸バリウムからなる体質顔料15〜30重量%と、シランカップリング剤の添加剤2〜4重量%とを含有したことを特徴とするアルキド樹脂系赤色塗料。
【請求項3】
油脂分が残存する鋳造品表面に、
短油アルキド樹脂ワニスと、着色顔料のべんがらと、りん酸亜鉛とりん酸アルミニウムからなる防錆顔料と、タルクと硫酸バリウムからなる体質顔料と、シランカップリング剤の添加剤とを含有したアルキド樹脂系赤色塗料を塗布し、
常温で乾燥させることを特徴とするアルキド樹脂系赤色塗料の塗装方法。
【請求項4】
油脂分が残存する鋳造品表面に、
短油アルキド樹脂ワニスと、着色顔料のべんがらと、りん酸亜鉛とりん酸アルミニウムからなる防錆顔料と、タルクと硫酸バリウムからなる体質顔料と、シランカップリング剤の添加剤とを含有したアルキド樹脂系赤色塗料を塗布し、
常温で乾燥させた後、
環境配慮型上塗り塗料を上塗りし、
常温で乾燥させることを特徴とするアルキド樹脂系赤色塗料の塗装方法。
【請求項5】
前記環境配慮型上塗り塗料は、常温硬化型アルキド樹脂系塗料または常温硬化型ウレタン樹脂系塗料であることを特徴とする請求項4に記載のアルキド樹脂系赤色塗料の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195843(P2010−195843A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38639(P2009−38639)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】