説明

アルキルアンモニウムポリスルフィドおよびその製造方法

【課題】有機溶媒に可溶で、硫黄原子数の多いアルキルアンモニウムポリスルフィドおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本願発明は、下記一般式(I)で表わされるアルキルアンモニウムポリスルフィドに関する。
2[NR1234+ [Sn2- (I)
(式(I)中、nは7以上の整数であり、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の有機基を表し、R1〜R4のうち少なくとも一つが前記有機基であり、R1〜R4のうち2つ以上が前記有機基である場合、これらは互いに結合して環状構造を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルアンモニウムポリスルフィドおよびその製造方法、ならびにアルキルアンモニウムポリスルフィドを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高容量の2次電池としてナトリウム硫黄電池やリチウム硫黄電池の開発が盛んである(たとえば特許文献1および2参照)。上記電池の正極は、正極活物質としての硫黄を溶媒に分散させたスラリーを集電体に塗布して乾燥させることにより製造される。
【0003】
しかしながら、硫黄は、スラリーに用いられる溶媒に不要であるため、スラリー中に硫黄粒子として存在することとなり、電極成型を困難としていた。また硫黄粒子間距離が長くなることにより、硫黄を高い密度で含有する電極の製造が不可能であるため、電池の電気容量が小さくなることがあった。したがって、スラリーに用いられる溶媒に可溶な硫黄化合物が求められている。
【0004】
溶媒に可溶な硫黄化合物としては、液体アンモニアに溶解するアンモニウムポリスルフィドが知られている(たとえば非特許文献1参照)。しかしながら、アンモニウムポリスルフィドは、有機基を有さないため、有機溶媒に不要であった。
【0005】
また、アンモニウムポリスルフィドにアルキル基を導入したアルキルアンモニウムポリスルフィドが知られている(たとえば非特許文献2および3参照)。アルキルアンモニウムポリスルフィドは、スラリーに用いられる有機溶媒に可溶であると考えられる。しかしながら、ポリスルフィドを形成する硫黄原子の数が、6以上のアルキルアンモニウムポリスルフィドは知られていなかった。電池の電気容量をより向上させるためには、ポリスルフィドを形成する硫黄原子の数を増加させたアルキルアンモニウムポリスルフィドの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−013104公報
【特許文献2】特開2002−075446号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Inorg. Chem. (1988), 27, 1883
【非特許文献2】Zeitschrift fuer Naturforschung, TeilB, Anorganische Chemie Organisch Chemie (1986), 41B(4), 405
【非特許文献3】Synthetic Metals 105, (1999), 155
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、有機溶媒に可溶で、ポリスルフィド中の硫黄原子数が多い、アルキルアンモニウムポリスルフィドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、たとえば以下の[1]〜[7]に関する。
[1]下記一般式(I)で表わされるアルキルアンモニウムポリスルフィド。
2[NR1234+ [Sn2- (I)
(式(I)中、nは7以上の整数であり、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の有機基を表し、R1〜R4のうち少なくとも1つが前記有機基であり、R1〜R4のうち2つ以上が前記有機基である場合、これらは互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
[2]nが7〜32の整数であることを特徴とする[1]に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィド。
[3]前記有機基が、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基または炭素数6〜20のアリール基であり、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基は、極性基を有していてもよく、構成する炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていてもよいことを特徴とする[1]または[2]に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィド。
[4]前記有機基が、極性基を有していてもよく、構成する炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていてもよい炭素数1〜20のアルキル基であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィド。
[5]有機溶媒中、硫黄とアルキルアンモニウム塩とを接触させることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィドの製造方法。
[6]硫黄とアルキルアンモニウム塩とを、10.0:0.1〜0.1:1.0のモル比で接触させることを特徴とする[5]に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィドの製造方法。
[7][1]〜[4]のいずれか一に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィドを正極活物質として含む正極と、負極と、電解質とを含む二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本願発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドは、多種の有機溶媒に可溶である。また、ポリスルフィド中の硫黄原子数が多い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明は、下記一般式(I)で表わされるアルキルアンモニウムポリスルフィドに関する。
2[NR1234+ [Sn2- (I)
(式(I)中、nは7以上の整数であり、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の有機基を表し、R1〜R4のうち少なくとも1つが前記有機基であり、R1〜R4のうち2つ以上が前記有機基である場合、これらは互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【0012】
(1)アルキルアンモニウムポリスルフィド
式(I)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の有機基である。有機溶媒への可溶性の観点から、前記R1〜R4のうち少なくとも1つが有機基であり、R1〜R4のうち2〜4つが有機基であることが好ましく、R1〜R4の全てが有機基であることがより好ましい。前記R1〜R4のうち2つ以上が有機基である場合、これらは互いに結合して環を形成してもよい。
【0013】
前記有機基は、コスト面および副反応を防止する観点から、炭素数1〜12が好ましく、炭素数1〜4がより好ましい。また、前記有機基は、1〜4価が好ましく、1〜2価がより好ましい。
【0014】
前記有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基が挙げられ、アルキル基が好ましい。
上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基は、極性基を有していてもよい。極性基とは、ヘテロ原子を含む置換基をいう。極性基としては、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、アミド基、イミド基、ハロゲノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0015】
また、上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基は、構成する炭素原子の一部が窒素原子、硫黄原子、酸素原子等のヘテロ原子に置き換えられていてもよい。
【0016】
前記アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状または環状構造を有すアルキル基が好ましく、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状または環状構造を有すアルキル基がより好ましい。
【0017】
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−メルカプトエチル基、アルデヒドエチル基、アセトエチル基、カルボキシエチル基、メトキシエチル基、アセチルオキシエチル基、フルオロエチル基、2−(アクリロイルオキシ)エチル基、2−(メタクリロイルオキシ)エチル基、メタクリロイルアミノプロピル基、ピロリジニウム基、ベンゾイルオキシエチル基等が挙げられる。中でも、コスト面および副反応を防止する観点から、極性基を持たず、かつ炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていないアルキル基が好ましく、極性基を持たず、かつ炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていない炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルキル基がより好ましい。
【0018】
アルケニル基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分岐状、または環状構造を有すアルケニル基が好ましく、炭素数2〜10の直鎖状、分岐状、または環状構造を有すアルケニル基がより好ましい。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。中でも、コスト面および副反応を防止する観点から、極性基を持たず、かつ炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていないアルケニル基が好ましく、極性基を持たず、かつ炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていない直鎖状のアルケニル基がより好ましい。
【0019】
アルキニル基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分岐状、または環状構造を有すアルキニル基が好ましく、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、または環状構造を有すアルキニル基がより好ましい。アルキニル基の例としては、フェニルエチニル等が挙げられる。中でも、コスト面および副反応を防止する観点から、極性基を持たず、かつ炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていないアルキニル基が好ましく、極性基を持たず、かつ炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていない直鎖状のアルキニル基が好ましい。
【0020】
アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、炭素数6〜10のアリール基がより好ましい。具体的には、フェニル基、ベンジル基、ニトロフェニル基、スルホフェニル基等が挙げられる。中でも、コスト面および副反応を防止する観点から、極性基を持たず、かつ炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていないアリール基が好ましい。
【0021】
式(I)中、nは7以上の整数であり、有機溶媒への可溶性の観点から、7〜32の整数が好ましく、7〜22がより好ましく、8〜12が特に好ましい。
本発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドは、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン系有機溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル系有機溶媒、トルエン、キシレンのような芳香族系有機溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンのようなアミド系有機溶媒、酢酸エチル、γ−ブチロラクトンのようなエステル系有機溶媒、メチルアルコール、エチルアルコールのようなアルコール類、クロロホルム、クロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素等の有機溶媒に可溶である。これらの中でも、アセトンに好ましく溶解する。
【0022】
(2)アルキルアンモニウムポリスルフィドの製造方法
本発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドの製造方法は、有機溶媒中、硫黄とアルキルアンモニウム塩とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0023】
例えば、有機溶媒中で下記式(II)で示される工程を行うことによりアルキルアンモニウムポリスルフィドを得ることができる。
[NR1234+ [CH3COO]- + S8
2[NR1234+ [Sn2- (II)
(式(II)中、R1〜R4およびnは、式(I)中のR1〜R4およびnと同様である。)
【0024】
反応に用いる硫黄は、粉末硫黄、結晶硫黄、ゴム状硫黄のいずれを用いても良い。
原料のアルキルアンモニウム塩を構成するカチオン成分としては、式(I)におけるカチオン成分が挙げられ、R1〜R4の好ましい範囲も式(I)と同様である。
原料のアルキルアンモニウム塩を構成するアニオン成分としては、式(II)におけるアセテートイオンに限定されるものではなく、アセテートイオン等の脂肪族カルボン酸イオンやベンゾエートイオン等の芳香族カルボン酸イオン等が挙げられ、溶媒への溶解性の観点から、アセテートイオンが好ましい。
【0025】
反応に用いられる有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン系有機溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル系有機溶媒、トルエン、キシレンのような芳香族系有機溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンのようなアミド系有機溶媒、酢酸エチル、γ−ブチロラクトンのようなエステル系有機溶媒を用いることができる。これらは単独で用いても、二種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、分子中にヒドロキシ基を有していない有機溶媒が好ましく、ケトン系有機溶媒がより好ましく、アセトンが特に好ましい。また、反応に用いられる有機溶媒は、分子中にヒドロキシ基を有する化合物(水、アルコールなど)を含有する場合には、その含有量は、反応に用いられる有機溶媒の総量を100重量%として、30重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0026】
反応温度は、特に限定されるものではなく、有機溶媒の結晶化温度から沸点までの温度で反応を行うことができる。好ましくは−5〜40℃である。
反応における硫黄と原料のアルキルアンモニウム塩との比率は、モル比で、硫黄:アルキルアンモニウム塩が、10.0:1.0〜0.1:1.0が好ましく、2.0:1.0〜0.5:1.0がより好ましく、1.5:1.0〜1.3:1.0がさらに好ましい。上記範囲の比率であると、アルキルアンモニウムポリスルフィドの収率に優れる。
【0027】
反応時間は、限定されるものではないが、原料投入後から 0.1〜72時間が好ましく、0.5〜5時間がより好ましく、1〜2時間がさらに好ましい。上記範囲の反応時間であると、アルキルアンモニウムポリスルフィドの収率に優れる。
【0028】
上記製造方法によれば、通常、nが1種類以上の混合物であるアルキルアンモニウムポリスルフィドが得られ、nが7以上のアルキルアンモニウムポリスルフィドは、アルキルアンモニウムポリスルフィド全量に対し、80重量%以上含まれる。
【0029】
(3)アルキルアンモニウムポリスルフィドを用いた二次電池
本発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドは、ナトリウム硫黄電池およびリチウム硫黄電池等の二次電池の正極活物質として好適に用いられる。上記二次電池は、本発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドを正極活物質として含む正極と、負極と、電解質とを含む。
【0030】
本発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドは、本発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドを溶解可能な有機溶媒を溶媒とするスラリー中に溶解される。スラリーは、通常、アルキルアンモニウムポリスルフィドに加え、バインダー、導電材等通常の二次電池に用いられる成分を含む。電池の正極は、集電体に上記スラリーを塗布して乾燥させて製造される。
【0031】
負極は、金属、または炭素等の負極活物質が用いられる。電解質は、液体および/または固体を用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
本実施例はテトラブチルアンモニウムポリスルフィド(式(I)におけるR1〜R4が全てブチル基の化合物)の合成に関する実施例である。
500ml三口フラスコに粉末硫黄125g(0.48mol)、アセトン200mlを入れ室温で攪拌させた。そこへテトラブチルアンモニウムアセテート102g(0.34mol)を加えた。ただちに反応が起こり、反応溶液が赤褐色を呈した。室温で1時間溶液を撹拌した後、ろ過により未反応硫黄を除去し、得られた溶液をエバポレートし赤褐色オイル状物質を得た。上記オイル状物質に酢酸エチル200mlを加え完全に溶解させた。上記溶液に純水200mlを加え、分液ロートを用いて有機相を抽出し、硫酸マグネシウム約20gを投入し乾燥させた。ろ過で固形分を除去し、得られた溶液をエバポレートし42gの茶色固体物質(テトラブチルアンモニウムポリスルフィド)を得た。
【0034】
1H−NMR(500MHz、CDCl3中、TMS基準)の結果、1.00ppm〔3H〕,1.45ppm〔2H〕,1.67ppm〔2H〕,3.31ppm〔2H〕にテトラブチルアンモニウムポリスルフィド由来のピークを確認した。
【0035】
13C−NMR(125MHz、CDCl3中、TMS基準)の結果、13.7ppm,19.7ppm,24.0ppm,58.7ppmにテトラブチルアンモニウムポリスルフィド由来のピークを確認した。
【0036】
KBr法におけるFT−IRの測定の結果、1224cm-1にC−C一重結合由来のピーク、1018cm-1にCH2由来のピーク、603cm-1にS−S結合由来のピーク、524cm-1にS−S結合由来のピーク、1486cm-1にC−N結合由来のピークを有することを確認した。
【0037】
UPLC−TofMSを用いて、分子量の測定を行った。溶媒はアセトニトリルと水との混合溶液とした。アニオンセグメント(Bu4+n2--の計測を行ったところ、分子量(m/z)466(硫黄原子数7)、498(硫黄原子数8)、530(硫黄原子数9)、562(硫黄原子数10)、593(硫黄原子数11)、625(硫黄原子数12)を検出し、カチオンセグメント(Bu4N)+は分子量(m/z)242(テトラブチルアンモニウム)のみ検出し、得られた物質はテトラブチルアンモニウムポリスルフィドであることを確認した。
【0038】
[実施例2]
本実施例はテトラオクチルアンモニウムポリスルフィド(式(I)におけるR1〜R4が全てオクチル基の化合物)の合成に関する実施例である。
【0039】
テトラブチルアンモニウムアセテートの代わりに、テトラオクチルアンモニウムアセテート178g(0.34mol)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法を用いて合成を行った。その結果161gの白色ワックス状物質(テトラオクチルアンモニウムポリスルフィド)を得た。
【0040】
1H−NMR(500MHz、CDCl3中、TMS基準)の結果、0.88ppm〔3H〕,1.27ppm〔6H〕,1.41ppm〔4H〕,1.68ppm〔2H〕,3.38ppm〔2H〕にテトラオクチルアンモニウムポリスルフィド由来のピークを確認した。
【0041】
[実施例3]
本実施例はテトラメチルアンモニウムポリスルフィド(式(I)におけるR1〜R4が全てメチルの化合物)の合成に関する実施例である。
【0042】
500ml三口フラスコに粉末硫黄125g(0.48mol)、アセトン200mlを入れ室温で攪拌させた。そこへテトラメチルアンモニウムアセテート45g(0.34mol)を加えた。ただちに反応が起こり、反応溶液が赤褐色を呈した。室温で1時間溶液を撹拌した後、ろ過で未反応硫黄を除去し、得られた溶液をエバポレートし22gの赤褐色オイル状物質(テトラメチルアンモニウムポリスルフィド)を得た。
【0043】
1H−NMR(500MHz、CDCl3中、TMS基準)の結果、1.92ppmにテトラメチルアンモニウムポリスルフィド由来のピークを確認した。
13C−NMR(125MHz、CDCl3中、TMS基準)の結果、22.5ppmにテトラメチルアンモニウムポリスルフィド由来のピークを確認した。
【0044】
[実施例4]
本実施例はテトラエチルアンモニウムポリスルフィド(式(I)におけるR1〜R4が全てエチルの化合物)の合成に関する実施例である。
【0045】
テトラメチルアンモニウムアセテートの代わりに、テトラエチルアンモニウムアセテート89g(0.34mol)を用いたこと以外は実施例3と同様の方法を用いて合成した。その結果26gの赤色固体状物質(テトラエチルアンモニウムポリスルフィド)を得た。
【0046】
1H−NMR(500MHz、CDCl3中、TMS基準)の結果、1.16ppm〔3H〕,3.21ppm〔2H〕にテトラエチルアンモニウムポリスルフィド由来のピークを確認した。
13C−NMR(125MHz、CDCl3中、TMS基準)の結果、7.0ppm、51.4ppmにテトラエチルアンモニウムポリスルフィド由来のピークを確認した。
【0047】
[参考例1]
ナトリウムポリスルフィド(ポリスルフィド中の硫黄原子数4)は、製品名 多硫化ナトリウム(ナガオ株式会社製)を使用した。
【0048】
(溶解性試験)
実施例1〜4で得られたアルキルアンモニウムポリスルフィドおよび参考例1のナトリウムポリスルフィド各10gをそれぞれ異なる500mlのビーカーに入れたものを4つずつ準備した。ビーカー毎にアセトン、クロロホルム、トルエンまたはエタノールをそれぞれ100g入れ、室温で3時間攪拌した後、目視にてアルキルアンモニウムポリスルフィドおよびナトリウムポリスルフィドの各溶媒への溶解性の確認を行った。その結果を表1に示す。○は完全に溶解、△は部分的に溶解、×は不溶を示す。
【0049】
【表1】

このように溶媒への溶解性が高く、ポリスルフィド中の硫黄原子数の多い、本発明のアルキルアンモニウムポリスルフィドを用いた2次電池は、高い電気容量が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされるアルキルアンモニウムポリスルフィド。
2[NR1234+ [Sn2- (I)
(式(I)中、nは7以上の整数であり、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の有機基を表し、R1〜R4のうち少なくとも1つが前記有機基であり、R1〜R4のうち2つ以上が前記有機基である場合、これらは互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【請求項2】
nが7〜32の整数であることを特徴とする請求項1に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィド。
【請求項3】
前記有機基が、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基または炭素数6〜20のアリール基であり、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基は、極性基を有していてもよく、構成する炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていてもよいことを特徴とする請求項1または2に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィド。
【請求項4】
前記有機基が、極性基を有していてもよく、構成する炭素原子の一部がヘテロ原子に置き換えられていてもよい炭素数1〜20のアルキル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィド。
【請求項5】
有機溶媒中、硫黄とアルキルアンモニウム塩とを接触させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィドの製造方法。
【請求項6】
硫黄とアルキルアンモニウム塩とを、10.0:0.1〜0.1:1.0のモル比で接触させることを特徴とする請求項5に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィドの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルキルアンモニウムポリスルフィドを正極活物質として含む正極と、負極と、電解質とを含む二次電池。

【公開番号】特開2012−248385(P2012−248385A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118856(P2011−118856)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】