説明

アルキルヒドロペルオキシドの製造方法

本発明は、飽和炭化水素、好ましくは飽和環状炭化水素を酸素で酸化することによって得られるアルキルヒドロペルオキシドの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、好ましくは触媒の不在下で、シクロヘキサンを分子状酸素又は分子状酸素含有気体で酸化することによって得られるシクロヘキシルヒドロペルオキシドの製造に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和炭化水素、好ましくは飽和環状炭化水素を酸素で酸化することによって得られるアルキルヒドロペルオキシドの製造方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、好ましくは触媒の不在下で、シクロヘキサンを分子状酸素又は分子状酸素含有気体で酸化することによって得られるシクロヘキシルヒドロペルオキシドの製造に関する。
【背景技術】
【0003】
シクロヘキシルヒドロペルオキシドの製造は一般的にシクロヘキサノン及び/又はシクロヘキサノールの製造方法の最初の工程である。
【0004】
これらのシクロヘキサノン及びシクロヘキサノール化合物は、単独で又は混合物として、ポリアミド熱可塑性樹脂の製造用のモノマーであるアジピン酸及びε−カプロラクタムの製造のための、又はポリウレタン材料、ポリエステル材料若しくは類似物の合成における、重要な出発物質である。
【0005】
特定的には、工業的規模で利用されるアジピン酸の主要な製造方法は、シクロヘキサンを分子状酸素で酸化してアルコール及び/又はケトンにし、このケトンとアルコールとの混合物を次いで硝酸で酸化してアジピン酸にすることから成る。
【0006】
シクロヘキサンを酸化してアルコール/ケトンにするための方法の1つの実施形態においては、最初の工程においてシクロヘキサンを触媒の存在下又は不在下で酸化して主としてシクロヘキシルヒドロペルオキシドを得て、このヒドロペルオキシドを第2工程においてアルコール/ケトンに転化させる。この最初のシクロヘキサン酸化工程は、一般的に気体/液体2相媒体中で実施され、酸化用気体、即ち酸素又は酸素含有気体は、1つ以上の(2つ以上ある場合には直列に配置された)仕切り付き又は仕切りなしバブルカラムから成る反応器中の液状媒体中に、主として液状シクロヘキサンから成る液相の移動方向に対して並流で又は向流で、導入される。この工程は、特に英国特許第777087号、英国特許第1112837号、英国特許第964869号、英国特許第1191573号、米国特許第3479394号及び米国特許第4877903号の各明細書に記載されている。
【0007】
酸化工程から出て来た時に回収される反応媒体は、反応しなかったシクロヘキサン及び酸化の際に生成した物質を含有する。
【0008】
これらの酸化生成物は2つのカテゴリーに分類することができる:
・第1のカテゴリーは、プロセスの下流において環状アルコール/ケトンに転化する/転化可能な化合物から成る。シクロヘキサンの酸化の場合、これらの物質は「オロノゲン(olonogenes)」と称され、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドである;
・第2のカテゴリーは、環状のアルコール又はケトンに転化させることができない酸化生成物(モノカルボン酸又はジカルボン酸のような酸化プロセスの際に炭化水素性の環の開環の結果として得られるもの)を含む。例えば、シクロヘキサンの酸化の場合、これらの酸化生成物は「非オロノゲン」と称され、アジピン酸、ヒドロキシ酸(例えば6−ヒドロキシヘキサン酸等)、ヒドロペルオキシ酸(例えば6−ヒドロペルオキシヘキサン酸等)、又は2個の酸素含有官能基を有する環状物質(例えばヒドロキシシクロヘキサノール若しくはヒドロキシシクロヘキサノン等)である。
【0009】
第1のカテゴリーの物質は、それほど水溶性ではない。一方、第2のカテゴリーの物質は水溶性であり、水で洗浄することによって抽出できる。
【0010】
採用されるプロセスにおいては、酸化工程において反応しなかったシクロヘキサンの一部を反応媒体から分離して酸化反応器にリサイクルする。
【0011】
得られた反応媒体は次いで、水溶性物質(これは一般的に第2のカテゴリーの酸化生成物に属する)を分離するために、水による洗浄又は抽出に付される。
【0012】
こうして回収される反応媒体は、主としてシクロヘキサン中の溶液状のシクロヘキシルヒドロペルオキシドを、その他の酸化生成物(これは主として上記の第1のカテゴリーに属する)と共に含有する。
【0013】
このシクロヘキシルヒドロペルオキシドの溶液は、有利には、このヒドロペルオキシドをケトン及びアルコールに転化させるために、触媒の存在下で分解又は脱過酸化工程に導入される。
【0014】
第2のカテゴリーに属する酸化生成物を水で抽出する方法には、ある種の欠点がある;特に、この抽出は完全に選択性があるわけではない。従って、第1のカテゴリーに属する「オロノゲン」酸化生成物が水性相によって一部抽出され、それによってプロセスの収率及び費用対効果が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】英国特許第777087号明細書
【特許文献2】英国特許第1112837号明細書
【特許文献3】英国特許第964869号明細書
【特許文献4】英国特許第1191573号明細書
【特許文献5】米国特許第3479394号明細書
【特許文献6】米国特許第4877903号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の1つの目的は、水性相中の第1のカテゴリーの酸化生成物の量を大幅に減らすことを可能にし、従ってプロセスの費用対効果を改善することを可能にする解決策を提供することによって、これらの欠点を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的で、本発明は、分子状酸素を用いて飽和炭化水素を酸化することによってアルキルヒドロペルオキシドを製造するための方法であって次の一連の工程を含むものを提供する:
・酸素を用いて炭化水素を酸化する;
・酸化しなかった炭化水素の少なくとも一部を酸化反応媒体から分離し、この酸化しなかった炭化水素を酸化工程にリサイクルする;
・酸化しなかった炭化水素の少なくとも一部を分離した後に回収される酸化反応媒体を水で洗浄して、酸化の際に生成した水溶性酸化生成物(炭化水素がシクロヘキサンである場合には「非オロノゲン」物質)を抽出し、酸化しなかった炭化水素、アルキルヒドロペルオキシド及び水不溶性酸化生成物(炭化水素がシクロヘキサンである場合には「オロノゲン」物質)を含む有機相を回収する。
【0018】
本発明に従えば、前記洗浄工程は、向流液液抽出カラム中で実施され、その際、洗浄用水をカラムの頂部において供給し、且つ、処理すべき/洗浄すべき反応媒体をカラムの中間位置において供給すること、並びに酸化すべき飽和炭化水素を、洗浄用カラム中の処理すべき/洗浄すべき媒体を供給するための箇所より(水の移動方向に対して)下流に位置する箇所において、供給する、即ち酸化すべき飽和炭化水素を洗浄すべき媒体が供給される位置(レベル)より低い位置(レベル)において供給することを特徴とする。
【0019】
本発明の1つの好ましい特徴に従えば、酸化すべき炭化水素は、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロドデカン、デカリン等より成る群から選択される。シクロヘキサンが好ましい炭化水素である。洗浄操作において供給される炭化水素は、酸化プロセスのリサイクルループから由来する炭化水素ではなくて、酸化生成物を含有せずにプロセスのために供給される炭化水素から由来するものであるために「新たなもの」とされる炭化水素であるのが好ましい。
【0020】
本発明の別の特徴に従えば、前記酸化プロセスは、触媒の不在下で実施することもでき、触媒の存在下で実施することもできる。
【発明の効果】
【0021】
カラム中の水による抽出又は洗浄のための箇所より水の移動方向に対して下流(下方)の部分にシクロヘキサンのような炭化水素を供給することによって、このカラムの下流部分において、水不溶性酸化生成物又は低い水溶性を有する(「低水溶性」と言う)酸化生成物を水性相から抽出することが可能になる。これらの水不溶性又は低水溶性物質は特にシクロヘキサノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドのような「オロノゲン」酸化化合物である。
【0022】
かくして、シクロヘキサンのような炭化水素を供給することよって、流出水性相中のシクロヘキサノール、シクロヘキサノン及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの濃度をかなり下げることが特に可能になる。
【0023】
指標として、抽出カラムから出て来る水性相中のこのシクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール又はシクロヘキサノンの濃度は、洗浄カラム中に炭化水素を供給しない場合には、各化合物について数重量%程度である。本発明の方法はこの濃度を数百ppmに低下させることが可能である。
【0024】
本発明の別の利点は、酸化されるべき新たな炭化水素が酸化工程に供給される前に、その少なくとも一部が水による洗浄によって処理されるということである。実際、金属容器中で輸送されて貯蔵される炭化水素は、酸化物等のような金属系不純物を含有することがある。これらの金属系化合物は、特にシクロヘキシルヒドロペルオキシドを製造するために触媒なしでシクロヘキサン酸化プロセスを実施する場合に、このシクロヘキサン酸化プロセスにおいて厄介なものとなる。何故ならば、金属又は金属系化合物によってシクロヘキシルヒドロペルオキシドの分解が触媒されるからである。
【0025】
結果として、シクロヘキシルヒドロペルオキシド製造するための方法は、有利なことに、酸化工程にシクロヘキサンを供給する前にこれらの金属系化合物を除去するために新たなシクロヘキサンを水で洗浄する工程を含む。
【0026】
本発明の方法において、抽出カラム中に供給されるシクロヘキサンのような新たな炭化水素は、一方で水性相から低水溶性の「オロノゲン」酸化化合物を抽出することを可能にし、他方で水による洗浄に付され、この炭化水素中に含有されることがある金属系化合物が抽出される。
【0027】
こうして洗浄された新たな炭化水素は、好ましくは本方法の様々なリサイクル工程によってリサイクルされる炭化水素と一緒に、酸化工程中に導入される。
【0028】
従って、本発明の方法は、洗浄工程から出て来る水性相中に存在する有用な酸化生成物の濃度を低下させることによってこの有用な酸化生成物の損失を減らすことができ、しかも炭化水素が酸化工程中に供給される前にこれを洗浄するために用意すべき水洗い容量を減らすことも可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の洗浄工程は、任意の好適な装置中で実施することができ、連続式で実施するのが好ましい。
【0030】
対象とする炭化水素がシクロヘキサンである場合、洗浄は80〜100℃の温度において実施される。
【0031】
本発明のその他の詳細及び利点は、以下に単に例示として与えた実施例を読めばはっきりわかるだろう。
【実施例】
【0032】
例1:
【0033】
触媒の不在下で実施された酸素によるシクロヘキサンの酸化から得られた反応混合物を、40個の実際段を含み、2バールの圧力で運転される洗浄用カラムの中ほどに供給する。洗浄用水をカラムの頂部から、カラム中に導入される反応混合物流の5.5重量%に相当する流量で、供給する。新たなシクロヘキサン(リサイクルから由来するものではない)をカラムの下部から、カラム頂部において導入される洗浄用水の流量の75重量%に相当する流量で、供給する。有機化合物22重量%を含有する水性流出液をカラムの底部において回収する。この水性流出液中の「オロノゲン」物質の濃度は、500ppm未満である(シクロヘキサノール/シクロヘキサノンの濃度約40ppm、シクロヘキシルヒドロペルオキシドの濃度約350ppm)。
【0034】
反応媒体の洗浄は、本発明の方法に従えば、非常に少量の「オロノゲン」物質の損失で、実施される。
【0035】
例2:
【0036】
触媒の不在下で実施された酸素によるシクロヘキサンの酸化から得られた反応混合物を、80個の実際段を含み、2バールの圧力で運転される洗浄用カラムの中ほどに供給する。洗浄用水をカラムの頂部から、相変わらずカラムの中ほどにおいて供給される洗浄すべき反応混合物の流量の5.1重量%に相当する流量で、供給する。新たなシクロヘキサン(リサイクルから由来するものではない)をカラムの下部から、カラム頂部において導入される洗浄用水の流量の70重量%に相当する流量で、供給する。有機化合物23重量%を含有する水性流出液をカラムの底部において回収する。この水性流出液中の「オロノゲン」物質の濃度は、1400ppm未満である(シクロヘキサノール/シクロヘキサノンの濃度50ppm未満、シクロヘキシルヒドロペルオキシドの濃度約1350ppm)。反応媒体の洗浄は、本発明の方法に従えば、非常に少量の「オロノゲン」物質の損失で、実施される。
【0037】
例3:
【0038】
触媒の不在下で実施された酸素によるシクロヘキサンの酸化から得られた反応媒体を、80個の実際段を含み、2バールの圧力で運転される洗浄用カラムの中ほどに供給する。洗浄用水をカラムの頂部から、相変わらずカラムの中ほどにおいて供給される洗浄すべき反応混合物の流量の4.3重量%に相当する流量で、供給する。新たなシクロヘキサン(リサイクルから由来するものではない)をカラムの下部から、カラム頂部において導入される洗浄用水の流量の83重量%に相当する流量で、供給する。有機化合物19重量%を含有する水性流出液をカラムの底部において回収する。この水性流出液中の「オロノゲン」物質の濃度は、1600ppm未満である(シクロヘキサノール/シクロヘキサノンの濃度50ppm未満、シクロヘキシルヒドロペルオキシドの濃度約1500ppm)。反応媒体の洗浄は、本発明の方法に従えば、非常に少量の「オロノゲン」物質の損失で、実施される。
【0039】
例4:
【0040】
触媒の不在下で実施された酸素によるシクロヘキサンの酸化から得られた反応媒体を、80個の実際段を含み、2バールの圧力で運転される洗浄用カラムの中ほどに供給する。洗浄用水をカラムの頂部から、相変わらずカラムの中ほどにおいて供給される洗浄すべき反応混合物の流量の4.7重量%に相当する流量で、供給する。新たなシクロヘキサン(リサイクルから由来するものではない)をカラムの下部から、カラム頂部において導入される洗浄用水の流量の82重量%に相当する流量で、供給する。有機化合物20重量%を含有する水性流出液をカラムの底部において回収する。この水性流出液中の「オロノゲン」物質の濃度は、1600ppm未満である(シクロヘキサノール/シクロヘキサノンの濃度50ppm未満、シクロヘキシルヒドロペルオキシドの濃度約1470ppm)。反応媒体の洗浄は、本発明の方法に従えば、非常に少量の「オロノゲン」物質の損失で、実施される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子状酸素を用いて飽和炭化水素を酸化することによってアルキルヒドロペルオキシドを製造するための方法であって、次の一連の工程:
・酸素を用いて炭化水素を酸化する工程;
・酸化しなかった炭化水素の少なくとも一部を反応媒体から分離し、この酸化しなかった炭化水素を酸化工程にリサイクルする工程;並びに
・酸化しなかった飽和炭化水素の少なくとも一部を分離した後に回収される酸化反応媒体を水で洗浄して、水溶性の酸化副生成物を抽出し且つアルキルヒドロペルオキシド、酸化しなかった炭化水素及び水不溶性酸化生成物を含む有機相を回収する工程:
を含み、
前記洗浄工程を向流液液抽出カラム中で実施し、その際、洗浄用水をカラムの頂部において供給し、且つ、アルキルヒドロペルオキシドを含有する洗浄すべき反応媒体をカラムの中間位置において供給すること、並びに酸化すべき飽和炭化水素を、洗浄用カラム中の洗浄すべき媒体が供給される位置より低い位置において、供給すること:
を特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記炭化水素がシクロヘキサン、シクロオクタン、シクロドデカン及びデカリンより成る群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルキルヒドロペルオキシドがシクロヘキシルヒドロペルオキシドであり、前記飽和炭化水素がシクロヘキサンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄を80〜100℃の温度において実施することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2013−517311(P2013−517311A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549312(P2012−549312)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050470
【国際公開番号】WO2011/089075
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】