説明

アルキルヒドロペルオキシド化合物の製造方法

本発明は、アルキルヒドロペルオキシド化合物の製造方法、特にシクロヘキシルヒドロペルオキシドの製造方法に関する。
本発明は、特に、多段反応器又は直列に設置された反応器内でシクロヘキサンを酸素で酸化させることによりシクロヘキシルヒドロペルオキシドを製造することに関する。本発明によれば、酸化媒体と接触する反応器の表面は、温度抵抗性PFA重合体被膜によって保護される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルヒドロペルオキシド化合物の製造方法、特にシクロヘキシルヒドロペルオキシドの製造方法に関する。
【0002】
本発明は、特に、多段反応器又は直列に設置された反応器内でシクロヘキサンを酸素で酸化することによってシクロヘキシルヒドロペルオキシドを製造することに関する。
【背景技術】
【0003】
シクロヘキシルヒドロペルオキシドは、シクロヘキサンを酸素で酸化することによりアジピン酸を合成する際に得られる中間生成物である。
【0004】
すなわち、産業上利用されている方法では、液体シクロヘキサンを多段反応器内において高温で酸素ガスと反応させることによりシクロヘキサンヒドロペルオキシドに酸化させている。未反応のシクロヘキサンを分離した後に、ヒドロペルオキシドを触媒の存在下でシクロヘキサノールとシクロヘキサノンとに分解させる。続いて、シクロヘキサノール/シクロヘキサノン混合物(一般には「olone」)を硝酸でアジピン酸及び他の二酸に酸化させる。このアジピン酸を抽出し、そして有利には結晶化により精製する。
【0005】
この方法においては、シクロヘキシルヒドロペルオキシドの最も高い収率を得ることが重要である。この収率は、反応実施条件、例えば温度及び酸素濃度に依存する。
【0006】
ただし、この収率が低下するのを防ぐために、シクロヘキシルヒドロペルオキシドの分解を防ぐことが必要である。特に、この化合物は、媒体が触媒活性の高い金属種を含有する場合には急速に分解する可能性がある。このような金属種は、反応媒体が循環する反応器の金属表面、該反応器に収容された内部部品及び反応器に付属した器具や装置の腐食によって生じる場合が多いと考えられる。
【0007】
この現象を回避し制限するために、米国特許第3510526号に記載されるような金属表面のピロホスフェート化方法が長年にわたって提案されている。このピロホスフェート化を得るために、反応器及びその内部部品をピロホスフェートで処理してから、酸化反応を開始させる。この処理を定期的に繰り返す必要があるが、これは、装置の操作能力の低下を引き起こし、そのためこのプロセスの経済に影響を及ぼす。
【0008】
さらに、反応器の操作条件は非常に厳しい(高温及び高圧、酸化力の高い化合物の存在(酸素、過酸化物))ため、化学反応器に使用される通常の保護材料では金属表面の保護を効率的に実施することができず、ピロホスフェート化が事実上現在使用されている唯一の解決策である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3510526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の一つは、反応器の操作条件下で金属表面を保護し、しかもこの装置を頻繁に交換したり定期的に停止したりする必要のない解決手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明は、アルキルヒドロペルオキシド化合物、特にシクロヘキシルヒドロペルオキシドの製造方法であって、液体炭化水素、特にシクロヘキサンを、反応器内において高温及び高圧で酸素と接触させることを含む方法を提案する。本発明によれば、ヒドロペルオキシドを含有する媒体と接触する反応器の表面は、ペルフルオルアルコキシ重合体(一般には「PFA重合体」という)から製造された保護皮膜を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、使用した3つの反応器についての、シクロヘキサンの転化率に応じた生成HPOCHのモル量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の別の特徴によれば、反応器は、プレート、撹拌器、プローブなどの内部部品を備えることができる。アルキルヒドロペルオキシドを含有する媒体と接触するこれらの部品の表面は、有利には、「PFA重合体」から製造された保護皮膜で保護されている。同様に、反応器に付属する装置及び器具、例えば、ポンプ、循環パイプ及びシクロヘキサンフラッシュ蒸留装置は、有利には、本発明に従う皮膜、すなわちPFA重合体皮膜で保護できる。同様に、保存期間中にアルキルヒドロペルオキシドが分解するのを防ぐために、保存装置をPFA重合体から製造された保護皮膜で保護することも有益である。
【0014】
多数のフルオロ重合体が存在している。PFA重合体は、フルオロ重合体の特定の種類である。最も広く知られているフルオロ重合体の一つが、Teflon(商標)というブランド名で販売されているPTFE (ポリテトラフルオルエチレン)である。
【0015】
PFA又はペルフルオルアルコキシ重合体は、特にそれらの溶融性の点でPTFE重合体とは異なる。すなわち、これらのペルフルオルアルコキシ重合体は溶融可能であるため、射出成形及び押出といった熱可塑性重合体で使用されている標準的な方法により成形できる。つまり、PTFEは、例えば反応器の内壁を覆うようには、装置では容易には成形できない。さらに、PTFEは、高い多孔性を有するが、これは、反応の間に所定の化学生成物、例えば炭化水素の酸化により生成されるアルコール類、ケトン類及び酸類の吸着及び脱離という現象を生じさせる。そのため、PTFEの使用には、本発明の方法において特に不都合な多数の欠点がある。
【0016】
これらのペルフルオルアルコキシ重合体は、デュポン・ド・ヌムールズ社が発明したものであり、特にTeflon−PFAという商品名で販売されている。他の会社も同様の重合体を販売している。例えば、ダイキンはNeoflon−PFAという商品名で販売し、ソルベイ社はHyflon−PFAという商品名で販売し、或いはゴア社も販売している。より一般的には、これは耐熱性及び耐化学性のあるPFA重合体である。
【0017】
また、PFA重合体は、それらの化学的性質を改善させるために無機又は有機充填剤を含むこともできる。しかしながら、本発明において、これらの充填剤は、金属元素を含むべきではない。
【0018】
本発明で使用するのに好適なPFA重合体の例としては、デュポン・ド・ヌムールズ社がPFA Ruby Red(商標)という商品名で販売する又はゴア社がFluoroshield(商標)という商品名で販売する各種等級のものが挙げられる。
【0019】
PFA重合体から作られた保護皮膜は、重合体を表面に付着させる通常の方法に従って又は保護すべき表面にPFAプレート若しくはシートを適用することによって製造できる。
【0020】
有利には、保護PFT皮膜は500μm〜1mmの厚みを有する。
【0021】
例えば、言及できる重合体付着方法は、数種の重合体皮膜を塗布し、そして保護された器具をプラスチック粒子が軟化し又は溶融するようにオーブン内に置いて連続フィルムを得ることからなる静電粉体塗装技術である。この適用方法は、被覆される表面を、該表面からグリースを除去し、清浄にし、そして特に溶接部分での表面欠陥を除去するように製造する工程を含む。言及できる例は、品質が基準法SIS 055900で定義されたSA度により示される好適な表面状態を得るためのサンドブラスト方法である。この清浄化後に、表面に固定用下塗りを塗布することが有益である。この下塗りは、有利にはPFA重合体を含むことができる。続いて、適宜液体に懸濁されたPFA粉末を静電塗装することによってPFA重合体の1以上の連続皮膜を付着させることにより保護皮膜が製造される。
【0022】
ゴア社が提案する技術などの他の皮膜製造技術を使用することもできる。例えば、この会社がFluoroshield(商標)という商品名で販売するシステムでは、この方法は、例えばInconel(商標)などの材料から作られたグリルを、保護すべき基材上に溶接し、そしてこのグリルにPFA重合体の皮膜を適用することによって取り付けることからなる。これにより、PFA重合体保護材の固定が強化される。
【0023】
さらに、この保護材は、有利には金属表面、特にステンレススチールから作られた表面を保護するために使用されるが、ただし金属表面又は非金属表面のいずれのタイプも保護するために使用することもできる。
【0024】
一例として説明したアルキルヒドロペルオキシドを製造することについての本発明の一実施形態では、該方法は、シクロヘキサンなどの炭化水素を管状反応器の底部に導入すると同時に、酸素や酸素を含有するガスを連続的に導入することからなる。しかし、本発明は、反応器の頂部に酸素又は炭化水素を段階的に導入する他のタイプの反応器を使用する方法にも適用される。
【0025】
反応圧力は10〜30barであり、温度は130℃〜200℃である。酸素は、反応器のヘッドスペースに10〜30Nl/時の流量で連続的に導入される。安全性の理由から、反応条件、特に反応器内での滞留時間を、反応器のヘッドスペース中で、臨界値よりも低い約5容量%の濃度の酸素を含有する気相を得るように制御して、炭化水素蒸気による自己爆発及び自己発火の危険性を制限する。ただし、この特徴は必須ではない。
【0026】
本発明の方法は、反応媒体と金属表面との接触を制限することによって、酸化反応により形成されたヒドロペルオキシドの分解を制限し、それによって反応収率を改善させることが可能である。
【0027】
本発明によれば、保護PFA重合体皮膜にピロホスフェート化を実行することも可能である。
【0028】
さらに、保護PFA重合体皮膜は非常に長い耐用年数を有するため、保護を延長し又は修復するのに必要な高頻度の停止を少なくすることによってプロセスの経済性を改善させることができる。
【0029】
さらに、保護PFA重合体皮膜は、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及び反応の間に形成される副生成物(例えば酸)などの、反応の間に生成される化学化合物を吸着又は脱離しないという利点を有するところ、これは、反応器を清浄化するための停止を制限する。
【0030】
また、この皮膜は、ヒドロペルオキシドの分解を制限し、それによって反応収率を改善することのできる、金属壁と反応媒体との相互作用に対する効果的な障壁も構成する。
【0031】
さらに、保護PFA重合体皮膜は、高温で機能することを可能にし、かつ、良好な耐クリープ性、すなわち永久応力下での変形に対する抵抗性を有する。例として、8.8MPa(メガパスカル)の加重下150℃で100時間、そして24時間の弛緩後に、PFAは、10%の残留歪み度を有するのに対し、PTFEについては、これは34%である(基準法ASTM D621に従って実施される試験)。
【0032】
本発明の他の利点及び詳しい内容は、以下に例示として与える実施例を考慮すれば、より明らかになるであろう。
【実施例】
【0033】

シクロヘキサンを、自給式ターボミキサー及び凝縮器を備えた反応器内に置く。このステンレススチール反応器は、被覆されていないか、ピロホスフェート被覆されているか、PFA皮膜で被覆されているかのいずれかである。反応媒体を165℃に加熱する。この温度に到達したら、窒素中43容積%の酸素を30Nl/時の流量で30barの圧力で注入する。試料を採取し、そしてガスクロマトグラフィーで分析して過酸化シクロヘキシルの形成を経時的に監視する。ピロホスフェート被覆反応器とPFA被膜で被覆された反応器とには、転化率に応じたHPOCHに対する選択率に差はないことが観察される。一方、被覆されていない反応器と比較した場合には大きな差がある。
【0034】
・反応器ピロホスフェート化プロトコール:
5質量%のピロリン酸ナトリウム水溶液をステンレススチール反応器に導入する。室温で45分間撹拌した後に、反応器を空にし、続いて室温で一晩放置して乾燥させる。
【0035】
・反応器cの内部表面に本発明に従うPFA皮膜を生成させるためのプロトコール
支持体の調製
被覆される表面に、通常のグリース除去、清浄化及びサンドブラスト処理を施す。表面の欠損及び溶接部を平坦にする。この処理は局部的であってもよいし、全部品に一般化してもよい。被覆されるべき部品の最終的な表面状態を測定し、そして基準法SIS055900に定義されたSA指数で定量化する。この指数は2.5である。
【0036】
皮膜の適用
デュポン社が水への懸濁液として販売するPFA粉末をスプレーすることによって塗布を実施する。この塗布は、PFA重合体を主成分とする固定下塗りの静電塗装を含む。反応器を400℃付近の温度に加熱して下塗りの焼き付けを可能にする。焼き付け温度は、デュポン社がRuby Red(商標)という商品名で販売するPFA重合体のメーカーにより提供され、この重合体の性質に依存する。続いて、第1PFA重合体皮膜を同じ技術に従って下塗り上に塗布し、続いて反応器を再度400℃にしてこの皮膜を焼き付ける。この操作を、所望の保護皮膜の厚みを得るのに必要なだけ何回も繰り返す。例えば、系によっては、静電粉体塗装を使用する。保護皮膜の品質及び厚み、特に保護皮膜の均質性及び密着を制御する。
【0037】
シクロヘキシルヒドロペルオキシドの製造試験を、非保護反応器、ピロホスフェート化保護反応器及び本発明に従ってPFA皮膜で保護された反応器内で、上記と同一の操作条件で実施した。
【0038】
生成されたシクロヘキシルヒドロペルオキシド(HPOCH)のモルパーセントを、様々なシクロヘキサン転化率について測定した。得られた結果を図1にまとめている。図1は、使用した3つの反応器についての、シクロヘキサンの転化率に応じた生成HPOCHのモル量の変化を示す:
・曲線A:非保護ステンレススチール反応器での試験
・曲線B:ピロホスフェート化保護ステンレススチール反応器での試験
・曲線C:本発明に従うPFA皮膜で保護されたステンレススチール反応器での試験。
【0039】
これらの結果は、本発明に従う皮膜により、ピロホスフェート化方法で得られた保護と同等の保護が得られることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内において液体炭化水素と酸素とを高温で接触させることを含むアルキルヒドロペルオキシドの製造方法であって、該ヒドロペルオキシドを含有する媒体と接触する反応器の表面がペルフルオルアルコキシ(PFA)重合体から生成された保護皮膜を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反応器内に内部部品が配置されており、しかも該アルキルヒドロペルオキシドを含有する媒体と接触する部品の表面がペルフルオルアルコキシ(PFA)重合体から生成された保護皮膜を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保護皮膜が500μm〜1mmの厚みを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
PFA重合体を付着させることによって保護皮膜を得ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記保護皮膜を、前記保護されるべき表面にPFA皮膜を適用することによって形成させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記保護皮膜を、前記保護されるべき表面にPFAプレートを配置し並置することによって生じさせることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記アルキルヒドロペルオキシドがシクロヘキシルヒドロペルオキシドであり、前記炭化水素がシクロヘキサンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−508446(P2013−508446A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535869(P2012−535869)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066616
【国際公開番号】WO2011/054809
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】